著者
堀野 洋 森 信彦 松木 明好 鎌田 理之 平岡 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101509, 2013

【はじめに、目的】眼球運動時に安静にある第一背側骨間筋、小指外転筋、橈側主根伸筋の運動誘発電位(MEP)振幅が減少することが報告されている(Maioli et al. 2007)が、目と手の協調を必要とする眼球・腕運動同時実施時に眼球運動が上肢筋支配の皮質脊髄下降路に及ぼす影響は明らかでない。本研究では目と手の協調を必要とする眼球・腕同時の標的運動時に眼球運動が上腕二頭筋・三頭筋支配皮質脊髄下降路興奮性に及ぼす影響を検証した。【方法】健常成人11 名(23-35 歳)に椅子座位をとらせ、右肘関節を屈伸できるペンデュラムに右上肢を乗せた。ペンデュラム前腕部に前腕運動を壁面に投影するレーザーポインターを設置し、頭部固定装置で頭部を固定した。右上腕二頭筋と右上腕三頭筋に記録用表面電極(EMG)を取り付けた。角膜反射光法による眼球運動計測装置を取り付けた。被験者の1m前方の壁の正中線上に開始位置マークと、その20°左側に終了位置マークを設置した。開始位置マークにレーザービームを合わせて右肘関節屈曲35°の開始肢位を取らせ、警告音の1000ms後の開始音を合図に右肘関節屈曲55°の位置にある終了位置マークにレーザービームを一致させる課題を行わせた。眼球運動は、開始音(500Hz)を合図にレーザービームを眼球で追従させる条件(円滑追従眼球運動;SP)、開始音(143Hz)を合図に開始位置マークを凝視させる条件(眼球静止;EM)、開始音(84Hz)を合図に視線を終了位置マークに急速に移動させる条件(衝動性眼球運動;S)の3 条件とした。double cone coilを使用し、運動閾値の1 倍で上腕二頭筋hotspotに経頭蓋磁気刺激(TMS)を行った。TMSのタイミングは、右肘関節屈曲運動前の開始音時、開始音後200 ms、腕運動初期相・中間相・最終相)で実施した。【倫理的配慮、説明と同意】実験は大阪府立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には実験の目的・方法及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】眼球運動のreaction time(RT)は各条件において有意差を認めなかった。上腕二頭筋EMGのRTはS条件において他の条件に対して有意に延長した。SP・S条件において眼球運動RTと上腕二頭筋EMGのRTの間で有意な相関を認めた。肘関節運動時間はSP条件において他の条件に対して有意に延長した。上腕二頭筋のbackground EMG振幅は初期相においてSP条件で他の条件と比較して有意に低下したが、それ以外の相では3 条件間で有意差を認めなかった。上腕二頭筋・上腕三頭筋のMEP振幅は3 条件間で有意差を認めなかった。開始音後200msの上腕二頭筋・上腕三頭筋の上腕二頭筋・上腕三頭筋のbackground EMG振幅は3 条件間で有意差を認めなかった。開始音後200msの上腕二頭筋・上腕三頭筋のMEP振幅は3 条件間で有意差を認めなかった。【考察】円滑追従眼球運動・衝動性眼球運動における上腕二頭筋EMGのRTに対する有意な相関は、眼球運動と腕運動が同一運動制御中枢のトリガーにより開始されることを示唆した。円滑追従眼球運動条件における腕運動時間延長と上腕二頭筋BEMG振幅低下は、眼球で追える程度の腕運動速度に低下させるためにEMG活動が減少したためであると考えられた。一方、皮質脊髄下降路興奮性は運動開始前・運動開始中とも眼球運動条件間で有意差がなかった。特に運動開始前には固有感覚や視覚フィードバックが生じないので、この相におけるMEPは腕運動および眼球運動命令の影響を純粋に反映するものと考えられる。したがって、本研究の知見は、目と手の協調を必要とする標的運動時であっても、眼球運動命令は腕筋支配皮質脊髄下降路興奮性に影響を及ぼさないものと考えられた。安静状態にある前腕・手指筋のMEP振幅は円滑追従眼球運動時に減少するが、これは眼球運動によって一部共有する眼球運動中枢からの腕・指運動命令中枢が眼球運動時に運動命令を生じて安静にもかかわらず腕・指運動が生じることを予防するために生じていると考えられている(Maioli et al. 2007)。本研究でこのようなMEP振幅減少が確認されなかった理由は、腕運動を同時に遂行したため、運動発現予防のための上腕筋支配皮質脊髄下降路興奮性抑制の必要がなかったためと考えられた。【理学療法学研究としての意義】目と手を同時に標的へ動かした時の運動制御機能について明らかにすることにより、様々な日常生活動作に関する上肢のリーチング動作やポインティング動作への理学療法アプローチに資する知見である。
著者
江玉 睦明 久保 雅義 大西 秀明 稲井 卓真 高林 知也 横山 絵里花 渡邉 博史 梨本 智史 影山 幾男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0563, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】アキレス腱(AT)障害の発生メカニズムとしては,これまで踵骨の過回内による「whipping action(ムチ打ち)」が要因であると考えられてきた。しかし,近年では,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として重要視されてきている。この原因としては,ATの捻れ構造が関与している可能性が示唆されていが,ATの捻れの程度の違いを考慮して検討した報告はない。従って,本研究は,踵骨を回内・回外方向に動かした際にATを構成する各腱線維束に加わる伸張度(%)を捻れのタイプ別に検討することを目的とした。【方法】対象は,我々が先行研究(Edama,2014)で分類したATの3つの捻れのタイプ(I:軽度,II:中等度,III:重度の捻れ)を1側ずつ(日本人遺体3側,全て男性,平均年齢:83±18歳)使用した。方法は,下腿部から踵骨の一部と共に下腿三頭筋を採取し,腓腹筋の筋腹が付着するAT線維束とヒラメ筋の筋腹が付着するAT線維束(以下,Sol)を分離し,腓腹筋内側頭が付着するAT線維束(以下,MG)と外側頭の筋腹が付着するAT線維束(以下,LG)とに分離した。そして,各腱線維束の踵骨付着部の配列を分析して3つの捻れのタイプに分類し,各線維束を3-4mm程度にまで細かく分離を行った(MG:4~9線維,LG:3~9線維,Sol:10~14線維)。次に,下腿三頭筋を台上に動かないように十分に固定し,Microscribe装置(G2X-SYS,Revware社)を使用して,各腱線維の筋腱移行部と踵骨隆起付着部の2点,踵骨隆起の外側の4点をデジタイズして3次元構築した。最後に,任意に規定した踵骨隆起の回転中心を基準に作成した絶対座標系上で踵骨を回内(20°)・回外(20°)方向に動かした際の各腱線維の伸張度(%)をシミュレーションして算出した。解析には,SCILAB-5.5.0を使用した。統計学的検討は,Microscribe装置測定の検者内信頼性については,級内相関係数(ICC;1,1)を用いて行った。【結果】級内相関係数(ICC;1,1)は,0.98であり高い信頼性・再現性が確認できた。タイプ毎の伸張度(%)は,タイプIでは,回内(MG:-1.6±0.9%,LG:-2.2±0.2%,Sol:1.7±3.4%),回外(MG:1.3±0.7%,LG:2.0±0.3%,Sol:-1.4±3.3%),タイプIIでは,回内(MG:-1.2±0.7%,LG:-0.4±0.6%,Sol:2.4±1.4%),回外(MG:0.8±0.7%,LG:0.4±0.5%,Sol:-3.2±1.5%),タイプIIIでは回内(MG:-1.7±0.4%,LG:-0.4±1.4%,Sol:3.7±6.0%),回外(MG:1.3±0.4%,LG:0.4±1.3%,Sol:-5.4±6.2%)であった。【考察】AT障害の発生メカニズムとして,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として報告されている。また,好発部位は,踵骨隆起から近位2-6cmであり,外側よりも内側に多いことが報告されている。今回,踵骨を回内すると3つの捻れのタイプ全てにおいて,MG・LGは短縮し,Solは伸張された。特にタイプIII(重度の捻れ)では,回内時のSolの伸張度が他のタイプに比べて最も大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度のばらつきが多い結果であった。従って,タイプIII(重度の捻れ)では,踵骨回内時には,ATを構成するMG,LG,Solの伸張度が異なるだけでなく,他のタイプに比べてSolの伸張度が大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度も異なるため,AT障害の発生リスクが高まる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】AT障害は,重症化するケースは少ないが再発率が高く,管理の難しい疾患の一つとされている。近年,有効な治療法はいくつか報告されているが,予防法に関しては有効なものが存在していない。その原因として,発生メカニズムが十分に解明されていないことが懸念されている。本研究結果は,AT障害の発生メカニズムの解明に繋がり,有効な予防法や治療法の考案,更には捻れ構造の機能解明に繋がると考える。
著者
土田 将之 柴田 昌和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】人体に多数存在する骨格筋の各々には複数の線維束があり,それらは異なる機能的特徴を持ち,中枢神経制御から独立した働きをすると考えられている。中殿筋の線維束については前部線維,中部線維,後部線維の3つの線維束を持つという報告と,前部線維,後部線維の2つの線維束を持つという報告がある。しかしそれぞれの線維束の境界についての具体的な場所の記述はない。中殿筋は理学療法の治療対象となる機会が多い筋であり,その研究も多くなされている。その研究手法は表面筋電図を用いたものが主流であるが,筋線維束の境界が不明確なため,電極の貼付位置が統一されていない。そこで本研究の目的は ①複数あるといわれる中殿筋の筋線維束の境界を形態的に明らかにすること ②確認した複数の線維束上に,表面筋電電極を貼付するための適切な位置を検討すること ③中殿筋の働きについて,線維束の違いによる機能的特徴という観点から再考することとした。【方法】大学病院において,献体を用い以下の3つの実験を実施した。①中殿筋線維束の境界を観察するために,7体(男3,女4)13肢の中殿筋を剖出し,肉眼にて線維走行の異なる箇所(境界)の有無を観察し,境界に沿って中殿筋を分け,内部構造を観察した。②7体(男4,女3)14肢の中殿筋を取り出し,前部線維と後部線維に分割し,その湿重量を測定し,前後の重量比を算出した。③7体13肢の右下肢の腸脛靭帯と中殿筋,中殿筋と大殿筋の境界位置を腸骨稜上で計測し,腸骨稜長(ASISから腸骨稜を辿りPSISへ至るまでの長さ)の何%の位置にあるかを記録した。その後腸脛靭帯と大殿筋を剥離し,先行文献が示す3つの電極の貼付箇所(A:ASISと大転子を結んだ線上の50%の位置,B:腸骨稜と大転子を結んだ線上の50%の位置,C:腸骨後部と大転子を結んだ線上の33%の位置)にピンを挿し,位置の妥当性を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は神奈川県立保健福祉大学ならびに神奈川歯科大学倫理委員会の承認を得たうえで行った。【結果】①腸骨稜長の約60%の位置と大転子を結んだ線を境にして,中殿筋は明確な筋線維走行の違いを見せており,この線を境にして中殿筋が前部線維と後部線維に分かれる様子が確認できた。その他の明瞭な境界線は確認されなかった。次に,確認された境界より中殿筋を分け,内部構造を観察したところ,後部線維の停止部が腱組織に移行しており,中殿筋はこの内部腱を境界として構造的に前部線維と後部線維に分かれていることを確認した。②平均重量は前部線維130.1±25.9g,後部線維は100.8±22.0gで,散布図の近似曲線の傾きより前部線維と後部線維の重量比は約10:8であった。③A,Bはともに中殿筋の前部線維上に,Cは後部線維上に位置することが確認できたが,翻転していた大殿筋を起始部に戻すと,Cの位置は大殿筋の線維に覆われてしまうことが確認された。【考察】後部線維の重量比の大きさから,骨盤・下肢の安定性に対する後部線維の役割は,従来考えられているものより大きいと考えた。特に,後部線維の働きが股関節の進展・外転・外旋であることを考えると,ジャンプ後の片脚着地動作などの場面で股関節の屈曲・内転・内旋を制動し,前十字靭帯損傷の危険性を軽減させる要因となっている可能性が考えられた。また電極の貼付位置については,先行文献が示す位置では,Aは腸脛靭帯の上から中殿筋の前部線維の前方筋腹上に位置し,Bは前部線維の後方筋腹上に位置していたが,Cの箇所には大殿筋の筋線維が走行していた。ASISから計測した腸骨稜長の約60%~83%の位置において,大殿筋に覆われていない中殿筋後部線維の走行が確認されたことから,後部線維の筋活動を計測するための,より適切な貼付位置の存在が示唆された。【理学療法学研究としての意義】明確にされていなかった中殿筋線維束の境界を明らかにすることで,表面筋電計を用いた理学療法研究における,研究手法確立の一助となり得ること。
著者
宮澤 大志 白井 英彬 五味 恭佑 江戸 優裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】ウィンドラス機構は足部の剛性と柔軟性を制御する上で重要であるが,臨床での定量評価は難しく,簡便な方法が示されてはいない。そこで,本研究ではウィンドラス機構の働きを,臨床で評価可能な中足趾節関節(以下,MP関節)の伸展に対する内側縦アーチの挙上率で定義した。その上で,他の理学所見や歩幅との関係からウィンドラス機構が破綻した症例に対する介入の糸口を見出すことを目的とした。【方法】対象は,健常成人25名(男性12名・女性13名:年齢24.5±2.1歳・身長164.0±9.1cm・体重55.0±10.0kg)とし,ウィンドラス機構の定量評価と,歩幅・下肢の関節可動域(以下,ROM)および筋力の計測を行った。ウィンドラス機構の評価は,全足趾のMP関節の伸展0度に対する他動的な伸展20度条件における舟状骨高の変化率と定義した(以下,ウィンドラス比率)。計測肢位は端座位とし,大腿遠位部に体重の10%の荷重をかけた。歩幅の計測は目盛をつけた歩行路上の歩行をビデオカメラにて矢状面から撮影して判定した。ROMおよび筋力は,股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈をランダムな順に計測した。筋力は徒手筋力計ミュータスF-1(アニマ社製)を使用し,アニマ社が規定する方法に準拠して計測した。また,筋力は3回計測,歩幅は4回計測した平均値を採用し,各々体重比(%BW)と身長比(%BH)を算出した。統計学的分析は,各項目間の関係をPearsonの相関係数を用いて,危険率5%(p<0.05)で検討した。【結果】ウィンドラス比率の平均は,108.9±4.9であった。ウィンドラス比率とその他の項目の関係は,反対側の歩幅(r=0.44)・足関節背屈ROM(r=0.46)・足関節底屈筋力(r=0.44)に有意な相関を認めた。足関節背屈ROMと足関節底屈筋力(r=0.45)および反対側の歩幅(r=0.38),足関節底屈筋力と反対側の歩幅(r=0.45)にも有意な相関を認めた。【結論】本研究で定義したウィンドラス比率は,MP関節の伸展によるアーチ拳上の大きさを表す。したがって,ウィンドラス比率が高ければ足部の剛性を効率的に高めることができるため,足関節底屈筋による足関節底屈トルクを効率的に前足部へ伝達できると考える。歩行中,このような強力なテコとしての役割が足部に求められるのはTerminal Stance(以下,TSt)である。TStは下腿前傾に伴って足関節背屈を強めるとともに前足部に荷重が移行し,反対側の下肢を振り出す時期である。このようなTStの要求に合わせて,ウィンドラス比率と足関節背屈ROMおよび底屈筋力,反対側の歩幅に相関を認めたと考える。臨床上,MP関節を伸展してもアーチが挙上しないウィンドラス機構が破綻した症例に遭遇する。足部内在筋強化や足底板などによりウィンドラス機構の改善を図るとともに,足関節底屈筋や背屈ROMの拡大により,安定したTStの構築に繋がると考える。
著者
杉田 翔 藤本 修平 今 法子 小向 佳奈子 小林 資英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>脳卒中者を介護する家族(家族介護者)の介護負担感に関連する主な要因は,主に介護の協力・相談相手の乏しさ,将来への不安といった身体的・精神的要因である(杉田ら,理学療法科学,2016)。しかし,理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の介護負担感に対する認識や介入の意思決定がそのような先行研究の証拠を元にしているか不明である。そこで本研究では,脳卒中者の家族介護者について介護負担感の要因に対するPT・OTの認識と,その要因に対する対応策について調査することとした。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,回復期リハビリテーション病棟に所属するPT・OT 16名(PT・OT各8名,平均経験年数5.8年,範囲2-11年)とし,事前に作成したインタビューガイドに沿って半構造化面接を行った。面接の内容は,1)家族介護者の介護負担感が強くなると感じた脳卒中患者の特徴,2)退院後に家族介護者が介護負担を感じる状況,3)介護負担感を軽減させるために行っている対応策の3点とし,目的とする内容把握の聴取に努めた。なお,面接は個室で個別に行い,聴取した内容は,ICレコーダー(ICD-PX440;SONY製)にて録音した。</p><p></p><p>得られたデータについて,帰納的テーマ分析を行った。まず,録音した音声から逐語録を作成した。逐語録から介護負担感の要因と,介護負担感への対応策に関する語句を抽出し,コードを割り当てた。次に,類似したコードをまとめ一次カテゴリを作成した。さらに一次カテゴリのうち類似したものをまとめ,二次カテゴリを作成した。分析は,2名の医療者が独立して行い,妥当性の担保に努めた。2名の意見が一致しなかった場合は,第三者を含む医療者4名のディスカッションを踏まえ,カテゴリを決定した。なお,分析はインタビュー実施毎に行い,カテゴリが理論的飽和に達するまで行った。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>データを分析した結果,PT・OTが挙げた介護負担感の要因は,「身体的な介助量」「入院中と在宅生活での能力の差」「介護者に合わせた家族指導」などの身体的要因と「介護者への必要以上の依存」が抽出された。身体的要因の対応策として,「福祉用具の提案」,「在宅を想定したリハビリテーション」,「レスパイトケアの情報提供」が挙げられたが,「介護者への必要以上の依存」への対応策は抽出されなかった。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>PT・OTは,介護負担感に関して身体的な介助量に着目し,介助方法や福祉サービスの情報提供を行っていた。先行研究では介護負担感と日常生活能力の関連については一定の見解がなく,家族介護者に相談相手がいないこと,不安といった精神状態と強く関連していることが示されている(杉田ら,理学療法科学,2016)。つまり,PT・OTと脳卒中者の家族介護者には,介護負担感に関する認識と対応策に乖離がある可能性が示唆された。ただし,本研究デザインは質的研究を用いており量的な側面の把握に限界があるため,今後の課題としたい。</p>
著者
三星 健吾 佐藤 伸明 高橋 洋介 前川 慎太郎 田中 敏之 安村 明子 大牧 良平 柳川 智恵 瀧口 耕平 古川 裕之 北河 朗 吉貝 香織 恒藤 慎也 中西 拓也 高見 良知
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】2008年に啓発部事業の一つであったスポーツ啓発事業を,より一層充実した活動を行うために独立した部としてスポーツ活動支援部(以下,スポ活部)が誕生した。今回,当部の活動実績と今後の課題について報告する。【活動報告】現在活動を企画・運営している部員は17名(男性12名 女性5名),サポートスタッフ(以下スタッフ)登録者は124名(男性95名 女性29名)である。サポートを行っている競技は,成長期および育成年代のサッカー,高校柔道,市民マラソンと,障害者スポーツとしてシッティングバレー・車いすテニスの5種目である。部員は,各競技に班長1人と班員3名程度の小グループを作り,年間の活動計画や勉強会の企画を作成する。その企画内容にしたがい,スポ活部全体でサポートする形をとっている。主なサポート内容は,試合中の選手に対するコンディショニングおよび障害予防につなげるためのメディカルチェックや,スタッフに対し各競技の特性や各現場で必要な知識および技術に関する勉強会である。年間の活動日数は5種目すべての,試合前の勉強会,当日のサポート,サポート後の反省会を含めると,年間30日程度となっている。【考察】選手および大会関係者からの我々に対する認知度は,サポートを重ねるごとに向上している。一方でサポートする競技が増えてくるに従い活動時期が重なり,スタッフの確保が困難な場合がある。スタッフの知識および技術の維持・向上を図りながら,現場活動へ継続的に参加するモチベーションをいかに維持していくかが大きな課題である。【結論】今後の方針として,社会貢献事業としての活動の継続と更なる発展はもとより,今までサポートしてきた選手の評価および治療効果をまとめ,各スポーツの特性を把握し発生しやすい外傷や慢性障害を啓発し,予防事業にも力を入れていきたいと考える。
著者
伊藤 麻子 草苅 尚志 大田 健太郎 下斗米 貴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1041, 2007

【目的】脳血管障害患者の理学療法では早期から歩行獲得のため装具療法を用いるという報告が多くされている。しかし、その作製時期や種類の決定には様々な意見がある。そこで今回、装具作製からの経時的な変化、患者が感じている装具とはどのようなものなのかについてアンケート調査を行い、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象と方法】対象は平成18年10月10日から10月25日の間に協力を得られた当院に外来通院、または通所リハビリテーションを利用され、これまでに下肢装具(以下、装具)を作製したことのある脳血管障害患者46名(平均年齢64.6±17歳、男性26名、女性20名、発症からの経過7.3±26年)。方法は項目1.装具作製時期2.装具の種類3.使用状況4.満足度5.修理や再作製の有無6.今後の使用継続の有無について口述選択式によりアンケート調査を実施した。<BR>【結果】1.装具作製時期は発症から5~6ヶ月以内が約半数であった。2.装具の種類はプラスチック短下肢装具が67%と最も多かった。3.装具を現在も使用している(以下、使用者)83%、使用しなくなった(以下、不使用者)17%であり理由は装具を使用しなくても歩行が可能となったが最も多く、その他痛みや痺れ、靴の問題などが挙げられた。使用状況は常時使用58%、外出のみ34%、リハビリテーション時のみ8%、使用する理由は足部の内反を防ぐ、安心感があるという回答が多かった。4.現在の装具に不満を感じているのは26%、理由は装具の形や重量、靴の問題、装着の手間などであった。5.装具の再作製や修理は71%が行っていた。6.今後も装具を使い続ける87%、できるなら使いたくない13%、理由は合う靴が少ないや装着の手間などであった。<BR>【考察】当院では3年前より回復期病棟が開設され、以前よりも早期に歩行獲得のため装具が作製されるようになっている。医療制度の改定に伴いリハビリテーション実施日数が限られてきているため、今後もこれまで以上に装具の適合判定を入院後早期から定期的に考慮・検討し、移動能力、ADLの獲得を目指していくことが重要であると考える。今回の調査では使用者のうち装具を常時使用し、今後も使用継続を希望している患者が多く、装具が患者の生活の中でとても重要な役割りを果たしていることがわかった。しかし、装具に対して形や重量、靴の問題など不満を感じる使用者もいることから、それらの問題を改善していくためにも機能の向上、作製後のフォローアップの必要性を感じ、またそれを担うのも理学療法士の役目であると改めて感じた。
著者
松田 雅弘 大山 隆人 小西 由里子 東 拓弥 高見澤 一樹 田浦 正之 宮島 恵樹 村永 信吾 小串 健志 杉浦 史郎 三好 主晃 石井 真夢 岡田 亨 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】加齢に伴う運動器障害のために移動能力の低下をきたし,要介護になったり,要介護になる危険の高い状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と定義し,中高齢者の運動器に起こる身体状態として知られている。子どもの発育の偏りや運動不足,食育などが原因となり,筋肉,骨,関節などの運動器のいずれか,もしくは複数に障害が起き,歩行や日常生活に何らかの障害を引き起こすなど,子どもでも同様の状態が起こりうる。さらに,転んでも手がつけない,片脚でしっかり立つ,しゃがみ込むなど基本動作から,身を傷害から守る動作ができない子が急増している。幼稚園児36.0%,就学児42.6%,小学校40%で片足立ち。しゃがみ込み,肩180度挙上,体前屈の4項目の検査で1つでも当てはまる児童生徒が存在する。【活動報告】千葉県浦安市の児童に対するロコモの検診を行政と連携し,千葉県スポーツ健康増進支援部中心に実施した。参加者は3~12歳の334名であった。検査項目は先行研究にある片脚立ち,肩180度挙上,しゃがみ込み,体前屈以外に,四つ這いバランス,腕立て・腹筋などの体幹筋力,2ステップテスト,立ち上がりテストなど,柔軟性・筋力・バランス能力など12項目とした。また,食事・睡眠などのアンケートを実施した。当日は理学療法士が子どもと1対1で検査することで安全性の確保と,子どもの集中力を維持させ,検診を楽しむことで計測が可能であった。【考察】この検診で成長にともなう運動発達が遅れている子の把握が可能であった。親を含めた検診を通じて家族の運動への関心が高まったことや,自分の子どもの運動能力の把握,日頃の運動指導にもつながった。【結論】今回の検診で子どもの運動機能の現状を把握するのに,この取り組みが有益なことが示唆された。今後は広く地域と連携して子どものロコモ検診を行い,健康状態の把握と運動の啓発を理学療法士の視点として取り組んでいきたい。
著者
内薗 幸亮 原 正文 緒方 隆裕 伊藤 平和 黒木 将貴 外間 伸吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2205, 2011

【目的】<BR> 当院ではプロ野球選手を対象に障害予防およびコンディショニング目的で、シーズン終了後にメディカルチェックを行っており、同時に超音波検査を用いた測定を実施している。当院山田らや松谷らは超音波検査を用いた先行研究において、投球動作の繰り返しが棘下筋厚に影響を及ぼすと報告している。超音波検査による棘下筋厚の量的側面からの報告は散見されるが、質的側面からの報告については少ない。<BR>また、プロ野球投手は先発投手と中継・抑え投手ではコンディショニング方法の違いから棘下筋にかかる負担が異なると考えられる。そこで今回は、先発投手と中継・抑え投手のシーズン終了時における超音波検査の結果より、棘下筋の質的評価を行ったので報告する。<BR><BR> <BR>【方法】<BR> 対象は2007年から2009年のシーズン終了後にメディカルチェック目的で当院を受診したプロ野球投手計53名中(2007年:16名 2008年:15名 2009年:22名)、シーズンを通して一軍で競技した37名とした。この37名を先発群16名と中継・抑え群21名(以下中継群)に分類した。<BR> 超音波検査は測定部位を肩甲骨内側1/4・肩甲棘下方30mmとした。安静時および収縮時の棘下筋厚を測定し、棘下筋の質的評価として、両者の比率より収縮率を計測した。さらに、安静時の棘下筋々腹層から、ヒストグラムのL値を計測した。ヒストグラムとは、硬い組織は明るく、軟らかい組織は暗く抽出される超音波の特性を応用し、指定した領域の組織の明暗を階調値に置き換えたもので、硬化度を数値化したものと考えている。L値は計測領域内にて最も多く含まれる階調レベルであり、L値が高くなれば水分量の低下を示す。 <BR> 肩関節理学所見は当院で実施している肩関節理学所見11項目テストを実施し、それぞれ陽性率を算出した。さらに肩関節可動域として2nd ER、2nd IRの計測を行った。<BR> 上記超音波検査の結果および肩関節理学所見より先発群と中継群の棘下筋の質的状態について比較、検討を行った。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象には本研究の趣旨について説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 収縮率は先発群:135.9%、中継群:127.3%であった。L値は先発群25.17、中継群:25.47であった。<BR> 肩関節理学所見11項目テストの陽性率は、1)SSD先発群:68.8%、中継群:85.7%、2)CAT先発群:87.5%、中継群:90.5%、3)HFT先発群:100%、中継群:90.5%、4)HERT先発群:6.3%、中継群:4.8%、5)Impingement test先発群:37.5%、中継群:33.3%、6)Loose test先発群:81.3%、中継群:47.6%、7)EET先発群:62.5%、中継群:42.9%、8)EPT先発群:68.8%、中継群:42.9%、9)ER先発群:50%、中継群:38.1%、10)IR先発群:25%、中継群:100%、11)SSP先発群:43.8%、中継群:42.9%であった。また、肩関節可動域として2nd ERは先発群:126.8°、中継群:122.2°。2nd IRは先発群:32.9°、中継群:27.2°であった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果より、中継群は先発群に比べL値は高く収縮率は低下していた。当院山田らは先行研究において、L値が高い状態での収縮率の低下は棘下筋委縮により線維化を起こし、水分量が低下した状態であると述べている。このことから、中継群は先発群に比べ棘下筋が線維化を起こしている状態ではないかと考えられる。<BR> また、理学所見との関連性をみると、中継群は先発群に比べ、肩関節可動域を示す2)CAT、3)HFTの陽性率が高く、2nd ER、2nd IRの可動域低下がみられた。しかし、筋機能バランスを示す7)EET、8)EPT、棘下筋の筋力を示す9)ERでは先発群の陽性率が高かった。このことから、先発群は収縮率、L値などの質的異常はみられないが、棘下筋の筋機能低下が生じていると考えられる。<BR>投球動作時に棘下筋にかかる負担について、投球動作におけるフォロースルー期の棘下筋遠心性収縮による筋自体の損傷などが棘下筋萎縮の原因と報告されている。さらに、松谷らはシーズン終了後のプロ野球投手の安静時棘下筋厚が変化する要因として登板数の影響が考えられたと述べている。これらの報告から、ほぼ毎日投球動作を繰り返す中継群は、ローテーションで登板する先発群とは異なり、棘下筋にかかる遠心性収縮による筋損傷が大きく、棘下筋の線維化が起こっているのではないかと考えられる。<BR> <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 投球動作の繰り返しにより棘下筋にかかる負担について、プロ野球投手を先発群、中継群に分類し、理学所見と超音波検査から棘下筋の質的側面からの検討を行った。<BR>今回の結果より中継群は先発群に比べ棘下筋が線維化を起こし可動域の制限につながっていると考えられ、先発群は棘下筋の筋機能の低下が起こっていると考えられる。棘下筋の質的評価は投球障害予防、コンディショニングに応用できると考える。<BR>
著者
松尾 善美 Cahalin Lawrence Collins Sean 松谷 綾子 Caro Francis
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.G1129, 2007

【はじめに】理学療法(以下PT)の教育および専門職としての現状(以下PTEPI)に関する情報は、世界のあらゆる地域においても未だ少ない。PTEPIについて理解を深めることは、全世界のPT実践、教育・研究分野を刺激することになる。さらに、国際的な協力事業、世界的なPT実践、研究に関する指針の開発やわが国の今後のPTを考える際に有用であると考えられる。<BR>【目的】本国際共同研究の目的は、世界40カ国のPTEPIについての調査し、世界におけるPTの教育および専門職としての今後の展望を得ることである。<BR>【対象】対象は、世界理学療法連盟から情報の得られた40カ国のPT協会の連絡先代表者である。<BR>【方法】我々は、PT教育課程の認可制度、PTの資格取得制度、PT専門分野の認可制度、理学療法士の所得関連事項の4カテゴリー、全部で22項目からなる調査表を英語で作成し、5カ国語(日本語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、韓国語)に翻訳した。次に、40カ国の連絡先代表者に依頼文書と調査用紙を同時に電子メールで送付した。同意を得られた回答について記述的統計を行った。本研究は、財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団の助成を受けて実施した。<BR>【結果】回答率は38%であった。回答の大多数は北欧およびヨーロッパ諸国であり、中央アメリカおよび南アメリカからは2カ国のみから回答を得た。PTEPIは、1カ国を除いて資格認定制度と理学療法士教育の認可課程を有しており、5カ国を除いてスポーツPTと老年PTが最も普及しており(80%)、専門職認定課程を有していたという点については共通点が見られたが、それ以外の多くの項目において各国間で明らかな相違点があった。養成校の認可再認可の頻度は、1回のみ(20%)、1年毎(20%)、5年毎(13%)、6年毎(27%)と広範囲の回答であった。理学療法士の資格取得に、53%の国では筆記試験、40%の国では実技試験、27%の国では口答試験を必要としていた。13カ国のPT平均年収は32,203±20,030USドルであった。<BR>【結論】PTEPIは、認可課程や資格取得、専門分野の確立について共通点が多かったが、それ以外については各国間で大きな相違点が確認できた。<BR><BR>
著者
熊谷 匡晃 岸田 敏嗣 稲田 均
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cd0839, 2012

【目的】 股関節疾患に伴う跛行としてよく経験するデュシャンヌ跛行は股関節外転筋力の低下で起こると定義されており,経験則的にそのように捉えてしまうことが多い。しかしながら,筋力に問題がないにも関わらず跛行がみられるなど,MMTの結果との不一致を感じることがあり,単なる股関節周囲筋の筋力評価では解釈に難渋することがある。実際には疼痛,関節拘縮(股関節内転制限),脚長差,大腿骨頚部の短縮や骨頭の外上方変位などの骨形態異常による力学的要因などの原因で起こっている可能性もある。本研究の目的は股関節内転制限および外転筋力が跛行に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】 対象は2010年7月~2011年6月までに当院を受診し,大腿骨近位部骨折および変形性股関節症により手術を施行され,転院または退院時に杖なし歩行が可能となった21名とした。疾患内訳は大腿骨近位部骨折16名,変形性股関節症5名であった。荷重時に体幹の代償が見られない正常歩行群をN群(男性1名,女性9名,平均年齢72.9±12.1歳),荷重時に体幹を患側へ傾けるデュシャンヌ跛行群をD群(男性1名,女性10名,平均年齢65.3±9.9歳)の2群に分けた。検討項目は,1)N群とD群における股関節外転筋力,2)N群とD群における股関節内転角度,3)股関節内転角度の違いによる跛行出現率,とした。股関節外転筋力については,徒手筋力測定装置(酒井医療社製,EG‐200)を使用し,側臥位での股関節外転筋力を最大等尺性収縮で3回測定し,平均値を体重で除して標準化(kgf/kg)した。統計処理は両群間の外転筋力と内転可動域の検定にはウェルチのt検定,股関節内転角度の違いによる跛行出現率にはχ<sup>2</sup>検定を用い,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 被検者には,事前に本研究の主旨と内容について説明し,同意を得た。【結果】 患者背景として年齢,性別には両群間で有意差を認めなかった。1)股関節外転筋力は,N群0.17±0.04kgf/kg,D群0.15±0.07kgf/kgで有意差は認められなかった。2)股関節内転角度は,N群14±3.2°,D群6.8±5.1°であり,N群で有意に内転域が大きかった。3)股関節内転角度の違いによる跛行出現率は,股関節内転が5°以下では100%,10°では40%,15°以上では22.2%と内転域の増大とともに跛行出現率が有意に低下した。【考察】 股関節疾患の術後症例において,股関節内転角度の減少がデュシャンヌ跛行の出現に影響を及ぼすことが明らかとなった。一方,股関節外転筋力はデュシャンヌ跛行の直接的な関連因子とは言えなかった。しかしながら,徒手筋力計を用いた等尺性の筋力は時間的要素や空間的要素が考慮されていない出力のみの評価であり,必ずしも筋機能の低下を示しているとは言及できず,今後の検討を要する。股関節内転制限の原因として,変形性股関節症に対するTHAの場合は,骨頭を引き下げることによる外側軟部組織の緊張増大,手術侵襲による筋スパズムおよび術創部の伸張刺激,皮下の滑走性低下などが考えられる。一方,大腿骨近位部骨折の場合は,変股症とは異なり筋の変性はないため,基本的には術後の筋攣縮が考えられる。本研究の結果より,股関節内転角度が5°以下のケースで全例跛行を認めたことは,可動域とデュシャンヌ跛行が関連する可能性を示した上で意義深い。正常歩行における股関節の内転角度は踵接地から足底接地にかけて約4°必要とされているが,立位では外転筋の遠心性収縮の強要とともに筋内圧が高まるため,背臥位で測定した内転角度以下になる可能性が考えられる。デュシャンヌ跛行の原因を筋力の観点からみると,体幹を患側に傾けることは骨頭から重心線までの距離を短くし,弱い筋力で歩行する代償運動と言えるが,股関節内転制限の場合は,骨盤が外方移動できない状態を体幹の側屈で相殺しているという反応と解釈される。つまり,外観は同じでも原因は全く異なる病態であるため,それらを見極める理学療法士の観察力や適切な評価が大切であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 股関節は腰椎や骨盤アライメントとの関連の中で評価することが大切であるが,代償運動を見逃さず,局所としての股関節機能の評価が適切にできることも大切である。エネルギー効率がよく安定した歩行を獲得するためには,股関節内転制限も含めた適切な評価と運動療法を展開していくことが重要である。変形性股関節症に対するTHAと大腿骨近位部骨折に対する人工骨頭置換術では,手術内容はほぼ同様であるが,外傷と変性疾患の違いや年齢,脚長差など患者背景に影響を及ぼす因子が存在するため,今後は症例数を増やした上で疾患別の比較検討についても加えていきたい。
著者
師岡 祐輔 國澤 洋介 高倉 保幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】我々は,改良フランケル分類(改F分類)Cの頸髄損傷者において,受傷後早期(1ヶ月以内)の移乗動作獲得には早期より座位能力がある程度保たれていることが重要であることを報告した。しかし,移乗動作に大きく影響を与える下肢運動スコアとの関連や具体的な予測指標についての検討は不十分であった。本研究では,改F分類Cの頸髄損傷者における受傷後早期の移乗動作獲得状況を検討し,目標設定に有益な下肢運動スコアと座位保持能力を含めた予測指標を明らかにすることとした。【方法】対象は2010年から2014年までに急性期病院で理学療法(PT)を実施した改F分類Cの頸髄損傷者31例とした。方法は,診療録の後方視的観察研究とした。移乗動作獲得の判定は機能的動作尺度(0-4点の5段階評価)を用い,2点以上(見守りから自立)を獲得群,2点未満(全介助から一部介助)を非獲得群とした。下肢運動麻痺は,ASIA機能障害評価の下肢運動スコア(LEMS),座位能力(座位G)は,ISMWSF鷹野改変(0-5点の6段階評価)を用い,それぞれPT開始時に評価を行った。統計学的解析は,受傷後4週の移乗動作獲得可否におけるLEMSのカットオフ値はROC曲線を用いて算出した。また移乗動作獲得可否とLEMSのカットオフ値に基づいた群分けによるクロス集計表,さらに我々の研究を参考にLEMSのカットオフ値に加え座位Gに基づいた群分けによるクロス集計表を作成した。【結果】受傷後4週では,移乗動作獲得群は7例,介助群は24例であり,移乗動作獲得率は22.6%であった。4週後の移乗動作獲得可否におけるLEMSのROC曲線は曲線下面積0.80と高い予測能を示した(p<0.05)。移乗動作獲得を検出するLEMSのカットオフ値は27点であった。移乗動作獲得可否とLEMSの関係は,LEMSが27点以上で移乗動作獲得群は6例,介助群は7例であり,27点未満で獲得群は1例,介助群は17例であり,陽性的中率は46.2%,陰性的中率は94.4%であった。27点以上かつ座位G1で獲得群は5例,介助群は2例であり,27点未満で獲得群は2例,介助群は22例であり,陽性的中率は71.4%,陰性的中率は91.6%であった。【結論】先行研究では半年や一年などの長期的な移乗動作獲得についての検討は散見されるが,受傷後早期における移乗動作獲得に必要な具体的な指標は明らかとなっていない。今回の結果から,PT開始時から評価可能なLEMSのカットオフ値27点を用い,受傷後4週時点において移乗動作獲得が困難とされる例の予測に役立てることができ,獲得動作を視野に入れたPT介入の工夫の必要性が示唆された。また,LEMS27点かつ短時間の座位保持可能(座位G1)を指標とすることで,獲得可能となる例の予測する指標としての有用性が示唆された。
著者
小笠原 沙映 浦辺 幸夫 前田 慶明 沼野 崇平 藤下 裕文 福井 一輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>足関節内反捻挫は発生頻度の高いスポーツ外傷であり,予防のためにテーピングが行われている。テーピングは,テープの走行や本数を変化させることで,関節の制動効果を高めている。テープの走行の違いにより,関節運動への影響が変化するが,1本のテープが関節運動にどのように制限を与えているかは明らかではない。本研究の目的は,後足部の内反制限のため,走行が異なる3種類のテープを施行し,サイドステップ動作時に,テープがどのように関節運動を制限しているのかを明らかにすることとした。</p><p></p><p>仮説は,距骨下関節軸に直交するテープの走行が後足部の内反制限に最も効果的であるとした。</p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,足関節捻挫の既往のない健常な女性8名(年齢21.4±0.5歳,身長157.3±5.6 cm,体重49.4±5.5 kg)とした。テープは日東メディカル社のEB-50を使用した。テープは対象の利き脚(ボールを蹴る脚)に,内果から足底を横切り,下腿遠位1/3まで貼付した。テープの張力を一定にするため,テープを徒手筋力計(アニマ社)のプローブに当てた状態で張力を加え,40 Nになった時点で貼付した。課題動作は,利き脚側の側方1 mへのサイドステップとした。課題動作の分析には,赤外線カメラ16台からなる三次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社)を使用し,サンプリング周波数100Hzで記録した。赤外線反射マーカーをOxford foot modelに基づき下肢30箇所に貼付した。測定条件は,①テープなし,②足底面に垂直で,テープの後縁が外果の最突出部を通る走行のテープ,③足底面に垂直で,テープの前縁が外果の最突出部を通る走行のテープ,④足底面に対して後方に傾き,テープの後縁が外果の最突出部を通る(距骨下関節軸に直交する)走行のテープの4条件で行った。動作解析ソフトVicon Nexus1.8.5(Vicon Motion Systems社)を用いて,着地時の後足部内反角度とその後の最大内反角度を算出した。4条件間の比較には,Wilcoxon符号付順位和検定を用い,危険率5%未満を有意とした。</p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>足部接地時の後足部内反角度(平均±SD)は,①16.0±5.2°,②14.0±7.7°,③14.4±7.8°,④13.1±10.0°となり,④は①と比較して有意に低値となった(p<0.05)。最大後足部内反角度は,①19.5±5.7°,②18.8±8.9°,③17.1±8.2°,④16.0±9.2°となり,各条件間で有意差はなかったが,④が最も低値となった。</p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>サイドステップ時の後足部内反角度は,④が最も低値を示したことから,距骨下関節軸に直交した走行が後足部の内反制限に与える影響が大きく,仮説を支持する結果となった。さらに,②のように外果の前方を通るテープ,③のように外果の後方を通るテープでも,足底面に対して垂直に走行するため,一定の効果を示すことが分かった。今後は,1本ずつのテープの役割を考えて,さらに検討をすすめたい。</p>
著者
関根 康浩 河原 常郎 土居 健次朗 大森 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】我々は第48回日本理学療法学術大会で下位胸郭の動きが体幹動作に影響する可能性を報告した。生体内では腹腔内圧を高める事で体幹が固定され上下肢筋力発揮は高まるとされる。意図的に腹腔内圧を高めやすくするものとして骨盤コルセットがあるが,自動で腹腔内圧を高める一つのパターンとして横隔膜を上昇させ肋骨下角を減少させる事がある。肋骨下角とは左右の肋骨弓の間にできる角度である。肋骨下角減少・下位胸郭の動きを制限するものとしてDainae Leeが提唱したChest Gripping(以下,CG)があり,これは上部腹筋の過緊張により肋骨下角が減少している(下位胸郭横径拡張不全)状態である。しかし前記の通り自動で肋骨下角を減少させる事で腹腔内圧は高まる事から,CGではなく骨盤コルセットのように他動で肋骨下角を減少させる事で腹腔内圧を高めやすくする事が可能ではないかと考えた。本研究の目的は,肋骨下角を他動および自動で減少させる事による上肢の筋発揮に対する影響を明らかにし,肋骨下角を減少させる事の意義を見出す事とした。【方法】対象は,整形外科的疾患がなく,呼吸器疾患を有さない,非喫煙者である健常成人男性11名(年齢23.4±2.1歳,BMI22.1±1.5)とした。肋骨下角は胸骨下端と両側の乳頭からの垂線と下位肋骨の交点がなす角度と定義した。計測は上肢は体側に下垂した立位にて安静時・最大吸気時・最大呼気時の角度をゴニオメーター(OG技研)にて計測した。筋力測定は肩関節外旋筋力を採用した。測定は,徒手筋力測定器IsoforceGT-310(OG技研)を用いた。端座位で測定側肩関節中間位・肘関節90°屈曲位・前腕90°回外位にて橈骨茎状突起にセンサーパッドが当たるようにした。被験者の正面には床に垂直なテープを貼った全身鏡を用意し,代償を抑制した。測定肢位は安静呼吸での正常群(以下,N群),バンドにて肋骨下角を他動で減少させた群(以下,P群),努力呼気とdrow-inにて肋骨下角を自動で減少させた群(以下,A群)の3肢位とした。P群では強制呼気最終での最小肋骨下角まで減少させた肢位で締め付けた。A群では努力呼気により胸椎が後弯しないよう指示をした。計測は5秒間かけて行い,各肢位で3回ずつ計測(休憩30秒間)を行った。各群間の差の有無は対応のある一元配置分散分析を用いて検証し,多重比較はBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】肋骨下角角度は安静時で87.9±7.9度,最大吸気で101.6±11.1度,最大呼気で79.8±7.8度であった。被験者の肩関節外旋筋力の平均値はN群で66.1±6.2N/kg,P群で62.1±11.0N/kg,A群で69.4±9.6N/kgであり,P群とA群との間で有意差を認めた(p=0.0089)。【考察】腹腔内圧を高めるには腹横筋,骨盤底筋群,横隔膜,多裂筋等が協調して働く必要がある。骨盤コルセットにより腹部を締め付ける事で主に体幹前後の筋(腹横筋・多裂筋)の代わりをし,圧迫された腹腔内圧は垂直方向へ逃げようとし骨盤底筋群・横隔膜を刺激する事で効率よく腹腔内圧を高める事ができる。また脊柱の良肢位の保持をする事でも腹腔内圧を高めやすくしていると考えられる。本研究でのP群は肋骨下角を減少させる事で胸椎後弯位になりやすく,横隔膜が弛緩しやすい状態であった為,腹腔内圧が高まりにくく肩関節外旋筋力発揮も有意に低下したのではないかと考える。A群では被験者に努力呼気の際に胸椎が後弯しないよう指示をしていたが,P群にはそのような指示をしていなかった事からも胸椎後弯姿勢になりやすかったと推察される。逆にP群で胸椎伸展を意識させて行わせる事で背部の多裂筋への刺激が高まり腹腔内圧の上昇が見られたのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究により肋骨下角を他動で減少させる事は腹腔内圧を高める事を制限する可能性があり骨盤コルセットのような効果は得られない事が示唆された。肋骨下角を指標とした事については体表からのマニュアル計測とレントゲン画像上での計測結果でマニュアル計測での有意性を出す必要がある。
著者
柿崎 藤泰 根本 伸洋 角本 貴彦 山﨑 敦 仲保 徹 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0312, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹の運動機能を評価する過程で、骨盤との運動連鎖に注目した評価は重要であり、臨床でも良く行われる評価であると考える。しかし、体幹機能の評価で、肋骨の分節的な評価や、他の分節との運動連鎖を観察する一般的な評価はあまりにも少ない。呼吸器疾患をはじめ、他の運動器疾患でもより効果的な理学療法治療を展開するうえで、体幹の運動機能を障害するファクターとしてなりうる胸郭運動の病態把握は重要であると考えている。今回我々は、体幹の複合動作である回旋運動に着目し、胸郭の歪みを形成する肋骨の動きを検討したので報告する。【方法】対象は特に整形外科的疾患をもたない健常成人10名(男性9名、女性1名)で、平均年齢は25.2±3.9歳であった。 計測はzebris社製の CMS20S Measuring system を用いた。マーカーポインターにより測定した部位は、両側肩峰部、両側上前腸骨棘、胸骨柄、剣状突起下端部、第1、3、7、12胸椎棘突起部の各部分であった。各部位の測定では、部分の凹凸に対し、最も陥没している部位、または最も突出している頂点部分にポイントするよう注意を払った。被験者には両手を頭の後に組んだ状態で、40cmの椅子に座ってもらった。静止座位と体幹回旋位で2回の測定が行われた。体幹回旋角度の規定は特に設定せず、骨盤中間位にて、上半身のみの回旋運動で、無理なく運動が遂行できるところまでとし、被験者の任意の角度で測定した。肋骨の動きは、胸骨の長軸を通る直線と第1から第3胸椎、第3から第7胸椎、第7から第12胸椎の各々を結ぶ直線とを前額面上で投影させ、その2直線の交差する角度で判定した。【結果】胸骨長軸直線と各々の胸椎直線との間に、共通した関係はみられなかった。しかし、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線とを投影する角度が、安静座位で2度未満(平行状態に近い)のものが5例、安静座位の時点ですでに4度以上の角度で交差しているものが5例いた。4度以上の5例では、安静時に比べ、回旋位での2直線の角度が全例で減少した。また、対照的に2度未満の5例では、安静時に比べ回旋位での2直線の角度が全例で増加した。そして、2度未満の5例の任意の平均回旋角は4度以上の5例に比較し、より大きな値を示した。【考察】今回の検討にて、胸骨長軸直線と胸椎の各文節との間には明確な関係はみられなかったが、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線との正中化が得られている場合、胸郭形態を無理なく歪ませることのできる機能を有しており、そのことは体幹の回旋運動に有利な条件となることが示唆された。理由として、肋間筋の体幹の回旋作用を指摘する報告もあり、予め胸郭形状に変化が生じている場合、肋間筋の長さにも影響を及ぼし、回旋動作障害に起因する可能性もあること、また第3-7胸椎の中間的役割としての機能が低下することなどが考えられる。
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1304, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】ヒトの直立二足立位・歩行を獲得するには,ヒト上科に属するチンパンジーなどの霊長類モデルとの機能形態比較や,central pattern generator(CPG)を考える必要がある.今回,それらの観点からの介入法により,歩行機能を再獲得した症例について報告する.【症例】37歳,女性.既往歴:34歳の時にTh11脊髄出血.PT介入により,自立歩行獲得.36歳の時に坐位姿勢不良,立位保持・歩行は不可能となる.介助した立位姿勢は,頭部を前方へ突き出し,躯幹上部を前屈させ,両肩甲帯挙上・後退,上肢外転,股・膝屈曲した霊長類の立位postural synergy(PS)を取る.本院の神経内科病棟に入院となるが,CT・MRIの画像診断,神経伝導速度,血液・生化学検査で異常は認められなかった.なお,本症例には公表する旨を伝え,同意を得た.【PT評価および介入】原始的立位PSと姿勢筋トーヌスおよび神経テンションテスト,神経・筋の触診から,副神経,肩甲背神経,長胸神経,胸背神経,肋間神経,腸骨下腹神経,閉鎖神経,坐骨神経,大腿神経,総腓骨神経,脛骨神経および橈骨神経,正中神経,尺骨神経の神経緊張の増大とmobilityの低下が認められた.また端坐位姿勢から,CPGが賦活されにくい脊髄動力学の異常が観察された.そのために,霊長類モデルのナックル姿勢・歩行,垂直木登りのPS・MSとの機能形態や神経・筋比較から,ヒトの歩行機能の獲得に必要な介入法を模索した.先ず神経モビライゼーションの導入と脊髄動力学の改善をヒトの正常発達の順序性に則した肢位と正座・胡坐で施行し,それらのPSを獲得し直立二足立位PSに繋げた.次にステップ肢位でのPSを獲得し,歩行のmovement synergy(MS)に繋げた.神経モビライゼーションの手技は,バトラーの手技で対応できる方法はそれに準じた.手技の無い体幹の神経である肋間神経,腸骨下腹神経は水平かつ後方に,副神経・長胸神経・胸背神経は中枢から末梢に向かって動かした.それらの神経との繋がりが強い神経系は,相互にテンションを高め走行に沿って上から圧を加えた.脊髄動力学の改善は,Louisの報告を基に行った.またステップ肢位は,前下肢を足関節背屈位とした.【結果】PT施行前は坐位・立位保持,独歩不可能であるが,施行後は安定した坐位・立位姿勢保持可,ロフストランド杖歩行20m可,独歩も5m程度であるが可能となる.【考察】原始的な立位PSが優位な症例では,ヒトの直立二足立位・歩行は獲得されない.今回の介入法により,原始的PSを誘発する神経系の緊張の軽減とmobilityの改善および脊髄動力学の改善を得ることで,腰椎前弯を呈した直立二足立位PSが可能となった.更にステップ肢位でのPS獲得により,flexion reflex afferents(FRA)からの求心性情報が,CPGを構成する介在ニューロン網の活動を高め,多シナプス性に左右下肢の屈筋と伸筋の律動的な活動を生み出し, ヒトの歩行MSが再獲得された.
著者
松村 葵 建内 宏重 永井 宏達 中村 雅俊 大塚 直輝 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0153, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 上肢拳上動作時の肩関節の機能的安定性のひとつに肩甲骨上方回旋における僧帽筋上部、下部線維と前鋸筋によるフォースカップル作用がある。これは僧帽筋上部、下部と前鋸筋がそれぞれ適切なタイミングでバランスよく作用することによって、スムーズな上方回旋を発生させて肩甲上腕関節の安定化を図る機能である。これらの筋が異常な順序で活動することによりフォースカップル作用が破綻し、肩甲骨の異常運動と肩関節の不安定性を高めることがこれまでに報告されている。しかし先行研究では主動作筋の筋活動の開始時点を基準として肩甲骨周囲筋の筋活動のタイミングを解析しており、実際の肩甲骨の上方回旋に対して肩甲骨周囲筋がどのようなタイミングで活動するかは明らかとなっていない。日常生活の場面では、さまざまな運動速度での上肢の拳上運動を行っている。先行研究において、拳上運動の肩甲骨運動は速度の影響を受けないと報告されている。しかし、運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響については明らかになっておらず、これを明らかにすることは肩関節の運動を理解するうえで重要な情報となりうる。本研究の目的は、上肢拳上動作の運動速度の変化が肩甲骨上方回旋に対する肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性10名(平均年齢22.3±1.0歳)とした。表面筋電図測定装置(Telemyo2400, Noraxon社製)を用いて僧帽筋上部(UT)・中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)、三角筋前部(AD)・三角筋中部(MD)の筋活動を導出した。また6自由度電磁センサー(Liberty, Polhemus社製)を肩峰と胸郭に貼付して三次元的に肩甲骨の運動学的データを測定した。動作課題は座位で両肩関節屈曲と外転を行った。測定側は利き腕側とした。運動速度は4秒で最大拳上し4秒で下制するslowと1秒で拳上し1秒で下制するfastの2条件とし、メトロノームによって規定した。各動作は5回ずつ行い、途中3回の拳上相を解析に用いた。表面筋電図と電磁センサーは同期させてデータ解析を行った。筋電図処理は50msの二乗平均平方根を求め、最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。肩甲骨の上方回旋角度は胸郭に対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた。肩甲骨上方回旋の運動開始時期は安静時の平均角度に標準偏差の3倍を加えた角度を連続して100ms以上超える時点とした。同様に筋活動開始時期は安静時平均筋活動に標準偏差の3倍を加えた値を連続して100ms以上超える時点とした。筋活動開始時期は雑音による影響を除外するために、筋電図データを確認しながら決定した。筋活動のタイミングは各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を求めることで算出し、3回の平均値を解析に用いた。統計処理には各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を従属変数とし、筋と運動速度を要因とする反復測定2元配置分散分析を用いた。事後検定として各筋についてのslowとfastの2条件をWilcoxon検定によって比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 屈曲動作において、slow条件ではAD、UT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfast条件では全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られ(p<0.01)、事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTの筋活動は有意に早く開始していた。外転動作において、slowではMD、UT、MT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfastでは全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られた(p<0.05)。事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTとLTの筋活動が有意に早く開始していた。【考察】 本研究の結果、運動速度を速くすることで屈曲動作においてMTが、また外転動作においてはMTとLTの筋活動のタイミングが早くなることが明らかとなった。また運動速度を速くすると、肩甲骨の上方回旋の開始時期よりもすべての肩甲骨固定筋が早い時期に活動し始めていた。これは運動速度が肩甲骨固定筋の活動順序に影響を及ぼすことを示唆している。拳上動作の運動速度を増加させたことにより、速い上腕骨の運動に対応するためにより肩甲骨の固定性を増大させるような戦略をとることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、運動速度に応じて肩甲骨固定筋に求められる筋活動が異なることが示唆され、速い速度での拳上動作では、肩甲骨の固定性を高めるために僧帽筋中部・下部の活動のタイミングに注目する必要があると考えられる。
著者
北村 弘幸 高井 美帆子 舟木 一夫 岡村 秀人 西嶋 力 古桧山 建吾 梶藤 いづみ 佐野 和幸 阿部 忍 森 範子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.G-142_1-G-142_1, 2019

<p>【目的】医療の高度化と地域包括ケアシステムの構築に対応するために、保健医療福祉サービスに関わる職種と協働する機会が増えている。多職種が連携するにあたり情報の共有が必要不可欠である。本調査は、多職種間の連携実態を把握するために、リハ職の栄養職間との相談意識とその実態を調査した。調査目的は良好な連携を目指すため、栄養に関するリハ職と栄養職の連携実態をリハ職種間で比較し、その課題を明確にすることにある。</p><p>【方法】対象はPT230名、OT91名、ST27名、計308名で、所属機関は病院勤務232名、施設勤務36名、在宅系勤務40名であった。方法はアンケート調査としてWeb net調査にて実施した。調査期間は2017年10~12月、回収率(会員数対)は15%であった。設問1は「日ごろの活動で管理栄養士・栄養士(栄養職)に相談したいと思ったことがあるか」に対し「よくある」「たまにある」「ない」で回答した(相談期待意識)。設問2は「身近に協働できる栄養職はいますか?」に対し「たくさんいる」「少しいる」「いない」の3件法で回答を得た(協働の実態)。回答を「たくさんいる」「少しいる」を合わせて「いる」と判定した(協働の有無)。リハ職の所属により連携実態(連携率)を比較し、統計学的解析はχ<sup>2</sup>検定を使用し有意水準5%未満とした。</p><p>【結果】相談期待意識について、病院勤務では「よくある」31%、「たまにある」56%、「ない」13%、施設勤務では31%、64%、6%、在宅系勤務では35%、55%、10%であった。所属施設による差異はなかった。協働の実態について所属別に比較すると、病院勤務では「たくさんいる」13%、「少しいる」69%、「いない」18%であった。施設勤務は14%、78%、8%、在宅系勤務は3%、43%、55%であった。病院勤務と施設勤務では「少しいる」が最も多く、在宅系勤務では「いない」が最も多かった。協働の有無について所属別に比較すると、病院勤務では「いる」82%、「いない」18%であった。施設勤務は92%、8%、在宅系勤務では45%、55%であった。病院勤務82%と施設勤務92%は有意差なく高値であった。在宅系勤務では相談できる栄養職がいる45%で、施設勤務より47ポイント、病院勤務より37ポイント有意(p<0.01)に低値であった。</p><p>【結論】リハ職の約9割が栄養職と「相談したい」と思っており、その程度は所属施設による差異がなかった。しかし、病院や施設勤務のリハ職は、栄養に関して相談できる栄養職がいるが、在宅系勤務では、相談意識が高値にも拘らず身近に相談できる栄養職の不在が大きな問題であることが解った。在宅では対象者個人の食事環境により栄養状態は左右される。病院や施設のような専門的管理が困難な生活場面であるため相談が必要と考える。本県では、県内5圏域に栄養士会が主催する「栄養ケア・ステーション」が設置され、個人の栄養指導や特定栄養食事指導、料理教室案内が運営されていることを紹介し、利用の認知度を向上させる必要があると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】調査研究にあたり、「リハビリテーションにおける多職種連携調査研究事業」の一環であること、調査の目的と趣旨を書面に記した。加えて調査結果は本事業開催研修会ならびに報告書として公表することを文書で説明した。アンケートの回答は統計学的に処理し、集団として取り扱うため個人が識別されないこと、回答情報が特定できないよう十分配慮した。</p>
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101989, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】近年,運動が認知機能を改善,または低下を予防する効果が報告されている.運動による認知機能への効果を媒介する因子として,脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている.BDNF は神経細胞の分化,成熟,生存の維持を促進する.またBDNFは神経細胞内に貯蔵されており,中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される.さらに血液-脳関門を双方向性に通過可能なため,中枢神経のみではなく末梢血液中にも存在している.運動時のBDNF反応を観察した先行研究から,中強度以上の有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加することが示唆されている.一方で,これらの先行研究は欧米人を対象としたものが多く,日本人を対象とした研究は見つからなかった.そこで本研究では,日本人において中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加すると仮説を立て検証を行った.その結果から,運動による認知症予防のエビデンス構築の一助とすることを目的とする.【方法】健常成人男性40 名(年齢 24.1 ± 2.8 歳; 身長 170.6 ± 6.7cm; 体重 64.8 ± 9.4kg)を対象にした.本研究は,運動負荷試験と本実験からなり,48 時間以上の期間を空けて実施した.運動様式は,運動負荷試験・本実験ともに,自転車エルゴメータを用いた運動負荷(60 回転/分)とした.運動負荷試験では,最高酸素摂取量を測定した.本実験では,30 分間の中強度運動介入を行い,運動前後で採血を実施した.採血は医師によって実施された.採取した血液検体は,血清に分離した後,解析まで-20°で保管した.血液検体の解析は検査機関に委託し,酵素結合免疫吸着法検を用いてBDNF量の測定を行った.以上の結果から,中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加するのかを検討した.正規性の検定にはShapiro wilk検定を用いた.BDNFの運動前後の比較には,対応のあるt検定を用いた.危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり,聖隷クリストファー大学倫理審査委員会及び近畿大学医学部倫理委員会の承認を得た.また対象者には研究の趣旨を口頭と文章で説明し,書面にて同意を得た.【結果】中強度の有酸素運動介入によって,40 人中22 名で運動前に比べて運動後に血清BDNFが増加した.しかし,運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.21).【考察】運動介入によって末梢血液中のBDNFが増加することは,欧米人を対象とした多くの先行研究で報告されている.健常成人における有酸素運動介入による末梢血液中のBDNFの急性反応を調査した文献は13 本確認され,運動後にBDNFが増加した研究は8 本であり,不変または減少した研究は5 本であった.本研究と同様に,運動後に有意なBDNF 増加が認められなかった先行研究では,急速な中枢神経系への輸送が生じたため,運動後の採血でBDNFの増加が見られなかったのであろうと考察している.本研究では,動脈カテーテルを用いたリアルタイムの採血ではなく,静脈に穿刺して採血を行っている.そのため,被験者により運動終了から採血までの時間が数分程度差異があり,この間の末梢血液中BDNFの脳内取り込みが結果に影響している可能性がある.さらに,本研究で運動によりBDNF増加が生じなかった要因の1 つとして,一塩基多型(Val66Met)によるものも考えられる.これはBDNF遺伝子の196 番目の塩基がGからAに変化した多型のことで,これによってBDNF前駆体であるproBDNFの66 番目のアミノ酸がValからMetに変化する.Met 型の一塩基多型を持つ個体では,Val型に比べ,BDNFの活動依存性分泌が障害されることが報告されている.また日本人における一塩基多型(Val66Met)の保有率は,50.3%〜53.0%と欧米人に比べて高い値が報告されおり,このBDNF分泌を阻害する一塩基多型(Val66Met)の保有により,本研究対象者の運動によるBDNFの調節性分泌が減少していた可能性が考えられる.以上より,健常日本人男性におけるBDNFを増加させることを目的とした30 分間の中強度有酸素運動は,対象者によって適応の有無を検討する必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から日本人の特性を考慮した認知機能に対する運動介入が必要であることが示唆される.今後需要が拡大すると予測される認知症予防の分野ではあるが,BDNF増加を目的とした運動介入を行う際には,対象者の適応を検討することでより効率的な介入効果が期待できると考えられる.
著者
篠塚 美穂 林 太郎 渡壁 晃子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1226, 2012

【はじめに、目的】 がん患者リハビリテーションという診療報酬項目も設置され、がんのリハビリテーションが注目されているが、医療者全てにはまだ浸透の浅い分野である。今回、全身病状が悪化したため、化学療法が中止となったが、理学療法介入にて化学療法実施判定基準の一つであるPS(Performance Status Scale、以下PSと表記)が向上、再度化学療法適応となり、在宅復帰を果たした症例を報告する。また、当院では、理学療法士が緩和ケアチームのメンバーとなっており、一般病棟における緩和ケアチームの関わりも踏まえて報告する。【方法】 (緩和ケアチームの特徴)当院は電子カルテ採用にて、文書管理システム内に「緩和ケアスクリーニングシート」を作成。緩和ケアチームにコンサルトを希望する場合、職員のどの職種の誰もが発行できる。チームメンバーは随時シートを確認。アドバイス、介入につなげる。(症例)20代男性。進行胃癌(Stage4)。X年-2年、食べた物を嘔吐繰り返し近医受診。胃癌と診断。家人(両親)には余命1年と宣告。1st Line化学療法効果あり、経口摂取可能となるも、X年-1年、経口摂取困難。2nd Line化学療法へ変更。X年、経口摂取困難、緩和療法目的にて当院に紹介受診。受診当時、がん悪液質に近い状態。胃噴門部癌の食道浸潤部に対し、食道狭窄拡張術(ステント留置)施行。PS0。X年+2月、3rd Line化学療法実施。X年+6月上旬、左肩疼痛増強、熱発継続、膿胸にて入院。PS2。化学療法中止。左大量胸水(膿胸)にて呼吸困難出現。一時はO2 5Lまで増量。チェストドレーン留置し、持続ドレナージ開始。左肩甲骨疼痛には放射線治療(36Gy/12fr/2.5W)施行。緩和ケア病棟転棟も視野に入れ、主治医より緩和ケアスクリーニングシート発行あり。緩和ケアチーム介入。X年+7月、リハビリ依頼。理学療法介入。介入時、左側胸部よりチェストドレーン留置中。疼痛に対し、プレペノン持続皮下注実施中。リハビリ前にはレスキューとして看護師により早送り実施。約1か月の臥床にて、筋力低下著明(MMT下肢2レベル)。PS4。呼吸苦は安静時にはなく、Room Airで経過。立ち上がり困難。車椅子移乗も介助必要な状態であった。余命が月単位、急変もありうることから、できれば外出でも一度自宅に帰ることを目標に、リハビリ強化介入開始。また、病状から精神面での不安強く、リハビリ実施時に、想いの傾聴、緩和ケアチーム看護師と連携を図り、病棟看護師との報告も密に行い、精神面でのケアとしても介入。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の発表に伴い、ご本人に、個人が特定できない状態での情報の提供を依頼し、理学療法の発展のために役立てて欲しいと同意をいただいた。【結果】 介入から4週間(14回介入)で、PS2まで改善。MMT2であった両下肢は、4まで回復。理学療法介入し、詳細評価で左下肢下垂足が判明。今回の臥床で生じており、Dynamic AFO導入。装着後は、介助下歩行器歩行を経て、チェストドレーン抜去後は、両松葉杖介助歩行、介入2週間で車椅子外出を果たし、退院が視野に入る。精神面でも、介入当初は、車いす座位で「しんどい。もう死ぬかもしれない」と発言されていたのが、日常生活に介助量が減少してくる頃には、「目標がいろいろできた。何をするにしても歩けるようになりたい。がんと共存していかなくてはいけないこともわかっている」という発言が聞かれるようになった。リハビリ開始から4週にて、両松葉杖歩行自立。室内独歩近位監視、段差昇降見守りとなり、自宅退院を果たした。その後も、外来で週2回リハビリ継続。独歩訓練強化。X年+3月には、PS1となり、下垂足も改善。屋内装具除去歩行訓練実施。PS向上、化学療法再開となった。【考察】 体力的消耗、全身状態より、化学療法継続適応ではないと判断され、緩和ケアを主体として緩和ケア病棟転棟への見通しが立っていたが、本人の強い化学療法再開希望にて、理学療法介入、PS回復と遂げ、再度化学療法の適応となった1症例である。がん治療における化学療法適応は、患者自身がどの位動くことができ、身の回りのことが一人で行えるかというPS値で判定されることが多い。PS値を保つことができれば、がん治療の選択肢が増え、理学療法の関わりにより、生命予後を変えることができ、患者の希望を支持できることを改めて感じた症例であった。【理学療法学研究としての意義】 がんと共存する時代の到来で、2015年にはがん患者は533万人に達すると予想されている。今後、積極的に理学療法士としてがんの分野に介入することで、がん患者の「人生」の、QOL向上として関わることができると確信する。今回、この症例を報告することで、がんのリハビリの取り組みが、さらに社会に浸透するように願う。