著者
赤尾 静香 朴 玲奈 梅田 綾 森野 佐芳梨 山口 萌 平田 日向子 岸田 智行 山口 剛司 桝井 健吾 松本 大輔 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】妊娠,出産は急激な身体の変化を伴うことで,さまざまなマイナートラブルが起こるといわれている。その中でも骨盤痛含む腰痛は妊婦の過半数が経験し,出産後も痛みが継続するという報告もされている。また腰痛を有する妊婦は身体活動が制限されることにより,ADLやQOLが低下すると報告されている。妊娠中に分泌されるリラキシンホルモンの作用により,仙腸骨靭帯や恥骨結合が弛緩することが原因で発症する腰痛を特に骨盤痛と呼び,出産後はオキシトシンの作用によりすみやかに回復するとされている。しかし実際に出産後1ヶ月以上経過した女性を対象とした研究は少なく,妊娠期の身体変化が及ぼす影響が出産後どのくらい持続しているか報告している研究は少ない。そこで,本研究では,妊娠期での身体変化が回復していると考えられる産褥期以降の女性における骨盤痛の有無と骨盤アライメント,腰部脊柱起立筋筋硬度に着目し,その関連性について検討することを目的とした。【方法】対象は名古屋市内の母親向けイベントに参加していた出産後3ヶ月以上経過した女性77名(平均年齢30.7±4.2歳,平均出産後月6.3±2.6ヶ月)とした。測定項目として骨盤アライメントの測定には,骨盤傾斜の簡易的計測が可能なPalpation Meterを上前腸骨棘と上後腸骨棘の下端に当て,静止立位時の左右の骨盤前後傾角度,上前腸骨棘間距離(以下ASIS間距離),上後腸骨間距離(以下PSIS間距離)を測定し,骨盤前後傾角度の左右差,ASIS間距離とPSIS間距離の比を算出した。腰部脊柱起立筋筋硬度の測定には,生体組織筋硬度計PEK-1(株式会社井元製作所)を使用し,第3腰椎棘突起から左右に3cmおよび6cm離れた位置を静止立位にて測定し,一ヵ所の測定につき5試行連続で行った。得られた値の最大値,最小値を除いた3試行の平均値を代表値とした。アンケートは基本項目(年齢,身長,体重,妊娠・産後月齢,過去の出産回数),骨盤痛,腰背部痛の有無,マイナートラブルの有無(尿漏れなど),クッパーマン更年期指数,エジンバラ産後うつ病質問票,運動習慣に関して行った。対象者は産後3ヶ月から12ヶ月までの者を抽出し,今回は骨盤痛に腰背部痛のみを有する者を除外した。骨盤痛(仙腸関節,恥骨痛のいずれか)の有無により痛みあり群と痛みなし群の2群に分けた。統計解析は,SPSS22.0Jを用い,Mann-Whitney U検定およびχ<sup>2</sup>検定を行った。【結果】痛みあり群は42名(79.2%),痛みなし群11名(20.8%)であった。痛みあり群は痛みなし群と比較してASIS間距離とPSIS間距離の比が有意に小さかった(痛みあり群2.82±0.81:,痛みなし群:3.47±1.29,p<0.05)。その他の骨盤アライメントと腰部脊柱起立筋筋硬度に有意差はみとめられなかった。また,尿漏れについて,痛みあり群では7名(16.7%),痛みなし群にはいなかった。【考察】本研究の結果より,産後女性において骨盤痛が持続していることが明らかとなった。またこれまで妊婦において非妊娠者と比較しASIS間距離,PSIS間距離が有意に大きくなると報告されている。本研究では痛みあり群でASIS間距離とPSIS間距離との比が有意に低いことから,PSIS間距離がASIS間距離と比較し回復が遅いことが,痛みの誘発に関連しているのではないかと想定される。また妊娠後期おいてPSIS間距離と臀部痛,尿漏れに有意な負の相関がみとめられるという報告もあり,本研究の結果から産後女性においても同様の結果が得られた。これらから骨盤の安定性に関与するとされている筋が,出産後も十分に機能していないことが想定される。しかし本研究では腹筋群,骨盤底筋群の評価は行っておらず,骨盤アライメントと筋の関連性は証明できなかった。今後は評価項目を増やし,骨盤アライメントが回復しない原因を検討することが必要である。本研究により産後女性の骨盤痛に対し,妊娠期での影響を考慮した上でのアプローチが必要であると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,産後女性でも妊娠期に特徴的な骨盤痛が持続していること,出産後3ヶ月経過しても骨盤アライメントが回復していないことが明らかとなった。現在,日本では妊婦,産後女性に対する理学療法士の介入はほとんどない。しかし今後産後女性の骨盤痛と骨盤アライメントの関連性を明らかにすることで,骨盤痛に対する治療やその発症を予防するための理学療法介入方法の検討につながると考えられ,理学療法士の介入の可能性が示唆された。
著者
小栢 進也 樋口 由美 青木 紫方吏 松島 礼佳 岩田 晃 淵岡 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0285, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝関節の滑膜に囲まれた空隙には滑液が貯留されており,関節運動の円滑性に寄与するとされる。関節内圧の変化によって滑液の貯留量は一定に保たれているが,炎症などによって滑液が過剰に産生されると関節浮腫を形成する。関節浮腫は大腿四頭筋の活動抑制や膝関節痛を生じるとされており,高齢者の身体活動に重要な膝伸展筋力の低下につながる。一方,高齢者の身体機能低下の予防には筋力トレーニングが実施され,筋力増強,動作能力向上など多くの効果が報告されているが,関節浮腫にどのような影響を与えるかに関しては十分な知見が得られていない。関節内圧は筋収縮によって上昇するため,筋力トレーニングは滑液循環に影響を与えることが予想される。さらに近年は筋力トレーニングによって炎症が抑制されるとの報告もあり,トレーニングにより関節浮腫を予防できる可能性がある。滑液量が過剰になると膝蓋上嚢の肥厚が認められることから,本実験では高齢者を対象として膝伸展筋力トレーニングを実施し,膝蓋上嚢の厚さがどのように変化するかを調べた。【方法】日常生活が自立している60歳以上の地域在住高齢者122名を対象とし,関節浮腫のスクリーニング検査を行った。ベッド上背臥位で膝30°屈曲位とし,膝蓋骨上縁に大腿骨長軸と水平になるよう超音波診断装置(Logiq Book XP)のプローブを当て,膝蓋骨上縁を撮像した。スクリーニング検査で膝蓋上嚢に1mm以上の肥厚が認められた方を対象として,実験の参加者を募った。ただし,膝窩部の浮腫であるバーカーズシストが確認された被験者は研究対象から除外した。研究参加に同意が得られた被験者を無作為にトレーニング群とコントロール群に分類した。トレーニングはセラバンドを用いた膝伸展抵抗運動10回3セットを自宅で実施することとし,週4回2か月間実施した。なお,高負荷トレーニングが実施できるよう初回に強度を指導した。介入前後に超音波を用い膝蓋骨上方の内側,中央,外側を撮像して,関節上嚢の厚さを計測した。身体機能検査は膝伸展筋力,歩行速度を計測した。統計解析にはSPSSを用い,トレーニング前の群間比較にt検定およびカイ二乗検定,トレーニング効果の検証に介入前のデータを共変量とした共分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【結果】スクリーニングテストより対象となった73名のうち,45名に研究参加の同意が得られ,トレーニング群23名,コントロール群22名に割り付けた。トレーニング群1名,コントロール群2名は介入後の測定が困難であった。また,コントロール群の2名にバーカーズシストが確認されたため,最終的にトレーニング群22名(男性10名,女性12名,年齢74.0±6.8歳),コントロール群18名(男性6名,女性12名,74.1±5.8歳)が解析対象となった。介入前はすべての項目で有意差を認めなかった。膝蓋上嚢の厚さは内側部と外側部で交互作用を認め,トレーニング群で減少した(内側部:トレーニング群 介入前3.5±1.7mm介入後2.8±1.5mm,コントロール群 介入前4.1±1.5mm介入後4.2±1.4mm,外側部:トレーニング群 介入前4.0±2.3mm介入後3.4±1.7mm,コントロール群 介入前4.5±1.8mm介入後4.7±1.8mm)。膝伸展筋力にも交互作用が認められ,トレーニング群で筋力が向上した。その他の項目に有意差を認めなかった。【考察】トレーニング群では介入後に膝蓋上嚢の厚みが減少した。これは膝蓋上嚢に貯留している滑液が減少したためと考える。膝関節の滑液は膝蓋上嚢と膝窩部に貯留しやすいと言われているが,今回の研究では膝窩部の浮腫であるバーカーズシストが確認された被験者は除外している。よって,関節上嚢の厚み減少は膝関節全体の関節液貯留量減少による可能性が高いと考える。【理学療法学研究としての意義】膝伸展筋力トレーニングは筋力増強効果だけでなく,膝関節の滑液貯留量を減少させる可能性がある。本研究では筋力トレーニングの新たな効果が示された。
著者
松迫 陽子 笠原 伸幸 梛野 浩司 中俣 恵美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-198_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】片麻痺患者の歩行練習において、課題指向的な運動学習が重要とされている。しかし、重度感覚障害や半側空間無視(以下、USN)が重複している場合、麻痺側下肢への注意が向きにくいため、フィードバックが得られにくく運動学習の阻害となりやすい。そのため、根気よく麻痺側下肢の動きを意識させて歩行練習を行う必要がある。近年よく用いられる2動作歩行練習では、central pattern generatorの賦活や麻痺側下肢の筋活動増大が図れるとされるが、無意識下での交互歩行を促すため、上記の様な患者では運動学習が図りにくいことが考えられる。一方で、従来の3動作歩行練習では、速性の低下や2動作歩行への移行に時間がかかるとされるが、麻痺側下肢へ意識が向き、フィードバックが得られやすい。今回、回復期病棟入院中で重度感覚障害と左USNを重複した重度片麻痺患者において、麻痺側下肢を意識させて行う運動学習を目的に3動作歩行練習を実施したところ、監視歩行を獲得したので報告する。【症例紹介】53歳男性、右被殻出血、X.X.X発症、X+8日 内視鏡下脳内血腫除去術、X+29日当院転院、X+203日 自宅退院入院時:JCS1 、Brunnstrom Stage(以下、BRS) 左下肢Ⅰ、Stroke Impairment Assessment Set(以下、SIAS) 総点19点[SIAS-L/E(運動機能-下肢) 0・SIAS-Trunk(体幹) 2・SIAS-S (感覚)0]、高次脳機能 左USN(BIT 125/146点)・重度注意障害、基本動作 端座位 見守り・移乗 重度介助・移動 車椅子全介助・その他は中等度介助レベル、歩行は長下肢装具を使用し3動作揃え型の伝い歩きにて重度介助レベル、機能的自立度評価表(以下、FIM)48点 [運動25(移乗2・歩行1・階段1)/認知23]【経過】退院時:JCS0、BRS 左下肢Ⅲ、SIAS総点26点(SIAS-L/E 4・SIAS-Trunk 6・SIAS-S 0)、高次脳機能 左USN軽減(BIT141点)・注意障害軽減、基本動作 歩行以外は全て修正自立・移動は車椅子で自立、歩行は4点杖と短下肢装具を使用し3動作前型歩行にて屋内見守りレベル、FIM94点 [運動65(移乗6・歩行1・階段4 )/認知29]【考察】評価結果から、麻痺側下肢・体幹機能の改善、またUSNや注意障害などの高次機能障害の改善が示された。運動学習には内的フィードバックおよび外的フィードバックが必要であるが、本症例は重度感覚障害およびUSNのため麻痺側下肢からの感覚フィードバック、視覚による代償が得られにくい状況にあった。3動作歩行は、2動作歩行に比べ1歩行周期にかかる時間が延長され随意的な下肢の運動を促すことができる。そのため、より麻痺側下肢への注意を促すことが可能となり、歩行の運動学習に必要な内的フィードバックをもたらしたと考えた。また、運動学習に適した環境下での反復練習の継続により運動学習が成立したと考えられた。麻痺側下肢の使用を意識させながら行う3動作歩行練習は、感覚障害や高次機能障害を呈した患者に対して、運動学習とともに高次機能障害への働きかけによる改善が期待できると思われた。【倫理的配慮,説明と同意】症例報告を行うにあたり、対象者に対してヘルシンキ宣言に従い報告する内容を説明し、同意を得た。
著者
山本 直弥 勝平 純司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1235, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】サッカーのキック動作に関する研究は下肢三関節を中心に行われており,腰部負担が客観的数値で示された研究の報告は見当たらない。腰部負担を示す指標として,椎間板圧縮力がある。椎間板圧縮力(以下,LBC)は年齢や性別の違いで許容値が異なるとされており,20代男性は6000Nとされている。この年齢性別の違いを総合して,National Institute of Occupational Safety and Healthは性別年齢問わず,3400N以下を推奨している。本研究では,この3400Nを許容値,20代男性の6000Nを限界値と定義して行った。本研究の目的はサッカーのキック動作における腰部負担を運動力学的に明らかにすることとし,その中で,インステップとインサイドのLBCを算出し,比較検討した。また,腰部体幹に着目し,それぞれのキックのLBCの増加に影響を及ぼす因子を比較した。【方法】対象はサッカー経験のある健常若年男性12名とし,全員右利きの者とした。平均年齢21.1±1.7歳,平均身長171.8±5.7cm,平均体重64.3±5.9kgであった。三次元動作解析装置,床反力計,赤外線カメラを使用し,被験者には赤外線反射マーカーを計36個貼付した。計測条件としては固定した位置から助走を開始し,その後床反力計の上に置かれたボールをインステップ,インサイドで3回ずつ蹴る。本研究では,ボールスピードの再現性のため65~75%のボールスピードで行うこととした。65~75%の算出方法は,計測前被験者に最大努力でのキックを実施させ,そこで得たボールスピードの値を100%として65~75%を算出した。計測期間は軸足の踵接地からボールインパクトまでを測定した。その期間内でLBCが最大となった時点での腰部モーメントを抽出した。また計測期間内での体幹と骨盤の角度を抽出した。統計解析は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】LBCのピーク値はインステップで3906.28±591.40N,インサイドで2647.31±401.68Nとなった。LBCを体重で正規化した値において,インステップはインサイドよりも有意に大きな値を示した。腰部モーメントについては,右側屈モーメント,左回旋モーメントでインステップのほうが有意に大きな値を示した。骨盤は全施行左へ回旋していき,その左回旋角度量はインステップで有意に大きな値を示した。【考察・結論】LBCは,インステップでは6000Nの限界値までは達しないが,3400Nの許容値は超えており,インサイドでは許容値以下に抑えられていた。体重で正規化すると,インステップで有意に大きい値を示した。この原因として,インステップでの腕の振りが大きいことや,またインサイドでは蹴り足股関節外旋モーメント発生に備えるため,腰部左回旋モーメントを抑えていたことなどが考えられる。以上の点から,インステップでの強いシュートを目指すだけでなく,インサイドでの正確なシュートも交ぜて練習を行うと,腰痛の障害予防になるのではないかと考えた。
著者
アルカバズ ユセフ 嶋田 智明 小川 恵一 有馬 慶美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2159, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】本研究の目的は,重さの異なるリュックサックを背負った際の,体幹姿勢と体幹・下肢の筋活動の変化について分析することである.この領域の先行研究においては,リュックサックを背負うことと腰痛の関連性が指摘されている.しかしながら,多くの研究が学童児を対象としたものであり,成人を対象としたものは少ない.そこで本研究においては成人におけるリュックサック負荷の影響を確認することとした.【方法】対象は1 9名の健常男子大学生(平均年齢は21±3歳)であった.方法は,4つの異なる重量のリュックサックを負荷した立位で筋活動および姿勢を測定した.4つの立位肢位は,(1)リュックサックを背負わない立位,(2)被検者の体重の10%に相当するリュックサックを背負わせた立位,(3)15%のリュックサックを背負わせた立位および(4)20%のリュックサックを背負わせた立位であった.筋活動は両側の腹直筋,脊柱起立筋,内側広筋および大腿二頭筋を表面筋電計で記録した.一方,体幹姿勢はVICON250を用いて,矢状面,前額面および水平面で記録した.なお,データの記録は開始から10秒後の5秒間行った.また,疲労の影響を考慮しすべての測定の間に1分間の休憩を挿入した.得られたデータの統計処理はRepeated ANOVAを用い,有意水準を5%未満とした.【説明と同意】対象者には,口頭および書面にて研究趣旨,方法および実験に伴うリスクについて説明し,書面にて同意を得た.【結果】脊柱起立筋,内側広筋および大腿二頭筋の筋活動はリュックサック重量の変化に伴う増加率に差は生じなかった.一方,腹直筋の活動は,リュックサック重量の増加に伴い増加した(P<0.05).しかしながら,そのリュックサック重量の増加に伴う筋活動の増加率は直線でなく,負荷なしの立位肢位と体重の10%に相当するリュックサックを背負わせた立位肢位の間で最も高い増加率を示し,15%,20%では緩やかな増加率であった.一方,体幹姿勢の変化は,リュックサックを背負わない立位肢位を0°とした場合,体重の10%に相当するリュックサックを背負わせた立位肢位で3.37°伸展し,その後の15%,20%でもそれぞれ3.02°,3.90°とリュックサック重量の増加に伴う変化は確認されなかった.しかしながら,リュックサックを背負わない立位肢位と比較した場合,すべての重量で有意に伸展した(P<0.05).【考察】リュックサックを背負わない場合と比較して,リュックサックを背負うことにより腹筋群の筋活動と体幹伸展角度が増加した.しかしながら,筋活動はリュックサック重量の増加に伴って増加したのに対して,伸展角度はリュックサックを負荷した際には増加したが,その角度はリュックサック重量に左右されなかった.これは,リュックサック重量が増加しても一定の姿勢を保つための身体の生理的反応と考えられる.この傾向は,体重の20%に相当するリュックサックを背負わせた際に最も顕著となったため,腰部へのリスクという観点から避けるべきであろう.しかしながら,今回の研究においては,リュックサックの使用頻度,使用時間,種類そして使用者の幅広い年齢層に関する因子については言及できないため,今後,それらの因子の影響について検討すべきである.【理学療法学研究としての意義】本研究は理学療法研究の中でも疾病および傷害予防に属するものである.近年,リュックサックの使用頻度は増加傾向にあり,それにより発生する腰痛を未然に防ぐことは,筋骨格系疾患の予防,治療およびリハビリテーションを担う理学療法士にとって重要な使命である.したがって,本研究はリュックサックに由来する問題のメカニズムを明らかにする一助となると考える.
著者
田中 亮 木下 義博 山下 雅代
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101160, 2013

【はじめに,目的】先天性多発性関節拘縮症(以下AMC)は先天性非進行性の四肢多発性の関節拘縮と運動障害を主症状とする症候群である。原因は不明であるが、神経支配の欠如など神経原性と筋自体の異常など筋原性の2つの病型に分類されている。最近は文献での報告は少なく、臨床で出会うことの少ない疾患であると思われる。今回このAMCを持つ女児を6ヶ月の初診時から担当する機会を得た。約3年の治療経験から見えてきた臨床像や理学療法を実施する上での治療方針について考察したので報告する。【方法】症例は、41週2日2598gで出生。出生時より膝関節伸展位での股関節屈曲など異常を認め、転院先で牽引療法を実施していた。月齢5ヶ月初診。6ヶ月で理学療法開始となる。全体像は、愛嬌のある可愛らしい女児。母親とのやりとりを楽しむ姿が印象的。おもちゃへの興味も高く触ろうとするが、肘関節屈曲位の上肢を肩甲骨挙上や体幹伸展で持ち上げていた。疾患名の通り、四肢の関節には拘縮が認められたが、筋力低下も併せもっているように思われた。自発運動を含む粗大運動、関節可動域に加え、筋力や感覚も評価した。2歳からはPEDIを聴取し、日常生活状況も評価した。理学療法は運動や遊びの促しを目標にし、母親への指導と運動療法を中心に理学療法を開始した。母親へは姿勢の介助方法や遊び方の指導を行った。運動療法では座位や立位練習を早期から開始し、頭部と体幹の支持性向上に努めた。また、移動の経験や上肢筋力向上を目的に車椅子自走も早期から行った。【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表についてはその旨を本人と保護者に説明し、保護者から同意書を得た。【結果】初期評価として、粗大運動は頚定不十分、背臥位での頭部回旋や腹臥位での瞬間的頭部挙上は可能。側臥位までの寝返りも可能。関節可動域は肘関節伸展右-25°左-25°、膝関節屈曲右60°左70°と制限が認められ、肩関節屈曲や外転、股関節伸展にも可動域制限が認められた。母指内転や外反踵足などの変形も見られた。体幹変形はなかった。筋緊張は全身的に低緊張。自発運動では上肢では肩関節屈曲や肘関節伸展、母指外転が、下肢では膝関節屈曲や足関節底屈は観察されなかった。筋力は自動運動の観察からMMTによる段階づけを基準に行った。頚部・体幹伸展、肘関節屈曲、股関節屈曲・内転、膝関節伸展はMMT3以上相当、体幹屈曲、肩関節屈曲、肘関節伸展はMMT2相当、股関節伸展、膝関節屈曲、足関節底屈はMMT1以下相当と判断した。上肢より下肢に筋力低下が目立った。四肢の触覚刺激への反応は認められた。運動発達の経過は、頚定7ヶ月、座位1歳、ずり這い1歳2ヵ月、起き上がり1歳6ヵ月であった。その後、2歳7ヶ月に座位でのPush Up、2歳10ヶ月にはベンチ移乗が可能となったが、四つ這いや歩行には至っていない。移動においては2歳4ヵ月時に車いすを作製し、3歳2ヶ月時には「お家でお手伝いがしたい」という本児からの希望を叶えるためローカートを作製した。また、座位にて肩より高いものをとることができるようになり、母指外転も可能となり、上肢の操作性も向上した。関節可動域においては肩関節屈曲が左右とも180°、肘関節伸展も左右とも0°と改善がみられた。しかし、下肢においては上肢に比べ変化は見られていない。PEDIは2歳、2歳6ヶ月、3歳4ヶ月時に聴取した。尺度化スコアが移動領域の機能的スキルでは32→42.4→49.7に、介助者による援助では31.9→40.9→47.2に、セルフケア領域でも機能的スキルでは37.8→45.2→54.9に、介助者による援助では20.1→44.4→53.4に変化した。知能検査は2歳時に実施しIQ83であった。足部変形に対しては2歳7ヶ月時に手術を行っている。【考察】本症例は主治医より「関節が硬いだけで、関節が動けば歩ける」と伝えられていたが、実際には関節拘縮と筋力低下が主症状であった。上肢では腋窩・橈骨神経領域に、下肢では坐骨神経領域の筋力低下が目立ち、神経原性拘縮と思われた。上肢においては筋力の回復に伴う関節可動域の改善が見られたが、下肢を含めると筋力など著しい身体機能の改善は得られていない。しかし、知的に高く代償動作の獲得や移動器具の活用が可能であり、PEDIの結果からも日常生活能力の向上が認められた。AMCを持つ児への理学療法においては、知的状況も含めて残存機能を評価し把握することで、運動発達や日常生活能力の獲得を予測し、アプローチを行うことが重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本報告は、報告例の少ないAMCについて理解や治療方針を考える上での一助となりうる。
著者
北川 孝 寺田 茂 三秋 泰一 中川 敬夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0508, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】近年,超音波診断装置を用いた筋内脂肪増加の評価方法として筋エコー輝度(以下,筋輝度)の有用性が注目されている(Euardo 2012, Fukumoto 2012)。また機器による筋輝度測定の違いをキャリブレーションした指標として輝度比(Luminosity ratio,LR)が報告されている(Wu 2010)。大腿四頭筋の筋力発揮には筋厚や羽状角などの筋の形態的要因が影響するとされているが,筋力と筋輝度およびLRとの関連についての報告は十分にはない。また筋輝度と筋力の関係を検討したものは対象者が限られた年代を対象としているものが多い。本研究の目的は幅広い年代の健常者における大腿四頭筋の筋厚,筋輝度およびLRが膝伸展筋力に及ぼす影響を調べ,その値から膝関節伸展の最大等尺性筋力の予測式を立てることである。【方法】対象は成人男女各20名(平均年齢38.7±11.5歳,身長165.9±7.5cm,体重58.8±10.0kg,大腿周径50.2±4.4cm)とした。選択基準は20-59歳の健常者で日常生活が自立している者とし,除外基準は体幹または下肢の手術歴のある者,神経学的疾患および筋骨格系疾患を有する者とした。測定項目は皮下脂肪厚・輝度および大腿直筋(RF)・中間広筋(VI)の筋厚・筋輝度,膝関節伸展等尺性筋力とした。超音波診断装置(GEヘルスケア社製LOGIQ P5)を使用し,安静端座位での利き足の大腿四頭筋の横断画像を記録した。10MHzのリニアプローブを使用し,ゲインなどの画質条件は同一の設定で測定した。記録部位は上前腸骨棘と膝蓋骨上縁の中点とし,プローブは皮膚面に対して垂直に保持し,筋肉を圧迫しないよう皮膚に軽く接触させた。画像解析ソフト(Image J)を使用して3回の画像の皮下脂肪厚(fat-T)および皮下脂肪輝度(fat-EI),RFの筋厚(RFMT)および筋輝度(RFEI),VIの筋厚(VIMT)および筋輝度(VIEI)を測定し,平均値を算出した。またRFEI,VIEIをfat-EIで除したものをそれぞれRFLR,VILRとした。膝関節伸展等尺性筋力の測定には筋力測定装置(ミナト医科学株式会社製コンビット)を使用し,膝関節屈曲60°位の端座位にて利き足の膝関節伸展等尺性筋力(Nm)を測定した。筋力値は3回測定したうちの最大値を使用した。統計学的解析としてPearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用い対象者の筋力値とその特性および画像所見との関連性を検討した。また筋力値を従属変数,対象者の特性および画像所見の中から筋力値と有意な相関がみられた項目を独立変数とし,ステップワイズ法を用いて重回帰分析を行った。すべての統計の有意水準は5%未満とした。また本研究での皮下脂肪輝度および筋輝度の信頼性を調べるためにfat-EI,RFEI,VIEIそれぞれの同一検者による2回の測定値について級内相関係数を求めた。【結果】輝度測定の級内相関係数は0.99であった。筋力値は151.3±52.3Nm,fat-Tは0.54±0.25cm,fat-EIは94.1±11.3pixel,RFMTは1.87±0.42cm,RFEIは71.9±13.8pixel,RFLRは0.77±0.17,VIMTは2.02±0.50cm,VIEIは54.7±11.8pixel,VILRは0.59±0.14であった。相関分析の結果,筋力値と身長,体重,大腿周径,fat-T,fat-EI,RFMT,RFEI,RFLR,VIMT,VIEI,VILRに有意な相関がみられた。重回帰分析の結果,筋力値に影響を与える有意な因子として身長,VIMTが抽出された。標準回帰係数は身長が0.57(p<0.001),VIMTが0.49(p<0.001)であった。筋力値の予測式は,[筋力値(Nm)=-585.1+3.95×身長(cm)+40.5×VIMT(cm),p<0.001]であり,その決定係数は0.67であった。【考察】級内相関係数で求めた輝度の信頼性は0.99であり,高い信頼性が認められた。本研究の結果より,膝関節伸展の最大筋力には身長および中間広筋の筋厚が影響することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】臨床では膝関節周囲の疼痛や臥床状態などにより膝関節伸展筋力を測定することが困難な患者が多く見受けられる。そのような症例においても本研究における結果が応用できれば,非侵襲的に筋の量および質の評価が可能となると期待される。
著者
山下 裕 西上 智彦 古後 晴基 壬生 彰 田中 克宜 東 登志夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-198_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】頚部痛患者において,単に筋や関節由来だけでなく,様々な要因が能力障害に関与することが明らかになっている.外傷性頚部痛は非外傷性頚部痛よりも,臨床症状がより重度であることが報告されているが,それぞれの能力障害に関与する要因は未だ明らかではない.近年,他害的な外傷や痛みに伴う不公平感を定量するInjustice Experience Questionnaire(IEQ)や,頚部の身体知覚異常を包括的に評価するFremantle Neck Awareness Questionnaire(FreNAQ)といった新たな疼痛関連指標が開発されているが,外傷性,非外傷性頚部痛それぞれの能力障害にどのように関与するか明らかでない.本研究の目的は,外傷性と非外傷性頚部痛の疼痛関連因子の比較及びそれぞれの能力障害に影響する因子を検討することである.【方法】対象は, 頚部痛患者119名(外傷性頚部痛患者74名,非外傷性頚部痛患者45名)とした.評価項目として,疼痛期間,安静時・運動時痛,能力障害はNeck Disability Index (NDI),不公平感は IEQ,身体知覚異常はFreNAQ,破局的思考は短縮版Pain Catastrophizing Scale(PCS6),運動恐怖感は短縮版Tampa scale for Kinesiophobia(TSK11),うつ症状はPatient Health Questionnaire(PHQ2)を調査した.統計解析は,Mann-Whitney U検定を用いて外傷性頚部痛と非外傷性頚部痛における各評価項目の差を比較検討した.さらに,NDIを従属変数とした重回帰分析を用いて,外傷性頚部痛,非外傷性頚部痛におけるそれぞれの関連因子を抽出した.【結果】2群間比較の結果,疼痛期間において有意な差を認めたが[外傷性頚部痛: 30日(0−10800日); 非外傷性頚部痛: 300日( 2−7200日),p<0.001],その他の項目に有意な差は認められなかった.重回帰分析の結果,NDIと有意な関連が認められた項目として,外傷性頚部痛ではIEQ(β=0.31, p =0.03)と運動時痛(β=0.17, p =0.01),非外傷性頚部痛においてはFreNAQ(β=0.79, p =0.002)のみが抽出された.【結論(考察も含む)】本研究の結果から,外傷性頚部痛患者と非外傷性頚部痛患者において,能力障害に影響を与える因子が異なる可能性が示された.したがって,外傷性頚部痛患者では不公平感を軽減する介入が必要であり,非外傷性頚部痛患者においては身体知覚異常を正常化する介入が必要である可能性が示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の主旨と内容を口頭および書面で説明し,同意を得て研究を実施した.なお本研究は西九州大学倫理委員会の承認を得ている(承認番号:H30 − 2).
著者
中野 淳一 渡會 由恵 光山 孝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0611, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 腰部と関わりの深い股関節の機能が腰痛に及ぼす影響を検討した報告は多く存在する。しかし、腰痛を悪化させる姿勢と股関節機能の関係を検討した報告は少ない。臨床では座位の持続で症状が悪化する腰痛患者は股関節の屈曲可動域が制限され、立位の持続で症状が悪化する患者は股関節の伸展可動域が制限されている印象を受ける。そこで腰痛を悪化させる姿勢の違いと股関節可動域の関係を調査・検討した。【方法】 対象は当法人職員41名(男性14名、女性27名、平均年齢27.8±7.3歳)。 対象の腰痛の有無を調べ、腰痛の訴えがあった場合は、さらに座位または立位の持続による腰痛出現・増強傾向の有無を確認し、腰痛無群、座位型腰痛群、立位型腰痛群の3群に分類した。座位・立位ともに腰痛の訴えがあった場合は、より症状を強く訴える型に分類した。分類できない腰痛者や下肢症状のある者は対象から除外した。 内訳は腰痛無群16名、座位型腰痛群12名、立位型腰痛群13名であった。 次に対象の股関節屈曲・下肢伸展挙上(以下:SLR)・股関節伸展・腹臥位膝屈曲可動域を計測した。結果は左右の平均値を腰痛無群、座位型腰痛群、立位型腰痛群の間で比較した。検定はt検定を用い、有意水準5%未満とした。【結果】 股関節屈曲可動域の平均値では腰痛無群95.3±7.2度、座位型腰痛群90.6±6.6度、立位型腰痛群97.3±8.7度であり、腰痛無群と座位型腰痛群、立位型腰痛群と座位型腰痛群の比較において有意差が認められた(p<0.05)。腰痛無群と立位型腰痛群の間では有意差は認められなかった。 SLR可動域の平均値では腰痛無群60.3±11.3度、座位型腰痛群49.6±11.1度、立位型腰痛群59.2±8.7度で、腰痛無群と座位型腰痛群(p<0.01)、立位型腰痛群と座位型腰痛群(p<0.05)の比較において有意差が認められた。腰痛無群と立位型腰痛群の間では有意差は認められなかった。 股関節伸展可動域の平均値では腰痛無群13.4±5.2度、座位型腰痛群16.3±5.1度、立位型腰痛群14.4±6.2度で、各群間で有意差は認められなかった。 腹臥位膝屈曲可動域の平均値では腰痛無群127.7±26.2度、座位型腰痛群133.3±15.8度、立位型腰痛群136.0±11.0度で、各群間で有意差は認められなかった。【考察】 座位型腰痛群は腰痛無群・立位型腰痛群と比べ、股関節屈曲可動域・SLR可動域に制限がみられた。よって座位型腰痛者は股関節屈曲制限やハムストリングスの伸張性低下の為、座位時に骨盤が後傾する傾向が強くなり、腰痛の動態に悪影響を及ぼすことが示唆された。 また、股関節伸展可動域・腹臥位膝屈曲可動域には各群間で有意差は認められず、立位型腰痛群に特異な傾向は示されなかった。このことより、立位姿勢は座位姿勢と比べ個々の違いが大きく、股関節可動域が立位型腰痛の動態に及ぼす影響に特定の傾向はないことが今回の研究から推測された。
著者
西下 智 長谷川 聡 中村 雅俊 梅垣 雄心 小林 拓也 藤田 康介 田中 浩基 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0428, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】肩関節は自由度が高く運動範囲が広いが,関節面が小さいため回旋筋腱板(腱板)の担う役割は重要である。肩関節周囲炎,投球障害肩などに発生する腱板機能不全では棘上筋,棘下筋の柔軟性低下が問題となることが多く,日常生活に影響を及ぼすこともある。柔軟性向上にはストレッチング(ストレッチ)が効果的だが,特定の筋の効果的なストレッチについての研究は少ない。棘下筋に関しては即時効果を検証するような介入研究もされているが,棘上筋ではほとんど見当たらない。棘上筋の効果的なストレッチは,複数の書籍では解剖学や運動学の知見をもとに,胸郭背面での内転(水平外転)位や伸展位での内旋位などが推奨されているが定量的な検証がなされていない為,統一した見解は得られていないのが現状である。Murakiらは唯一棘上筋のストレッチについての定量的な検証を行い最大伸展位での水平外転位が効果的なストレッチであるとしているが,これは新鮮遺体の上肢帯を用いた研究であり,臨床応用を考えると生体での検証が必要である。これまで生体における個別のストレッチ方法を確立できなかった理由の一つに,個別の筋の伸張の程度を定量的に評価する方法が無かったことが挙げられる。近年開発された超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いることで,計測した筋の伸張の程度の指標となる弾性率を求める事が可能になった。そこで今回我々はせん断波エラストグラフィー機能によって計測される弾性率を指標に,効果的な棘上筋のストレッチ方法を明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は健常成人男性15名(平均年齢23.4±3.1歳)とし,対象筋は非利き手側の棘上筋とした。棘上筋の弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,棘上筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率を求めた。計測誤差を最小化出来るように,計測箇所を肩甲棘中央の位置で統一し,2回の計測の平均値を算出した。弾性率は伸張の程度を表す指標で,弾性率の変化は高値を示す程筋が伸張されていることを意味する。計測肢位は,下垂位(1st),90°外転位(2nd),90°屈曲位(3rd),最大水平内転位(90Had),45°挙上での最大水平内転位(45Had),胸郭背面での最大水平外転位(20Hab),45°挙上での最大水平外転位(45Hab),最大水平外転位(90Hab),最大伸展位(Ext)のそれぞれの肢位にて被験者が疼痛を訴える直前まで他動的に最大内旋運動を行った9肢位に,更に安静下垂位(Rest)を加えた計10肢位とした。統計学的検定は,各肢位の棘上筋の弾性率について一元配置分散分析および多重比較検定を行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を順守し,所属機関の倫理委員会の承認(承認番号E-1162)を得て行った。対象者には紙面および口頭にて研究の趣旨を説明し,同意を得た。【結果】全10肢位のそれぞれの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はRestが26.2±10.9,1stが21.2±8.0,2ndが37.0±13.7,3rdが28.3±11.2,90Hadが29.3±9.5,45Hadが37.1±16.7,20Habが34.0±13.1,45Habが83.3±35.4,90Habが86.0±34.1,Extが95.7±27.6であった。統計学的にはRest,1st,2nd,3rd,90Had,45Had,20Habに対して45Hab,90Hab,Extの弾性率が有意に高値を示した。Rest,1st,2nd,3rd,90Had,45Had,20Habそれぞれの肢位間では,1stと2ndとの間にのみ有意差が見られ,その他は有意差が無かった。45Hab,90Hab,Extそれぞれの肢位間には有意な差は無かった。【考察】棘上筋のストレッチ方法は,Restに対して弾性率が有意に高値を示した45Hab,90Hab,Extの3肢位が有効であることが示され,有効な3肢位は全て伸展領域の肢位であった。しかしながら,同様に伸展領域の肢位である20Habには有意差は認められなかった。全肢位中,45Hab,90Hab,Extの弾性率が有意に高値で,かつ,20Habに有意差が見られなったことから考えると,棘上筋のストレッチ方法はより大きな伸展角度での水平外転・内旋もしくは,最大伸展位での内旋が効果的であることが明らかとなった。この結果は新鮮遺体での先行研究を支持するものであった。しかし書籍などで推奨されていた胸郭背面での水平外転位のストレッチについては水平外転よりもむしろ伸展を強調すべきであることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】これまで新鮮遺体でしか定量的な検証が行えていなかった棘上筋のストレッチ方法について,本研究では弾性率という指標を用いる事で,生体の肩関節において効果的な棘上筋のストレッチ方法が検証できた。その運動方向は,より大きな伸展角度での水平外転・内旋もしくは,最大伸展位での内旋であることが明らかとなった。
著者
工藤 慎太郎 濱島 一樹 兼岩 淳平 小松 真一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF1067, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】足部横アーチ(横アーチ)の低下は,中足骨頭部痛や外反母趾の発生機序と関係するため,その形態を捉えることは,臨床上重要である.横アーチの測定方法として,第1~5中足骨頭の距離を足長で除した横アーチ長率(TAL)が知られ,その妥当性が報告されている.しかし,その再現性については検討されていない.また,TALは静止立位で測定する.臨床上,静止立位において,横アーチが保持できているが,歩行や走行などの動的場面において,横アーチが保持できず,中足骨頭部痛などを惹起している例も存在する.つまり,従来のTALは横アーチの形態を捉えることができるが,その保持機能を捉えられない.我々は先行研究において,従来のTALに加えて,下腿最大前傾位(前傾位)でTALを測定し,その差から横アーチの保持機能を捉える方法を報告した.本研究では,従来のTALと共に,前傾位でのTALの測定方法の再現性を検討することを目的とした.【方法】対象は健常成人8名(男女各4名,平均年齢19.3±2.4歳)の右足とした.検者は経験年数15年目と2年目の理学療法士(検者A・B)および理学療法士養成校に就学中の学生(検者C)の3名とした.各検者には実験実施1週間前に測定方法を告知した.各被験者に対し,1施行で静止立位と前傾位でのTALを3回測定し,中央値を採用した.測定にはデジタルノギス(測定誤差±0.03mm)を用いた.1施行ごとに1時間休息し,3施行繰り返した.統計学的手法にはPASWstatistics18を用いて,級内相関係数(ICC)と標準誤差(SEM)を求めた.なお,検者内信頼性にはICC(1,k),検者間信頼性にはICC(2,k),測定結果の解釈にはShroutらの分類を用いた.【説明と同意】被験者には,本研究の趣旨を紙面と口頭で説明し,同意を得た.【結果】検者AのICC(1,k)は静止立位で0.82(SEM:0.67),前傾位で0.92(SEM:0.36)であった.検者BのICC(1,k)は静止立位で0.80(SEM:0.02),前傾位で0.79(SEM:0.02)であった.検者CのICC(1,k)は静止立位で0.75(SEM:0.03),前傾位で0.98(SEM:0.04)であった.静止立位でのICC(2,k)は0.75(SEM:0.13),前傾位でのICC(2,k)は0.81(SEM:0.03)であった.【考察】歩行や走行において,立脚終期で,前足部に荷重が加わると,横アーチは低下する.中足骨頭部痛や外反母趾などの前足部の障害において,横アーチの過剰な低下を認めることがあるため,横アーチの形態を捉えることは臨床上重要になる.本研究の結果から,従来のTALは3名の検者とも,Shroutらの分類でgood以上と,高い検者内・検者間信頼性を示している.よって,横アーチの測定方法としての従来のTALの信頼性は高いと考えられた.諸家により,内側縦アーチの測定方法であるアーチ高率や踵骨角,第一中足骨底屈角の再現性は,触診の難易度と密接な関係があることが報告されている.そのため,従来のTALで高い再現性が得られた原因は,中足骨頭の側面に軟部組織が比較的少なく,触診が容易であるためと考えられた.臨床においては,横アーチの形態を捉える方法として,レントゲン上での第1,5中足骨角の測定やフットプリントでの評価などが用いられることが多い.しかし,レントゲンでの評価は,理学療法の臨床場面で簡便に測定することは不可能である.またフットプリント上の評価は信頼性に関して検討がされているが,報告者によって見解が異なっている.すなわち,従来のTALは,他の測定方法と比較して,簡便かつ定量的な測定方法と考えられる.一方,臨床において静止立位では,横アーチが保持できている例でも,歩行動作などの場面では,横アーチが過剰に低下する例も経験する.我々は先行研究において,動作場面での横アーチの保持機能を測定するには,従来のTALでは不十分であり,前傾位でのTALと比較することが必要なことを報告した.本研究の結果から,従来の方法と同様に,前傾位でのTALも,高い検者内・検者間信頼性を示している.そのため,前傾位でのTALの測定も臨床において簡便かつ定量的な測定方法であり,両肢位でのTALの測定は,横アーチの形態と保持機能を評価し得る信頼性の高い測定方法と考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,従来のTALと前傾位でのTALの測定方法の信頼性が証明され,横アーチ保持機能の簡便かつ定量的な測定が可能になると考えられた.つまり,有痛性足部障害の疼痛発生機序を捉える場合や,足底挿板療法を処方する際に,同方法は客観的な測定方法として有効になると考えられる.
著者
河原 常郎 土居 健次朗 大森 茂樹 倉林 準
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0320, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】変形性膝関節症や半月板損傷による歩行は,膝関節の疼痛を訴えるケースが多い。このような症例に対して,歩隔を大きくした歩行(以下,WB歩行)は,膝関節における疼痛の軽減につながることが多くあった。本研究は,WB歩行を運動学的に解析し,その有用性を検討することを目的とした。【方法】対象は整形外科的,神経学的疾患の無い健常成人男性11名(年齢25.6±2.8歳)とした。使用機器は,VICON MXシステム(Vicon Motion System:カメラ7台,200Hz),床反力計(AMTI2枚,1,000Hz),使用ソフトはVICON NEXUS 1.7.1とした。運動課題は歩行動作とし,両踵骨間の距離を,①N:規定なし,②W:左右上前腸骨棘間距離,③WH:②の1.5倍の3パターンとした。マーカは,15体節(頭部,体幹,骨盤,左右の上腕,前腕,手部,大腿,下腿,足部)の剛体リンクモデルを用い,35点を貼付した。解析項目は,歩隔,足角,歩幅,歩行速度,ケイデンス,下肢(股関節,膝関節,足関節)関節角度,関節モーメント,身体重心(COG)位置とした。計測は右脚立脚期に行った。計測時間は,自然3次スプライン補間を用いて,各データのサンプル系列から,全データのサンプル数が同じ長さになるようにデータを正規化した。統計処理は,一元配置の分散分析後,有意差を認めたものに対して多重比較Bonferroni法にて検証した。【結果】1)歩隔:歩隔は,N:93.7±31.0mm,W:288.5±33.3mm,WH:429.0±47.1mmであり,各歩行パターン間に有意差を認めた。2)歩行速度:歩行速度は,N:72.1±5.3m/min,W:70.1±6.4m/min,WH:72.6±7.2m/minであり,各歩行パターンに有意差を認めなかった。3)歩幅,足角,ケイデンス:歩幅は,N:596.0±36.1mm,W:575.4±49.9mm,WH:644.0±31.3mm,足角は,N:5.8±5.1°, W:4.0±2.9°, WH:10.1±3.0°であった。WHはN,Wに対して有意に大きい値を示した。ケイデンスはN:121.1±7.4steps/min,W:122.0±6.2steps/min,WH:112.5±8.2steps/minであった。WHはN,Wに対して有意に小さい値を示した。4)関節角度,モーメント:股関節における関節角度は,立脚期を通して,歩隔の増大に伴い,外転角度増大,外旋角度減少を示した。関節モーメントは,立脚期を通して,歩隔の増大に伴い,股関節内転モーメント(N:760.5±17.9Nmm,W:563.2±53.9Nmm,WH:342.1±84.2Nmm)・膝関節内反モーメント(N:668.3±61.1Nmm,W:599.5±54.2Nmm,WH:555.1±119.2Nmm)減少,足関節内反モーメント(N:34.6±8.5Nmm,W:108.8±22.1Nmm,WH:211.4±16.1Nmm)増大を示した。歩行周期において,WHは,初期接地から荷重応答期にN,Wと比較して股関節内転・内旋モーメント,膝関節内反モーメント減少を示した。その他の関節角度,関節モーメントは,各歩行パターン間において有意差を認めなかった。またWHは,立脚終期に,N,Wと比較して足関節背屈角度減少,股関節内転・外旋モーメント・膝関節内反・外旋モーメント・足関節外転モーメント減少を示した。5)COG:COGの側方変位量は,N:29.9±11.4mm,W:34.6±10.2mm,WH:76.0±11.0mmとなり,歩隔の拡大に伴い増加を示した。重心側方変位の増加量は,歩隔の増加量と比較して減少した。COGの鉛直変位量は,N:37.9±7.2mm,W:38.1±6.0mm,WH:39.0±7.4mmとなり,各歩行パターン間に有意差を認めなかった。【考察】WB歩行による歩隔の拡大は,膝関節内反・外旋モーメントを小さくした。その量は,軽く足を開く程度のWにて約1割,さらに足を開くWHにて約3割のモーメントの減少が可能であった。WB歩行は,変形性膝関節症(内側型),内側半月板損傷などの有痛性膝関節疾患のケースにおいてストレスとなる関節運動の制御が「安全」かつ「容易」に可能であるという点で有効であるという事が示唆された。ただし本研究は,対象を健常成人としており,WHは,N,Wと比較してケイデンス減少を示したものの,歩行速度が変わらず,歩幅は増大を示した。また,WB歩行はCOGの側方変位過多や足関節内反モーメント増大など,デメリットの要素も残しており,完全な安定した歩行戦略であるとは言い切れないことがわかった。【理学療法学研究としての意義】今回,我々はWB歩行の解析を行い,その運動学的な特徴を示した。その中でWB歩行は,歩行時の膝関節のストレスが軽減することを明らかにした。このことは変形性膝関節症における疼痛回避の一手段となりうる可能性が示唆された。
著者
生野 達也 奥埜 博之 信迫 悟志 川見 清豪 山田 真澄 塚本 芳久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3P3285, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】Pusher現象は、リハビリテーションの主要な阻害因子の一つである.KarnathらはPusher現象について、開眼時の視覚的垂直認知(以下SVV)はほぼ鉛直であるが閉眼時の身体的垂直認知(以下SPV)が健側へ偏倚していると報告しており、感覚モダリティによって垂直認知が異なることを示した.治療は、視覚を用いたSVVに関する報告は多いが、体性感覚を用いたSPVに関する報告は少ない.今回、閉眼時のSPVが健側へ偏倚している症例に対して、体性感覚を用いた治療アプローチを行ったので報告する.【自己身体の垂直性を認知する過程と観察の視点】1.注意を向けることによってはじめて体性感覚野の再組織化が起こる(Recanzone).2.身体の左右両側に受容野をもつニューロンが存在し身体正中部の情報を収集する(Iwamura).3.体性感覚と視覚を統合して空間内における身体像を符号化する(Iwamura).以上の知見より、SPVには患側の体性感覚に注意を向けて認知する能力と、左右の体性感覚を比較照合する能力について評価・観察することが不可欠である.【症例紹介】60歳代(女性) 診断名:脳梗塞(H20.8.2発症) 障害名:左片麻痺、左半側空間無視、注意障害 Pusher重症度分類:6.端座位ではPusher現象あり中等度介助レベル.開眼時のSVVはほぼ鉛直.閉眼時のSPVは健側へ偏倚.表在・深部感覚は重度鈍麻しているが、右側の触・圧覚に注意を向けた後であれば左側での識別が若干改善する.なお、本発表は症例の同意を得て行った.【病態解釈と訓練】本症例は、左上下肢の深部感覚に加え、左側殿部・足底部の触・圧覚を十分に細かく認知することが困難であり、左右からの体性感覚情報の収集に問題が生じた結果、SPVが変質したと考えた.訓練は、体性感覚の左右比較の基準を作ることを目的に、まず硬度の異なるスポンジを用いて右側殿部・足底部で触・圧覚に注意を向けた後に、左側殿部・足底部で硬度の異なるスポンジの認識する課題を通じて触・圧覚を弁別する課題を行った.左側触・圧覚の認知が可能になると共に左右比較を行った.前述の課題を通じて閉眼座位でSPVの偏倚が修正された後に、SVVとSPVを比較照合する課題を行った.【結果および考察】訓練一回毎の前後で変化が認められた.左側触・圧覚の認知が向上すると共に閉眼時のSPVは鉛直へと変化した.左半側空間無視・注意障害:軽減、Pusher重症度分類:2.端座位見守りレベル.SVVとSPVはほぼ一致した.注意を向ければ触・圧覚の左右比較が可能.本症例は感覚鈍麻に加え、左側殿部・足底部の触・圧覚に注意が向かずSPVが偏倚していた.体性感覚に注意を向け、必要な情報を選択できるようになり、左側殿部・足底部の触・圧覚の認知が可能になると共にSPVが再構築されたと考えた.
著者
山下 和樹 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B4P2150, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】Pusher現象を有する脳血管障害患者の姿勢保持能力に対するアプローチとして、垂直指標と視覚的手がかりの有効性が提唱されている。しかし垂直指標1つの提示では体幹回旋位、体幹側屈位等でも垂直指標を視覚的手がかりとし、直立位から逸脱した姿勢を学習するため本来の効果が半減する可能性がある。そこで本研究では坐位体幹直立位にて、垂直指標を患者の前方に直列で2本提示し、その2本の垂直指標が重なる位置で姿勢を保つように指示することで、端坐位保持時間の延長・坐位保持姿勢の改善につながる可能性を考え、pusher現象を有する2症例でパイロット研究を行った。【方法】対象は、右視床出血発症28日後の60代男性(症例1)、および左内包後脚のラクナ梗塞発症32日後の80代男性(症例2)であった。両症例ともcontraversive pushing臨床評価スケールは4点で、端坐位保持時間は1分未満であった。この2名に対し垂直指標未提示(以下未提示)、垂直指標1本提示(以下1本提示)、垂直指標2本提示(以下2本提示)の3通りの方法をランダムに用いて、端坐位保持時間の計測と姿勢変化の観察を3日間行った。垂直指標は、1本提示時は患者から1m前方に、2本提示時は1m前方および2m前方に設置した。口頭指示として未提示時は「姿勢をまっすぐして転倒しないように」、1本提示時は「棒のようにまっすぐ姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」、2本提示時は「棒が重なって見える所で姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」と指示した。端坐位時、両手背を転倒する直前まで大腿部に接地し、上肢又は体幹の一部がベッド面に接地するまでの時間を理学療法施行前に計測した。各試行の計測順は乱数表を用いて行った。計測時、患者に不安を与えないよう後方にセラピストが位置し、安全に配慮して行った。【説明と同意】患者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】計測初日の坐位保持時間は症例1では未提示25秒、1本提示41秒、2本提示49秒、症例2では、それぞれ23秒、44秒、55秒と2本提示時に端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。両症例とも、計測2日目、3日目は端坐位保持時間が延長し、未提示、1本提示、2本提示の順に延長する傾向は同様であった。姿勢観察では未提示時に体幹側屈位が著明にみられた。1本提示時は未提示時と比べ体幹側屈は軽度改善もしくは変化なく、体幹回旋の発生がみられた。2本提示時は未提示時・1本提示時と比べ体幹側屈、回旋の減少がみられた。両症例とも4日目以降は静的坐位で直立坐位保持が可能となった。【考察】本研究では未提示、1本提示、2本提示の順で端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。Karnath et al(2003)は、pusher現象例の視覚的垂直認知は正しくても、身体的垂直認知は非麻痺側に大きく傾いているため、両要素のギャップを埋め合わすために「押す」現象が生起する、としている。アプローチについては、垂直指標と視覚的手がかりの有効性に焦点が当てられており、症例に姿勢の認知的歪みを理解させること、視覚的に身体と環境の関係を認知させること、治療者によって視覚的手がかりを付与すること、その手がかりによって直立姿勢を学習することが重要であると述べている。しかし、1本提示では、頭頚部が床面に対し平行にある状態で体幹の側屈、回旋等が発生しても、その端坐位姿勢で視覚的に垂直位であると認識してしまう可能性が高く、それを口頭指示で矯正を図っても身体的垂直認知が障害されているため混乱を生じる可能性が高い。2本提示では、体幹直立位の状態で2本垂直指標が1つに重なる位置で姿勢を保つように提示することで、垂直指標が2本に見えれば姿勢が崩れていることを認識しやすくなり、誤った端坐位姿勢での学習を防ぐことができると考えられる。このため未提示・1本提示時に比べ2本垂直指標提示時の方が端坐位保持時間の延長に至ったものと思われる。【理学療法学研究としての意義】Pusher現象に対するアプローチとして体性感覚入力や視覚刺激入力を用いたアプローチ等が挙げられ臨床的にはいずれもある程度効果があるとされているが、どちらが有効な手段であるかは不明である。今回のパイロット研究では症例数は少なかったものの、1本提示、2本提示になるに従い、端坐位時間の延長傾向、姿勢改善がみられた。今後さらに症例を重ね2本垂直指標提示での坐位保持能力の効果を検討していきたい。
著者
板谷 麻美 岩本 久生 小林 亜紀子 金澤 浩 白川 泰山 浦辺 幸夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.524, 2003

【目的】足関節腫脹の評価は、健側と比較して行われることが多いが、そこに本来左右差があれば比較の対象にならないのではないかと考えた。 そこで今回、健常者の足部・足関節に左右差があるかを明らかにすること、ならびに、腫脹の評価法の客観性を確認することを目的とし、基本的な測定を行った。【方法】対象は、足部・足関節に腫脹を残す疾病及び外傷の既往や現症のない者18名(男性3名、女性15名)36足。年齢(平均±SD)は、25.2±6.8歳、身長は158.1±8.0cm、体重は50.0±5.5kgだった。 (1)水槽排水法(Petersenら、1999)は、排水口まで温水を入れた特製の水槽に足を入れる。この時水槽から溢れ出た水量をメスシリンダーで測定する。 (2)Figure of Eight法(Estersonら、1979)は、代表的なメジャー測定法として用いられている。まず、メジャーをTA腱と外果の中間から内側方向へ伸ばし、舟状骨結節遠位を通り、アーチを横切って第5中足骨骨底の近位を廻り、TA腱に戻る。次に、内果の遠位端からアキレス腱を通り、外果の遠位端を廻り、再びTA腱へ戻し、以上の距離を測定する。 独自の方法として、メジャーを使い(3)内果及び外果の遠位端、(4)舟状骨結節と第5中足骨骨底、(5)第1中足骨骨頭と第5中足骨骨頭を通る値を測定する。 それぞれの測定値の左右差を算出し、差の検定には対応のあるt検定を用いた。また、(1)の測定値と(2)-(5)の測定値の相関係数を算出した。危険率は5%未満を有意とした。【結果】左右差(左-右)は(1)9.54±14.33mL(p=0.01)、(2)0.26±0.54cm(p=0.06)、(3)0.06±0.46cm(p=0.61)、(4)0.03±0.23cm(p=0.64)、(5)0.01±0.37cm(p=0.95)であり、いずれも左が大きかった。 (1)と(2)-(5)の相関係数(r)は、(1)vs(2) 右:0.95、左:0.96、(1)vs(3) 0.91、0.96、(1)vs(4) 0.91、0.92、(1)vs(5) 0.89、0.87で、いずれも高い相関を認めた(p<0.05)。【考察】今回、足関節腫脹の評価法の客観性を確認するため、健常者の足部・足関節に左右差があるかを調査した。 その結果、左足の容積及び周径が大きいことが明らかになった。容積の左右差9.54mLは、対象の足部・足関節の平均容量850mLの約1.1%にあたる。右足の容積にこれを加えたものが、左足の容積になるという臨床的な目安が示された。左足の値が大きい理由は、平沢(1980)が足底面積が左側で大きいことを示していることと関係すると考えるのが妥当であろう。 水槽排水法は足関節腫脹の評価において高い妥当性が示されたが、臨床的にはメジャー測定法が簡便である。今回行ったメジャー測定法は全て水槽排水法と高い相関があり、特にFigure of Eight法は足部・足関節全体を評価できることから、客観性のある方法と考えられた。
著者
高杉 潤 松澤 大輔 須藤 千尋 沼田 憲治 清水 栄司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】じゃんけんは,幼少期から慣れ親しんだ手遊びの一つである。通常,勝つことを目的とし,後出しは反則のため,意図的に「後出しで負ける」ことは,「後出しで勝つ」よりも難しい。「後出し負けじゃんけん」は,反射的な行動を抑制する高度な認知機能を要する課題とされ,臨床では前頭葉機能の検査として利用されており,その神経生理学的根拠として,課題遂行中に前頭前野の活性化が機能的MRIや機能的近赤外線分光法(fNIRS)で確認されている。しかしこれら先行研究は,単回の介入結果であり,複数回の連続介入による経時的変化については,パフォーマンスレベル,神経生理学的レベルともに調べた研究はなく,明らかとなっていない。そこで本研究は,後出し負けじゃんけんを複数回連続実施した際の経時的な成績の変化および前頭前野の活動の変化を明らかにすることを目的とする。【方法】<u>実験1</u><u> パフォーマンス実験</u>対象は健常成人10名(男女各5名。平均年齢21.3歳±0.7歳。全例右手利き)。被験者は椅子座位で,正面のパソコン画面から3秒間ずつランダムに提示されるじゃんけんの手の写真15枚に対し,後出しで「負け」か「勝ち」の各課題を4セッションずつ行った。1セッション1分間,セッション間のレスト時間は90秒とした。画像提示は視覚刺激提示ソフト(アクセスビジョン社製Sp-Stim2)を用い,被験者がキーボードで回答するまでの1試行毎の反応時間や正誤も自動的にパソコンに記録された。被験者毎に各セッションの平均反応時間を算出した。各セッション1試行目と誤答した際のデータは解析から除外した。<u>実験2</u><u> 脳活動計測(fNIRS)</u><u>実験</u>対象は健常成人6名(平均年齢21.2±1.0歳,女5名,男1名)とし,実験1のパフォーマンス実験と同様の課題施行中の前頭前野の活動をNIRS(Spectratech社製OEG-16)にて計測した。NIRSは課題開始から終了まで刺激提示ソフトと同期させ,事象関連型デザインで活動を計測した。ただし各セッション前のレスト時間は30秒間とした。記録された各セッションの酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)の濃度変化の平均値を算出し,各セッションの開始後および終了前の各10秒間のデータは解析から除外した。<u>解析方法</u>パフォーマンス実験では勝ち課題と負け課題の1回目から4回目までの各セッションの平均反応時間について反複測定分散分析を用いた。NIRS実験では左右半球の前頭極に位置する各4チャンネル全体のOxy-Hbの平均濃度について反復測定分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【結果】実験1の平均反応時間±SD(ms)は,負け課題では,1回目980.3±132.2,2回目930.9±115.6,3回目891.1±160.2,4回目852.5±113.3と徐々に短縮が見られた。勝ち課題は1回目801.0±86.3,2回目794.3±82.0,3回目796.1±91.5,4回目769.5±74.9と大きな変動は無く,課題条件とセッションとの間に交互作用が見られた(p=0.022)。実験2のOxy-Hbの平均濃度±SD(mmol/l)は,右半球(チャンネル4~7)は,負け課題では,1回目0.202±0.17,2回目0.078±0.16,3回目-0.02±0.11,4回目-0.02±0.09と減少傾向を示したが,勝ち課題では,1回目0.02±0.16,2回目-0.04±0.08,3回目-0.0006±0.1,4回目0.04±0.2であった。左半球(チャンネル10~13)の負け課題では1回目0.21±0.22,2回目0.08±0.17,3回目0.005±0.08,4回目0.0003±0.11と,右半球と同様に減少傾向を示した。勝ち課題では,1回目0.05±0.13,2回目-0.04±0.06,3回目-0.05±0.08,4回目0.06±0.11であった。左右半球ともに,課題条件と回数との間に交互作用を認めた(p<0.001)。【考察】「負け課題」が「勝ち課題」に比べ反応時間が遅くなることは先行研究と合致する結果となった。しかし,複数回の試行によって徐々に短縮し,最終的に勝ち課題に近い時間まで短縮した点や,本課題と類似するstroop testでは学習効果を示唆する報告もあることから,本課題も学習効果の影響を受ける可能性が推察された。さらに負け課題の反復によって,左右半球ともに前頭前野の活動も有意に低下が見られたことは,学習効果の影響と推察される。【理学療法学研究としての意義】後出し負けじゃんけん課題は,学習効果があるため,臨床で複数回実施する際は十分考慮することが必要である。
著者
橘田 正人 林 省吾 國田 佳子 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
巻号頁・発行日
pp.48100562, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩甲上神経は,棘上筋および棘下筋を支配する運動神経として知られているが,肩関節包および肩鎖関節包への枝(以下,知覚枝)や皮枝を含むとする報告も散見される(Aszmann et al. 1996, Horiguchi 1980).しかしながら,知覚枝がどの部位において分岐し,どのように走行するかについては,明確な記載が見当たらない.今回,肩甲上神経知覚枝について,分岐部と分布域を解剖学的に観察し,両者の対応関係を明らかにすることを試みた.さらに,肩関節包に分布する神経終末の組織学的所見を含めて報告する.【方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体9 体17 肩を対象とした.僧帽筋・三角筋を切離し,棘上筋・棘下筋・小円筋を剖出した.小円筋を切離した後,棘上筋・棘下筋を肩甲骨の骨膜とともに剥離,反転した.上肩甲横靭帯の腹側を通過する肩甲上神経を同定し,その分岐部および分布域を確認した.肩関節包,肩鎖関節包,肩峰下滑液包に付着する肩甲上神経の分枝を知覚枝と同定し,その分布域を解剖学的に確認した.さらに,棘窩切痕より上部および下部の領域において肩関節包とともに知覚枝を摘出し,薄切切片を作成してHE染色を行い,組織学的に観察した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】知覚枝は,17 肩中15 肩(88.2%)で確認できた.知覚枝は,15 肩において計33 枝が存在し,上肩甲横靱帯通過前で分岐するもの(以下,パターン1)2 枝(6.1%),上肩甲横靱帯通過直後で分岐するもの(以下,パターン2)6 枝(18.2%),棘上筋の腹側面(深層)で分岐するもの(以下,パターン3)21 枝(63.6%),下肩甲横靱帯通過直後で分岐するもの(以下,パターン4)4 枝(12.1%)に分類された.また,棘下筋の腹側面で分岐するものは観察されなかった.それぞれの主な分布域は,パターン1 および2 は肩鎖関節包および肩関節包の後面上部,パターン3 は肩峰下滑液包および関節後面の上部から中央部,パターン4 は肩関節包の後面中央下部であった.知覚枝が肩関節包に進入する部位の組織学的観察において,神経線維およびPacini小体様の固有知覚受容器が認められた.【考察】Aszmannら(1996)は,肩関節包の知覚について,前方部は肩甲下神経・腋窩神経・外側胸筋神経が,後方部は肩甲上神経・腋窩神経が支配すると報告している.また,肩甲上神経知覚枝として,上肩甲横靱帯通過付近で分岐し肩鎖関節・肩峰下滑液包・肩関節包後面上部に分布する枝,および棘窩切痕付近で分岐し肩関節包後面中央部から下部にかけて分布する枝を図示している.さらに,肩関節包にはPacini小体,Golgi-Mazzoni小体,Ruffini小体等の固有知覚受容器が存在し,圧力変化や加速度,とくに振動などの深部知覚の感受に関与することが知られている(Rowinski 1985).今回の観察では,肩甲上神経知覚枝は,棘上筋の腹側面(深層)において分岐する例(パターン3)が多く,主に肩関節包上部から後面中央部に分布していた.さらに,知覚枝が肩関節包に進入する部位において,Pacini小体様の固有知覚受容器が認められた.今回の結果および先行研究から,肩甲上神経知覚枝は,主に肩関節包上部から後面中央部の深部知覚を司り,それを中枢神経系へフィードバックすることによって,肩関節の内旋や水平屈曲のコントロールに関与することが示唆される.一方,今回の観察において,肩関節包後面下部に分布する知覚枝は確認されなかった.肩関節後面下部の知覚は,主に腋窩神経が司り,肩関節の外旋や挙上のコントロールに関与すると推測される.【理学療法学研究としての意義】肩関節可動域の改善を目的とする理学療法において,肩関節後面にアプローチする上で,肩関節包に分布する脊髄神経の走行および知覚枝の分布域を考慮することは重要である.さらに,根拠に基づく理学療法を行うためには,解剖学的所見だけではなく組織学的所見を含めて,機能解剖学的かつ病態生理学的な考察が不可欠である.本研究は,肩甲上神経知覚枝が肩関節運動のコントロールに関与する可能性を示唆するものであり,肩関節運動障害の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
山口 祐樹 上野 琢也 園田 竜平 松田 憲亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0117, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】足関節内反捻挫はスポーツ外傷の中で最も発生頻度の高い外傷であり,水中での競技以外ほとんど全ての競技で頻繁に見られる。また,既往回数の違いにおける足部の機能障害との関連性の研究は少ない。本研究では,足関節内反捻挫の既往回数と機能障害の関連性および評価項目について検討を行うことを目的とした。【方法】対象者は,健常大学生男性36名,72足(年齢21.4±1.1歳,身長:173.2±5.3cm,体重:67.0±9.5kg)とした。対象者には研究内容を口頭で説明し同意を得た。また,本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した。問診より,①捻挫複数回群43足,②捻挫一回群11足,③捻挫未経験群17足の3群とした。問診は捻挫既往,回数,受傷後の対応,診断名,損傷部位,重症度,慢性足関節不安定性(CAI)の評価,スポーツ歴,利き足,身長,体重,その他既往の11項目で実施した。計測は,足関節アライメント,関節可動域測定(以下:ROM測定),Finger of 8 hop test(F8),Side hop test,筋力測定,下肢長測定,タイトネステストの7項目を実施した。筋力測定ではμ-tasF1(アニマ株式会社製:ハンドルダイナモメーター),下肢長測定の際にはメジャーを用いて測定を行った。統計は一元配置分散分析を用い,その後tukey法による多重比較検定を行った。有意水準はp<0.05とした。また,評価項目と捻挫回数との関連性の検討をPearsonの相関係数を用いて行った。【結果】足関節捻挫回数と評価項目の相関性は,足関節底屈(膝屈曲)ROM(-0.39),足関節底屈(膝伸展)ROM(-0.32),足部外転(-0.43),股関節外転筋力(-0.3),F8(0.34)であった。また足関節内反捻挫1回群と複数回群で有意差を認めた項目は足関節底屈(膝屈曲)ROM,足関節底屈(膝伸展)ROM,足部外転であった。また内反捻捻挫未経験群と複数回群との間で有意差がみられた評価項目は股関節外転筋力,F8であった。【考察】本研究では足関節内反捻挫の既往回数と関連性を示した評価項目は足関節底屈(R=-0.39)および外転可動域(R=-0.43)であった。またこれらの評価項目では足関節内反捻挫1回群と複数回群の間で有意に低下する事がわかった。CAIを予防する視点からこれらの可動性を観察する事の重要性があると考える。内反捻挫回数が増加することにより足関節底屈可動域が低下する原因として,内反を制御する靭帯の損傷により,その周囲に炎症が起こること,二次的に周囲の軟部組織の伸張性が低下する1)事が挙げられる。一方,足関節外転における可動域制限については,上述の足関節底屈可動域制限が関連すると考えられる。捻挫足では背屈運動時に外転方向へ誘導されることがわかっている2)。このため,内反捻挫複数回群と1回群では外転可動域の測定肢位(底背屈角度)が異なっている可能性がある。この理由から内反捻挫複数回群で足部外転の可動性が有意に増加したと考えられた。先行研究3)では荷重位での背屈角度,レッグヒールアライメント,底屈内反角度などの評価項目で内反捻挫1回群と複数回群で有意差を認めている。対象者数や測定方法も含めて詳細に検討し,今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】慢性足関節不安定症の評価項目としての有用性を見出す。