著者
ASKEW David
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

該当年度に実施した研究は(1)「初期H・G・ウェルズの進化論的社会主義」、(2)「ジョナサン・スウィフトにおけるユートピア主義思想の拒絶」、そして(3)「ユートピア主義思想史研究序説」の三つである。(1)「初期H・G・ウェルズの進化論的社会主義」についていえば、"One Part Prescient,Five Parts Puerile : The Life and Works of HG Wells"という書評論文をアイランドの権威ある雑誌であるDublin Review of Books に発表した。また「初期H・G・ウェルズの進化論的社会主義--『タイム・マシン』から『宇宙戦争』までのディストピア小説における政治思想」(『立命館経済学』)という論文には多大な時間を費やした。これは既に原稿用紙で数百枚を超える大作となっており、第1部から第4部が活字となって、2011年に第5、第6(完)で終了する予定である。これは終わり次第単著としてまとめて出版する予定である。(2)「ジョナサン・スウィフトにおけるユートピア主義思想の拒絶」についていえば、書評が一つ完成しており、アメリカの雑誌に投稿している。他に、"Not Pulling Punches : Jonathan Swift's Savage Indignation"(Dublin Review of Books)という書評論文を公にした。(3)「ユートピア主義思想史研究序説」を表題とする長い学術論文(やはり原稿用紙百枚くらい)は、2011年に、査読のため『社会システム研究』という学術誌に出す予定である。なお、ユートピア(ディストピア)思想あるいは実践については、他に、邦語では『蝿の王』で有名な英国の作家、ゴールディングについて論じた「神秘の人、ウィリアム・ゴールディング」(『立命館文学』第617号)などを手掛けた。このテーマで今後も更に分析を進め、今後早い時期の論文執筆、投稿へとつなげていきたいと考えている。
著者
干場 隆志 堀田 純一
出版者
山形大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

歯根膜細胞(PDL)、間葉系幹細胞(MSC)、および線維芽細胞(NHDF)より形成した脱細胞化マトリックスを作製した。脱細胞化前にはアクチンおよび細胞核が観察されたが、脱細胞化後には観察できなかったことから、細胞が除去できていることを確認できた。作製した脱細胞化マトリックス上にPDLは接着することができ、その接着はPDLが形成した脱細胞化マトリックス上で最も多かった。さらに、PDLの増殖性を評価したところ、脱細胞化マトリックス上でPDLは増殖できたが、PDLおよびMSCが形成した脱細胞化マトリックス上ではその増殖は抑制された。このように、歯根膜細胞のニッチェの生体外での再構築が期待できる。
著者
中岡 成文 西川 勝
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

対話を中心とした社会的・自然的過程で生じる個人や集団の存在論的変化(自己変容)に着目し、養生論、高齢者ケア論(尾崎放哉論を含む)、G.バタイユ論を中心に、自己変容・臨床哲学と対人援助との関係を明らかにした。これらは対人援助の哲学的・倫理学的基盤に、また現代社会における援助実践に、大きくかつ具体的な示唆を与える。その成果はとりわけ、大阪大学大学院の授業(とくに双方向的形式のそれ)において、臨床倫理事例検討会・倫理カフェにおいて、ALS患者との交流・福祉ものづくりにおいて、公表された。
著者
杉山 あかし 直野 章子 波潟 剛 神原 直幸 森田 均
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、テレビ放送を、個別の番組としてではなく、われわれが生きている環境を形作るものとして捉え、この環境の分析を行うことを目的としている。具体的主題は、「戦争と原爆の記憶」である。わが国では例年、8月前半に満州事変から第二次世界大戦に到る戦争についての特集番組が多く組まれ、人々の戦争観の形成に大きく寄与している。8月前半、1日~15日の地上波アナログの全テレビ放送を録画・内容分析し、現代日本における戦争・原爆に関するメディア・ランドスケープを明らかにする。本年度は、H.19年度、H.20年度に録画記録したデータを分析する作業を行なった。分析結果の一端として数量的分析によって得られた知見を以下に列挙する。(1)登場人物は日本人と推定される者がH.19年で89.7%、H. 20年で81.1%。これに対し連合国(アジア地域を除く)側と推定された者がそれぞれ9.4%、15.9%であった。朝鮮(当時地域名)・中国、その他の日本占領地を含むアジア地域の者はそれぞれ1%以下、2%以下と、ごく少ない。(2)日本人の描かれ方は、H.19年で74.0%、H.20年で52.8%が被害者として描かれており、加害者としての取り上げはそれぞれ8.1%、7.4%であった。(3)日本人が被害者として描かれる比率はかなり大きく変動しているが、これは描写の仕方が変化したためではなく、北京オリンピックの放送編成に対する影響であったと考えられる。ワイドショーはオリンピック一色であり、ドラマについては、この期間、特集的なものはほとんど放送されなかった。結果としてH. 20年に当該戦争を描いた番組は、ほとんどドキュメンタリー形式の番組であり、ドキュメンタリーで比較すれば、H.19年とH.20年で日本人の描かれ方(被害者的/加害者的)に大きな差はなかった。
著者
西浦 廉政 寺本 敬
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

トポロジー的手法により,材料科学の新規機能材料作成法において重要な自己組織化原理の数理的基盤,とりわけ新たな「非侵襲的数理測定法」の確立を目指すことが本研究の主題である.手法としてはComputational Homologyの有効性をポリマー系において実証することを実施した.具体的には相分離におけるトポロジー量のスケール則を数値的に示した.相分離が進行する過程をベッチ数で計って,それが時間の-1乗に比例する巾則を発見した.またブロックコポリマー系においては,非局所項の影響でミクロ相分離に移行するが,その遷移の様子もベッチ数の巾則の変化から捉えることができた.さらにパラメータを変化させたときの,ポリマー形態の遷移の様子もベッチ数あるいはオイラー数の変化により,どのような遷移状態を経て経過するか明らかとなった.例えばレイヤーからシリンダーに変化するとき,その途中に穴あきレイヤーという形状を経由することが,ベッチ数の計算より判定可能となる.このアプローチはポリマー系のように自由エネルギー最小を達成する定常状態のみならず,より一般の反応拡散系においても有効であり,それにより極めて動的かつ複雑な形態を示すものに対しても今後大きな寄与を果たすと考えられる.例えばインターミッテント的挙動をする時空カオスに対し,経由するいくつかの遷移的パターンについてより詳しいトポロジー情報が得られると期待される.以上の成果はMorphological Characterization of the Diblock Copolymer Problem with Topological Computationという題目でJJIAMに投稿した.
著者
武田 靖
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

鳥衝突データベースの解析を進めるために、前年度の米国、英国に、フランスとドイツを追加するべく、両国の担当者と交渉を行ってきた。入手は確約されたが、公式データベースとするための承認手続きが期限内に得られず、継続となった。後述のように、より多くの国のデータを解析することが要請され、ロシア、イタリア、ノルウェー等の欧州各国のデータベースも含めて展開することになった。またカナダのデータベースでは、高度の情報が一切含まれないという欠陥も見つけ、同国への勧告を発信した。(2)鳥分布関数の測定のために、米国イリノイ大学と共同研究をすすめ、ダラス空港(DFW)での新型鳥レーダーのデータ解析を共同で行うこととなり、一部の仮データを入手した。その結果、レーダでの観測は、空港直近での観測に誤差が大きいことが判明した。500フィート以上の高度でのデータを引き続き解析中である。(3)市販の3Dビデオ装置で取得したステレオ画像を解析することで、300m(1000ft)程度までの飛翔体の位置測定が十分可能であることを確認した。この技術を発展応用することで、空港での野鳥対策担当官による情報収集をより容易に、さらには高精度にすることが期待された。(4)鳥衝突世界大会(Norway)で研究成果の一部を発表・討論することで、より確度の高い理論研究とすることができた。特に大陸間での比較から、大陸や地域によらない、普遍性のある鳥衝突発生の高度依存性は各国の航空安全担当者の間での評価が高く、より多くの国を巻き込んだ今後の展開が期待された。
著者
福井 裕行
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

条件給餌ラットの給餌中止に伴うnose pokingに対して抗ヒスタミン薬の前処置は顕著な効果を示さなかった。一方我々は、弓状核尾側のc-Fos発現におけるPKCδの関与を示唆するデータを得た。以前、視床下部のPKCδを介する肝臓のglucose産生抑制が報告されていることから、我々は条件給餌ラットにおけるヒスタミン神経系を介する肝臓のglycogen代謝調節について検討した。条件給餌ラットにおいて給餌中止直後に対する、給餌中止4時間後の肝臓におけるグリコーゲン量を測定ところ、リン酸緩衝液を投与した対照群においてはあまり変化が見られなかったのに対し、抗ヒスタミン薬投与群においてはグリコーゲン量の有意な減少が見られた。このことから、ヒスタミンH1受容体(HIR)を介する肝臓のグリコーゲン分解抑制が示唆された。肝臓におけるHIRの発現は弱く、この変化は中枢のヒスタミン神経機能を反映していると考えられた。これまでに中枢ヒスタミン神経系による末梢エネルギー代謝調節機構はほとんど研究されておらず、本研究により弓状核尾側部位を介する中枢-末梢シグナル連関が初めて明らかとなることが期待される。さらに我々は、給餌中止により興奮するヒスタミン神経細胞群の同定を行った。ヒスタミン神経の細胞体が局在する結節乳頭核(TM)におけるc-Fosとヒスタミン合成酵素であるヒスチジンデカルボキシレース(HDC)との共発現について検討したところE3 subgroupのヒスタミン神経のみに顕著な興奮が見られた。本研究から、TMには各部位へと投射しその部位を介する特異な機能に関与する機能的にヘテロなヒスタミン神経細胞群が存在することが示唆された。
著者
長濱 雅彦 中本 高道 大西 景太
出版者
東京芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

最終年度にあたる21年度は、匂い情報を持った次世代のレストランサインのデザイン研究を行った。嗅覚情報を利用することで、より実感のあるサインになり、食する物のイメージを高められるのではないかと考えた。今回完成した作品「香るレストランサイン」は、そば,パスタ、うなぎ、カレーの専門店という4つのお店が入っている施設を想定。より、被験者の感性を妨げないように、一方通行のインターフェイスではなく、行為と連動するインタラクティブな動画作品に仕上げた。体験の手順は下記の通りである。(1)被験者は4つの店が表示された看板(実験ではスクリーン)の前に立つ。(2)手に持っている端末(Wiiリモコン=将来の携帯電話を想定)を横に動かしながら振ることで店を選ぶ。(3)次に縦に振ると選んだ店の画面になる。(4)例えば、そば屋を選ぶ。するとそばの画面が全面に表れる。(5)被験者は落語家のそば食い表現のように、端末を下から上に手早く動かすと、そばのイメージ動画と効果音とともに、そばつゆの香りがする。といった流れである。ちなみに被験者の感想で上がったものは次の通りである。・とにかく面白い・不思議・普段使っていない感覚を使う・情報がより食べ物に近い印象・見るというより体験ゲームみたい・ディズニーランドにあるイメージがする・いつもの情報に匂いがないことをあらためて気づくこうした感想からも分かるように、匂い情報はマルチメディアの中では新鮮で、かつ新たな世界を開くきっかけに成りえる。実験前は匂いがすることに嫌悪感を抱く人もいるだろうと想像したが、情報として整理された今回のような匂いの場合、まったくそうした被験者がいないことに驚かされた(混ざり合った匂いがないことが嫌悪感につながらなかった理由か)。サイン看板類は構造上、匂い装置など器材を内側に仕舞いこめるため、この「香るレストランサイン」のようにコンテンツを限定したならば実現に大きな支障はないと考える。また、こうした匂い情報の活用は、誘導サインや危険サインとして有効で、高齢化社会の情報基盤に発展していくことも予想される。今後はなるべく具体的なテザイン研究によって様々な分野と連携し、可能性を多角的に分析していくことが肝要だろう。
著者
山下 哲郎 佐藤 豪
出版者
工学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、首都直下地震が発生した際に,被災者の医療を受け持つフロントライン医療サービス拠点の規模を検討するための、新宿駅周辺の非住宅の死傷者数の推定である。調査は新宿駅の東西口周辺の歩行者数を把握するものである。その結果,西口側には4-6,000人,東口側には2-10,000人の歩行者数が確認された。これを元に負傷者数を推計すると、西口側の負傷者数は一日のどの時間帯でも80人程度と安定しているが、東口の場合,午前中は35人、午後は85人,夕方は100人と変動が大きい。同様に,建物内の負傷者数も推計した。更に, 2011年3月11日東日本地震当日の行動について,アンケート調査を実施した。それらの結果から、新宿西口周辺に13箇所のフロントライン災害医療拠点を設ける場合,各所で67人程度の負傷者の治療を行うことが推定され,負傷者の分布に基づいて、東に8箇所,西に5箇所を配置することになる。
著者
MORI James Jiro 加納 靖之 柳谷 俊 大見 士郎
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

2009年7月、中国・?川地震(2008年、Mw7.9)による余震域の上空を皆既日食が通過した。これは地球潮汐が小規模地震を誘発するかどうか調べる貴重な機会となった。2008年5月から2009年9月までの期間の余震について中国地震局のデータを調べたところ、M1.3以上の地震は4万回を超えていた。われわれはスペクトル解析やスタッキング法などいくつかの方法を使って16ヶ月分のデータを研究し、潮汐の振幅の大きい日食期間中のものはとくに詳しく調べた。その結果、スペクトル解析においては、12時間の地球潮汐との弱い相関関係を見つけることができた。われわれは断層地域に掘られたボアホールでハイドロフォン観測を行うことも計画していた。しかし、ボアホールの完成が5ヶ月も遅れたため、日食に合わせて計器を設置することができなかった。その後、ボアホールに設置された地震計は多くの小規模地震を記録している。ここでも、われわれは12時間の地球潮汐との弱い相関関係を見つけることができた。
著者
工藤 綾子 稲冨 惠子
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. テーマ「災害時における集団避難生活者の感染予防意識と行動」を第14回日本在宅ケア学会学術集会(聖路加看護大学)にて発表した。回答者は117名。男性44.4%、女性55.6%である。本調査では(1) 集団避難生活者の感染症意識は災害発生時期や集団非難の規模の影響をうけている。(2) 避難期間の長さによって体調の変化、集団避難生活の仕方(清掃範囲・清掃場所)などの清掃意識に影響を与える。(3) 避難生活中の感染症予防行動がとれていない人は30%みられる。感染予防行動は水確保の影響を受けており、医療関係者派遣と同時に、早い時期の水確保が感染症予防と拡大防止につながることが明らかにされた。2. 全国の県庁・市役所の災害防災課担当者への調査結果:611箇所から回答を得た。災害時に充分対応できるかと感染症の知識の両項目には関係がみられ、知識が不十分な場合には充分な対応ができないと捉えていた。また、災害時に感染症の知識が不十分と答えた人と対策が必要な細菌・ウイルスはなにかわからないと答えた人には有意な関係がみられた。最も注意する感染症は「呼吸器系の感染症」が最も多く264名(43.5%)であった。「消化器系の感染症」138名(22.7%)では、災害時に対応できる人数が21~30人と答えた人の項目に有意な関係がみられた。仕事内容と災害時の対応では、「地域住民の安全対策」担当と災害時の対応が充分な対応ができるともできないとも言えないと答えた人とは有意な関係がみられた。防災担当する人には、感染症に対する知識が求められることがわかった。3. 今後の課題:行政調査の結果を学会に発表し、1.2の結果をもとにマニュアルを作成する。
著者
藤枝 重治
出版者
福井大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

エクソゾームは、ドナー細胞の細胞質内にある親水性の蛋白、細胞膜、その近傍にある蛋白とともに小胞体を形成し、MHC class I、IIの抗原情報を含んでいる。この情報が隣接した細胞内に取り込まれたり、細胞表面の受容体を刺激したりする。そこで舌下免疫療法にて著効した患者血漿中からエクソゾームがそのような効果があるか調べることを目的として、まず血漿中からエクソゾームの分離を試みた。その結果15μgから80μgのエクソゾームが分離できた。さらにウエスタンブロットを行うとMHCクラスIIα鎖、CD9、CD86のバンドが検出できた。しかし抗CryJ1抗体では、バンドは検出できなかった。以上からエクソゾームの回収は可能であるが、やはり量が少ないことが問題であり、更なる検討には、回収量の改善と検出感度の向上が必須であることが判明した。

2 0 0 0 OA WALL e-Learning

著者
ブルノ ペーロン 小林 孝郎 ドナルド チェリー ヤマモト ウィルソン フレデリック アンドレス 井上 哲理
出版者
上智大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、機器支援学習活動を展開するための新たなCALLシステムを目指した。そのために、教室据え置き型のデバイス(「iTable」と呼称)を用いて、CEFRLが提唱する「行動中心の考え方」にそった学習活動を可能にすることを目標とした。学習者が自身の学習過程を振り返り、目標言語についての仮説を形成できるように、認知学習ストラテジーも養成できる学習システム作りを行った。
著者
柴田 明穂
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、国際法理論と環境条約交渉のインターフェイスを分析することを通じて、形成途上にある条約制度がそれを基礎づけ枠づける国際法の理論的支柱とどのように関連づけられたのかを、動態的に解明することを目的として行われた。その結果、一般国際法理論たる責任(liability)概念が「学者外交官」の主張により環境条約交渉に反映されることもあったが、現場の交渉状況を反映した政治的判断により、条約解釈に関する一般国際法との整合性を排して特別法を創設する国際法の断片化現象が顕著であることが分かった。
著者
柴田 政子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究最終年度の今年度の成果は、ロンドン大学教育大学院図書館(英)及びゲオルク・エッカート・インスティテュート(独)において、初年度に調査した教科書と、二年目に行った教科書内容に重要に関わる政府による指導指針の文書について、不足していた部分や補足したい資料について集中的に調査したことである。このことで、技術的問題等で欠損していた部分や、コピーやスキャン文書が不鮮明であった部分、また調査の当時に文書が不在であったなどの理由で欠けていた箇所を補充することができた。この研究の意義は、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国が、各々いかなるアプローチでその歴史を公教育という場で解釈し伝えてきたかということを探るとともに、両国の事例を比較検討することを通して、アジアにおける歴史対話という重要な政治的・教育的課題を抱えるわが国の歴史教育のあり方について再考するひとつの手がかりを提示することであった。よって、本年度の論文・口頭での研究発表は、上記調査結果を踏まえ、日本の歴史教育への取り組みについて議論をする内容となった。この三年間の研究を通して発見できたことは、当初の予想とほぼ同様で、ドイツの教科書記述の詳細さ・綿密さ・分量の多さからして歴史教育に対する重点政策が読み取れ、イギリスに関しては第二次世界大戦とはナチス・ドイツが中心的アクターとして理解できる記述がほとんどであった。独英両国の大戦に関わる歴史教育の実態を詳細に調べられたことは、全体として大きな成果であったと考えるが、一方で、前期・後期中等教育の教諭であった本研究者は、活字で認識する歴史としての教科書が、各学校・各教室・各教員により様々な環境・解釈で用いられ、当然のことながら教育内容を把握する上ではひとつの方法・側面に過ぎないことを現場で強く認識してきた。よって、本研究に今後つながる研究として、学校の教室外であるが広い意味で公の場で行われている歴史教育について、本件と同様とくた第二次世界大戦の歴史において、わが国と深く関わる国々を対象に調査したいと考える。
著者
大野 雅子
出版者
帝京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

17世紀後半に東インド会社によってイギリスに持ち込まれた紅茶や陶磁器などの茶道具は、富裕層にとっては自らが上品でポライトな階級に属していることを示すための重要な物質文化を形成した。紅茶や茶道具に熱狂する女性は17世紀から18世紀にかけての文学作品に数多く登場し、皮肉や揶揄の対象となる。さらに、女性の物欲の激しさは性欲の激しさと同一化される。聖書に始まる女性蔑視の伝統は紅茶と陶磁器という新たなメタファーを得ると同時に、「脆き器」としての女性はその激しい欲望を携えて消費文化の中を跋扈する存在となるのである。
著者
鈴木 克明 根本 淳子
出版者
熊本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、欧米において「学びたさ」についてのインストラクショナルデザイン研究で注目が集まっている「美学・芸術的な視座」からの設計原理が我が国においてどこまで援用可能かを検討し、我が国独自の原理導出を目指した。教育工学の隣接領域で展開しているペルソナ技法やユーザーストーリー等関連研究の知見を取り入れ、パリッシュが提唱したIDの美学第一原理を検討し、意欲向上につながる学習経験を実現する方策を試みた。
著者
長谷部 光泰 日渡 祐二
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

オジギソウの運動の適応的意味を解明するため、運動に異常の生じた 突然変異体の作出を試み、約5000 変異体の選抜を行ったが単離には成功しなかった。一方、逆 遺伝学的方法によって運動に異常を起こす突然変異体を得るため、オジギソウ形質転換体の作 出を試み成功した。今後、本研究によって確立した形質転換技術を用いてオジギソウの運動の 分子機構を明らかにするとともに運動に関わる遺伝子を逆遺伝学的方法で機能喪失させること により運動欠損変異体を作出し、運動の適応的意義についての研究を行うことが可能となった。
著者
船守 美穂
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、ゲイツ財団などの米国巨大財団が、米国の高等教育政策に及ぼす影響について研究を行った。米国巨大財団は、「戦略的アドボカシー」という手法で連邦政府や州政府の政策形成にも強い影響力を及ぼし、助成の効果をスケールさせようとする。民間財団が国の政策に圧力をかけているようにも見えるが、実際には、米国は清教徒が移住した時代、政府が機能しなかった頃から、教会や一部の成功者がフィランソロピーとして地域の発展のために尽くし、これが現代の財団や各種NPOの活動へと発展した。米国は現代においても、こうした第3セクターと政府による、多極的な国の発展を実現している。
著者
横田 篤 石塚 敏
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

大腸癌のリスク因子として大腸内に生成される発がん性二次胆汁酸が知られている.本研究では,腸内細菌による胆汁酸の還元的代謝により生成される発がん性二次胆汁酸を低減させる新しい手法として,腸内細菌の嫌気呼吸を促進させ,胆汁酸の酸化的代謝を活性化させることを試みた.そこでラットにフマル酸を添加した飼料を摂取させ,盲腸内の嫌気呼吸の誘導を試みたところ,代表的な発がん性二次胆汁酸であるデオキシコール酸の低減可能性は示された.しかし,5~10%と高濃度のフマル酸添加必要であり,この濃度ではラットが下痢を起こすことから、実用的な抑制にはフマル酸のカプセル化等,添加方法の検討が必要である.