著者
駒井 三千夫 白川 仁 後藤 知子
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

これまでの報告では、苦味レセプターTAS2R遺伝子中のSNP(一塩基多型)は苦味感受性に大きな影響を与えていることが判明している。ブロッコリー等のアブラナ科植物の苦味を敏感に感じ取ることが可能な人では、発癌リスクが高いと推定される疫学的データがあるため、その苦味感受性とその物質の代謝酵素の活性も違う可能性も類推される。苦味レセプターの多型と苦味感受性の相関関係を明らかにしていくことは、苦味受容機構の解明につながるほかに、個人の遺伝的素因と疾病発症の関係を解明する糸口になるものと考えられる。よって本研究では、被験者個々人のTAS2R遺伝子のSNP検出と官能検査を行い、苦味感受性に関与するSNPを同定することを目的とした。今の段階では研究結果の詳細を公開することはできないが、以下に成果の概略を記す。平成21年度の研究では、TAS2R44とTAS2R45におけるSNPの組み合わせに規則性がみられ、これらの遺伝子型はカフェインの閾値とは関連が見られなかったものの、カフェインの苦味強度との関連が見られた。これらのSNPの組み合わせは苦味感受性に影響を及ぼしていることが示唆された。TAS2R44、TAS2R45のハプロタイプを解析した結果、TAS2R44では3つのハプロタイプ、TAS2R45では2つのハプロタイプが観察された。これらのハプロタイプの組み合わせにより、被験者48人は3種類、官能検査を行った38人は2種類の遺伝子型に分類することができた。これらの成果は、今後の研究の進展に極めて重要である。
著者
李 鍾昊
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

予測制御とフィードバック制御の評価に基づいた神経疾患治療ナビゲーターシステムを構築し、小脳疾患やパーキンソン病などの神経疾患患者の手首運動を評価した。小脳患者の指標追跡運動を分析した結果、疾患の重症度に応じて予測制御やフィードバック制御、両方の精度が悪くなり、小脳が両方の制御器に深く関係していることが明らかになった。その一方、パーキンソン病患者ではこの2つの運動制御器だけでは病態の特徴がはっきり抽出できなかったが、さらに3Hz以上の不随意運動領域(F3領域)も分析した結果、6Hz前後(4-8Hz)の小刻みな階段状運動の定量的計測によりパーキンソン病患者の病態をより高精度で評価できた。
著者
東本 裕美 岩崎 弥生 石川 かおり 野崎 章子
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

最終年度にあたる本年は、これまでの調査で得られた結果をもとに高齢者の精神的健康の維持、増進を図るため健康教室を企画した。これまでの研究より「お互い楽しく話し合える場や、協力できる友達が必要」等の意見をふまえ、地域在住の高齢者を対象にグループ活動を実施した。このグループは参加を希望し研究の承諾が得られた6名の女性高齢者(60代~80代、平均年齢73.3歳)を対象とし全8回実施した。グループにはグループ回想法の技法を用い、1.回想を通じての情緒的交流の機会の提供、2.共有体験の分かち合い、3.孤立感の軽減、4.生活の活性化を目的とした。各セッションのテーマは参加者と話し合って設定したが、それにこだわることなく毎回自由な雰囲気で進行した。また、話し合いばかりではなく1回は「散歩」を取り入れた。結果としては、グループの中でお互いの情報を交換したり、悩みについてアドバイスをしあう様子がみられた。そして、実施後の参加者の感想としては、「楽しかった」、「だれかと話をする時が紛れる」、「また参加したい」、「最初はうまく話せるか不安だったけど、会が進む間に楽になった」と肯定的なものであった。また、実施前後でQOLを比較したところ、グループでの話し合いは高齢者のQOLを高める一定の効果があった。さらに、今後は「戦争体験について若い人たちに話したい」や「若い人たちに役に立つことは何か、自分たちができることは何か」ということをテーマに話したいという、高齢者自身が地域づくりのためにできることは何かを模索する姿勢が見られた。今後の課題としては、グループの中で、個々のプライベートや心的外傷体験に関する内容が話された場合に、その取り扱いについて十分な配慮が必要であり、今後は進行の方法などの運営側の体制づくりが必要となると考える。
著者
島谷 幸宏
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,小水力発電の減少が生態系に与える影響を定量的に評価した。①加地川(取水率50%)において,減水による底生動物現存量,及び生物の群集構造への影響はなかった.加茂川(取水率78%)において,減水によってハビタットによっては減水区間にて底生動物個体量,及び分類群数が減少した。②減水により高流速地点が消失し,流速が速い,飛沫帯の発生するハビタットの減少,そしてそのようなハビタットを好む種の現存量低下につながる.③鳥類に着目すると,夏季に比べ,平常流量の少ない冬季において取水による減水の影響が大きくなる可能性がある.
著者
上別府 圭子 西川 亮 柳澤 隆昭
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

小児脳腫瘍経験者とその保護者138組を対象に、質問紙・医師調査票・認知機能検査による多施設共同横断的観察調査を行なった。特に18歳以上の小児脳腫瘍経験者のいる研究参加者の家庭は、社会経済的地位の高い家庭が多い傾向が見られ、経済的理由によるフォローアップロスの可能性が示唆された。91名(66%)が1つ以上の晩期合併症を有しており、35名(25%)が複数の晩期合併症を有していた。成人後も高頻度に受診を必要とする者が多かった。今後さらに、心理社会的・認知的側面の分析を行なう予定である。
著者
保坂 直之
出版者
鹿児島工業高等専門学校
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

季節感を表す語が詩的テキストの色合いを決めることは、日本の定型詩になじんでいる我々の共通理解である。本研究では電子化されたドイツ詩のデータを集約し、「~のように」などの指標のある比喩イメージとの複合検索によって、詩的表現の気配を支配する「枠組語」のリスト化を目指している。テキストベースの集約データは自由な処理が容易なため、統計処理よりも「解釈上の思いつき」の適否をその都度確認しながら、通常の読みではできない読み方のための補助に使いやすい。本研究はそのための検索手法も追求している。
著者
重村 力 月館 敏栄 岡田 知子 後藤 隆太郎 三笠 友洋
出版者
神奈川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

この研究は、被災集落における復興計画の策定に参与し、その過程を記録する事で、住民主体の合意形成過程、住民要求の把握と各種復興事業の実施における課題について明らかにすることを目的としている。研究対象は主として岩手県大船渡市三陸町越喜来崎浜集落及び宮城県気仙沼市大島を対象とし、以下6項目の研究を行なった。1)岩手県内沿岸集落の津波被災に関する歴史的研究、2)集落空間と生活実態の調査、3)防集事業における住宅復興の課題整理、4)被災後の集落共同空間構築過程の記録、5)漁集事業における課題整理、6) 漁業史文庫の再建支援
著者
中井 孝章
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、子どもの睡眠状況とそれに関与する親の養育態勢の相関性の分析の結果、子どもの睡眠習慣(目的変数)に対して,母親の就寝時刻(21 : 00以前)という説明変量が. 57(p<0.1),各家庭の睡眠文化(有無)という説明変量が. 62(p<0.1)という正の相関性がみられた。一方,子どもの睡眠習慣(目的変数)に対して,メディア関与度(1時間以上)という説明変量が-. 51(p<0.1),母親の帰宅時刻(18 : 00以後)という説明変量が-. 41(p<0.5)という負の相関性がみられた。
著者
大澤 清 合田 憲人
出版者
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究ではマルコフ連鎖モデルを野球の試合に適用し,選手ごとにその成績から定義される状態遷移行列を用いて得点の確率分布を求め,その結果から試合に勝つ確率を求めて選手を評価する手法を提案した.従来手法では打撃成績のみを用いて計算を行っていたが,本研究では守備成績の失策数をモデルに組み込み,より実際の野球に即した計算を行った.その結果,失策の多い野手が少ない野手に比べて1シーズンで2勝分程度の損失を守備成績によって与えていることが示された.またモデルに守備成績を加えたことで増加した計算量に対応するため並列計算環境を利用し,約2億1千万の打順から1時間22分程度で最適な打順を選ぶことが可能となった.
著者
海老塚 耕一
出版者
多摩美術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は芸術作品の鑑賞において、様々な障害を持った人々が健常者との差異により、本来楽しめるべき芸術鑑賞が、楽しむべく機会もそれほど多くないといった状況に置かれているという悲しい状況から、芸術を楽しむべく場とその鑑賞をどのように構築するかといった問題に取り組んだ。今回の大きなテーマは、「すべての人に開かれた美術・芸術作品」のあり方を探り、明らかにし、その上で障害を持った人々、そして健常者も含めたすべての人に向かって開かれた、作品を制作し、提供していくことであった。
著者
梅田 弘子 梅田 貴士 堀田 実愛 光盛 友美 長沼 貴美 寺重 隆視
出版者
広島国際大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年の男性(父親)の家事・育児参加の意義・必要性を踏まえて、将来、父親・母親になる可能性をもった大学生の男女に、男女が親としてともに仕事・家事・子育てをすることが当然であるという考え方を醸成することを目的として、学生主導型「ひろしま未来の育MENプロジェクト」を設立し活動した。大学生を対象とした未来の育メン育成プログラムとして、①知識の獲得、②実体験に基づく学習、③大学生個々の結婚や育児への受容性の確認と具体的なキャリア設計、④ピア学習、の四点が挙げられた。
著者
大庭 真人 佐治 伸郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

養育者が子どもに対し「その時・その場」で目の前にある参照対象を物語る際、その対象が安定してそこにある/いるとは限らない。養育者が当初想定し語り始めた通りに参照対象が存在する場合、養育者は自らの語りかけを子どもの発話に合わせ、響鳴(resonance, 崎田2010)という先行する子どもの発話を自分の発話に取り込む文型を多用することにより参照対象への言及が観察された。一方、参照対象が存在しない場合には、参照対象を強く想起させるきっかけとなる対象に基づき発話を展開するという方略が取られていた。
著者
山口 弘誠 井上 実 本間 基寛
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

雨の音色を工学的に計測し、雨の音色と従来の降雨情報の関係性を明らかにした。1)雨の音色、および従来の降雨情報の観測: 京都大学防災研究所屋上に機器を設置して、雨滴一粒ごとの粒径と落下速度、風速、降雨強度をそれぞれ計測した。さらに、運転する車の中で集音器を設置し、計測を行い、周囲の環境が雨音とどのように関係するかに関しても解析を進めた。2)雨の音色と従来の降雨情報との関係性の解明: 上記の観測データを用いて、従来の降雨情報の関係性の何が周波数に影響するかについて、基礎解析を行った。その結果、雨滴の粒径の代表粒径(中心値)と雨音の強度に強い相関が見られた。
著者
山崎 敬一 岡田 謙一 池田 佳子
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、これまで日本の若者という限定された受け手を主な対象として生まれてきた日本のポップカルチャーが、現在どうして、世代を越えた、また文化を越えた人気を持つようになったのかを、(i)エスノメソドロジーから生まれた会話分析的な物語論や、(ii)情報メディア論や、(iii)観衆論の視点から明らかにした。この研究では、経験や歴史を伝える物語がどのように語られるかについて研究した。またフランスのジャパンエクスポに出演中の日本のアイドルと日本にいるファンとの交流を、ロボットによって支援する研究を行った。また最終年度には、宝塚や歌舞伎の舞台と、アイドルグループのコンサートを観衆論の観点から比較した。
著者
福嶋 利浩
出版者
佐賀大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012

障がい者スポーツ選手への経済的支援の拡充に向けた資料を作成するためにパラリンピックロンドン大会での競技成績と経済的支援の差異を日韓比較した。その結果、ロンドン大会での日本のメダル獲得数やメダル獲得率は韓国に比べて低かった。また日本の障がい者スポーツ選手への経済的支援は韓国に比べて乏しく、パラリンピックのメダル獲得数の差異に影響している可能性が推察された。日本の障がい者スポーツ選手への経済的支援体制強化の必要性が示唆された。
著者
折山 早苗 宮腰 由紀子 小林 敏生
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

12時間交代制勤務に従事する看護師の夜勤時の休息・休憩状況と眠気や疲労を明らかにした。12時間夜勤者は16時間夜勤者よりも勤務前の仮眠時間が長かった。日勤は,長日勤より負担は大きく,特に,長日勤は,17:00以降に眠気や疲労が増加することが示された。以上より,16時間夜勤から12時間勤務にスムーズに移行する為には,長日勤時の17:00以降の疲労の軽減が重要であると考える。
著者
堀切川 一男 山口 健 柴田 圭
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,一般的に高摩擦を示すゴム材料と低摩擦を示すプラスチック材料に対して,「摩擦調整剤」として,安価で低環境負荷な植物由来の低密度粒子系材料を充填することにより,低摩擦ゴム複合材料と耐滑プラスチック複合材料を開発した.また,同複合材料の摩擦・摩耗特性の体系的な解明を行った.その結果,米ぬかを原料とする炭素粒子を充填することで,無潤滑下,水潤滑下においてゴム材料では成し得ない低摩擦を得ることが可能であり,また,竹粉粒子を充填することにより,水濡れ,油濡れ時に未充填の樹脂よりも高摩擦を得ることが可能であることが分かった.
著者
金田 一広 畠 俊郎
出版者
株式会社竹中工務店 技術研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は自然堆積粘性土地盤の補強、補修に関するものである。自然堆積粘土地盤上に建設された盛土構造物の中で長期沈下が発生しているものがある。一度沈下が発生すると対策費用は莫大となり、現在大きな問題となっている。遅れ沈下は先行圧密応力を超えた荷重載荷に対する骨格構造の劣化を伴った軟化が原因である。現在まで、軽量盛土にするオーバーレイによる補修・ドレーン設置による圧密促進などの対策が実施されているが、効果不十分である。本研究の目的は、粘性土地盤内にウレアーゼなどの素および尿素、カルシウムを投入することにより炭酸カルシウムを析出させ粘性土地盤の骨格構造を復活・強化し遅れ沈下を抑止することである。
著者
石原 進
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

下水路等の監視のため,多数の無線通信可能なセンサを水路に流し,水路の形状把握や故障発見を行うことを目指したIn-Pipeline Flowing Wireless Sensor Network(PFWSN)のためのセンサノード動作スケジューリング手法,データ回収方法を設計し,シミュレーション評価により改良HEED方式による代表ノード選出と起動・休眠スケジューリング並びにRandom Dropに基づく転送バッファ管理方式が有効であることを確かめた.
著者
加藤 昇平
出版者
名古屋工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題では、高齢者の音声に対する独自の解析手法を提案することで,ごく早期の認知症発見・予防を目的とした極めて簡易な,在宅でも利用可能な音声認知症スクリーニングの基礎アルゴリズムを開発した。データ解析ならびにデータマイニング技術の手法であるROC解析ならびに多重ロジスティック回帰分析の技術を応用することで、高齢者の質問応答発話音声から抽出した音響ならびに韻律特徴を用いて認知機能の危険度指標SPCIRを計算するアルゴリズムを提案した。これにより、誰でも、定期的に、安心して認知症スクリーニング検査を受けることができ、認知症の疑いを早期に発見することで専門医への受診誘導を促す仕組みが実現される。