著者
徳澤 佳美
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、我々が樹立したヒトiPS細胞でFATP3ノックアウト細胞を作成し、解析することを計画した。ゲノム編集によるFATP3遺伝子ターゲッティングを行うために、CRISPR/Cas9発現ベクターとFATP3ターゲッティングベクターの構築を行なった。FATP3にはisoformが3つ存在するため、実際にFATP3ターゲッティングに使用するヒトiPS細胞において、これらのisoformの発現量をqRT-PCRで測定した。その結果、FATP3の全てのisoformが発現していたことから、ヒトiPS細胞でFATP3の機能抑制の影響が表現型として出る可能性が示唆された。しかし、ヒトiPS細胞は通常、ミトコンドリア活性が抑制されており、分化誘導に伴い代謝が電子伝達系-酸化的リン酸化にスイッチすることが知られている。FATP3はミトコンドリアの呼吸鎖活性に関わっていると予想されるため、FATP3の発現抑制によるヒトiPS細胞への影響は、抑えることができると考えた。ターゲッティングのための予備実験として、使用予定のヒトiPS細胞への遺伝子導入条件と薬剤選択濃度の検討を行い、条件を決定した。FATP3に遺伝子変異が同定された患者は、胎内発育不全を呈したことから、FATP3ノックアウトiPS細胞は分化誘導した時に増殖能の低下が予測される。そのためFATP3ノックアウトiPS細胞の解析には、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の形成だけでなく、分化誘導効率の評価を行うことも重要と考えた。神経外胚葉への分化誘導方法は所属研究室において既に確立されているが、中内胚葉系への分化誘導方法は着手していなかったため、誘導条件の検討を行なった。
著者
渡邊 崇人
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

白色腐朽菌 Ceriporiopsis subvermispora は,セルロースを極力壊さずにリグニンを選択的に分解する.その選択的リグニン分解機構を解明する一環として,今回は,リグニン分解フラグメントの1つであるバニリンに対する細胞応答を調べた.蛍光ディファレンスゲル二次元電気泳動を行い,バニリン存在下と非存在下での発現プロファイルを取得した結果,バニリンで発現が誘導される,または,抑制されるタンパク質が見つかった.また,サプレッションサブトラクティブハイブリダイゼーションによりバニリンで誘導される遺伝子を数多く取得した.
著者
星野 太佑
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、乳酸が骨格筋ミトコンドリア増殖を引き起こすのか、摘出筋を用いた実験系とC2C12筋管細胞の電気刺激の系で検証した。その結果、摘出筋に対する10mM乳酸刺激は、ミトコンドリアの新生を抑制した。しかし、この時乳酸添加24時間後では、培地中の乳酸濃度が25mMを超えており、非生理学的な高い乳酸濃度であった。電気刺激による乳酸濃度の増加は、C2C12筋管細胞のPGC-1alphaのmRNA量を増加させた。以上の結果から、筋収縮に伴うような乳酸濃度の増加は、転写制御を介してミトコンドリアの新生を引き起こす可能性を示唆した。今後、乳酸濃度の濃度応答性の違いをさらに検証する必要がある。
著者
柊 和佑
出版者
中部大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

近年、地方自治体を中心とした「地域の記憶」である地域情報資源をコンテンツとしたアーカイブズの構築およびそのディジタルアーカイブズ化が盛んであり、様々な形態のサービスが誕生している。その一方、それらのサービスを利活用するためのハードルが低いとは必ずしもいえない。本研究の中心課題は、ディジタルアーカイブを地域住民が自らが使い易いままにアップグレードしながら長い期間利活用できるようにすることである。今後、日本は少子化が進み、地方都市が消滅していくことが予想されている。本研究は、消滅可能性都市が、将来的のために地域の記憶を少しでも残しておくことを目標としている。そのためには、アーカイブのコンテンツの検索や利用に用いられるメタデータ、コンテンツそのものの特性や構造を記述するメタデータを、地域住民にとってわかりやすい表現と結びつけることが収集における基本的課題となる。そして、それに基づいて地域住民が使いやすい方法でアーカイブをアップグレードする仕組みが必要となる。実際に研究を進める際は、地域コミュニティの知識のナレッジベース化を目標としオーラルヒストリーを中心としたコンテンツ制作手法(つくる)、異なるディジタルアーカイブ間を意味的に結びつける(つなぐ)、地域住民のためのディジタルサイネージなどのディジタルアーカイブ利用支援手法(つかう)を課題カテゴリとして意識した。また、研究を進める際に現れる問題も、どの課題カテゴリに入るのかを意識した。本年度はすでに蓄えられた地域情報資源のディジタルデータを元に、それを観た地域住民が語る言葉をメタデータ化し、ディジタルアーカイブ全体のメタデータ量を増やすための方法の確立を目標とした上で、実際に稚内に赴き、地域住民の反応及び市区町村の役所の人間とミーティングを行い、過疎地域の意識を調査するとともに、その地を訪れた旅行者の行動を観察した。
著者
藤本 悠
出版者
奈良大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

現代日本における社会問題のひとつに人口問題がある。特に地方においては「過疎」という言葉を通じて論じられることが多く、1960年代以降、様々な分野において議論され続けてきた。しかしながら、根本的な解決に至らないまま、農林漁業を主要産業とする数多くの地方小集落が消滅の危機に瀕しているのが現状である。この問題に対して、作野広和は「むらおさめ」という考え方を提唱し、消滅を免れ得ない集落においては潔い終焉を認めつつ、その集落が存在した記録を後世に遺すという方向性を議論した。「むらおさめ」の考え方の是非は置いておいたとしても、消滅の危機に瀕した集落の記録をデジタル・アーカイブとして遺すことは極めて重要な課題であり、その必要性は様々な分野において論じられている。しかしながら、この課題に取り組む上での具体的な方策は議論されていないのが現状である。特に「費用に関わる課題」、「技術に関わる課題」、「人的資源の確保に関わる課題」、「共有化に関わる課題」の4つの課題は避けて通ることはできない問題であり、これらの課題に対する方法は早急に検討する必要がある。本プロジェクトではこれらの課題を解決するために低コストで汎用的なデジタル・アーカイブの方法を確立を目指している。平成29年度には「集落アーカイブ」のための概念的な枠組みを整理するとともに、国際標準ISO19100シリーズに準拠したデータベース・スキーマの設計、デジタル・アーカイブ支援システム「Survey Project Manager」および「Survey Data Collector」の開発を行い、調査対象地域のひとつである島根県益田市匹見町において実践的な取り組みを行った。また、構築したデジタル・アーカイブを用いた分析方法の検討も行った。
著者
松原 孝典 安永 秀計 浦川 宏 綿岡 勲 八木 謙一 積 智奈美 岡田 魁人 櫻井 千寛 渡邊 克樹 伊勢 直香 井上 ひなた 佐藤 明日香
出版者
産業技術短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

染毛(ヘアカラーリング)において、皮膚のかぶれなどの人体負荷や合成染料を利用することによる地球環境への負荷を低減するため、天然由来材料を用いた染毛の研究を行った。天然由来材料を化学修飾(酸化)することによる染料の合成とその染色特性、化学反応を染色プロセスに活用する染色性向上の方策、実用化を目指した研究などに取り組んだ。さらに、酸化された天然由来材料に機能性(抗酸化性・紫外線保護性)があるため、毛髪の紫外線に対する保護機能についても評価した。本研究成果により、将来染毛による疾病になる人が減ることや、持続可能な開発へ貢献することを期待する。
著者
藤野 純也
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

まず、研究開始に伴う手続き(被験者への説明文書、同意書、必要書類の準備、作成など)を行い、自閉スペクトラム症(ASD)群、注意欠如多動性症(ADHD)、および定型発達群のリクルート体制を構築した。ASD群とADHD群に関しては、昭和大学発達障害専門外来を受診された方に、研究の概要を説明し、参加募集を行った。発達障害の意思決定に関する先行研究をまとめること、関連学会に参加することで情報収集し、ASDやADHDの病態理解に重要な意思決定課題や質問紙などを作成し、準備した。加えて、予備実験を行うことで、ASDおよびASHD被験者の課題理解を高める方策についても検討し、課題内容を洗練した。また、本研究課題における至適なMRI撮像パラメータの選定を行った。本年度は主に、ASD群 およびTD群を対象に、埋没費用(事業や行為の中止を行っても戻ってこない資金や労力)が関わる状況下での意思決定パターンを調査した。結果、ASD群では、TD群と比較して、埋没費用効果が低下していた。また、TD群では、埋没費用の増加に伴って埋没費用効果も上昇したが、ASD群でそのような現象はみられなかった。加えて、ASD群では、TD群と比較して、課題中の選択反応時間も埋没費用に影響を受けにくいことが示唆された。ASD群では、埋没費用が関わる状況下において、文脈への感受性が低いものの合理的な意思決定を行うことが示唆された。
著者
竹原 正也 永浜 政博 小林 敬子
出版者
徳島文理大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

宿主は、細菌感染に対して好中球の産生を亢進し対抗するが、一部の細菌感染は致死的である。我々は、ウエルシュ菌が感染したマウスや、α毒素を投与したマウスでは成熟好中球が減少することを発見した。また、本菌の感染は末梢の成熟好中球を減少させた。骨髄細胞をα毒素で処理すると、脂質ラフトが変化し、好中球の分化が抑制された。脂質ラフトの阻害剤を処理した骨髄細胞では、好中球の分化が抑制され、脂質ラフトの阻害がα毒素による好中球の分化抑制に関与することが示唆された。以上の結果より、ウエルシュ菌α毒素は好中球の分化を阻害し宿主免疫を障害する、本菌の新しい免疫回避機構が明らかとなった。
著者
谷口 亘
出版者
関西医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

脊髄損傷(Spinal cord injury: SCI)後疼痛モデルラットを作成し、損傷レベルより下位の脊髄後角でin vivoパッチクランプ法により自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)の解析を行った。SCIモデル群はコントロール群よりsEPSCの頻度が増強していた。このことから、脊髄損傷後疼痛では損傷部より下位の非損傷脊髄内において、何らかの興奮性の神経可塑的変化が生じ、中枢性感作の状態になっていると考えられた。次にこのSCIモデルにミクログリア活性化阻害薬のミノサイクリンを灌流投与することでsEPSCの増強に抑制が得られるか検討したが、予想に反してsEPSCは減少を認めなかった。
著者
北村 由美
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、1950年代後半から1960年代にかけて、中国に(再)移民した後に文化大革命を経て香港に移動したバンカ・ビリトゥン州出身のインドネシア華人に焦点をあて、インドネシアと香港の双方で調査を行った。その結果、移動の主要な理由や、移動した当時の状況など移動に関する背景と事実や、現在のインドネシアとの関係、言語能力など様々なファクターが明らかになった。本研究を基盤として、今後は中国や台湾および東南アジアの他国をフィールドとする研究者を交え、共同研究としてより複合的かつ多層的に検討していきたい。
著者
神林 崇
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

(1)各年代と性別におけるオレキシン(ox)値の推移では、男性157名と女性115名で計272名の人の検体を測定した。年齢分布は生後2週間から79歳である。男性と女性の間で有意な差は認めず、また世代間での有意差も認めなかった。ナルコレプシーの5人の患者(6-68歳)は全例で測定限界(40pg/ml)以下であった。0歳児が12人含まれていたが、成人と同様の値であった。様々な疾患の検体の中でも、ギランバレー症候群(GBS)を除けばナルコレプシーでのみOXが低下していることは非常に特微的なことであった(Kanbayashi(a)2002)。OXの減少がいつ起こるのか興味が持たれるところであるが、6才と8才でナルコレプシーを発症し、OX低値であった2例と(Kanbayashi(b)2002,Tukamoto2002)、7才と10才で過眠出現後の反復睡眠脳波検査で入眠時のレム睡眠が出現する以前に(-例は脱力発作も出現する前)既にOXが低値の2症例を経験し報告した(Kubota2003)。また小児におけるOX検査の有用性を確かめるために、100例以上の小児疾患でのOX値を測定し、疾患特異性を検討し報告した(Arii2003)。ナルコレプシーの発症のピークは14才であるので、早期発見/治療開始のためには重要な報告と考える。(2)自己免疫性神経疾患におけるOX値の研究では、17人の患者から脳脊髄液の提供を受けた。GBSが10人、多発性硬化症が7名である。対照患者群として、計30名の患者を選んだ。脳脊髄液中のOX値は対照患者とこれまでに報告されている健常人(280pg/m)では差が無く、多発性硬化症の患者も対照患者と差がなかった。一方GBSの患者では対照患者と比べて有意にOX値が低下していた(p<0.01)。しかしながら測定値の分布は大きく、正常値の患者もみられた。200pg/mlで区分するとGBSの患者では10名中4人が200pg/ml以下であり、一方、対象患者と多発性硬化症の患者では37名中の1名のみが200pg/ml以下であった(Kanbayashi(c)2002)。現在も検体を集めており、GBSが計23検体まで増えているが、4名がナルコレプシーと同様に測定限界以下であった。Fisher症候群とCIDPもあわせて検討中である。低値の症例は重症例が多いことと、症状の改善と共にOX値も正常化することが判明している。2例では過眠の度合いを調べる検査も行い、入眠潜時の短縮を認めた(Nishino2002)。自己免疫疾患であるGBSにて髄液中のOX値の一時的な低下の機序を明らかにすることを通じて、ナルコレプシーでの永続的な脱落の原因解明の一助になると考えている。
著者
保井 晃
出版者
公益財団法人高輝度光科学研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

固体内部の電子状態解析が可能な硬X線光電子分光(HAXPES)を外部磁場印加条件下で測定可能にするための計測技術開発を行った。従来、磁場影響下での光電子分光は、光電子の放出角度が大きく曲げられ計測自体が困難であることから積極的に実施されてこなかった。光電子が高エネルギーであり、外場に強いHAXPESの利点を生かすとともに、試料からの漏洩磁場を磁気回路で低減させることで、永久磁石による0.4 Tの磁場印加下において磁性多層膜のHAXPES測定に成功した。
著者
徳永 彩未
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

自己免疫疾患は近年増加傾向にあり、環境化学物質への曝露の素因がある先進工業国で自己免疫疾患の有病率が高いことから、環境化学物質がその原因の一つとして指摘されている。自己免疫疾患には、Treg(自己免疫を抑制)やTh17(自己免疫を誘導)が中心的な役割を果たしており、各T細胞間の恒常性の破綻が自己免疫疾患の原因であると考えられている。最近、ダイオキシン受容体(AhR)がTregとTh17の分化のレギュレーターであることが示されたが、未だ自己免疫疾患発症の個人差を説明する因子の特定には至っておらず、疾患発症機構についてはほとんど分かっていない。そこで本研究では、ダイオキシン類による免疫系への機構的関与及び自己免疫疾患の感受性規定因子の解明を目的とし、世界で唯一の、多様な自己免疫疾患を発症し、環境化学物質に対する多様な感受性差が認められるモデルマウス(MRL/1pr・C3H/1pr・MXH/1pr系統)を対象に、TCDD曝露に対するTh17/Treg分化能の系統差を比較検証した。実験系の確立後、まずTCDD曝露後のTh17/Treg分化バランスを検証した所、TCDDの推定される現実的な曝露濃度範囲において、自己免疫現象-特に血管炎を発症するMRL/1pr,MXH6/1prおよびMXH53/1prマウスでは、Th17/Treg分化バランスが崩れ上昇傾向を示すのに対し、発症しないC3H/1prおよびMXH54/1prマウスでは分化バランスが保持されることが初めて判明した。このことは、自己免疫疾患を発症し易い遺伝的背景をもつ個体では、環境因子によりさらにその発症度や重症度が悪化することを示唆している。さらに、自己免疫疾患の感受性規定因子の解明を最終目標に、近交系マウスの系統数を増やし、ダイオキシン暴露後のTregの誘導が、自己免疫現象の発現もしくはダイオキシンに対する感受性のいずれに依存しているのかを追求した所、必ずしも前者に依存するのではなく、後者に依存することが初めて明らかとなった。
著者
新井 康友
出版者
中部学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

東海地区にあるすべての地域包括支援センターを対象に、高齢者の孤 立死事例の実態調査を行った。その結果、大都市に限らず、小都市でも孤立死が発現していた。 また、一人暮らし世帯に限らず、同居世帯でも孤立死した事例があった。孤立死問題の本質は、社会的孤立した果てに死亡した「社会的孤立死」が問題なのである。孤立死を予防するための 活動としては、NPO法人や生活協同組合が行う活動が高齢者の孤立の予防の役割を果たして いた。
著者
山本 英弘
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では、社会運動や市民活動の変容過程を数量的に捉えることによって、変動期における政治社会と市民社会の接点と、それを媒介する市民社会組織の機能について探究した。社会運動のイベント分析では、2002~08年の7年間で、イベント数に明確なトレンドを確認することができなかった。また、一連の分析から、社会運動や市民活動への制度的な参入回路が開かれつつある一方で、政治体外に訴えかけるアウトサイド戦術も行われていることが明らかとなった。
著者
山本 英弘
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

日本ではなぜ社会運動への参加が低調なのかという課題を設定した。そして、日本、韓国、ドイツにおける質問紙調査に基づき、一般の人々の社会運動に対する態度と運動への参加許容度との関連について国際比較分析を行った。一連の研究から、日本では韓国やドイツと比べて抗議活動に対して肯定的な態度を持つ人々が少なく、そのことが参加を許容する人々の少なさにつながっていること、日本では運動が世論を代表するほど参加が許容されないというパラドキシカルな関係がみられることなどが明らかとなった。
著者
辛 賢
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度(平成十九年度)では、六朝玄学において盛んに論争された、いわば「言不尽意」論につき、とりわけ王弼の「言-象-意」の論理階梯における「象」の意味と機能について考察を行った。王弼は著述『周易略例』のなかで、「意を尽くすは象に若く莫く、象を尽くすは言に若く莫し」(「明象」)といい、「言」より「意」の獲得の論理階梯(言→象→意)として「象」の介入を認めている。ここの「象」とはほかならぬ『易』の卦象と解釈することができるが、そもそも「象」または「卦象」とは、認識論においてどのような意味をもち、機能しているものなのか、という問題がある。そこで、易伝が成立するに至るまでの、先秦から前漢における関連資料を調査し、「象」の宗教的(呪術的)、または哲学的意味について考察を行った。考察の結果、「象」は神霊の働きをもたらすために用いる模型(たとえば雨乞いの土龍など)の呪術的機能に近く、易の「卦」も、自然万物の法則性を象った一種の「模型」的性質をもっており、「象」の本来的意味はこうした呪術的意味から展開したものであることを明らかにした。さらに「象」は戦国末頃になると、とりわけ道家系思想の存在論的変化(「道」の形而下化)につれ、根源者を認識・把握する媒介(兆象)として用いられることになる、ということも併せて指摘した。これらの考察内容については、論文として執筆した(下記の研究発表参照)。
著者
鹿島 美里
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

山東京伝の有力な後援者の一人であった松前藩主松前道広の弟、松前文京(俳号泰郷)の俳諧活動を調査・分析し、その俳諧活動を明らかにした。文京(俳号泰郷)は江戸座俳諧宗匠存義を師とし、弟の松前武広(俳号李井)とともに、大名子弟の俳人柳沢米翁・本多清秋・松平雪川・酒井抱一らと俳諧交友を行っていたことを解明した。これによって文京の江戸座俳諧活動が明らかとなり、山東京伝の係わった江戸文化圏の一端を解明することができた。
著者
竹内 亮
出版者
奈良大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、長門国に置かれた古代日本の官営銭貨鋳造組織である鋳銭司を主たる研究対象とし、その実態や他の生産組織との比較を文献史学と考古学の双方の視点から研究することにより、古代日本における官営工房の運営システムの解明を目指した。その結果、長門鋳銭司では他の古代官営工房(飛鳥池工房、長登銅山)と同様の工人管理システムが採用されており、このシステムが古代日本の官営工房で一般的であったことが明らかになった。
著者
杉浦 真由美
出版者
奈良女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

iPS細胞の臨床応用のために必須である「iPS細胞の質の評価」を分子レベルで可能にするため、細胞株間の質、特に分化多能性と関連する分子的特徴を解析した。ヒストン修飾に注目して分化能の程度が異なる細胞株間の比較や薬剤処理による多能性回復過程における解析を行い、活性型ヒストン修飾がiPS細胞の多能性の程度と関連し得ることを示した。さらにヒストン修飾関連因子のうちc-Mycと特定のHDACが標的ヒストン修飾や細胞の分化状態に影響を与える可能性を示した。これらの相関はES細胞ではみられなかった。また、複数のiPS細胞のゲノムを詳細に解析し分化能の違いはゲノム安定性の差によるものではないことを確認した。