著者
齊藤 明 皆川 洋至 渡部 裕之 川崎 敦 岡田 恭司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1262, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】成長期野球肘は骨軟骨障害が主体であり,肘関節外側では上腕骨小頭,内側では上腕骨内側上顆に発生する事が多い。いずれも投球時の肘関節外反が関与するとされており,その制動には前腕回内・屈筋群が働くと考えられている。臨床においてもこれらの筋の硬さは頻繁に経験するが,成長期野球肘の外側・内側障害との関係は明らかにされていない。本研究の目的は,超音波エラストグラフィ(Real-timeTissue Elastography:RTE)を用いて円回内筋の硬さと成長期野球肘の外側障害および内側障害との関係を明らかにし,予防や治療の一助とすることである。【方法】A県野球少年団に所属する離断性骨軟骨炎患者8名(外側障害群:平均年齢11.3歳),野球肘内側障害患者27名(内側障害群:平均年齢11.5歳),健常小学生43名(対照群:平均年齢10.5歳)を対象に,RTEを用いて投球側,非投球側の円回内筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,円回内筋の撮像部位は短軸像で上腕骨滑車を描出した後,プローブを遠位へ平行移動させ上腕骨滑車が消失した位置とした。硬さの解析には円回内筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど円回内筋が硬いことを意味する。また投球側,非投球側の前腕回外可動域を計測した。統計解析にはSPSS22.0を使用し,3群間でのSR,前腕回外可動域の比較には一元配置分散分析,各群における投球側と非投球側との比較には対応のあるt検定を用いた。【結果】投球側の円回内筋のSRは外側障害群1.77±0.39,内側障害群1.34±0.59,対照群0.88±0.34で外側障害群が内側障害群,対照群に比べ有意に大きく(それぞれp=0.050,p<0.001),内側障害群が対照群より有意に高値であった(p<0.001)。非投球側の円回内筋のSRは外側障害群1.02±0.31,内側障害群1.31±0.59,対照群0.89±0.30で内側障害群が対照群に比べて有意に大きかった(p<0.001)が,その他では有意差は認められなかった。各群における円回内筋のSRの投球側と非投球側との比較では,外側障害群で投球側が非投球側に比べ有意に高値を示した(p<0.001)が,内側障害群,対照群では有意差は認められなかった。前腕回外角度は投球側,非投球側とも3群間で有意差は認められなかった。【結論】成長期野球肘の外側障害および内側障害では,非障害肘に比べ投球側の円回内筋が硬いことが明らかとなった。特に外側障害では非投球側に比べ投球側でより硬く,内側障害では両側とも硬いことが特徴であると考えられる。また一般に臨床で用いられる前腕回外可動域は,これらの障害の特徴を反映しないことが示唆された。
著者
壇 順司 高濱 照 中島 喜代彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.128, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】肩内旋動作は肩甲骨と上腕骨の位置関係を3次元的にイメージすることが難しく、制限因子も明確でない。そこで、結帯動作(以下、結帯)と第2肢位内旋動作(以下、第2内旋)を健常者及び晒し骨を使い、各骨の位置関係を計測した。遺体では両動作の制限因子を調べた。肩甲骨面から見た肩甲上腕関節の最終位での運動の違いと制限因子について、若干の考察を加えここに報告する。【対象】健常男性(年齢21_から_31歳)右肩26関節と熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体右肩6関節を対象とした。【方法】1)被験者を椅座させ、頭部・腹部・骨盤を固定した。結帯と第2内旋を行わせ、各動作の最終位において、肩甲骨及び上腕骨の位置関係を3基本面から計測した。2)1)の測定値をもとに、晒し骨で両動作の最終位を再現した。その晒し骨の肩甲骨面を基準にして、上腕骨の内旋角、伸展角、外転角を実測した。3)2)の実測値をもとに、各々の動作の可動性に制限を引き起こした組織を遺体で調べた。【結果】肩甲骨面からみた上腕骨の位置は、結帯では内旋45°伸展12°外転5°、第2内旋では内旋41°伸展45°外転30°であった。結帯では小結節と臼蓋下方辺縁とが衝突したが、第2内旋ではそれは認められなかった。遺体での制限因子としては、結帯では後方及び上方関節包の緊張であり、第2内旋では後方及び下方関節包の緊張であった。制限因子となった筋は、両動作とも棘下筋、小円筋、烏口腕筋であったが、それぞれ制限する度合いが異なった。【考察】結帯動作最終位では、上腕骨小結節が肩甲骨臼蓋下方辺縁と衝突することから、骨頭は最大内旋していることが判る。一方、第2内旋動作最終位では、小結節と臼蓋下方辺縁が衝突するまで内旋していなかったが、これは上腕骨の外転による、下方関節包の伸張と上腕骨の内旋による後下方関節包伸張によるためと推察される。 棘下筋、小円筋は外旋筋であり、両動作の内旋動作を制限するが、結帯動作では上腕骨長軸と棘下筋の走行がほぼ直交するため、骨頭の内旋方向への動きに関し、棘下筋が主たる制限因子となる。第2内旋では、小円筋の停止部の関係で、上腕骨頭の外転の中心軸より遠位にあることと上腕骨が外転及び伸展することで伸張されるため、小円筋が主な制限因子と考えられる。烏口腕筋は内旋、伸展方向で起始と付着が離れることから、その緊張は、両動作の制限因子となり得るが、上腕骨内旋、伸展の差から、第2内旋動作により強い影響を与えるものと考えられる。このことより、結帯では棘下筋・後方及び上方関節包の緊張、第2内旋では烏口腕筋と小円筋・後方及び下方関節包の緊張が制限因子と推察されるので、これらの組織が治療のポイントになると考えられる。
著者
石田 弘 末廣 忠延 小野 晃路 黒住 千春 渡辺 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0686, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頸部深層屈筋群(頭長筋,頸長筋)には頭頸部屈曲作用(上位頸椎の屈曲と頸椎前彎の減少)がある。この頸部深層屈筋群の機能を間接的に評価する方法が頭頸部屈曲テストである。頸部痛患者では,頸部深層屈筋群の機能低下が生じており,頭頸部屈曲テストの際には,代償的に表層の胸鎖乳突筋の筋活動が増加する(Jull 2000;Jull et al. 2004;Sterling et al. 2001)。また,頸部痛患者では,頸部深層屈筋群の筋厚が健常者と比較して薄いことも報告されている(Javanshir et al. 2011)。そこで,本研究では,頸部深層屈筋群の筋厚を測定することで頭頸部屈曲機能を間接的に評価し,健常者においても頸部深層屈筋群の筋厚が薄いほど頭頸部屈曲テスト時の胸鎖乳突筋の筋活動量が大きいという仮説の証明を目的とした。【方法】対象は健常男性13名(平均年齢19.6±1.2歳,身長169.2±4.0cm,体重61.9±12.6kg)とした。まず,背臥位で被験者の頸部後面にチャタヌーガグループ製の圧バイオフィードバックユニットStabilizerのパッドを置き,圧パッドを20mmHgに加圧した。そして,5段階の目標値を設定して(22,24,26,28,30mmHg),頭頸部屈曲運動によって2mmHg毎に圧を上昇させる頭頸部屈曲テストの練習を被験者に行わせた。頭頸部屈曲テストの練習後,安静時の右頸部屈筋群(頸部深層屈筋群,胸鎖乳突筋)の筋厚を測定した。筋厚は,アロカ社製の超音波診断装置SSD-3500SXの10MHzのリニア型プローブを使用し,Bモードで計測した。測定は背臥位で,どちらの筋も甲状軟骨の喉頭隆起から1.5横指下の高位で画像化を行った。特に表層にある筋は接触させる力によって筋厚が変化するため,胸鎖乳突筋の画像化の際には,プローブの接触圧を鮮明な画像が映る最小限度とした。撮影は各2回で,頸部深層屈筋群では独自に考案した対角幅(Ishida et al. 2014),胸鎖乳突筋は最大膨隆部の前後幅を測定し,計測した各筋の厚さ(mm)の平均値を解析に用いた。また,筋厚比を,頸部深層屈筋群の筋厚を基準とした胸鎖乳突筋の筋厚で算出した(胸鎖乳突筋/頸部深層屈筋群)。筋厚を測定した後に,頭頸部屈曲テスト時の右胸鎖乳突筋活動を記録した。筋電計はNoraxon社製のMyosystem1200を用い,観測周波数帯域は10-500 Hz,サンプリング周波数は1kHzとした。皮膚処理後,電極を中心間距離2.5cmで胸鎖乳突筋の筋腹の下1/3に貼付した。被験者に5段階の目標値(22,24,26,28,30mmHg)に圧を上昇させ,保持できていることを確認しながら各3秒間の筋電図を2回記録し,中間1秒間の積分値を算出した。その後,正規化のためにヘッドリフト3秒間の筋活動量を1回記録し,中間1秒間の積分値を算出した。5段階の目標値を保持している際の胸鎖乳突筋の積分値をヘッドリフト時の積分値で正規化し,2回の平均値を解析に用いた。統計にはIBM SPSS Statistics 22を用い,Pearsonの相関係数で筋厚に関するパラメータと頭頸部屈曲テスト時の胸鎖乳突筋の筋活動量との関係を検討した(p<0.05)。【結果】胸鎖乳突筋の筋厚は11.1±2.1mm,頸部深層屈筋群の筋厚は8.8±1.5mm,筋厚比は1.3±0.3であった。5段階の目標値(22,24,26,28,30mmHg)を保持している際の胸鎖乳突筋の筋活動量との相関係数は,胸鎖乳突筋の前後幅(0.153,0.285,0.329,0.285,0.163),頸部深層屈筋群の対角幅(-0.577*,-0.556*,-0.400,-0.317,-0.202),筋厚比(0.604*,0.649*,0.559*,0.443,0.240)であった(*:p<0.05)。【考察】本研究において,頭頸部屈曲テスト時の胸鎖乳突筋の筋活動量は,頸部深層屈筋群の対角幅との間には22,24mmHgで有意な負の相関関係があること,筋厚比との間には22,24,26mmHgで有意な正の相関関係のあることが分かった。高い圧で相関関係がなかったことは,胸鎖乳突筋以外の表層筋も代償的に活動を高めていたことが理由と思われる。頸部深層屈筋群の筋厚は,頭頸部屈曲運動の筋力を間接的に示すと考える。頸部深層屈筋群の筋厚が薄いことは頭頸部屈曲運動の筋力が低いことを示し,健常者においても,代償的な胸鎖乳突筋の筋活動量増加が認められたことは興味深い。また,筋厚比の相関係数の方が頸部深層屈筋群の筋厚単独よりも高かったことから,最小限の胸鎖乳突筋の筋活動で行う特異的な頭頸部屈曲運動の重要性がより強調されると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,頸部深層屈筋群による頭頸部屈曲運動という機能と,筋厚という構造にも焦点を当てて頸部の運動療法を考える必要性があることを示している。
著者
小山 泰宏 葛山 元基 岡崎 久美 高村 隆 岡田 亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O3055, 2010

【目的】<BR>臨床において,上腕三頭筋のMMT( Danielsら)での筋力は問題ないにも関わらず,肩関節挙上動作で肘関節伸展が困難な例を少なからず経験する.また上腕三頭筋内側頭,外側頭は,いわゆる単関節筋であり二関節筋ではないにも関わらず,肩関節挙上角度の違いで筋出力が異なることもしばしば経験する.そこで我々は,以下の2つの仮説をたてた.1)上腕三頭筋内側頭,外側頭は肩関節挙上位では筋出力に乏しい.2)上腕三頭筋内側頭は,特に肩関節内転方向かつ伸展方向に筋出力が高くなる.本研究の目的は,上記2つの仮説を検証するため,肩関節肢位の違いにおける上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋活動を筋電図学的に検討することである.<BR>【方法】<BR>対象は,健常人男性21名(平均年齢26.29±3.1歳,平均身長171.63±4.9cm,平均体重66.27±8.1kg)の両側上肢42肢である.方法は,肩関節挙上角度が異なる6肢位で,前腕が常に重力に抗した肘関節伸展運動を伸展-20度まで行い,等尺性収縮による表面筋電図を3回測定した.また負荷は1kg重錘とした.測定6肢位は,すべて前腕回外位で前額面挙上4肢位(最大屈曲位,90度屈曲位,0度位,伸展20°位),矢状面挙上2肢位(最大外転位,90度外転位)とした.測定筋は,上腕三頭筋内側頭,外側頭,三角筋後部線維,棘下筋の4筋とした.測定機器は,Noraxon社製表面筋電図(Myosystem1400)を使用し十分な皮膚処理後に電極を貼付した.解析区間は,等尺性収縮5秒間の内,2~4秒の3秒間とした.また各筋の平均活動を算出し,3回測定の平均値を求め,DanielsらのMMT3遂行時の平均筋活動で除して標準化(%RVC)を行った.統計学的処理は,SPSS ver12.0を使用しFriedman検定を用い,その後の検定としてWilcoxonの符号付順位検定にて多重比較を行った.得られたP値についてはExcel上でBonferroniの不等式による修正を行い有意水準5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>本研究は,船橋整形外科病院倫理委員会の承認の後に行われた.被験者に対しては,本研究における測定内容,又,皮膚処理時のリスクについての十分な説明を行い,同意を得られた対象のみ測定を施行した.<BR>【結果】<BR>肩関節肢位の違いと各筋の%RVC<BR>1)上腕三頭筋内側頭:平均値は最大屈曲位7515±38.5<最大外転位89.85±48.4<90度屈曲位101.0±52.5<90度外転位128.8±44.2<0度位211.1±134.5<伸展20度位212.55±135.6の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,90度屈曲位‐最大外転位,0度位‐伸展20度位の間には有意差は認めなかったが,その他においてはすべて有意差を認めた.(P<0.05)<BR>2)上腕三頭筋外側頭:平均値は90度屈曲位78.0±31.7<最大屈曲位97.8±47.7<90度外転位107.46±39.4<最大外転位144.26±75.4<0度位149.54±81.6<伸展20度位184.45±81.6の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,最大屈曲位‐90度外転位,0度位‐最大外転位の間には有意差は認めなかったが,その他においてはすべて有意差を認めた.(P<0.005)<BR>3)棘下筋:平均値は90度屈曲位82.27±37.0<90度外転位29.44±21.0<0度位36.62±26.3<伸展20度位40.18±32.1<最大外転位45.53±16.5<最大屈曲位82.27±37.0の順に高値を示した(P=0.000).多重比較の結果は,最大屈曲位‐その他の肢位の間,また最大外転位-90度屈曲位,90度外転位の間に有意差を認めた.(P<0.05)<BR>【考察】<BR>今回の結果から,上腕三頭筋訓練として行われている肩関節挙上位での肘関節伸展訓練は,上腕三頭筋内側頭,外側頭の筋出力に乏しく,棘下筋を主とした肩関節外旋筋の筋出力が高くなることが示唆された.また上腕三頭筋内側頭については,肩関節内転かつ伸展方向に筋出力が高値を示すことが示唆された.肩関節挙上位の動作で上腕三頭筋内側頭の機能改善を促す場合には,上腕三頭筋内側頭の筋機能を十分に理解した上で反復した運動学習を行うことが重要となると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>関節可動域改善や筋力改善を促す際,筋連結に伴う効果は未だ不明なことが多い.健常人における肩関節肢位の違いによる上腕三頭筋内側頭、外側頭の筋活動を理解することは,肘関節エクササイズを施行する上で,単関節筋における筋機能を効率的に改善できると考える.
著者
桑原 渉 浦辺 幸夫 山中 悠紀 櫻井 友貴 冨山 信次 藤井 絵里
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3259, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】体幹筋は体幹の運動と安定化に寄与し、腰椎部への負担を減少させる働きを担っている。Basmajian(1985)は、安静立位時であっても、脊柱起立筋群と腹筋群の持続的な活動がみられるとし、さらに基本的立位姿勢では脊柱起立筋の活動が優位であると述べている。しかし実際には脊柱起立筋群の活動が優位な人だけではなく、腹筋群を優位に活動させ、立位姿勢の保持をする人もおり、安静立位時の体幹筋活動には個体差が大きいのではないかと考えた。また、三谷ら(2008)は、腰仙椎アライメントと体幹屈曲力/伸展力(F/E)比との間に負の相関があり、腰仙椎アライメントの変化が体幹の筋活動に変化を生じさせ、その結果体幹筋力にも変化が及ぶと報告している。このように立位時における体幹筋活動や、体幹筋力についての報告は行われているが、体幹筋活動と体幹筋力の関係を報告した先行研究は見当たらない。そこで本研究では、安静立位時の脊柱起立筋群および腹筋群の筋活動の違いにより、体幹筋力に差があるかを明らかにすることを目的とした。仮説は、安静時に脊柱起立筋群を優位に活動させている対象はF/E比が小さく、腹筋群を優位に活動させている対象はF/E比が大きいとした。【方法】対象は体幹に整形外科疾患の既往がない健常男性12名とした。年齢(平均±SD)は22.0±1.0歳、身長は171.8±7.0cm、体重は60.9±7.0kgであった。筋活動の測定肢位は安静立位とした。閉脚立位肢位にて骨盤中間位で、両上肢を胸の前で組み、2m前方の視線と同じ高さのものを注視させた。その課題を20秒間保持させ、10秒後から5秒間筋活動の測定を行った。体幹筋力の測定は、等尺性体幹筋力測定装置GT-350(OG技研製)を用いて、股関節、膝関節それぞれ90°屈曲位の椅坐位で最大等尺性収縮の筋力を測定した。数回の練習後、屈曲力、伸展力の測定を各3回ずつ行い、ピーク値を体重比に換算し、屈曲力を伸展力で除すことでF/E比を算出した。筋活動の測定には、表面筋電図Personal-EMG(追坂電子機器製)を用いた。対象筋は右側の腰部脊柱起立筋と腹直筋の2筋とした。電極の貼り付けは下野ら(2004)の方法を参考に行った。各筋の活動量は最大等尺性収縮時(Maximal Voluntary Contruction:MVC)のroot mean square value(RMS)を100%として正規化した。対象12名のうち、安静立位時において腰部脊柱起立筋より腹直筋の筋活動が高い4名を屈筋群、腹直筋より腰部脊柱起立筋の筋活動が高い8名を伸筋群として2群に分類し、それぞれの%MVC、筋力、F/E比を両群間で比較した。両群間の統計学的検定には対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】対象には事前に研究の説明を十分に行い、紙面にて同意を得て測定を行った。なお、本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号 0949)。【結果】屈筋群の筋活動は腰部脊柱起立筋で14.0±4.5%、腹直筋で18.2±4.5%、伸筋群の筋活動は腰部脊柱起立筋で16.3±5.6%、腹直筋で10.2±4.8%であった。屈筋群の屈曲力は17.1±1.1N/kg、伸展力は12.6±2.3N/kgであり、伸筋群は各々18.0±2.8N/kg、16.1±3.3N/kgとなり屈筋群と伸筋群で筋力において有意差はなかったが、屈筋群のほうが低い伸展力を示す傾向がみられた。F/E比は屈筋群で140.9±25.8%、伸筋群で112.9±11.0%となり、屈筋群のほうが有意にF/E比が大きくなった(p<0.05)。【考察】本研究では、Basmajianの報告と同様に、安静立位時では腹筋群に比して脊柱起立筋群の筋活動が高い対象が12名中8名と多いことが確認できた。屈筋群は伸筋群と比して伸展力が低い傾向にあり、さらにF/E比が大きいことが示された。つまり、安静時の腹直筋の筋活動が高い者は、体幹の伸展力が低いことでF/E比を大きくしていることがわかった。これに対して、伸筋群は屈曲力も伸展力も大きく、F/E比が小さくなっていた。このことから屈筋群は姿勢制御方法が伸筋群と異なることが考えられた。つまり、本研究での屈筋群と伸筋群の違いは日常生活やスポーツを含めた活動のなかでの姿勢制御の結果かもしれない。Klausenら(1968)は、上半身を後方に傾け、重心線が後方に移動すると、脊柱起立筋群の活動は停止し、腹筋群の活動が高くなると述べ、姿勢と体幹筋活動の関連を述べている。本研究では、姿勢についての測定は行っていない。そのため、静的な姿勢、さらには動的な姿勢制御を分析し、屈筋群と伸筋群の違いを明らかにしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】安静立位時に脊柱起立筋群が優位に活動している者のみでなく、腹筋群が優位に活動する者が存在することを明らかにできたことが本研究の意義である。このような違いが、筋力発揮の面からも特徴を呈していることがわかり、今後の理学療法学の発展に資するものであると考える。
著者
隈元 庸夫 伊藤 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0243, 2004

【はじめに】<BR> 大腿四頭筋の中で内側広筋は特に萎縮しやすく,筋力増強運動に対する反応も遅く,回復しにくい筋といわれている.このため,内側広筋の選択的なトレーニング法確立のため様々な検討がなされており,大内転筋活動を伴った股関節内転運動を行うことが重要とされている.下肢疾患者や臥床者に対する大腿四頭筋の簡便なトレーニング法として,patella setting(PS)は臨床で広く行われている. PSについては多くの報告があり,股関節回旋位に関する検討も散見されるが,いずれも股関節屈曲位や長座位での報告であり,一般に臨床で行われることが多い背臥位でのPS施行における,股関節回旋位の違いによる内側広筋の筋活動を検討した報告はない.<BR> 本報告の目的は,背臥位PS時の股関節回旋位の違いが内側広筋の筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し,内側広筋のより効果的トレーニング法確立のための一助を得ることである.<BR>【対象と方法】<BR> 対象は,下肢に整形外科的疾患の既往のない健常者20名とした.測定肢位は背臥位とし,PSは測定下肢のみ施行させた.PSの施行は,股関節内外旋中間位,内旋位,外旋位の3肢位とした.筋電測定には,アニマ社製ホルター筋電計MM-1100を用いた.導出筋は,内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿直筋,大内転筋(AM)とした.各筋の筋活動量は,股関節内外旋中間位でのPS施行時の平均積分筋電値を100%とし,外旋位と内旋位での値を各々正規化し%平均積分筋電値を算出し,これを筋活動量とした.検討項目は,(1)各導出筋の筋活動量,(2)VMとVLの筋活動量の比率値(VM/VL),(3)VMとAMの筋活動量の相関,(4)AMの筋活動量変化によるVMの筋活動量変化に関して,各々外旋位と内旋位について比較検討した.統計学的処理は(1)(2)はWilcoxon t-test,(3)はSpearmanの相関係数,(4)Kruskal-Wallis H-test 後post hoc testとして,Mann-Whitney U-test with Bonferroni correctionにて検定し,有意水準を5%未満とした.<BR>【結果と考察】<BR> 内旋位と比較し,外旋位においてVMの筋活動量の有意な増加を認めた.VM/VLに関しては,股関節内旋位・外旋位の違いによる有意差は認められなかった.VMとAMの筋活動量の相関については,外旋位では正の相関を認めたのに対し,内旋位では相関を認めなかった.AMの筋活動量変化によるVMの筋活動量変化は,外旋位でAMの筋活動量が増加した群が最も,VMの筋活動量が増加した.<BR> Cernyは長座位におけるPSの筋活動を検討し,筋活動もVM/VLも股関節回旋位による有意な差はなかったとしている.しかし,今回の結果から背臥位でのPS時には股関節外旋位で内転筋の収縮を意識することが,VMの筋活動に対してより有効となると考えられた.
著者
宮田 信彦 中川 佳久 小串 直也 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0380, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】頸長筋は頸椎椎体の前・側面を走行する頸部屈曲筋として知られ,頸椎の過度な前弯を防ぐ働きがあるとされている。近年,慢性頸部痛に対する頸長筋のトレーニングが注目され,考案されている。生活でヒトは抗重力位に対し,頭頸部を正中位に保持する立位もしくは座位の機会が多い。そのため,頸長筋のトレーニングも立位もしくは座位にて行う方法が一般的である。しかし,背臥位でのトレーニング中の頸長筋についての報告はあるが座位での報告はない。したがって,本研究は座位にて頭頸部屈曲テスト(CranioCervical Flexion Test:以下CCFT)を行わせ,頸長筋筋厚の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は頸部に既往のない健常男子大学生15名。測定肢位は壁面に肩甲骨,仙骨後面が密着した椅座位とし,座面の高さは両股関節・膝関節が屈曲90°となる様に調節した。後頭隆起下の頸部背側にスタビライザー(chattanooga社製)を置いた。CCFTは20~28mmHgの範囲を2mmHgずつ10秒間保持する様に指示した。その間の頸長筋,頸椎椎体前面,総頸動脈,胸鎖乳突筋を超音波画像診断装置(日立メディコ社製)にて描出した。画像は甲状軟骨より2cm外・下方かつ水平面上で内側に20°傾けた位置とし,頸部長軸と平行にプローブ(10MHz,リニア型)をあてた。測定側は右側とした。測定によって得られた画像から画像解析ソフトImage Jを用い,頸長筋筋厚および胸鎖乳突筋筋厚を測定した。分析は反復測定一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を行い安静時,各段階を比較した。有意水準は5%未満とした。【結果】頸長筋筋厚の平均値は安静時0.85±0.16cm,20mmHg時0.93±0.16cm,22mmHg時0.93±0.15cm,24mmHg時0.95±0.17cm,26mmHg時0.94±0.16 cm,28mmHg時0.92±0.17cmであった。頸長筋筋厚は安静時と比較して20mmHg,22mmHg,24mmHgで有意な増大がみられた。胸鎖乳突筋筋厚の平均値は安静時0.56±0.18cm,20mmHg時0.57±0.13cm,22mmHg時0.62±0.13cm,24mmHg時0.64±0.16cm,26mmHg時0.62±0.16cm,28mmHg時0.64±0.17cmであった。胸鎖乳突筋筋厚の増減に有意な差はなかった。【結論】一瀬らは背臥位でのCCFTにて安静時と比較し24mmHg,26mmHg,30mmHgの各負荷段階で頸長筋の筋断面積の有意な増大を示し,背臥位での頸長筋の形状的変化を明らかにしている。本研究は座位での頸長筋筋厚の変化を検討した。安静時と比較し20mmHg,22mmHg,24mmHgの段階の頸長筋筋厚に有意な増大が見られた。しかし,安静時と26mmHg,28mmHgでは有意な差はなかった。これは負荷段階を増加させた際,下位頸椎の伸展運動を行うことで,座位の26mmHg,28mmHg中のCCFTを代償したためと考える。つまり,座位での頭頸部屈曲運動は運動負荷を低く設定する方法が好ましい。したがって,座位の頸長筋のトレーニングでは正しい運動方法および負荷量を明確に設定する必要があると考える。
著者
小田 桂吾 吉田 和歌子 藤沼 絢子 児玉 真知子 鈴木 恒 吉田 怜 成田 崇矢 馬見塚 尚孝 金森 章浩 宮川 俊平 平野 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P3435, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】膝前十字靱帯(以下ACL)再建術後、再度ACL断裂を受傷した症例について調査し、今後のリハビリテーション(以下リハ)プログラム及び予防プログラムについて検討することを目的とする.【対象および方法】平成15年4月から平成20年9月までの期間に、当院で自家半腱様筋腱(および大腿薄筋腱)を用いた解剖学的二重束でACL再建術施行例のうち経過観察可能であった155名(男性70名,女性85名,平均年齢24±10歳)のうちACL再受傷した4名を対象とした.調査項目はACL再受傷発生頻度,性別,年齢,競技種目,競技レベル,再受傷期間,受傷機転について検討した.なお本研究は当院の倫理委員会の審査を受け、承認されたものである【結果】全手術例に対するACL再受傷発生率は2.6%であった.症例の性別,年齢,競技種目は男性1例(24歳、サッカー、JFLチーム所属).女性3例(16~17歳、バスケットボール部所属で全国大会出場レベル1例,県大会出場レベル1例、ハンドボール部所属,県大会出場レベル1例)で再受傷期間は165±47日であった.【考察】再断裂した症例は1例(女性,バスケットボール部全国大会出場レベル)を除いて競技復帰前に受傷していた.移植腱の成熟および骨の癒合は3~6か月程度要すると報告されていることから、この時期のリハは筋力の回復状況や膝固有感覚の回復を考慮したプログラムを実施すると同時に危険肢位等のリスク管理を十分患者に理解させ、再断裂を未然に防ぐことが重要である.また2例は部活動以外のアクシデントで再断裂している.スポーツ活動中だけでなく日常生活レベルでのリスク管理の指導も十分行う必要性がある.以上のことは以前から報告されているが、改善されていない理由として患者本人の病態意識の低さだけでなく、再断裂した症例は全て初回も再受傷も非接触型で受傷していることから我々のリスク管理を含めた予防トレーニングの指導力不足も関係しているのではないかと考える.また当院では術後6カ月でBIODEXを用いた筋力検査を行い患健比マイナス15%以内、H/Q比60%以上を競技復帰の目安にしており今回、競技復帰後に再断裂した症例はこの目安をクリアし順調に筋力が患健比約90%回復していたにも関わらず再断裂に至ってしまった.当院のACLのリハは筋力検査の結果を競技復帰の目安にし、術後平均約8か月でリハ終了としているが、まだ競技復帰に対して不安感を持っていながら、この時期を境に今まで行ってきたリハのプログラムを終了していたことが誘因のひとつであると推察した.
著者
草野 拳 西下 智 中村 雅俊 梅垣 雄心 小林 拓也 田中 浩基 梅原 潤 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1366, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】腱板筋は肩関節の動的安定性に強く関与しており,自由度が高く運動範囲が広い肩関節において重要な役割を果たしている。棘下筋や小円筋などの腱板筋の柔軟性が低下することで,可動域制限や疼痛により日常生活動作が制限されることもある。筋の柔軟性低下や可動域制限に対してはストレッチング(ストレッチ)が用いられている。臨床で多く行われているストレッチにスタティックストレッチ(SS)があり,筋の柔軟性を向上させるためには,適切な肢位で十分な時間SSを継続する必要がある。棘下筋の効果的なSS肢位に関する報告は解剖学や運動学の知見をもとに幾つかあるが,確立されていない。新鮮遺体を用いて棘下筋に対するストレッチ研究を行ったMurakiらによると,棘下筋が最も伸張される肢位は挙上位での内旋,または伸展位での内旋である。この結果をもとに生体における検証を行った我々の研究においても,伸展位での内旋が最も効果的であるという結果が確かめられている。しかし実際にSS前後での柔軟性の変化については検証されていない。そこで本研究では,計3分間の伸展,内旋方向SSが棘下筋の柔軟性向上,内旋可動域拡大に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。そのなかで,SSを30秒刻みで行うことでSS間における柔軟性の時間的な推移を見ることにした。【方法】対象筋は健常成人男性16名(平均年齢22.7±1.6歳)の非利き手側の棘下筋とした。筋の硬さの程度を表す指標である弾性率の計測は,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。弾性率は低値を示す程筋が柔らかいことを意味する。計測部位は棘下筋上部で統一し,筋腹に設定した関心領域の弾性率を3回計測し,その平均値を算出した。計測肢位は腹臥位にて母指を第7胸椎に合わせた肢位とした。SSは腹臥位にて肩甲骨を上から圧迫し固定した状態で,結帯肢位から母指を脊椎に沿わせて他動的に肩関節伸展,内旋運動を行った。運動強度は被験者が疼痛を訴える直前までとし,SS30秒,計測30秒の間隔で6セット行った。計測はSS介入前(Pre),各SS間(SS1,SS2,SS3,SS4,SS5),SS介入後(Post)で行い,計7回計測した。また,PreとPostに腹臥位にて,外転90°(2nd)での内旋角度をデジタル角度計で3回計測し,その平均値を算出した。統計学的検定は,測定ごとの棘下筋の弾性率について一元配置分散分析および多重比較を行い,またPreとPostの2nd内旋角度間で対応のあるt検定を行った。有意水準は5%とした。【結果】測定ごとの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はPreが12.0±5.1,SS1が10.4±4.1,SS2が9.5±3.4,SS3が9.7±3.9,SS4が9.3±3.5,SS5が9.1±3.4,Postが8.6±3.3であった。また2nd内旋角度(単位:°)はPreが58.4±7.5,Postが62.6±5.9であった。統計学的には,多重比較によりPreに対しSS1,SS2,SS3,SS4,SS5,Postで有意に弾性率の低下が見られた。対応のあるt検定により,Preに対しPostで有意に2nd内旋角度の拡大が見られた。【考察】PreとPostの比較より,計3分間の肩関節伸展,内旋方向SSによって棘下筋の柔軟性は向上し,可動域の拡大も得られることが明らかとなった。さらに30秒ごとに弾性率の変化を見ることで,30秒のSSにより弾性率が低下し,30秒と3分のSSでは弾性率に変化が見られないことが明らかとなった。弾性率を指標に下肢でストレッチ研究を行った我々の研究では,腓腹筋の柔軟性の向上には2分以上のSSが必要であることが明らかとなっているが,それに対し棘下筋ではより短いSS時間で柔軟性が向上したと考えられる。これは棘下筋の筋断面積が腓腹筋に比べ非常に小さいことが理由として考えられる。【理学療法学研究としての意義】これまでストレッチ前後での柔軟性の変化が検証されていなかった棘下筋に対し,先行研究で最も効果的であるとされている伸展,内旋方向SSを3分間行うことによって棘下筋の柔軟性は向上し,内旋可動域も有意に拡大することが明らかとなった。また,このSSにより30秒で棘下筋の柔軟性が向上していることが明らかとなった。
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 西中 直也 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101619, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】古くから諸家によって肩関節機能に関する研究がなされてきている。腱板機能訓練に関しては筒井・山口らの報告を契機に多くの訓練方法が用いられ、近年では肩甲骨の機能が注目され、肩関節求心位を得るための訓練方法が多々報告されている。しかし、肩関節の動的安定化機構である腱板を構成する各筋が肩関節求心位を保つための機能について報告しているものは渉猟した限りでは見つからない。今回、腱板断裂症例の腱板機能を調査し、肩関節求心位を保持する腱板機能について興味ある知見が得られたので報告する。【方法】2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例35名(年齢60.8歳±12.7、男性19名・女性16名、罹患側 右22名・左13名)について、術前MRI所見および手術所見からA群(棘上筋単独断裂 23名)、B群(棘上筋+棘下筋断裂 5名)、C群(肩甲下筋を含む断裂 7名)の3群に分類した。 「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、関節窩と上腕骨頭の適合性について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は任意の垂線に対する上腕骨および関節窩の角度を計測し、関節窩と上腕骨頭の適合性は、関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として関節窩に対する上腕骨頭の位置関係を計測した値を腱板機能とした(正常範囲-1.11±2.1、大和ら1993)。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ²検定を用いて危険率5%にて行い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、腱板機能について3群を比較検討し、さらに腱板機能については正常範囲を基に3群間で比較検討した。【説明と同意】当院整形外科受診時に医師が患者の同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】測定平均値をA群、B群、C群の順で示す。上腕骨外転角度(度)は43.59±8.84、45.64±7.04、33.83±7.54、肩甲骨上方回旋角度(度)は10.17±13.46、0.96±5.02、24.87±22.92であり、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度については3群間で有意差は認められなかった。腱板機能は-0.75±4.76、5.44±12.61、7.84±5.07であり、3群間で有意差は認められ(p=0.007)、なかでもC群はA群と比較して関節窩に対して骨頭の位置が上方に移動していた(p=0.0008)。腱板機能について正常範囲を基に各群間で比較した結果、A群では正常範囲に入るものが23名中10名(43.5%)であり、関節窩に対して骨頭が上方に移動しているもの、下方に移動しているものがそれぞれ26.1%、30.4%あったが、B群、C群では正常範囲に入るものが0%、14.3%であった。B群は骨頭の上方移動および下方移動を呈するものが半数ずつであったが、C群では7名中6名(85.7%)が骨頭の上方移動を呈しており、有意差が認められた(p=0.03)。【考察】腱板断裂の指標として用いられる肩峰骨頭間距離は下垂位前後像で計測し、その狭小化を認める症例は腱板断裂の疑いがあるとされているが、今回用いた機能的撮影法は肩甲骨面上45度拳上時における肩甲骨と上腕骨の位置関係を調査している。 当院では、肩関節疾患患者に対し理学療法実施時に疼痛誘発テストとして肩甲骨面上45度挙上位での徒手抵抗テストを行ない、理学療法プログラム立案の一助としているが、このテストと同一の撮影肢位であるレントゲン像を用い、腱板断裂症例の腱板機能を断裂腱によって分類して調査することによって肩関節の求心位に作用する筋が明らかになると考えた。その結果、棘上筋の単独断裂では約半数は正常範囲にあり、残りの半数および棘下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭が上方あるいは下方へと移動するが、肩甲下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭の上方移動が認められたことから、肩甲下筋の機能不全が肩関節求心位に大きく影響することが示唆された。また、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は各群間で差がなかったことから、腱板機能不全を呈する症例は上腕骨を空間で保持するために肩甲骨が様々な反応を示すことが推測でき、前回報告した結果を裏付けするものと考える。 臨床上、肩甲下筋を選択的に収縮させることによって肩関節可動域が改善する症例を経験するが、肩甲帯の土台である肩甲骨の機能はもちろんのこと、腱板機能不全に対し肩関節求心位を確保するために選択する理学療法プログラムは肩甲下筋を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から肩関節疾患症例に対しておこなわれる腱板機能に関する理学療法プログラム立案を再考する必要性が示唆された。
著者
佐藤 圭汰 小俣 純一 遠藤 達矢 三浦 拓也 岩渕 真澄 白土 修 伊藤 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0183, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】肩こりは平成22年および25年の厚生労働省国民生活基礎調査において,男女ともに高い有訴率で,改善が急務とされる病態の一つである。その中でも,肩こり患者の僧帽筋の筋硬度は健常者と比較して有意に高値を示すという報告があり,理学療法介入による改善が期待できる一つの因子である。鎮痛効果を目的とした電気刺激療法は,一般的に経皮的神経電気刺激法(TENS)が用いられるが,今回はTENSと比較し皮膚抵抗が少ない高電圧電気刺激法(HVS)に着目した。HVSは鎮痛効果に加え,筋ポンプ作用による血液循環増大効果を持つことが報告されており,肩こり患者における僧帽筋の筋硬度を改善させる可能性がある。しかし,肩こり患者に対するHVSの効果は検討されていない。そこで本研究の目的は,肩こり患者に対するHVSの即時的効果と筋硬度に対する介入の意義を検証することである。【対象と方法】対象は同意を得た肩こりを有する成人女性15名(40.3±8.4歳,155.4±2.6cm,58.7±10.5kg)。HVSはPHYSIO ACTIVE HV(酒井医療社製)を用い,設定を周波数50Hz・パルス持続時間50μsecとして,対象者が不快に感じない電流強度で10分間実施した。筋硬度の測定は超音波画像診断装置Aixplorer(SuperSonic Imagine社製)を用いた。測定肢位は両上肢を体側につけた腹臥位として,僧帽筋上部線維の筋硬度を測定した。筋硬度はHVS前・直後・5分後,疼痛(VAS)はHVS前後に評価を実施した。統計的解析は治療前後の筋硬度変化に多重比較法,治療前後のVASに対応のあるt検定を用いた。有意水準は全て5%とした。【結果】僧帽筋の平均筋硬度はHVS前32.9±14.0kPa,直後30.0±11.2 kPa,5分後23.8±6.6 kPaで,HVS前・直後に比べて5分後に有意な低下を示した(p<0.05)。平均VASはHVS前52.6±22.8mm,HVS後31.8±21.3mmで,HVS前に比べHVS後に有意な低下を示した(p<0.01)。また,筋硬度の改善が疼痛の改善に寄与した者10名(66.7%)で,筋硬度の改善が疼痛の改善に寄与しない者2名(13.3%)であった。【結論】結果からHVSは筋硬度を低下させる効果を有し,肩こり患者の疼痛を改善する方法のひとつとなり得ることが示された。疼痛改善に用いる筋収縮後の弛緩期を利用した動的ストレッチは,血流改善による筋痛の緩和が報告されている。土井らは動的ストレッチ効果の持続時間を検証し,血液量が増加し筋温が上昇していくことで筋硬度の低下,筋伸張性が向上すると述べ,介入前に比べ直後,10分後と有意に効果が向上することを報告した。今回,HVSにより筋収縮が繰り返され,動的ストレッチと類似した効果が得られたため,筋硬度の改善,疼痛改善につながったと考える。しかし,筋硬度の改善が疼痛の改善に寄与しない者もみられた。肩こりの原因は多岐に渡るため,筋硬度に対するアプローチはあくまで肩こり患者の疼痛を改善させる方法の一つと考え,実施することが重要と考える。
著者
梅原 潤 長谷川 聡 中村 雅俊 西下 智 草野 拳 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0374, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】上肢運動は肩甲骨,上腕骨,鎖骨などからなる複雑な運動であり,これらの協調的な運動の破綻は,肩関節障害に関連すると考えられている。その中でも,肩甲骨異常運動は肩関節疾患に頻繁にみられ,理学療法の治療対象となることが多い。肩甲骨周囲軟部組織の柔軟性低下,特に小胸筋の短縮は肩甲骨異常運動に関係すると報告されており,我々はこれまでに小胸筋の効果的なストレッチング方法及びその効果を調べてきた。そこでこれまでの研究を元に,ストレッチングによる小胸筋の即時的な柔軟性の変化が肩甲骨運動に与える影響を検討することを本研究の目的とした。【方法】対象は,健常成人男性20名(25±3.2歳)の非利き手側の上肢とした。実験手順は動作課題,5分間休息,動作課題,ストレッチング,動作課題の順とした。各動作課題は,座位での肩甲骨面挙上,外転,結髪動作をランダムに実施した。磁気センサー式三次元動作計測装置(3SPACE-LIBERTY,Polhemus社製)を用いて,肩甲骨面挙上と外転においては胸郭に対する上腕骨挙上30°~120°の範囲,結髪動作においては30°~100°の範囲で10°ごとに肩甲骨外旋角度,上方回旋角度,後傾角度を計測した。ストレッチングによる変化を調べるため,各肩甲骨運動のストレッチング前の動作課題変化量(ΔPre)とストレッチング前後の動作課題変化量(ΔPost)を算出した。小胸筋のストレッチングは,安静座位にて肩関節150°外転位から他動的に最大水平外転,最大外旋を行う方法を5分間(30秒×10回)実施した。超音波診断装置せん断波エラストグラフィー機能(SuperSonic Imagine社製)を用いて,ストレッチング前後に小胸筋の弾性率を計測した。なお,弾性率は低値な程,柔軟性が向上したことを示す。計測姿勢は肩関節90°外転位で上腕を台に置いた安静座位とし,計測部位は烏口突起と第4肋骨の中点で小胸筋の外側部とした。統計学的検定は,肩甲骨運動の変化量について反復測定二元配置分散分析および対応のあるt検定,小胸筋の弾性率について対応のあるt検定を用いた。なお,統計学的有意水準は5%とした。【結果】ストレッチング後に小胸筋の柔軟性向上が認められた。肩甲骨運動の変化量については,肩甲骨面挙上では上腕骨挙上40°~120°の肩甲骨外旋角度と60~120°の後傾角度,外転では30~120°の外旋角度と後傾角度,結髪動作では60~120°の後傾角度において,ΔPostはΔPreと比較して有意に増加した。【結論】ストレッチングによる小胸筋の即時的な柔軟性の向上は,動作課題中の肩甲骨運動を変化させることが示された。小胸筋のストレッチング後に増加した肩甲骨の外旋と後傾は上肢運動に重要であり,本研究結果は,肩甲骨異常運動の治療戦略におけるストレッチングの有用性を示す一助となると考える。
著者
長谷部 清貴 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0704, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝関節は屈曲位から伸展する際に、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる。荷重位におけるSHMでは、大腿骨と脛骨の相対運動の差分として回旋角度が決定されるため、SHMの評価は大腿骨と脛骨の回旋運動のどちらに大きく影響を受けているのか明確にする必要性がある。しかし、SHMに関する研究は非荷重位のものが多く、荷重位におけるSHMに関する報告は少ない。本研究の目的は、スクワット動作中の大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度を調査し、荷重位でのSHMの特性を明らかにすることである。【方法】 対象は、下肢に整形外科的、神経学的疾患のない健常成人15名(男性:10名、女性:5名)、平均年齢22.5±3.3歳とした。計測課題は、両下肢の間隔を肩幅とした立位姿勢から膝関節を約90°屈曲し、再び立位まで戻るスクワット運動とした。課題動作の計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点の貼付位置は、体表面上の所定の位置に計21個の標点を設置し、課題動作中のマーカーの位置を計測した。計測によって得られた標点の三次元座標データを用いて、課題動作中の膝関節屈曲伸展角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、および大腿骨・脛骨回旋角度から膝関節回旋角度を算出した。課題動作は5回測定し、その平均値を算出した。なお、関節角度の算出には、歩行データ演出用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用しオイラー角を算出した。データの解析区間は、各被験者の膝関節屈曲60°から最終伸展位とした。膝関節屈曲60°での全ての回旋角度を0°と規定し、外旋方向をプラス、内旋方向をマイナスとした。データの解析は、膝関節が伸展していく間に膝関節が外旋する外旋群と内旋する内旋群とに分類した。二群間の大腿骨回旋角度及び脛骨回旋角度の平均値の差の検定にはt検定を用いた。膝関節の回旋運動と大腿骨及び脛骨の回旋角度との関連性を調査するために、Pearsonの相関係数を用いた。なお、統計学的有意水準は危険率p<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。また全被験者に研究の趣旨および内容について十分に説明を行い、研究参加の同意を得てから研究を実施した。また、個人情報は本研究以外で使用しない旨を説明し、情報管理に配慮した。【結果】 SHMに関して、膝関節伸展時に膝関節外旋が生じる外旋群は9名(男性6名、女性3名、平均回旋角度3.5°±1.4)、膝関節内旋が生じる内旋群は6名(男性4名、女性2名、平均回旋角度-2.9°±1.2)であった。SHM中の大腿骨回旋角度の平均値は内旋群が4.9°±1.2、外旋群が-1.2°±2.4である。内旋群では大腿骨が外旋し、外旋群では大腿骨が内旋していた。群間の大腿回旋角度の相違は、統計学的に有意であった(p<0.01)。一方で、SHM中の脛骨回旋角度は内旋群が2.0°±1.0、外旋群が2.3°±1.5と全例外旋を示し、群間に有意差を認めなかった。また、大腿骨回旋角度と膝関節回旋角度において有意な負の相関関係が認められた(r=-0.94 p<0.001)、つまり大腿骨が内旋する被験者ほど、膝関節が外旋する傾向が統計学的に有意であったが、脛骨回旋角度と膝関節回旋角度との相関関係に有意差は認めなかった。【考察】 本研究において、SHMは膝関節伸展に伴い、膝関節が外旋する外旋群、内旋する内旋群の2パターンに分かれた。膝関節伸展運動中の脛骨回旋角度は両群ともに外旋を示したが、大腿骨回旋角度では群間に有意差を認めた。さらに膝関節回旋角度と大腿骨回旋角度は有意に高い相関関係を示しており、荷重位でのSHMは脛骨より大腿骨の回旋運動に影響を受けることが明らかになった。膝関節の運動は、大腿骨上の脛骨の運動(tibial-on-femoral)と脛骨上の大腿骨の運動(femoral-on-tibial)の2種類があるとされ、スクワットのような荷重位の運動は脛骨上の大腿骨の運動である。このため、荷重位でのSHMは大腿骨の運動量が大きく、大腿骨回旋角度に左右される可能性がある。大腿骨回旋角度の差異に関しては、骨盤からの運動連鎖、上半身重心の影響が考えられる。骨盤後傾は大腿骨外旋、骨盤前傾は大腿骨内旋のように、骨盤角度は大腿骨回旋に運動連鎖を引き起こす。したがって、スクワット動作中の骨盤前後傾の差異や股関節周囲筋の活動の差異が、今回の大腿骨回旋角度に影響を与えている可能性が推察される。今後、骨盤の運動解析および筋電図計測を含めて分析を行う必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、臨床において荷重位でのスクリューホームムーブメントを誘導する際には、大腿骨の動きを誘導することの重要性が示唆された。
著者
髙橋 一揮 藤沢 拓也 佐藤 光 菊地 優太 鈴木 沙斗美 松本 栞 沖 侑大郎 石川 朗 藤澤 宏幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0578, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】足踏み運動は,麻痺の改善や歩行能力改善など運動の中に多く取り入れられている。しかし,その運動強度に関して詳細な検討はなされていない。そのため,本研究では1分間当たりの足踏み回数(以下,ステップピッチ)と上肢支持の有無を変数として運動強度を中心に呼吸循環応答を検討することとした。【方法】対象者は健常若年成人女性13名であった。測定は運動負荷試験と足踏み運動とし,それぞれ別日に実施した。運動負荷試験は自転車エルゴメータを用いたramp負荷試験(10W/min)とした。一方,足踏み運動は股関節屈曲角度を45度と設定して算出した高さに紐を張り,対象者には紐に軽く触れるまで脚を上げるよう指示し,鏡を使用してフィードバックを促した。足踏み試験の設定条件はステップピッチ60・90・120(以下,P60・P90・p120)の3条件と上肢支持(手すり)の有無の2条件の計6条件としてランダムにて実施した。なお,ステップピッチはメトロノームを用いてコントロールし,上肢支持の手すりは大転子の高さとした。測定プロトコールは各条件の足踏み運動を3分間,休憩3分間を繰り返した。データは酸素摂取量を中心に呼吸循環パラメータを呼気ガス分析装置にて測定し,各条件終了直前の30秒間を平均化して代表値とした。統計処理は,R(3.2.1)を使用し,呼吸循環パラメータに関して上肢支持の有無による2要因について2元配置分散分析を,host-poc testとしてHolm法を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】運動負荷試験の結果,平均最高酸素摂取量は23.3±3.4mi/kg/min,平均ATは12.2±2.1ml/kg/minであり,比較的低体力層であった。足踏み運動の結果では,酸素摂取量にてステップピッチと上肢支持の有無には有意な主効果が認められたが,交互作用は認められなかった。多重比較では,P60・P90・P120間にいずれも有意差が認められ,P60では上肢支持無が有に対して有意に高値を示した。他の呼吸循環パラメータも類似傾向を示した。また,各条件におけるMETsと%ATでは上肢支持の有無による違いは小さく,P60(約2.5METs/約75%),P90(約3.0METs/約85%),P120(約3.5METs/約100%)であった。また,歩行率から算出した健常者の相対的平均歩行速度でのMETsと比較したところ,いずれのステップピッチにおいても足踏み試験が低値であった。【結論】本研究は対象が若年成人女性であったが,体力は60歳男性に相当していた。この対象者において,ステップピッチが増加することにより有意に呼吸循環応答が増大したが歩行に比して低負荷であったこと,ならびに,おおよそATレベルまで運動として容易に実施できる可能性を示した。よって,ステップピッチを変数とすることで合目的であり運動耐容能改善の方法となりうることを示唆した。
著者
森山 喜一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1032, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】脳損傷により高次脳機能障害を有する場合,身体機能のみでなく認知機能が日常生活に大きく影響する。特に半側空間無視(以下USN)を有する場合,身体機能は保たれていても安全な屋内外歩行が困難になるなどの問題が生じる。USNの患者に対しては様々な介入方法があるが,単に声掛けなどにより左へ向くことを意識させるのではなく,具体的な行動を自発的に言語化した上で介入する方法が有効といわれている。今回,脳梗塞により著明なUSNを呈した症例に対し,自己教示法を用いて左側への注意を促す介入を実施したところ,院内での歩行能力が向上したので報告する。【方法】対象者:60歳代,男性,無職。X年3月に脳梗塞を発症しその後リハビリを開始した。Br-s左上肢5,手指5,下肢5にて身体機能面は特に問題はない状態であるが,BIT行動性無視検査は通常検査115点であり,著明なUSNを認めた。自室からリハビリ室に行く際やトイレに行く際に部屋を見つけられずウロウロする,といった場面が多くみられた。本人は,「何で部屋が分からなくなるのだろう。」と述べていた。介入方法:自室からリハ室,リハ室から自室までの2通りのコースを設定し,自己教示法を用いて介入を行った。自己教示法は歩行する前に「左をよく見て歩く。」と患者自身が述べた後に歩行を開始した。シングルケース実験法を用い,自己教示法を用いなかった介入10回(A1期),自己教示法を用いた介入10回(B1期),用いなかった介入10回(A2期),用いた介入10回(B2期)の順に計40回の介入を行った。毎回,歩行時に声かけを要した回数をカウントし,各期の差を比較した。【結果】フリードマン検定,ボンフェローニ検定にて検討した結果,A1とB1期,A1とB2期に有意な差が認められ,自己教示法を用いた介入では有意に声かけを要した回数が少なかった。B1期は2回目より声かけの回数が減少し,後半ではほとんど声かけを必要としなかったが,次のA2期では5回目から減少していた声かけが徐々に再度増加していた。B2期では1回目より声かけが少なく,10回目まで維持できていた。【結論】今回,USNを有する患者に対して歩行前に「左をよく見て歩く。」と自己教示法を用いた介入を行った結果,左側への注意が向上し,道順を間違える回数が減少していた。また自己教示法を用いた介入を開始すると,次第に声かけを要する回数が減少していったが,再度自己教示法を用いない介入を行うと再び声かけの回数が増加していた。これは自己教示法の効果を示すと共に,効果の定着の為には一定期間以上自己教示法を用いる必要性を示していると思われる。今回は介入回数が限られていた為,今後はさらに継続した介入を行い,効果を検証する必要があると思われる。
著者
浪尾 美智子 守安 由香 小川 円 木村 英輝 金谷 親好 森近 貴幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0714, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】足底は手掌部よりも知覚神経分布が優勢で、姿勢制御に影響を及ぼすと言われている。今回、感覚障害を呈した脳卒中片麻痺患者の足底感覚に着目したアプローチを行った結果、坐位姿勢に変化がみられたので報告する。【対象】左右頭頂葉と左放線冠領域の脳梗塞両片麻痺患者の女性。触覚は右足底重度鈍麻、左足底中等度鈍麻で四肢重度鈍麻、運動覚は全て重度鈍麻であった。ラップボードを用いることで車椅子坐位を保持していた。また、端坐位保持は不可能で全介助であった。食事動作では坐位が安定しておらずリーチ動作が困難であった為、ほぼ全介助であった。【方法】端坐位の安定化を図るため机上に両前腕部を置き、足底は床面に接地させた。より多くの刺激を与える為に、感覚受容器が多数存在する母趾に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を加えた。深部感覚受容器を刺激するには圧変化や関節運動が関与してくる為、足底で床面を押す寝返り動作を行った。また背臥位にて足底と壁の間に枕やボールを置き、壁に対して垂直方向に、足底で踏むことを繰り返し行った。【結果】触覚は右足底中等度鈍麻、左足底軽度鈍麻となり、運動覚は足、膝関節は中等度鈍麻となった。坐位姿勢は右足底全面接地が行えず、左下肢で床面を押すため骨盤は後傾し、右殿部後方に荷重していた。アプローチ後は右足底全面接地が可能となり、左下肢で床面を押さなくなった為、左殿部にも荷重が行えるようになった。また机上に両前腕部を置き坐位を保っていたが、アプローチ後は端坐位保持が1分程度可能となった。車椅子坐位は左下肢でフットプレートを押すため骨盤が右に後退し、殿部が前方に滑っていたが、アプローチ後はフットプレートを押す動作が見られなくなり、坐面上に殿部を保持することが可能となった。また坐位が安定してきたため、リーチ動作が行いやすくなり、食事動作は中等度介助になった。【考察】足底に様々な素材の板を接触させ刺激に変化を与えたことで、能動的感覚受容器が活性化され、足底感覚が改善し、右足底全面接地が可能となったと考えられる。寝返り動作や足底で枕やボールに圧をかけることで、足底の圧受容器が刺激され深部感覚が改善したと考えられる。足底からの感覚情報が増加し、自己のボディーイメージが確立され始めたことで、左下肢の過剰努力が軽減し、骨盤帯の後傾や後退も改善した。また体幹を支持基底面内で保持させることが可能となった為、坐位保持も可能となったと考える。【まとめ】足底感覚は脳卒中患者の姿勢制御に影響を与える感覚であることが示唆された。本症例では足底感覚へのアプローチにより坐位姿勢に変化が認められ、食事動作の改善にもつながった。
著者
井上 大輔 宮本 定治 惠飛須 俊彦 藤尾 圭司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-193_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】腰椎椎間板ヘルニア(LDH)患者では多裂筋の組織学的変化が報告され、罹患側にて萎縮が生じる可能性が示されている。一方、MRI画像を用いて多裂筋の萎縮を示した報告も散見されるが、罹患高位と萎縮が生じる明確な部位については一定の見解が得られていない。また、多裂筋を除く傍脊柱筋を検討した研究は少なく、ヘルニアが傍脊柱筋に及ぼす影響は不明である。本研究の目的はLDH患者において傍脊柱筋の筋断面積(CSA)を測定し、罹患高位と萎縮との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は 2013年4月から2018年4月に当院整形外科を受診した腰痛を有するLDH患者63名(L4-5:32名、L5-S1:31名、年齢36.8±8.3歳、罹病期間3.4±4.0ヶ月)であった。両側性の下肢症状、多椎間のヘルニア、腰部の手術既往を有する者などは除外した。CSAはMRI画像にてCraigらの報告に準じ、L1からL5の下部椎骨終板およびL5からS1の上部椎骨終板の計7スライスを用い、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋、多裂筋を罹患側と非罹患側で計測した。得られた各CSAはL4上縁椎体面積で除し正規化した。統計処理は、各スライスの罹患側と非罹患側におけるCSAの比較をMann-WhitneyのU検定およびχ2適合度検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】L4-5ヘルニア患者ではL4、L5上縁、L5下縁、S1で、L5-S1ヘルニア患者ではL5上縁、L5下縁、S1で罹患側の多裂筋CSAは非罹患側と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。また、L4-5ヘルニア患者ではL4、L5上縁、L5下縁、S1で、L5-S1ヘルニア患者ではL5上縁、L5下縁、S1で罹患側の多裂筋が萎縮している割合が有意に高かった(p<0.01)。一方、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋は全てのスライスにて罹患側と非罹患側で有意差を認めなかった。【結論(考察も含む)】L4-5およびL5-S1ヘルニア患者において罹患側の多裂筋に萎縮を認めた。多裂筋は棘突起と同高位の脊髄神経後枝内側枝から分節性に神経支配を受けるため、罹患高位に一致した萎縮が生じた可能性がある。LDH患者では多裂筋の筋線維サイズが罹患側で有意に減少すると報告されており、MRI画像上のCSAにおいても組織学的変化が反映されたと考えられた。また、本研究では罹患高位に隣接する多裂筋にも萎縮を認めた。対象者は全例で腰痛を有しており、不活動やreflex inhibitionにより萎縮が生じた可能性がある。一方、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋は筋の形状や神経分布形態などの観点からヘルニアの影響は受けにくいと推察された。今回の検討により、腰痛を有する単椎間のLDH患者は、罹患側の罹患高位および隣接椎体の多裂筋に萎縮が生じる可能性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言を遵守し、当院倫理審査委員会の承認(承認番号:第30-60号)を得ている。
著者
季 翔 正木 光裕 梅垣 雄心 中村 雅俊 小林 拓也 山内 大士 建内 宏重 池添 冬芽 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0486, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年開発された超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能で測定される弾性率は,筋の伸張性を反映することが報告されている(Maïsetti 2012, Koo 2013)。そのため,この弾性率を指標として個別の筋の伸張の程度を定量的に評価することが可能となった。臨床において筋・筋膜性腰痛や背部筋の過緊張に対する運動療法として,背部筋のストレッチングがよく用いられている。背部筋のなかで脊柱起立筋は脊柱の伸展,同側側屈,同側回旋,多裂筋は脊柱の伸展,同側側屈,反対側回旋の作用を有する。そのため,脊柱起立筋は脊柱の屈曲,反対側側屈,反対側回旋,多裂筋は脊柱の屈曲,反対側側屈,同側回旋で伸張される可能性が考えられる。しかし,どのような肢位で脊柱起立筋や多裂筋が最も効果的に伸張されるかについては明らかではない。本研究の目的は,せん断波エラストグラフィー機能で測定した弾性率を用いて,脊柱起立筋と多裂筋の効果的なストレッチング方法を明らかにすることである。【方法】対象は整形外科的および神経学的疾患を有さない健常若年男性10名(年齢22.9±2.3歳)とした。なお,腰痛を有する者は対象から除外した。筋の弾性率(kPa)の評価には,せん断波エラストグラフィー機能を有する超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)を用い,各筋の筋腹に設定した関心領域のせん断速度から弾性率を求めた。なお,弾性率の値が高いほど筋は硬く,伸張されていることを意味する。対象筋は左腰部の脊柱起立筋(腰腸肋筋)および右腰部の多裂筋とした。測定部位は脊柱起立筋が第3腰椎棘突起の7cm外側,多裂筋が第4腰椎棘突起の2cm外側とした。測定肢位は①安静腹臥位(以下,rest),②正座の姿勢から体幹を前傾し,胸腰推を40~45°屈曲した肢位(以下,屈曲),③ ②の胸腰推を40~45°屈曲した肢位からさらに胸腰推を30°右側屈した姿勢(以下,屈曲右側屈),④ ②の胸腰推を40~45°屈曲した肢位からさらに胸腰推を30°右回旋した姿勢(以下,屈曲右回旋)とした。なお,本研究においては多くのストレッチング肢位をとることで筋の柔軟性が増加し,弾性率に影響が生じる可能性を考慮し,ストレッチング肢位は上記②~④の3条件のみとし,測定の順序はランダムとした。また,②~④の肢位では,できるだけ安楽な姿勢をとらせるために腹部にストレッチポールを挟んだ。なお,胸腰推の角度は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会による測定法に準じた。統計学的検定には,Bonferroni法による多重比較検定を用いて,測定肢位による弾性率の違いを分析した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究内容について十分な説明を行い,同意を得たうえで実施した。【結果】左脊柱起立筋の弾性率については,屈曲右側屈(20.8kPa),屈曲(13.7kPa)がrest(5.0kPa)よりも有意に高かった。また,屈曲右側屈が屈曲,屈曲右回旋(9.2kPa)よりも有意に高い値を示し,屈曲と屈曲右回旋との間に有意な差はなかった。右多裂筋の弾性率については,屈曲(30.7kPa),屈曲右回旋(30.2kPa)屈曲右側屈(17.6kPa)がrest(5.7kPa)よりも有意に高かった。また,屈曲右側屈が屈曲,屈曲右回旋よりも有意に低い値を示し,屈曲と屈曲右回旋との間に有意な差はなかった。【考察】せん断波エラストグラフィー機能による弾性率を用いて背部筋の伸張の程度を調べた結果,脊柱起立筋においては,脊柱屈曲位で反対側側屈することが最も効果的なストレッチング方法であることが明らかとなった。脊柱起立筋は,脊柱屈曲位,脊柱屈曲位で反対側側屈することで筋を伸張することができ,また,脊柱屈曲位で反対側側屈することは,脊柱屈曲位や脊柱屈曲位で反対側回旋することよりもより効果的に伸張することができることが示唆された。脊柱屈曲位で反対側回旋させるよりも反対側側屈させるほうが,脊柱起立筋を伸張させるのに効果的である理由としては,脊柱起立筋の側屈モーメントアームは回旋モーメントアームよりも大きいことが影響していると考えられる。また,多裂筋は特に脊柱屈曲位および脊柱屈曲位で同側回旋において伸張されることが示唆された。この脊柱屈曲位と脊柱屈曲位で同側回旋との間には有意差がみられなかったことから,同側回旋を加えなくても脊柱を屈曲するだけで多裂筋は効果的に伸張することができると考えられた。脊柱屈曲位で同側回旋を加えても多裂筋に影響を与えなかった理由として,多裂筋は回旋作用を有するが,回旋モーメントアームは小さいことによるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究によって,脊柱起立筋は脊柱屈曲位でさらに反対側側屈を加えることで,多裂筋は脊柱を屈曲することで,より効果的に伸張できることが示唆された。
著者
永井 宏達 生友 尚志 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0605, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】我々は第41回日本理学療法学術大会にて広背筋を5つの部位に分けて筋活動を調査し、運動学的に上部線維と下部線維に分けられることを報告した。さらに広背筋下部線維においては体幹側屈作用があることを示唆した。体幹側屈運動については、通常、腹斜筋、脊柱起立筋が主動作筋に挙げられるが、これらと広背筋下部線維との関係については明確ではない。本研究の目的は、さまざまな体幹側屈動作における腹斜筋、脊柱起立筋と広背筋下部線維の筋活動比を調べ、体幹側屈動作時における側屈筋群の動員の特徴を明らかにすることである。【対象と方法】対象は上肢、下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢25.9±4.0歳)とした。被験者には本研究の趣旨を説明し研究参加への同意を得た。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導を行った。測定筋は、右広背筋下部線維(以下LLD)、右外腹斜筋(以下EO)、および右腰部脊柱起立筋(以下LES)とした。LLDは第7頸椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で第12胸椎レベルの位置、EOは臍より右へ15cm外側、LESは第3腰椎棘突起の3cm外側に電極を貼付した。測定動作は各肢位における側屈運動(側臥位体幹右側屈、端座位体幹右側屈、仰臥位右骨盤引き上げ)、および体幹側屈モーメントを生じる上下肢の動作(側臥位同側股関節外転、端座位対側肩関節外転)の計5項目とした。測定は3秒間最大等尺性収縮した時の積分筋電図値(以下IEMG)を求め、各筋の徒手筋力検査の肢位での最大等尺性収縮時のIEMGを100%として、各筋ごとに%IEMGを求めた。その上でLLDとEO、LESの関係を明らかにするため、LLDの%IEMGをEO、LESそれぞれの%IEMGで除した値(LLD/EO、LLD/LES)を筋活動比として求めた。統計処理には、動作ごとの筋活動比を比較するためにFriedman検定を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。【結果と考察】統計より、LLD/EO、LLD/LESのそれぞれにおいて、運動項目間で有意な差が見られた(p<0.01)。LLDとEOの筋活動比は、対側肩外転1.52±0.99、側臥位側屈1.33±0.48、座位側屈0.99±0.62、同側股関節外転0.50±0.29、骨盤引き上げ0.48±0.43であった。LLDとLESの筋活動比は、側臥位側屈1.48±0.54、対側肩外転1.16±0.42、座位側屈0.74±0.38、同側股関節外転0.40±0.21、骨盤引き上げ0.37±0.27となった。本研究では、側臥位側屈と端座位対側肩関節外転においてEO、LESに対してLLDの筋活動が他の動作よりも相対的に大きくなることが示唆された。一方、同側股関節外転や骨盤引き上げといった、骨盤の固定や動きが生じる動作ではLLDの関与が小さくなることが示唆された。
著者
雨宮 耕平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0494, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腹臥位股関節伸展運動テスト(Prone hip extension:以下PHE)は腰椎骨盤帯の安定性の評価として用いられ,ハムストリングス・大殿筋・脊柱起立筋・多裂筋などの活動開始タイミングと,腰椎骨盤帯の過剰な運動の有無を評価する。Bruno(2008),Tateuchi(2012)は,PHE時の筋活動パターンに応じて,その際の運動パターンも異なると報告しているが,臨床応用する上では歩行など荷重下の動作との関連性を明らかにする事が重要と考える。そこで,本研究では健常者におけるPHE時の筋活動パターンと,歩行立脚期の股関節・骨盤の運動との関連性について検討する事を目的とした。【方法】対象は健常若年男性29名(19-29歳)とした。PHE課題では,表面筋電計WEB1000(NIHON-KOHDEN)を用い,股関節伸展運動を行わせた際の両側脊柱起立筋,両側多裂筋,測定側大殿筋,測定側半腱様筋の筋活動を測定した。データは整流平滑化し,安静時の平均振幅+3SDを50msec以上持続して越えた点を筋活動開始と定義した。各筋の活動開始時間は大殿筋を基準(0)として標準化した。歩行課題では,三次元動作解析装置(VICON Nexus)とフォースプレート(Kisler)を用いた。VICON Plug-in-Gait下肢モデルを用い,8mの歩行路を自由速度にて歩行させた際の立脚後期(対側踵接地時)における股関節伸展角度・骨盤前傾角度・骨盤回旋角度を抽出し,静止立位時の値を基準として標準化した。いずれの課題も解析側は軸足側とし,3試行の平均データを用いた。統計解析はPHE時の各筋活動開始時間と,歩行立脚後期における股関節伸展角度・骨盤前傾角度・骨盤回旋角度について相関分析を行った(有意水準5%)。【結果】PHE時の同側多裂筋・対側多裂筋・対側脊柱起立筋の活動開始時間と,歩行立脚後期の股関節伸展角度に有意な負の相関を認めた(相関係数:同側多裂筋=-0.599,対側多裂筋=-0.362,対側脊柱起立筋=-0.360)。【結論】PHE時に多裂筋が早期に活動する者ほど,歩行立脚後期の股関節伸展角度が大きかった。これはPHE時に多裂筋の活動遅延により股関節伸展が減少し骨盤前傾が増大したとする先行研究(Tateuchi 2012)に類似した見解と考える。健常者において多裂筋は四肢の運動に先行して収縮し腰椎骨盤帯の安定性を高める(Hodges 1997)。この事から,PHE時に多裂筋が大殿筋に対し早期に収縮する者では,歩行時も腰椎骨盤帯の安定化が反映され,効率的に股関節伸展が生じたと考えられる。また,対側脊柱起立筋の活動開始時間と歩行立脚後期の股関節伸展角度についても相関関係を認めた。脊柱起立筋は胸腰筋膜を介して大殿筋と連結を持つ為,先行収縮によって腰椎骨盤帯の安定性を高める方略を取る者が存在した事がその要因と考えられる。