著者
槻本 康人 木股 正樹 夜久 均 田中 大 曽田 祥正 松本 恵以子 柴田 奈緒美 松尾 洋史 並河 孝 藤原 克次 岡野 高久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da1000, 2012

【はじめに、目的】 開心術後リハビリテーションは、二次的な廃用症候群や術後肺炎などの合併症予防に有用のみならず、早期離床を可能とし早期退院に有用である。当院でも二次的合併症の予防や術後運動耐容能を改善する目的で、クリティカルパスに沿って理学療法士が術後早期から介入を行っている。術後リハビリテーションでは、日本循環器病学会の開心術後クリティカルパスを用いている施設も多い。開心術の対象疾患である心臓弁膜症と虚血性心疾患は、術前の病態や重症度は異なる。しかし、同一の開心術後クリティカルパスで術後リハビリテーションを行った結果、体力の低下に不安を抱えて退院する患者も散見される。今回開心術後リハビリテーションに関連する術前の因子について、心臓弁膜症と虚血性心疾患の間で検討した。【方法】 対象は、平成21年4月から平成23年10月までの間に当院で待機的に開心術を行った76例のうち、急性心筋梗塞および複合手術を除く心臓弁膜症患者(20例)および虚血性心疾患患者(25例)である。入院時の性別、年齢、身長、体重、BMIおよび移動能力を調査した。移動能力の指標として、アメリカ胸部学会のガイドラインに従って術前6分間歩行テストを行った。また予備調査として、性別、年齢、身長および体重をもとに6分間歩行距離の予測値を算出した。統計処理はWilcoxon順位和検定を行い、5パーセント未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、対象者へ研究の趣旨と内容、調査結果の取り扱いについて説明し、同意を得た上で調査を実施した。【結果】 性別は心臓弁膜症が男性10名、女性10名、虚血性心疾患は男性17名、女性8名であった。年齢は心臓弁膜症74.8±9.2歳、虚血性心疾患69.3歳±8.7歳と心臓弁膜症が有意に高かった。身長は心臓弁膜症156.8±10.7cm、虚血性心疾患162.3±9.5cmと有意差はなかった。体重は心臓弁膜症55.2±9.8kg、虚血性心疾患64.2±8.9kgと虚血性心疾患が有意に高かった。BMIは心臓弁膜症22.3±4.4、虚血性心疾患24.3±2.4と虚血性心疾患が有意に高かった。また6分間歩行距離は心臓弁膜症302.1±92.0m、虚血性心疾患は379.2±83.8mと虚血性心疾患が有意に高かった。予測6分間歩行距離は心臓弁膜症503.8±41.9m、虚血性心疾患は491.2±45.9mと有意差はなかった。【考察】 今回の予備調査では、予測6分間歩行距離に心臓弁膜症と虚血性心疾患の間で有意差はなかったが、実際の6分間歩行距離では心臓弁膜症に有意な低下が見られた。近年リウマチ熱等による若年者の大動脈弁狭窄症は減少し、高齢者の動脈硬化性大動脈弁狭窄症が増加傾向にある。加齢による移動能力の低下が、心臓弁膜症患者の6分間歩行距離低下に影響したと推察された。また、心臓弁膜症患者は、左室拡張末期圧の上昇等で労作時の胸部症状が出現し、日常生活活動の低下や活動量が減少している症例が見られる。これら日常生活の不活発化が、6分間歩行距離の低下に影響を与える可能性が示唆された。虚血性心疾患患者は心臓弁膜症患者と比較してBMIが高く肥満傾向であったが、若年者が多く加齢による移動能力の低下が少なかった事、亜硝酸薬の内服で運動制限が少なく良好な日常生活を過ごしていた事などが影響し、6分間歩行距離が有意に高かったと推察された。よって、術後リハビリテーションでは、心臓弁膜症患者は活動量の増加や移動能力の向上を目的に、歩行トレーニングを中心とした低負荷長時間の運動療法が重要であると思われる。また虚血性心疾患患者は肥満傾向にあったので、冠危険因子を是正し再イベントの発生を回避するため、減量指導や継続して有酸素運動を中心とした心臓リハビリテーションが重要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】 心臓弁膜症患者と虚血性心疾患患者の間で術前調査を行った。心臓弁膜症患者は、胸部症状の出現や加齢により移動能力が低下、虚血性心疾患患者は肥満傾向にある事が示唆された。本研究より、開心術後リハビリテーションでは、同一のクリティカルパスであっても両疾患の特性に応じたリハビリテーションが提供されるべきであると思われる。
著者
斎藤 貴 杉本 大貴 中村 凌 村田 峻輔 小野 玲 岡村 篤夫 井上 順一朗 牧浦 大祐 土井 久容 向原 徹 松岡 広 薬師神 公和 澤 龍一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年がん医療においては疾病の早期発見,治療法の発展により生存率が向上している一方で,治療による副作用が問題視されている。化学療法の副作用の1つに化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy,以下,CIPN)があり,その好発部位から「手袋・靴下型」と称されている。リハビリテーション実施場面においても,化学療法実施中の患者にはしばしば見られる症状である。CIPNは多様な感覚器の障害様式を呈するが,その評価は医療者による主観的な評価が中心であり,どのような感覚器の障害様式なのかはについて詳細な評価はなされていない。本研究の目的は感覚検査の客観的評価ツール用い,CIPNを縦断的に調査し,その障害様式を明らかにすることである。【方法】本研究は前向きコホート研究であり,任意の化学療法実施日をベースラインとし,フォローアップ期間は3ヶ月とした。本研究の対象者は,2015年2月から7月までの期間内に,神戸大学医学部附属病院の通院治療室にて,副作用としてCIPNが出現する化学療法を受けているがん患者35名であり,脊椎疾患を有する者,フォロー不可能であった者,欠損値があった者を除く18名(63.7±11.3歳,女性11名)を解析対象者とした。CIPNの評価は下肢末端を評価部位とし,客観的評価として触覚検査,振動覚検査,主観的評価としてしびれについて検査を行った。触覚検査はモノフィラメント知覚テスターを用い,母趾指腹,母趾球,踵部,足首の四カ所の触覚を測定し,測定方法にはup and down methodを用いた。振動覚検査は音叉を用い,内果の振動覚を測定し,測定方法はtimed methodを用いた。しびれの主観的検査はVisual Analog Scale(以下,VAS)を用い前足部,足底部,足首の三カ所の主観的なしびれを評価した。測定はベースライン,フォローアップ時ともに化学療法実施日に行い,薬剤の投与前に上記評価を完了した。統計解析は対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付順位検定を用い,それぞれの評価項目におけるベースライン時からフォローアップ時の値の変化を検討した。【結果】触覚検査では踵部のみに有意な変化がみられ,フォローアップ後に有意に触覚が低下していた(<i>p</i><0.01)。振動覚検査においてはフォロー後に有意に増悪がみられた(<i>p</i><0.01)。下肢末端のしびれの主観的検査においては前足部,足底部,足首部ともにフォロー後に有意差は見られなかった。【結論】三ヶ月のフォローアップ調査により,CIPNの障害様式は主に踵部の触覚低下および振動覚の低下であることが明らかとなった。一方で,主観的なしびれは変化がなく,客観的評価ツールで足底した触覚や振動覚の方が鋭敏に神経障害を反映しており,患者が障害を認知する前から感覚障害が生じていることが示唆された。
著者
久利 彩子 勝山 隆 臼井 永男 吉田 正樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3011, 2009

【目的】<BR>立位姿勢で床面に接地しない状態の足趾を「浮き趾」と言う.近年,幼児における「浮き趾」の激増や健常成人における「浮き趾」の実態が報告されている.しかし,姿勢の変化や姿勢保持中の経時的な状況において「浮き趾」の床面接地が変化するか否かについて報告は少ない.本研究では,「浮き趾」の足趾が,両足・片脚立位姿勢保持中に,接地状態が変化するか否か明らかにすることを目的に,調査を行った.<BR><BR>【対象者と方法】<BR>対象者は,同意の得られた「浮き趾」のある健常成人9名中「浮き趾」が確認できた14足で,平均年齢28.9±7.7歳(男性5名,女性4名)であった.「浮き趾」有無の評価は,厚さ15mmのアクリル板の上で対象者の両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させ,足底面画像をスキャナー(Canon社製CanoScanD1250U2F)を用いてパソコンに取り込んだ後,足底面の状況を視覚的に観察し確認を行った.さらに,両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させた対象者の足趾と足底接地させたアクリル板との間に,市販の付箋紙1枚を抵抗なく差し込めるか否かで,「浮き趾」有無を再確認した.「浮き趾」の経時的な床面接地状況の測定肢位は,30秒間の開眼閉足両足立位および開眼片脚立位とした.両足立位の測定姿勢は,日本めまい平衡医学会の定めた方法とした.片脚立位の測定姿勢は,東京都立大学体力標準値研究会『新・日本人の体力標準値2000』による指標に基づいた.「浮き趾」の経時的な床面接地状況を確認するため,「浮き趾」が床面に接地するとスイッチが入り,LEDが発光する装置を自作した.様子を撮影した動画を30フレーム/秒ごとに確認し,LEDが発光した全フレーム数を時間に変換し,測定結果を得た.統計処理は,ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.<BR><BR>【結果】<BR>「浮き趾」が30秒間の姿勢保持で接地する時間の第1,第2,第3四分位数はそれぞれ,両足立位で0.0秒,4.2秒,23.8秒,片脚立位で5.6秒,26.2秒,27.7秒であった.片脚・両足立位とも,「浮き趾」の床面接地は経時的に変化していた.片脚立位と両足立位では「浮き趾」の接地時間に有意差が認められた(p<0.01).<BR><BR>【考察】<BR>立位姿勢を保持させ,「浮き趾」の経時的な床面接地状況を調査したところ,片脚立位姿勢保持では,閉足両足立位姿勢保持に比べて「浮き趾」の接地が増大していた.このことは,姿勢保持の難易度と「浮き趾」の接地状況に関係があることを意味すると考えられる.また,閉足両足立位において「浮き趾」の経時的床面接地の中央値は4.2秒であった.「浮き趾」有無の判定は,肩幅に足部を開いた両足立位で行っている.足底が肩幅に開いた立位姿勢と閉足立位の姿勢の違いが,「浮き趾」の経時的な接地に影響を及ぼすのではないかと考えられる.
著者
谷口 匡史 建内 宏重 森 奈津子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0198, 2012

【目的】 腰痛発生要因の約60%が体幹回旋と関連しており、腰痛と回旋動作には深い関係がある。腰痛患者では、体幹回旋時に骨盤回旋に対して脊柱回旋による回旋の割合が増加しており、相対的な脊柱回旋可動性の増加と腰痛が関連することが示されている。また、体幹回旋中の筋活動量に関する研究では、脊柱起立筋や外腹斜筋の異常筋活動が報告されており、この異常な筋活動状態で繰り返される回旋動作が腰痛を引き起こす可能性があるが、脊柱可動性と筋活動の関連は明らかではない。本研究の目的は、腰痛患者における脊柱可動性と筋活動の関連を明らかにすることである。【方法】 対象は、健常群15名(男性9名、女性6名:年齢25.2±5.5歳)および腰痛群15名(男性9名、女性6名:年齢22.5±2.4歳)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題実施時には痛みのない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、除外した。腰痛群における最近1カ月の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始するよう指示し、約1秒で最大回旋角度の75%以上体幹を回旋させ、その終了肢位で3秒間静止させた。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施し、非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には、三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を使用し、サンプリング周波数200Hzにて実施した。体幹回旋角度は胸郭セグメントの回旋、脊柱回旋角度は胸郭セグメントと骨盤セグメントの回旋差により算出した。これより最大体幹回旋時における脊柱回旋可動性は、脊柱回旋角度を体幹回旋角度で除した脊柱回旋比として求めた。また、筋電図測定には、表面筋電図TeleMyo2400(Noraxon社製)を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて三次元動作解析装置とLED信号を同期したパソコンに記録させた。3秒間の最大等尺性収縮時(MVC)より得られた筋電図波形は、全波整流平滑化し、この値を100%として各課題実施時における筋活動量(%MVC)を求めた。測定筋は、左右両側の脊柱起立筋腰部、多裂筋、腹横筋(内腹斜筋)、外腹斜筋、腹直筋、広背筋上部・下部線維、大殿筋上部線維の計16筋とした。解析区間は回旋開始から終了までとし、体幹回旋角度により規定した。なお、これらの分析にはMathWorks社製MATLABを使用した。統計学的検定は、群間比較にはMann-Whitney検定、腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】 最大回旋時における脊柱回旋比は健常群28.6±5.9%に対し、腰痛群32.9±4.6%と腰痛群で有意に増加していた。また、筋活動量は、非回旋側外腹斜筋が腰痛群4.92±2.19%に対して健常群では3.42±1.69%であり、腰痛群の筋活動量が有意に増加(p=0.04、効果量: 0.77)し、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.09、効果量: 0.64)にあった。腰痛群における脊柱回旋比と筋活動の関連は、両側多裂筋(非回旋側: r=-0.732、p<0.01、回旋側: r=-0.604、p=0.02)と脊柱起立筋(非回旋側: r=-0.514、p=0.04、回旋側: r=-0.557、p=0.03)で有意な負の相関関係が認められた。【考察】 腰痛群では健常群に比べ、相対的な脊柱回旋可動性が増加し、外腹斜筋の筋活動量増加がみられた。また、腰痛群では脊柱回旋比と多裂筋・脊柱起立筋に有意な負の相関関係が得られたことから、回旋時の脊柱回旋可動性が高いほど多裂筋や脊柱起立筋の筋活動が低下していることが示唆された。腰痛群では外腹斜筋の筋活動量増加がみられたが、脊柱回旋比と関連を示さなかったことから、この筋活動増加は脊柱安定化筋の機能低下を代償し、回旋主動作筋としてだけではなく脊柱を安定させる固定補助筋として作用している可能性がある。以上より、腰痛患者の脊柱可動性増加は、主動作筋の過活動ではなく、多裂筋や脊柱起立筋の脊柱安定化作用の機能低下によって生じている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 腰痛患者における脊柱回旋可動性と体幹筋活動の特性を明らかにした研究であり、臨床場面における評価・治療の一助となる。
著者
田中 宏樹 後藤 由美 隈川 公昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1022, 2011

【目的】<BR> 立ち上がりは、目的動作や行為の一部として生活・活動範囲の拡大に関与する。股関節内転筋群は、骨盤の安定化やブリッジ機能といった作用が報告されており、体幹の安定性獲得に重要であり、立ち上がりにおいても重要な役割を果たすと考えられる。しかし、立ち上がりにおける股関節内転筋群の関与についての報告は少ない。そこで今回健常者を対象に、股関節内転筋群を作用させた立ち上がり時の骨盤や股関節への影響を明確にすることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 現在整形外科的疾患・神経学的疾患を有さない、健常成人15名(年齢27.3±4.7歳、身長169.1±3.5cm、体重60.5±7.7kg)を対象とした。立ち上がりは、安楽坐位姿勢(以下normal)、股関節内旋位(internal rotation:以下internal)、Ballを挟んでの立ち上がり(adduction:以下add)の3種類で検討した。スタート肢位は、両上肢を体幹前面で組み、座面は大腿部が床面と水平な位置とし、膝関節90°、足底が全面接地可能な範囲とした。被験者の肩峰、上後腸骨棘、大転子、膝関節外側関節裂隙にマーカーを貼付し、各立ち上がりをビデオカメラにて撮影した。撮影した動画から1秒間に30フレームの連続した静止画を作成し、Image Jを使用して、肩峰-上後腸骨棘-大転子のなす角(以下 骨盤前傾角)と、上後腸骨棘-大転子-膝関節外側裂隙のなす角(以下 股関節屈曲角)を測定した。3種類の立ち上がりの骨盤前傾角・股関節屈曲角を反復測定一元配置分散分析で検討し、有意差を認めた場合には多重比較検定(Bonferroni)を用いて検定を行った。なお有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> すべての対象者には、本研究の主旨を口頭にて説明し参加同意の得られた者を対象とした。<BR>【結果】<BR> スタート肢位での骨盤前傾角は、normal 93.1±12.6°と比較し、internal 85.7±11.2°,add 87.3±10.4°では有意に低値を示した(P<0.01)。しかしinternal、add間においては骨盤前傾角に有意差を認めなかった。股関節屈曲角度においては3群間normal 162.3±12.6°,internal 177.6±51.4°,add 178.0±51.5°で有意差は認めなかった。<BR> 立ち上がり時の最大骨盤前傾角は、normal 73.7±12.0°と比較しinternal 67.5±11.5°,add 69.4± 12.3°では有意に低値を示した(P<0.01)が、internalとadd間では、有意差は認めなかった。最大股関節屈曲角においてはinternal 142.7±13.1°と比較しnormal 136.7±14.4°で有意に低値を示し(P<0.01)、またinternalとadd 139.5±12.5°間においても、addの方が有意に低値を示した(P<0.05)。しかしnormalとadd間においては股関節屈曲角に差を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 今回測定を行った骨盤前傾角・股関節屈曲角は、角度が低値を示すほど、骨盤前傾及び股関節屈曲は大きくなる。今回の結果から、立ち上がり時のスタート肢位の骨盤前傾及び、最大骨盤前傾はともにinternal,addで骨盤前傾が大きかった。最大股関節屈曲では、normalとaddで大きくなった。<BR> 股関節内旋は、運動連鎖的に骨盤を前傾させる作用が報告されており、internalでのスタート肢位では、normalよりも骨盤前傾が大きくなったと思われる。また最大骨盤前傾角においても、股関節内旋による運動連鎖で骨盤前傾が大きくなったと考えられる。一方、最大股関節屈曲に関しては、股関節内旋位が股関節のclosed-packed-positionの1つに相当するため、股関節がしまりの肢位となり、股関節屈曲が制限され、normalよりも最大股関節屈曲が小さくなったと考えられる。<BR> 股関節内転筋群の開放運動連鎖は股関節内旋にも作用すると述べられている。したがって、スタート肢位でBallを挟んだ際は股関節内転筋群が活動することで、股関節が内旋し、運動連鎖的に骨盤を前傾させたものと考えられる。また最大骨盤前傾角においてもBallを挟み続けることで、運動連鎖が維持され、骨盤前傾がnormalよりも大きくなったと考えられる。最大股関節屈曲角においてはinternalよりaddの方が大きくなったが、立ち上がりでの股関節内転筋群の関与として、動作開始から離殿前までは股関節屈曲を補助すると述べられている。このことから、股関節内転筋群を収縮させることで股関節の補助的な屈曲に作用し、最大股関節屈曲に差が認められたと考えられる。<BR> 以上のことからinternalでの立ち上がりでは、骨盤前傾は増加するが股関節屈曲は制限されることが示された。またaddでの立ち上がりは、normalと同程度の股関節屈曲を維持し、骨盤を前傾させて立ち上がりを行うことが可能であることが示された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回のaddでの立ち上がりは、変形性膝関節症患者で見られる骨盤後傾で立ち上がりを行う症例に対して臨床的に応用できると考える。
著者
佐倉井 紀子 河村 光俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0044, 2005

【はじめに】重症心身障害児(者)の肢体の特徴として、全身的または部分的な筋緊張の亢進が多く認められる。四肢の筋緊張が強い場合は、特に上肢では屈曲拘縮(肩関節屈曲、肘関節屈曲、手関節掌屈、母指内転)が起こり易く、更衣の着脱や移乗動作が困難になるなどのADLに支障をきたすことも多い。関節可動域制限が筋緊張によってある場合、目的の関節を直接伸ばそうとすると逆に筋緊張が増す。そのため当施設でも体位変換や揺らしを利用したり、自発的な運動後の弛緩状態を狙ったりし、一時的に緊張をといて間接的な関節可動域改善を行ってきた。しかし実際には長期的な可動域制限の進行をとどめるには困難である。そこでこの度、先ず末端部分をほぐすことで可動域の改善を試みてみた。具体的には上肢では内転ぎみの母指を外転方向にリズミカルにストレッチし内転筋をほぐす。この母指外転法を5症例に行った結果、上肢全体にリラクゼーションが図られ、直接アプローチしていない手関節の背屈・肘伸展・肩屈曲角度にも改善がみとめられたのでここに報告する。<BR>【対象】6歳から54歳の重症心身障害児(者)男女5名。いずれも母指内転し、筋緊張によって上肢に可動域制限のある者。<BR>【方法】症例の内転ぎみの母指を、外転方向にマッサージするようにほぐしていく。なお母指には橈側外転と掌側外転があるため、どちらの方向にもストレッチできるように若干回しながら行う。効果判定は、各関節の可動域角度の変化をみるものとする。<BR>【結果】母指を外転する回数を増やしていくと、5症例とも直接アプローチしていない手関節に改善があらわれ、その最適施行回数と改善角度は症例の筋緊張の状態によって若干異なるが,最低でも50回施せば効果は期待できると判断された。結果として手関節には10度から25度の改善がみられた。また、約2ヶ月間、1回/週のリハビリ時に母指外転法を取り入れた結果、施行直後はもとより、経時的にも手関節の関節可動域改善の効果が見られた。手関節のみならず肘関節や肩関節を含めた上肢全体の緊張の緩和が図られたものもあった。<BR>【考察】筋緊張によって上肢の関節可動域に制限のある重症児(者)に対し、末端部分である母指を外転させることによって、無理なく上肢の関節の緊張を緩和することができた。変形・拘縮肢位は何年もの間の連合反応の結果である。末端の肢位は上位の緊張に大きく関わりがあることは知られており、今回の試みは、末端の内転筋を緩めることにより上肢の屈曲パターンを崩し、ブロックすることで上肢全体の筋緊張の緩和が得られたと解釈する。また、この母指外転法は,すでに制限のある重症児(者)に対してアプローチするだけでなく、幼児期からの拘縮予防に多いに役立つのではと考える。特別な技術を要さず安全に行え、いつ何時でもアプローチでき、施行回数も50回をめどに行えば効果は期待される。
著者
蛭間 基夫 鈴木 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E0728, 2008

【はじめに】高齢者を対象とした住宅改善支援は介護保険によって全国統一した仕組みで実施されている.ただし,一制度のみでは高齢者の多様なニーズに十分対応しきれない例も少なくない.このような例を補完するには自治体独自の支援制度の整備・拡充が期待される.しかし,このような制度の実態調査はこれまで大規模自治体や東京都特別区あるいは制度の利用実績のある自治体に限定され,地方都市を対象としたものは少ない.本報告の目的は高齢者の住宅改善に対して質の高いサービス提供のために有効な自治体独自の住宅改善費用支援制度の実態を明らかにし,今後の活用を促進する一助とすることである.<BR>【方法】調査対象は東北6県内全63市である(02年度時点).調査は質問紙によるアンケート票を郵送にて配布・回収している.期間は02年8月から2ヶ月で,回収率81.0%である.<BR>【結果】(1)高齢者や障害者を対象とした独自の費用支援制度を整備しているのは42市(82.0%)で,これら42市で費用支援制度の合計は77制度(補助制度46制度,融資制度31制度)である.費用の補助制度を整備しているのは37市(72.5%),融資制度は24市(47.1%)である.両制度を同時に整備しているのは19市(37.3%)である.独自制度が整備されてないのは9市(17.6%)で,このうち整備していた制度を中止した・中止予定とする3市(5.9%)が含まれている.(2)制度の実態として対象者規定では心身機能低下を有する者とした制度が50制度(64.9%)で,反対に低下のない者とした制度は27制度(35.1%)である.(3)制度利用の制限規定としては46助成制度では障害等級(76.1%),回数制限(76.1%),所得制限(73.1%),介護保険との併用不可(39.1%)が上位で,31融資制度では障害等級(45.2%),家族形態(38.7%),納税完済(38.7%)である.(4)制度の利用実態について助成制度の助成限度額は「25万円未満」が23制度(50.0%)で最多である.また,過去3年間の平均利用件数は「1-9件」が最多で18制度(43.9%)である.過去3年間の1件当たりの平均助成額は99年度58.8万円,00年度49.5万円,01年度31.2万円である.<BR>【考察】東北6県内市部の支援制度の整備状況は先行研究で報告されている大都市部の実態と比較すると低い傾向を示し,経済基盤の大きい自治体ほど制度化しやすい傾向を示唆している.また,融資制度が制度として整備されているが,経済能力が不安定な者では利用が難しい内容となっている.助成制度であれば経済能力が不安定な者であっても利用できるが,実際の利用率は低く,年々助成額も低下傾向にある.本報告は調査時期から5年以上経過し,その間介護保険も改正されている.従って,現状を反映した結果とは位置づけられないが,今後の実態を明らかにする上で比較検討の対象になると考えられる.<BR>【まとめ】東北全市を対象として住宅改善費用支援制度について調査を行った.制度は整備されているが利用実績が少ないことが明らかになった.
著者
棏平 司 内山 匡将 原田 千佳 大瀧 俊夫 山上 艶子 福本 貴彦 前岡 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P3571, 2009

【目的】厚生労働省は、「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」の実施を平成13年度より開始し、医療安全対策を全国的に展開している.今回、当院リハビリテーション科(以下リハ科)において過去5年間のインシデント状況調査を行い、その要因について若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】対象は、平成15年1月1日から平成19年12月31日までにリハ科内においてインシデントリポートとして挙げられ、当院の医療安全管理委員会に許可を得たインシデントを対象とした.<BR>【方法】方法は、インシデントリポートより発生件数、発生内容、発生要因、対応、生命への危険度、患者の信頼度について抽出した.さらに、発生要因は、正準判別分析を用いて分析した.<BR>【結果】発生件数は、平成15年(10件)、平成16年(28件)、平成17年(35件)、平成18年(44件)、平成19年(28件)の合計145件であった.発生内容は、リハ中55%、転落・転倒31%、点滴・NGチューブの抜去・抜管5%であった.発生要因は、確認不足15%、観察不足13%であり、問題行動のある患者(R=0.748、P<0.05)であった.男性ではコミュニケーション不足(R=1.234、P<0.05)、女性では点滴・NGチューブの抜去・抜管(R=0.434、P<0.05)であった.インシデントへの対応は医師診察が54%、なし28%であった.生命への危険度は、実害なし51%、全くなし32%、一過性軽度10%であった.患者の信頼度は、殆ど損なわない52%、多少損なう10%、大きく損なう6%であった.<BR>【考察】発生件数は、平成18年までは増加傾向にあったが平成19年には減少した.これは、リスクマネージャーへの報告や会議を行い、インシデントの分析や対策についての会議を開催したため改善されたものと思われる.男女共に関与が深かった問題行動は、認知能力の低下や高次機能障害の問題によるものと思われる.一方、男性にみられたコミュニケーション不足では、男性に多い口数の少なさから生じているのか、あるいは、リハスタッフそのものの熟練性の差によるものと考えられる.女性に関しては点滴やNGチューブの抜去・抜管の要因が挙げられていたが、これは女性の方が男性より不快感をより強く感じるために起こったのではないかと思われる.インシデントへの対応は、医師診察が半数占め、しかも生命への危険度は実害なしが半数を占めていた.しかし、場合によっては手術を要するものもあり問題も見られた.患者や家族への説明は多くの場合行っていたが、患者の信頼度の中で大きく損なうこともあることから事情の説明はすべきものと思われる.<BR>【結語】今回、医療安全についてインシデントの発生から検討した.急性期化が進められる状況の中でインシデントの原因分析と対策は、よりいっそう講じていかなければならないと思われる.
著者
長尾 香奈 平澤 小百合 尾﨑 充代 高木 賢一 平島 光子 仁田 裕也 松下 真由美 西村 麗華 鶯 春夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1092, 2006

【はじめに】<BR> 高齢者が多く入所している施設においては、「できるADL」と「しているADL」の差が問題になることが多い。当介護老人保健施設(以下:当施設)においてもこの差が生じていたので、これらの問題を改善するために「できるADL」と「しているADL」の実態調査を行い、どのADLに差が生じているのか、どのような入所者に差が生じているのかなどを検討した。<BR>【対象・方法】<BR> 当施設の入所者48名(男性10名、女性38名、年齢69~99歳、平均84.5歳)を対象とした。要介護度別にみると、1が8名(16.7%)、2が7名(14.6%)、3が20名(41.7%)、4が10名(20.8%)、5が3名(6.3%)であった。主疾患は脳神経疾患23名(47.9%)、骨関節疾患9名(18.8%)、認知症8名(16.7%)、その他8名(16.7%)であった。方法は、担当理学療法士が直接介護場面を観察したり、介護スタッフに聞き取り調査することにより、機能的自立度評価表(以下:FIM)にて「しているADL」を評価するとともに、FIMの評価表を基に担当理学療法士が「できるADL」を評価し、その差を比較検討した。なお、FIMの18項目のうち、セルフケア6項目、移乗2項目、移動1項目の計9項目を評価した。<BR>【結果】<BR> 「できるADL」と「しているADL」の評価がFIMの9項目全て一致した者は6名(12.5%)で、各項目において「完全自立もしくは修正自立」と採点された者が5名、「最大介助もしくは全介助」と採点された者が1名であった。逆に、一致した項目数が最も少なかったのは1項目で、2名(4.2%)存在し、それは過剰な介助が原因であった。項目別にみた場合、一致率が高かった項目は、食事41名(85.4%)、移乗37名(77.1%)、トイレ動作36名(75.0%)であった。逆に一致率が低かった項目は、清拭17名(35.4%)、更衣・上半身27名(56.3%)、整容28名(58.3%)であった。最も一致率が高かった食事においては、1段階異なった者が5名(10.4%)、2段階以上異なった者が2名(4.2%)であり、最も一致率が低かった清拭動作においては、1段階異なった者が13名(27.1%)、2段階以上異なった者が18名(37.5%)であった。<BR>【考察】<BR> 清拭や更衣の一致率が低かった理由としては、当施設の入浴介助が介護者のペースで行われたり、安全性を重視するあまりに過剰な介助が行われていることなどが考えられた。これらの点の改善ためには、特に、監視~中等度介助レベルの入所者への対応が重要で、安全性の確保や入所者のペースで介助を行う工夫、リハスタッフが生活場面に出向き、介護者とのコミュニケーションを密に取る必要性などが示唆された。
著者
末廣 忠延 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0501, 2012

【はじめに、目的】 近年、腰痛患者や腰部手術を受けた患者はローカル筋群の機能不全が生じることが報告されている。これらのローカル筋群の機能不全が長期間に渡る腰痛悪化の原因となる可能性を示し,またさらなる損傷を受けやすい状態を招くとされており,早期より体幹筋のローカル筋を中心とした腰部安定化運動が実施されている。腰椎術後の腰部安定化運動では安静・固定を目的にコルセットを装着したままでしばしば施行される。しかし,コルセット装着下での腰部安定化運動中の筋活動を調べた報告はない。そこで本研究では,コルセットの使用の有無が腰部安定化運動中の体幹筋活動に及ぼす影響を検討することを目的に実施した。【方法】 対象は,健常な男性10名(平均年齢21.3±0.5歳)とした。測定課題はブリッジ,下肢伸展挙上の2種目とし,下肢伸展挙上は左右両側行った。ブリッジは背臥位で腰椎を中間位に保持したまま股関節伸展0°まで挙上し保持させた。下肢伸展挙上は背臥位で非挙上側の股関節を屈曲45°とし,挙上側の膝関節を伸展位で踵が床から30cmになるまで挙上し保持させた。測定条件は,コルセットを装着しない条件(以下,コルセットなし条件)とコルセットを装着した条件(以下,コルセット条件)との2条件とし,装具はダーメンコルセット(以下,コルセット)を使用した。筋活動量の測定には表面筋電計(Vital Recorder2:キッセイコムテック株式会社製)を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした。測定筋は右側の腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,胸部脊柱起立筋,腰部脊柱起立筋,腰部多裂筋とした。得られた筋電波形は筋電図の解析ソフト(BIMUTAS2: キッセイコムテック株式会社製)を使用し,バンドパスフィルター(10 ~ 500 Hz)処理を行った後,全波整流し,中間3秒間の平均積分筋電値(IEMG)を求めた。各測定筋について, MVC時のIEMGで正規化し%MVCの値とした。統計はSPSS ver. 16.0 を用い,Wilcoxsonの符号付き順位検定を用いて比較した(p<0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】 (コルセットなし条件,コルセット条件)の順で数値を示す。ブリッジの内腹斜筋(6.2±7.4%,4.2±4.0%)では,コルセット条件がコルセットなし条件に対して有意に筋活動量の低下を示した。その他の5筋は有意差を示さなかった。また同側の下肢伸展挙上の腹直筋(7.1±3.5%,5.1±2.3%)と内腹斜筋(27.9±17.9,25±16.3)でコルセット条件がそれぞれコルセットなし条件に対して有意に筋活動量の低下を示した。その他の4筋は有意差を示さなかった。【考察】 内腹斜筋の活動は,コルセットの使用によりブリッジ,同側の下肢伸展挙上において有意に低値を示した。これは内腹斜筋の鼡径靭帯からの線維が関与していると考えられる。この筋線維は腸骨と仙骨に圧迫を加え,仙腸関節の剛性を高めるように作用する。Snijdersらは,足を組んだ座位姿勢では足を組まない座位姿勢と比べ仙腸関節の圧迫力を強め,骨盤の安定化を代償し内腹斜筋の活動が低下することを報告している。本研究でも,コルセットの使用により受動的に仙腸関節の圧迫力が働いたと考える。これにより仙腸関節の安定化が図られ,内腹斜筋の働きが代償されたために筋活動量が低下したと考える。また,同側の下肢伸展挙上ではコルセット条件で腹直筋の活動量も低下した。下肢伸展挙上の主動作筋である腸骨筋,大腿直筋,長内転筋は,下肢挙上時に骨盤を前方回旋させるトルクを発揮する。これを阻止するために腹直筋や対側の大腿二頭筋が働くことで骨盤の前方回旋を防止する。しかし,コルセット条件では,コルセットが上前腸骨棘から肋骨弓までを覆うことにより,骨盤の前方回旋に対してコルセットが拮抗するように働き,骨盤の前方回旋を阻止する腹直筋の活動量が低下したと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究より,腰部安定化運動中の体幹筋活動はコルセット使用で内腹斜筋の活動量が低下することが示された。このことから腰部術後など急性期でコルセットの使用が余儀なくされる場合ではコルセットを装着していない時よりもより頻回に腰部安定化運動を行い,ローカル筋群の賦活を促していく必要性が示唆された点で意義がある。
著者
東 祥代 小山内 康夫 及川 哲史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.D0472, 2006

【目的】<BR>急性期病院における廃用症候群患者の実態を調査し、移動能力再獲得に影響を与える因子について検討した。<BR>【方法】<BR>対象は、2004年9月から2005年8月に当院入院され、廃用症候群の診断名でリハ処方された患者102名中、死亡例23例・中止例1例を除く78名(男性43名、女性35名)。<BR>診療録より、年齢、痴呆性老人の日常生活自立度判定基準(以下、精神機能)、入院からリハ開始までの日数(以下、リハ開始までの日数)、入院から離床までの日数(以下、臥床日数)、在院日数、転帰先、移動能力(入院前・退院時)について、後方視的に調査した。移動能力については、FIMの移動項目の点数(1~7)を用いた。統計学的解析は、移動能力再獲得に影響を与える因子の分析として、1)年齢、2)精神機能低下(ランク2以下)の有無、3)リハ開始日数、4)臥床日数、5)入院前移動能力を説明変数とし、ステップワイズ重回帰分析を行った。<BR>【結果】<BR>平均年齢は79.4歳。精神機能低下例は、39.7%であった。リハ開始までの平均日数は、9.8±8.7日、平均臥床日数は、11.4±15.1日、平均在院日数は35.7±23.8日であった。転帰先は、自宅が56.4%、転院・施設が43.6%であった。移動能力が、退院時に入院前レベルに回復した例は67.1%だった。<BR>入院前移動能力獲得に寄与する因子として精神機能低下の有無(標準回帰係数=0.400)、入院前移動能力(標準回帰係数=0.365)、臥床日数(標準回帰係数=0.202)の順に採用された。決定係数R<SUP>2</SUP>=16.6%であった。<BR>【考察】<BR>矢部らは、早期離床を阻害する因子として、高齢、運動障害、痴呆、不穏の出現をあげている。本研究からも高齢者が多く、精神機能低下例も4割近くを占めていたことから、これらは廃用症候群に至りやすい因子であると推察された。また、移動能力再獲得例の割合は、門らの内科・外科病棟患者を対象にした研究の82.6%と比較すると、低い値であった。当院では、在院日数短縮の方針のため、病前レベルに到達しなくとも、環境調整により早期に在宅復帰を目指した事が、要因として考えられた。<BR>張替らの終了時移動能力を目的変数として重回帰分析を行った研究では、精神機能、病前移動能力が影響を与えていた。移動能力再獲得を目的変数とした本研究でも、同様の因子に加え、臥床日数が影響したことから、精神機能低下例や、入院前移動能力低下例について、早期離床を進め、廃用の進行を予防していく必要があると考えられた。しかし、決定係数が16.7%と低い値であったことから、今回評価出来なかった因子が関わっている可能性が考えられた。<BR>【まとめ】<BR>廃用症候群患者のリハビリテーションにおいて、「精神機能低下」、「入院前移動能力」の影響を考慮し、早期離床を促すことが重要である。<BR>
著者
石束 友輝 橋本 雅至 井上 直人 古川 博章 山崎 岳志 河野 詩織 吉川 晋矢 木下 和昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2220, 2011

【目的】<BR> 我々は、高校サッカー選手における運動時腰痛の軽減を目的にメディカルチェックと体幹筋トレーニング指導を行っている。体幹筋機能検査として、Kraus-Weber test 変法大阪市大方式(以下、KW)と Side Bridge test(以下、SB)を用いている。KWは体幹筋機能検査として有用性が数多く報告されている。また、我々はSBの体幹筋機能と運動時腰痛との関連性を報告した。先行研究において体幹筋トレーニングを継続した結果、SBやKWの点数の向上に伴い運動時腰痛が軽減したことを報告した。しかし、腰痛が残存する選手も認められた。本研究では初回メディカルチェック時のKW 、SBの点数から低値である選手、高値である選手に分類しトレーニングを継続したことによるそれぞれの点数の変化と運動時腰痛の関連を調査した。<BR>【方法】<BR> 対象は某高校男子サッカー部員で、平成19年度の1年生10名(身長169.0±4.2cm、体重56.9±5.7kg)と、平成20年度の1年生14名 (身長167.6±6.4cm、体重56.8±5.6kg)の計24名。メディカルチェックにおいてKW 、SBの測定と腰痛に関する問診を実施した。KWは大阪市大方式に準じた。SBは姿勢保持の時間を最大60秒とし片側6点満点、左右で12点満点とした。KW、SB共に負荷量は体重の10%の重錘負荷とした。メディカルチェックは初回、中間時(以下、2回目)と約1年後(以下、3回目)に実施し、体幹筋トレーニングは初回メディカルチェック終了後より開始した。<BR> 平成19年度、平成20年度の初回のKWの点数を合計し、平均点を算出した。平均点が中間群に含まれるよう上位群、中間群、下位群の3群に分類した。SBも同様に3群に分類した。今回は上位群、下位群におけるKW、 SBの点数と運動時腰痛の保有者の変化を調査した。<BR> 統計処理は、多重比較検定にTukey-Kramer法を用い、有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言及び、個人情報保護法の趣旨に則り、被験者に研究の趣旨や内容、データの取り扱い方法について十分に説明し、研究への参加の同意を得た。<BR>【結果】<BR> KWは下位群9名、上位群8名であり、SBは下位群8名、上位群8名であった。<BR> KW下位群は初回15.1±2.4点、2回目18.0±6.8点、3回目22.3±7.4点であり、初回と3回目(p<0.05)において有意な増加が認められた。運動時腰痛の保有者は初回5名、2回目3名、3回目4名であった。KW上位群は初回24.6±2.4点、2回目26.8±5.3点、3回目27.0±5.4点であり有意な変化は認められなかった。運動時腰痛の保有者は初回7名、2回目5名、3回目4名であった。<BR> SB下位群は初回3.8±1.7点、2回目7.5±2.4点、3回目8.9±3.3点であり、初回と2回目(p<0.05)、初回と3回目 (p<0.01)において有意な増加が認められた。運動時腰痛の保有者は初回7名、2回目4名、3回目5名であった。SB上位群は初回11.3±0.9点、2回目8.9±3.0点、3回目10.9±2.1点であり有意な変化は認められなかった。運動時腰痛の保有者は初回4名、2回目2名、3回目4名であった。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果からKW、SB下位群では点数向上に伴い運動時腰痛の保有者が減少した。初回メディカルチェック時の体幹筋機能検査において点数が低値である選手は、体幹筋機能の向上に伴い運動時腰痛の保有者が軽減したと考えられる。<BR> 一方KW、SB上位群では点数に有意な変化は認められなかった。KW上位群では運動時腰痛の保有者は減少したが、SB上位群では運動時腰痛の保有者に変化はなかった。我々は先行研究においてKW 、SB共に点数が高値でかつその点数を一定の期間維持することが、運動時腰痛改善の一要因となる可能性があると報告した。今回の結果からも、KW上位群では点数を一定の期間維持できたことで運動時腰痛の保有者が減少したと考えられる。しかしSB上位群では有意差が認められなかったものの点数を一定の期間維持できていないため運動時腰痛の保有者に変化はなかったと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 腰痛に対する体幹筋トレーニングの効果と体幹筋機能の客観的な評価や腰痛改善との関連性についての報告は少ない。そこで、我々は体幹筋機能を客観的に評価し、運動時腰痛との関連性について経時的に調査することで運動時腰痛発生の要因を検討してきた。本研究では初回メディカルチェック時の体幹筋機能の評価結果から、運動時腰痛の予防や改善のための具体的な方針を決定しうることが示唆された。
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 伊東 元 鈴木 大輔 藤宮 峯子 内山 英一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100534, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】股関節内転筋群の内転作用以外は諸説あり不明な点が多い。これは,関節の肢位によって筋の作用が変化することが関係している。本研究は股関節の角度変化に伴う股関節内転筋群のモーメントアームの変化を調べ,その作用を検討した。なお,本研究ではDostalら(1981,1986)の方法(モーメントアーム・ベクトル,以下MAV)を用いてモーメントアームの各成分(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)を算出した。【方法】1. 材料:死亡年齢84 〜98 歳(平均90 歳)の未固定標本5 体の右下肢を用いた。神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮が見られる下肢は除外した。標本は骨盤〜大腿骨部分を使用し,関節包および恥骨筋(PE),短内転筋(AB),長内転筋(AL),大内転筋(AM)を残して計測した。なお,AMは大腿深動脈の貫通動脈を基準に4 つの筋束(AM1-AM4)に分けた。2. 計測:骨盤を木製ジグに固定し,大腿骨を屈曲・伸展方向に同一験者が動かした。その際,磁気式3D位置センサー(Polhemus社製)を用いて,骨および筋の参照点の座標変化を記録した。参照点は,筋の起始部と停止部,上前腸骨棘,恥骨結合,大転子,外側上顆,大腿骨頭上の3 点とした。また,筋の起始部と停止部の直線距離を計測し,筋腱複合体の長さ(筋長)とした。3. データ処理:大腿骨頭上の座標と骨頭の半径から骨頭中心の座標を非線形最小2 乗法で求めた。骨頭中心座標と参照点を用いて直交座標系を構成し,関節座標系を定義した。骨盤側の座標系を絶対座標系(GCS),大腿骨側を移動座標系(LCS)とした。GCSとLCSの関係から関節角度を求めた。筋の張力方向は,停止部から起始部へ向かう単位ベクトルとした。更に単位ベクトルと筋の停止から骨頭中心に向かうベクトルの外積から3 軸(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)のMAVを求めた。MAVは,筋が1Nの張力を発揮した時の各軸周りの関節トルクの大きさと向きを示す。4. 分析:大腿長で標準化されたMAVおよび筋長と股関節屈曲角度の関係を2 次式で近似した。得られた近似式を用いて,15 度間隔で股関節屈曲-15°から75°の範囲におけるMAVと筋長の値を求めた。最大値を示したMAV成分を主成分,主成分の50%以上の値を示した成分を二次成分とした。【倫理的配慮、説明と同意】使用した遺体は,本人および家族が未固定遺体として使用されることを同意している。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】股関節屈曲-15°から75°の範囲で,AM4 を除く全ての内転筋群の主成分は内転成分であった。一方,AM1 とPEを除き,外旋/内旋成分は常に小さな値を示した。屈曲角度の増加に伴い,AM4 を除く全ての筋の屈曲/伸展成分が屈曲から伸展に転換した。AM2 とAM3 は,それぞれ股関節屈曲45 度,75 度以上で伸展成分が二次的成分になった。AM4 の伸展成分は屈曲0 度以上で二次成分,さらに45 度以上では主成分となった。ALは股関節伸展15°で屈曲成分が二次成分となった。AM1,PE,ABでは二次成分を認めなかった。いずれの筋束も二次成分を示す股関節肢位で筋長は伸長位にあった。【考察】全屈曲角度を通じて,AM4 を除く股関節内転筋群の主成分は内転であったが,屈曲/伸展成分は各筋で異なる特徴を示した。大内転筋のAM2-AM4 は股関節屈曲位において伸展作用を有すると示唆される。特に,AM4 は股関節屈曲45 度以上では主成分が伸展になることから,股関節伸展筋としての要素が強い。ALは従来股関節屈曲位において股関節伸展作用を持つとみなされていたが,股関節屈曲位におけるALの伸展成分はそれほど大きくなく,また筋が弛緩する肢位のため,伸展作用は小さいと考えられる。ALは股関節伸展位で二次成分に屈曲を示し,加えて筋も伸長位にあることから,股関節伸展位近傍で屈筋作用を持つ筋であると考えた。【理学療法学研究としての意義】股関節内転筋群は下肢を内転させるだけの筋ではない。股関節に対する長内転筋の屈曲作用や大内転筋の伸展作用は,腸腰筋やハムストリングスのサブモーターとして機能していると考える。このため,内転筋群は効果的な運動療法を行う上でもっと考慮すべき筋である。
著者
丸岡 弘 高柳 清美 伊藤 俊一 森山 英樹 木戸 聡史 井上 和久 藤縄 理 小牧 宏一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3124, 2009

【目的】一般的にストレスマネジメントは、サプリメント摂取や運動などが知られている.しかし、運動などによる酸化ストレス防御系への影響を検討した報告が少ない.そこで今回、実験的疲労動物モデルを用いて運動やサプリメント摂取が酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した.<BR>【方法】実験動物はWistar系雄性ラット19匹(8週齢)を対象とした.ラットを1週間馴化飼育後に実験1、さらに1週間後に実験2を実施した.酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレス度の大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)を安静時(RE)と終了直後(PO)に測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した.実験1(重量負荷強制遊泳試験). 試験は水温23&deg;Cの水を張った黒色円筒容器に、体重の6%のおもりを尾部に装着して2回遊泳(初回遊泳試験後30分間の休息)させた.遊泳は頭部が完全に5秒間水没するまでとして、遊泳時間を計測した.実験2. 対象を10時間以上の絶飲食とした3群(A群7例;行動制限なし、B群6例;行動制限あり、C群6例;絶飲食直前にRoyal Jellyを300mg/Kg強制経口摂取・行動制限なし)に区分し検討した.なお、実験に当たっては埼玉県立大学動物実験委員会の承認を得て実施した.統計学的処理は分散分析と多重比較、相関分析、T検定を用い有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】実験1. d-ROMはREとPOを比較して有意差を認めなかったが、BAPとRB比では平均16~19%の有意な増加を認めた(いずれもp<.01).またRB比と遊泳時間との間には、相関を認めなかった.実験2. d-ROM平均変化率はREとPOを比較してA群;3%>B群;-1%,C群;-12%、BAP平均変化率はB群;18%>A群;8%,C群;8%、RB比平均変化率はB群;35%>C群;-6%,A群;-10%(いずれもp<.01~.001)となった.<BR>【考察】遊泳試験(実験1)では抗酸化力を増加させたことにより、酸化ストレス度に変化を生じなかったことが示された.つまり、遊泳時間に関連せずに潜在的抗酸化能を賦活させたことが考えられた.実験2より行動制限なしは酸化ストレス度の増加と共に潜在的抗酸化能の減少、行動制限ありでは抗酸化力と潜在的抗酸化能の増加が示された.このことから、行動制限の有無は酸素摂取との関連などから酸化ストレス防御系に影響をおよぼすことが考えられた.さらに、Royal Jellyの事前投与は酸化ストレス度の減少に繋がるが、潜在的抗酸化能に影響をおよぼさないことが示された.<BR>【まとめ】今回設定した遊泳試験では潜在的抗酸化能を賦活させた.また行動制限やサプリメント摂取は、酸化ストレス防御系と関連を示した.
著者
杉浦 令人 鈴木 美保 村田 元徳 亀頭 千鶴 江島 幸子 小野 早智子 佐藤 ゆかり 花輪 千草
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0162, 2006

【目的】脳卒中後遺症患者の大腿骨頚部骨折の発生率は、一般高齢者にくらべ4から12倍といわれている。大腿骨頚部骨折後のリハビリ訓練においても、脳卒中後遺症が阻害因子となり、骨折前の状態に復帰するまでに長期間かかる傾向にある。今回、当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)における脳卒中後の大腿骨頚部骨折患者の特徴を調査し、脳卒中後の大腿骨頚部骨折リハビリ訓練の強化点を検討したので報告する。<BR><BR>【対象】2003.4.1から2005.8.31までに、当院回復期病棟入院の大腿骨頚部骨折患者で、脳卒中既往のある37例(以下、脳卒中群)中、脳卒中に対しても当院でリハビリを行った7例を対象に、詳細な調査・検討を行った。年齢は平均73.7±9.4歳、全員女性、脳梗塞6例、くも膜下出血1例であった。また、この期間内に当院回復期病棟に入院した脳卒中の既往のない大腿骨頚部骨折患者は13例(以下、既往なし群)であった。<BR><BR>【方法】当院データベースをもとに、大腿骨頚部骨折の受傷側、受傷事由、入院期間、麻痺側運動機能変化、関節可動域変化、ADL変化、歩行率、歩行速度などについて調査した。また、脳卒中退院時評価と、大腿骨頚部骨折退院時評価の比較もおこなった。麻痺側運動機能はBrunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)、関節可動域はRange Of Motion(以下、ROM)、ADLはFunctional Independence Measure(以下、FIM)にて評価した。<BR><BR>【結果】7例について受傷側は7例とも麻痺側、受傷事由はトイレへの歩行移動時での転倒6例、ベッドからの転落1例、入院期間101.1±51.0日、BRS下肢II:1例、III:3例、IV:1例、V:1例、VI:1例、ROM膝関節伸展脳卒中退院時0°:7例、頚部骨折退院時0°:2例、-5°:2例、-10°:3例、FIM運動合計脳卒中退院時71.7±5.4点、頚部骨折退院時72.3±8.5点、認知合計脳卒中退院時31.9±3.8点、頚部骨折退院時31.4±3.2点、歩行率脳卒中退院時60.424.2step/min、頚部骨折退院時43.3±15.2 step/min、歩行速度脳卒中退院時13.6±8.2m/min、頚部骨折退院時8.9±2.7 m/minであった。脳卒中群と既往なし群の比較では、入院期間は脳卒中群86.3±41.0日、既往なし群67.8±40.6日であり脳卒中群が18.5日長かった。FIMは、運動合計入院時:脳卒中群55.9±17.2点、既往なし群58.3±24.1点、退院時:脳卒中群68.3±16.1点、既往なし群71.1±21.8点であった。<BR> <BR>【考察】受傷側は、7例では100%麻痺側、脳卒中群全体でも92%であり、諸家の報告どおりであった。女性が多いのは、骨粗鬆症の関与も考えられるが、受傷事由も考え合わせると、介護者への遠慮により能力以上の行動をしがちな状況の可能性がある。今回の調査から、脳卒中後の大腿骨頚部骨におけるリハビリの強化点としては、不十分な関節可動域および効率の悪い歩行・歩容の改善が挙げられた。また、家屋改修や介護指導も、再度評価しなおす必要があると思われた。 <BR><BR>
著者
大月 勇太 今田 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2035, 2010

【目的】<BR>安定した四肢の運動を行うためには体幹の安定性が重要である。歩行においても同様に安定した歩行のためには体幹筋の協調的な活動は不可欠である。臨床場面でも、体幹筋群に対するアプローチを行うことで歩行が安定する症例を経験することがある。体幹筋の筋活動を高める目的で骨盤挙上運動を行い、その実施前後の歩行時における内外腹斜筋群の活動を表面筋電図(以下、EMG)にて計測した。<BR>【方法】<BR>対象は健常男性2例であった。身体特性は年齢26.5±2.1歳、身長171.5±4.7cm、体重64.4±2.0kgであった。被検筋は両側内外腹斜筋、右側中殿筋とし、10mの自由歩行を行い歩行中のEMGを計測した。その後、端座位で両上肢を体幹の前面で交差し、右側骨盤の挙上運動を10回実施した後、再び10mの自由歩行時におけるEMGを計測した。10mの自由歩行の前には1分間の安静座位をとるようにした。筋活動の計測には、EMGシステムkm-818T(メディエリアサポート社)を用い、サンプリングレートは1kHzであった。電極はP-00-S(Medicontest社)を使用し、フットスイッチとしてFlexiForce(NITTA社)を右側足部の踵部及び母趾に貼付した。<BR>計測したデータは、整流処理した後、10mの自由歩行中の5歩行周期分の立脚相、遊脚相それぞれの平均筋電位量を加算平均した。次に運動実施前の値を100%とし実施後の平均変化率を算出した。<BR>【説明と同意】<BR>被検者には事前に研究の目的と方法について説明し、本研究に対する理解と協力の意思を確認した上で行った。<BR>【結果】<BR>骨盤挙上運動後の平均変化率は、右側内外腹斜筋の立脚相で115.2%、遊脚相では125.4%であった。左側内外腹斜筋は立脚相で99.1%、遊脚相では104.1%であった。また、右側中殿筋の平均変化率は立脚相で87.7%、遊脚相で79.6%と減少傾向を示した。<BR>【考察】<BR>運動後に右側内外腹斜筋は賦活化され、歩行時の立脚相、遊脚相ともに筋活動の増加傾向が認められた。同側中殿筋の筋活動は立脚相、遊脚相ともに減少傾向であった。歩行時の中殿筋は、ミッドスタンスにおける骨盤の遊脚側への落下を制御する遠心性活動と、ターミナルスタンス~プレスイングにおける股関節の相対的な外転に作用すると言われている。今回の検討では骨盤挙上運動が歩行時の内外腹斜筋群の筋活動を高め得ること、それに反して中殿筋の筋活動が減少したことから内外腹斜筋と中殿筋の関連を精査していく有用性が示唆された。臨床場面においては体幹筋群へのアプローチが動作時の下肢筋群へ影響及ぼすことも意識しながら行うことが肝要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>歩行時の筋活動に関する先行研究は、下肢筋に着目したものが大半で体幹筋に関するものやこれらの相互関係について述べた報告は少ない。局所のみにとらわれないアプローチの重要性を定量的に検討した報告である。
著者
中崎 秀徳 堀 和将 牛山 さほ子 美崎 定也 山口 英典 大島 理絵 手島 雅人 堀 拓朗 大坂 祐樹 高橋 泰彦 鈴木 晴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】近年,予防医学の重要性が増しており,障害を未然に防ぐことは大切である。また,病院の中だけでなく,地域生活の中で予防することが重要である。当法人における「痛み予防教室」は,「通院しないまでも予防法を知りたい」,「気軽に参加できる教室は興味がある」といった地域住民のニーズにより企画され,地域住民の関節痛予防および改善,関節痛に対する適切な運動方法の提示・指導を目的に行っている。「痛み予防教室」は,当法人のグループ病院から選出された運動教室運営委員によって構成されている。運動教室では,主に膝関節,股関節をテーマにして,関節痛の原因と予防に関する講義,関節痛の予防体操,筋力測定を1時間程度行っている。当初は,病院を退院された患者や近隣住民に対して,グループ病院内で1ヶ月に1回行っていたが,平成25年11月より,都内のカルチャーセンターより委託され,無料で運動教室を開始した。また,今年度は,カルチャーセンターの秋季イベントでの開催依頼を受け,当法人監修による個別健康相談会を実施した。今回,カルチャーセンターと連携して運動教室を行った実績および個別健康相談会での結果について報告する。【方法】平成25年11月から平成26年11月までの期間において,運動教室に参加した者および秋季イベントの個別健康相談会に参加した者を対象とした。運動教室の調査項目は,1)開催数,2)延べ参加者数,3)講座内容とし,後方視的に抽出した。個別健康相談会の調査・測定項目は,1)参加者の属性(年齢,性別),2)等尺性膝伸展筋トルク(伸展筋トルク)とし,「膝が痛い」,「股関節が痛い」など個別に相談がある参加者に対してのみ,疼痛等に関する問診表,生活の広がり[Life-Space Assessment(LSA)]および転倒自己効力感尺度[Fall Efficacy Scale(FES)]に関する質問に回答させた。統計解析は調査項目の記述統計を行った。さらに,伸展筋トルクとLSA,FESの関連をみるため,相関分析を行った。【結果】運動教室の開催数は12か月間で22回であった。運動教室の延べ参加者数は367名(1開催の平均数:16.7名,範囲:4-27名)であった。講座内容は膝関節講座11回,股関節講座11回であり,それぞれの参加者数は膝関節講座180名(平均16.4名),股関節講座187名(平均17.0名)であった。今期の個別健康相談会は2回実施し,延べ参加者数は91名であった。本相談会の対象者の属性は,年齢[平均値±標準偏差(範囲)]61.9±11.1(38-88)歳,男性10名,女性81名であった。そのうち,膝や股関節に痛みなどがあり,個別相談を行った参加者は20名(男性2名,女性18名)であった。参加者からの主な相談内容は,「関節痛に関すること」,「予防法や運動方法を知りたい」などがあり,相談後の感想として,「わからないことを相談できてよかった」,「自宅でも運動してみる」,「現在の筋力がどのくらいなのかわかった」などの声が聞かれた。また,個別相談者の伸展筋トルクは1.25±0.31(0.63-1.88)Nm/kgであり,LSAは100.2±22.4(52-120)点,FESは34.6±4.7(27-40)点であった。LSAでは,20名中6名が満点(120点)となり,天井効果が認められた。相関分析の結果,伸展筋トルクとLSAに相関は認められなかったが,伸展筋トルクとFES(r=0.52)に相関が認められた。【考察】対象者の活動範囲は伸展筋トルクと関連していなかった。天井効果は,対象者の能力が指標の上限に達して測定できない場合であり,特定の対象を評価した場合に生じるといわれている。LSAに関する先行研究では,高齢者を対象としたものが多いが,本研究の対象者は平均年齢61.9歳であり,先行研究と比較して若い参加者が多かったため,対象者の活動範囲を十分に評価できなかった可能性が考えられる。一方,対象者の転倒自己効力感は伸展筋トルクと関連していた。これは先行研究を支持する結果であった。下肢筋力の低下は,転倒恐怖感を招くことが予想される。運動教室において膝伸展筋力を測定して,対象者にフィードバックすることは,自身の現状を知ることによる自己効力感の向上に寄与するものと考えられる。参加者に対して,アドバイスや運動指導を行ったことにより,参加者のニーズに対応でき,地域住民の関節痛予防に貢献できたと考える。今後は縦断的に調査を続け,運動教室の痛み予防効果を明らかにすることが課題である。【理学療法学研究としての意義】理学療法士が地域の予防活動に積極的に参加することにより,地域住民の関節痛予防に貢献することができる。また,地域活動に参加することにより,理学療法士の認知度が向上し,予防分野での職域拡大につながると考える。
著者
城下 貴司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】我々は足趾エクササイズについて,第42と43回理学療法学術大会では臨床研究を,第46回では表面筋電図による実験研究を,第47と48回では横断および縦断研究で形態学的研究を行ってきた。いずれもタオルギャザリングエクササイズ(以下TGE)と足内側縦アーチとの関連性は低いと報告したが,その根拠を示す必要性があった。我々は足趾底屈エクササイズの表面筋電図解析は既に報告した,本研究は足趾底屈エクササイズと併せたTGEの表面筋電図解析を比較することに着目し,TGEの運動学的根拠を示すことを目的とした。【方法】機材は小型データロガシステムpicoFA-DL-2000(4アシスト)とFA-DL-140ディスポ電極を使用しサンプリング周波数は1kHz,5~500Hzの周波数を抽出,時定数0.03secとした。対象は特に足趾や足関節運動をしても問題のなく,過去6ヶ月間,足関節周囲の傷害により医療機関にかかっていない健常者14名14足,年齢24.6±6.3歳とした。実験項目は全趾での底屈エクササイズ,母趾での底屈エクササイズ,2から5趾での底屈エクササイズ,そしてTGEとした。足趾底屈エクササイズは被験者に端坐位姿勢,大腿遠位端に3kgの重錘をのせ趾頭で踵を挙上させるように底屈エクサイサイズ(等尺性収縮約5秒間)をおこなった。膝および股関節の代償運動抑制を目的に,被験者の体幹前傾,膝の鉛直線上に頭部を位置させた。TGEは被験者に端坐位姿勢,足趾完全伸展から完全屈曲を1周期とし,母趾頭にフットスイッチを貼付し1周期を算出した。電極は腓骨小頭直下の長腓骨筋,内果やや後上方の内がえし筋群,腓腹筋内側頭筋腹,腓腹筋外側頭筋腹の4カ所に貼付した。足趾底屈エクササイズの解析は定常状態と思われる等尺性収縮5秒間の内,2秒間の筋電積分値(IEMG)を採用した。全趾による底屈エクササイズのIEMGをベースラインとして他の条件を正規化(%IEMG)した。TGEの解析は3から5周期を計測し,定常状態と思われる任意の1周期を採用した。エクサイサイズ別の各筋出力の比較はKruskal Wallis検定後,Mann-Whitney検定を採用した。統計ソフトはSPSS21.0を使用した。【説明と同意】すべての被験者に対して,実験説明書予め配布し研究の主旨と内容について十分説明をした後,同意書に署名がされた。また本研究は群馬パース大学および早稲田大学の倫理委員会の承認のもと行った。【結果】母趾底屈エクササイズでは,長腓骨筋が126.3±9.8%,内がえし筋群が112.4±13.1%,腓腹筋外側頭が79.2±8.1%,内側頭は90.2±5.9%であり,有意に長腓骨筋が腓腹筋内外側頭よりも高値を示した(p=0.003,0.000)。2から5趾底屈エクササイズでは,長腓骨筋が64.4±5.2,内がえし筋群が161.9±25.2%,外側頭は76.1±7.8%,内側頭97.8±5.0%を示し,内がえし筋群が長腓骨筋や腓腹筋外側頭よりも有意に高値を,長腓骨筋が腓腹筋内側頭よりも有意に低値を示した(p=0.000,0.003,0.000)。TGEでは,長腓骨筋が44.5±6.1%,内がえし筋群が145.1±21.4%,腓腹筋外側頭が18.8.±2.9%,内側頭は26.3±4.8%であった。内がえし筋群が他の筋群よりも有意に高値を示した(p=0.000,0.000,0.000)。【考察】本研究は筆者が考案した足趾底屈エクササイズとTGEを表面筋電図解析で比較したものである。足趾底屈エクササイズの筋放電パターンに関しては,本研究は先行研究と類似した。足趾底屈エクササイズとTGEを併せて比較すると,本研究のTGEおよび2から5趾底屈エクササイズは内がえし筋群が優位となり,母趾底屈エクササイズは長腓骨筋が優位な筋放電パターンを示した,すなわちTGEと2から5趾底屈エクササイズの筋放電パターンが類似した。形態学的変化に着目した先行研究では,TGEおよび母趾底屈エクササイズは足内側縦アーチとの関連性は低く,2から5趾底屈エクササイズと足内側縦アーチとの関連性は高かった,すなわちTGEと母趾底屈エクササイズの形態学的な研究結果は類似した。以上から,形態学的研究と表面筋電図解析による結果が一致しなかった。表面筋電図解析だけでは形態学的研究の根拠を示すことが困難であった。本研究の内がえし筋群の電極は後脛骨筋,長趾屈筋,長母趾屈筋のクロストークによるものである,単独筋ごとに明確な変化を示せない表面筋電図の限界があった,そのことは形態学的研究と結果が一致しなかった原因の一つと考えられた。今後は上述の矛盾した結果についてさらに研究していく課題が残された。【理学療法学研究としての意義】本研究から,足趾の評価治療は全趾を評価するのでなく足趾ごと評価治療することの必要性の意義を改めて示した。足関節の研究において表面筋電図のみで臨床的な現象を解釈することの困難さも示せた。
著者
荒木 智子 斉藤 幸義 鳥居 俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0953, 2005

【はじめに】マラソン大会に出場する市民ランナーの数は増加している.それに従い障害発生数も増加している.しかし十分に選手をケアしているものは少ない.多くは同意書の対応がほとんどである.我々は複数の職種でランナーのサポートを行っている.今回2004年9月18日~23日の日程でマウイマラソンにトレーナーとして帯同した.中には医学的問題を生じたケースもあり,医学的なサポートの必要性について検討したので報告する.<BR>【概要】参加者は2004年9月19日,第34回マウイマラソンに出場した.これは制限時間が8時間,コースも平坦であり,初心者も気軽に参加できる.参加者20名であった.参加者はフィットネスクラブに所属し,月間約数十km~700kmという距離を走っている.帯同スタッフはコーチ1名(米国RRCA公認指導者),トレーナー2名(以下TR.PT,鍼灸師)であった.<BR>【事前の対策】ランニングセミナーを数店舗で,多くは夜間に実施している.また日曜日に合同練習会を実施している.帯同したTRもセミナー・練習会に参加し,コーチ・TR(帯同以外にNATA-ATC1名)とともに参加者の相談や評価・リコンディショニングを行った.必要に応じ,医療施設での検査結果を相談に役立てた.出発前日まで特にケアを必要とした参加者は3名で,肉離れ1名,貧血1名,オーバートレーニング症候群疑い(以下OTS疑い)1名であった.<BR>【現地での対応】到着初日に相談デスクを設置し,参加者に対応した.また19日未明より19名にテーピングを実施した.全員が完走し,ゴールテントにおいてアイシング,ストレッチ,マッサージを実施した.全日程を通じて相談,マッサージ,ストレッチを毎日実施した.また全員が翌日よりランニング・ウォーキングに参加した.筋肉痛が出現した例もあったが,ごく軽症であった.<BR>【トレーナーの役割】我々に求められたのは「いかなる状況でも完走(完歩)を目指す」ということであった.トップランナーと異なる点として帰国後の生活に支障が及ばないこと,無理をすることで二次的な問題を起こさないことが求められた.それに次いで安全に完走できることを方針とした.具体的には貧血の参加者にはHRを用いて調節をすることを説明,OTS疑いの参加者には歩いても十分に完走は可能と説明した.その方針決定にはTRと参加者だけでなくコーチも関与した.<BR>【まとめ】国内外の大会は増加しているがレース前後のケアをしているものは少ない.今回の特色は1)事前より参加者と接点をもち状況を把握した,2)コーチ,PT,鍼灸師,NATA-ATCから多彩な考えが出された,3)完走で充実感を得た,4)リコンディショニングの徹底により疲労を最小限に抑えた,5)それを実現できる日程であった5点が挙げられる.今回の経験よりレース前後のケアやその必要性を感じた.PTの知識や経験が医療現場ではない場所でも生かされることの可能性を感じた.
著者
村上 平 山田 義範 髙橋 雄平 隠岐 裕子 松坂 大輔 難波 邦治 古澤 一成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.B-36_1-B-36_1, 2019

<p>【はじめに】脊髄損傷者は、麻痺の影響で活動量や基礎代謝が低く、健常者よりも生活習慣病のリスクが高い。そのため、健常者以上に活動量を増やすことが重要といわれている。健常者では、1日の身体活動で消費するエネルギー量(以下:身体活動量)において理想とされる目標値があり、歩数などを指標としている。しかし、車椅子で生活する脊髄損傷者には1日の身体活動量に関する報告がなく、具体的な指標もない。今回、入院中の脊髄損傷者の車椅子走行から身体活動量を推測する目的で、1日の車椅子走行の速度、時間、距離、漕ぎ数を計測した。</p><p>【方法】2011年から2017年の間に当センター入院中、車椅子駆動を移動手段とする胸髄損傷者16名を対象とした。年齢は39.7±14.1歳、性別は男性15名と女性1名、体重は57.3±7.7kg、損傷レベルは上位胸髄4名と下位胸髄12名、AISはA13名とC2名とD1名である。</p><p> 日常的に使用しているモジュラー型車椅子に、漕ぎ数と走行距離が計測できる車椅子活動量計測装置を24時間装着し、得られた車椅子走行のデータから、平均速度、走行時間、走行距離、漕ぎ数を算出した。また、我々の先行研究における「車椅子駆動速度別の運動強度」を用い、「1.05×体重(kg)×運動強度(METs)×運動時間(時)」によって身体活動量を算出した。</p><p>【結果】1日の車椅子走行において、平均速度は2.8±0.6 (1.6~3.7) km/h、走行時間は1.4±0.5 (0.6~2.4) 時間、走行距離は4.1±1.9 (1.2~8.7) km、漕ぎ数は2964.2±1308.5 (1317~6645) 回、身体活動量は176.3±72.6 (76.9~365.8) kcalであった。( )内は最小値~最大値とした。</p><p>【考察】厚生労働省は、生活習慣病予防として、健常者では身体活動量の約300kcalを歩行で補うことを目標値としている。本研究の対象者が1日の車椅子駆動で補うとすると、多くの者が目標値を下回ることがわかった。この結果は、院内生活における活動範囲と速度の制限が、入院中に体力低下を招く可能性を示しており、脊髄損傷者の身体活動量を把握する上で非常に参考となる。身体活動量の増加を図るには、速度よりも走行時間を増加させる方が現実的である。従って目標値を満たすには、2時間30分以上の車椅子走行が望ましいと推測される。</p><p> 今回、損傷高位や麻痺の程度が身体活動量に影響すると予測したが、残存機能が良好でも低値を示した症例は存在した。車椅子駆動は歩行と同様に目的的行動であり、活動意欲が低いと走行時間の減少に伴い身体活動量が低下する。そのため、日常生活動作だけでなく、身体活動量の評価と介入も重要であることを再認識する結果と言える。</p><p> 脊髄損傷者における身体活動量の増加には、座位時間の拡大だけでなく実際に駆動することが重要であり、入院中から活動意欲を高めていく役割を理学療法士は担っている。その手段として、日常生活以外の運動習慣作りや、身体活動量のフィードバック、スポーツなど社会参加に向けた情報提供が、身体活動量の増加に貢献できると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言の内容に基づき行い、個人に不利益がないよう得られたデータは匿名化し、個人が特定されないよう配慮した。</p>