- 著者
-
河原 剛一
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
一般的に成人の心筋細胞は終末分化した細胞と考えられ,生まれた直後に分裂能を失い,増殖しないものと理解されてきた。したがって,心筋梗塞や拡張型心筋症によって心筋細胞に壊死が起こった場合,心筋細胞は再生されずに心不全になって死亡する。成人の心筋細胞が生後の分化によって,細胞周期から抜け出して分裂能を喪失するメカニズムは,これまでにも,その重要性から,様々な観点から膨大な研究が行われてきたが,未だ「謎」として残されている。本研究の目的は,「脱分化した終末分化心筋細胞において核分裂と細胞分裂の解離を制御している,すなわち肥大と増殖をスイッチしている制御メカニズムを解明する」ことである。本年度における研究成果は,以下のようにまとめられる。1.昨年度の本研究成果として,新生ラット心室筋細胞の培養系において,RNA干渉法によりCx43の発現をdown-regutationすると,心筋細胞は細胞分裂周期に再突入し,増殖することを明らかにしたが,本年度はそのメカニズムの解明を目指した。その結果,Cx43 knockdownによって,細胞内におけるROS生成が抑えられ,それがp38 MAPK活性の抑制そして増殖能増加につながっていることが分かった。2.昨年度,心筋細胞培養系に対して過酸化水素(H_2O_2)を付加すると,p38 MAPKの活性化を介するCx43発現増加が起きることを明らかにしたが,H_2O_2の付加によるCx43発現の増加は,心筋細胞膜上や細胞内ばかりではなく,ミトコンドリア内膜での発現(mtCx43)も上昇することが分かった。このmtCx43の発現増加が心筋細胞内ROS産生の増加につながり,その結果生じるp38 MAPKの持続的活性化が心筋細胞の分裂能の喪失に関与している可能性を明らかに出来た。