著者
本村 真澄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.339-358, 2011

本稿では,帝政ロシア,ソビエト連邦,ロシア連邦における石油・天然ガスパイプラインの建設の歴史を概観し,その政治的な影響に関しても検討する.石油パイプラインでは東欧向けの「友好」パイプラインのように政治的な支配圏維持を目的としたものもあるが,1970年代のロシアから西欧向けの天然ガスパイプラインは,「緊張緩和」を前提としたもので,ソビエト連邦の崩壊を挟んで40年近く,安定的にガスを供給しており,政治的な「武器」としてではなく,むしろ地域の「安定装置」として機能してきた.今日,ロシアの石油パイプラインは太平洋に達しようとしており,天然ガスパイプラインも極東地域での配備が進んでいる.日本にとってこれはエネルギー安全保障上有利となる動きであり,これへの関与の姿勢が問われている.
著者
高橋 咲衣 内田 敬
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_1085-I_1094, 2016

視覚障碍者は,晴眼者と異なり,歩行支援ナビを利用できない.そのため,視覚障碍者は,歩行経験のない場所には晴眼者に連れて行ってもらわねばならず,日常生活で歩行し慣れている道でも,周辺施設について知れず,街歩きを楽しめない状況にある.本研究の目的は,視覚障碍者が日常生活で利用している街情報を把握し,目的地を目指すだけでなく,街歩きを楽しむという観点から,街情報を記述する際のルールを示した既往ガイドラインを改訂することである.<br>本研究では,音声ARアプリを実装したスマートフォンを用いて,視覚障碍者を対象としたフィールド実験を行い,そのヒアリング結果からガイドラインを改訂した.これにより,日常生活モビリティニーズを考慮した視覚障碍者向け歩行支援ナビの早期実用化,拡充可能性を示せた.
著者
中川 嵩章 齋藤 潮
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.5-20, 2021 (Released:2021-01-20)
参考文献数
81
被引用文献数
1

本研究は,法定都市計画以前の愛知県豊橋における,道路整備,遊廓移転,電気軌道敷設の都市整備事業について,史料収集,文献調査を行い,それらが複合的に推進された要因を明らかにした.土地の買収,貸付として利益を見込んだ豊橋市による遊廓移転は,都市整備事業に出費した費用を都市経営として賄う戦略であったと考えられる.そして,豊橋電気株式会社の役員らを発起人とする豊橋電気軌道(1次)の出願,特許にあたっては,豊橋電気株式会社が強い影響力を持っていたと考えられる.遊廓移転によって郊外の荒れ地約20,000坪を開発し,そこへ道路を開削,電気軌道を敷設する構想の背景には,豊橋電気株式会社の電気需要創出策があった可能性を指摘し,近代都市の経営という観点から官民が連携した総合的施策展開であると論じた.
著者
坂田 利力
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
no.12, pp.369-377, 1992

熊谷市は、第二次世界大戦によって市 (当時) の約74%を焼失し、一面の焼野原と化した。復興を機会に熊谷市を埼玉県北部の政治・文化・経済の中心都市とするため、壮大な将来計画を盛り込んだ計画をたて、165.7haの区域を戦災復興都市計画土地区画整理事業として着手した。<BR>しかし、その後の政治・経済情勢の変化、他事業との調整の結果、一部区域を除外し、なお、区域を三工区に分割し、第一工区約144.4ha、第二工区約12.5ha、第三工区約5haについて事業を施行した。<BR>事業着手以来、街路の整備、街区の整備、公園の整備、下水道整備を進め今日の埼玉県の中核都市である熊谷市の発展に大きく貢献して来た。<BR>この事業は、昭和21年9月4日の戦災復興院の告示、9月10日の内閣認可以後、埼玉県知事施行により開始され、昭和30年4月1日熊谷市長に引き継がれ、昭和48年6月30日の換地処分完了まで実に27年間の長い事業であった。
著者
寺崎 寛章 齊田 光 藤本 明宏 山元 謙侑 鈴木 遥介 福原 輝幸
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.I_937-I_942, 2019

<p> 本研究では兵庫県北近畿豊岡自動車道路の円山川に架かる市御堂大橋を対象に,河川水熱を用いた無散水融雪(低温無散水)システムの伝熱性能を明らかにすることを目的として各観測を行った.長期観測では舗装温度,河川水温,貯水槽内水温および放熱管出入口水温を,短期観測ではそれらに加えてサーマルマッピングを行った.その結果,(1)外気温が6.7℃以下の時には本システムを導入した橋梁部舗装温度は土工部の舗装温度を上回った,(2)本システムにより,橋梁部では土工部と比較して路面凍結発生日数は約1/10になった,(3)本システムにおいて,河川水熱の約20%が路面の加温に消費されていた,(4)システム稼働期間における橋梁部の1時間当たりの温度低下は土工部よりも2倍程度遅い.</p>
著者
何 宗耀 前島 拓 白井 悠 髙田 厚 岩城 一郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集E1(舗装工学)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.I_163-I_170, 2021

<p> 本研究は,大学構内において放熱管を埋設したコンクリート舗装を作製し,熱媒体の種類,温度,および放熱管のかぶり厚さが路面温度および融雪効果に及ぼす影響について検討した.その結果,屋外に設置したタンク内の水を舗装体内に循環させることにより,夏期における路面温度上昇と冬期における路面凍結の両方を抑制し得ることを示した.また,福島県郡山市の気候においては10℃程度の水を循環させることで,放熱管のかぶりが70mmという条件においても十分な融雪効果があることを明らかとした.さらに,3次元有限要素解析により,路面温度上昇と路面凍結の抑制に有効な循環水の温度を提案した.</p>
著者
高見 淳史 室町 泰徳 原田 昇 太田 勝敏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
no.15, pp.217-226, 1998

本論文では、欧米などで見られる自動車利用削減を目的とした土地利用/交通施策の考え方を理解するため、施策の要素を抽出し、自動車利用削減との関係及びそれにまつわる議論を整理した。次にそれと関連して、自動車利用削減の観点から見た商業施設 (SC) の立地のあり方について試算を行った。その結果、SCの商圏が都市地域全体に及ぶような場合には、SCは都心近くに立地することが望ましいが、収益の点から見るとそこに立地する可能性はあまり高くないことと、SCが近隣のみを商圏とするような場合にはやや郊外側に立地することが望ましく、収益から見て、SCがその位置の近くに立地しようとすることの現実性は前者の場合に比べて高いことを示した。
著者
藤本 雄紀 今井 龍一 中村 健二 田中 成典 有馬 伸広 荒川 貴之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F3(土木情報学)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.I_259-I_267, 2017
被引用文献数
1

道路交通分析において,道路上に設置された様々な機器のデータを用いた定量的な分析に加えて,マイクロブログから道路利用者の意見を抽出する定性的な分析が行えるようになってきた.災害時での活用を念頭に置くと,道路管理者が瞬時に多種多様な投稿の中から信憑性の高い情報を確認できる必要がある.しかし,マイクロブログは誰もが自由に投稿できるため各投稿内容の信憑性が不明である.この特性は,災害時にマイクロブログを活用する際の弊害となっている.本研究では,投稿者の属性や投稿傾向の観点から,信憑性の高い記事の投稿者を特定する手法を考案し,その有用性を検証した.
著者
鍬田 泰子 山村 優
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.I_1-I_9, 2019

<p> 2018年6月18日に発生した大阪府北部の地震では,平日朝の通勤時間帯に地震が発生したため多くの通勤・通学の鉄道利用客に影響が出た.当日午後に一部の鉄道は運転を再開したが,関西の鉄道システムは運転見合わせや間引き運転により終日ダイヤが乱れた.本稿では,神戸大学の学生を対象に地震当日の行動についてアンケート調査を行い,帰宅困難の実態把握を試みた.本調査で通学中であった回答者の多くは大阪や阪神間の鉄道沿線にいた学生であり,列車に乗車していた学生の約3割は駅間停車した列車に1時間以上閉じ込められていた.徒歩帰宅の意思決定に自宅までの距離だけでなく,自宅が震源近くにあることが要因になっていることがわかった.</p>
著者
諸星 一信 難波 喬司 磯部 雅彦 大下 英治 杉浦 幸彦 木俣 順
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
no.50, pp.346-350, 2003
被引用文献数
1

津波浸水ハザードマップの作成に際して設定される諸条件には不確実なものが数多く, これらの考慮なしには有効性の高いハザードマップとはなり得ない. 本研究では, 津波浸水区域を予測する際の不確実性要素が津波浸水区域の予測に及ぼす影響度について検討した. その結果, モデル地区では, 地震断層モデル, 地盤変位, 計算格子間隔, 地盤高および潮位の条件設定が浸水予測結果に大きな影響を及ぼすことを明らかにした.また, 人命被害の最小化に資する津波ハザードマップ作成を念頭に置き, 不確実性要素の合理的な取扱い方法についても考察した.
著者
高田 知紀 藪内 佳順 佐藤 祐太
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.I_165-I_174, 2020
被引用文献数
1

<p> 本研究の目的は,神社空間を核とした防災コミュニティを形成するためのひとつの実践モデルを提示することである.そのために本研究では,和歌山市・伊達(いたて)神社において社会実験を展開した.伊達神社の位置する有功地区は,地震,津波,河川氾濫,土石流,斜面崩壊など多様な災害リスクにさらされている地域である.地域防災上の課題としては,地域住民が種々の災害リスクのポテンシャルを認識していない,地域内で実効性のある避難計画が周知されていない,古くからの集落と新興住宅街の住民が交流できていない,といった点があげられる.これらの課題を解決するために,伊達神社において,氏子やその他の地域住民と神職,絵地図アーティスト,学識経験者がワークショップとフィールドワークを繰り返し,地域内の史跡名所を巡ることでハザードエリアが把握できる「無病息災マップ」を作成するプロジェクトを展開した.</p>
著者
岡田 昌彰 福部 大輔
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_552-I_557, 2012
被引用文献数
2

近年,臨海工業都市において「新たな観光資源」として工場夜景が注目されている.一方,事業の進捗に対し当地における沿岸域景観の現況やその評価実態に関する基礎的研究は行われていない.<br> 本研究では堺泉北臨海工業地帯を対象とし,現地調査による景観形成要素の抽出・整理,及び当地の景観を対象としたウェブ上のブログに掲載された写真の内容ならびに言及内容を昼夜別に比較・分析し,夜景の評価実態ならびに選定される視点場の特徴について把握した.その結果,(1)夜景においては非現実のSF的な「別世界」を投影する傾向が見られること,及び(2)障害物が少なく,水面を挟むことで「ひき」が確保でき,あるいは「まとまり」として景観を捉えやすい視点場が多数撮影されていることなどがわかった.
著者
安原 英明 木下 尚樹 操上 広志 中島 伸一郎 岸田 潔
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集C
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.1091-1100, 2007
被引用文献数
3

高レベル放射性廃棄物処分坑道近傍では,廃棄体からの発熱により化学作用が活発化し,岩盤の力学 &middot; 水理学特性に大きな影響を及ぼすことが考えられる.本論文では,圧力溶解現象を考慮した概念モデルを用いて,熱 &middot; 水 &middot; 応力下における化学作用を定量化し,珪質岩石の透水性評価を行った.特に,珪質岩石の構成主鉱物である石英,クリストバライト,アモルファスシリカの溶解 &middot; 沈殿特性に着目し,深地層下における圧力,廃棄体からの発熱作用を考慮し,透水特性の変化を定量的に評価した.その結果,90 &deg;Cの温度条件下で時間と共に透水性が低下する傾向が得られた.また,クリストバライト,アモルファスシリカを多く有する珪質岩石は,石英系岩石よりも透水性の変化がより顕著となることが確認された.
著者
山田 幹雄 松島 保志 佐野 博昭 奥村 充司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 = Proceedings of JSCE (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.637, pp.165-175, 1999-12-20
参考文献数
24

本研究では建設副産物の有効利用の一環として, また, 補修周期の延伸化の一策として, 再生混合所に搬入したアスファルトコンクリート発生材の一次選別時に生じるグリズリフィーダ通過材を活用した路床構築の可能性について検討した. 模擬路床の構築試験に先立ち, 室内で粒径を揃えた材料を安定材とともに試料土に加えて<i>CBR</i>や一軸圧縮強さの推移を調べたところ, 混入量を多くするほど安定処理効果は大きくなることが確かめられた. さらに, 構築試験および事後試験からは, 粒度組成にかかわらず舗装の施工基盤として具備すべき締固め度や支持力は十分に確保されること, 改良路床土の固化の進行には路床温度が関与すること, 耐水性を通常の安定処理土と比較してもとくに遜色のないことが示された.
著者
藤井 聡 米田 和也 北村 隆一 山本 俊行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
no.15, pp.489-497, 1998

本研究では, セミマルコフモデルを適用し個人の通勤手段の連続時間軸上での遷移過程を再現する行動モデルを構築し, このモデルの未知パラメータを, 複数の離散断面で実施されたパネル調査で得られたデータに基づいて推定した. 推定計算の結果, 通勤者が通勤手段としてCarpoo1を連続して利用し続ける期間は短い, すなわち, Carpoolを通勤手段として利用するという状態は他の交通機関を利用するという状態に比べて不安定であることが分かった. また, 機関別の移動速度が利用手段に影響を及ぼしていることも示された. 構築したモデルに基づいた集計化分析からは, 本研究で提案した動的な行動モデルを用いることで, 均衡状態の成立も含めたシステム全体の挙動についての解析が行える可能性があることが分かった. それとともに, 通勤手段シェアでさえも, 現状と均衡状態との間には大きな乖離がありうることが示された.
著者
能町 純雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:00471798)
巻号頁・発行日
vol.1959, no.60, pp.20-29, 1959

平板のタワミ関数に対する有限な二重フーリエ変換を, 基本微分方程式についての Green 公式から誘導しその逆変換を求めて, カンテレバー矩形板, すなわち一辺が固定され他の三辺とこの辺によつて作られる二隅点がすべて自由である矩形板の曲げを解いたものである。数値計算例は対称な変形のみについて行なつたが, 板のポアソン比は0.3とした。