著者
加藤 聖子
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

着床における子宮内膜の幹細胞の果たす役割を解明することを目的とし、マウスやヒト臨床検体を用いて研究を行い下記の成果を得た。網羅的解析(RNA-sequence)は研究領域の技術支援を受けた。1) マウスモデルを用いた解析各週齢のC57BL/6マウス(5週・8週・60-75週)及びklotho早老マウスの子宮よりRNAを抽出し、RNA-sequence並びにGene Ontology・Pathway解析を行った。年齢毎に発現が増加あるいは減少する遺伝子群やPathwayを明らかにした。この中で老化マウスとklothoマウスで共通に変化する因子も見出した。2)臨床検体を用いた解析同意取得後、不妊治療中の採卵時に採取した子宮内膜検体や血液を用いて、その後の着床率との関連を解析したところ、着床不成功例では成功例に比較し、老化細胞率・p21の発現・細胞周期でのG0/G1期の割合が有意に高かった。また、両者の間で分泌が亢進しているサイトカインの種類に違いが見られた。興味深いことに、幹細胞マーカーの一つであるALDH1の発現はマウスでは老化により減少し、着床不成功例で老化細胞数増加とともに、減少していた。また、SASPに関連することが報告されている複数のサイトカインの発現や分泌が老化マウスや着床不成功例でそれぞれ亢進していた。以上の成果により、老化に伴い子宮内膜幹細胞が減少し、増加する老化細胞から分泌されるサイトカインによるSASPが着床不全の病態に関与することが示唆された。これらの結果はステムセルエイジングに伴う子宮内膜幹細胞の枯渇・劣化・内膜機能の低下が受精卵の着床を阻害していることを意味しており、がんや神経・筋肉の変性疾患だけではなくステムセルエイジングが引き起こす病態の中に子宮内膜機能低下による着床不全も含まれることを示すことができた。
著者
西田 淳志 山崎 修道 川上 憲人 長谷川 眞理子
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

西田らは、主体価値測定アプリを開発し、思春期大規模コホート研究に導入した。その結果、思春期のロールモデルの獲得・更新と自己制御性の発達が、自律性の成熟の基盤となり、さらにその自律性が基盤となって主体価値が形成されていくことを解明した。山崎らは、全英出生コホートデータを用い、思春期の主体価値と自己制御の発達の相互作用が高齢期のウェルビーイングを予測することを解明した。川上らは、国内外のコホートデータを用いた一連の研究から、思春期主体価値の2要因モデルを提唱した。
著者
杉山 直 野尻 伸一 市來 淨與 辻川 信二 西澤 淳 松原 隆彦
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-06-29

Planckを中心とする最新の天文観測データを用いてダークエネルギーモデルに対する制限を得た。理論的に動機づけされた様々なダークエネルギーモデルの提案を行うと共に、現在の観測を満足する理論のパラメータ領域を求めた。ダークエネルギーとダークマターが相互作用を持つモデルにおける宇宙論的摂動論を構築し、そのようなモデルは宇宙の構造形成を遅くすることを見出した。宇宙大規模構造に形どられたボイドの数密度やサイズに対するダークエネルギーの密度揺らぎの影響を定量的に明らかにし、Alcock-Pachinskyテストによりダダークエネルギーの密度と状態方程式への制限が偏り無く行えることを示した。
著者
斎藤 成也 井ノ上 逸朗 吉浦 孝一郎 Jinam TimothyA 松波 雅俊
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-06-29

以下の地域の住民からDNAサンプル入手を試みた:(1)沖縄、(2)九州(なし)、(3)中国(隠岐諸島、鳥取県)、(4)四国(徳島県)、(5)近畿(なし)、(6)中部(なし)、(7)関東(なし), (8)東北(山形県)。具体的には、4人の祖父母がすべてその地域出身者である提供者50名をえらび、本研究について説明してインフォームドコンセントを取得し、DNAサンプルの供与を受ける。既存の全ゲノムSNP多型データを持つ研究機関などの協力も得る。沖縄地域は松波(琉球大学)が、九州地域は吉浦(長崎大学)・井ノ上(遺伝研)・斎藤(遺伝研)が、中国・四国・近畿・中部・関東・東北地域については、斎藤と井ノ上がサンプリングを担当した。全ゲノムSNP多型データが未決定の人間について、ゲノム規模SNPデータを決定する。一部個体についてはゲノム配列決定をおこなった。現代人のゲノムをすでに決定した日本の研究機関および海外の研究機関やゲノムデータの解析を大規模に進めている海外の研究者と連絡をとり、共同研究を継続した。
著者
石河 孝洋
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2021-04-01

高圧力下におけるランタン(La)-水素(H)系で550ケルビン(277℃)の室温超伝導が観測されたという論文が2020年6月にプレプリントサーバ上で報告された。水素供給源のアンモニアボラン(NH3BH3)がLa-Hと化合して超室温超伝導が引き起こされた可能性があるが、組成・結晶構造などの詳細は全く明らかになっていない。組成や構造は形成エネルギー凸包を構築することで決定できる。本研究では、進化的アルゴリズムを使って凸包の構築を高速に行える独自の手法をLa-B-N-H系に適用させて安定水素化物を探索し、550ケルビンの超伝導に対応する水素化物の特定と更なる新奇室温超伝導水素化物の発見を目指す。
著者
固武 慶 神田 展行 滝脇 知也 端山 和大
出版者
福岡大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本年度は、まず、データ解析に関する研究において、初年度に購入した重力波観測データ解析用計算機上に構築した超新星爆発からの重力波などの突発性重力波検出用の重力波探査用解析ソフトウェアを用いて、2020年2月から2020年4月にわたって行われたLIGOとVirgo、KAGRAによる共同観測で得られたデータの解析を行った。その中で特に、突発性重力波の探査について国際共同観測チームをリードして、解析を進めた。観測結果を論文にする上でも中心となって進めている。また、超新星重力波の円偏光についての検出可能性に関して、世界の独立したグループが行った3Dシミュレーションで得られた様々な重力波形に対して調べ、モデルには寄るが、コアの回転を持つモデルに関しては5kpc程度まで検出できることを示し、論文を投稿し、現在査読中である。また、前年度より準備されていた観測データの本研究のバースト解析サーバへの連続送信を稼働させた。国際観測網のデータを10秒前後の遅延時間で受信した。ラプラス変換を利用した短時間遷移信号の解析フィルタを開発し、重力波波形に対する基本的な挙動の評価も行った。理論研究のハイライトとしては、20太陽質量をもつ大質量星の空間3次元の一般相対論的磁気流体シミュレーションを行い、ニュートリノ加熱とともにコアの高速自転によって増幅された磁場が爆発を後押しする、磁気駆動爆発が起こることを示した。ジェット状の爆発に伴い、いわゆるメモリー効果を伴う重力波波形が生成されることを突き止め、現在、論文として発表準備中である。昨年度から引き続き星震学の線形解析法を原始中性子星に適応する手法を開発し、本年度は3本の論文で重力波のモードの擬交差を利用したモード同定について、流体計算の次元が重力波の周波数を変えるか、一般相対論的なメトリック摂動の自由度が重力波の周波数を変えるかなどについて詳しく調べた。
著者
上野 博史
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では分子機械の改造・創成を実現する新規進化分子工学的スクリーニング技術の開発を行う。そのため1DNA隔離、タンパク質発現・精製、機能評価、DNA回収という進化分子工学的スクリーニングプロセスの全てをマイクロチャンバーデバイス内で実現する技術を開発する。これまでの研究から精製以外のプロセスのデバイス実装は完了している。そこで本研究では微小ドロップレット内でのタンパク質精製プロセスを組み込んだスクリーニング技術を確立する。さらに確立したスクリーニング技術を分子機械であるF1-ATPaseのスクリーニングへと拡張させ、分子機械の改造や新規機能の創成への適応を目指す。
著者
立花 誠 大久保 範聡 勝間 進 諸橋 憲一郎 菊池 潔 長尾 恒治 深見 真紀 田中 実 宮川 信一
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究領域では「性スペクトラム」という新たな概念のもとに、性を再定義することを目指す。領域の全ての研究者が「性はこれまで言われれてきたような二項対立的なものではなく、連続的な表現型である」という視点を共有し、上記の領域目標の達成にむけて研究を推進する。このような目標のもとで、本領域では領域代表の下に総括班を置き、領域活動をサポートしていく2020年9月25日から10月23日にかけて、自己紹介を兼ねた公募班員のセミナーを開催した。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、オンラインでの発表となった。9月25日、10月2日、16日、23日の4日間で、全16名が研究発表を行った。活発な議論が交わされ、オンラインにもかかわらず大いに盛りあがった。2020年12月21日(月)から23日(水)までの3日間、東京農業大学世田谷キャンパスにて、新学術領域研究「配偶子インテグリティの構築」・「全能性プログラム:デコーディングからデザインへ」合同公開シンポジウムが開催され、立花が特別講演を行った。2021年3月25日(木)と26日(金)の2日間、第4回領域会議をオンラインにて開催した。本会議では、計画研究の研究代表者・分担者のほか、班友の3名、そして新たに公募研究班に加わった研究者1名も研究発表を行った。また、領域外からも講師1名を招き、ショウジョウバエ類の性染色体進化に関してご講演をいただいた。対面方式での会議の開催が叶わなかったが、非常に活発な議論が交わされ、各班員が順調に成果を上げていることを確認した。
著者
洲崎 敏伸 橘 裕司 吉村 知里
出版者
神戸大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ミドリゾウリムシは細胞内に共生クロレラを持つ。3-D電顕解析により、ホスト細胞のミトコンドリアがクロレラの定着に重要であることがわかった。プロテオーム・トランスクリプトーム解析により、クロレラ包膜のタンパク質を網羅的に解析した。さらに、この生物が放射性セシウムを蓄積する能力を持つことを見出した。嫌気性原虫Entamoeba属はマイトソーム(DNAを失ったミトコンドリア)をもつ。赤痢アメーバから単離したマイトソームを同一種に、またE. nuttalliとE. invadensに移植することができた。一部の移植されたマイトソームでは、レシピエント由来のマイトソームタンパク質が共局在した。
著者
鶴見 英成
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

アンデス文明の神殿では一般的に、儀礼的な建築の更新が反復されていた。それが経済・技術・儀礼など社会の諸側面を発展させたと考えられるため、神殿の起源の解明は文明史研究の重要課題である。1960年代に日本の調査団はペルー北部山地のワヌコ市にてコトシュ遺跡を発掘し、神殿の登場が先土器段階に遡ることを証明した。近年では海岸部で先土器段階の神殿が多く発見され、文明の形成過程を具体的に解明すべく山地との比較が試みられているが、山地の神殿の年代と生業基盤の解明が遅れている点が問題となっている。本研究の第1の目的はコトシュ遺跡を再調査し、今日の水準で年代測定と有機遺物分析を実施することにある。また現代においてコトシュはワヌコ市を象徴する遺跡であり、50年ぶりの研究成果発信に際して、市民がいかなる関心を持って今後それを資源化していくのか、聞き取り調査により展望することが第2の目的である。平成28年は、前年度に実施した測量と、遺構の表面観察の結果をふまえ、発掘調査を実施した。1960年代に出土した先土器期の神殿建築群の床下を発掘し、さらに下層に建築群が埋まっていることを確認した。またマウンド頂上部を初めて発掘し、先土器期の神殿建築がきわめて高い地点まで積層していたこと、それが土器導入後の建造物を建てる際に壊されたことを示した。すなわち先土器期の神殿建築について、従来より古い時点の事例、土器導入直前の最終段階の事例、両方を確認することができた。それぞれの建築に伴う炭化物を採取し、東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室にて年代測定を実施した。また有機遺物に関しては土壌水洗によって微細な動植物資源まで採取した。50年間の経緯と新たな調査成果に関して、コトシュ遺跡博物館にパネル展示を設置し、講演や現地説明会を行い、マスコミを通じて情報発信しつつ、双方向的に市民の関心について聞き取り調査を実施した。
著者
小谷 元子 大西 立顕 内藤 久資 高見 誠一 一木 輝久 古田 幹雄 青柳 岳司 下川 航也 橋本 幸士
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本領域は、数学と物質・材料科学の連携により、「次世代物質探索のための離散幾何解析学」を創成することを目指すものである。原子・分子のようなミクロ構造やナノ粒子などのメゾ構造(これらを階層的ネットワークと理解)と、物質・材料のマクロな性質つまり物性・機能の関係を幾何学的に記述し解析することで、物質のミクロ・メゾ構造とマクロな物性・機能の関係を解明し(順問題)、求められる物性・機能を持つミクロ・メゾ構造の予見(逆問題)、更に構造を生成する動的構造形成の制御(最適化・制御)を行うことを目指し数理モデルの構築、シミュレーションと理論による検証を踏まえた最適構造の提案とそれに基づく物質合成を計画している。総括班は、このような異分野融合研究を効率よく行うための議論の場の提供、チュートリアル的な勉強会の企画・運営、領域全体に資する国際研究集会の運営、成果発信のためのニュースレターの発行などを行った。また、研究班でカバーできない研究課題を分析し、新手法の提案・提起に柔軟に対応するため公募計画を策定し、領域会議において計画研究、および公募研究の間の情報交換と議論を行った。異なる分野、班の間をつなぐためのインターフェースとなる若手研究者を配置した。彼らは領域内の項目間の融合を促進するための勉強会やワークショップの企画、ニュースレターの作成を行うとともに、彼ら自身も連携研究を行い、論文および国際研究集会等において成果を発表した。公募研究をより有効に連結させ相乗効果を上げるために、チームを超えた連携研究を奨励するための連携研究支援を行い論文として発表することができた。領域代表者は特に本領域研究に関していくつかの重要な国際会議でプレナリー講演やサーベイ講演を行い、領域の確立に向けて情報発信を積極的に行った。
著者
小林 博樹
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

NFCタグ装着の動物を誘き出して情報を取得するユビキタス基盤、A1)物理的な刺激を用いて動物を「誘き出す機構」と、A2)誘き出された動物に装着しているNFCタグと「非接触通信する機構」を開発した。そして、連携研究者が飼育する犬を用いて有効性の評価を行った。A1)に関してペットの犬を対象とし、犬小屋の内部形状を改善することで、非接触通信動作に必要な行動制限や行動停止が起こりやすい条件を明らかにした。具体的にはスチレンブロックを使用して、高さ方向や幅方向の内部形状変更による犬の姿勢評価を通じて、小屋への入場を阻害せず、かつある程度の姿勢制御が可能な条件を見つけることが出来、成果をSI2017、SCI’18で発表した。この内部形状条件を利用して、床と両壁部3か所に非接触ステーション、犬体部には両肩、腹の計3か所に非接触コイルを貼りつけて非接触通信評価を行った。結果、肩部でかなり安定した非接触通信状態を作ることに成功し、評価に使用した2匹の犬で犬小屋滞在時間80分、436分のそれぞれ、55%、36%の時間、コイルが通信可能な位置に存在することが確認出来た。A2)に関しては動物装着側と基地局側のプロトタイプを作成した。このプロトタイプデバイスは、動物装着側デバイスで収集した情報をNFC(Felica)タグのタッチ動作をトリガーにして基地局との無線通信(ZigBee)を行い、装着側保持データを基地局に転送するものである。NFCをトリガーのみに使用することにより、転送データ速度に対する柔軟性をもたせるとともに、タッチ動作が発生するまでは通信機器の電源はOFFにしており、タッチ動作をトリガーにして動物装着側、基地局側双方の通信機器の電源をONすることにより省電力性も同時にもたせる仕様にした。
著者
坪井 貴司
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度に引き続き、認知症や自閉症との関連が指摘されている腸内細菌代謝産物30種類について、生細胞イメージングスクリーニングとELISAスクリーニングによって消化管ホルモン、特にグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を引き起こす腸内細菌代謝産物の同定を試みた。本年度は、GLP-1分泌を強力に誘発したL-グルタミンについて、そのGLP-1分泌促進機構について解析を行った。まず、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株(以下、L細胞)を用いて、L-グルタミンによる細胞内カルシウムおよびcAMP濃度上昇機構について可視化解析した。細胞外のNa+濃度を低下させ、L細胞のナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による細胞内カルシウム濃度上昇は、抑制された。一方、cAMP濃度上昇は、観察された。次に、味覚受容体であるtaste receptor type 1 member 3(T1R3)の阻害剤投与によって、細胞内カルシウム濃度上昇は抑制されなかったが、細胞内cAMP濃度上昇は抑制された。次に、CRISPR/Cas9を用いて、T1R3とそれとヘテロ二量体を形成するT1R1の変異GLUTag細胞を樹立した。T1R1変異GLUTag細胞は、L-グルタミンによる細胞内cAMP濃度上昇を示した。しかし、一部のT1R3変異GLUTag細胞株では、細胞内cAMP濃度上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、T1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる細胞内cAMP濃度上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。
著者
高橋 英之
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究プロジェクトの目的は,子供のロボットに対する親近的な興味の背後にあるメカニズムに迫り,それを生み出す脳内メカニズムをモデル化することにある.ロボットへの親近的な興味の背後にあるメカニズムを探るために,オキシトシンというホルモンに注目した成人を対象とした人間とロボットの交流実験の解析を行った.その結果,オキシトシンはロボットへの親近的な興味を増大させる機能があること,ただしそのような親近的な興味を生じさせるにはロボットにインタラクティブ性があることが重要なことが分かった.この研究は成人を対象としたものであり,今後,子供で類似の実験を行う予定である.また本研究計画では,子供とロボットのみの関係ではなく,子供と母親の関係性についても考える必要がある.本年度は子供と母親の関係性を記述する力学系のモデルをRNNPBネットワークというニューラルネットワークモデルを用いて構築した.その結果,子どもとロボットの身体的能力の差異が子供と母親の多様な関係性を生み出すことが示唆された.今後はこのモデルに,報酬系に相当するシステムを埋め込み,親近的な興味がどのように生じるのかをシミュレーションで明らかにしていきたいと考えている.以上,本研究プロジェクトではロボットへの親近的な興味の背後にあるメカニズムに多様な観点からアプローチすることができた.その一方で,メインのスコープとしていた子供のロボットに対する興味の計測については現状ではまだ予備実験に留まっており,今後より掘り下げて成果をだしていく必要がある.
著者
田中 宏幸 三井 唯夫 上木 賢太 山野 誠 飯塚 毅 渡辺 寛子 榎本 三四郎
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-06-29

第一に、地球ニュートリノ流量モデリング法を地球科学的アプローチから見直すことにより、地震波トモグラフィのデータが得られればほぼ自動的にニュートリノフラックスを計算する方法が開発され、今後、世界的に爆発的な蓄積量増加が期待される地球ニュートリノ観測データに対応できる方法論を確立した。第二に、地球ニュートリノデータの安定取得方法論を確立した。第三に、到来方向検知型検出器の原理検証を模擬粒子を用いて行い、将来の地球ニュートリノイメージングに向けた技術基盤とした。
著者
朝野 維起
出版者
首都大学東京
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昆虫の外骨格はキチン及びキチン結合性タンパク質を主成分とするマトリクスである。脱皮に伴ってつくられる新しい外骨格が硬化する際、ラッカーゼと呼ばれる酵素が重要であることがこれまでの研究で示されている。ラッカーゼは脱皮前にほとんど活性のない前駆体として新しい外骨格に蓄積し、その後活性化されることで外骨格硬化が開始される。ラッカーゼ前駆体の存在及び発生過程おけるラッカーゼ活性化に関して、代表者が所属する機関からの研究報告が世界で唯一であるものの既に40年以上の歴史がある。ラッカーゼ活性化にタンパク質性の因子が関与する可能性が考えられてきたが、近年、伝統的な生化学的手法によって分離に成功した。組換えタンパク質を利用した解析では、前駆体の活性化が確認されている。新規に合成される外骨格が硬化する過程において、ラッカーゼ活性化のタイミングが時間及び部位特異的にプログラムされている可能性が示唆されている。これは、例えば大顎の先や関節部分など強度が要求され歪みが避けられる場所の硬化が先行することを想像させるものである。そのほか、羽化時に翅の形が決まる過程でも、「伸展した翅が硬化する」といった単純なプロセスではなく、部位特異的な硬化を経て、ハードポイントが逐次形成されることで初めて正常な形状をとれること、などを示唆する観察がある。甲虫類の解析では、ラッカーゼ活性が部位特異的に出現することを示唆する観察ができた。また、ラッカーゼ活性化因子の発現が抑制されることで、現時点では若干であるが翅形態に影響することが観察できた。そもそも、本研究の主たる対象である活性化因子は、代表者が所属する機関以外の研究がない状況などから、生体内で本当に機能していることも正確には示されていない段階である。そのため、生物学的に基礎的な知見の収集も同時に進めている。