著者
大山 智子 (五輪 智子)
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

レジストを用いた軟X線顕微鏡の開発を実現するため、「(1)レジストの放射線化学反応の解明と高感度レジストの選定」及び「(2)撮像試験」を行った。(1)これまでの研究で有力候補となったZEPレジスト(日本ゼオン)について電子線照射後の生成物分析を行った。また、文部科学省の「物質・デバイス領域共同研究拠点共同研究」の支援を受けて大阪大学産業科学研究所のL-band Linacにてパルスラジオリシス実験を行い、塩素含有レジストが複数の経路で高効率に主鎖切断反応を起こすことが分かった。さらに、大型放射光施設SPring8の分光単色X線を用い、各種レジストの感度を測定した。感度は照射波長に依存し大きく変化したが、感度に相当する吸収線量は照射波長に依らずほぼ一定であった。さらに、この値は電子線照射時の吸収線量ともおおよそ一致した。この結果から、レジストの吸収係数とある一つの波長における感度が与えられれば、どの波長での感度も理論的に予測できる。実際に予測感度と実測感度はほぼ等しい値を示した。この感度予測法は、今後の高感度レジストの選択や新規開発に有益な情報を与えるものである。(2)ZEPレジストを用いて、SPring8の分光単色X線で撮像試験を行った。窒化ケイ素ナノ粒子の撮像に成功し、粒子が凝集している様子が100nm以下の高分解能でレジスト上に記録された。さらに、窒素のK殻吸収端前後での像を比較したところ、窒素の吸収が大きい波長のX線を用いた場合、より高コントラストな撮像ができていることが分かった。この結果は近く論文等で発表する予定である。今後撮像条件の最適化などを行い、実用化に向けた検討を引き続き行っていきたい。以上の結果より、レジストの放射線化学反応を利用した高分解能X線撮像と元素マッピングの原理実証に成功し、本研究の目標は達成されたと考えている。本研究の成果は論文や国際学会において社会に還元し、評価を得た。
著者
内藤 敏機 NGOC Pham Huu Anh
出版者
電気通信大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

色々な種類の関数方程式の正値性と、制御理論におけるロバスト安定性の両面において次のような実績をあげた。関数方程式において初期条件が正値性を有するならば、解も正値性を有するとき正のシステムという。線形の常微分方程式や簡単な線形差分微分方程式においては既存の結果があるが、本研究では一般的な遅れを有する線形関数微分方程式、ボルテラ型の線形微分積分方程式、ボルテラ型の積分微分方程式に対して正値性の条件を調べ次のような結果を得た。線形関数微分方程式においては、離散的な中立型の線形微分方程式が正値性を有する場合は存在せず普通の遅れ型の関数微分方程式に帰着されることを発見した。その上で遅れ型の方程式が常微分方程式の遅れ項による摂動として表されるような場合に、その方程式が正値性を有する条件は、もとの常微分方程式が正値性を有しそして遅れの摂動項を表す係数行列が正値性を有することであることを示した。同様の方法は線形のボルテラ型積分微分方程式と積分方程式に拡張できた。常微分方程式の遅れ項による摂動として合成積で表される積分核を用いたボルテラ型の積分微分方程式の正値性は、もとの常微分方程式が正値性と積分核が正値性から導かれることを示した。合わせてこのような方程式の解の安定性指数安定性に関する条件を得た。微分項を持たないボルテラ型の積分方程式の正値性については、正値性は再生核の正値性に帰着され、方程式の積分核が正値であるならば再生核が正値であることを示した。さらに再生核が正値である場合のペレー・ウィーナー型の定理とペロン・フロベニウス型の定理を得た。ロバスト安定性についてはバナッハ空間における線形関数微分方程式が安定性を有する場合、遅れの項を摂動した場合の安定半径を計算する式を得た。まず一般的な複素行列の摂動による安定半径の評価式を得て、さらに元の関数微分方程式が正値性を有するならば、実行列による摂動半径と複素行列による安定半径が一致することを示した。
著者
佐々木 隆 YOUNG Charles
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

Youngおよび佐々木は,可解低次元物理系のいくつかの側面について研究し,多くのめざましい結果を得た.Youngは,simply-lacedアファイン量子群の基本表現のq-指標と,戸田場の理論の相互作用を規定するDoreyの規則の間に簡単な関係のあることを明らかにした(CMP掲載決定),また,弦理論に関係した問題として,AdS_5xS^5背景を大きい角運動量を持って最大の巨大重力子にまで伝播する自由開弦を記述する散乱理論を,入れ子のベーテ仮説を用いて解いた.弦のスペクトルと,対応する場の異常次元を見つけた(J. Phys. A).更に,標準的なアファインsl(2)量子代数のカルタン部分代数の構造の決定,q,t指標の構造を明らかにした.量子アファイン代数の有限次元表現に関連して,極小アファイン化を含む新しい完全系列を見つけた.佐々木は,可解1次元量子力学系の無限個の新しい例を提出した.対応する固有関数は,ラゲール多項式およびジャコビ多項式を変形した,4種類の無限個の例外直交多項式になっている.更に,1次元「離散」量子力学系の変形から,連続ハーン,ウィルソン,アスキー・ウィルソン多項式の変形に対応する,無限個の可解系を見つけた.対応する固有関数は,例外型連続ハーン,ウィルソン,アスキー・ウィルソン多項式になっている.対応するフックス型の方程式の特徴,解空間の構造,形状不変性の証明,ボホナーの定理との関係などを明らかにした.ダルブー・クラム変換を通じての,変形の方法により,見やすい結果を示した.
著者
澤井 一彰
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

最終年度である平成23年度は、これまでの研究成果の公表と、今後の新たな研究のための史料調査が活動の中心となった。共著としては、2012年3月に山川出版社から出版予定の『オスマン帝国史の諸相』に、博士論文の一部である「穀物問題に見る16世紀後半のオスマン朝と地中海世界」が採録された。同論文は、16世紀後半の地中海世界における物資流通と国際関係のかかわりを、穀物問題に焦点をしぼることによって解明することを目指したものである。国内における研究発表としては、拡大地中海史研究会において、「16世紀後半の東地中海世界における「穀物争奪戦」-エマール=ブローデル・テーゼの再検討-」と題する報告を行った。博士論文の一部でもある同報告は、モーリス・エマールとフェルナン・ブローデルによって主張されてきたテーゼを再検討したものである。また、羽田正東京大学教授を代表とする基盤研究(S)「ユーラシアの近代と新しい世界史叙述」において、「16世紀後半のオスマン朝における飲酒行為をめぐる諸問題-多元的社会における「価値」を考える-」と「イスタンブルへの穀物供給に見る「伝統」と「近代」」と題した報告を行った。さらに、山川出版社から刊行されている『歴史と地理世界史の研究』には、イスタンブルの歴史を様々な著作を挙げつつ紹介する「イスタンブル歴史案内」が掲載された。今後の研究に向けての史料調査では、2011年8月14日から9月2日までトルコ(イスタンブル)とアイルランド(ダブリン)を、2012年1月15日から2月3日まではトルコ(イスタンブル)とイギリス(ロンドン)をそれぞれ訪れ、現地の文書館や図書館において関連史料の調査収集を行った。以上が、平成23年度の研究実績の概要である.
著者
木戸 博 LE Quang Trong LE QUANG Trong
出版者
徳島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

インフルエンザ脳症は我が国の小児で発症頻度が高く、急速な脳浮腫を伴って高い致死性と重症な後遺症を残す事から、大きな社会的問題になっている。しかしなぜ日本人に多いのか、なぜ小児に多いのか、など基本的疑問に対する解答はいまだ明らかにされておらず、発症感受性因子、発症機序、治療法の解明が望まれている。さらにインフルエンザ脳症の前駆症状として痙攣、異常行動の問題も解決しなければならない。このような背景の基に、モデル動物を使ったインフルエンザ感染による脳浮腫の発症機序の解析を進めてきた。具体的には、ミトコンドリアの脂肪酸代謝酵素の障害を誘発したり、カルニチンや脂肪酸トランスポーターを欠失したモデル動物では、インフルエンザ感染を契機にミトコンドリアでのATP産生が低下すると、脳の血管内皮細胞と神経細胞のトリプシンが異常に増加して、血液-脳関門を形成するタイトジャンクションの崩壊と、激しい脳浮腫を導くことを明らかにした。これらの事実から、さらにインフルエンザ感染で誘導されるトリプシンの誘導の抑制剤を検討した。その結果、脳のトリプシンには3種報告されているが、これらの転写調節部位にはAP-1,NF-κB結合部位がある事から、これらの転写阻害剤を検討したところ、いずれの転写阻害剤もインフルエンザ感染で誘導されるトリプシンの転写を抑制している事、トリプシンの誘導抑制により生存率の著しい改善が明確になった。
著者
山口 元樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、1914年に設立されたインドネシアのアラブ人協会「イルシャード」の活動を分析するものである。本研究の目的は、これまで十分に検討されてこなかった協会の指導者・設立者、アフマド・スールカティーの役割に着目することによって、中東のイスラーム改革主義運動の影響を受けた組織という観点からイルシャードを分析することである。平成22年度に実施した研究内容は次のとおりである。まず、史料・文献収集のために、シンガポール(2010年4月10日から13日)とインドネシア(2010年10月2日から年10月21日まで及び2011年2月5日から23日まで)において調査を実施した。シンガポールでは、文献を集めるとともに、4月10日と11日に開催された国際会議、"Rihlah:Arabs in Southeast Asia"にも参加した。インドネシアでは、ジャカルタとボゴールに滞在し、主なものとして、20世紀前半に発行されたアラビア語とインドネシア語(ムラユ語)の新聞・雑誌、イルシャードが発行した冊子類を集めた。次に、研究成果の発表としては、2010年7月30日に東京外国語大学で開催されたlnternational Workshop on the Emergence and Dynamic of Various Islamic Variants in Indonesia (Bilateral Program : Joint Research Project, JSPS-LIPI)における"Transformation of the Identity of Al-Irsyad : From a Hadhrami Organization to an Indonesian Muslim Organization"と、2011年2月28日と3月1日に南山大学で開催されたセミナー「東南アジアのマイノリティ・ムスリム」における「オランダ領東インドにおけるアラブ人協会『イルシャード』の教育活動-アフマド・スールカティーの改革主義思想とその影響-」がある。これらの発表では、オランダ統治期からインドネシア独立後までのイルシャードの変化を、イスラーム改革主義と関連付けて明らかにした。後者の発表内容に基づいた論文を『東洋学報』に提出し、現在審査中である。
著者
末松 芳法 OROZCOSUAREZ DAVID OROZCO SUAREZ David OROZCO SUAREZ David
出版者
国立天文台
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

太陽表面で見られる活動現象の大部分は太陽に存在する磁場に関係して起こっている。黒点は強い磁場が存在する場所として良く知られており(活動領域)、フレアなどの爆発現象が起こる場所に対応している。一方、黒点以外の場所(静穏領域)にも強い磁場は存在し、機械的エネルギーがこの磁場を介して外部のコロナに輸送されコロナが一般に100万度以上の高温になる原因と考えられている。但し、どのような機構でエネルギーが外部に運ばれているかは未解明の大問題である。また、対流と磁場の相互作用としての未解明のダイナモ機構に関連する極めて重要な電磁流体現象を提供している。本研究は太陽磁場、特に地上では観測の難しい静穏領域の磁場の性質を詳細に調べることでこの謎解明に迫るものである。太陽静穏領域の磁場はネットワーク構造をしており、超粒状斑と呼ばれる直径約3万kmの対流セルの境界に集中して存在することが知られている。個々の磁気要素は激しく変化しており、数時間の時間スケールで入れ替わっていることが予想される。超粒状斑内の浮上磁場、その対流運動による超粒状斑境界への輸送、境界磁場との融合消滅過程を経て、更新が行われていると考えられる。これらの静穏領域の磁場の性質の研究が進んできたが、まだ統一的な見解は得られていない。このため、太陽観測衛星「ひので」の高精度磁場観測を実施し、静穏領域で太陽中心角の異なる4つのフォトンノイズの小さいデータを用いて磁場の傾きを調べた。視線方向磁場に対応する円偏光成分と、視線に直角方向の成分に対応する直線偏光成分には、太陽中心角の大きな依存性があり、水平成分が卓越していることを示した。この結果は、磁場は等方的ではなく、小さなループ構造で多く存在していることを示唆している。太陽中心角に依らず、磁場強度は平均で180ガウスとなり、以前のハンレ効果を用いた結果と同様の強い磁場が得られた。更に、積算により非常にフォトンノイズを小さくした「ひので」の偏光データを解析した結果、直線偏光のみからなる磁場が70%近くを占めることが示され、磁場の傾きが水平方向に卓越していることを強く支持する結果を得た。
著者
伊藤 一馬
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、前年度までの成果をうけて、以下のことを行った。まず、北宋の神宗期に将兵制が成立するまでの過程や背景を、対外情勢との関連に着目して検討した。北宋の将兵制は、決して画一的・均質的に成立したのではなく、陝西地域・河北地域8東南諸路のそれぞれで対峙する勢力への姿勢に応じた背景や過程をもって成立したことが明らかとなり、とりわけ、西夏と対峙して軍事衝突が頻発していた陝西地域は、北宋における軍事的な先進地域となり、その情勢は将兵制成立に見られる如く河北・東南地域にも影響を与えたことを確認した。このような軍事政策の観点に立てば、陝西地域は当時の国際情勢における「結節点」であったと言える。次に、黒水城遺趾から出土した「宋西北辺境軍政文書」中の「赦書」の語が見える109-28文書・109-98文書を手がかりに、南宋成立直後における中央政府と陝西地域の動向ならびに双方の動向を検討した。それにより、北宋から南宋への移行期に、金軍の侵攻に対して陝西地域は領域を維持し、建炎四年まで頑強に抵抗し続けていた。それを可能にしたのが、南宋成立直後における中央政府との連絡の復活であり、赦書という皇帝の"お墨付ぎ"を背景にした軍備再建であったのである。神宗期に成立した将兵制が、北宋末期から南宋初期に至るまで陝西地域で定着していたことは「宋西北辺境軍政文書」から明らかであり、このような将兵制が軍備の再建にも大きく寄与したと考えられるのである。
著者
田仲 一成 WU Zhen
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本の祭祀芸能を中国との対比において研究することを目的とし、先に提出した実施計画に基づいて、重要な調査地点を順次に訪問し、フィールドワークを実施した。まず2011年5月、(1)高知県吉良川町の御田祭り、次に同年5月から6月にかけて、(2)岐阜県能郷の猿楽、(3)同高山市の春季祭礼、(4)奈良法隆寺の10年1度の聖霊会(行道行列)、(5)奈良春日大社の「呪師走りの翁」(6)大阪住吉大社の御田植神事などを、連続して調査記録した。また、2012年9月には、(7)奈良市豆比古神社の古式翁舞、(8)京都市宇治田原町の三社宮座神事を,同11月には、(9)愛知県東栄町小林の花祭りを調査した。これにより、日本の古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀について、広く考察することができた。具体的に言えば、まず古代祭祀については、(4)法隆寺の聖霊会により、古代に大陸から日本に渡来した伎楽系の仮面の実態を考察し、さらに(5)翁芸の源流とみなされている法呪師による「呪師走りの翁」を考察して、日本芸能の基礎となる部分の理解を深めた。次に中世芸能については、(2)能の原始形態を伝える岐阜県能郷の猿楽、(1)夢幻能の初期形態を示す吉良川の小林の幽霊、(7)翁の中世的発展を示す奈良豆比古神社の3人翁舞、さらに(8)中世宮座の原初形態を示す宇治田原町の神事などを考察できた。さらに近世祭祀としては、岐阜高山市の操り人形の精巧な演出を考察し、近世町衆の祭祀芸能の典型を考察できた。これにより、2009年11月に研究を開始して以来、古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀のすべてにわたり、展望を得た。今後は、これを踏まえて、(1)古代祭祀における大陸芸能の影響、(2)中世祭祀における宮座組織と中国の宗族組織との異同比較、(3)近世祭祀における市民社会の成熟度の目中比較などの課題にとりくみたい。また、日中両国語による報告書の刊行を計画している。
著者
アメングアル・プリエゴ マリア・オルガ (2010-2011) アメングルアル・プリエゴ マリア・オルガ (2009)
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

脳は自己免疫血栓性疾患である抗リン脂質抗体(APS)の重要な罹患臓器である。通常の動脈硬化性疾患と比べると、APSでは心筋梗塞に比べて脳梗塞が圧倒的に多い。APSの血栓形成機序は、APS患者に存在する抗リン脂質自己抗体が内皮細胞や単球を活性化して向血栓状態にすることと考えられている。本研究では、血管内皮細胞の臓器特異性について注目し、APSにおける脳梗塞の血栓形成機序を解明することによって同疾患の特異的治療法を開発すおること目的とした。本年は材料に、ヒトの脳、肺、皮膚の小血管内皮細胞を用いた。これらの培養細胞に抗リン脂質抗体(ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体:231D)を加えてインキュベートし、細胞からRNAを抽出してDNAアレイを用いてmRNA発現スクリーニングをおこなった。有意に発現が増加した遺伝子は、PLSCR4,Cenpk,Bhlhb5,Hmgn1,MAF,TNF,TRAF2,NOS3,RPs6ka6,IL-6、VCAM-1などがあった。しかし、これらの遺伝子発現に内皮細胞間の明らかな差はなく、脳由来微小血管内皮細胞に特異的な遺伝子発現上昇はみられなかった。検討した遺伝子発現のうち、抗プロトロンビン抗体によってもっとも有意に増強したのはNOS3(nitric oxide synthase 3)であった。NOS3の発現亢進は、患者由来のポリクローナル抗リン脂質抗体でも確認された。NOS3の遺伝子多型はアルツハイマー病や動脈硬化疾患と関連しており、脳血管障害の病態にNOS3がかかわる可能性がある。今回は抗リン脂質抗体によって誘導される脳血管内皮に特異的な分子は同定できなかったが、NOS3の活性をさらに検討することにより抗リン脂質抗体症候群に伴う脳血管障害のメカニズムを解明できる可能性を考えた。
著者
田中 朋之 KHAN NADAR KHAN Nadar
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

コメは全世界の約半数以上の人々が主食とする重要な食糧であり、特にアジアの発展途上国では貴重なタンパク源でもある。そこで、パキスタンで収集された約300種類のイネ在来品種・系統における種子貯蔵タンパク質の種内変異を評価した。その結果、主要な貯蔵タンパク質グルテリンのα鎖に関して、ポリペプチドの数と蓄積量に関し大きな変異があることが認められた。特に、リジン含有率の高いグルテリンサブユニットGluB4を認識するanti-B4(No.4b)抗体に対する反応性が品種・系統ごとに大きく異なり、その反応性の違いから、3つのグループに分類できた。その変異パターンと収集地域(N.W.F.P,Punjab,Balochistan,Sind,Azad Jamu Kashmir)ごとに特徴的な農業生態系との間には関連性は認められなかった。一方、グルテリンα鎖における変異の他に、グルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統が多く見出された。グルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統の出現頻度は、5つの農業生態系により異なり、Punjab由来の品種・系統で最も出現頻度が高く(22%)、次いでSind由来の品種・系統(13%)、Balochistan由来の品種・系統(3%)であり、N.W.F.PとAzad Jammu Kashmir由来の品種・系統には認められなかった。パキスタン由来のイネ遺伝資源におけるそれらの出現頻度は、世界のイネ・コアコレクション約60種類の中で見出された頻度に比べ著しく高かった。世界のイネ・コアコレクションで見出されたグルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統が、インド由来の良食味系統local basmati(collection number 40)であったことから、南アジア地域における良食味系統の分布と、グルテリン前駆体を高蓄積する系統の分布との間に関連があることが推察された。
著者
楠原 庸子
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

ギムネマシルベスタという植物に含まれるペプチドのグルマリンは、マウスの鼓索神経(CT:舌前方支配神経)の甘味応答を抑制する。当研究室の研究から、マウスの甘味受容経路にはグルマリン感受性(GS)と非感受性(GI)が存在しており、GS経路にはGustが関与していることが明らかとなっている。さらに、うま味物質に核酸のIMPを混ぜることによるうま味の相乗効果はGS経路を経ることが示唆されている。また、マウスのCTを挫滅させると、GI応答は3週目から、GS応答は4週目から再発現することが明らかとなっている。このことから、GS、GI経路の味細胞-味神経間連絡に関わるガイダンス分子の解析に挑む。野性型マウス(WT)にて様々な味刺激によるCT応答を記録した。続いてマウスのCT挫滅後1~5週目の1週ごとに、CT応答を記録した。うま味応答は3週目からうま味の相乗効果は4週目から検出され、グルマリン感受性応答の発現時期と一致した。Gタンパク質共役型受容体であるTIR1はTIR3と二量体をなすことでうま味を受容し、T1R2とT1R3の二量体は甘味を受容することが知られている。T1R1を遺伝的に欠損させたT1R1-KOマウス(KO)を用いて、様々な味刺激に対するCT応答を記録した。うま味の相乗効果はWTに比べてKOで大きく減少していた。さらに甘味に対するCT応答もWTに比べてKOマウスでは有意に減少した。このことからも、うま味の相乗効果はGS経路を経る可能性が示唆された。またKOマウスの単一味細胞での応答においても、うま味の相乗効果は減少していた。味細胞のSingle cell RT-PCRにおいて、T1R1、T1R2、T1R3が同一の細胞に発現していることがわかった。このことから、うま味の相乗効果と甘味の一部は細胞レベルでも同一のGS経路を経ている可能性が示唆された。
著者
黒澤 耕介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、天体衝突によって原始無生物地球上に生命前駆物質を供給する可能性について実験的に検証することを目的としている。先行研究から原始地球環境下では、天体衝突による生命前駆物質の合成効率は低く、生体関連分子までの化学進化を起こすのは難しいと考えられている。これは端的には、隕石中には窒素がほとんど含まれていないことが原因である。本研究では衝突天体物質に含まれる炭素と原始地球に豊富に存在したと考えられる窒素が効率よく反応する過程を提唱している。直径1km以下の天体が、低角度斜め衝突を起こした場合、衝突で粉砕された天体が下流側に飛び出し、周辺大気と激しく混合する。この過程は生命前駆物質として最重要物質であるシアノ化合物を効率よく生成できる可能性があるが、複雑な過程であるため、再現実験によるデータをもとにしたモデル化を行うことが求められている。今年度は、宇宙科学研究所の2段式軽ガス銃を利用し、再現実験を行う技術開発を行い、予備的な結果を取得した。従来加速銃を用いた実験では加速ガス、ガンデブリのために生成ガスの化学分析を行うことは困難であったが,これらの化学汚染を極力抑える手法を開発し、ガス分析を行う技術を確立することに成功した。弾丸,標的ともに酸素を含まないプラスチックを用いて、窒素中で衝突を起こした。最終的に生成された気体を簡易ガス検知管で分析したところ,およそ0.1%の蒸発炭素がシアノ化合物に変換されていることがわかった.シアノ化合物は生命起源に最も重要な役割を果たしたと考えられている。今後は実際の隕石試料を標的に用い、シアノ化合物の生成効率を計測する。またパラメータ依存性を調べることで現象のモデル化を行い、実際に原始地球表層環境での天体衝突によるシアノ化合物の合成量を推定していく。
著者
近江 崇宏
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は、空間的に広がったシステムが示す協調的なダイナミクスのモデルリングを目的としている。主な対象として神経細胞集団のスパイク発火を想定している。しかしながら近年、神経細胞のスパイク発火と地震発生の現象論的な類似性が指摘されており、より発展的な観点から地震時系列についても対象として、研究を行ってきた。本研究課題1、2年目においては、主に成果の出ていた地震の時系列解析の研究について報告した。本年度の報告では、本課題の中心テーマである神経細胞集団のスパイク発火についての解析の研究についての詳細な報告を行う。まず単一の神経細胞のスパイク列の発生率をヒストグラムを用いて精度よく推定する手法の開発を行った。既存の手法はスパイクがポアソン過程に従って生成されているという想定に従っているが、実験で観察されるスパイク列はポアソンではないことがわかっている。そこで本研究では現実のデータに適用可能なように、既存の手法をより一般の場合への拡張を行った。そして、数値実験、実データを用いて、提案手法の有効性を示した。スパイクデータからの発生率推定は神経科学では実験データ解析の標準的手続きである。さらに本手法は簡潔であり、統計解析の基礎知識を持たない研究者でも容易に実装が可能になっている。そのため今後本提案手法が多くの研究者に使われると考えられる。また本研究は理論神経科学の一流紙Neural Computation誌から出版され、2011年度の神経回路学会において大会奨励賞を与えられた。二つ目の研では神経細胞集団のスパイク列から動物が将来起こす行動のタイミングを予測する研究を東北大学医学部のグループと共同で行った。24個の補足運動野の神経細胞のスパイク列から約1秒のタイミングで行動タイミングの予測が可能であることを明らかにした。この結果は脳信号を用いた外部機器の操作(BMI)への応用においても重要な結果であると考えられる。
著者
大園 真子
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は,2008年岩手・宮城内陸地震後に観測した長期・広域の余効変動を説明するための粘弾性構造モデルの構築を試みた.また,先行研究との比較,モデルで説明できない部分についての考察を行い,博士論文としてまとめた.2010年8月31日までの稠密GPS観測から,水平成分で太平洋側から日本海側に至る広い範囲で10mm以上の変位が,上下成分で震源域近傍の顕著な沈降が見られた.この余効変動の主要因が粘弾性緩和であると判断し,粘弾性構造モデルによる推定を行った.上部地殻に対応する弾性層と下部地殻以深の粘弾性層から成る球殻成層構造を仮定し,弾性層の厚さHおよび粘弾性層の粘性係数ηの最適値を探索した.震源域近傍は他の要因による影響の可能性が考えられたため,試行錯誤の末,震央距離35km以上に分布する観測点のみを推定に用いた.2期間について調べた結果,本震後2ヶ月-1.5年間の観測値は,H=19.5-25.5km,η=2.4-3.4E+18Pa・s,2ヶ月-2.2年間の観測値は,H=17.0-23.5km,η=3.1-4.8E+18Pa・sとした時に最も良く説明される.推定した弾性層の下端の深さは,本研究対象領域の地震発生領域の下端に概ね対応している.粘性係数は,1896年陸羽地震後の余効変動から推定された結果の約1/3となる.この違いは,奥羽脊梁山脈直下の局所的低粘性領域を反映していることや,定常状態に戻る前の時間変化を見ていることなどの可能性が考えられるが本研究では結論づけられない.粘弾性緩和モデルのみでは説明できない残差が震源域近傍で生じるが,震源断層直上の2点については,この残差の約7-8割が余効すべりで説明でき,先行研究の推定とも概ね一致する.今後は,他の測地観測データと共に,地震波低速度域や火山の存在を考慮した,水平方向にも不均質な粘弾性構造モデルによる推定が重要となる.
著者
岸岡 歩
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

恐怖条件付け学習では、音と電気ショックは視床の異なる核を経由してそれぞれ扁桃核に入力し、この領域で連合され、記憶として保持されるという単純な神経回路が考えられていた(Le Doux.2000,Annu.Rev.Neurosci.23:155-184)一方で、これまでの研究から線条体は弱い電気ショックを与えたときの恐怖条件付けに関与することが示唆された(Kishioka et al., 2009)。そこで本年度は、線条体と扁桃体の機能の違い、および両者の関係を明確にすることを目的とし、以下の検討をおこなった。(1)C57BL/6系統のマウスの扁桃体Lateral Amygdala(LA)の両側にMuscimol(MUS)を投与し、神経活動を抑制した。このマウスを用いて0.3mAの弱い刺激条件で恐怖条件付けを行ったところ、3時間後(STM)と24時間後(LTM)ではいずれも有意に学習が障害された。これにより、弱い刺激条件での恐怖条件付けの記憶獲得には扁桃体が関与することが明らかとなった。(2)次に、あらかじめ0.3mAの弱い刺激条件で条件付けをしたC57BL/6系統マウスの扁桃体LAの両側にMUSを投与することで神経活動を誘導し、扁桃体の長期記憶への寄与を検討した。3時間後のSTMと24時間後のLTMを計測した結果、いずれも有意に学習が障害された。これより、扁桃体の神経活動は学習後の記憶の固定の過程にも重要であることが示唆された。(3)さらに、線条体神経細胞除去マウスを用い、0.3mAで恐怖条件付けをおこない、24時間後の長期記憶のtestの前にMUSを両側の扁桃体LAに投与した。LTMを計測した結果、有意な差は見られなかった。続いて、このマウスの線条体をRU投与により除去したところ、RU投与群の学習は障害される傾向にあった。このことから、長期記憶の表出には扁桃体は関与しない一方で線条体は関与する可能性が示唆され、それぞれの部位の恐怖記憶への関与の違いが明らかになった。
著者
堺 健司
出版者
同志社大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

電磁波吸収体は,無線通信機器が使用される環境で通信障害などの問題を解決する重要なデバイスである。無線通信機器が数GHz~数十GHzの電磁波を使用し,使用周波数の変化も激しいため,高周波化,周波数の変化に対応した電磁波吸収体が求められている。また,実用化を考えると低コスト化,量産可能なことも重要となる。電磁波の吸収は,吸収体材料の複素比透磁率と複素比誘電率により決定されるが,本研究ではこれらの値を人工的に制御でき,しかも汎用材料のみで構成可能なメタマテリアルを電磁波吸収体に応用することを試みた。メタマテリアルは導体などの周期配列により実現できるが,本研究では樹脂中に磁性体粒子を均一分散して粒子の周期配列によりメタマテリアルを実現した.また,立体構造を容易に作製できる光造形法を用いて,樹脂の周期構造を作製し,金属を蒸着して導体の周期配列を作製して電磁波吸収体へ応用することも試みた.樹脂を溶解し磁性体粒子と混合することで,粒子間に樹脂の層が形成され,個々の粒子が孤立して樹脂中に分散した.この方法で作製した試料は,数GHz~数十GHzで市販の吸収体よりも良好な吸収特性を示し,粒子の分散方法により吸収特性が改善できることを明らかにした.この成果は,特殊な材料を必要とせず材料の構造のみで特性を改善できるため,低コスト化など吸収体の設計において有用な技術となる.また,電磁波の吸収に有効であるコイルの周期配列を,光造形法と金属の蒸着を組み合わせ容易に作製できることを示した.作製したコイルの周期配列に対して10~20GHzの電磁波を入射し,透過波と反射波を調べた結果,金属を蒸着しなかった試料の特性と異なる結果が得られた.従って,最適な周期配列や形状を選択することで高機能な吸収体の作製が期待でき,光造形法を用いて実用的な電磁波吸収体を容易に設計できることを明らかにした。
著者
錦織 慎治
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究では,従来の歩行ロボットシステムでは致命的な問題である「転倒」の概念を排除した脚配置をもつ自律歩行ロボットシステムを対象としている.車輪移動型では探査困難であった月・惑星の不整地領域においても,脚移動型がもつメリットを最大限に生かすことができる.通常の脚配置と異なる特殊な形状としたことによって,従来型の歩行に代わる全く新しい移動形態の可能性がある.具体的には,従来のロボットでは姿勢角の大きな変動は転倒を誘発するために忌避されてきたのだが,これを胴体の移動に積極的に利用できる.こうした新たな移動形態として,昨年度に引き続き,動的な胴体回転を伴う移動形態について検討した.昨年度は,ロボットと土壌の間に生じる動的な効果を利用することで,ロボットの登坂能力が向上できる可能性があることを理論的に指摘していたが,本年度はこれを計算機シミュレーションにより実証し,月・惑星探査ローバに求められる不整地踏破性能の向上に役立つことを示した.この研究成果について「11th International Symposium on Artificial Intelligence,Robotics and Automation in Space(i-SAIRAS2012)」にて発表を行った.また,歩行ロボットシステムの自律化において,制御アルゴリズムの簡略化は,その信頼性を向上させるうえで極めて重要となる.そこで,転倒後も円滑な移動継続を可能とするために,転倒待機のための姿勢制御手法を提案した.この成果とこれまでに得られた成果をまとめて「第56回宇宙科学技術連合講演会」にて発表し,国内外の惑星探査ロボット研究者の方々に対して,本研究で扱ったシステムが,月・惑星の不整地探査ミッションにおいて,大きな利用価値があることを示した.その一方でこのシステムを月・惑星環境下で自律化するにあたっての課題を明らかにし,自律化の足場を固めた.
著者
太田 麻衣子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

1.各国から越研究者が参加した中国柯橋・越国文化高峰論壇にて「越都琅〓新考:兼論越在淮北地区的発展」を口頭発表、改訂稿「越〓都琅〓新考」を『中国柯橋・越国文化高峰論壇文集』に掲載した。本論文は越研究において長年の懸案である越の琅〓遷都および准北進出について、近年の考古調査に基づきながら新説を提示したものであり、以下の事を明らかにした。(1)従来『史記』は越の准北進出を否定しており、越の琅〓遷都を伝える『越絶書』等の記述とは矛盾すると考えられてきたが、実際には『史記』は越の淮北進出を否定してはおらず、『越絶書』等の記述とも矛盾しない(2)越の准北進出は考古学的証拠からも裏付けられる(3)ただし琅〓遷都自体は虚構である可能性が高く、少なくとも従来最も有力視されてきた山東省〓南市の琅〓山一帯に遷都したという説は、考古学的証拠より否定される(4)張志立氏らの考古調査により、准北における越に拠点は江蘇省連雲港市錦屏山九龍口古城にあった可能性が最も高い(5)准北に進出したあとの越は、無彊死後も淮北に存在し続け、最終的には戦国後期、考烈王期の楚に併呑される。2.指導委託により上海・復旦大学歴史地理研究中心の李暁傑教授に師事し、歴史地理学を学ぶと同時に、独自に各地でおもに楚・越にかんする史料調査を行なった。調査した博物館・遺跡・研究機関は以下のとおり。湖南省博物館・馬王堆漢墓三号墓坑・長沙簡牘博物館・湖北省博物館・武漢博物館・武漢大学・随州博物館・曾公乙墓遺址・襄樊市博物館・荊州博物館・楚紀南故城・荊門市博物館・宜昌博物館・南京博物院・上海博物館・蘇州博物館・蘇州科技学院・印山越王陵・越国文化博物館・紹興博物館越王城分館・良渚博物館・浙江省博物館
著者
陳 全
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

高分子量域のPI、PtBS試料の相溶性ブレンド系の絡み合い状態が誘電緩和、粘弾性緩和、流動光学などの手法で検討されている。高温においては、化学的には均一で分子量のみが異なるPI同士のブレンド系と同様の2段階の長時間粘弾性緩和が観察され、1段目の緩和はPIのA型双極子に由来する誘電緩和を伴うのに対して.2段目の緩和は誘電緩和を伴わないことが見出された。この結果から、PI/PtBSブレンド系においてPIが速い成分、PtBSが遅い成分であることが確認され、また、1段目の粘弾性緩和が全成分鎖の間の絡み合い緩和であり、2段目の緩和がPI鎖の緩和後に発現するPtBS鎖同士の絡み合い緩和であることが結論された。この結論は、流動光学データからも支持された。また、1段目の緩和に付随する絡み合い長は、成分鎖のKuhnセグメントの数分率と純状態における絡み合い長に基づく一次混合則で良く記述されることを示した。さらに、この混合則は、絡み合いをパッキング長と対応付ける現在の分子描像と良く対応することも明らかにした。一方、低温では、1段目の絡み合い緩和が平坦部を伴わないRouse型のベキ乗緩和となることを見出した。粘弾性、誘電、および流動光学データの対比から、遅い成分であるPtBS鎖による拘束が絡み合い長にわたるPI鎖のRouse平衡化を遅延して平坦部をマスクするために1段目の緩和が平坦部を伴わないことを明らかにし、この分子描像に基づくモデルを構築した。さらに、流動光学データなどに基づき、このモデルの妥当性を実証した。