著者
手代木 功基
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.129, 2020 (Released:2020-12-01)

1.はじめに淀川水系の安曇川上流域,滋賀県高島市朽木地域には,トチノキ(Aesculus turbinata)の大径木がまとまって生育する「トチノキ巨木林」がみられる.朽木地域のトチノキ巨木林は,全国的にも貴重な植生であるにも関わらず,その立地環境の特徴や,巨木林の成立過程等についてはほとんど研究が行われてこなかった.トチノキの種子であるトチノミは,縄文時代から山村を中心に食用とされてきた.また,材も木地として利用されるなど,山村で暮らす人びととの関わりが深い樹木である.そのため,トチノキの立地環境や成立過程を検討するためには,自然環境(自然地理学的側面)だけでなく,人為の影響等について(人文地理学的側面)も合わせて検討する必要がある.本発表では,朽木地域におけるトチノキ巨木林の立地環境の特徴や成立過程を報告することを通じて,環境—人間関係を考えたい. 2.方法調査地は滋賀県高島市朽木地域である.本研究に関わる調査は2011年から2015年にかけて実施した.巨木林が分布する集水域に出現したトチノキの位置情報,胸高周囲長,谷底からの高さ等を現地調査により記録した.合わせて空中写真やDEM等を利用して地形分類を行い,これらのデータを組み合わせて立地環境を検討した.また,調査対象とした集水域の山林を所有・利用してきた近隣の集落において聞取り調査を実施し,山林やトチノキ・トチノミの利用方法等を記録した. 3.結果と考察調査対象地における植生・地形調査から,トチノキ巨木林は特定の地形面に分布していることが明らかになった.具体的には,地形分類で下部谷壁斜面,上部谷壁斜面と区分された地形面の境界をなす遷急線の直上や,谷頭凹地の上部斜面にトチノキ巨木が数多く分布していた.すなわち,トチノキは渓畔林の主要構成種であり水辺を好むが,本地域におけるトチノキの巨木は,谷底から一定の距離(高さ)を持って生育していることが明らかとなった.また,トチノキの巨木は,小・中径木と比べて谷の上流側に分布が偏って林分を形成していた.これらはいずれも大規模な地形撹乱を受けにくい場所であり,樹齢200年を超えるトチノキ巨木の立地が,地形的な制約を受けている可能性が示唆された.聞取り調査からは,トチノキは実の採取のために伐採が制限されてきたことが明らかになった.また,トチノキは炭焼きに不向きな樹種であるため,周辺の山林が薪炭林として利用されてきたなかで伐採されずに残されることが多かった.実際にトチノキ巨木林の周辺植生は,人為の影響を受けた二次林や人工林であり,里山のなかに立地する特異な植生として位置づけられる.以上から,トチノキ巨木林の成立には,地形面の安定性などの環境要因とともに,トチノキの選択的な保全や他樹種に対する定期的な撹乱といった地域住民の自然資源利用が影響していることが明らかになった.こうした総合的なアプローチを用いて他地域においても植生の立地環境や成立過程を検討していくことで,環境—人間関係の多様性を明らかにすることができると考える.
著者
谷内 達
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.243-247, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)

ある特定商品の生産量や輸出量が世界一であっても,その国の総輸出額や総生産額に占める割合がきわめて小さいことがある.前者を絶対量的視点,後者を相対量的視点と呼ぶことにすると,後者の方がより地誌的である.これまでの地理教育では前者の絶対量的視点が重視される傾向があり,本来あるべき地誌にはほど遠い「物資調達の地理」となってしまっていた.また,いずれの視点による場合でも地域スケールが問題となる.もし国をいくつかの地域に分けると,絶対量はむろんのこと,その地域での部門別構成比のような相対量もかなり異なるものになる.これらを考慮した新たな地誌的記述の枠組の開発が期待される.
著者
石川 百合子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.1-18, 2001-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25

日本における過去の酸性雨の状況を調べるため,最も古くかっ長期間にわたって降水分析が行われていた鯨西ヶ原の農事試験場における1913~1940年の観測データを解析した.酸性雨問題の観点から,降水中繕難カロリー肖酸イオンと非海塩性硫酸イオンおよびアルカリの指標であるアンモニウムイオンの湿性沈着量を推定した. 観測方法に関する文献調査から,この降水分析データには乾性沈着の一部が含まれていたことが明らかに・なったたあ・各イオンのデータから乾性沈着の影響を取り除いた年間の湿性沈着量を求めた.その結果,観測された沈着量のうち湿性沈着の割合は,アンモニウムイオンが60%, 硝酸イオンが80%, 硫酸イオンが20%程度であったことが示された. さらに,本観測データから降水の酸性化にっいて考察するため,推定したアンモニウムイオン,硝酸イオン,非海塩性硫酸イオンの年平均濃度から,降水の年平均pHの指標となるものを定量的に求めた.現在は1913~1940年の降水のpHよりも約0.5~1.0低くなっていることが示唆された.
著者
芝田 篤紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.357-375, 2018-09-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

ナミビア共和国北東部のブワブワタ(Bwabwata)国立公園で暮らす地域住民クエ(Khwe)の人々の生業活動が,公園内の自然環境に与える影響について明らかにした.4カ月の住み込みによる参与観察や聞取りと,植生調査や地形測量などの定量的調査の結果から,国立公園制定にともない設定された二つの区域では,採集・伐採活動の有無による植生構造の差異が推察された.また,伐採と栽植によって有用樹種の分布が偏り,村周辺の植生景観が影響を受けていることが判明した.一方で,伝統的に行われてきた野焼きや,一部の住民によって行われている農業は,周辺環境との有機的な関係が考慮されており,自然環境の維持や管理に関わっていることが示唆された.クエの人々が営む生業活動は,周辺植生に大きな影響を及ぼしその景観を形成しているが,自然環境についての深い知識と認識により,国立公園の自然環境の維持管理の役割を担っている一面もあることが考えられる.
著者
川合 泰代
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.349-366, 2001-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
38
被引用文献数
4

本稿は,江戸・東京の富士講からみた富士山の風景を,富士講の信仰習俗を考慮しっっ,富士講が築造した富士塚の形態の解釈を通じて復元した.江戸末期の富士塚の形態から,「富士講員は,富士登拝の体験を,強く希望した」と風景を解釈した.この誘因として,富士講では,富士登拝が成年男子のみ可能であり,登拝が金銭的にも体力的にも困難であり,富士山は阿弥陀の住む西方極楽浄土と意味づけられ,山頂での御来迎によって阿弥陀の来迎が体験でき,登るほどに超人的な力を得ると信じられたことをあげた.さらに明治期から昭和前期の富士塚の形態からは,「富士講員は,富士登拝を希望したが,登拝体験の価値を明確には理解できなかった」と風景を解釈した.この誘因として,富士講では,老若男女の富士登拝が可能になり,登拝が金銭的にも体力的にも容易になり,富士山は木花咲耶姫などの聖地と意味づけられたが,それらを体験できる装置は創出されず,しかし登るほどに超人的な力を得ることは信じられたことをあげた.そして戦後の富士塚の形態からは,「富士講員は,富士登拝を希望したが,富士講の感覚を共有する人がほとんどいなくなった」と風景を解釈した.この誘因として,戦後に生まれた人が,富士講を継承しなかったことをあげた.
著者
蒋 宏偉 佐藤 廉也 横山 智 西本 太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.324-338, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1

焼畑・漁労・狩猟・採集を生業としているラオス中部の少数民族マンコン集落において,雨季・乾季に分け,成人住民を中心とする生活時間配分調査を行い,主に(1)想起法によって収集した経時的な活動内容の記録,(2)GPSロガーによる生活活動空間情報の記録,および(3)身体活動に費やすエネルギーの加速度計による記録,の3つのデータを収集した.データの分析結果は,労働時間配分における成人男女の分業および男女活動範囲とその相違といった生活活動の時空間パターンを明らかにした.さらに,開発が急ピッチで進んでいるラオス中部地域に生活している焼畑農耕民の各種の生業間の時間配分のつり合いから対象地域の土地利用と生業の変化の解明に重要な手掛かりを提供した.
著者
櫛引 素夫 三原 昌巳 大谷 友男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2021 (Released:2021-09-27)

1.はじめに 整備新幹線の開業は地域に多大な変化をもたらしてきた。しかし、住民の暮らしについては地理学的な検討がそれほど進んでいない(櫛引・三原、2020・2021)。発表者らは加速する人口減少・高齢化を背景として、新幹線の「暮らしを守る機能」に着目し、地域医療に整備新幹線開業が及ぼす効果の検討に着手した。本研究は、その端緒として、東北・北海道新幹線の新青森駅前に2017年開業した青森新都市病院に対するヒアリングの結果を報告、論点整理と展望を試みる。2.整備新幹線の開業と地域医療 整備新幹線の沿線は大半が地理的周縁部に位置し、人口減少や高齢化が著しい。特に東北・盛岡以北、北海道、北陸の路線沿線は積雪・寒冷地域でもある。 これらのうち、例えば新潟県上越市の上越地域医療センター病院は、2015年3月の北陸新幹線開業を契機に富山県から麻酔科医が入職、医師確保を実現したという。長野県飯山市の飯山赤十字病院は、新幹線駅前の立地を生かし、新たに11人の医師を採用した。2020年3月時点で27人の常勤者中、8人が新幹線通勤者である。3.青森新都市病院の事例 青森新都市病院は、函館市の医療法人・雄心会が運営している。同病院へのヒアリングによって、以下のような状況を確認できた。【進出の契機】雄心会は青函地域を営業エリアとする取引銀行の要請により、青森市内の2民間病院の運営を継承、合体・移転する形で、新青森駅前に総合病院・青森新都市病院を開設した。当初は新幹線駅前への進出構想はなかったが、駅前の保留地売却が難航していた青森市からの熱心な誘致と協力を受け、駅前への進出を決めた。【診療面での効果】開院当初は脳血管内手術等の高度な専門医療が行える医師がいなかったため、新幹線の動いている時間内であれば、函館から専門医の業務支援を受けることで、急性期脳梗塞等において早期治療を行う体制を整えることができた。このうち血栓回収療法では1時間程度でカテーテル手術が終わるため、手術を挟んで4時間半ほどで両病院間を往復できる。 青森新都市病院の医師もトレーニングを積んだ結果、現在は血栓回収療法の手術は、同病院の医師だけでも行えるようになり、24時間体制で迅速に対応できるようになった。 また、日本大、岩手医大、慈恵医大などから非常勤医の派遣を受けており、新幹線駅前の立地は、医師確保面でもメリットが あるという。 加えて、同病院の副院長は八戸市から新幹線通勤しており、前の職場だった同市内の病院よりも、通勤時間が短縮しているという。 一方、医療スタッフについては、県外からUターンしてきた人が3分の1を占めているといい、新幹線駅前という立地が、地元出身の県外在住者への知名度アップに貢献している可能性があるという。【当面の課題】同病院は開設当初から、「人の流れ」を生むことによる「病院を核とした街づくり」を目指していた。新青森駅はJR奥羽線の駅を併設、市営・民間のバス路線も乗り入れている。しかし、バス停から病院まで徒歩で10分ほどかかり、高齢者には負担が大きい。病院前まで乗り入れるバスもあるものの、1日3本に限られており、公共交通網の利便性向上が課題と言える。高齢社会への対応を考えると、病院の近傍に日常の買い物機能などがあれば、より大きな役割を果たし得る。4.考察 青森新都市病院は、必ずしも戦略的な展望によって新幹線駅前に開設された訳ではないにせよ、まさに整備新幹線開業が契機となって地元の医療環境が好転し、多くの成果が得られた事例と言える。特に青森県は脳血管疾患の死亡率が全国ワースト級であり、患者負担が小さい血栓回収療法の態勢が整ったことは地域医療に大きな意義を持つ。 ただし、新幹線駅前という立地が普遍的に同様の恩恵につながるとは限らない。同病院は、①新幹線沿線に支援を受けられる系列病院が存在、②新幹線による移動と血栓回収療法の時間的な相性が良かった、③東京など新幹線沿線の複数の病院から多くの非常勤医師を確保していた、といった特徴が有利に働いた点には留意が必要である。 青森市はコンパクトシティ政策時代から新青森駅を重視し、2018年策定の立地適正化計画においても「『コンパクト・プラス・ネットワーク』の都市づくり」の都市機能誘導拠点と位置付けている。市の人口流出が加速する中、病院を一つの核としたまちづくりの行方が注目される。5.展望 今回の調査結果を起点として、青森新都市病院の開設が地域医療にもたらした変化の評価、他地域の新幹線駅一帯の病院に同様の変化が生じているか否かの検証、といった研究の展開が考えられる。一方で、同病院の開設が地域社会に及ぼした地理学的な変化についても、派生的な研究対象となり得よう。※本研究はJSPS科研費21K01020の助成を受けたものです。
著者
小坪 将輝 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.112-122, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
35
被引用文献数
1

新型コロナウイルスのパンデミックが生じた2020年には,世界の多くの大都市で大規模な人口の転出が確認された.日本においても東京都からの転出の増加を含む人口移動パターンの変化が生じている.そこで東京大都市圏の中心となる東京都区部からの転出に着目して,その移動先の分布の変化にみられた特徴を分析した.結果として,移動者が増加した地域として東京大都市圏の郊外部と大都市圏外の北西部および南西部の地域が検出された.これらの地域の特徴と推定される移動者の年齢や職業の構成からは,新型コロナウイルスの流行が大都市圏都心部からのライフスタイル移住を促進したことが示唆された.
著者
目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.160, 2021 (Released:2021-03-29)

1.はじめに 地球温暖化対策としての化石燃料使用の抑制,また東日本大震災での原子力発電所事故により原発の危険性が広く認識されたことにより,再生可能エネルギーによる発電が注目されるようになっている.各地で,地域主体の市民共同発電が行われるようになっている(たとえば豊田2016,大門2016など).一方で,地域住民の合意に基づかない,再生可能エネルギー事業のため,地域に軋轢が生じているところもある.再生可能エネルギー施設設置による乱開発を規制する条例が各地で制定されているのは,この表れであるといえる(例えば岩手県遠野市など).国立公園,国定公園といった自然公園は,自然公園法に定められている通り,優れた自然の風景地を保護し,保険,休養,教化に資することを目的としている.こうした自然公園において,環境省は,2015年には,再生エネルギーの大規模な導入という政府方針に基づき,自然公園においても自然環境と調和した再生可能エネルギー発電施設の導入を,限定的に許容すべきという立場をとっており,現在では,さらに許容の立場を進め,国立公園内での再生可能エネルギーの発電所設置を促す方針となっている.今日,多面的にその価値が理解されるようになっている自然公園において,これまでの規制をさらに厳しくするのであれば理解はできるが,安直にその規制を緩めることは,これまで多くの関係者の努力により築き上げてこられた自然公園の仕組みを破壊するものであるといえる.ここでは,自然地理学的観点から,国立公園,国定公園といった自然公園の価値を考えたうえで,再生可能エネルギー乱開発(再エネ乱開発)の問題点を指摘する.2.自然公園の多様な価値 それぞれの地域に暮らす人は,その地域の自然環境から様々な恩恵を受けており,それは生態系サービスという概念において,整理されている.その生態系は,地域によって異なるが,一つのまとまりのある範囲が流域である.流域の中で,水とそれによって運搬される砂礫,諸元素があり,地形環境がそのなかで形成され,そこで人間が生活している.この流域全域が自然公園となっていることもあるが,日本では,山地の上流部,もしくは河口周辺の海岸部が自然公園地域として指定されている.山地が自然公園として指定される意味は,そもそも開発が進んでおらず,美しい景観が残存していることが第一であるが,それとともに河川に流入する水やさまざまな栄養塩が供給される場所であること,また,山地環境における緩和作用により,流出量が調整されることがあるためである.自然公園法では,法文のなかで生物多様性保全の場であるという位置づけをしているが,生物多様性を支えるための流域やそれより広域の自然環境が存在する意義については十分理解されていない.山地に風力発電施設や大規模太陽光発電施設(メガソーラー)を設置する場合,そこの場所に存在している植生の面積が減少すること,地形が変化すること,水文プロセスが変化することは必然であり,それは許容されるべきものであるのかどうかは,土地所有者と許認可を出す行政関係者だけでなく,地域住民や研究者との合意も必要であろう.水文プロセスの変化は,その山地の保水能力の低下や,流出する水の水質の変化ももたらす.2017(平成29)年3月に環境省自然環境局より出された,「国立公園普通地域内における措置命令等に関する処理基準等の一部改正の概要」によれば,「太陽光発電施設の新築,改築及び増築による土砂及び汚濁水の流出のおそれがないこと」は適合するかどうか審査されることになっているが,何らかの地形改変を行って,土砂を河川に流出させないことなど,実質的に不可能である.
著者
田中 耕市
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.30-39, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿は,2015年に実施された「地域ブランド調査」を利用して,1,000市区町村を対象とした主観的評価に基づく地域の魅力度の構成要素とそのウェイトを明らかにした.はじめに,地域の魅力度に関わると考えられる同調査の75項目から,主成分分析によって13の主成分を導出した.次に,それらの13主成分を説明変数,市区町村の魅力度を被説明変数とする重回帰分析を行った結果,魅力度は11の構成要素から成り立っていた.それらのうち,魅力度におけるウェイトが最も高かったのは観光・レジャーであり,農林水産・食品,生活・買い物の利便性,歴史がそれに続くことが明らかになった.本稿で解明した地域の魅力度の構成要素とそのウェイトをもとに,客観的な地域の魅力度を評価することが可能となる.
著者
郭 凱鴻
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.578-589, 2017-11-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
19

2000年代の外食産業は,飲食店の店舗数が大きく減少する中で,1店舗当たりの従業者数が拡大したことに特徴づけられる.本研究では,地方都市の和歌山市を対象地域として,外食産業の再編期における飲食店の立地動向を,経営形態別(チェーン店と単独店)と業種別に検討した.その結果,チェーン店の主体を成す一般飲食店と専門料理店は市中心部で減少し,郊外の主要道路沿線とショッピングセンターで増加する傾向にあった.一方,単独店は店舗数を大きく減らしながらも市中心部に集中する立地特性を維持していた.また,居酒屋等は経営形態にかかわらず,JR和歌山駅の周辺に集中する傾向がみられた.
著者
森田 耕平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.462-486, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
62

本稿は京阪神3都市を中心とした貨物輸送を事例に,両大戦間期の国有鉄道と自動車の関係について,両者の攻防を軸に検討した.国有鉄道は主に50km程度までの輸送において貨物自動車の攻勢を受け,道路改良の早かった阪神間のように輸送量が大幅に減少する場合もあった.近距離を中心に貨物自動車の利用が広がった背景として,輸送の迅速性に加えて運賃の低廉性が重要であった.国有鉄道が従価等級制運賃をとる関係で,付加価値の高い雑貨や工業製品は貨物自動車への転移が生じやすかった.営業割引に制約の多い国有鉄道は,小運送業者の仕立てる小口混載を利用した小口雑貨類の間接的な運賃値下げを計画し,業者との連携の下に京阪神間で低廉な速達の取扱いを展開した.両大戦間期に実施された貨物自動車対抗策の基本方針(小口混載の奨励,運賃の特別割引,輸送時間の短縮)は,第二次世界大戦後の東海道を中心とした路線トラック対抗策で再現した.
著者
野上 道男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.17, 2020 (Released:2020-03-30)

『周髀算経』の一寸千里法は「魏志倭人伝」解読の里程論における基本的な論拠であるとして、多くの研究がなされてきた。これまで取り上げられることの少なかった『淮南子』天文訓の一寸千里法と比較すると、『周髀算経』巻上の「栄方陳子問答」の一寸千里法は、太陽の大きさや日影長を観測せず、しかも『淮南子』の方法を改竄開陳するときに、いくつかの誤りを犯している、と判断される。
著者
渡辺 悌二 深澤 京子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.753-764, 1998-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
4

黒岳周辺の登山道の荒廃の軽減を図るために,黒岳七合目から山頂区間の登山道に,1989年に排水路と土止め階段が設置された.これらの排水路や土止め階段が設置された当時には,板の上端まで土壌があったと考えられるが,現在では土壌侵食によって,かなりの板が露出している.調査地域に設置された板製の排水路の67%と板階段の67%が機能を失っており,57%の階段の周辺で土壌侵食が生じていた.登山道の幅は,7年間で平均72.5cm拡大していた.さらに,5地点での土壌侵食速度は,54~557cm2/年であった.この地域の既存の排水路や土止め階段はいくつかの問題を抱えており,登山道の荒廃を軽減するためには,(1)適切な設置角度の排水路の数を増やし,(2)排水路や土止め階段の長さを長くし,(3)登山道表面の整地作業を頻繁に行う必要がある.
著者
舩杉 力修
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.491-511, 1997-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
55
被引用文献数
1 2

本研究では,伊勢信仰の浸透の過程とその背景について,戦国期に伊勢信仰が浸透した越後国を事例として明らかにした.伊勢信仰の布教の担い手は神宮門前に居住する御師であったが,外宮御師北家の場合,道者の開拓は北家自身ではなく,道者の権利を売却した釜屋によって行われた.戦国期め道者開拓には,商人層も関わっていたことが指摘できた.次に,北家の1560 (永禄3)年の道者売券に見られる越後国88力村のうち,蒲原郡出雲田荘における道者の存在形態について検討した.その結果,伊勢信仰は,戦国期に新たに生まれた村を対象とし,村の開発者を道者として獲得して拡大したことがわかった.さらに,伊勢信仰の信仰拠点とされる神明社との関わりを見ると,神明社は近世の新田村に分布していることが判明した.また,道者が成立した村の生産基盤について見ると,村の主要な産物は麻の原料である青苧で,その交易の中心の担い手は,伊勢御師を出自とする蔵田五郎左衛門であったことから,商業的性格を持っ伊勢御師が,村と交易路との仲介の一端を担っていた可能性が指摘できた.つまり,戦国期における越後国への伊勢信仰の浸透は,社会・経済的な側面と密接に関わる現象であったといえる.
著者
川添 航
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.221-238, 2020-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
47
被引用文献数
3

本稿では,茨城県南部に居住する在留フィリピン人の日常生活とカトリック教会との関係に着目し,宗教施設が有する社会関係の形成・維持の役割について解明することを目的とした.国内のフィリピン人人口構成をみると,1980年代から2000年代に来日し,国際結婚を通じ定住した女性層と,2010年以降に技能実習生として来日した若年層の2類型に区分できる.技能実習生は宗教的な目的に加え同国出身者との社会関係の構築を目的として教会に訪れている.また,国際結婚を経験したフィリピン人女性の多くは,定住の過程で転居・転職を繰り返していたため分散居住傾向にあり,地域社会や職場などにおいて社会関係を維持することが困難であった.そのため,カトリック教会で形成されたフィリピン人同士の社会関係は依然として重視されており,定住以降も宗教施設は在留フィリピン人社会における結節点として機能している.