著者
瀬谷 貴之
出版者
神奈川県立金沢文庫
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現在の奈良地方(南都)で古代以来行われた、利益や奇跡をもたらす仏像である霊験仏への信仰が、その模刻などを通して全国各地へ広まりヽ日本彫刻史に大きな影響を与えていることを明らかにした。また特に鎌倉時代初期に活躍したヽ我が国で最も著名な仏師でもある運慶の造像活動が、実はこの南都を中心とした霊験仏信仰とも密接に関わっていることも明らかにした。研究成果の一部は、神奈川県立金沢文庫の展覧会においても広く一般に公開することが出来た。
著者
今井 哲司
出版者
星薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

がん疼痛成分の多くを占める神経障害性疼痛については、非ステロイド性抗炎症薬のみならず、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬も効きにくい場合が多く、その治療に難渋することが臨床上非常に深刻な問題となっている。これまでに研究代表者らは、慢性炎症性疼痛動物モデルにおいて麻酔下でfunctional MRI(fMRI)法に従い画像解析を行い、脳内疼痛関連部位の活性化が引き起こされることを明らかにしている。そこで本研究では、fMRIを用いて、脳内の神経活動の変化を指標に"痛みを可視化"し、それらの手法を基軸として薬効スクリーニングを行った。まず、我々は坐骨神経結紮による神経障害性癖痛における脳内疼痛関連領域の神経活性化について、fMRIのblood oxygenation level dependent (BOLD)シグナルを指標に評価を行った。その結果、神経障害性疼痛下では、疼痛シグナルの脳内中継核である視床や痛みの認知などに重要である前帯状回(CG)および一次体性感覚野(S1)領域での著明な神経活動の亢進が認められた。このような条件下、抗てんかん薬および帯状疱疹後神経痛治療薬であるガバペンチンあるいは抗てんかん薬、躁うつ病治療薬および三叉神経痛治療薬として使用されるカルバマゼピンについて、fMRI法に準じ、同様の検討を行った。その結果、神経障害性痔痛を有意に抑制する用量の両薬物を前処置した群においては、坐骨神経結紮による神経障害性疼痛における脳内疼痛関連領域の神経活性化は完全に抑制された。以上本研究より、fMRI法を用いて、神経障害性疼痛の発症ならびにその維持に関連する脳部位を特定し"痛みを可視化"することに成功した。また、神経障害性疼痛の治療において、ガバペンチンおよびカルバマゼピンが有効な薬物であることが明らかとなった。本研究のように、"痛みの可視化"を基軸とした薬効スクリーニングは、疼痛治療における優れた薬物選択アルゴリズムを確立するうえで有用であると考えられる。
著者
友安 洋子
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsとアクチバトールの治療効果に関連がある否かを検討するために、成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsの解析を行うことである。本研究では、顎整形機能的矯正装置の効果と成長ホルモン受容体遺伝子のSNPsとの関連について統計学的な関連は見出されなかった。
著者
福田 宏
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1年目となる19年度においては,オーストリアとチェコにおけるオリエンタリズムの比較を行った。その素材として着目したのが,戦間期にヨーロッパ運動の担い手として活躍したチェコ地域出身の貴族,リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーとカール・アントン・ロアンの2人である。両者はヨーロッパ統合史のなかで重要な意義を持つ人物であるが,私は,彼らのヨーロッパ意識とその裏返しとしてのオリエント意識に注目し,オーストリアとチェコにおける「非ヨーロッパ」への眼差しを抽出する作業を行った。この点に関しては,東欧史研究会などで口頭報告を行い,既に論文を投稿しているが,今年度中に公にするには至らなかった。本報告書で挙げた2つの業績は,この作業の副産物と言えるものであるが,メインの成果ではない。今年度の反省点である。なお,私は19年2月より在スロヴァキア大使館の専門調査員に採用されたため,本研究は18年度で終了し,19年度と20年度については廃止せざるを得なくなった。私が若手研究(B)を途中でキャンセルするのはこれが2回目である。前回(課題番号14720059,H14〜16)の場合は,北海道大学法学部助手の任期が途中で切れたため,今回については,同大学スラブ研究センター助手の任期が18年度で切れたため,である。今回については,同機関で無給のポストを得,科研を継続できる見込みはあったが,生活が成り立たなくてはそもそも研究はできない。痛恨の極みである。無給のポストでも科研費を得られるという現在の制度については,多くの若手研究者が高く評価しているが,アルバイトなどで生活の糧を得ながら研究を遂行するには多くの困難が伴うのも事実である。今後は,科研費の「中断」などを可能にするなど,一層の柔軟な運用をお願いする次第である。
著者
坂本 多穂
出版者
福島県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

高コレステロール血症治療薬スタチンは横紋筋融解症や筋力低下などの筋毒性をもつが、その発症機序は不明である。低分子量G蛋白質Rabは、脂質ゲラニルゲラニルピロ燐酸(GGPP)を介してオルガネラ膜に結合し、小胞輸送を制御する。我々は以前、スタチンがGGPPを枯渇させ、Rabを不活性化させて筋空胞変性を起こすと報告した(Sakamoto et al.,2007EASEB J)。しかし、Rabには60以上のアイソフォームがあり、それぞれが固有の輸送経路を制御する。本研究では、スタチンがどのRabアイソフォーム、どの経路を阻害し筋毒性を起こすのか調べた。小胞体・ゴルジ輸送は全小胞輸送系の起点であり、Rab1Aが制御する。初代培養ラット骨格筋線維に1μMフルバスタチン(Flv)を4日間作用させると、Rab1Aは膜から離脱した。GGPP補充で膜への結合は回復した。GGPPは、Flvによる空胞変性と壊死も抑制した。ER-ゴルジ輸送阻害薬ブレフェルジンAはFlvによる毒性を再現した。以上より、スタチンがRab1Aを阻害し、細胞内の物流が停滞して、筋が壊死すると考えられる。さらに、スタチンによる筋収縮低下について検討した。Flv(10μM)存在下で筋線維を3日間培養するとカフェイン誘起性収縮が有意に抑制した。スタチンは、筋原線維には影響しなかったが、筋小胞体Ca^(2+)貯蔵量および筋ATP量を低下させ、これらが収縮抑制の原因と考えられた。スタチンはミトコンドリア障害を起こし、これがATP低下の原因だと思われる。GGPPはスタチンによる収縮抑制、ATP低下を抑制した。本研究より、スタチンによる筋壊死や収縮抑制が低分子量G蛋白質の不活性化が原因であることが分かった。またスタチンの毒性が、GGPP補充で軽減できることも分かった。治療への応用が期待される。
著者
鶴田 幸恵
出版者
奈良女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、性同一性障害概念の広まりが、「性の多様性」の認知といかに結びついているかを、明らかした。そのために、(1)性同一性障害のカウンセリング場面における性別規範の使用に関する分析、(2)かつては批判の対象となっていたような、完全に性別越境を行わない女から男へのトランスジェンダーの語りの分析、(3)性別の越境を明らかにしながら行う就労の受け入れ側の語りの分析、という3つの視点から接近を試みた。
著者
清水 正宏
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

生物は,細胞単位であっても自己複製,自己修復,自己組み立てといった優れた機能を発現することが知られている.そこで申請者は,生体自体が本来有する優れた特性を誘導・発現させるバイオロボットの創成を試みた.具体的には,細胞力覚(機械刺激応答)を活用して成長する筋細胞アクチュエータを開発した.ここでは,マウス由来筋芽細胞C2C12に伸展機械刺激を印可することで,筋線維への分化が促進されることを確認し,筋細胞アクチュエータを自己組織的に設計・構築することが可能となった.
著者
佐渡 忠洋
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は日本のロールシャッハ法(Rorschach's Inkblot Mehtod: RIM)の歴史、特にその輸入過程と発展過程を明らかにすることである。成果としては、1)1930年以前に導入がいくらか明確になった、2)研究論文は1959年までに273編も報告されていた、3)1930年代は精神科臨床の研究が多く、1950年代は犯罪学や人類学の研究が多かった、4)日本の研究者は11の新図版を制作してきた、5)スイスでのフィールド調査で若干の新事実が見いだされた、6)RIMはバウムテストや風景構成法とは異なる発展過程を経た、がある。今後の課題はRIM史から臨床心理学史の素描することである。
著者
堂免 隆浩
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、正当性認識に着目し、都市公共財におけるコミュニティガバナンスの成立条件を明らかにすることを目的とする。住民がコミュニティガバナンスに取り組むためには、取り組むことで得られる利益と負担するコストの差で単純に説明することが可能である。これに対し、コミュニティガバナンスに取り組む正当性は自らにあるという意識が、コミュニティガバナンスの取り組みを住民から引き出すことを確認した。そして、都市公共財を自ら所有している意識の高さ、管理のためのルールを自ら作ったという経験、そして、政府から管理運営組織として承認されているという事実が正当性認識を高めると考えられる。
著者
村上 謙
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

明治大正期以降の関西弁が「標準語」からどのような影響を受け、変容を遂げたかについて明らかにした。また、その延長線上にある近世期にまでさかのぼって、どうであったかについても検討した。それと同時に、関西を含めた全国で、当時、どのような標準語観が存在していたかについて考察した。また、近世語研究や日本語史研究における標準語史観についても考察を加えた。これらは国語意識史の解明につながるものである。
著者
今井 亜湖
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)実践事例における教育的効果の分析超鏡システムは遠隔地にある相手像に自己像を重畳表示し、遠隔地で交流する者同士は同一画像を見ながら対話を行うため、身振り、手振りなどの非言語情報や視覚位置情報を伝達しやすいという特徴に焦点を当てた教育的効果の分析を進めた。これまでに実施した超鏡システムを用いた教育実践のビデオ記録より、時間を入れたプロトコルデータを抽出し、通信回線を使用する場合に必ず生じる映像・音声遅延と超鏡システムを介した情報伝達との関係を分析することにより、超鏡システムの教育活動への利用方法とその教育的効果が明らかになってきた。本年度の見学校の実践においても同様の結果が示唆されている。(2)超鏡システムの利用に適した教育の文脈についての検証研究代表者は初等中等教育における超鏡システムの利用を中心に研究を進めてきたが、これらの実践を行う前に超鏡システムを用いて実施していた教員研修が超鏡システムの利用に適した教育の文脈ではないかとの指摘が研究発表の場でなされ、それを受けて多種の実践データの分析結果より、国際間遠隔授業を実施する際に、両校の教員による指導内容の確認や教材の交流といった教師教育につながる場面において超鏡システムの利用が適しているのではないかと示唆された。以上の研究成果は、論文としてまとめる予定である。
著者
嶌田 智
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

緑藻アオサ・アオノリ類は世界中の沿岸域で最も目立つ海藻類で、世界で約200種、日本で17種が報告されている。この仲間は体制が単純で分類形質が少なく、しかもその形質状態が生育環境で大きく変化してしまうため、現在でも分類学的な混乱が生じている。本研究では前年度に引き続き、日本各地での採集、系統分類学的な研究をすることで本類の種多様性を明らかにしようと試みた。その結果、博多湾や高知県の浦ノ内湾でグリーンタイドを引き起こしているアオサが新種であると判明し、新種記載した。また、蓄積されたDNA配列データを元に輸入アオノリや日本各地のグリーンタイド原因種の種鑑定を行った。DNA鑑定については、横浜税関での輸入アオノリ、千葉県三番瀬や愛知県三河湾のグリーンタイドを引き起こしている原因種のDNA鑑定などの依頼を受けた。またスジアオノリは四国・四万十川の高級アオノリとして知られるように低塩分環境の河川においても生育している。このような河川アオノリはこれまで四国でのみ報告されていたが、本研究で北海道、島根(中海)、種子島、沖縄本島、石垣島の河川でも発見でき、河川アオノリは広範囲に分布すると考えられた。これら河川アオノリの種多様性解析を行ったところ、少なくとも4種の存在が確認できた。そのうちの1種、海産ウスバアオノリと同種と考えられた河川アオノリに注目し、さらにその分布域拡大の方向性、環境適応の回数・起源の解明のため分子生物地理学的解析を行った。その結果、河川アオノリと海産ウスバアオノリには遺伝的に大きなギャップが生じており、河川に適応できたのは進化の歴史上たった1回であることが示唆された。
著者
小須田 雅
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は,q=1の場合のParty代数の既約表現の行列表示に関する論文をまとめて外国雑誌に投稿した。昨年以来試みてきたq変型については,共役関係,すなわち「対称群の生成元に対応する生成元で挟んだ場合に,『共役』な関係式が得られる」という性質を満たすものを構成することは出来なかったので,制限付きのParty代数(これらは複素鏡映群のテンソル積表現の中心可環に対応する)の既約表現の構成について考えた。こちらについては,スウェーデンで行われた「形式的巾級数と代数的組み合わせ論の研究集会(FPSAC03)」で,A.Ram氏と討論する予定であったが,Ram氏が欠席したため,思うような成果は得られなかった。Ram氏は複素鏡映群のテンソル積表現の中心可環の特別なタイプである,Partition代数と呼ばれる代数の既約表現の構成について講演する予定であったため,今後の研究についての重要な指針が得られる筈であった。しかしながら,同研究集会に出席していたP.Terwilliger氏との討論を通じて, Party代数の指標表の作成に関する研究について,いくつかのアイデアを得ることが出来た。また,Terwilliger氏はRam氏と同じ大学に所属しており,分野も近いことから,氏の研究についての情報も得ることが出来た。その後,制限付きのParty代数の既約表現の構成について自分なりに良いアイデアが得られたが,論文としてまとめるにはもう少しの進展が必要である。予定していたRam氏との討論が実現しなかったため,期間内に当初の研究計画すべてが実現できたわけではないが,予想された範囲内の進ちょくと言える。今後は「制限付きのParty代数の既約表現の構成」についての論文を仕上げ,Terwslliger, Ramの両氏と討論することで,新しい研究の方向を見極めたい。
著者
金丸 敏幸
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,英語スピーキングの自動評価を行うための評価指標の作成,および評価目的に応じた適切な評価指標の重みづけを目的とし,英語スピーキングにおける評価指標の整理,評価目的に応じた自動評価用の評価指標の設定,英語スピーキング試験のスコア別サンプルと自動評価用指標でのスコアづけ,評価目的に応じたスコア付けを出力するための各指標の重みづけの調整,を行う.計画初年度は,英語スピーキングの自動評価に向けた評価付きデータの作成に向けて,関連研究の収集およびデータ抽出を行い,外国語学習に関する評価と指標についての整理を行った.また,整理した結果に基づいた研究発表とシンポジウムでのパネリストとしての発表を行った.具体的には,これまで行われてきたスピーキング指導と評価に関する論文を収集し,それらの研究で使用されている評価の記述を抜き出し,項目,観点,レベル,評価の粒度といった分類軸ごとに整理を行った.これにより,現状のスピーキングにおける評価の特徴が明らかとなり,今後の発話データへの評価を行う下地を整えることができた.本年度の研究により,現在,大きな注目を集めている人工知能や機械学習によるスピーキング指導やスピーキングの自動評価についての動向を整理し,今後の展望を中心とした研究発表を行った.外国語教育メディア学会などでのシンポジウムや研究発表を通じて,自動評価や言語処理に関する意見交換や情報収集を積極的に行い,今後の研究活動の発展に向けた取り組みを進めることができた.さらに次年度の研究に必要となるデータ収集の計画を立案し,資料や環境の整備を行った.これにより,今後の研究をより円滑に実施できるものと見込んでいる.
著者
長谷川 一年
出版者
同志社大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

二年間の「近現代フランスにおけるレイシズムの思想史的研究」を通じて、以下のことが明らかになった。旧来型の「同化志向」のレイシズム(植民地主義を帰結する)に代わって、今日の新しいレイシズムは「差異志向」であり、「差異への配慮」を偽装しつつ、実際には排外主義(具体的には移民排斥)を帰結している。その思考様式の原型はすでに19世紀フランスのレイシズムに見られ、ある意味で20世紀フランスはそのロジックを再現していると言うことができる。
著者
廣岡 孝志
出版者
北陸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

メチル水銀中毒(水俣病)の脳傷害の局在性は,脳浮腫形成とそれによる二次的な循環障害に起因するとされる。しかしながら,メチル水銀による脳浮腫形成の分子機構は不明であった。申請者は,メチル水銀が,脳微小血管を構成する内皮および周皮細胞に対して特徴的な毒性を発現することを明らかにした。この結果は,メチル水銀が脳微小血管構成細胞の機能障害を介して脳浮腫を発生させる可能性を示すものである。
著者
伊吹 裕子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

多環芳香族炭化水素(benzo[a]pyrene(BaP))と紫外線(UVA)の免疫機能への複合的影響を検討するにあたり、まず培養細胞(ヒト正常皮膚細胞、ヒト白血病細胞)さらに、DNA修復に関与する分子Ku80の欠損株(CHO-K1,xrs-5)を用いてin vitroにおけるその影響を検討した。BaP、UVA単独では影響が認められないが、それら2つを複合作用させると非常に強い毒性が認められた。xrs-5細胞ではCHO細胞に比べ有意な毒性の亢進が認められたことから、BaP, UVAの複合作用によりDNA二本鎖切断がおこっていることが示された。また、発がんの代表的な指標とされる酸化DNA、8-oxo-dGの産生が有意に上昇していた。これらの結果は、BaPとUVAの複合的影響による細胞毒性上昇から免疫能低下の可能性を示唆するばかりでなく、DNA損傷からの皮膚発がんの誘発を示唆するものであった。そこで、マウスを用いたin vivo実験を行った。マウス背中皮膚にBaPを塗布後、さらにUVAを照射し、その後の免疫能の変化をDNFBを抗原とする遅延型過敏症contact hypersensitivity (CHS)の誘導能を指標に検討した。BaP、UVA単独ではCHSの誘導能は変化無かったが、複合処理では明らかなCHSの低下を示した。その低下は、照射側および照射側とは逆の腹側にDNFBを塗布した場合両方とも引き起こされた。さらに、DNFBを接触させる時間をBaP, UVA処理後1,3,5日間と変化させると、1日後よりも3,5日後の方が強いCHS誘導の低下を示した。しかしながら、BaPとUVAの処理回数を複数回に増やしても、CHSの誘導能の低下の度合いは変化しなかった。以上の結果は、BaPはUVAと複合的に働くことにより強い免疫低下を誘導すること、その低下は局所にとどまらず、全身性の低下をも引きおこすことが判明した。また、影響は少なくとも照射後5日間は継続することが示された。
著者
瀧本 知加
出版者
東海大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、当初予定していた「専門学校化」言説に関する資料収集を一通り終わらせたうえで、専門職大学に関する検討を通して、大衆化した大学と専門学校化の関係性を検証する作業を行なった。専門職大学に関しては、本科研の助成期間内である平成28年度に提出された中教審答申「人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」の中で、新たな大学として、制度化が提起され、学校教育法が改正されることとなった。専門職大学は既存の専門学校の教育を大学に格上げする形で設計された大学であり、その制度化の議論においては、大学における職業教育と専門学校における職業教育の関係について詳細な議論が行われている。この議論は本科研の課題ともかかわる重要なものであるため当初の作業に加えて、これら専門職大学をめぐる議論の検討を試みることとなった。本年度はそれらの作業をまとめた論文を執筆することができた。専門職大学をめぐる議論からは、大衆的な大学に求められることとなっている職業教育機関としての役割が、実際には多くの大学の中に様々な形で取り込まれており、専門学校との境界線がすでに曖昧となっていることが明らかとなっている。専門職大学は専門学校が大学化したものとして整理できるものであるが、その制度設計は「大学との差異化」を目指しており、本科研が解明を目指す「大学とは何か」という問いの解明の手がかりとなるものである。以上のように、当初の研究予定に加える形で、専門職代が区の検討を行なっているところであるが、補充的な情報を得ることができており、本科研の最終段階である「教育機関としての専門学校と大学の関係の再定位」に向けた資料の収集と検討は順調に進んでいるといえる。
著者
五十畑 浩平
出版者
名城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、フランスの長い職業教育の歴史のなかで発達してきた、理論的教育と企業での職場実践を組み合わせた「フランス型デュアルシステム」に関し、近年普及が高まってきた高等教育におけるそれに対象を絞り、どのような歴史的発展を遂げてきたのか、あるいは、実際どのような教育がなされているのか、また、どのような教育上の効果や問題点があるのかを解明していくことにある。課題であるフランスの高等教育における職業教育の実態、とくに高等教育におけるデュアルシステム(formation en alternance:交互制職業教育制度)の実態究明にあたり、本年度も昨年度同様、フランスの教育制度や、職業教育制度の歴史と現状についてのサーヴェイを引き続き行って来た。また、フランスの労使関係について、近年の動向を調べ、2018年3月331日、社会政策学会東海部会において、「フランスにおける労働市場改革の動向」と題しその成果を報告した。また、本研究課題の中心テーマであるフランスの交互制職業教育制度については、その教育制度のひとつであるcontrat d'apprentissage(見習契約)に着目し、引き続き、この制度を中心とした過去の統計データや資料を収集してきた。今後は、こうした日本でのサーヴェイを踏まえ、フランスでの現地調査を行い、フランスにおける労働市場改革の動向の実態に迫っていきたい。
著者
小島 佐恵子
出版者
玉川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は現状のまとめとして、第29回アメリカ教育学会で発表を行った。発表は、米国の大学における州財政困難が州立大学にどのような影響を及ぼしているのか、なかでも学生支援部門への影響はどのようになっているか、The Chronicle of Higher EducationやInside Higher Edなどの各種高等教育関連のウェブサイト他、日本学術振興会の海外学術動向ポータルサイトに掲載された内容、また個別大学が公表している情報を収拾し、まとめることで、事例調査選定に役立てることを目的とした。結論としては、州財政の高等教育への支出は回復傾向を見せているが、リーマン・ショック以前のレベルには戻っていないこと、州財政が逼迫しているところではもちろん、そのレベルに限らず、複数の大学で学生支援のポストが削減・統合されていることが明らかとなった。州立大学に留まらず、連邦政府や州からの経常補助がないとされる私立大学においても、同様の傾向が見られた。一方で、アカデミック・アドバイジングが維持されている傾向や、学生支援への支出を増加することで学生の卒業率を上げることができているという傾向も見られた。また、とくにコミュニティ・カレッジにおいては連邦政府も学生支援に資金を拠出している例も見られた。そのため、全体的に削減傾向にはあるものの、部分的には維持・補填されているところもあり、とくに教学に近い部分では維持・補填されている傾向があるのではないかということが推察された。