著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、16世紀スペインにおける後期サラマンカ学派が政治的諸問題を論じる際の基盤にしていた、神の恩寵と人間の自由意志の関係をめぐる諸議論を検討したものである。このことにより、イエズス会士を中心とする彼らが、社会契約説に代表される同時代の主流理論とは別の形で、初期近代政治思想の一潮流を形成したことを明らかにした。それは、初期近代が内包していた脱中世型政治体探求の豊かなヴァリエーションの一端として、注目される。
著者
戸部 博
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、モチノキ目(フィロノマ科、ハナイカダ科、モチノキ科、ステモヌルス科、ヤマイモモドキ科)の花と雌雄生殖器官の進化について、以下の点を明らかにした。(1)フィロノマ科とハナイカダ科について、葉上花序、下位子房、花盤蜜腺、薄層珠心が共有派生形質である。(2)フィロノマ科は単軸集散花序、腺毛、接線方向に配置した2心皮性1室子房、側膜胎座、胚珠の増加、外種皮外層型種皮を固有派生形質としてもつ。(3)ハナイカダ科は花弁の欠損、逆一輪雄蕊、両媒を固有派生形質としてもつ。(4)ステモヌルス科とヤマイモモドキ科では、向背軸方向に配置した2心皮性子房と偽単心皮性雌蕊が共有派生形質である。
著者
渋谷 哲也
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ドイツのニューシネマにおけるラディカルな映像美学とメディア批判を実践した映画監督たち、とりわけストローブ=ユイレとファスビンダーの映画における文学的要素の活用方法を考察した。とりわけ彼らの脚色映画を取り上げ、歴史的な原作テクストから20世紀後半のアクチュアルな政治性を掘り起こす手法、そして文学性を強調する演出法が映像メディアへの批判的な意識を喚起する技法を明らかにした。
著者
渋谷 哲也
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

戦後ドイツにおいて独自の美学や様式を生み出した映画監督たちについて、国籍、時代、ジャンル、テーマの境界を越えて作品分析を行い、戦後ドイツという特殊な社会的かつ歴史的コンテクストの中で特徴を考察した。主にニュージャーマンシネマのファスビンダー、ストローブ=ユイレ、クルーゲ、ネストラー、「新ベルリン派」のシャーネレクを中心に取り上げた。主に日本未公開作を中心にした映画上映、作品解説のレクチャー、観客との討論という形でイベントを行い、その成果の一部は論文等の文章として公表した。他の成果は今後文章化する予定である。
著者
羽山 伸一
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

2011年3月に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の爆発により、放出された放射性物質に、福島県東部に生息するニホンザルが野生霊長類としては世界で初めて被ばくした。申請者は2008年から福島市に生息する本種を対象に妊娠率などを観測してきたが、2011年以降は筋肉中放射性セシウム濃度を測定するとともに、臨床医学的検査および病理学的検査を実施している。本研究では、被ばく後10年間における造血機能や胎子成長の経時的推移を明らかにするとともに、放射線被ばく量との関連も検討する。また、胎子期に被ばくし、妊娠可能年齢に達したメスの妊娠率や排卵率等の推移を観測し、影響を評価する。
著者
小西 史子 香西 みどり 古庄 律
出版者
女子栄養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

老化促進マウス(SAMP8)を、対照群、ムクナ豆粉末低投与群、ムクナ豆粉末高抗投与群の3群に分けた。ムクナ豆粉末低投与群には、ムクナ粉末を1.5g/体重kgに調製した飼料を、ムクナ豆粉末高投与群には、ムクナ粉末を15g/体重kgに調製した飼料を投与した。それぞれの飼料におけるL-DOPA含量は、0.6mg/体重kgおよび6mg/体重kgである。飼育期間は、11週齢から40週齢までである。飼育後、脳を取り出し、N-PER試薬を用いてたんぱく質を抽出、遠心後、上清を用いて、ウェスタンブロッティングを行い、タウタンパク質のリン酸化の程度を調べた。用いた抗体は、抗リン酸化タウS199,S262,T181マウスモノクローナル抗体である。その結果、タウタンパク質のセリン262,スレオニン181のリン酸化の程度には、群間で有意な差は認められなかった。しかし対照群に比べ、ムクナ豆粉末高投与群においてタウタンパク質セリン199におけるリン酸化が有意に抑制されていた。このことから、ムクナ粉末の投与は、老化によるタウタンパク質リン酸化の増加を抑制することが示唆された。ムクナ豆を用いた加工食品の調製では、ムクナ豆焙煎粉末を小麦粉に0,5,10,15,20%に添加した麺を作成した。その結果、ムクナ豆焙煎粉末の添加量の増加とともに、抗酸化能が上昇した。また、これらに重曹を添加すると中華麺になり、風味が増したが、抗酸化能は低下した。
著者
藤永 壯 伊地知 紀子 高 正子 村上 尚子 福本 拓 金 京子
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、在日済州島出身者へのインタビュー調査や現地踏査を中心に、第2次大戦直後の時期の在阪朝鮮人の生活状況を復元しようとした。インタビューの記録は研究代表者の勤務先の学会誌に掲載中であり、またそのうち一部を翻訳し韓国で単行本として出版した。また研究の成果を、済州4・3平和財団、琉球大学、朝鮮史研究会などの主催する学術会議で報告し、その一部は研究論文として発表している。
著者
光永 亜希子 光永 悠彦
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は大綱化以降に設立された新設大学の変遷を検証する。新設大学は短期大学や専門学校からの昇格が多く、また学校法人内に他の学校種を併設していることが多い。そのため学校法人単位で検討する。大学昇格をする/しないは併設校の財務的余裕や、高学歴化志向だけで決まるわけではない。またその行動や成否は地方の産業構造や人口構成、進学構造などの特性に左右される。そのため学校法人については、受験案内書などを参照して量的指標を作成し、財務指標データを加え、これらを用いた多変量解析によって分類する。加えて学校法人の属する地方の特性を踏まえ、定員充足の構造を探り、大学昇格や学部構成の指針となるモデルを探索する。
著者
奈須 恵子 佐藤 雄基 神野 潔 小澤 実
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、教育史及び歴史学(史学史)の専門家の共同研究のもと、日本の戦前に設立された官公私立大学がほぼ揃うに至る1920年代~30年代の時期を中心にして、大学における史学科及び史学関係講座に注目して研究を行う。具体的には、史学関係の教員・カリキュラムがどのような制度的枠組みのもとに置かれていったのか、それが諸学問における歴史研究・教育の位置づけとどのような関連性をもつのかを検討する。最終的には、教育・研究組織と学術・教育行政という制度的アプローチを通じて、日本の近代学問・大学における歴史研究の位置づけについて解明することを目的としている。
著者
野崎 園子 芳川 浩男 道免 和久 土肥 信之 石蔵 礼一 安藤 久美子
出版者
兵庫医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

メトロノームによる嚥下訓練とカプサイシンゼリーの6か月間の嚥下訓練における、在宅での長期継続性と訓練の長期効果について検討した。メトロノーム訓練では、12名中10名が継続。嚥下造影(VF)評価では口腔移送時間の短縮と咽頭残留の減少を認めた。肺炎発症はなく、5名でむせや咳が改善した。カプサイシンゼリー訓練では、15名中12名が継続、VF評価は有意な変化は認めなかったが、4名で嚥下自覚症状の改善がみられた。肺炎発症は2名であった。メトロノームによる嚥下訓練は、長期継続可能性と長期訓練効果が期待できる。
著者
鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

放射線被ばくによる健康影響として発がんがよく知られているが、放射線発がんの分子メカニズムの全貌は未だに未解明のままである。唯一、放射線起因の小児甲状腺がんでは、高頻度に見られるドライバー変異として、RET/PTC等の遺伝子融合型変異が報告されているが、これらの発がん変異が、放射線被ばくにより直接誘起されたものかどうかは実際のところ定かではなく、その検証なしには、放射線発がんの分子メカニズムの解明、ひいては、放射線発がんリスクのモデルの科学的妥当性の議論はかなわない。そこで本研究では、『放射線誘発の発がん変異は被ばく特有のゲノム・エピゲノムシグニチャーを留める』との仮説を証明することを立案した。
著者
森 一博 田中 靖浩
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は, ウキクサ類を用いてデンプンを多く含むバイオマスを生産し,これをバイオエタノール生産の原料に用いようとするものである。そこで,有用ウキクサ植物株の探索, バイオマス生産条件, デンプン誘導条件, ウキクサ類バイオマス由来デンプン糖化条件を明らかにした上で,供試植物のエタノール生産への適用性と実用性評価を検討し結果,ウキクサ類から効率的にバイオエタノールを生産できることが示された。
著者
井原 今朝男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1,日本のおける債務史研究という新しい研究分野を創造することを目的に研究を積み重ねてきた。これまで、「中世借用状の成立と質券之法」(『史学雑誌』111-1)、「中世請取状と貸借関係」(『史学雑誌』113-2)、「日本中世の利息制限法と借書の時効法」(『歴史学研究』812)などによって研究成果を公表し、債務史の分析視角と分析課題を提示するとともに、前近代社会の債務債権関係の慣習法が、近代資本主義社会のそれと時代的に異質であることが明確になり、債務史という研究分野の存在を明示することができた。2,前近代社会の債務・債権関係の慣習法A 近代資本主義社会では利息制限法は利子率を制限するが、貸借期間がつづくかぎり永久に増加しつづける。しかし、前近代社会においては、利息は本銭の二倍で制限される利息一倍法と銭の場合には本銭の半倍以上には利息が増えないという挙銭半倍法が機能しており、利息制限法は総額主義であった。B 近代では、貸借契約で質流れになった場合は、売買契約と同様物権が移転し、所有権が移る。しかし、前近代の質契約では、質流れのあとでも債務者が返済の意志を示せば、質物は債務者にもどされるという質券之法が機能しており、質流れ観念が未成熟であり、質物は容易に流れないもので、質権の自立性が強かった。売買と貸借の観念が未分化であった。C 近代では自分のものと他人のものが明瞭に区別される。しかし、前近代では、神物・仏物とひとのものとが区別され、自分のものと他人のものの区別が曖昧であり、請取状も預状も返抄なども借用状として機能した。
著者
鈴木 俊幸
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 書籍の流通業者について(a) 貸本屋に関するデータの収集図書館・文庫、また個人蔵書から貸本印のデータ収集を行い、また引札等から本屋の貸本営業に関する記事を収集した。(b) 仕入印データの収集図書館・文庫、また個人蔵書から、そこに押捺してある仕入印のデータを収集した。その成果の一部として、日本近世文学会平成10年秋季大会において「仕入印と符牒」と題する研究発表を行った。(c) 売弘書肆データの収集主として明治初期刊本に備わる売弘書肆一覧記事を収集し、データ化した。(d) 上記収集データの総合地域ごとに配列した書商の名寄せの形で上記データを総合し、冊子体の報告書とした。2. 書籍の享受についての調査・研究松本市安西家・上松町武居家・小千谷市高橋家・同田中家・同大滝家の蔵書調査を行った。その内武居家の蔵書についての研究は「木曽上松宿武居家の蔵書」と題して『中央大学国文』第42号に発表した。3. 近世日本を中心とする書籍・摺物の出版・流通・享受に関する文献目録の作成研究成果公開促進費(一般学術研究)の交付を受け、『近世書籍研究文献目録』と題し、ペりかん社より刊行、収集データを公開した。
著者
今村 央
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

分子系統学的研究で示されてきたタラ目とマトウダイ目、およびアンコウ目とフグ目の近縁性を形態学的に検証した結果、これらはそれぞれ姉妹関係にあると推定された。タラ目とマトウダイ目は、さらにサケスズキ目とギンメダイ目と単系統群を形成するという分子系統仮説も支持された。この一群は、本研究では観察しなかったステューレポルス科とも近縁であることがごく最近の研究で示唆されており、これら5分類群を側棘鰭上目に位置づけることを初めて提唱した。アンコウ目とフグ目はヒシダイ科と姉妹関係にあるという分子系統仮説も支持されたが、この一群に対しては他の分類群との類縁関係が解明された後に分類群名を検討すべきと判断した。
著者
大日方 薫
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

二酸化塩素によるエアロゾル感染および接触感染の抑制効果、安全性について小児病棟に入院した下気道感染症患児を対象に検討した。重症度が中等度以上の小児市中肺炎の患児に対して、細菌培養、イムノクロマト法による抗原迅速検査およびFilm Arrayシステムを用いたマルチプレックスPCRにより原因微生物の検出を行った。その結果、細菌ではマイコプラズマが最も多く検出され、ウイルスではRSウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルスが多く、次いでパラインフルエンザ、ヒトメタニューモウイルスであった。インフルエンザ、アデノウイルス、コロナウイルスの検出は少数例であった。また小児病棟の各病室に低濃度二酸化塩素ガス放出ゲル剤を設置し、同時に二酸化塩素水溶液による清拭を行う接触感染予防策を実施した。病室内の二酸化塩素濃度を二酸化塩素センサーで経時的に測定し、安全性を確認した上で製品の使用を管理するとともに、入院患者や医療従事者の有害事象について検討した。二酸化塩素ガス濃度は月1回交換では10ppb以下、2週毎交換でも10ppb以下だった。病棟内入院患者および付き添い家族、医療従事者の二次感染発症はなく、院内肺炎も認めなかった。さらに病室内に設置した二酸化塩素放出ゲル剤による有害事象も認めなかった。
著者
長谷川 慎 久保田 敏子 野川 美穂子 芦垣 美穂 浅野 陸夫 今井 伸治 梅辻 理恵 岡村 慎太郎 菊央 雄司 菊聖 公一 菊珠 三奈子 小池 典子 戸波 有香子 飛山 百合子 中澤 眞佐 村澤 丈児
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

京都・柳川流地歌三味線についての研究。京都における地歌箏曲の系統は伝統的に柳川流であり、一部の実演家が使用する三味線は細棹よりも細い棹・小型胴の三味線である「柳川三味線」が用いられる。本研究は、①これまでに行われた柳川三味線について研究の再整理をし、②楽器としてみた柳川三味線、③他の地歌三味線との演奏表現の違いについての基礎研究を行い、④京都上派における地歌伝承の現況調査、⑤「水張り」による三味線の楽器調整(皮張り)の状況、⑥楽譜・音源のアーカイブを行なった。
著者
浅田 正彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

安保理決議が法的拘束力を有するためにはいかなる要件を満たす必要があるかについて、主要国の国連代表部の法律顧問を中心に聞き取り調査を行った結果、これまでの有力な学説が唱えていた要件、すなわち国連憲章第7章の下の決議において「決定(decides)」されることが必要であるという要件は、今日では必ずしも妥当しておらず、「決定」以外であっても、例えば「要求(demands)」であっても法的拘束力を有するとする見解が広く共有されていることが判明した。
著者
今井 勝喜
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

数保存的な性質を持つセル・オートマトンは物理シミュレーションなどに広く使われているにも関わらず、その性質を計算能力と規則のプログラミングの見地から研究する試みはあまり多くなかった。本研究では、1次元2近傍の保存的セル・オートマトンの万能性を示し、1次元3近傍の場合に可逆性と保存性の両方を持つセル・オートマトンの規則の設計手法を提案した。さらに、不均一な近傍における保存的セル・オートマトンの実装を可能にするため、ある種の保存的セル・オートマトンを容易に設計することができる分割セル・オートマトンを準周期タイル上のセル・オートマトンに実装する方法を示した。
著者
西村 拓生 岡本 哲雄 吉田 敦彦 山内 清郎 井谷 信彦 辻 敦子 神戸 和佳子 山田 真由美
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

教育における宗教性は、教育という営みの根底を考える際に非常に重要な契機である。この問題を考える際に思想史的に注目すべきなのが、京都学派の哲学に源流をもつ教育哲学の系譜である。この研究では、京都学派教育哲学の諸思想を分析し、その中に、「生命性と超越」を鍵概念とする系譜、「臨床性から公共性」という志向をもつ系譜、そして「言語の限界と可能性」をめぐる系譜を見出した。さらに、その分析を基盤として、教育における宗教性・超越性に関する多様な思想史的・人間学的研究を行ない、包括的・体系的な研究への足掛かりを構築した。