著者
上井 雅史 平野 弘之 伊藤 昭 田中 隆晴 伊東 馨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1153, 2010

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は関節組織の慢性の退行性変化と増殖性変化のため、関節の変形をきたす疾患である。老化現象に機械的な影響が加わり関節軟骨や骨の変形、半月板の変性、磨耗、筋萎縮、筋短縮、結合組織の変性がおきる。関節変形が初期から中期までの場合、保存治療が選択される場合が多い。膝OAに対する一般的なリハビリテーション(以下リハ)の内容は筋力強化が中心で、姿勢調整、動作パターンの改善、減量および生活指導などが行われる。近年では股関節周囲筋の筋力訓練を行うことで歩行能力や姿勢アライメントが改善するという報告がある。大腿四頭筋強化に股関節周囲筋の強化を加えて実施することがすすめられる。運動リハは可動域訓練、筋力訓練など痛みや疲労を伴う。敬遠される場合も少なくない。筋力強化のプログラム内容の増加が患者の負担になり、リハの継続を妨げる可能性がある。膝OAの運動療法は長期にわたるとリハ脱落群の増加が増える。モチベーション維持が大切である。今回、当医院の膝OA患者に大臀筋強化を実施した。その結果、実施前に比較し疼痛の軽減をみた。大臀筋訓練の影響を、文献的考察を交え検討した。<BR>【方法】対象は当医院に通院する、屋外歩行が自立レベルの患者11名14膝。通常の訓練後、歩行時VASを測定し大臀筋トレーニングを実施後、歩行時VASを測定しその前後で比較した。大臀筋トレーニングをMMT測定と同じ腹臥位、膝関節を90度程度屈曲した状態で行った。1クール10回を3セット実施した。腹臥位をとれない患者には側臥位で実施した。疼痛はVisual analog scale(VAS)を使用し0から100の目盛りを患者に示してもらい測定した。統計処理の手法にはt検定を用いた。<BR>【説明と同意】今回の研究は、内容、意義を説明して了解を得た患者に対してのみ実施した。<BR>【結果】大臀筋強化トレーニング実施前のVAS値が2.36±2.84であったものが、実施後には1.64+2.23と実施前に比較し減少(p<0.05)していた。<BR>【考察】膝OAの運動療法は、数多くの研究によって有効であることが知られている。いくつかの前向き、無作為の研究でSLR訓練をはじめとする膝関節伸展筋の強化で、それ単独でも膝OAの疼痛とADL障害の軽快に有効であるといわれる。その効果はNSAIDに優るとも劣らない。大殿筋の強化も骨盤帯の安定性増加や、関節軟骨の変形による股関節内転モーメント減少を緩和し、下肢、膝関節の姿勢アライメントの改善が期待できる。一方、運動療法で一定の効果を得るには、比較的長期の継続が必要である。時により疲労や筋肉痛をともない、長期にわたる筋力強化はモチベーションが大切となる。今回の研究で、大臀筋トレーニング実施前後で、VAS値が2.36±2.84から1.64+2.23と減少を示し、短期でも疼痛の軽減に有意な効果があることがわかった。一時的であっても、膝OAの主症状である疼痛の緩和によって、リハの満足度の向上、モチベーションの維持につながる可能性がある。大臀筋トレーニングは膝関節自体にストレスがない利点もある。疼痛緩和の継続が短いなどの意見や、運動方法、運動強度の設定などがあいまいだともいわれ、今後、比較検討が待たれる。<BR>【理学療法学研究としての意義】膝OAは日本全体で高齢化が進む中でますます増加しつつある。本研究は、大臀筋強化訓練による疼痛の一時的軽減が、膝OA患者のADL維持および、人工関節への移行時期を遅らせるための運動療法の継続を促すと考え行った。
著者
勝又 泰貴 竹井 仁 若尾 和昭 中村 学 美崎 定也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O2113, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 徒手療法の一手技である筋膜リリース(Myofascial Release;以下、MFR)は、穏やかな持続した伸張・圧力というその手技の特性から、可動域・アライメントの改善や急性・慢性の疼痛軽減を始めとして、パフォーマンスの向上など幅広く用いることができる。そのMFRを治療プログラムに取り入れることで機能障害が改善したという報告はいくつかあるが、MFRのみ施行時の効果と、1回の治療におけるMFRの効果の持続時間に関する報告はない。本研究では、MFRの効果の持続時間をスタティックストレッチングと比較し、効果の持続時間の違いを比較検討したので報告する。【方法】 対象者は腰部・下肢に既往のない健常者31名(男性16名、女性15名)で、年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)はそれぞれ25.0(2.4)歳、165.6(8.7)cm、56.3(9.0)kgであった。この31名を無作為に以下の3群に分けた。a.腹臥位で、大腿後面に対しMFRを片側ずつ各180秒施行したMFR群10名、b.背臥位で股・膝関節90°屈曲位にて膝関節を伸展していき、ハムストリングスに対しストレッチングを片側ずつ各30秒、3セット(15秒のインターバル)施行したストレッチング群11名、c.介入なく測定のみを繰り返した対照群10名とした。 測定項目は自動・他動運動時における左右下肢伸展挙上角度(Active・Passive Straight Leg Raising angle;以下、ASLR、PSLR)、立位体前屈(Finger Floor Distance;以下、FFD)、長座体前屈(Sitting Forward Extension;以下、SFE)とし、SLRは5度単位で、FFDとSFEは0.1cm単位で測定を行った。また、SFEは足底を基準の0cmとして測定した。それぞれの介入前・直後・30分後・60分後・120分後・介入直後と同時刻の1日後・2日後に各項目を測定した。測定結果はそれぞれ、介入前との変化量を介入前で除した変化率(%)にて解析した。統計解析はSPSS ver12.0を用い、3群の年齢・身長・体重および各測定項目の介入前について分散分析とその後の多重比較(Tukey HSD法)を用い検討した。その後、各測定結果の性差は対応のないt検定を、SLRの左右差は対応のあるt検定を行いその影響について検討した。また、3群の各時期間の比較についてはTukey HSD法を用い、各群における介入前と比較した各時期の差はBonferroni法にて解析した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と内容および学会発表に関するデータの取り扱いについて説明し、十分に理解した上での同意を得て実施した。【結果】 各群において年齢・身長・体重・各測定項目の介入前に有意差を認めなかった。また、性差と左右差に有意差を認めなかったため、男女ともに各測定項目の結果を同一に取り扱い、全被験者のASLRとPSLRの結果を左右平均して取り扱った。測定項目ごとに3群と時間的経過を2要因として二元配置分散分析後の多重比較の結果、ASLRはMFR群で全時期においてMFR群は対照群に比較して有意な増加を認めた。PSLRは全時期においてMFR群は対照群に、また、60分後以降はストレッチング群と比較して有意な増加を認めた。FFDは群と時期に有意差を認めなかった。SFEは1日後までMFR群は対照群に、また、30分後・120分後・1日後 でストレッチング群と比較して有意な増加を認めた。各群における介入前と比較した各時期の差については、MFR群のみASLR・PSLRで各時期に有意な増加を認め、SFEで1日後までに有意な増加を認めた。【考察】 本研究の結果より、MFRの効果は1日以上持続することが分かった。MFRとストレッチングの効果の持続時間という点では、明確に二つの手技に差を認めることはできなかったが、PSLRでMFRは60分後以降にストレッチングと比較して有意な増加を認めたことから、MFRはストレッチングに比べ他動運動時の伸張性の改善あるいは疼痛閾値の上昇を期待でき、その効果はストレッチングより持続すると考える。今回、FFDに有意差が出ずSFEに有意差が出た要因として、FFDでは上半身の自重によりハムストリングスの遠心性収縮が起き、慎重性の改善効果が減少してしまったのに対し、SFEでは重力の影響を受けず、ハムストリングスの伸張性の向上により骨盤が前傾した分だけ改善したと考える。【理学療法学研究としての意義】 MFRの効果の持続時間を明らかにすることで、治療プログラムの立案、治療頻度を考慮する上での参考となると考える。また、本研究を参考にその効果を延長させる方法なども今後の検討課題と考える。
著者
久米 正志 清水 雄二 南條 元 佐藤 英樹 佐藤 友彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P2269, 2010

【目的】厚岸町は北海道の東南部に位置し、総面積は739平方kmで、主な産業は水産業と酪農を中心とした農業である。厚岸町役場保健介護課健康づくり係では、一般高齢者を対象とした介護予防事業の一環として平成13年度から地域出前講座の転倒予防教室「ころばない講座」を始めた。高齢期における具体的な転倒予防のため、地区の自治会・老人クラブ等の開催要請に応える形で実施している。<BR>本研究では町内の各地域に明確な産業特性がある事から、ころばない講座受講者を居住地域毎に「漁村部」「農村部」「市街部」の3地域に分類し、産業特性の異なる各地域間にどのような違いがあるかを比較検討した。<BR>【方法】対象はころばない講座を受講した65歳以上の厚岸町民1598名(男性279名:平均年齢77.1±4.6歳、女性1319名:平均年齢75.1±5.4歳)である。ころばない講座は、検査・検査の見方・日常でころばないための講話・家庭でできる簡単な転倒予防体操で構成されている。検査項目は全身状態の検査として、血圧・体重・体脂肪・BMI・握力、転倒骨折評価として10m全力歩行・最大一歩幅・下肢長・40cm踏み台昇降である。転倒骨折評価は東京厚生年金病院転倒予防教室で行われている健脚度評価を利用した。<BR>本研究では各検査項目の中から転倒骨折評価に焦点を当て、10m全力歩行・最大一歩率(最大一歩幅/下肢長)・40cm踏み台昇降について、健脚度評価基準の転倒カットオフ値を基に3地域を比較検討した。統計処理には1要因の分散分析を用いて、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】ころばない講座受講者に検査の目的を説明し、本人並びに厚岸町の健康づくりに活用する事の同意を得た。<BR>【結果】10m全力歩行<BR>男性:農村部5.22±1.18秒>市街部5.32±0.90秒>漁村部5.71±1.16秒<BR>女性:農村部5.95±1.70秒>市街部6.09±1.62秒>漁村部6.32±1.64秒<BR> 転倒カットオフ値は6.41秒であり、男女共にカットオフ値を下回る地域はなかった。男女共に各地域間で有意差が認められた。<BR>最大一歩率 <BR>男性:農村部1.32±0.16>漁村部1.31±0.17>市街部1.29±0.12<BR>女性:市街部1.32±0.19>農村部1.30±0.15>漁村部1.26±0.18<BR> 転倒カットオフ値は1.17であり、カットオフ値を下回る地域はなかった。男性は各地域間に有意差が認められなかったが、女性では有意差が認められた。<BR>40cm踏み台昇降(可能の割合を表示)<BR>男性:漁村部67%>市街部65%>農村部62%<BR>女性:農村部41%>市街部・漁村部34%<BR> 男女共に各地域間で有意差が認められた。 <BR>【考察】10m全力歩行・最大一歩率は、3地域男女共に転倒カットオフ値を上回った。3項目の転倒骨折評価を男女地域別に比較検討すると、最大一歩率の男性以外は各地域間に有意差が認められた。10m全力歩行での特徴は、同地域男女の序列が同じ事である。男女共に農村部が最も高く、市街部、漁村部と続く。共に肉体労働である農村部・漁村部で有意差が現れた事は印象的である。仕事の内容の相違や、酪農業は通年であるのに対し漁業は季節性である事も有意差の一因と考えられる。最大一歩率は男性では有意差が認められなかった。女性は有意差が認められ市街部、農村部、漁村部と続く。特に漁村部女性が低い値であった。40cm踏み台昇降は、漁村部では男性が最も高く女性が最も低い等、同地域男女の序列の相違が現れた。女性は農村部が特に高い割合であった。同地域男女の序列の相違は市街部で小さく漁村部・農村部で大きい事から、漁村部・農村部での男女の仕事内容の違いが影響している可能性が考えられる。漁業では主に男性が漁に出て船の乗り降り等で昇降動作を行うのに対し、女性の仕事は加工が主であるいう役割分担もみられる。<BR>各項目で各地域間に有意差が認められたが、それが現役世代の仕事内容からくるものか、引退後の活動歴が影響しているかを精査するためには今後更なる情報が必要である。本研究を基に、現役引退の度合い(家族経営が多いことから部分的な引退も考慮)・各業種における男女別の仕事量や内容の把握・引退年齢や引退後の運動・活動歴の情報も得ていきたい。そして本研究で明らかになった地域間の差や、同地域男女の序列の相違について、どのような因子が影響を与えているのかを明らかにし、各地域に合った予防的な健康づくりの方法を提案していく。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法士が保健・福祉と共働・連携し町民の健康づくりを行っていく事の意義は大きく、本講座を通して町民が高齢期における健康づくりを主体的に行う町になるように働きかけていく事ができる。また、厚岸町独特の産業・地域特性に焦点を当て研究を行う事で、受講者のみではなく町全体、更には産業特性が同様な地域に結果を還元する事ができる。
著者
高位 篤史 吉田 安奈 山崎 文香 河田 真之介 西川 彰 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0457, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 呼吸運動は胸腔の拡大運動によって行われており、中でも主要な呼吸筋として横隔膜が挙げられる。横隔膜は左右の横隔神経によってそれぞれ支配され、吸息運動における主動作筋として働く。また、安静時1回換気量の約70%を横隔膜が担うとされている。さらに、片側横隔神経切除により対側横隔膜の筋活動が増加すると言われている。そこで、本研究では横隔膜を支配している横隔神経の片側および両側を切除することで、横隔膜筋活動と呼吸機能との関係についてより詳細に把握することを目的とした。【方法】 10週齢のWistar系雄ラット8匹を使用した。ケタラールおよびセラクタールの混合液を腹腔内投与にて麻酔した後、頚部腹側にパルスオキシメータ(プライムテック社製)を装着し、末梢血酸素飽和度(SpO2)を測定した。また、頚部腹側を切開した後、気道挿管したシリコンチューブおよび気流抵抗管を差圧トランデューサー、コントロールボックス(日本光電社製)に接続し、呼吸流速を測定した。測定した呼吸流速波形から、画像解析ソフトを用いて1回換気量、平均呼吸流速、1回換気時間を算出した。また、左右両側の横隔膜に直径0.03mmのワイヤー電極を装着し、TRIAS筋電計(バイオメトリクス社製)を用いて横隔膜の筋電図を測定した。測定は、安静時、片側横隔神経切除時、両側横隔神経切除時について実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、畿央大学動物実験管理規定に従い実施した(承認番号22-1-I-220421)。【結果】 1回換気量は、安静時に比べ片側神経切除で約15%、両側神経切除で約30%の有意な減少が認められた。平均呼吸流速は、吸気では安静時に比べ片側神経切除後20%低下、両側神経切除後55%低下と有意な差が認められた。呼気では安静時に比べ片側神経切除後15%低下、両側神経切除後40%低下と有意な差が認められたが、吸気流速の方で低化率が大きかった。1回換気時間は、吸気では安静時に比べ片側神経切除で約20%、両側神経切除で約60%の増加が認められた。呼気では安静時に比べ両側神経切除で約30%の増加が認められた。また、呼吸流速波形は両側神経切除によって波形の平低化が観察された。片側横隔神経切除後における非切除側横隔膜の筋活動は、安静時に比べ約40%増大した。末梢血酸素飽和度(SpO2)は、安静時に比べ片側神経切除で約4%低下、両側神経切除で約9%低下と低下傾向がみられたが、有意な差は認められなかった。【考察】 横隔膜は左右の横隔神経によって支配されることから、片側横隔神経を切除した結果、1回換気量や吸気時の呼吸流速は低下し、それに伴い換気時間は増加した。さらに、非切除側の横隔膜においては筋活動量が増加した。以上のことから、片側横隔膜の機能が消失するともう一方の横隔膜で大きく代償することにより、換気量の大幅な低下を抑えることができると考えられる。両側の横隔神経を切除し、横隔膜の機能を完全に停止させた結果、1回換気量は大きく低下し、末梢血酸素飽和度は約9%低下した。このことは、生命を維持させるために肋間筋等の呼吸補助筋が強く活動したことによるものと考えられるが、横隔膜の機能を代償するほどの能力はなく、すべての測定項目において低換気の状態を示した。また、両側横隔神経切除により呼吸流速波形において平低化が観察され、横隔膜が呼吸活動における速度の変化に大きく関与していることが示唆された。このことから、横隔膜の障害によって、特に運動時など、十分な換気が必要となる際に努力性呼吸に対応することができなくなり、種々の身体活動における呼吸適応という側面でも重要な役割を担っているものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が呼吸分野に関わることは少なくなく、呼吸器疾患に限らず開胸・開腹術前後の呼吸理学療法など、理学療法としての重要性は広範囲にわたる。本研究は、呼吸活動に非常に大きく貢献している横隔膜について、その役割を基礎的な側面からより明確にするものである。今後、横隔膜の機能的知見についてさらに理解を深めるとともに、呼吸理学療法における治療法や運動指導について考察する際の一助となると考える。
著者
大山 祐輝 山路 雄彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-68_1-I-68_1, 2019

<p>【はじめに,目的】側臥位からの起き上がり動作時の下側の上肢位置は,先行研究より肩関節を60°屈曲位に設定することが望ましいとされる.しかし,実際の臨床場面においては,ベッド幅の狭さや,側臥位となる際にベッド柵を用い上肢を引き込み,側臥位での肩関節屈曲位が,60°以下になっていることが多い.また,筋電図学的研究では,腹筋群を着目したものが多い.そこで,本研究では,異なる肩関節屈曲位での側臥位からの起き上がり動作における,肩甲骨周囲筋特性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】整形外科的疾患の既往がない,健常成人男性13名を対象とした.対象動作は右側臥位からon elbowまでの起き上がり動作とした.施行条件は,開始肢位より①肩関節屈曲0°(条件①),②肩関節屈曲60°(条件②)とした.条件①は,肘関節は90°屈曲位とした.施行時間は,1secに設定した.各条件を3施行ずつ実施した.筋活動は表面筋電計(日本光電社製:WEB-7000)を用いて測定した.導出筋は,右側の三角筋後部線維,僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維,左側の外腹斜筋の4筋とした.表面筋電図はサンプリング周波数1000HzでA/D変換した.動作時より得られた各対象筋における筋電図波形は,最大随意収縮(maximum voluntary contraction;以下,MVC)発揮時の積分値で除することによって筋活動量(以下,%MVC)を求めた.角度に関して,各条件での動作終了時の右肩関節外転角度を測定した.解析方法に関して,条件間の比較にて①動作開始後0.1sec,②筋収縮ピーク前後0.1sec,③動作終了後1secの各筋の%MVCを対応のあるt検定にて比較した.有意水準は5%とした.</p><p>【結果】動作開始後0.1secに関して,全ての筋の筋活動量に有意差を認めなかった.筋収縮ピーク前後0.1secに関して,僧帽筋下部線維のみ,条件①(43.2%)が条件②(24.4%)と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了後1secに関して,全ての筋において,条件①は条件②と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了時の右肩関節外転角度は,条件①(37.9°)は条件②(61.0°)と比較し有意に小さかった.</p><p>【考察】条件①の動作は条件②と比較し,筋収縮ピーク時に肩甲骨は上方回旋へ作用し,それを制御するために僧帽筋下部線維の活動が高まったと考えられる.また条件①は動作終了時の肩関節外転角度が小さく、すなわち支持基底面が条件②と比較し小さくなり,on elbow肢位保持により大きな筋活動を要することが考えられた.</p><p>【結論】上肢を引き込んだ状態での側臥位からの起き上がり動作は,肩甲骨の固定や肢位保持に大きな筋活動を必要とするため,上肢位置の調整や,体幹だけでなく肩甲骨周囲筋の筋力強化が必要であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,医療法人社団日高会日高病院の医療倫理委員会の承認を得た(承認番号:126).全ての対象者には,ヘルシンキ宣言に従い,本研究の目的,方法,利益,リスクなどの口頭および文書で説明し同意を得た.なお,同意は本人のサインをもって研究参加に同意したものと判断した.また,収集したデータは機密情報として扱い,研究者のコンピュータ内のみで解析され,研究者のみが知る登録番号で管理されることに加え,参加するかしないかは完全に本人の自由意志であることも加えた.</p>
著者
増田 幸泰 中野 壮一郎 小玉 陽子 北村 智之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101929, 2013

【はじめに】 松葉杖は臨床において下肢骨折などにより免荷が必要な患者に多く用いられている歩行補助具の一つである.しかし,松葉杖免荷3点歩行(以下,松葉杖歩行)は不安定な歩行形態であり,臨床においても歩行獲得のための指導に苦慮するケースがみられる.松葉杖歩行には上肢筋力が関与しているとされ,動作解析やエネルギー消費など様々な検討が過去にもなされている.しかし,実際の臨床において松葉杖歩行を可能にするために必要な筋力以外の運動機能についての詳細な検討はあまりみられていない.そこで,本研究では松葉杖歩行に関与すると思われる運動機能として筋力に加えて,バランスや柔軟性,敏捷性などを検討することで,臨床における松葉杖歩行指導の一助とすることを目的とした.【方法】 対象は健常成人女性22名(29.0±5.5歳)とし,過去に松葉杖使用の経験がない者とした. 測定項目は松葉杖歩行,身長,体重,10m快適歩行と最大歩行の他に,筋力の指標として握力,等尺性膝伸展筋力,上体起し,柔軟性の指標として長座位体前屈,敏捷性の指標として棒反応テスト,バランスの指標として閉眼片脚立位時間とした.松葉杖3点歩行は利き足を免荷した状態での最大歩行を10m歩行路にて2回測定し,速度を算出した.快適・最大歩行速度についても同様に算出した.握力は握力計にて測定し,左右の平均値を体重にて補正した.等尺性膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメーターにて非利き足のみの測定を2回行い,最大値を体重で除した体重比(以下,下肢筋力)として算出した.上体起しは30秒間にできるだけはやく可能な回数を1回測定した.長座位体前屈は2回測定し,最大値を採用した.棒反応テストは5回の測定を実施し,最大と最小の値を除いた3回の平均値を算出した.閉眼片脚立位時間は非利き足が支持脚となるように立たせ,120秒を最大として2回測定し最大値を分析に用いた.統計学的分析にはピアソンの相関分析を用いて各項目の関連について検討をした.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 本研究の実施にあたり,事前に対象者に対して書面にて研究の目的,内容を説明し,同意の署名を得てから測定を実施した.【結果】 各項目の平均値は松葉杖歩行 76.4±22.0m/min,身長157.5±5.7cm,体重 49.2±4.5kg,握力0.6±0.1kg,上体起し16.4± 4.3回,下肢筋力 0.54± 0.14kgf/kg,長座位体前屈35.1±8.9cm,閉眼片脚立位時間55.6±43.5sec,快適歩行速度 83.8± 9.6m/min,最大歩行速度118.5±17.9m/min,棒反応テスト22.8±3.7cmであった.相関分析の結果,松葉杖歩行と握力r=0.59,上体起こしr=0.51,下肢筋力r=0.55,閉眼片脚立位時間r=0.52,最大歩行速度r=0.63の間で有意な正の相関を認めた(p<0.01).年齢r=-0.31,身長r=0.17,体重r=-0.36,長座位体前屈r=0.19,棒反応テストr=-0.33の間では相関を認めなかった.また,最大歩行速度との間では下肢筋力r=0.65,握力r=0.57,上体起こしr=0.54に有意な正の相関を認めた(p<0.01)が,その他の項目においては有意な相関を認めなかった.【考察】 本研究の結果,先行研究と同様に松葉杖歩行と上肢筋力の指標とした握力において有意な正の相関を認めた.また,上体起こしと下肢筋力の間においても有意な正の相関を認め,松葉杖歩行においては歩行に影響するとされる下肢筋力のほかに,体幹筋力の影響も考慮する必要があると考えられた.さらに,バランスの指標とした閉眼片脚立位時間においても松葉杖歩行との間で有意な正の相関を認めた.閉眼片脚立位時間は最大歩行速度との間では有意な相関を認めておらず,このことから,松葉杖歩行を安定してより速く行うためには筋力の他にバランス能力の影響を考慮する必要があると考えられた.これらのことから,松葉杖歩行を指導する前に,閉眼片脚立位時間や筋力の測定を行うことが有用ではないかと考えられた.しかし,今回の結果は健常成人女性のみの検討であり,今後は対象者の拡大や実際の患者での影響を検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 松葉杖歩行における筋力以外の運動機能の関係を示唆した結果となり,臨床において松葉杖歩行獲得の指標となる可能性を見出した.
著者
岡安 健 高橋 高治 野本 彰 葛山 智宏 小川 英臣 高田 将規 木村 倫子 森田 定雄 石倉 祐二 小川 直子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1371, 2009

【目的】<BR>近年、糖尿病やASOなど末梢循環障害による下腿切断患者は増加傾向にあり、下腿義足に全面支持式ソケット(Total Surface Bearing以下TSB)を処方することが多い.TSBは荷重を切断端全面で支持し、装着時の不快感が少ないという特性はあるものの、切断端の変化が起こりやすい末梢循環障害によるTSB使用患者の適合修正に熟練を要するとされる.実際のTSB内圧分布特性は明らかではなく報告も少ない.そこで、本研究ではTSBの適合修正の指標となるTSB内圧分布を測定し検討することを目的とする.また、切断端の変化が起こりやすい仮義足装着時期に、当院で一時的に行っている孔(以下除圧孔)設置による簡易的な適合修正についても紹介する.<BR>【対象】<BR>対象者は本研究の目的を説明して同意を得た、感覚障害を認めない片側下腿切断者5名の5肢(男性5名).年齢54±8.0才、身長170.2±7.2cm、体重66.4±16.5kg、切断端長15.6±2.0cmであり、測定肢は右側4肢、左側1肢であった.<BR>【方法】<BR>熟練した義肢装具士がTSBを作製.作製義足装着下で、静止立位時の不快感をvisual analogue scale(以下VAS)にて0/10となる至適アライメントを確認.ニッタ社製圧力分布計測システム(以下I-SCAN)のセンサーをシリコンライナー周囲に留置し、荷重計にて90%以上の荷重量を確認した状態で片脚立位及びStep動作時のTSB内圧分布を測定、同時に動作時の不快感をVASにて測定した.その後TSBの脛骨末端部に直径2cm、3cm、4cmの除圧孔を設置し、各直径で同様の方法にてTSB内圧分布測定と動作時の不快感をVASにて測定した.<BR>【結果】<BR>対象者の静止立位時の接触面平均内圧(以下内圧)は3.83±2.4kpaであり、圧力分布は概ね均一の値を示していた.片脚立位時の内圧は7.4±2.7kpa、切断端末梢部の内圧は10.6±4.5kpa、脛骨末端部の内圧は20.1±6.2kpaであった.Step動作時の内圧は7.3±1.9kpa、切断端末梢部の内圧は11.6±3.5kpa、脛骨末端部の内圧は22.9±3.3kpaであった.各動作時のVASは全対象者0/10であった.除圧孔非設置と比較して、直径2cmと3cmの除圧孔設置では各動作で著名は内圧変化を認めず、各動作時のVASは全対象者0/10であった.直径4cmの除圧孔設置では、除圧孔部の圧力低下と除圧孔周囲の内圧上昇を3名の対象者に認めた.全対象者の不快感はVASで3~6/10であった.<BR>【考察】<BR>本研究の結果は、荷重時に切断端末梢部の内圧増加を認めるとともに、切断端全面のみならず脛骨末端部を含めた骨構造で支持し、装着時の不快感が少ないというTSBの特性を示唆している.今後は症例数を増やし、より正確な内圧分布を明らかにすると共に当院で一時的に行っている除圧孔によるTSB適合修正の効果についても検討する.
著者
岩下 知裕 清田 大喜 小林 道弘 荒川 広宣 槌野 正裕 高野 正太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-149_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 便秘とは,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態(慢性便秘症診療ガイドライン2017)」と定義されている.また,慢性便秘症患者の6割程度にうつ,不安などの心的異常を認め,心理検査では心理的異常を示すスコアが健康対照者に対して有意に高いことが報告されている.厚生労働省の平成28年度国民基礎調査による便秘の有訴者数は65歳以上の男性で6.50%,女性で8.05%となっており,80歳以上では男女平均にて約10.8%と高齢になるにつれ増加する傾向にあることが分かる.これらの報告より,便秘は身体機能の障害のみならず二次的に心的な障害を受け、QOLが低下する疾患であり,適切な介入が必要であると考えられる.当院では,排便障害患者に対して必要であれば直腸肛門機能訓練を実施している.日々の診療のなかで排便障害を有する患者の中には,体幹や骨盤,股関節機能に問題がある症例がみられることがある.今回,両股関節内旋可動域制限が生じている排便障害(機能性便排出障害)の症例に対して,股関節へのアプローチを行い,骨盤底機能が改善したことで主訴が軽減した症例を経験したため以下に報告する.【症例紹介】 80歳代の男性.既往歴はS状結腸癌術後,狭心症(カテーテル留置),前立腺癌.主訴は便意があるが排便しにくい,いつもウォシュレットを強く当てて排便を行っていた.患者のニードはウォシュレットを使用せずに排便出来るようになりたい.【評価とリーズニング】 入院初期評価時には両股関節内旋可動域5°,徒手筋力検査(MMT)にて両股関節内外旋筋力3,直腸肛門機能検査の直腸肛門内圧検査では最大静止圧(Maximum Resting Pressure:MRP)43mmHg,最大随意収縮圧(Maximum Squeeze Pressure:MSP)242mmHg.便秘の評価であるConstipation Scoring System(CSS)は16点.【介入内容と結果】本症例に対して,最初に排便姿勢の評価を行った.理学療法プログラムは1.両股関節内旋可動域訓練,2.体幹筋筋力増強訓練(腹部引き込み運動),3.腸の蠕動運動促進を目的とした体幹回旋訓練,4.トレッドミル歩行訓練を実施した.また,5.バルーン排出訓練を2回/週の頻度で初回を含め計5回介入した.バルーン排出訓練は伸展性の高いバルーンを肛門より挿入し,50mlの空気を挿気し,偽便に見立てて排出する.その際に肛門の弛緩や息み方を学習出来るように指導したが,肛門の収縮・弛緩の動きが不良であった.理学療法開始2週間後,両股関節内旋可動域は30°,両股関節内外旋筋力は4に改善.MRP:50mmHg,MSP:352mmHgで肛門の収縮が可能, 50mlのバルーン排出可能,CSSは8点と改善し,ウォシュレットを使用せずに排便が可能となった.【結論】 慢性便秘症診療ガイドライン2017によると,便秘の発生リスクとしてはBMIや生活習慣,腸管の長さ,関連疾患の有無(逆流性食道炎,過敏性腸症候群,機能性ディスペプシア,下痢症),加齢などが挙げられるが,本症例では,原因の一つとして骨盤と股関節の可動性低下が考えられた.股関節内旋可動域を拡大したことで,外旋筋の柔軟性が向上し,肛門挙筋の起始部と連結している内閉鎖筋の柔軟性が向上したと考えられる.解剖学的に肛門挙筋は恥骨直腸筋,恥骨尾骨筋,腸骨尾骨筋の3筋から構成され,恥骨直腸筋の一部は外肛門括約筋と連結している.恥骨直腸筋は肛門直腸角を構成し,外肛門括約筋は収縮することにより遠位で肛門を閉鎖・固定する.骨盤底筋群の柔軟性が向上したことにより,排便時の恥骨直腸筋と外肛門括約筋の随意的な弛緩が可能となった.恥骨直腸筋が弛緩することで,肛門直腸角は鈍角し,外肛門括約筋が弛緩することで,排便時に肛門が緩み,機能性便排出障害が改善したと考えられる. 今回,機能性便排出障害を主訴とする症例を経験した.理学療法士として,股関節内旋可動域の図ったことで直腸肛門機能の改善につながったと考えている.今回は1症例の経験を報告したが,今後も継続して機能性便排出障害の症例に対して,股関節や骨盤の運動機能の改善に伴う排便障害の改善効果について検討していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】臨床研究指針に則り同意を得,個人が特定されないように配慮した.なお,利益相反に関する開示はない.
著者
松本 元成 大重 努 久綱 正勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】肩こりは医学的な病名ではなく症候名である。「後頭部から肩,肩甲部にかけての筋肉の緊張を中心とする,不快感,違和感,鈍痛などの症状,愁訴」とされるが,明確な定義はいまだない。平成19年の国民生活基礎調査によれば,肩こりは女性の訴える症状の第1位,男性では2位である。このように非常に多い症状であるにもかかわらず,肩こりに関して詳述した文献は決して多くない。我々理学療法士が肩こりを診る場合,姿勢に着目することが多いが肩こり者の姿勢に関する報告も散見される程度で,統一した見解は得られていない。臨床的には肩甲帯周囲のみならず,肋骨,骨盤なども含めた体幹下肢機能についても評価介入を行い,症状の改善が得られる印象を持っている。本研究の目的は,肩こり症状とアライメント,特に肩甲骨,肋骨,骨盤アライメントとの関連性について明らかにすることである。【方法】対象は当院外来患者で,アンケートにおいて肩こり症状が「ある」と答えた女性患者18名である。肩周囲に外傷の既往があるものは除外した。アンケートにおいて肩こり罹患側の左右を聴取した。罹患側の肩こり症状の強さをVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて回答して頂いた。アライメント測定は座位で実施した。座位姿勢は股関節と膝関節屈曲90°となるよう設定した。①体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角②胸骨体と肋骨弓のなす角③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角を,左右ともにゴニオメーターで測定した。①②③の角度を肩こり側と非肩こり側について,対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%とした。またPearsonの相関係数を用いて肩こり罹患側におけるVASと①~③のアライメントとの相関関係を検証した。【結果】①の体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角は,非肩こり側で12.50±6.13°,肩こり側で3.11±7.76°と肩こり側において有意に減少していた。②胸骨体と肋骨弓のなす角においては有意差を認めなかった。③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角は,非肩こり側で7.83±7.74°,肩こり側で3.17±8.59°と肩こり側において有意に減少していた。VASと①②③のアライメントについては有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,肩こり側は非肩こり側に比べて肩甲骨の上方回旋が減少し,骨盤の前傾が減少していることがわかった。座位姿勢において土台となる骨盤のアライメントがより上方の身体へと波及し,肩こりに何らかの影響を及ぼしている事が示唆された。身体アライメントと肩こり症状の強さにはいずれも相関を認めず,症状の強さは今回調べた身体アライメントの異常だけでは説明がつかないことがわかった。本研究の限界として肩甲骨の上方回旋,下方回旋,骨盤では前後傾以外のアライメントには着目できていない。またあくまで同一被検者内での肩こり側,非肩こり側の比較である。今後,他のアライメントについてあるいは,肩こり者と非肩こり者間での検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩こりの理学療法において,肩甲帯周囲のみならず骨盤帯周囲に対しても評価,介入が必要となる場合があるかもしれない。また肩こり症状の強さについては,身体アライメントのみならず多角的な視点や介入が必要であることが示唆された。
著者
村上 朋彦 田中 繁治 笘野 稔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G2S2033, 2009

【目的】<BR> 性格や考え方の違いが学業成績に差を生むのか.例えば好奇心旺盛で物事を前向きに捉える活発な人と,いつも退屈そうで不満が多く悲観的な人との間に差はあるのか.もし差を生むのなら性格的傾向に合わせた対策が必要となる.<BR> そこで,Farmerら(1986)が考案したThe Boredom Proneness Scale(退屈傾向スケール,以下BPスケール;28の設問からなる質問票で『1人で楽しむのが得意だ』等の設問に対し『はい,どちらでもない,いいえ』から回答,採点は1・4・7点の3段階,高い点ほど退屈を感じやすい傾向にある)を用い,『退屈』という心理状態に陥り易いか否かという視点で性格的傾向を点数化し,学業成績との関連を調査した.<BR>【方法】<BR> 対象は3年制の某理学療法士(以下PT)・作業療法士(以下OT)養成校の学生170名(男性73名;女性97名,平均年齢22.2±4.5)である.専攻・学年別の内訳は,PT専攻1年(以下PT1)37名・2年(以下PT2)30名・3年(以下PT3)39名,OT専攻1年(以下OT1)23名・2年(以下OT2)22名・3年(以下OT3)19名であった.<BR> BPスケールの点数(以下BP値)の平均点を,学年別に分けた3群間と専攻・学年別に分けた6群間にてKruskal-Wallis検定を用い多群比較した.<BR> 次に,BP値と学業成績の関連をみるため,専攻・学年別にSpearmanの順位相関係数の検定を行った.検定対象の成績は調査時点で履修済みである全科目の平均点である.但し,2・3年生の場合,1年次と2年次の成績を分け,2つの代表値を対象とした.更に,2・3年生は専攻・学年別の4群内で各々BP値の高値群と低値群に二分し,2群間の成績を比較した.最後に,全対象者を原級留置の経験の有無により2群に分け平均BP値を比較した.上記の2群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.<BR> 検定は統計ソフトStatView 5.0を用い,有意水準を5%以下とした.尚,本研究は倫理委員会の承認を受け,対象者の同意を書面にて得た上で実施した.<BR>【結果】<BR>1)対象集団の平均BP値<BR> 全学生の平均は99.2±21.9,中央値100であった.学年別の3群間,専攻・学年別の6群間に有意差は無かった.<BR>2)学業成績との相関<BR> OT1の成績,PT3の2年次成績にのみBP値との間に相関係数-0.49と-0.43の負の相関を認めた(p<0.05).<BR>3)BP高値群と低値群の成績推移<BR> PT3の1年次成績はBP高値群で平均79.8点,BP低値群で平均81.7点,2群間に有意差は無かった.しかし2年次成績はBP高値群の平均75.8点よりBP低値群の平均78.1点が有意に高かった(p<0.05).他3群に同じ傾向はなかった.<BR>4)原級留置の有無の差<BR> 原級留置を経験した群(n=30)の平均BP値は109.0で経験のない群(n=140)の97.2より有意に高値であった(p<0.01).<BR>【考察】<BR> BP値と学業成績に強い相関関係を認めなかったが,BP高値者は低値者に比べ成績不振や原級留置となるリスクを持つのかも知れない.従い,BP値を1つの指標として活用し,高値者への支援をその方法論と伴に考える必要がある.
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 大野 祐介 興津 太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101921, 2013

【はじめに】両側大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手(以下:高機能膝継手)が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が報告され始めている.その達成には要所を押さえた義肢部品の運用と,訓練全体のマネジメントが必須となる.第一報では二足実用歩行を獲得した一症例を報告した.今回は同様の方法で実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,両大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする.【症例】34歳 男性 交通外傷による両側大腿切断.既往歴や合併障害なし.受傷後,前病院の断端形成術~装着前訓練を経て,義肢装具SC入院《断端長》右11.0cm,左24.0cm《受傷前身長》166cm,《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:訓練開始時] 《ROM》左股関節伸展10°右股関節屈曲70°伸展-5°《筋力》左右股関節の伸展・外転筋MMT4《受傷~義肢装着の期間》約4ヶ月 [最終評価:18W終了時]《ROM》左股関節伸展15°右股関節屈曲80°伸展5°《筋力》左右股関節周囲筋 MMT5 《膝継手》固定⇒C-Leg⇒C-LegCompact【説明と同意】結果の公表を本人に説明し,個人情報の開示を行う旨を了解済みである。【経過と結果】[開始~10W]膝継手なし,または固定膝で訓練施行.船底型足部を利用したスタビーによる動作習熟が中心.移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う.坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cmずつ長くする.《10m歩行》11.5秒 《12分間歩行》500m 《TUG》19.2秒 《PCI》0.8 [10W~18W]C-Leg(Compact)変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟とその反復に重点を置いて訓練継続.杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が2W~4Wで自立.最終では装着時身長が166cm、約1.5kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》8.5秒 《12分間歩行》660m 《TUG》14.3秒 《PCI》0.57【考察】従来の両大腿切断の訓練は到達目標が頭打ちになることが多いと推測する.両大腿切断者が義足で生活を送るには、多様な路面の攻略が必要になるが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる.多くは手摺りを頼りに出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである.この報告で提案する訓練の基軸は「安心感をもたらす膝継手選択による身体機能向上」と「高機能膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である.いずれも膝継手の理解無くして目的達成は困難といえる.高機能膝継手は,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(良好なクリアランス形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる.具体的には1.強力な油圧抵抗で大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝が緩やかに屈曲しながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意な状況で膝折れが起きない 3.C-Legをエネルギー効率の面で優位とする報告があり,義足歩行の継続が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,膝折れのない安心できる環境の下で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った.これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作を獲得したという成功体験に繋がっている.この効果として,膝継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となって,装着者本人に問題意識が芽生え,より動作習熟に尽力できる下地になったと分析する.立脚期を考慮すれば固定膝に利点もあるが,歩行速度や歩行効率等の評価から分かる通り,より高いレベルの目標達成には,遊動膝による良好な遊脚期形成が重要といえる.高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,これも良好なアライメント設定が前提になる. その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮して重心位置(義足長)を低く保つために,低床型足部や,キャッチピンを用いない装着法も要検討である.(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】公費対象でない製品は高額であるため,現制度内での運用は決して一般的でない.しかし,両側大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,同様の重度切断障害者が,膝継手の選択次第で屋内外を問わず義足で生活できる可能性を見いだせるきっかけとしたい.期限設定~動作達成度の評価や訓練施設の特定など,今後は条件付きで膝継手支給の仕組みが議論されることも必要である.
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 沖野 敦郎 藤田 悠介 西村 温子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】両大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が散見される。その達成のためには要所を押さえた義肢部品の運用と,全体のマネージメントが必須となる。先の報告では二足実用歩行を獲得した症例を報告した。今回は同様に実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする。【症例】27歳 男性 交通外傷による両大腿切断。既往歴や合併障害なし。前病院の断端形成術後,義肢装具SC入院《断端長》右23.0cm,左22.0cm《受傷前身長》181cm 《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:リハ開始時(特徴的な要素のみ記載)]《ROM》左股関節伸展0°右股関節伸展0°《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋4・体幹筋4《疼痛》左断端末外側に圧痛・荷重時痛 《受傷~義肢装着の期間》約1ヶ月[最終評価:24W終了時]《ROM》左股関節伸展5°右股関節屈曲伸展10°《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋5体幹筋5《疼痛》同部位に圧痛残存するも,装着時はソケット修正で自制内[膝継手の変遷]固定膝⇒C-Leg⇒C-LegCompact【経過と結果】[開始~12W]膝継手非使用,または固定膝でリハ施行。スタビー(短義足)による動作習熟が中心。移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う。坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cm毎に長くする。《10m歩行》13.8秒 《12分間歩行》420m[12W~24W]C-Leg変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟と反復に重点を置いて訓練継続。杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が16Wで自立。最終では装着時身長が178cm,約2~3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》7.0秒 《12分間歩行》840m【考察】両大腿切断のリハは到達目標が頭打ちになることが多い。同障がい者が義足で生活を送るには,多様な路面の攻略が必要だが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる。多くは手摺りを利用出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである。この報告で提案するリハの基軸は「安心感をもたらす膝継手選択で可能になる身体機能向上」と「膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である。いずれも製品の理解が重要でなる。C-Legは,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(クリアランスの形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる。具体的には1.強力な油圧抵抗が大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位で,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意に膝折れが起きない 3.エネルギー効率の面で優位とする報告があり,持続歩行が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,低重心かつ膝折れのない環境で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った。これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作獲得という成功体験に繋がる。効果として,継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となり,装着者に問題意識が芽生え積極性を生む下地になったと分析する。立脚期を考慮すれば固定膝に利点があるが,歩行速度や距離の結果より,高いレベルの目標達成には遊動膝の良好な遊脚期形成が重要となる。高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,良好なアライメント設定が前提になる。その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮した低重心の保持を目的に,低床型足部やキャッチピンを使用しない装着法も有効な選択肢である。(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】高額製品の制度内支給は決して一般的でない。しかし,両大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,重度切断障害者の自立支援に向けた有効な情報提供になると共に,このような実績の蓄積が制度に則った運用の円滑化を生む契機になることを望む。成功体験を得た両大腿切断者にとって,高機能膝継手は「便利」というレベルに止まらず,人生を通じて「必要不可欠」な製品である。
著者
向井 公一 三谷 保弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1088, 2011

【目的】Functional Reach Test(以下、FRT)は、動的バランス能力を評価できるとされている。しかし、中村らは、FRTでの最大リーチ距離と足圧中心移動距離には相関が見られないことを報告し、対馬らは、FRTの結果は、関節運動戦略によりリーチ距離や重心の前後移動距離、重心動揺面積が変化することを報告するなど、評価指標としての妥当性について、疑問を投げかける報告が散見されている。今回の研究では、FRTによる重心移動とリーチ距離との関係を明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】整形外科的および神経学的疾病を有しない健常男子大学生14名(平均年齢20.6±0.8歳、平均身長171.7±7.2cm、平均体重61.9±5.4kg、平均足長25.2±1.2cm)を対象とした。<BR>被験者は、足位を閉脚とした静止立位にて一側上肢を水平挙上した状態を開始肢位とし、3秒の静止後、合図と共に上肢を出来る限り前方へリーチし3秒間保持する。この際に、1:特に動作に規定を行わず、自由に行わせる(FRT1)、2:開始肢位よりも殿部が後方へ移動しないように制限する(FRT2)という2種類を運動課題とした。両課題共に、動作中は足底全面が設置していることとし、3回計測を施行した。FRT2の施行に際し、殿部後方に棒を設置して動作中に棒に触れた場合は課題の再施行とした。測定器具として、リーチ距離は超音波式距離計測装置(マイゾックス社製P-13)を用いて計測した。また、重心移動距離は重心動揺計(アニマ社製G5500)を用いた。重心移動距離の算出は、安定してほぼ静止している状況では本来の体重心の軌跡とCOPが一致すると仮定し、機器により算出される足圧中心軌跡長(以下、COP)を身体重心の軌跡とした。これに基づき、3秒間の静止立位における前後方向の平均値から、最大リーチ時の前後方向の平均値を差分し、FRT時の重心移動距離とした。尚、リーチ距離および重心移動距離は、身体特性による影響を取り除くため、身長および足長で各々正規化した。統計学的解析は、ピアソンの相関係数、対応のあるt検定を用い、危険率5%とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究に際して、実験における意義や目的について十分に説明し、書面にて同意を得た。説明は、本研究の意義、目的、研究参加に伴う不利益や個人情報保護などについて行った。尚、本研究は四條畷学園大学倫理委員会において認証されている。<BR><BR>【結果】各試行の最大リーチ距離は、FRT1は38.1±6.1cm、FRT2が26.2±7.8cm(mean±SD)となり、FRT1が FRT2に比べ有意に長い結果であった(p<0.05)。FRTにおけるCOP移動距離は、FRT1は36.2±7.7%、FRT2が36.6±10.9%(mean±SD)であり、各条件による有意差は認められなかった(p<0.05)。また、リーチ距離とCOP移動距離の関係は、FRT1がr=0.461、FRT2はr=0.354となり、何れも弱い相関関係であった。<BR><BR>【考察】Duncanらの報告では、リーチ距離とCOP移動距離には相関を認めている。今回の結果も相関を認めているものの弱いことから、重心移動をFRTが反映しているとはいい難い。また、FRTの運動戦略として重要と考えられる、股関節戦略を制限したFRT2において、制限を加えなかったFRT1とCOP移動距離には差は認められないが、リーチ距離には差を認めている。この理由として、動作による重心移動は、基底面内での最大前方移動は身体の各重心の位置関係によらず決定するため、股関節戦略を制限したとしても有意な差とはならなかったと考えられた。一方リーチ距離は、関節の自由度によって決定されるため、股関節戦略を制限された場合自由度が少なくなることから、結果として有意に減少したと考えられた。従って、特に異なる股関節運動戦略を用いたFRTを行った場合、リーチ距離の差によって重心移動能力を判定することが必ずしも妥当ではないことを示したと考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】FRTは、理学療法の対象者に対する動的バランスの評価として広く使用されている。しかしながら、動的バランスの評価とする場合、重心移動と相対的な関係性が認められる必要があると考えられるが、検証が十分でない。今回の研究で評価指標としての妥当性について明示できたことは、よりよい評価指標へ改善する一助となると考えられる。
著者
廣瀬 秀行 浅見 正人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.B-25_2-B-25_2, 2019

<p>【目的】高齢者が使用するハンドル形電動車椅子(以下HEWC)の事故が多発しており、日本福祉用具・生活支援用具協会から身体の能力及び認知機能の検査方法と運転適性との関係確認方法について先行研究を調査する依頼を受けた。HEWCは高齢者の社会性を増加させると同時に、運動機能をいかに低下させないかの課題や診療報酬でのFIMの修正自立での手段としても関与する。ここでは、医学分野の中で用いられる研究文献収集法、インターネットおよび本調査委員による国内の情報、同様に海外調査を実施した。最後に医学分野で使用されるEBMに基づいたガイドライン作成手法に準じて、まとめを作成した。</p><p>【方法】研究文献収集に用いたデータベースは、当初英文が5つ(MEDLINE、CINAHL、OTseeker、The Cochran Library、PEDro)を活用し、和文が1つ(医中誌Web)を活用した。今回、除外条件は①原著論文でないもの、②全文の入手が困難なもの、③小児のみを対象としているもの、④製品の開発に関するものとした。また、インターネットによって、国内および国外の研究論文ではない情報も収集した。</p><p>【結果・考察】これらの条件からレビューを行った結果、最終的に残った文献が英文25本であり、そこに2本の本委員会委員による紹介などの文献を加えた27本を抽出した。加えた2本の文献はいずれも社会学系であり、また工学系からのアプローチ(原著論文ではない)もあり、医学文献での検索では限界があると同時に、ハンドル形電動車椅子の各種問題について議論するときの範囲の広さを示していた。国内の情報としては、消費者庁、経済産業省、そして警察庁から集めることができ、特に警察庁は電動車椅子の事故に関するwwwができていた。国外は米国、オーストラリア以外にカナダ、英国、イスラエル等各国で同様な情報があった。ここではEBMのガイドラインに準じて、臨床的疑問を以下のように作成し、それに対する答えを各論文を批判的吟味をしながら記載、まとめた。代表的臨床的疑問として、〇軽度を含む認知症と電動車椅子の事故発生または操作能力低下と関係するか?軽度を含む認知症が電動車椅子の操作性や事故に影響するとは言えない。〇年齢が電動車椅子の事故発生または操作能力と関係するか?65歳以上の高齢で事故発生が多く起こっている。〇最高速度制限は有効か?トレーニング中は考慮すべきであるかもしれないが、道路・線路横断などは速度が遅いと横断できない可能性を持つ。〇事故は運転開始早期に起こっているか?不慣れなど、運転開始早期や新しい環境で事故が起こっている。〇横断中の自動車との事故が多いいか?非常に多い。〇旗、ヘルメット、シートベルト、夜間の視認のための洋服や反射材、定期的点検は装着や実施すべきか?すべきである。</p><p>【まとめ】理学療法士はこれらを意識し、HEWCを適切に使いこなし、高齢者の社会性と健康を維持できるように対応すべきである。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮:必要なし。利益相反:なし。</p>
著者
徳田 裕 荻田 讓 米澤 徹哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DaOI1031, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 静脈性浮腫及び深部静脈血栓症(DVT)予防に対する理学療法として運動療法,物理療法,間欠的空気圧迫法,弾性包帯,下肢挙上等を併用することが多い.その中でも,下肢挙上に関するDose(高さ,時間)についての報告は30cm程度が静脈性浮腫の改善に有効との報告しか見受けられない.そこで今回,下肢挙上高及び挙上時間の違いが静脈還流速度に与える影響を検討し,下肢挙上のDoseを明確にすることを目的とした. 【方法】 対象は疾患の既往がない健常成人56名(男31名,女25名,平均年齢21.2±2.4歳,平均体重59.3±9.6kg)を無作為に下肢挙上高15cm群(15cm群)に19名,30cm群に20名,45cm群に17名振り分けた. 方法は,室温約24°C,湿度約50%の条件下で,10分間の馴化時間の後に,背臥位にて左下肢の膝窩静脈の血流速度をデジタルカラー超音波診断装置,プローブはリニア探触子(7.5MHz)を用いパルスドプラ法にて測定した.次に,左下肢を15cm,30cm,45cmの台へそれぞれ挙上させ5,10,15,20分後に同様の方法にて血流速度を測定した.測定項目は収縮期最高血流速度(PSV)とした.統計処理は,各挙上高群の経時的PSVの比較には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合,多重比較検定には挙上前との比較を目的にTukey-Kramer法を用いた.更に,有意差を認めた各挙上高・挙上時間の群間の比較には挙上前を基準とした変化率を算出し一元配置分散分析で有意差を認めた場合,同時間の比較にMann-whitneyのU検定を用いた.有意水準は危険率5%未満とした.【説明と同意】 全ての対象者には研究の目的,方法,期待される効果,危険性,個人情報保護について口頭および書面にて説明し,研究参加の同意を得た.【結果】1.各挙上高における経時的PSVの比較 Tukey-Kramer法による多重比較検定の結果,15cm群では挙上前と比べ10分後,15分後,20分後に有意な増加を認めた(p<0.05).30cm群では挙上前と比べ5分後,10分後,15分後に有意な増加を認めた(p<0.05).45cm群では挙上前と比べ5分後に有意な増加を認めた(p<0.05).2.各挙上高・挙上時間の群間比較 Mann-whitneyのU検定の結果,30cm:15分に比べ15cm:15分は有意に高値を示した(p<0.05).15cm:10分に比べ30cm:10分は有意に高値を示した(p<0.01).30cm:5分に比べ45cm:5分では増加傾向を示した.【考察】 静脈血流速の検討にはPSVが多用されており有用性があると考え,本研究の測定項目とした. 重力による血行動態への影響として血液は血管内で部位により位置エネルギーの差を生じ垂直方向へ圧力勾配を持つ.これを静水圧と呼び,1cmにつき0.7mmHgの圧変化がある.下肢挙上位では高さに応じて静水圧を受け,動静脈の陰圧化が生じ,これにより静脈毛細血管の再吸収及び動脈毛細血管での濾過の抑制が生じる. 結果より,挙上高と挙上時間に関するDoseでは,15cm:20分,15cm:15分,30cm:10分,45cm:5分が静脈還流速度を速めることが明確になった.従って下肢を挙上する場合には,Dose(高さ,時間)を検討し実施する必要性があると考えられる.また挙上高45cm群においては,施行中痺れを訴えた者がいて静脈還流速度も低下傾向にあったため,動脈に虚血を生じさせるDoseとなるリスクも考えなければいけないことも示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,静脈還流速度を促進する下肢挙上のDose(高さ:時間)が明確となり,理学療法臨床場面での浮腫治療及びDVT予防における下肢挙上に関する一つの目安を示すことができたと考えられる.
著者
廣江 圭史 平賀 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0972, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頭部を固定した体幹回旋運動は日常生活動作の中で多く見られる動作であり,その多くは野球やテニスなどのスポーツ場面や歩行等の立位で行っている。歩行時の頭位は体幹回旋に拮抗しており,体幹回旋は骨盤と反対に回旋すると言われている。それによって,体軸内回旋が生じる事で歩行時のエネルギー消費を少なくするとされている。先行研究において座位で骨盤固定した体幹回旋運動の課題において頭部固定をすることで体幹回旋可動域が有意に低値を認めた報告があるが,立位で頭部固定の有無による報告は見られない。立位において頭部固定の有無が体幹回旋運動,骨盤回旋運動に変化を及ぼすことを明らかにすることはスポーツ場面や歩行の分析や治療を行う上での一助になると思われる。そこで,今回は立位において頭部固定の有無による体幹回旋可動域,骨盤回旋可動域,体幹回旋運動時の重心移動量の変化を比較,検討した。【方法】対象は神経学的疾患や骨関節疾患のない健常成人8名(男性8名,年齢25.7±4.3歳,身長172.6±3.5cm,体重64.5±3.3kg)とした。測定は3次元動作解析システムVICON370(OXFORD METRICS社製)を用い,サンプリング周波数60Hzの赤外線カメラ6台で計測した。赤外線反射マーカーは臨床歩行分析研究会の推奨する15点に貼付した。計測課題は両上肢下垂位の立位姿勢からの体幹右回旋運動とした。体幹右回旋運動は自動運動で行い,頭部固定無し,頭部固定ありの2条件を無作為に3試行ずつ行った。頭部固定は被験者ごとの目の高さに合わせた目印を3m前方に貼付し,その目印を注視させることで頭部固定を自動運動で行った。測定項目は体幹右回旋運動時の最大体幹回旋可動域と骨盤回旋可動域,立位姿勢から最大体幹右回旋時の重心移動量とした。関節角度,重心の算出は臨床歩行分析研究会の解析ソフトウェアDIFF Gait,WAVE EYESを用いて行った。統計解析は頭部固定の有無による体幹右回旋可動域と骨盤右回旋可動域,重心移動量をMann-WhitneyのU検定を用いてそれぞれ比較した。有意水準は5%とした。【結果】最大体幹回旋可動域は頭部固定無しで115.6±12.6度,頭部固定ありで89.22±11.83度と頭部固定ありで有意に低値を認めた。骨盤回旋可動域は頭部固定無しで7.68±3.19度,頭部固定ありで3.95±1.99度と頭部固定ありで有意に低値を認めた。重心移動量は頭部固定無しでは右側へ1.76±1.49cm移動しており,頭部固定ありでは0.43±0.77cm移動していた。重心移動量においても頭部固定ありで有意に右方向への移動が低下していた。【考察】本研究においても頭部固定時の体幹回旋運動では,体幹回旋可動域が低値を示したことから座位での先行研究を支持するものとなった。立位での体幹回旋運動は頭部を固定しない条件では頸椎からの腰椎までのすべての脊柱を同側に回旋させることが可能であり,体幹,骨盤を同側に回旋させることができたと考えられる。しかし頚部回旋は姿勢制御を不安定にさせ,速いほどその影響は大きいことが報告されており,頭部固定しない条件では回旋側への移動が大きくなっていた。このことからも頭部固定ありに比べ体幹回旋動作時の姿勢制御として筋活動がより必要になると考えられる。骨盤回旋可動域は頭部固定無しで7.68±3.19度,頭部固定ありで3.95±1.99度と頭部固定ありは体幹回旋運動に拮抗する形で可動域が低下していた。このことから,体幹回旋運動に骨盤回旋が拮抗した力を発揮していることが考えられる。運動様式から頭部固定ありでは体軸内回旋が行われていることが示唆される。体軸内回旋が行われたことで,体幹回旋運動時の回旋側への重心移動を抑制する結果に繋がったと考えられる。そのため,歩行のような相反性で対側性の動作に安定性や動きを与える上で頭部固定は必要な要素になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】頚部固定ありの体幹回旋運動において,回旋側への重心移動の抑制や体軸内回旋を誘発する一要因となることが示唆された。今後,頭部固定をした体幹回旋運動時の筋電図学的検討を行い,体幹筋活動を明らかにすることで,理学療法として体軸内回旋の促通を行うことのできる運動療法を考案できると考えられる。
著者
光武 翼 中田 祐治 岡 真一郎 平田 大勝 森田 義満 堀川 悦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0804, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】後頭下筋群は筋紡錘密度が非常に高く,視覚や前庭覚と統合する固有受容器として中枢神経系との感覚運動制御に関与する。後頭下筋群の中でも深層の大小後頭直筋は頸部における運動制御機能の低下によって筋肉内に脂肪浸潤しやすいことが示されている(Elliott et al, 2006)。脳梗塞患者は,発症後の臥床や活動性の低下,日常生活活動,麻痺側上下肢の感覚運動機能障害など様々な要因によって後頭下筋群の形態的変化を引き起こす可能性がある。本研究の目的は,Magnetic Resonance Imaging(以下,MRI)を用いて後頭下筋群の1つである大後頭直筋の脂肪浸潤を計測し,脳梗塞発症時と発症後の脂肪浸潤の変化を明確にすることとした。また,多変量解析を用いて大後頭直筋の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子を明らかにすることとした。【方法】対象は,脳梗塞発症時と発症後にMRI(PHILPS社製ACHIEVA1.5T NOVA DUAL)検査を行った患者38名(年齢73.6±10.0歳,右麻痺18名,左麻痺20名)とした。発症時から発症後のMRI計測期間は49.9±21.3日であった。方法は臨床検査技師によって計測されたMRIを用いてT1強調画像のC1/2水平面を使用した。取得した画像はPC画面上で画像解析ソフトウェア(横河医療ソリューションズ社製ShadeQuest/ViewC)により両側大後頭直筋を計測した。Elliottら(2005)による脂肪浸潤の計測方法を用いて筋肉内脂肪と筋肉間脂肪のpixel信号強度の平均値を除することで相対的な筋肉内の脂肪浸潤を計測した。大後頭直筋の計測は再現性を検討するため級内相関係数ICC(2,1)を用いた。発症時と発症後における大後頭直筋の脂肪浸潤の比較はpaired t検定を用いた。また,大後頭直筋の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子を決定するために,発症時から発症後の脂肪浸潤の変化率を従属変数とし,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),発症から離床までの期間(以下,臥床期間),Functional Independence Measure(以下,FIM),National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS),発症時から発症後までのMRI計測期間を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。回帰モデルに対する各独立変数はp≧0.05を示した変数を除外した。回帰モデルに含まれるすべての独立変数がp<0.05になるまで分析を行った。重回帰分析を行う際,各独立変数間のvariance inflation factor(以下,VIF)の値を求めて多重共線性を確認した。すべての検定の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての患者に対して文章,口頭による説明を行い,署名により同意が得られた者を対象とした。【結果】対象者のBMIは21.5±3.3,臥床期間は5.3±9.5日,FIMは84.6±34.5点,NIHSSは5.6±5.9点であった。大後頭直筋の脂肪浸潤におけるICC(2,1)は発症前r=0.716,発症後r=0.948となり,高い再現性が示された。脳梗塞発症時と発症後に対する大後頭直筋の脂肪浸潤の比較については発症時0.46±0.09,発症後0.51±0.09となり,有意な増加が認められた(p<0.001)。また重回帰分析の結果,大後頭直筋における脂肪浸潤の変化率に影響を及ぼす因子としてNIHSSが抽出された。得られた回帰式は,大後頭直筋の脂肪浸潤=1.008+0.018×NIHSSとなり,寄与率は77.5%(p<0.001)であった。多重共線性を確認するために各変数のVIF値を求めた結果,独立変数は1.008~4.892の範囲であり,多重共線性の問題は生じないことが確認された。【考察】脳梗塞患者の頸部体幹は,内側運動制御系として麻痺が出現しにくい部位である。しかし片側の運動機能障害は体軸-肩甲骨間筋群内の張力-長さ関係を変化させ,頸椎の安定性が損なわれる(Jull et al, 2009)。この頸部の不安定性は筋線維におけるType I線維からType II線維へ形質転換を引き起こし(Uhlig et al, 1995),細胞内脂肪が増加しやすいことが示されている(Schrauwen-Hinderling et al, 2006)。脳梗塞発症時のMRIは発症前の頸部筋機能を反映し,発症後のMRIは脳梗塞になってからの頸部筋機能が反映している。そのため,脳梗塞を発症することで大後頭直筋の脂肪浸潤は増加する可能性がある。また大後頭直筋の脂肪浸潤に影響を及ぼす因子としてNIHSSが抽出され,麻痺の重症度が関係している可能性が示唆された。今後の課題は,脳梗塞患者における大後頭直筋の脂肪浸潤によって姿勢や運動制御に及ぼす影響を検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】脳梗塞片麻痺患者は一側上下肢の機能障害だけでなく頸部深層筋に関しても形態的変化をもたらす可能性があり,脳梗塞患者に対する理学療法の施行において治療選択の一助となることが考えられる。
著者
吉田 昌弘 笠原 敏史 田辺 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.129, 2003

【はじめに】スポーツ・リハビリテーションの中で受傷部位の回復を評価するにあたって,機能レベルのテスト項目のほかに,10M走や垂直跳び,反復横跳びなどの能力レベル(いわゆるパフォーマンス)のテスト項目も行われる.中でも,垂直跳びの能力はジャンプ競技(バレーボールやバスケットボールなど)の重要な要素である.これまでのジャンプ研究の報告から,垂直跳び動作は下肢および上肢や体幹の運動を使った全身運動であると言われている.下肢傷害の機能回復を垂直跳びの結果より判断する場合,上肢や体幹運動を考慮して実施する必要がある.しかし,上肢の運動が垂直跳びに影響を及ぼすことは知られているが,どのような上肢運動が垂直跳びの成績や力学的な要素に関与しているのか十分に明らかにされていない.本研究はこの点を解明するために調査を行い,若干の知見を得たので報告する.【対象と方法】対象は健常男子名(平均年齢21±1[SD]歳,身長173±5cm,体重58±5kg,BMI19±1).「垂直跳び」は助走なくその場で出来るだけ高く飛び,壁面に設置した垂直跳び計測用ボードにあらかじめチョークの粉をつけた指先をつけるよう指示し測定した.対象は,肩関節屈曲0度(T1),肩関節屈曲90°(T2),肩関節屈曲180度から伸展運動させ(T3),続いて屈曲運動を行わせた.肩関節屈曲30度(T4),肩関節120度(T5)から屈曲運動のみ行わせた.これらと,肩関節180度で固定(T6)して行ったときとを比較した.各課題5回ずつ行わせ,うち最高と最低値を除く3回のデータを用いた.なお,各運動課題はランダムに行った.さらに,同時に,床反力計を使って垂直方向の力も計測した.【結果】垂直跳びの成績はT1=58±6cm, T2=56±7cm,T3=55±8cm,T4=55±7cm,T5=51±7cm,T6=49±7cmであった.フォースプレートからZ方向の大きさは,各被検者ごとの差を取り除くため,ノーマライズを行い,各被検者の体重を引き,体重で除したものを用いた.その結果,T1=14.4±0.3,T2=13.9±0.4,T3=14.3±0.3,T4=13.4±1.2,T5=12.9±0.3,T6=13.1±0.5であった.【考察】本研究では,垂直跳びにおける上肢の振りの関与について,上肢運動に条件を設定して行った.T1からT3は上肢を振り下ろす運動範囲に条件をつけて行い,上肢を固定した場合に比べ,垂直とびの高さは大きく,z方向の力成分も大きかった.このことから,上肢を振り下ろす運動により,床からの反力を得ている可能性がある.T4とT5は上肢を振り上げる運動範囲に条件をつけ,運動範囲が小さい場合,垂直跳びの高さが減少し,z方向の力成分も減少していた.同様に,上肢を振りあげるも高く飛ぶために必要な床からの反力を得ているものと考える.
著者
原田 脩平 加藤 仁志 栗林 朋宏 轟木 信彦 吉澤 和真 松澤 正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F3P3585, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】マッサージにおいて効果が大きいとされている血液循環改善について検討した.本研究では下腿にマッサージを施行し,その前後の末梢側(足背)と中枢側(大腿)それぞれの皮下血流量の変化を明らかにすることを目的とした.【対象】対象者は循環障害などの疾患に問題のない健常大学生15名(男子9名,女子6名,平均年齢20.7±1.3歳)とした.ヘルシンキ宣言に基づき全対象者に同意を得た.なお,本研究は群馬パース大学の研究倫理委員会の承諾を受けて実施した.【方法】対象者を背臥位にして,マッサージ施行前後で末梢・中枢側の皮下血流量と血圧を測定し比較した.皮下血流量を測定するプローブは末梢側では足背,中枢側では大腿前面中央に貼付した.マッサージ試行の3,2,1分前のデータを測定し,基準値を決定した.続いて左下腿部に10分間マッサージを施行し,終了直後,5,10,15,20分後のデータを測定した.手技は下腿全体へ軽擦・圧迫・揉捏法を施行した.また,マッサージ施行前後に最大・最小下腿周径を測定し比較した.統計学的分析はWilcoxonの符号付順位検定にて行った.【結果】マッサージ施行後に末梢側・中枢側共に血流量が増加した(p<0.05).両者の変動は類似しており,5分後に減少し再び上昇した後,徐々に下降した.収縮期血圧において施行直後に低下がみられ,その後に大きな変動はなかった(p<0.05).下腿周径は最大・最小共に,施行後に減少した(p<0.05).【考察】マッサージ施行後に血流が増加したのは,マッサージにより滞っていた末梢側の血液が中枢側へ送られ,施行部の静脈管やリンパ管が空虚になり,そこへ新しい血液が急激に流れ込んだために血流量が上昇したと考えた.また,血流の変動は血流の上昇により中枢側へ流れ込んだ血流が滞り,血流量は5分後には施行前に比べ減少した.その後,滞っていたリンパ液が徐々に左静脈角で静脈に吸収されたことでリンパの流れが再び改善し,血管の周囲に張り巡らされているリンパ管による圧迫も軽減したことで,10分後の血流は再び上昇したと考えた.中枢側と末梢側による血流変化量については,同様な変化を示したため,浅・深膝窩リンパ節より上位のリンパ本幹で滞っていることが示唆された.血圧については,マッサージ施行により静脈環流量,心臓への血液流入量が増加した.それに伴い一回拍出量や心拍出量も増加したことで圧受容器が感知し,血管を拡張させた.これにより血管抵抗が低下し,血圧が低下したと考えられた.下腿周径において,施行前 後で有意にその値が低下したのは,末梢に滞っていたリンパ液が中枢側に還流されたためと考えた.本研究により,皮下血流量の上昇,血圧の低下,下腿周径の減少が認められたため,マッサージの血液循環の改善は認められた.
著者
高橋 佳恵 高倉 保幸 大住 崇之 大隈 統 川口 弘子 草野 修輔 山本 満 大井 直往 陶山 哲夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0055, 2005

【目的】我々は日本昏睡尺度(Japan Coma Scale:JCS)と平均反応時間の関係を調べ、意識障害の程度により平均反応時間に有意な差があり、平均反応時間が意識障害を客観的に表す指標として有用であることを報告してきた。一方、意識障害が強い場合には、外界に対する反応性の低下とともに反応性の変動が大きいことも知られている。そこで、今回は変動を比較する指標として変動係数に着目し、意識障害と反応時間の平均値および変動係数の関係について検討を行った。<BR><BR>【対象と方法】対象は当院を受診し、理学療法を行った脳損傷60例とした。年齢は64.7±12.8歳(平均±標準偏差)、性別は男性35例、女性25例であった。病型は脳出血23例、くも膜下出血8例、脳動静脈奇形を伴う脳出血3例、脳梗塞22例、頭部外傷4例、測定時期は発症後32.6±30.1日であった。被験者には、静かな個室でヘッドホンを装着、非麻痺側の上肢でスイッチを押しながら待機、ヘッドホンを通じて音が聞こえたら出来るだけ素早くスイッチを離すよう指示した。音刺激からスイッチを離すまでの時間を反応時間とし10回の測定を行った。意識障害の判定はJCSを用いて行ったが、今回の対象者は全例がJCS I桁であった。対象者をJCSにより清明群(n=19)、I-1群(n=15)、I-2・3群(n=16)の3つの群に分け、各群の平均反応時間と変動係数の差を比較した。統計学的解析にはSPSS for Windows 12.0Jのボーンフェローニの多重比較検定を用い、危険率は5%とした。<BR><BR>【結果】意識と反応時間についてみると、各群の平均反応時間は、清明群165.0±57.3msec、I-1群296.0±112.7msec、I-2・3群634.0±535.0msecとなり、意識障害が強くなるほど平均反応時間は遅延した。また、各群の症例数にばらつきはあるものの、ボーンフェローニ検定を用いた多重比較では、清明群とI-2・3群間、I-1群とI-2・3群間にそれぞれ有意差がみられた。変動係数においては、清明群33.3±10.6%、I-1群29.3±9.5%、I-2・3群40.2±17.5%となり、各群間に有意差はみられなかった。<BR><BR>【考察とまとめ】意識障害が強い場合には、外界に対する反応性の低下とともに反応性の変動が大きいことが知られているが、反応時間の測定からは実証することができなかった。反応性の変動は注意の覚度の変動が影響していると考えられるが、反応時間を測定するときには意識障害が強い例でも一時的に覚度が向上し、反応性が安定する可能性がある。今回の結果から反応時間の臨床的応用には平均値を用いて検討することが妥当であると考えられた。