著者
松浦 茂樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
日本土木史研究発表会論文集 (ISSN:09134107)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.275-285, 1987

近年水辺の復活、ウォーターフロントの開発等水辺が社会から注目されているが、戦前の河川改修でも河川環境は重視されていた。この状況を1935 (昭和10) 年の大水害後、翌1936年樹立された京都の鴨川改修計画に基づいて論ずる。<BR>鴨川の社会的特徴は、御所をはじめ千年の歴史をもつ社寺・史跡・風物のある古都・京都市街地を流れていることである。鴨川は「東山ノ山紫二対シ河流ノ水明ヲ唄ハレタル古都千年ノ名川」と認識されていた。また「鴨川は京都市の鴨川に非ず」と、我が国にとって重要な河川と主張された。京都の風致の重要性としては、文化面における国民の訓練、産業の発展、国際観光の三つがあげられた。<BR>このため鴨川改修計画では、治水上支障のない限りにおいて鴨川の風致を配慮した計画が樹立された。具体的にはコンクリートの露出をできるだけ避け、石垣、玉石張を中心にして行われたこと、曲線を用いた床止め工の形状等によく現われている。また高水敷にはみそそぎ川が残され、夏には納涼床が張り出されて京都の風物詩となっている。昔から鴨川での夕涼みは京都市民に親しまれていたが、1986年夏気象観測を行い、その状況を求めた。<BR>1936年の環境整備計画は、河川技術者集団の総意の下に行われたと推察される。河川技術者がそのような能力を機械施工化以前には常識としてもっていたものと判断される。なお1936年の改修計画は、鴨川に限られることなく京都市の大改造計画であり、京阪線の地下化、都市計画道路の築造等が一体として図られていた。これらの事業は近年の1979年より再開され、現在工事中である。
著者
山根 巌
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
no.20, pp.325-336, 2000

明治末期における京都での鉄筋コンクリート橋は、有名な田辺朔郎による明治36 (1903) 年の琵琶湖疎水に架けた日ノ岡の「孤形桁橋」に始まるが、明治38年から京都市の井上秀二により、高瀬川で4橋の小規模鉄筋コンクリート橋群が架設された。<BR>一方京都府においても、明治41 (1908) 年原田碧が長崎市から転勤して来て以後多数の鉄筋コンクリート橋が架設されたが、その代表は鞍馬街道の「市原橋」と「二之瀬橋」と言えよう。これ等の橋はメラン式を発展させた日本的な考え方の軸組方式で「鉄骨コンクリート構造」のアーチ橋とトラス橋として建設されている。また明治38 (1905) 年日比忠彦により導入されたモニエ式アーチ・スラブが、I字鉄桁に用いられて「鉄筋僑」と呼ばれ大正期末迄に多数建設され、市原橋の側径間にも採用されている。<BR>明治末期の京都での鉄筋コンクリート橋は、府市共にメラン式等の試験的な小規模の橋梁が多かったが、大正2 (1913) 年に完成した柴田畦作による、鴨川での鉄筋コンクリートアーチ橋の四条及び七条大橋の架設で、鉄筋コンクリート橋は大規模化し多様化して、日本の鉄筋コンクリート橋の発展に大きな影響を与えた。<BR>こうした明治末期における京都での鉄筋コンクリート橋の導入と発展の特徴について、調査した結果を報告する。
著者
森 芳徳 宮武 裕昭 久保 哲也 井上 玄己
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.I_77-I_87, 2016 (Released:2017-01-31)
参考文献数
9
被引用文献数
3

近年,大規模な土工構造物が地震等により甚大な被災を受ける場合がある.被災によって遮断された交通機能は早期に回復することが求められ,復旧には被災現場の状況に応じて交通機能を効率よく且つ迅速に回復できる工法の選定が必要とされる.現場の実態調査から,被災現場では大型土のうを用いた応急復旧の採用が多く見られる.大型土のうは現場の状況に柔軟に対応でき簡易的に復旧可能であることから多くの被災現場で採用されていると考えられる.しかし,従来の大型土のうは仮設構造物であるため,本復旧の際には撤去作業が必要となり,本復旧が完了するまでには時間を要する.被災した土工構造物を効率的に本復旧するためには,大型土のうを用いた応急復旧盛土をそのまま本復旧として活用することが有効であると考えられる. 本研究では,道路盛土災害事例から崩壊形態や現場の制約条件による復旧対策手法等について分析・整理するとともに,応急復旧として活用の多い大型土のうに着目した復旧モデルを考案し,大型土のうを用いた復旧盛土の本設構造物としての適用性について,動的遠心力載荷模型実験及び実大実験を実施し,変形挙動や施工性等を確認・検証した.
著者
安間 匡明 鈴木 文彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.I_61-I_73, 2021

<p>PFI・PPP(以下「PPP」)では,PPP 契約が政府・自治体と特別目的会社(SPC)の間で締結され,その SPC が金融機関からプロジェクトファイナンス(PF)の資金を借りていることにも鑑みれば,出資企業の有限責任性や資金調達におけるノンリコースの原則を前提に PPP 契約が作成されていると考えられる.しかしながら我が国の PPP 契約をみると,かかる原則と必ずしも相容れない契約条項が規定されている.本稿においては,事業者の有責事由に基づく契約義務不履行に伴う公共主体への賠償責任に関する条項を海外事例とも比較し分析したうえで,PPP 契約の適切な在り方を考察する.</p>
著者
湧田 雄基 山下 明美 吉田 啓佑 龍田 斉 関 和彦 有井 賢次 熊谷 兼太郎 中畑 和之 長沼 諭
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集 (ISSN:24359262)
巻号頁・発行日
vol.2, no.J2, pp.437-446, 2021 (Released:2021-11-17)
参考文献数
18

本論文では,インフラマネジメント分野における AI(Artificial Intelligence)の活用を目的として,分析性能とモデルの解釈性に着目し,AI活用の可能性についての考察を行う.特に,近年,機械学習のコンペティション等で好成績を上げているアンサンブル型学習手法を中心に, XGBoost,LightGBM,CatBoost, Random Forest,決定木分析について,その数理的背景の概要を述べる.これらの手法により橋梁の劣化の推定を試行した結果について報告する.また,この結果について,個々の手法の特性をふまえ, AIのインフラマネジメント業務における活用の視点より考察を行った結果について報告する.
著者
湯沢 昭 須田 熈 西川 向一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.458, pp.73-80, 1993
被引用文献数
1

本研究は, 消費者の都心部商業地区における買物・娯楽行動に焦点をあて, 商業地区の選択問題と回遊行動に関する分析を中心に行うものであり, 大きく2つの内容から構成されている. 1つは, 認識の不確実性を考慮した意思決定モデルの作成であり, 2つ目は非定常確率モデルによる回遊行動の分析である. これは商業地区の整備が, 当地区への直接の来街頻度の増加と回遊による増分を同時に評価する上で不可欠なものである. 本研究で提案した商業地区評価手法を, 観測データを用いて検証したところ, その有効性が確認された.
著者
北原 武嗣 田中 賢太郎 山口 隆司 岸 祐介 濵野 剛
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A1(構造・地震工学)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.I_499-I_508, 2012
被引用文献数
1

近年,構造物の地震応答に関して,海溝型巨大地震により励起される長周期かつ長継続時間の地震動の与える影響が注目されている.海溝型巨大地震では,数百秒程度の継続時間となることが予測されており,その際,構造物が最大荷重を履歴した後にも数十回~数百回オーダーでの繰り返し振幅を受けると考えられている.一方,鋼製橋脚の耐震設計として実施されてきた繰り返し載荷実験では,主に3回程度の繰り返しを行ってきた.そのため,海溝型巨大地震に対する鋼製橋脚の耐震設計に関しては,十分に解明されていないのが現状である.そこで本研究では,海溝型巨大地震のような継続時間の長い地震動を受ける既設高架橋の耐震性能を把握することを目的として,都市高架橋に多用されている単柱式鋼製橋脚を検討対象とし,数十回オーダーの繰り返し振幅が構造物の耐荷性能に与える影響について検討を行った.
著者
髙橋 直樹 松橋 仁 西村 修 須藤 隆一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.III_429-III_434, 2012 (Released:2013-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本研究では近年普及の進んでいる性能評価型浄化槽に着目し,塩素消毒前の工程における大腸菌群の除去効果,および塩素消毒による除去効果を解析した.さらに大腸菌群の除去特性について他の水質項目の除去効果と比較しながら解析した.その結果,調査した浄化槽25基のうち24基で塩素消毒前の大腸菌群数が排水基準値である3,000cfu/mL以下を満たすことが確認された.また,塩素消毒によって全ての浄化槽において1,000cfu/mLを下回るものの,残留塩素濃度が2mg/L以上検出されても大腸菌群数が200cfu/mL以上検出される場合もあった.大腸菌群数はSSと正の相関が,硝化率と高い負の相関が認められ,SSおよび窒素を高度に除去できる浄化槽によって大腸菌群数を低下させることが可能であることがわかった.
著者
田中 成典 山本 雄平 今井 龍一 神谷 大介 中原 匡哉 中畑 光貴
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.821-832, 2021

<p>昨今,深層学習を用いて物体の詳細な部位を識別して,姿勢や行動を推定する研究が盛んである.例えば,車両の部位を識別することで,逆走や改造車両を検出できる.本研究では,それらの用途の中でも深層学習の導入が特に注目されている交通量調査への適用を試みる.当該調査では,作業の省力化や効率化を目的として,動画像から車種ごとの通過台数を計数する技術開発が推進されているが,既存技術には,形状の似た車両の車種分類に失敗する課題がある.その対応策として,調査員が着目する部位の形状を考慮して分類することが考えられる.そこで,本研究では,深層学習を用いた車両部位識別技術を開発する.加えて,再学習のコストを軽減するため,教師データの自動生成技術も検討する.そして,実証実験を通じて,それらの技術が有用であることを明らかにした. </p>
著者
田井 政行 関屋 英彦 岡谷 貴之 中村 聖三 清水 隆史
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
AI・データサイエンス論文集
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.378-385, 2021

<p>耐候性鋼橋梁の点検・診断は,防食機能の劣化状態の判定に基づき行われており,その判定には外観評点法が用いられる.しかしながら,外観評点法により的確な評価を行うためには,相応の経験を要するが,昨今の人材不足や点検費用の確保などの課題があり,簡易かつ精度が高い評価手法の確立が求められている.本研究では,耐候性鋼橋梁のさび近接画像と既存の CNNモデルを活用し,外観評点の識別精度について検討を行った.また,識別精度に及ぼす学習・検証用近接画像の画像サイズの影響についても検討を行った.その結果,VGG19及び SEnetの CNNモデルが高い識別精度を示した.また,入力画像サイズが大きいほど識別精度が向上することを明らかにした.さらに,学習と検証に用いた画像の解像度が異なる場合,識別精度が低下する傾向があることを示した. </p>
著者
高山 博文 増田 康男 仲山 貴司 植村 義幸 YINGYONGRATTANAKUL Narentorn 朝倉 俊弘
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.132-145, 2010

NATMで施工された覆工コンクリートでは,トンネル天端付近において軸方向に伸びるひび割れがしばしば確認されている.このひび割れは地圧によるものと類似するため,維持管理段階における健全度評価を困難なものとしている.本研究では,このひび割れの発生メカニズムを明らかにするため,実際の坑内環境と施工条件を模擬した模型試験とそのシミュレーション解析を実施した.この結果,吹付けコンクリート面の凹凸などによる外部拘束がない現在の覆工コンクリートにおいて,ひび割れの発生に寄与すると考えられるコンクリート自身が発生させる内空側と地山側との収縮量の差(内部拘束)を数値解析で適切に表現するためには,「湿気-応力連成解析」を行う必要があることを示した.
著者
及川 康
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.82-91, 2017
被引用文献数
1

「津波てんでんこ」という言葉の津波避難時における意味・機能の重要性は,これまで繰り返し言及されてきた.しかし,「津波のときは,親でも子でも人のことなどは構わず,銘々ばらばらに一時も早く逃げなさい」という原義だけが表層的に理解され,「『津波てんでんこ』は利己的で薄情すぎる」という批判に繋がってしまう懸念についても,同時に言及されてきたことである.本稿は,このような批判がどの程度生じ得るのかを把握すべく行った調査の結果を報告するとともに,それを払拭するための方策について考察を加えるものである.その結果,「津波てんでんこ」に対する批判を回避して真の理解が得られるためには,一義的・表面的な原義を正確に提示するのみでは不十分であり,適切な解説・解釈が為されることが必要であることが確認された.
著者
榊原 弘之 倉本 和正 菊池 英明 中山 弘隆 鉄賀 博己 古川 浩平
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.658, pp.221-229, 2000

本論文では, がけ崩れに寄与する重要要因の抽出を目的として, ラフ集合を用いたデータマイニングを山口県のがけ崩れ発生・非発生データに対して実施する. まず, 地形要因データにおける重要要因を抽出し, 比較的少数の要因によって, 大部分のがけ崩れ発生・非発生を矛盾なく説明できることを示す. さらに, 地形要因と降雨要因を組み合わせたデータへも同様の手法を適用し, 降雨時に警戒対象とすべきがけの選別手法を示した. 本論文により, ラフ集合によるデータマイニングを土砂災害の発生・非発生データの分析に用いることができることが明らかとなった.
著者
豊田 将也 吉野 純 小林 智尚
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.I_319-I_324, 2019

<p> 2018年に発生した台風24号は,強い勢力を維持した状態で上陸し,名古屋港への最接近時刻が満潮時刻と重なると予報されたため,高潮に対する最大級の警戒(最大潮位偏差3.45m)が呼びかけられた.しかし,実際の台風進路が,当時の上陸直前の予報から大幅に逸れたために大規模な高潮災害には至らなかった.このような予報誤差の要因を解明することは,今後の沿岸災害予報の改善のためにも極めて重要な課題となる.本研究では,高解像度台風-高潮結合モデルによる進路アンサンブル実験を行い,台風24号による高潮に対する予報誤差の要因を分析するとともに,本事例において起こり得た最悪の高潮についても評価した.台風24号は最大風速半径が約120kmと大きく,予報の進路よりも南側を通過することで,名古屋港が最大風速域から外れ,潮位上昇が抑制されていたことが明らかとなった.また,本事例における名古屋港での最悪の高潮は最大潮位偏差2.24 mであり,実際よりも約1.3°北の進路を通った場合に発生することが明らかとなった.</p>
著者
車谷 麻緒 寺田 賢二郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集A2(応用力学) (ISSN:21854661)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_129-I_138, 2012 (Released:2014-01-31)
参考文献数
16

This paper focuses on approximation properties for strong/weak discontinuities in the PU-based finite element methods. The extended finite element method (X-FEM), which is one of the PU-based FEM, enables us to approximate the discontinuous deformation due to crack/interface with the enrichment functions. In contrast, the finite cover method (FCM), which is also one of the PU-based FEM, is capable of representing discontinuous behavior by defining the multiple sets of finite covers (elements) instead of using the enrichment functions. We examine the properties and the effects of these different PU-based approximations for strong/weak discontinuities in this paper. Section 2 shows two types of approximations of strong/weak discontinuities in the PU-based FEM by taking X-FEM and FCM for instance, and explains the equivalence of them. Several numerical examples are presented to examine the analysis accuracy and effi ciency for structures involving a line crack, a branched crack and a material interface in Section 3.
著者
金澤 健 中村 拓郎 坂口 淳一 川口 和広
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造) (ISSN:21856567)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.177-186, 2021 (Released:2021-11-20)
参考文献数
26

極限解析の上界定理を用いて,凍害による材料劣化が生じたRC棒部材に対し,実験結果の回帰式等を用いず,軸力と終局モーメントの相関曲線を解析的に得られる力学モデルを構築した.構築したモデルは,実構造物のコア供試体から取得した劣化深度に基づいて速度場を分割することで,劣化域の耐力への寄与を評価することが可能である.凍結融解試験後に曲げ破壊を生じた21体の実験結果との比較により,構築したモデルが平均で±5%の算定精度を有していることを確認した.さらに,著しい劣化により撤去された既設RC床版から切り出したはり部材の曲げ解析を行い,実験結果と比較することで,劣化深度を指標とした力学的合理性のある健全度評価の可能性を示した.
著者
下元 幸夫 山路 昭彦 内田 洋平 大西 健二 上原 謙太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.211-215, 2006-10-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

2004年に西日本に相次いで来襲した台風は, 瀬戸内海沿岸各地において広範囲にわたる高潮災害をもたらした. これらの台風のうち, 台風0416号では, 潮位偏差のピーク値が台風の最接近時刻から遅れて出現するケースがみられた. 台風の最接近時刻と潮位偏差のピーク時刻に差がみられる現象は, 波浪と高潮の出現時刻においても同様に時間差が生じる可能性を示唆していると考えられる. 一方, 瀬戸内海において波浪と高潮の同時生起特性について研究された例は少ない. 本研究は, あらゆるコースを想定したモデル台風の数値シミュレーションにより, 瀬戸内海沿岸における高潮・波浪の出現特性および同時生起特性について検討を行った.
著者
琴浦 毅 森屋 陽一 関本 恒浩
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_959-I_964, 2012 (Released:2012-09-18)
参考文献数
10
被引用文献数
4

海上作業を伴う海洋工事では,高度化されつつある気象モデル,波浪推算モデルを用いた予測結果が作業可否判断に利用され始めている.しかし,波浪推算モデルの推算精度に関しては,外洋部での高波浪に着目して検討されたものが多く,海上作業の可否判断である波高1m程度の精度の検討は多くない.また,瀬戸内海は多くの島嶼が存在し,波周期が短いことから高精度モデルでの検討が望まれるが,高精度モデルは計算時間が多くかかり,作業可否判断予測に活用するには実務的とは言えない. 本研究では瀬戸内海を対象として,気象庁GPV海上風データを入力とし,波浪推算モデルとしてWAMモデルを用いた波浪予測を実施するとともに,海上作業可否に着目して風・波浪の予測精度を検討し,実務的に妥当な予測精度を得るために必要な条件を明らかにした.
著者
川井 涼太 金 利昭
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_1091-I_1100, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
8

近年,警察庁と国土交通省により自転車レーンや車道混在といった車道部の自転車通行空間の整備が推進されており,車道を通行する自転車の増加が見込まれる.車道を通行する自転車には駐停車車両の回避等の際に他車両と接触する危険性があり,後方確認や後方合図といった安全挙動の必要性が考えられるが,現行の交通規則は実効性に乏しい.そこで,本研究では,車道通行自転車の進路変更時における安全挙動に関してビデオ観測調査を行い,安全挙動の遵守実態の把握と安全挙動に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした.その結果,進路変更時に安全挙動を行っている自転車運転者は全体の半分以下であることが判明した.さらに,安全挙動の遵守率には,駐停車車両の路上占有幅,離隔幅,PET値,追い越し車種が影響を与える要因として抽出された.
著者
池町 円
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.I_145-I_150, 2021

<p> 利用しやすいフェリーターミナルを整備するには,国・港湾管理者・利用者が連携してターミナルのレイアウト計画を検討することが重要である.しかしながら,国・港湾管理者と利用者の間には,現場での荷役作業に関する知識・経験に大きな差があり,利用実態に関する十分な認識共有が図られないまま,検討が進められるという課題がある.</p><p> 本研究では,高松港朝日地区で新たに整備が予定されているフェリーターミナルでの車両乗下船作業を再現する離散型イベントシミュレーションを構築し,シミュレーションの分析結果をもとに,国・港湾管理者・利用者が連携してターミナルのレイアウト計画を検討する.このことを通じて,国・港湾管理者と利用者が同じ認識を持ちながらターミナルレイアウトを検討する手段として,離散型イベントシミュレーションモデルが有効であることを提示する.</p>