著者
藤田 基
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、我々が開発した生体内活性酸素種測定システムを用いて、ラット熱中症モデルにおけるスーパーオキシド(O2-・)の動態を測定し、組織障害の程度と産生されたO2-・量との関連を解明することにより、熱中症におけるO2-・傷害の病態解明と治療指標としてのO2-・の意義を検討することである。本年度は、ラット熱中症モデルを作成・確立し、このモデルの生体内で混合静脈血中O2-・電流値の測定を行った。中枢温が38度を越えたあたりからO2-・電流値の上昇を認め、熱中症発症まで上昇し続けた。O2-・電流値の積分値(Q値)は肝臓および血漿中のマロン酸アルデヒド(MDA;脂質過酸化物質)、HMGB1(急性期炎症反の指標)、ICAM-1(血管内皮傷害の指標)、ALT/AST(肝障害の指標)と有意な相関を認めた。また、熱中症発症後に輸液投与、中等度低体温療法を含む体温管理を行うことにより、混合静脈血中O2-・値、肝臓および血漿中のMDA、HMGB1、ICAM-1、ALT/ASTの改善を認めた。以上の結果より、熱中症の病態において混合静脈血中で発生した過剰なO2-・は、全身および肝織の酸化ストレス、血管内皮細胞傷害、急性期炎症反応に関連しており、中等度低体温療法はそれらの抑制に効果的であることが示された。重症熱中症の臨床において、明確な治療指標は確立されていないが、本研究の結果、熱中症において混合静脈血中O2-・を測定することにより組織障害および全身炎症を予想することができ、熱中症の治療の指標となることが示唆された。また、熱中症における中等度低体温療法の有用性が示唆された。
著者
秋元 孝文
出版者
甲南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

アメリカ的立身出世物語の典型とみなされているHoratio Alger著Ragged Dick (1868)が、テクストの表層では「勤勉・努力・節制」といった内面の美徳を唱導しながらも、本当はむしろ外見を変えることの重要性を唱導してしまっているという点を、当時の偽札とのかかわりで論じた「Ragged Dick's Appearance---読むこと、読まれることと社会的上昇」を日本英文学会の学会誌『英文学研究』に投稿、審査を通過し第84巻に掲載された。本研究の19世紀部分の柱となる各論が一本完成した。8月に渡米。シカゴNewberry Libraryで、Autograph Counterfeit Detectorなどのアメリカの貴重な歴史的資料を収集。イリノイ大学シャンペーン校の図書館で、執筆中の論文「J.S.G. Boggsについて」のためのリサーチおよび論文の執筆、および引き続き、今後の各論の対象となるWonderful Wizard of OzやWilliam Gaddis作品に関する論文を収集。帰国後、収集した資料をもとに「J.S.G. Boggsについて…紙幣と文学の比較研究のために」を執筆、甲南大学文学部紀要に投稿。本論は当研究の序章となる予定である。引き続き、次の各論としてPaul Auster著Brooklyn Follies (2006)について、9.11以降のリアリティの変容を「Deception Dollar」というJoke Noteとのかかわりから論じる考察を開始、平成20年度に脱稿して、いずれかの学会誌に投稿の予定。以上のように2本の論文という形で成果を残し、また今後引き続く研究のための資料も集めることができ、着実な進展を実感している。
著者
秋元 孝文
出版者
甲南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アメリカ小説における想像力と、その同時代の紙幣制度の間にはなにかしらパラレルな関係が見いだせるのではないかという仮定のもとに、Paul Auster, Mark Twain, Frank Baum, Herman Melvilleという4人の作家の作品を取り上げて考察を行った。Auster作品では9.11以後の陰謀論的想像力との共鳴が、Twain作品ではサインと主体の分離の問題にバイメタリズムとの関連が見られ、そしてBaum作品ではエメラルド・シティの「緑」に紙幣の「グリーン」、そして同時代の紙幣のデザインに紙幣的なレトリックが見られることを証明した。MelvilleのBartlebyについてはその複製への抵抗をfantasy noteと呼ばれる偽札との関連で論じた。
著者
佐々木 直美
出版者
広島国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高齢者を対象として、グループで短期心理支援法を実施した。テーマは過去・現在・未来について、全3回で行った。その結果、実施後において、主観的幸福感が低い人は主観的幸福感が上昇した。また抑うつ感が高い人は抑うつ感が低減した。また自己概念については実施前後で差はみられなかった。
著者
福武 将映
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

統合失調症がその病態の基底にもつ生物学的な脆弱性に着目し、その疾患感受性を担う遺伝子変異の同定を試みた。神経発達障害仮説などの従来の仮説に基づいた標的遺伝子の探索に加えて、従来の視点とは異なる手法として大規模な遺伝子発現プロファイリングが可能であるDNA chipを統合失調症死後脳に用い、その結果を基に相関解析を行った。その結果、いくつかの遺伝子多型において統合失調症との相関が見出された。
著者
奥住 秀之
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は,知的障害者の身体バランスの制約のメカニズムを解明し,その支援方法を考案することの一環である.今年度の目的は,知的障害者の測定事態と日常事態におけるバランス能力の差異を,関連する要因に注目しながら検討して,その教育支援原則を考案することであった.検討項目は以下の通りである.まず,測定事態の評価のために,平均台歩きと片足立ちというバランス運動課題を行い,日常事態の評価のために,歩行評価を行った.歩行については,普通歩行に加えて,コップ運び歩行と最速歩行も行い,様々な日常の歩行バリエーションについて吟味した.その結果,以下のことが明らかになった.まず,多くの場合,自閉症者は,もっているバランス運動それ自体は発達的に高い水準にあり,活動の文脈が理解しやすい場面では,そのパフォーマンスをかなり発揮できる.一方,ダウン症者は,そもそもの運動パフォーマンスが低いのであるが,その低さゆえ,安全性や正確性を重視する運動ストラテジーをとるために,さらに運動の力が低いようにみなされてしまう.教育支援法として,自閉症者については,活動の文脈がわかりやすい環境を呈示する.例えば,歩行の目的地や運搬する物体を明示するという支援が有効であった.平均台歩きのように,活動を具体物で補償するという支援も重要であろう.一方,ダウン症者については,なかまや教師がともに活動して,楽しくやりがいのある活動と結びつけて行うこと,次の運動の繋がる声がけなどの支援が有効であることが明らかになった.
著者
服部 龍二
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、占領期における幣原喜重郎の内外政上の役割を研究した。まず、戦後政治全般における幣原の動向については、首相期を中心としながら、天皇制の擁護や日本国憲法の制定過程について論じた。その主要な成果としては、拙稿「幣原喜重郎と戦後政治」(『人文研紀要』、第55号、2005年10月、1-37頁)において刊行してある。次に、最晩年の衆議院議長時代については、ダレスの訪日に端を発する超党派外交を分析してある。これについては、アメリカのナショナル・アーカイヴスにおける史料調査を踏まえて、拙稿Shidehara Kijuro and the Supra-Party Diplomacy,1950(『中央大学政策文化総合研究所年報』、第8号、2005年6月、171-187頁)として公にした。1920年代の外相期については、主に政策と人脈の形成と展開という視点から研究を行った。その成果については、拙稿「幣原喜重郎の政策と人脈」を『中央大学論集』第27号に投稿してあり、今年中には刊行予定である。そのほか、幣原の外交思想を伝えるものとして、拙稿「幣原喜重郎講演『外交管見』」を執筆した。これについては、『総合政策研究』第13号に投稿してあり、やはり今年中には刊行予定である。これらの集大成として、拙著『幣原喜重郎と20世紀の日本--外交と民主主義』(有斐閣)を今年中に刊行する。なお、一般向けに書き下ろしたものとしては、拙稿「ワシントン会議--海軍軍備制限条約、九国条約への調印」および「幣原喜重郎外相と南京事件--対中政策をめぐる論争」があり、いずれも鳥海靖編『日本近代史の転機』上巻(吉川弘文館、2006年刊行予定)に収録される。
著者
大月 淳
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

イタリアを対象とし、そこでの(1)民営化の変化に対応する劇場のあり方、(2)個別の劇場と地域の関わり方、(3)劇場間の関係性のあり方、をエミリア・ロマーニャ州を中心に明らかにし、今後の地域における劇場のあり方に関する知見を得た。国を中心とする公共セクターの影響力を強く残す形での民営化(=財団化)の経緯と現状、劇場と地域及び劇場間の関係性を規定するジャンルを軸とした「劇場活動カテゴリー」のあり方は、現在、公共劇場の再構築が課題となりつつあるわが国において参照に値する。
著者
井上 裕匡
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

熱中症診断の有効な所見として肺脂肪塞栓の有無が利用できるか否かを昨年度より解剖症例数を増やし検討した結果、肺脂肪塞栓は熱中症の陽性所見よりはむしろ生前の高温暴露を示唆する所見として有用である可能性が示された(現在投稿中)。これまでは熱中症診断は除外診断として行われてきたが、今回の結果より肺脂肪塞栓はこれまで死後の高体温でしか証明なしえなかった生前の高温暴露を示唆する所見として利用可能であり、熱中症診断の上で非常に有用な所見であると考える。一方、これまで肺脂肪塞栓の原因として指摘されていなかった病態においても肺脂肪塞栓が見られており、このことは肺脂肪塞栓が高温暴露以外にも死者の生前の状態を示唆する所見として利用できる可能性を示している。しかし、これらで見られた肺脂肪塞栓は致死的なものではなくいずれにおいても直接死因が肺脂肪塞栓であることは否定的である。肺脂肪塞栓が直接死因となるには実験的には60ml程度の脂肪の流入が必要であり、骨盤骨折など広範囲の骨折を生じるものではそれによって生じた肺脂肪塞栓症が直接死因の可能性もあることを示した。しかし、法医解剖事例では実際は20ml程度でも死亡しうるといわれており、この実験的肺脂肪塞栓との差は肺脂肪塞栓を生じる原因となった損傷や疾病によって引き起こされる炎症反応などの生体反応の状態に影響を受けていると仮説を立て、現在検証中である。
著者
鳥飼 宏之
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

爆薬にアジ化銀ペレットを用い,そのペレット数を変化させることで爆発現象に投入するエネルギ量を変化させ,そして消火対象にメタン-空気拡散火炎を用いて爆風消火の消火特性について実験的に検討した.その結果,爆薬量を増加させるほど,完全に消火が達成される爆点から火源までの距離が増加した.また,爆薬のエネルギ量と大気圧との比の1/3乗で爆点と火炎との距離を無次元化することで,火炎規模を一定とした場合,爆風により消火が達成される限界の無次元距離が投入した爆薬のエネルギ量によらずほぼ同じ値を示すことを明らかにした.
著者
小田 亮
出版者
名古屋工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

旭川市旭山動物園のシロテテナガザルを対象に、ソングのテンポに対する認知を調べる野外実験を行った。テナガザルのソングはノートと呼ばれる個々の発声が組み合わされて構成されている。昨年度に引き続き、3種類の異なるノート間隔をもったソングを作成し、これらをテナガザルに対して再生した。再生中と再生後の行動をビデオに記録し比較することで、テンポの認知がどのようになされているのか調べた。まず刺激音であるが、伊豆シャボテン公園において飼育されているシロテテナガザルのオスが自然に鳴いたソングを録音し、デジタルファイルに変換した。ノート間の時間間隔をすべて倍にしたものと、半分にしたものを作成した。このようにして作成した通常のソング(S)、ノートは同じだが間隔が倍のもの(D)、そして間隔が半分のもの(H)のそれぞれを、旭山動物園の野外ケージにおいて飼育されているシロテテナガザル4頭(オトナメスとその子供3頭)に対して再生した。再生は馴化を避けるために午前中に1回、午後に1回の1日2回のみとした。反応はデジタルビデオカメラ2台に記録し、動画ファイルに変換した後に動画分析ソフトウエアを用いて分析した。前年度は最年長のオス(長男:5歳)を分析対象としたが、今年度は第二子のオス(次男:3歳)の反応を分析した。ソングを再生中と、再生後同じ時間のあいだの移動時間割合を分析したところ、長男ではHの場合のみ、再生後に移動時間が有意に多くなっていたが、次男ではそのような差がみられなかった。長男と次男でソングへの反応に差が見られた原因としては、年齢が関係している可能性が高い。テナガザルが出自群を出て独立するのは8〜10歳といわれており、歌への反応もこれに伴って高くなると考えられる。5歳の長男は他個体の歌にある程度敏感であると考えられるが、次男はまだ性成熟にも達しておらず、歌への関心が低いと考えられる。
著者
王 鳳
出版者
島根県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

改革開放以降の中国の社会意識の変化に関わる各種の言説を考察することによって80年代と90年代以降という二つの大きな区切りがあり、人々の意識やその表象に決定的な影響を及ぼすものがそれぞれ「正しさ」の論理と「できる」論理であると結論した。また、社会現実を語る際に用いられる時代的ディスコースの変化は、90年代の「奮闘」(頑張っていること)から2008年前後の「棟梁」(成功そのもの)に移っていくという重心の転移があったのである。
著者
半田 久志
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,部分問題に分割し,部分問題毎に並行して協調的にルール生成を行う新たな進化計算を提案し,提案手法を知識導出に適用する.部分問題に分割することにより多様性を維持しつつ効率的にルールを探索する.この知識導出に確率モデルを用いた進化計算である分布推定アルゴリズムを適用・拡張した.
著者
古賀 智裕
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

平成22年度関節リウマチ分子学的発症の検討1.PADI mRNA1制御に重要な3'UTR配列の同定に関する研究PADI2とPADI4のmRNAの差異として、mRNAの3'UTRの長さが著しく異なる事実が知られている。PADI2発現制御の一部が転写後のイベントである点に着目し、mRNA制御メカニズムに基づいた3'UTRを介したPADI2とPADI4の制御について以下の研究を行った。(1)PADI2,PADI4の3'UTRのクローニングを開始。既に、滑膜線維芽細胞、骨肉腫由来細胞株、肝臓癌由来細胞株からのcDNAを得た。今後、high federity酵素を使用したPCRにより、PADI2,PADI4の3'UTRをレポータープラスミドにクローニングする予定である。(2)Harvard Medical School, Brigham and Women病院リウマチ科のPaul Anderson研究室からTet-off制禦性reporter assayを試みているが、これを可能にするDIGシステムによるノザンプロットシステムの至適条件を模索中である。2.CAFS : Citrullinated Antigen from Fibroblast like Synovial cellの作成滑膜線維芽細胞由来のシトルリン化蛋白質をArthritogenicな抗CCP抗体産生を誘導する抗原、すなわちRAの血清学的発症を誘導する過シトルリン化抗原として焦点を当て、Citrullinated Antigen fromFibroblast like Synovial cell : CAFSとし、その病的意義について以下の研究を行った。(1)Synovial stromal cellを購入し、無刺激、TNF-a刺激、IL-6刺激24時間後の細胞上清とLysateを回収し、細胞上清はアセトン沈降法にて精製した。(2)上記で得られたサンプルにPADIのReaction buffer, recombinant PADI2, recombinant PADI4を加え37℃で90分間反応させ、CAFSを作成した(3)作成したCAFSは前回報告時点で確立したアッセイであるシトルリン化蛋白のキットを用いたウェスタンブロッティングにより蛋白発現の確認に成功した。(4)シトルリン化が確認されたCAFSを用い、抗CCP抗体陽性RA患者血清と抗CCP抗体陰性RA患者との免疫沈降法により、現在より特異的なシトルリン化蛋白の対応抗原の同定を試みている。
著者
朝倉 文夫
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

【目的】頚部頚動脈狭窄症が増加しており、その血行再建術として低侵襲な血管内治療である経皮的血管拡張・ステント留置術が増えている。しかし、経皮的血管拡張・ステント留置術において最大の問題点は、押し潰された粥腫片の遠位脳血管への迷入による虚血性合併症(遠位塞栓)である。現在、本邦においては、病変部の遠位に留置したballoonによる血行遮断を行い、手技により生じた粥腫片をカテーテルで吸引回収・洗浄することにより遠位塞栓症を予防する方法が主である。しかし、吸引する血液量、吸引するカテーテルの位置、洗浄量などは術者によりまちまちで、最も効果的な吸引回収・洗浄方法は確立されていない。そこで、シリコンチューブと拍動ポンプを用いて、微粒子を流し、各種条件下(血圧、微粒子径、吸引量など)で、より効果的な粥腫片の回収方法を検討し、新たな遠位塞栓予防器具の開発を目的とした。【方法】シリコン製頚動脈モデルとシリコンチューブで回路を作成し、拍動ポンプで拍動流を生じ、ポリスチレン粒子を流し、実際の治療で用いられているdistal blocking balloonと吸引用カテーテルを用い、各種条件下で吸引回収効率を計測する。【結果】回路を作成し、ポンプの水量(拍出回数と量)および、回路全体にかかる水圧を調節することにより、拍動回数、流量、圧波形はヒトの頚動脈におけるものに極めて近似的な数字が得られた。しかし、ポリスチレン粒子は、シリコンチューブ中で生理食塩水に流すと、表面張力や摩擦抵抗により、均一に拡散して流れることは無かった。界面活性剤などを用い、生理食塩水中で均一に拡散する方法を見出す必要があった。それらに関する実験を行っていたが、当初予定していなかった海外留学へ赴くこととなり、これらの研究は中止せざるを得なくなった。
著者
長谷川 珠代
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ケアする人々の健康増進を目的としたヘルスケア・アートプログラムは、楽しみが得られる場、交流の場等として認識され、『ケアする人』に専門職も含めた結果、ケアされる方や家族との一体感、気持の共有が図られた。このプログラムはケアする人々が感じる精神的・身体的な疲労感を解消でき、アートを活用することで精神面と身体面の双方への効果が得られ、心身の緊張緩和、意欲の向上に繋がることが示唆された。またNPOやボランティアと連携した実施により、地域ケアシステムとして稼働可能性が示唆された。
著者
山口 幸代
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

株主利益の追求と社会的配慮という企業に対する二つの要請の関係性をどのように捉えるべきなのか。英国で2006年に成立した新会社法は、従来の会社法制においては明言されることのなかったこの課題に果敢に取り組み、法的な位置づけを試みたものとして注目に値する。そこで平成19年度は、企業運営における社会的要因の配慮の位置づけと、それに関する法的枠組みのあり方を、英国新会社法を例にとり考察した。同考察においては、域内国としての英国に影響を及ぼすEU規制の状況を同時にカバーすることで、EUレベルでの動向にも目を向けた。英国会社法上の社会的責任にかかる規制のあり方は、第一に、会社の目的を株主利益の追求と位置づけながらも、その実現には社会的な配慮が求められるという認識のもと、会社法上の明文で-具体的には、取締役の一般義務の一部として-このことを示すに至った。第二に、環境情報の開示義務については、改正前から存在していたものの、度重なる改正でやや混乱を招いていたその内容を、新しいビジネス・レビュー規制の枠組みの中で再整理した。ここで情報開示の目的が、取締役がどのように上述の一般義務を遂行したか判断するための情報を株主に提供することにある、と明示されたため、社会的要素に関わる情報提供の重要性はこの一般義務の遵守の観点からも裏付けられることとなった。さらに、代表訴訟に関する改正によって株主が直接取締役の一般義務違反を追及するための道が開かれたことで、会社の社会的配慮のあり方にとどまらず一般的にみても株主の経営監視体制は強化されたことになる。会社に対して社会的配慮を備えた株主利益の追求が義務づけられたことには、コーポレート・ガバナンスの基本命題である「会社はだれのために、どのように運営されるべきか」という問いに対する一つの答えが示されているといっても過言ではないだろう。
著者
市川 温
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、流域管理による水防災政策の実現可能性を検証するとともに、効果的・効率的で持続可能な水防災政策とその実現方策を探ることである。本研究で対象とした、大阪地域、東京地域では、流域管理の一つの方策である土地利用規制・建築規制が水防災対策として一定程度の適用性を有していることが明らかとなった。その一方で、これらの規制は、所得の低い世帯に対して相対的に大きな負担を強いることも明らかとなった。
著者
田村 隆雄
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

吉野川流域および那賀川流域の森林流域を対象に大雨時の洪水低減機能と斜面崩壊危険性の関係について考察した.特に那賀川流域について日雨量の日本記録(当時)を更新した昭和51年台風17号や平成16年台風10号等を対象に行った流出解析から,流域の貯水能が最大になっても直ちに斜面崩壊が発生していなかったと推測され,洪水低減機能(貯水能)の大きさが斜面崩壊危険性の増大に直接繋がることはないこと,地中水量よりも直前の降雨強度がより大きな影響を与えているという推論を得た.
著者
中山 優季 小倉 朗子 松田 千春 筧 慎治 川田 明広 本間 武蔵 R.N Pamlea.A.Cazzolii
出版者
財団法人東京都医学研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

筋萎縮性側索硬化症長期人工呼吸療養者における対応困難な身体症状の内容と発生機序および対応策を検討した。症状は、全身各部位に及び、随意運動障害の二次的障害、情動・自律運動系の障害、人工呼吸器装着・臥床の合併症、その他の合併症に大別された。精査が困難であること、意思伝達障害により自覚症状や程度の把握が困難なことから対応は困難を極めた。そこで、意思伝達維持のため、生体信号や微細な筋活動を検出する方法を模索し、病理的にも機能保持されるという肛門括約筋を用いる方法を着想した。