著者
青木 健一 木村 亮介 川崎 廣吉 若野 友一郎 小林 豊
出版者
明治大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究「交替劇」は、ネアンデルタールの絶滅およびヒトによる置換(交替劇)を両者の文化水準の違いによって説明する(学習仮説)ことを目的とした。社会が到達する文化水準は、文化進化のあり方に依存する。このため、領域傘下の我が計画研究班では、文化進化の決定要因およびこれを支える学習戦略の進化に関する理論研究を行った。得られた多くの成果は、査読付の国際学術雑誌や著書に発表済みであり、国際的にも文化進化および学習戦略進化の研究に大きく貢献している。また、ネアンデルタールとヒトの学習戦略に違いがあるならば、両者の認知に関わる遺伝子にも違いが認められるはずとの立場から、分子人類学的な研究も少し行った。
著者
畠山 昌則 谷口 維紹 瀬谷 司 大島 正伸 松岡 雅雄 下遠野 邦忠 東 健 秋吉 一成
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究「発がんスパイラル」は、単一の微生物感染による発がんを中心に、がんの発症・進展に関わる微生物側因子の役割を明らかにするとともに、発がん微生物感染が局所に誘起する炎症・免疫応答が発がんを加速する機構の本態を解明し、革新的ながん予防・がん治療法開発への道を拓くべく平成22年度に開始された。本取り纏めでは、新学術領域研究「発がんスパイラル」の研究成果を以下のように取りまとめた。1.領域研究報告書の作成研究代表者ならびに連携研究者による会合を2回行い、過去4回にわたり発刊したNews Letterの集大成として、5年間の成果をまとめた領域研究報告書を発行した。報告書では、発がん微生物が保有するがんタンパク質の作用機構、微生物がんタンパク質と宿主生体応答系の相互作用ネットワーク、「発がんスパイラル」場形成を担う免疫系細胞の同定とゲノム不安定性を増強するエフェクター分子の作用機構、自然免疫系細胞のがん細胞認識とがん細胞破壊を促進する分子群の同定、など本領域研究から得られた多くの新たながん生物学的知見を記述するとともに、新規ナノゲルやDNAワクチンの開発を通して拓かれつつある「向がん」から「制がん」への宿主応答ベクトル変換を誘導する次世代のがん予防・治療法開発へのプロセスを記載した。インパクトの高い国際一流誌に報告された研究成果も報告書内に別刷として収集した。2.領域公式ウェブサイトの運営:ウェブサイトを通じ、社会・国民に向けた積極的な情報公開を維持した。これまでに公開してきた情報に加え、新たに「研究成果」として過去5年間に進めてきた基礎研究の成果の社会への還元状況を発信した。さらに領域公式ウェブサイトから、各研究者個別のウェブサイトへ相互リンクを図り、利用者はリンク先からさらに詳細な情報を得ることが出来るように工夫した。
著者
前田 太郎
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、ウミウシの盗葉緑体現象を通して、遺伝子の水平伝播と複合適応形質の進化の関連を議論することです。盗葉緑体現象とは、嚢舌目ウミウシなどが、餌海藻の葉緑体を細胞内に取り込み、数ヶ月間光合成能を保持し、栄養を得る現象の事です。これには、藻類核からウミウシ核への遺伝子水平伝播が伴うと考えられており、遺伝子の水平伝播によって、光合成という複合適応形質が、生物界を超えて、水平伝播することを示唆しています。しかしウミウシのゲノムは解読されておらず、遺伝子が本当に伝播しているかは不明確でした。本研究では、複数種のウミウシのゲノム解読を行い、遺伝子の水平伝播の有無と過程を明らかにしようとしました。更にパルス変調蛍光定量法を用いて、水平伝播した各遺伝子が実際に光合成能の各段階に関与しているかを明らかにしようとしました。本研究により、盗葉緑体能力が発達した、チドリミドリガイ(Plakobranchus ocellatus)とコノハミドリガイ(Elysia ornata)のゲノム解読に成功しました。また餌藻類であるHalimeda borneensisとBryopsis hypnoidesのトランスクリプトーム解析により藻類の遺伝子情報を獲得しました。これらの比較を行った結果、先行研究と異なり、これらのウミウシ核には、藻類に由来する遺伝子は水平伝播しておらず、本現象が遺伝子の伝播を伴わずに形質が伝播する特殊な進化的現象であることを示唆しました。一方、パルス変調蛍光法などにより、ウミウシ内の葉緑体では、光合成活性が光損傷などで失われても、葉緑体での新規タンパク質合成により活性を回復できることがわかりました。また盗葉緑体を行うウミウシ類だけで特異的に重複し、更に葉緑体蓄積組織で特異的に発現する遺伝子群を発見しました。
著者
上田 実 入江 一浩 渡邉 秀典 品田 哲郎 小林 資正 叶 直樹 岡本 隆一 松永 茂樹 井本 正哉 半田 宏 渡辺 肇 佐々木 誠 木越 英夫 西川 俊夫 石橋 正己
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

共同研究による本学術領域の推進により、多くの天然物の標的決定が行われた。これは、天然物化学者と生物学者の共同研究によって、ビーズテクノロジーの天然物への応用が拡大したこと、ならびに数多くの標的同定法が試行されたためである。これらの成果によって、多くの天然物が種標的と同時に複数のオフターゲットと結合することが明らかになった。天然物リガンドは、従前の理解のように、生体内において「鍵と鍵穴」の様に極めて特異性の高い作用機構を持つのではなく、生体内で「鍵束」のように機能し、複数の錠前と相互作用することを示している。本領域の研究成果によって、天然物リガンドの作用に関する理解は大きく変化したと言える。
著者
松本 克美
出版者
立命館大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

児童期の性的虐待被害者の支援と時効法改革に関して平成27年度に行った海外調査(ドイツ、韓国)をふまえて、日本との比較における意義、日本法への示唆、立法改革案を整理して、韓国圓光大学ロースクールでのシンポジウムでの報告(平成27年5月)、日本ドイツ学会での報告(同年6月)、東アジア法心理学会での報告(10月)、日本法と心理学会での報告(10月)、日本ジェンダー法学会での報告(12月)にて口頭報告を行った。また平成28年2月にはドイツ、3月には韓国、アメリカで調査を行い、児童期の性的虐待被害の支援システム、NPO法人の関わり、時効法改革に関する刑事法研究者、裁判官、弁護士などの意見などを聞くことができた。ドイツでは民事の消滅時効、刑事の公訴時効ともに、児童期に被った性的被害に関しては、被害者が50歳程度になるまでは、時効が完成しない法改革が実現しており、権利行使や刑事告訴が困難なこの被害の特質への配慮がなされている。また、韓国では、児童期の性的虐待被害については公訴時効が廃止される改革がなされている。アメリカでも州によっては公訴時効を廃止するなどの特別な配慮がなされている。日本では、平成27年3月31日に民法の一部改正案が提出され、そこでは、時効法改革も提案されているが、児童期の性的虐待被害に関する特別な配慮はなされておらず、問題である。こうした問題点を比較法的に明らかにし、日本でも時効法改革に特別な配慮を行うべきことを,後掲の様々な学会報告や論文等の形で公表した。
著者
園部 哲史 戸堂 康之 白石 隆 大塚 啓二郎 佐藤 寛 杉原 薫 恒川 惠市 鬼丸 武士 松本 朋哉 高木 佑輔 本名 純
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

研究期間全体を通じて、経済学者、政治学者と歴史学者が協力しながら、現在の新興国の政治と経済についての実証分析を行った。総括班は、各計画研究班の共同研究を行う場を提供し、分野融合マインドを持った若手研究者の育成にも力を入れた。その結果、新興国に独自の発展経路の在り方や、それに基づく新興国の課題の存在が解明された。領域全体の活動成果として、世界的な学術書の出版社であるSpringer Nature社のシリーズEmerging-Economy State and International Policy Studiesを新たに作り出し、本領域の成果を4巻からなる英文書籍として出版することになった。
著者
武山 健一 今井 祐記 岡田 麻衣子 藤木 亮次
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-06-23

「研究の目的」本研究では、性差構築におけるエピゲノムコードの解明を研究課題として、ピストン修飾やそれに伴うクロマチン構造変化等のエピジェネティクスの性差を見いだすことである。これまで、エピジェネティクスの現象に性ホルモンや性染色体依存的性差は判然としていない。そのため、本研究アプローチでは、細胞レベルでの性ホルモンによるエピゲノム調節を解析することとした。「研究実施計画とその成果」性差の認められる組織や器官において、それらを構成する細胞の分化や維持について着目した。特に、間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂肪細胞、B細胞など多様に細胞分化することが明らかであるが、これら細胞数や細胞分化には性差が認められる。本研究では、これら細胞分化に必須となるZincfingerタンパク質(Zfp)に着目し、核内におけるZfpやタンパク複合体精製を行った。興味深いことに既知のクロマチンリモデリング因子複合体構成因子に加え、これまで染色体上では着目されていない酵素を見いだした。この点をより詳細に検討するため、タンパク精製を繰り返し、複合体構成因子の全貌を解明することができた。更にこの酵素活性が複合体中に存在することが判明した。また、この酵素遺伝子を不活性化させると、間葉系幹細胞の分化促進や細胞系譜に異常が生じることが明らかとなった。これらのことから、細胞分化における新たな分子機構が明らかとなり、今後、細胞分化における性ホルモンやY染色体とのシグナルクロストークを解明する糸口を提案できた。以上、細胞分化制御における新たな性差のエピジェネティクスの分子機構解明の一端を見いだすことに成功した。
著者
指宿 信 中島 宏 山田 直子 吉井 匡 稲田 隆司
出版者
成城大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

2016年6月に成立し3年以内の施行が予定されている我が国の「被疑者取調べ録音・録画制度」に関して、法解釈学や比較法的研究、心理学・社会学等の経験科学の見地から多面的実証的な研究を行った。その結果、被告人の法廷外の自白を記録した録画映像が判断者(裁判官ならびに裁判員)に影響を与える可能性が高く任意性や信用性の判断を歪めてしまうこと、また弁護人の立会いもなく適切な尋問技術を持たない取調官による尋問によって虚偽自白が生み出される危険性が高いこと等が明らかになった。そこで、取調べ映像を裁判員裁判で再生する際には、こうした危険を回避する法的制度的手当が不可欠であることを明らかにした。
著者
新村 信雄
出版者
茨城大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

頭書テーマのモデルタンパク質としてDeath-associated protein kinase(DAPK)を選定1.(DAPK)の発現(1)宿主である大腸菌の使用コドンに従い最適化したDAPKリン酸化領域をコードするDNAをプラスミドベクターpET-20b(+)のNdel-Xholサイトにサブクローニングし、BL21(DE3)大腸菌株に形質転換し、大量培養する事によってDAPKを得た。(2)DAPKの精製はNi Sepharose FF担体を用いた金属アフィニティ精製とHiPrep Sephacryl S-100 HRを用いたゲルろ過クロマトグラフィーで行った。2.DAPKのATP結合状態、および非結合状態(Apo状態)の結晶育成(1)PEG1000、硫酸アンモニウム、硫酸リチウムの三条件を重点的に最適化し単結晶を得る事が出来た。(2)ATPアナログ物質としてアデニリル-イミド二リン酸(AMP-PNP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシンγチオ三リン酸(ATP-γS)を使用した。3.DAPKのATP結合状態、および非結合状態(Apo状態)での水和水構造の違い。(1)DAPKのX線結晶構造解析:DAPKに結合しているATPアナログ物質は10個以上の水分子と水和構造を形成している。これらの水分子は良くオーダーされており、はっきりと観測する事が出来たと言えるだろう。しかしAMP-PNP及びATP-γSのγ-リン酸基はディスオーダーしており、確実な原子位置を特定出来ているとは言い難い。(2)DAPKの中性子結晶構造解析:中性子回折法での見かけの水和水構造はその運動状態を反映して、ブーメラン状、棒状、ボール状にそれぞれ見える。ATP結合状態とApo状態での水和水配向の自由度(エントロピー)の差に寄与るると考えられる。ATP結合状態、および非結合状態(Apo状態)、非ATP結合タンパク質の水分子の構造を求め、3状態での構造の違いを比較し、ATPと水分子との相互作用を解明する。引き続き中性子結晶構造解析のための大型結晶育成実施中。
著者
鈴木 款 ベアトリス カサレト 藤村 弘行
出版者
静岡大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

複合ストレス下における生物素過程と化学の素過程に関する研究において、サンゴの白化は水温の高水温下でサンゴ内部の褐虫藻の光合成活性能の低下と、サンゴの消化による細胞の縮小あるいは退色、バクテリアによる加速により起こることを初めて明らかにした。サンゴ礁の基礎生産量の再評価により従来の報告より2~3 倍高いこと、サンゴ内部の研究により、サンゴは褐虫藻・バクテリアの複合半閉鎖システムにより生命が維持されていることを明らかにした。
著者
出渕 卓
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度は 新たに導入された BlueGene/Q (3.5 rack 700 TFLOPS peak)上で、自然界のクォーク質量に等しい物理点上の アップ、ダウン、ストレンジ の軽いクォークの関わる物理量の計算を、効率良く行うための研究を行った結果、5倍から40倍もの計算効率化を果たすことが出来た。 目的とする正確な物理量(高コスト)とその近似計算(低コスト)の両方を、後者の近似計算をより頻繁(正確な計算の~100倍程度の頻度)行うことによって統計誤差を下げ、なおかつ格子理論の対称性を使うことに計算結果にバイアスを入れない All-Mode Averaging (AMA) という 方法を提案した。物理量の骨組みとなるクォークの伝搬関数を計算する際に、長距離の伝搬を支配するクォークの低エネルギーモードを固有ベクトルを求めることにより正確に扱い、短距離伝搬を担う 高エネルギーモードは多項式近似を行う。新しい計算資源である BlueGene/Q や GPU 上で、それぞれの資源の特長を生かした固有ベクトル計算を高効率で行うためのアルゴリズム implicitly restarting Lanczos with Chebyshev acceleration を開発・実装した。BlueGene/Q 上での計算コードは 理論絶対ピークの 30%の速度を超えており、この世代のメニコア環境下では満足のいく効率だと思われる。現在の方法では、より大体積の格子計算では、より大きなメモリ容量が必要 (体積の2乗に比例)であり、ドメイン分割法などの方法で必要メモリを減らすことが現在の課題であるが、これに関しても今現在進展を得つつある。
著者
本多 和仁
出版者
東京工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

本年度はルビジウム原子を3次元青方離調光格子トラップに捕捉することに成功した。これにより、原子スピンの緩和時間が長くなることが予想され、永久電気双極子モーメントの精密測定へ向けて前進することができた。平成23年度は光格子を作成するための光共振器を構成したが、ガラスセルの問題により、予定の性能を出すことができなかった。そこで、このガラスセルで最大限性能を引き出せるように光共振器の構成を変え、予定の1/5程度の力の光格子トラップを構成した。これを用いて原子を捕捉することを試みた。実験の結果、1.3×10^6個程度の原子を捕捉することができた。この原子は直前に行う磁気光学トラップから補給されるが、密度の測定により、この磁気光学トラップから光格子トラップへの原子の移行効率は1/2であり、十分といえる。しかし、捕捉する原子数は目標の10^7の1/10である。この原因は磁気光学トラップの原子密度が低いためであり、今後、磁気光学トラップの原子密度を上げる工夫が必要であることが分かった。この原子は0.2秒程度で急速に減少し、10^5個程度で安定し、その後1/e減少するのにかかる時間は5秒程度である。これは、光格子トラップのポテンシャルには山の部分と谷の部分があり、多くの原子は山の部分でピンボールのように移動を阻害されて0.2秒ほどトラップ内にとどまり、その後、谷の部分に捕捉された原子がゆっくりと減少するためだと考えられる。事実、捕捉された原子の運動量分布を測定すると、0.2秒以前と以降ではエネルギーが半減している。これは、ポテンシャルの山と谷の高さ・深さは同じであることと一致する。目標の測定には数秒程度原子がとどまる必要があるので、ポテンシャルの深さを倍程度上げる必要があることが分かった。
著者
中林 誠一郎
出版者
埼玉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

1.ネットワークの集団挙動の制御興奮性結合と抑制性結合を用いて、ネットワークのクラスター化と集団挙動が観測できる。集団挙動は、電極が最近接する結合節(ノード)の興奮・抑制で支配される場合(対称グラフ)は易しい。結合強度が空間変調される非対称グラフの場合、数理モデルは、常微分方程式では、取り扱えない。ネットワークの動態の記述は、泳動・拡散を露わに含む偏微分系へと変化するので、ab initioな計算は難しい。そこで、実験的に求めたArnold Tongueから、結合定数を経験的なパラメーターとして、連立常微分方程式から半経験的な数理モデルを構築した。2.生理神経回路の構成的研究同一の機能を発現する複数のネットワークの中から、生体系が特定の回路を選んだ背後には、生理的あるいは発生学的な拘束条件があると思われる。腎盂機能を再構成した際には、腎臓細胞と尿管の平滑筋細胞の解剖学的な配列を手引きとして、経験的にトイモデルに機能を発現させた。ネットワークの数理の見通しが良くなれば、計算機を補助的手段として、この逆問題を実験でもとめる。得られた振動子配列から、生理系の設計図を読み解く事ができる、このことを、腎盂のしごき運動を例に実証した。このように、電気化学系のモデルで記述される緩和振動子の同期の特徴およびメカニズムは、神経系の緩和型ニュウロンの連成および電気化学振動子の連成計でみられた実験結果と一致した。連成電気化学振動子系が、神経系の緩和型ネットワークの多くの特徴を模擬できることが示された。
著者
橋爪 真弘
出版者
長崎大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

【目的】長崎において黄砂が死亡率に及ぼす影響を明らかにするため、以下のデータを収集した。【方法】1)黄砂データ:「気象庁」長崎海洋気象台において1990年-2006年に観測された黄砂日。「ライダー」長崎市において2003年-2006年にライダーで観測された高度120-900mの黄砂消散係数の日中央値をもとに黄砂日を定義した。2)気象データ:同気象台で観測された同時期の気象データ。3)大気汚染物質濃度:長崎市内の大気汚染観測局(一般局)におけるSPM、光化学オキシダント(Ox)、二酸化窒素(NO2)の日平均濃度。4)死亡データ:被爆者コホート(長崎市居住)から死亡日・性・年齢・死亡原因・既往疾患・喫煙などの情報を抽出した。統計解析:一般化線形ポワソン回帰モデルを用いて時系列解析を行った。黄砂日を指標変数、大気汚染物質(SPM,Ox,NO2)を連続変数、気象(気温、湿度)のnatural cubic spline、年・月・曜日・休日を指標変数としてモデルに投入した。【結果】総死亡は黄砂により4.1%(95%信頼区間:-8.4,18.4)増加(当日)、循環器系疾患死亡は13.8%(同:-9.4,42.9)増加(当日)、呼吸器系疾患死亡は1.6%(同:-25.9,39.1)増加(当日)を認めた。いずれも統計学的有意差はなかった。年齢、慢性疾患、喫煙習慣によるサブグループ解析ではいずれも統計学的有意差のあるリスク上昇は認めなかった。ライダーによる黄砂日を用いた解析では、総死亡は黄砂により12.9%(同:-24.6,69.1)増加(ラグ2日)、循環器系疾患死亡は-3.2%(同:-55.4,110.0)増加(ラグ2日)、呼吸器系疾患死亡は40.6%(同:-39.9,228.9,増加(当日)を認めた。【結論】黄砂日では循環器疾患死亡および呼吸器疾患死亡の増加を認めたが、統計学的有意差はなかった。ライダーまたは気象庁の黄砂定義により推計値が異なり、いずれにおいても死亡との関連のエビデンスは得られなかった。
著者
高野 裕久 小池 英子 柳澤 利枝 井上 健一郎
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

粒子状物質・エアロゾルやそれらに含有される化学物質の健康影響について、免疫細胞と気道上皮細胞への影響に注目し、実験的に評価した。その影響は、微小粒子・エアロゾルに含有される化学物質種により異なること、また、ベンゼン環数、官能基の有無やその種類、配置、酸化活性等が健康影響を規定する要因として重要であることも明らかにした。併せて、健康影響評価に有用なバイオマーカーを探索・同定し、健康影響発現メカニズムを分子レベルで明らかにした。
著者
松本 英之
出版者
大阪市立大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

脳内報酬系の主要コンポーネントであるドーパミン細胞の活動は、人工知能で利用される強化学習の強化信号に類似していることが知られる。本研究では、近年多様性が明らかになってきているドーパミン系の投射回路別の情報処理機構の解明を目指す。大規模神経活動記録法と光遺伝学を組み合わせ、自由行動中の動物の単一ドーパミン細胞活動をライブでモニタリングする系を確立する。さまざまな認知課題を行い、シンプルな外界入力から、より複雑な環境構造に関する情報など、ドーパミン細胞がどのようにコードしているのか調べる。報酬系が投射回路別に並列的に情報処理する仕組みを理解することで、汎用人工知能の構築に貢献することを目指す。
著者
田宮 元
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成28年度に完成した遺伝子×遺伝子ならびに遺伝子×環境相互作用のための高次元変数選択法ソフトウェアを、実際のゲノムコホートデータをテストデータとして適用して、この手法の妥当性を検証し、適宜修正を行ってきた。具体的には、前向きゲノムコホートで取得された健康診断データを応答変数として横断的解析を行い、次に、疾患二値データや前向きデータへの適用を順次試みた。手順の詳細は以下のとおり。1)環境暴露データの取り込み。宮城県住民を対象とした東北メディカル・メガバンク機構の前向きゲノムコホートで取得されていた環境暴露データについて、各変数のコーディングを行った。2)ゲノムワイドSNPジェノタイプデータの取り込み。この前向きゲノムコホートで取得されていた100万程度のSNPsのジェノタイプデータを取り込んだ。特に、SNPのクラスタリングエラーが相互作用検索時に深刻な偽陽性を生むことが知られているので、各SNPのクラスタリングに関するQCデータを利用し、低いクオリティのデータを事前に排除出来る工夫を行った。3)相互作用解析の実行。上記のデータをテストデータとして高次元変数選択法ソフトウェアにかけ、横断的な健康診断データを応答変数にして遺伝子×遺伝子ならびに遺伝子×環境相互作用の検索を実施した。これによって検出された相互作用候補を、機能的情報などから詳細にアノテーションを行い、データベース化した上で、追試研究に提供した。4)疾患二値データ(罹患・非罹患)の利用。上記集団において前向きに取得された疾患データや健康診断データを利用し、これらの応答変数に対して効果を持つ相互作用を検索し、上記の手順を繰り返すことによって、疾患感受性に寄与する相互作用候補をリストアップした。
著者
石黒 澄衛
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2021-04-01

花粉の表面はエキシンと呼ばれる殻で覆われている。エキシンは樹脂でできた軽くてフレキシブルな構造物で、雄性配偶体である花粉を保護するのに役立っている。植物の種類ごとに形が決まっていることからエキシンの構造は遺伝子によって規定されていることがわかるが、遺伝子が形を決めるしくみはまだ十分に理解されていない。本研究では、微細で普通の顕微鏡では見ることができないエキシンの形成の初期過程を特殊な方法でイメージングするとともに、形の決定に関与する分子を洗い出し、どのような分子が相互作用しながらエキシンの形を作っていくのかを明らかにする。
著者
榎戸 輝揚
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-04-01

ブラックホールや中性子星の連星合体で発生する重力波の直接検出により、重力波天文学の時代が幕を開けた。本研究では、今後期待される、高速自転する中性子星からの定常重力波の検出に向け、さそり座X-1など、明るいX線源を定常モニタリングできる超小型衛星の開発を進めてきた。暗い天体に関する測定感度を優先する大型衛星では明るい天体の測定は難しく、観測時間の専有も難しいことから、超小型衛星による挑戦が期待できる分野といえる。提案時には、国際宇宙ステーションに搭載された大面積X線望遠鏡 NICER のX線集光系と、シリコン検出器を組み合わせた観測装置を想定していた。しかし、NICER による、さそり座X-1の観測データや過去の RXTE 衛星による観測などを踏まえ、準周期振動の検出には、よりエネルギーが高い領域において大きな有効面積をもつ検出器の方が適しているという結論にいたった。そこで、理化学研究所のガス電子増幅フォイル(GEM)を用いたガス検出器に、日本の「ぎんが」衛星などでも実績のあるX線コリメータを組み合わせた観測装置を採用することにした。そこで、理化学研究所の榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム(2020年1月発足)と GEM を開発してきた玉川高エネルギー宇宙物理学研究室を中心に、衛星プロジェクト名を NinjaSat と定めてチーム編成を強化し、衛星バスは NanoAvionics 社とプロジェクトを進めることになった。開発においては、データ取得系のプロトタイプ基板を進め、X線コリメータの基礎開発を進めた。今後、本新学術公募研究での成果をもとに、実際に宇宙に打ち上げるサイエンスペイロードの開発と、打ち上げ後の観測運用の準備を進めていく予定である。
著者
飯田 崇史
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2022-04-01

ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊が発見出来れば、ニュートリノの粒子-反粒子同一性(マヨラナ性)が判明し、物質優勢宇宙の謎に決着がつく。二重ベータ崩壊は、通常のベータ崩壊がエネルギー、スピンにより禁止・抑制されている特定の原子核でのみ観測可能である。核種による遷移確率(核行列要素)の理論的不定性もあるため、様々な原子核で実験することが必要となる。本研究では、既存の技術を応用して大型かつ高純度のCe:Gd3(Ga,Al)5O12(GAGG)結晶を開発し、それを用いてGd-160の二重ベータ崩壊探索の研究を高感度で行う。