著者
藤谷 幹浩 高後 裕
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.11, pp.1900-1908, 2013 (Released:2013-11-05)
参考文献数
48

潰瘍性大腸炎では臨床所見を指標として活動性が評価される.しかし,臨床症状が改善しても,内視鏡的,組織学的に炎症が残存している例が多く,このような例では長期の寛解が得られない.そこで,粘膜に炎症所見が認められない状態,いわゆる粘膜治癒を治療エンドポイントとすることが提唱されている.これまでの研究から,粘膜治癒症例では,長期の寛解が維持され,腸管切除の頻度も低いことが明らかにされた.しかし現状では,粘膜治癒の定義や判定時期が明確ではなく,粘膜治癒が得られない例への対応も確立されていない.今後,粘膜治癒の定義を統一し,治療法別に経時的な粘膜治癒達成率を明らかにしていくと同時に,粘膜治癒が得られない例に対する新規治療法の開発が期待される.
著者
李 天成 武田 直和
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.195-200, 2009 (Released:2009-02-05)
参考文献数
13

E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスで,エンベロープを持たない小型球形RNAウイルスである.少なくとも4つの異なる遺伝子型が存在するが,血清型は同一である.日本におけるHEVは主に輸入感染,動物由来感染,輸血感染という3つのルートで伝播する.E型肝炎の診断にはRT-PCR法とELISA法があり,確実な診断が可能になっている.HEVの感染をコントロールするにはワクチンの開発が必須である.現在,DNAワクチンあるいは組換え蛋白ワクチン開発の研究が進んでいるがまだ実用化されていない.
著者
中島 淳 冬木 晶子 大久保 秀則
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.113, no.10, pp.1704-1710, 2016-10-05 (Released:2016-10-05)
参考文献数
2

機能性消化管疾患の画像検査では,静止画による間接的所見による画像検査と動画による直接所見による画像検査の2つのアプローチがある.間接的画像検査でCT検査は非常に有用であり,消化管の拡張所見の有無に加え,消化管内容物の鑑別ができるという点で有用な情報を提供してくれる.Gastroparesisや慢性偽性腸閉塞症,巨大結腸症などは上記2点に関して特徴的静止画像を呈するが,実際の消化管運動異常をみているわけではない点に注意を要する.小腸運動に関しては,シネMRIは小腸の運動を直接観察することができる非侵襲的画像検査として非常に有用であり,今後のさらなる改良が期待される.
著者
小南 陽子 相方 浩 平松 憲 田中 未央 苗代 典昭 中原 隆志 本田 洋士 長沖 祐子 村上 英介 宮木 大輔 三木 大樹 河岡 友和 高木 慎太郎 平賀 伸彦 柘植 雅貴 芹川 正浩 今村 道雄 兵庫 秀幸 川上 由育 高橋 祥一 佐々木 民人 茶山 一彰
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.3, pp.456-464, 2013 (Released:2013-03-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1

症例は61歳男性.毎年,検診にて40mm大の肝嚢胞を指摘されていたが,2011年の腹部超音波検査にて肝嚢胞の増大を指摘.造影CT検査などの各種検査を行ったが確定診断に至らず,嚢胞周囲の軽微な胆管拡張の精査目的にてERCPを施行.その際の胆汁細胞診にて多量の肝吸虫卵を認め,肝吸虫症と診断.プラジカンテルの内服により肝嚢胞の縮小と血中肝吸虫抗体価の陰性化が得られ,肝吸虫の駆虫が確認された.
著者
川野 紀子 田代 充生 田口 雅史 木原 康之 芳川 一郎 宿輪 和孝 山崎 雅弘 久米 恵一郎 大槻 眞
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.11, pp.1627-1633, 2008 (Released:2008-11-05)
参考文献数
19

症例は73歳男性.排便時の肛門部痛を主訴に来院した.直腸Rb部に直径4cm大の一部黒色を呈する隆起性病変を認め,肝転移をともない,直腸肛門部悪性黒色腫(Stage IV)と診断された.dacarbazine,nimustine,cisplatin,tamoxifenによる多剤併用化学療法(DAC-Tam療法)に加えinterferon-βの局所投与を施行したところ,1コース終了時には疼痛の消失と原発巣の縮小,肝転移の消失を認めた.計6コース施行後に,直腸腫瘍からの出血コントロールに対する放射線治療を併用した.化学療法を合計8コース施行し,初回治療開始後24カ月経過した現在も生存中である.
著者
八尾 隆史 村上 敬
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.4, pp.669-675, 2015-04-05 (Released:2015-04-05)
参考文献数
28

現在,大腸鋸歯状病変は過形成ポリープ(HP),鋸歯状腺腫(TSA),sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)に分類されている.TSAは明らかな腫瘍性異型を示す病変であるが,HPとSSA/Pは明らかな腫瘍とは判定できない病変である.SSA/PはHPと同様の細胞から構成されるが,HPではみられない不整な構造と不規則な核腫大をともなう.それぞれの診断基準は一応確立されているが,これらの中間的病変や種々の鋸歯状成分が混在した病変の本質の解明と臨床的に意義のある分類の確立が,今後の課題である.
著者
浅野 光一 梅野 淳嗣 松本 主之
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.1967-1976, 2011 (Released:2011-12-05)
参考文献数
64

近年,ゲノムワイド関連研究をはじめとしたゲノム研究はめざましい進歩を遂げている.炎症性腸疾患(IBD)の領域においても,現在までに約100の関連遺伝子領域が同定され,その結果disease pathwayを想定することが可能となった.しかしながら,IBDの遺伝的要因に未解明の点が多いこと,人種差や環境の差異により疾患関連遺伝子の影響度も異なることなども明らかになってきた.これらを解明するため,同定されたIBD関連遺伝子領域のさらなる詳細な解析に加え,まれな遺伝子多型やコピー数多型の解析,さらに腸内細菌叢などの環境要因と遺伝子との間の相互作用など,さまざまな遺伝的要因に関する研究が続けられている.
著者
中島 美智子
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.2216-2223, 1983 (Released:2007-12-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1

臨床像並びに肝生検で診断された肝疾患患者183例(アルコール性肝疾患41例, ウイルス性肝疾患104例, 薬剤性肝疾患28例, 対照10例) につき, 肝組織内γ-glutamyl transpeptidase (γ-GTP) を測定し同時採取した血清γ-GTP値との関連をみた. 各疾患いずれも肝組織内γ-GTP活性は血清γ-GTPに反映し, 特にアルコール性肝疾患, 薬剤性胆汁うつ滞型肝疾患においては肝組織内並びに血清γ-GTPの上昇が顕著であつた. 各疾患に共通して肝組織内γ-GTPの増加, 減少はそれぞれ肝細胞の水腫様腫大, 好酸性壊死を反映した. 血清γ-GTPの上昇はアルコール, 薬剤に伴う酵素誘導と肝細胞の変性, 壊死に伴うγ-GTPの逸脱が強く関与していることを示唆した.
著者
赤澤 陽一 上山 浩也 永原 章仁 中川 裕太 松本 紘平 稲見 義宏 松本 健史 今 一義 八尾 隆史 渡辺 純夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.10, pp.1968-1975, 2014-10-05 (Released:2014-10-05)
参考文献数
22

66歳女性.上部消化管内視鏡で体上部後壁に17 mm大の胃粘膜下腫瘍(SMT)を認め,PET-CTで体下部大弯に別病変として30 mm大のFDGの集積を認めた.CT gastrography(CTG)では上記検査で指摘し得なかった8 mm大のSMTをさらに診断できた.病理組織診断ではGIST,神経鞘腫,壊死組織とそれぞれ異なる組織像であった.CTGが胃SMT診断に有用であった貴重な症例であったため報告する.
著者
真武 弘明 内藤 説也 小河原 悟 飯田 三雄 松井 敏幸 岡部 信郎 山本 勉 藤田 晃一 岡田 光男 八尾 恒良
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.1448-1454, 1989 (Released:2007-12-26)
参考文献数
42

日本人 Crohn 病患者108例のHLA-A, -B, -C, -DRおよびDQの検索を行ない, 日本人 Crohn 病とHLAとの関連性について検討した. 日本人 Crohn 病患者ではDR4が有意に高率であり, そのsubtype であるDR4.1の出現頻度が有意に高率であつた. B51, Bw54, DRw12, DRw13, DRw52は対照群に比べ出現頻度が高い傾向を示したが, 有意差は認めなかつた. DR2, DQw1, DQw3は有意に低率であり, B7は低い傾向を示した. 日本人 Crohn 病患者においては, DR4特にDR4.1, またはそれに連鎖している部位に疾患感受性遺伝子があることを推測した.
著者
杉原 健一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.28-36, 1984 (Released:2007-12-26)
参考文献数
31

本邦では右側大腸憩室症が高頻度に認められるが, その成因は不明である. 著者は右側大腸憩室症の発生病態を解明する目的にて, 右側大腸憩室症患者13例と正常者10例の上行結腸に大腸内視鏡を用いて Mikro-Tip 圧力トランスデューサーを留置し, 腸管内圧を測定した. 安静時, 右側大腸憩室症群の運動指数は正常群よりも高い値を示した. Neostigmine 静注後, 両群ともにおいて高圧の波が多数出現したが, 特に憩室症群では正常群に比べよい高圧の波がより高頻度に出現し, 憩室症群の運動指数は正常群より有意に高い値であつた. また, 憩室症群のうち有症状群と無症状群の間には腸運動に差を認めなかつたが, 憩室症の無症状群の運動指数は安静時, neostigmine 刺激後のいずれにおいても正常群より有意に高値であつた. さらに, このような腸管内圧を上昇させる圧力波は segmental contractiom により発生した波であつた. これらの観察結果から, 上行結腸における腸管内圧の上昇および腸運動異常が右側大腸憩室症の発生に重要な役割を演じていると考えられる.
著者
間部 克裕 加藤 元嗣 坂本 直哉 浅香 正博
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.218-224, 2013 (Released:2013-02-05)
参考文献数
26

ペプシノゲン(PG)は,胃底腺で産生されるPG Iと胃全体から産生されるPG IIからなり,約1%が血液中に漏出する.血清PGは胃粘膜の萎縮と相関し,PG I 70ng/ml以下かつPG I/II比3以下がPG法における胃がん高リスクである.胃がんの原因がH. pylori感染であることが明らかになり,PGに血清H. pylori抗体を組み合わせるABC分類が提唱され,胃がんリスク分類が可能となった.H. pylori除菌治療によりリスク例もA群に誤分類されてしまうことが課題である.Cut off値の見直しや除菌後PGなど,除菌治療後のPGについて検討がされている.
著者
仲瀬 裕志
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.11, pp.1916-1921, 2013 (Released:2013-11-05)
参考文献数
20

本邦における潰瘍性大腸炎の増加にともない,難治例に対して免疫抑制剤を使用する頻度が増加している.カルシニューリン阻害剤であるタクロリムスは,難治性および重症潰瘍性大腸炎に有効な薬剤である.日本および欧米の今までの報告から,難治例に対するタクロリムス短期治療効果は約70%と考えられる.タクロリムスや抗TNF-α製剤など,潰瘍性大腸炎治療に関するさまざまな治療オプションが増加する中で,われわれはタクロリムスの位置付けを明らかにしていく必要がある.加えて,個々の患者にとってどの治療法が適切であるのかを見極めることは,患者QOLに貢献しうる.これらは,消化器医師にとって今後の重要な課題である.
著者
道堯 浩二郎 恩地 森一 灘野 成人 堀池 典生 太田 康幸
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.86, no.9, pp.2210-2214, 1989 (Released:2007-12-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1

肝組織内DNAポリメラーゼα (DNA-Pα) をモノクローナル抗体を用いて検出し, 各種肝疾患の肝細胞増殖動態について検討した. 肝細胞1000個に対するDNA-Pα陽性肝細胞数は, hospital control では平均1個であつたのに対し, 急性肝炎, 慢性肝炎, 肝硬変ではいずれも平均約20個に増加していた. また, 肝細胞癌では平均約500個と著明に増加していた. 慢性活動性肝炎は慢性非活動性肝炎よりDNA-Pα陽性肝細胞が多く, piecemeal necrosis, 巣状壊死の高度な例では軽度例に比べDNA-Pα陽性細胞が多く認められた.
著者
大塚 淳司 千布 裕
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.98, no.2, pp.184-187, 2001 (Released:2008-02-26)
参考文献数
10

症例は21歳女性.98年5月,食欲不振,悪心・嘔吐出現.4日後,40°C台の発熱,過換気,意識障害出現.Reye症候群を疑い,血漿交換,ステロイド投与を行ったが,入院後第5病日死亡した.肝臓necropsyにて中心核性脂肪肝の所見を認め,Reye症候群と診断した,Reye症候群は大部分が2歳以下に発症し,成人発症はまれである.今回我々は成人Reye症候群の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.
著者
鎌田 佳宏 三善 英知 竹原 徹郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.25-34, 2014 (Released:2014-01-05)
参考文献数
42

NAFLDからNASHを鑑別診断するには肝生検が必要であるが,わが国に約1000万人いるNAFLD患者すべてに行うことは困難である.最近,非侵襲的なNASH診断法としてさまざまな血液マーカーを用いたスコアリングシステム,最新の画像診断法であるエラストグラフィーやControlled Attenuation Parameter(CAP)が用いられるようになってきた.また単一の血液マーカーとしてサイトケラチン18断片の有用性が報告されている.われわれは最近糖鎖マーカーを用いた新規NASH診断の血液バイオマーカーを発見した.これら非侵襲的診断法は肝生検に取って代わる新しいNASH診断法となることが期待される.
著者
多田 稔 高木 馨 川久保 和道 白田 龍之介 石垣 和祥 武田 剛志 藤原 弘明 梅舟 仰胤 齋藤 圭 斎藤 友隆 渡邉 健雄 秋山 大 内野 里枝 岸川 孝弘 高原 楠昊 高橋 良太 山本 恵介 濱田 毅 水野 卓 宮林 弘至 毛利 大 松原 三郎 木暮 宏史 中井 陽介 山本 夏代 佐々木 隆 笹平 直樹 平野 賢二 伊地知 秀明 立石 敬介 伊佐山 浩通 小池 和彦
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.8, pp.1474-1478, 2015-08-05 (Released:2015-08-05)
参考文献数
15

IPMN,膵嚢胞は,膵癌高危険群の中で最も効率のよい指標である.IPMNは進行が緩徐で比較的予後のよいIPMN由来浸潤癌がよく知られているが,予後不良の通常型膵癌の発生もともなう.最適な経過観察方法は定まっていないが,EUSがいずれの発癌形態にも最も感度のよい検査方法である.ただし,スクリーニングのための最適な検査方法については検討事項である.
著者
正宗 淳 濱田 晋 下瀬川 徹
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.8, pp.1464-1473, 2015-08-05 (Released:2015-08-05)
参考文献数
44

慢性膵炎が膵癌のリスクファクターであることは,疫学研究により確立されている.メタ解析によると,慢性膵炎の膵癌リスクは一般人口に比べて13.3倍,慢性膵炎の診断2年以内の膵癌症例を除いた場合でも5.8倍とされる.特に遺伝性膵炎では69倍と非常に高い.発癌メカニズムとしてK-ras変異の重要性や間質細胞との相互作用,細胞老化(senescence)回避機構の関与が明らかとなりつつある.一方,実臨床において慢性膵炎に合併した膵癌を早期発見することは容易ではない.慢性膵炎に合併した膵癌に特異的な所見はなく,断酒や禁煙などによる炎症のコントロールが,膵癌予防という点からも重要である.