著者
西下 智 草野 拳 廣野 哲也 中村 雅俊 梅原 潤 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0436, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】肩関節障害の原因の一つとして肩関節後方タイトネス,特に,後方関節包,三角筋後部,棘下筋,小円筋の柔軟性の低下が問題視されている。しかし,これらの組織に対する効果的なストレッチング(ストレッチ)方法についての研究は少ない。新鮮遺体を用いた研究では棘下筋のストレッチには伸展位での内旋が有効であることが示されているが,生体での検証は行われていない。一方で,実際のスポーツ現場や臨床ではcross-body stretchに代表されるような肩関節を回旋中間位で水平内転させる方法やsleeper stretchに代表されるような肩関節を屈曲90°位で最大内旋させる方法が用いられることが多い。我々は棘下筋下部線維に関して「水平内転位や内旋を強調しない伸展位に比べ,伸展位での最大内旋がより効果的なストレッチ肢位である」と報告(第51回日本理学療法学術大会)したが,上部線維に関しては未検証であった。そこで本研究の目的は肩関節下垂位,屈曲90°位,最大伸展位,最大水平内転位のどのストレッチ方法が棘下筋上部線維に効果的か,さらに,回旋による効果の増大が認められるかを明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人男性24名(平均年齢24.8±3.8歳)とし,対象筋は棘下筋上部線維とした。棘下筋の弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いて行った。弾性率は伸張の程度を表す指標で,弾性率の変化が大きいほど筋が伸張されていると解釈できる。計測肢位は,方向条件が下垂位(Ele0),屈曲90°位(Flex90),最大伸展位(ExtMax),最大水平内転位(HadMax)の4条件,回旋条件が最大外旋位(ER),中間位(NR),最大内旋位(IR)の3条件の計12肢位とした。統計学的検定は各肢位の弾性率について,反復測定二元配置分散分析および多重比較検定を行い,有意水準は5%とした。【結果】12肢位の弾性率を,全対象者の平均±標準偏差(単位:kPa)として,回旋条件をER,NR,IRの順に示す。Ele0が7.7±4.7,7.9±2.1,17.4±8.3,Flex90が9.7±2.9,11.0±3.6,14.9±5.4,ExtMaxが11.7±4.1,16.8±8.0,17.0±6.9,HadMaxが19.6±9.9,22.0±9.8,24.7±10.5であった。統計学的には方向条件,回旋条件の主効果と交互作用があった。方向条件ではHadMaxが,回旋条件ではIRの弾性率が有意に高値を示した。HadMax肢位の回旋条件間比較ではERに比べIRが有意に高値を示したが,NRとERやIRには有意差はなかった。IR肢位の方向条件間比較ではHadMaxIRの弾性率が有意に高値を示した。【結論】棘下筋上部線維のストレッチ方法に関して,最大水平内転と最大内旋が効果的であることが明らかとなった。さらに最大水平内転位においても最大外旋位よりも最大内旋位の弾性率が有意に高値を示したため,最大水平内転位で内旋角度をできるだけ増大させた肢位がより効果的であることが明らかとなった。
著者
馬場 孝浩 栗木 淳子 木戸 里香 黒田 和子 長谷川 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0832, 2005

【はじめに】近年離床の重要性は認識されつつあるが,車椅子座位の弊害は見落とされがちである。また車椅子座位時間の管理やクッション使用などの車椅子設定への配慮は,各ケースに応じて充分されていないのが現状ではないか。今回の研究目的は,車椅子座位が褥瘡や浮腫の発生に与える影響を調べることである。<BR>【対象と方法】介護療養型医療施設に入院中の患者で,普通型車椅子を使用している42名,83足(男性20名,女性22名,平均年齢75.0±10.8歳,主疾患はCVA40名,他2名)を対象とした。調査項目は殿部褥瘡の有無(IAET分類のstage1以上を有り),座位姿勢の崩れの有無と姿勢修正の可否(廣瀬らの簡易座位能力分類),車椅子用クッション(ウレタン,空気室構造など)の有無,浮腫の有無(夕方足背部に圧痕が残るか否か),麻痺の有無,最長車椅子座位時間(以下LS),総車椅子座位時間(以下TS)とした。LSとTSは,平日と休日のそれぞれ1日ずつ6時から21時まで30分ごと車椅子座位かどうかを確認して算出し,週間生活を考慮して平日の5倍と休日の2倍の和を7で除した値を用いた。統計解析は,まず褥瘡の有り群と無し群のLS,TSをそれぞれMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。次に褥瘡の有無を目的変数,年齢,座位姿勢,姿勢修正,クッションの有無,LS,TSを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。座位姿勢と姿勢修正,LSとTSには強い相関があったため,多重共線性に配慮して座位姿勢とTSは説明変数から除いて分析した。さらに浮腫の有無を目的変数,年齢,麻痺の有無,TSを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。統計ソフトはSPSS for windows Ver12.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】LS,TSは褥瘡有り群(10名)で9.4±3.5時間,11.1±2.5時間,無し群(32名)で7.4±4.3時間,9.7±3.2時間であり,ともに有り群で有意に長かった(p<0.05)。ロジスティック解析の結果,褥瘡の有無に従属する有意な変数として,クッション(オッズ比OR=6.04,p<0.05),座位姿勢(OR=5.76,p<0.05),TS(OR=1.31,p<0.05),LS(OR=1.23,p<0.05)が認められた。浮腫の有無に従属する有意な変数として,麻痺(OR=3.76,p<0.05),TS(OR=1.30,p<0.01),年齢(OR=1.07,p<0.05)が認められた。<BR>【考察】結果より,褥瘡と浮腫双方の発生に影響するのは座位時間であった。よって,褥瘡や浮腫の予防には適宜臥床を取り入れる必要性が示唆された。褥瘡発生には座位時間に加え,クッションの有無と座位姿勢の崩れが影響していることがわかった。PTは褥瘡予防のためにクッションや体幹・骨盤サポートなどの使用を,早期から検討すべきと考えられた。本研究では褥瘡の原因を車椅子座位の影響に限局し検討したが,臥床時の影響も含めて検討することは今後の課題である。
著者
田村 正樹 中 優希 久保 有紀 渕上 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】複視とは,脳血管障害などが原因で物体が二重に見える症状である。物体の見えにくさから日常生活動作(以下,ADL)に支障をきたすが,具体的なリハビリテーション介入に関する知見は少ない。今回,複視を呈した症例に対して,自動車運転の獲得を目標にレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を考案し介入したことで退院後に目標達成に至ったため,報告する。【方法】症例は59歳,男性。診断名はクモ膜下出血と右視床梗塞。発症2週後の眼科受診で右外転神経麻痺と診断された。発症4週目に当院入院となり,入院当初から運動麻痺や感覚障害は認められず,ADLは歩行で自立していた。その他の所見として,Berg Balance Scaleは56/56点,Mini Mental State Examinationは30/30点,Trail Making TestはPart-A36秒,Part-B81秒であった。職業は内装業であり,復職と自動車運転の獲得を希望されていた。発症9週目で内装業に必要な動作が獲得できたため,眼球運動課題を開始した。このときの眼球運動所見は,peripersonal spaceの物体を正中から右側に20cm以上,左側に30cm以上追視した際に複視が出現し,10分程度で眼精疲労が確認された。さらに,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うと,複視により3分程度で気分不良が確認された。複視は右側のextrapersonal spaceへの追視の際に著明であった。眼球運動課題はレーザーポインターを用いたポインティング課題,ミラーを用いた識別課題を方向や距離,速度,実施時間を考慮して行った。レーザーポインターを用いたポインティング課題では前方と側方の安全確認と信号の認識を想定し,頭頸部回旋運動を取り入れてレーザーの照射部位を追視するように教示して実施した。ミラーを用いた識別課題ではバックミラーとサイドミラーに映った自動車の認識を想定し,各3方向のミラーに映った対象の詳細や距離について正答を尋ねた。【結果】発症11週後には,peripersonal spaceにある物体の追視では正中から左右ともに35cmまで複視が出現せず可能となった。peripersonal spaceでの眼球運動は40分程度,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行う眼球運動では30分程度問題なく行えるようになった。発症12週目に自宅退院となり,最終的には自動車運転の獲得に至った。【結論】本症例は右外転神経麻痺による両眼球の共同運動障害により複視が生じていた。personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を組み合わせることにより,複視の改善に至ったと考える。
著者
三瓶 良祐 小林 龍生 小倉 正恒 田中 良弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101171, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】全身振動刺激トレーニングは、振動するプラットフォーム上で運動することによって身体機能を向上させるトレーニング方法である。トレーニング効果として、筋力増強、筋柔軟性の向上や神経筋協調性の改善に対する効果などが報告されている。脊髄腫瘍術後、深部感覚障害による脊髄性失調を呈した症例に対し、全身振動刺激トレーニングを実施し、身体機能に関する即時および長期効果が得られたので報告する。【方法】対象は、脊髄内腫瘍(Th2/3レベル、Cavernous angioma)、52歳の男性。H17年度より右下肢のしびれを自覚。H22年5月、右下肢の違和感、しびれが増強し、右下肢麻痺、両下肢感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害を認めた。H22年11月15日に他院にて腫瘍摘出術を実施。11月16日よりリハビリテーション開始。H24年4月全身振動刺激トレーニング開始時、MMT左右下肢とも5レベル。感覚は両下肢でしびれが強く、表在覚は両下肢とも軽度鈍麻、運動覚は右足趾で軽度低下、振動覚は右内踝7秒、左内踝9秒とともに低下。Romberg sign陽性。基本動作は自立しており、走行も可能なレベルである。全身振動刺激トレーニング機器であるPOWER PLATEを使用し、周波数35Hz、振幅2~4mmの振動刺激を用いて、スクワット姿勢など7種類の運動と2種類のストレッチを3回/週、14週間施行した。振幅、刺激時間は1週間ごとに振幅2mm・30秒、4mm・30秒、2mm・60秒、4mm・60秒と段階的にあげ、5週目以降は4mm・60秒で実施した。評価は1週間毎に、閉眼閉脚立位時間、開眼片脚立位時間(左右)、垂直飛びをPOWER PLATE 実施前後に計測した。各評価は3回試行し、即時効果はトレーニング実施前後に得られた最高値を、長期効果は全身刺激トレーニング実施前の平均値を採用した。統計学的検討として、t検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を実施するにあたり、ヘルシンキ宣言に基づき症例に対し事前に十分な説明と同意を得てから研究を実施した。【結果】即時効果として、閉眼閉脚立位時間は、実施前16.3±8.8秒から実施後115.3±14.7秒で有意差を認めた(P<0.01)。開眼片脚立位時間は、実施前、右13.5±6.2秒、左16.8±8.6秒から、実施後、右23.4±15.0秒、左41.6±31.7秒で、両側で有意差を認めた(P<0.01)。垂直飛びは、実施前30.2±2.9cmから実施後35.6±1.2cmで有意差を認めた(P<0.01)。POWER PLATEを用いた運動後、すべての評価項目で即時効果を認めた。また、長期効果は、閉眼閉脚立位時間は初回、23.2±12.9秒から評価14回目で100.1±24.5秒、開眼片脚立位時間は、初回、右16.0±6.2秒、左18.2±12.5秒、評価14回目で右86.0±34.0秒、左68.8±49.5秒、垂直飛びは初回、33.3±2.3cm、評価14回目で34.8±0.5cmとすべての評価項目で長期的な改善効果の傾向が見られた。【考察】即時効果として、閉眼閉脚立位時間は、実施前16.3±8.8秒から実施後115.3±14.7秒で有意差を認めた(P<0.01)。開眼片脚立位時間は、実施前、右13.5±6.2秒、左16.8±8.6秒から、実施後、右23.4±15.0秒、左41.6±31.7秒で、両側で有意差を認めた(P<0.01)。垂直飛びは、実施前30.2±2.9cmから実施後35.6±1.2cmで有意差を認めた(P<0.01)。POWER PLATEを用いた運動後、すべての評価項目で即時効果を認めた。また、長期効果は、閉眼閉脚立位時間は初回、23.2±12.9秒から評価14回目で100.1±24.5秒、開眼片脚立位時間は、初回、右16.0±6.2秒、左18.2±12.5秒、評価14回目で右86.0±34.0秒、左68.8±49.5秒、垂直飛びは初回、33.3±2.3cm、評価14回目で34.8±0.5cmとすべての評価項目で長期的な改善効果の傾向が見られた。【理学療法学研究としての意義】脊髄腫瘍摘出術後に脊髄性失調を呈した症例に対し、全身振動刺激トレーニングを施行し、バランス能力と筋パワーの2つの異なる身体機能に改善を認めた。脊髄性失調の症例に対して全身振動刺激トレーニングにより改善効果のある可能性が示唆された。
著者
奥野 修司 工藤 枝里子 杉岡 辰哉 額賀 翔太 森 拓也 川原 勲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F-57, 2019 (Released:2019-08-20)

【目的】 近年,筋の柔軟性向上に対しスタティックストレッチ(SS)に振動刺激(VS)を加えることが効果的であると報告されているが,それらが筋硬度に与える影響については明らかにされていない。本研究の目的は超音波エラストグラフィー(UE)を用いてSSとVSの併用が筋硬度に与える影響を明らかにすることとした。【方法】 対象は,健常成人24名(27.8±5.8歳)とし,対照群(Cont群),SS群,VS群の3群に無作為に振り分けた。標的筋をハムストリングス(Hamst)とし,課題はSS群長座位姿勢にて体幹を前傾するSS,VS群はSSに携帯型振動刺激装置(タカトリ社製)にて40Hzの振動刺激を加えた。介入時間は2分間とした。柔軟性の指標としてFinger Floor Distance(FFD),Aplio300(Canon社製)にてHamst近位,1/2,遠位のUEで筋硬度を介入前後で測定した。各3回測定し,統計解析処理した。【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象者に十分な説明と同意を得て実施した。【結果】 FFDの変化量は,VS群,SS群で有意に増加した(P<0.01)。UEの結果はHamst近位のみSS群,VS群で低値を示し(P<0.01),SS,VS間でVSで低値を示した(P<0.05)。【考察】 ShinoharaらによるとVSはIb求心性線維の活動による脊髄前角細胞の興奮性抑制にてストレッチ効果があると報告している。本研究ではSSに対し,VSを加えることで,それらの効果が加味され,よりストレッチ効果が得られる可能性が示唆された。
著者
渡辺 進 石田 弘 大槻 桂右
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0497, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】慢性腰痛症患者では、疼痛や疼痛に対する不安のために身体活動量が低下し、体力も低下するという報告がみられる。体力低下は患者の社会生活への復帰にとって大きな問題となるので、リハビリテーションの視点からも関心が高い。それに対して、腰痛症患者の体力維持のための有酸素運動についての報告が増えてきた。しかしながら、有酸素運動は腰部の骨・関節や筋への過度の負担をもたらし腰痛の悪化や再発のリスクもともなう。にもかかわらず、有酸素運動時における体幹の筋活動に関する報告は少ない。本研究の目的は、有酸素運動によく使用される自転車エルゴメーター駆動時および歩行時の体幹の筋活動に関する基礎的データを提供することである。【対象と方法】対象は腰痛症の病歴のない健康な男性11名(平均年齢21.7±2.5歳)であった。全員に実験について十分な説明を行い、同意を得た後に実施した。表面電極を3cmの間隔で右腹直筋、右外腹斜筋、右腰部(L3)脊柱起立筋に貼付した。測定と解析にはNORAXON社製筋電計を用いた。始めに最大随意収縮(MVC)を行わせ筋活動の正規化のための基準とした。次に自由歩行を行わせ5歩分を記録した。最後に自転車エルゴメーター(キャトアイ社製)を駆動させた。サドル高は下死点で膝屈曲30度となるように設定した。体幹前傾角度は約85度とした。25Wから開始し順に50W、75W、100Wと負荷を30秒ずつ漸増し、その間の筋活動を記録した。得られたデータは整流し、平均活動電位をMVCで正規化した(%MVC)。歩行時とエルゴメーター各負荷時の%MVCを一元配置分散分析で統計処理した(p<0.05)。【結果】腹直筋について、歩行時5.2±4.2%、エルゴメーター負荷25W時5.7±5.3%、50W時5.7±4.9%、75W時6.2±5.7%、100W時6.5±5.6%であった。いずれの間にも有意差はなかった。外腹斜筋について、歩行時33.3±19.0%、25W時27.8±14.5%、50W時28.9±15.0%、75W時30.3±14.2%、100W時32.7±16.0%であった。いずれの間にも有意差はなかった。脊柱起立筋について、歩行時12.1±3.6%、25W時7.3±2.6%、50W時8.8±3.2%、75W時10.5±4.3%、100W時11.7±4.7%であった。歩行時と25W時、歩行時と50W時および25W時と100W時の間に有意差がみられた。【考察】エルゴメーター駆動時の腹直筋活動は歩行時と大差なく約6%MVCであった。腹直筋は腹部前面の筋のため、両下肢の交互運動の影響が少ないものと思われる。外腹斜筋も各運動の比較では同様の傾向であったが、約30%MVCと比較的高値を示した。外腹斜筋は腹部側面の筋のため、両下肢の交互運動時の体幹固定のために比較的高い活動を求められるためと考えられる。脊柱起立筋は歩行時と比較してエルゴメーター駆動時には低値を示し、負荷の増加に応じて漸増した。両下肢の交互運動時に脊柱を後方から安定させるために漸増したものと思われる。
著者
森山 信彰 浦辺 幸夫 前田 慶明 寺花 史朗 石井 良昌 芥川 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】筆者らは理学療法士を中心としたグループで,中四国学生アメリカンフットボール連盟秋季リーグ戦の全試合に帯同し,メディカルサポートを行ってきた。本研究では,外傷発生状況の分析を行い,今後の安全対策の充実に向けた提言につなげたい。【方法】2012年度から2015年度の試合中に生じた全外傷を集計した。外傷発生状況は,日本アメリカンフットボール協会の外傷報告書の形式を用いて記録した。分析項目は外傷の発生時の状況,部位,種類,発生時間帯とした。【結果】本研究の調査期間にリーグ戦に参加したのは7校であり,登録選手数は延べ686名(2012年161名,2013年152名,2014年185名,2015年188名)であった。リーグ戦の開催時期は毎回8月下旬~11月上旬であった。調査対象試合数は57試合であった。調査期間中の外傷の総発生件数は249件(2012年72件,2013年60件,2014年52件,2015年65件)であり,1試合平均の外傷発生件数は4.4件(2012年4.8件,2013年4.3件,2014年3.5件,2015年5.0件)であった。4年間で外傷発生件数には大きな変化がなく推移した。外傷発生時の状況は「タックルされた時」が67件(27%)で最も多く,次いで「タックルした時」が59件(24%),「ブロックされた時」が39件(16%)の順であった。部位は,下腿が70件(28%)で最も多く,以下膝関節が27件(11%),腹部が20件(8%)の順であった。種類は打撲が87件(35%)で最も多く,以下筋痙攣が74件(30%),靭帯損傷が35件(14%)の順であった。時期は,第4クォーターが97件(39%)と最も多かった。【結論】関東地区の大学リーグ戦中に発生した1試合平均外傷発生件数は1.3件で,外傷の38%が靭帯損傷であり,次いで打撲が17%という報告がある(藤谷ら 2012)。本リーグ戦では,1試合平均外傷発生件数が4.4件と,先行研究の3.4倍となり明らかに多くなっている。また,外傷の種類別では,靭帯損傷の発生件数が少ないが,それに代わって打撲の発生が多いことが特徴であろう。打撲については,相手の下半身を狙うような低い姿勢のタックル動作を受ける際に主に大腿部や腹部に強いコンタクトを受けたケースで多く発生していた。近年,米国では「Heads up football」と称した,タックル動作に関する組織的な啓発活動が行われており,理想的なタックル動作として相手の上半身へコンタクトすることを推奨している。わが国においても最近の安全対策への見解を取り入れ,タックル動作を安全に行うための指導を継続して行っていくことが今後重要であると考える。一方で,本研究の解析期間中には,頸髄損傷などで後遺障がいを認めるような重大外傷は発生しなかった。これは,筆者らがリーグ戦への帯同に加えて,オフシーズンに講習会を実施し,安全な動作指導を行っていることが奏功したと考えられる。重大外傷の予防のために,この事業の継続が必要と考えている。
著者
渡部 幸喜 赤松 満 坪井 一世 高橋 敏明 渡部 昌平 山本 晴康 一色 房幸 浦屋 淳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1078, 2005 (Released:2005-04-27)

【はじめに】 我々の日常生活においてサンダルやスリッパは身近に使用されている履物のひとつである。しかし、転倒の危険性も高く、全転倒例のうち26%がサンダル使用時という報告もある。これまで靴を装着しての足底圧を含めた歩行分析や動作解析の検討は多くなされているが、サンダル履きでの検討は少ない。そこで今回我々は、サンダル使用時と靴使用時および素足での歩行足底圧を計測し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】 対象は下肢に痛みや変形が見られない健常男性10名(年齢21歳~47歳、平均31歳)で靴使用時、サンダル使用時、および素足での歩行足底圧を計測した。歩行は速い、普通、遅いの3段階に分けて行い、測定にはニッタ社製F-scanシステムを用い1秒間に20コマで計測し、得られたデータから、足底圧分布、最大圧、重心の軌跡等について比較検討した。【結果】 重心の軌跡の分析では、サンダル履きの場合、いずれの歩行速度においても踵接地の位置、つま先離れの位置がそれぞれ後方・前方へ移動する傾向がみられた。それに伴い靴使用時に比し有意に前後方向への重心の移動距離が大きかった。側方への重心移動距離も遅い速度で有意に大きかった。また靴使用時との違いは遅い速度においてより著明であった。最大荷重圧については素足・靴とサンダル使用との間には有意な差は見られなかった。【考察】 近年、足底圧の評価として簡便で再現性の高いF-scanが開発され、下肢の評価によく使用されている。そこで我々は靴とサンダルでの歩行時の足底圧の動的な検討を行った。足関節・足趾周辺に麻痺があるとサンダルがよく脱げるというのは臨床でも経験する通り、遊脚期にサンダルが脱げないようにするための筋活動が歩行の不安定に関与していると思われるが、立脚期においてもサンダルは靴に比べ重心の移動が大きく、不安定であることが示唆された。サンダルは足への圧迫感が少なく、靴に比べて通気性が良く、白癬などの感染も少ないことから好まれることが多い。しかし、サンダル使用による転倒の危険性は高く、またひとたび転倒すると靴使用時に比べ骨折の率も高くなるという報告もありこの所見を支持したものと考えられる。
著者
松高 津加紗 竹渕 謙悟 高橋 静恵 山本 晋史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1158, 2006

【目的】患者様の病棟で過ごす余暇時間もADL能力向上には大切であるのではないかと考え、当院で行われている余暇時間に対する取り組みに注目し、その結果を検証することを目的とした。<BR>【方法】対象は当院に入院していた脳卒中患者46名とし、そのうち余暇時間への取り組みが行われていた時期に入院していた患者24名を参加群、取り組みが行われていなかった時期に入院していた患者22名を非参加群とした。そして、それぞれ入院記録より、下肢ステージ・HDS-R・コース立方体テスト・日常生活自立度・日常生活動作能力(当院規定による)・BI・FIMを抽出し、両群に於いて初期評価時と最終評価時に差が出るかを検討した。<BR>【結果】それぞれの項目について、初期と最終評価の間に有意差が見られたのは参加群においてはコース立方体テスト、HDS-R、日常生活自立度、日常生活動作能力、BI、FIMの6項目。非参加群ではコース立方体テスト、HDS-Rに差が見られなかった以外は参加群と同じ結果であった。下肢ステージは両群おいて有意差はなし。また、両群の最終評価時の比較では有意差を認めるものはなかった。<BR>【考察】普段の生活の場である病棟では、各個人のリハビリテーション時間以外の余暇活動に対する病院スタッフの関わりは少ないのが現状である。また余暇活動の必要性について、入院患者様における日中の病棟での過ごし方と、能力的な改善に関する報告はあまり見られていない。<BR> そこで今回当院で行われている余暇活動に対するアプローチをもとに、日中の病棟での過ごし方と、能力改善の関連性について検討した。その結果、参加群と非参加群の間に有意差は見られず、単純に余暇時間の充実のためにゲームやビデオ鑑賞等の活動を行っても有効な能力改善には繋がらないことがわかった。このような結果になった原因として、活動場所がナースステーションから離れていたところにあり監視が困難であったこと、その為に病棟スタッフの時間的余裕のあるときに限られ不定期だったこと。また、活動内容が患者様個人の趣味趣向に合致していたか十分な調査がなされていなかったことが挙げられる。<BR> 今後は活動内容の吟味や、先行研究をもとにした再考が必要である。そして引き続き余暇時間の充実を図ることで、自宅復帰へ向けた包括的なアプローチとなり、より家庭へのソフトランディングが円滑に進められるのではないかと考える。<BR>【まとめ】1.日中の病棟での過ごし方と、能力改善の関連性について検討した。<BR>2.参加群と非参加群の間に有意差はなかった。<BR>3.今後は活動内容の吟味や、先行研究をもとにした再考が必要だと考えた。
著者
積山 和加子 沖 貞明 髙宮 尚美 梅井 凡子 小野 武也 大塚 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】遠心性収縮は筋力増強や筋肥大効果が高く,かつ運動中の心拍数や血圧が低く保てるとの報告がある。そのため遠心性収縮を用いれば従来よりも運動強度を低く設定しても筋肥大が図れる可能性があり,我々はラットに対して乳酸性作業閾値50%以下の強度の遠心性収縮運動を長時間負荷することにより筋肥大を起こすことができることを確認した。しかし我々が用いた運動方法は低負荷ではあったが長時間の連続運動を行う必要があるという問題点を有しており臨床応用に向けての課題が残った。臨床において連続した運動を行うことが難しい場合に対して運動の合間に休息を挟むインターバル運動を行うことがある。そこで,本研究では遠心性収縮を用いた有酸素運動において,運動の合間に休息を挟むインターバル形式の運動であっても,連続運動と同程度の筋肥大効果があるのか,さらに筋力増強効果も認めるのかについて検討を行った。【方法】10週齢のWistar系雌性ラット21匹を対象とし,7匹ずつ3群に振り分けた。各群は,運動負荷を行わず60日間通常飼育するコントロール群,トレッドミル走行を90分間連続で行う連続運動群,総走行時間は90分として走行の合間に休息を挟むインターバル形式で行うインターバル運動群とした。連続運動群とインターバル運動群のトレッドミル傾斜角度は-16度,走行速度は16m/minにて3日に1回,計20回(60日間)の運動を行った。なお,トレッドミル下り坂走行は,ヒラメ筋に遠心性収縮を負荷できる方法として,動物実験で用いられている運動様式である。今回連続運動群に用いた運動負荷の条件は,筋肥大が確認できた我々の先行研究と同じ条件を用いた。実験最終日に麻酔下にて体重を測定し,両側のヒラメ筋を摘出した。右ヒラメ筋を,リンゲル液を満たしたマグヌス管内で荷重・変位変換機に固定し,筋を長軸方向へ伸張し至適筋長を決定した。その後電気刺激装置を用いて1msecの矩形波で刺激し,最大単収縮張力を測定した。強縮張力は最大単収縮張力の時の電圧の130%で,100Hzの刺激を1秒間行って測定した。次に左ヒラメ筋を,重量測定後に急速凍結した。凍結横断切片に対しHE染色を行い,病理組織学的検索を行うとともに筋線維径を測定した。体重,筋湿重量,筋線維径については1元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合にTukey法を用いた。強縮張力についてはKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合にScheffe法を用いた。有意水準は5%とした。【結果】筋湿重量,筋線維径および強縮張力において連続運動群とインターバル運動群はコントロール群に対して有意に大きく,連続運動群とインターバル運動群では有意差を認めなかった。組織学的検討では,各群において異常所見は認めなかった。【考察】連続運動群では筋湿重量と筋線維径はコントロール群に比べ有意に増加した。これは我々の先行研究の結果と同様であり,遠心性収縮を用いた有酸素運動によって筋肥大効果を認めることが改めて示された。さらに強縮張力においてもコントロール群に比べ連続運動群では有意差を認めた。この結果から遠心性収縮を用いた有酸素運動は,ヒラメ筋の筋肥大に加え筋力増強効果もあることが分かった。次にインターバル運動群においても,筋湿重量,筋線維径および強縮張力はコントロール群に比べ有意に増加し,さらにインターバル運動群とは有意差を認めなかった。これらの結果から,遠心性収縮を用いた有酸素運動において,運動の合間に休息を挟むインターバル形式の運動であっても,連続運動と同程度の筋肥大および筋力増強効果があることが分かった。遠心性収縮は収縮に伴い筋長が延長する収縮様式のため,求心性収縮に比べ筋線維への機械的刺激が大きい。また,骨格筋は筋線維損傷後の修復過程において損傷前の刺激にも適応できるように再生し,遠心性収縮運動は繰り返して行うと筋節の増加によって徐々に筋長が延長した状態でも力を発揮できるようになるという報告もある。本研究において20回の遠心性収縮運動を繰り返すことによって適応が生じ,筋肥大や筋力増強が図れた可能性がある。今後は運動時間や頻度等についてさらに検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】これまで筋力増強や筋肥大が起きないとされてきた低負荷の有酸素運動でも,長時間の遠心性収縮運動により筋力増強と筋肥大が可能であり,さらにはインターバル形式で運動を行っても同様の効果があることを明らかにした。
著者
井川 達也 勝平 純司 櫻井 愛子 保坂 亮 中野 徹 松澤 克
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0806, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】腰部脊柱管狭窄症(LSCS)は脊柱管の狭窄により馬尾や神経根が圧迫され神経症状を呈する疾患である。特徴的な症状として姿勢による症状の変化や神経性間歇跛行が挙げられ,また歩行の特徴としては,体幹前傾角度の増大,歩行速度や歩幅の減少,股関節角度の減少などが挙げられる。この前傾姿勢は減圧による症状緩和を可能にするにも関わらず,特徴的な姿勢を示さない患者も存在する。そこで本研究の目的は,腰部脊柱管狭窄症患者の歩行時の体幹前傾角度と関連する変数(下肢関節,骨盤,体幹の角度など)を明らかにすることである。【方法】対象は当院に手術目的に入院したLSCS患者111名(年齢70.9±6.2歳)とした。歩行動作の計測は,約5.5mの歩行路における自然歩行を3次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製:100Hz)と床反力計(AMTI社製:1000Hz)を用いて記録した。安定して行えた自然歩行を2試行記録した。測定時には計測着を着用し,四肢,骨盤,体幹,頭部に計49か所の反射マーカーを貼付した。得られたデータから,歩行速度,ケーデンス,左右の歩幅,一周期時間,左右立脚期の体幹前傾最大角度,骨盤前傾最大角度,骨盤回旋最大角度,下肢三関節の屈伸および底背屈最大角度,内部関節屈伸および底背屈モーメント最大値,関節パワー最大および最小値を111名222肢について求めた。なお,関節モーメントと関節パワーは体重で標準化した値を用いた。各変数について,2試行の平均値を解析に用いた。また歩行計測時の下肢痛(VAS)と日本整形外科学会腰痛評価質問表の小項目である歩行機能障害因子も併せて聴取した。統計解析は,まず体幹前傾角度とその他の変数の相関関係を明らかにするため単変量解析(Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数の算出)を行った。次に体幹前傾角度に関わる要素を明らかにするため重回帰分析を行った。体幹前傾角度を従属変数とし,単変量で有意な相関を認めた変数を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistic(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。【結果】体幹前傾角度と有意な相関を認めた変数は,歩幅(r=-0.17,p=0.01),骨盤前傾最大角度(r=0.29,p=0.01),股関節屈曲最大角度(r=0.27,p=0.01),股関節伸展最大角度(r=0.47,p=0.01),股関節屈曲モーメント最大値(r=-0.44,p=0.01),股関節パワー最小値(r=0.38,p=0.01),膝関節屈曲最大角度(r=0.33,p=0.01),膝関節伸展最大角度(r=0.33,p=0.01),膝関節パワー最大値(r=-0.22,p=0.01),足関節底屈モーメント最大値(r=0.20,p=0.01)であった。次に,独立変数に上記10項目を採用した重回帰分析を行った結果,体幹前傾角度と有意な独立変数として検出された項目は,股関節伸展最大角度(β=0.416),股関節屈曲モーメント最大値(β=-0.348),歩幅(β=0.257),であった。自由度調整済み決定係数は0.294(p<0.01)であった。予測式はy=0.359×股関節伸展角度-8.008×股関節屈曲モーメント最大値+15.251×歩幅+1.607となった。【考察】LSCS患者にとって体幹前傾姿勢の可否は症状緩和のために重要な姿勢であると広く言われている。本研究の結果から,体幹前傾姿勢には疼痛の程度や骨盤,足関節,膝関節運動ではなく,股関節運動が関与していることが示唆された。体幹前傾が大きいLSCS患者は立脚期後半の股関節伸展角度が大きいにも関わらず,股関節屈曲モーメントが小さい傾向にある。これは,股関節屈曲筋力低下のため,上半身重心を前方に変位させることにより股関節屈曲モーメントを減少させる姿勢戦略を選択している可能性が考えられる。腸腰筋筋力低下はLSCSの最も初期の徴候であるとの報告もあることから,この腸腰筋筋力低下が体幹前傾姿勢をとる要因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の新規性はLSCS患者の体幹前傾姿勢と歩行パラメータとの関係性を示し,立脚期後半の股関節機能の重要性を示したことである。またLSCS患者の除圧術後の理学療法は,歩行中の体幹前傾姿勢を改善させるために立脚期後半を想定した股関節屈曲筋力の改善が重要であることが示唆された。
著者
村西 壽祥 間中 智哉 伊藤 陽一 中野 禎 桑野 正樹 新枦 剛也 高木 美紀 鳥越 智士 福田 佳生 小藤 定 小倉 亜矢子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】リバース型人工肩関節全置換術(Reverse shoulder arthroplasty:以下,RSA)が本邦で施行されて1年以上が経過するが,現時点では術後症例数も少ないため,RSAの良好な術後機能を獲得するための理学療法を継続的に検討していくことが重要である。本研究の目的は,RSAにおける自動挙上可動域と異なる肢位での肩関節外転筋力との関係を調査し,RSAにおける筋力評価および筋力増強運動について検討することである。【方法】対象はRSAを施行した22例22関節(男性8例,女性14例)で,平均年齢77.5±5.6歳であった。なお,全例とも広範囲腱板断裂であり,修復不能または腱板断裂性関節症のためRSAが施行された。測定項目は肩関節の自動可動域(屈曲・外転),他動可動域(屈曲・外転),坐位での外転筋力(下垂位・90°位)とし,測定時期は術前および術後6ヶ月とした。自動可動域は坐位にて,他動可動域は背臥位でゴニオメータを用いて計測した。外転筋力の測定は,ハンドヘルドダイナモメータを上腕長の近位から80%の位置に当て,最大等尺性運動を行ったうち,安定した3回の平均値を体重で除した体重比筋力値を求めた。統計学的分析は,各測定項目における術前と術後6ヶ月の比較について対応のあるt検定を用い,自動可動域と各肢位での外転筋力値との関係についてピアソンの積率相関係数を算出した。【結果】術前の各測定項目において,自動可動域は屈曲52.7±29.8°,外転53.4±27.1°,他動可動域は屈曲137.4±25.0°,外転127.6±33.1°,外転筋力は下垂位0.08±0.08Nm/kg,90°位は測定困難であった。術後6ヶ月において,自動可動域は屈曲111.6±17.9°,外転101.1±20.3°,他動可動域は屈曲130.5±19.3°,外転131.4±21.5°,外転筋力は下垂位0.19±0.08Nm/kg,90°位0.06±0.06Nm/kgと他動可動域以外の各測定項目は術前より有意に改善した(p<0.05)。自動可動域と各外転筋力値との相関係数において,自動屈曲と90°位外転筋力は0.51,自動外転と90°位外転筋力は0.64と相関関係が認められたが,自動屈曲および外転と下垂位筋力との間に有意な相関関係は認められなかった。【結論】RSAは上腕骨頭と肩甲骨関節窩の凹凸面が逆転する構造となり,肩甲上腕関節の回転中心が内下方に移動することで,三角筋の張力とモーメントアームが増大して上肢の挙上運動が可能となる。本研究において,自動可動域と外転筋力は90°位で相関関係が認められ,RSAの自動可動域を獲得するためには,下垂位よりも上肢挙上位で筋力が発揮されることが重要であると考えられた。このことから,RSAの機能評価や筋力増強運動においては,上肢90°挙上位で実施することの必要性が示唆された。
著者
馬上 修一 加藤 光恵 坪井 永保 加藤 悠介 八木田 裕治 佐々木 貴義 遠藤 正範 安齋 明子 須藤 美和 本内 陽子 アロマクラブ 部員
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】卵巣癌でホスピス病棟に転棟された患者の機能面だけでなく,生きがいの「アロマ教室開催」を病院全体でサポートし,当院職員構成のアロマクラブに講師として招きQOL向上に繋げたため報告する。</p><p></p><p>【方法】<b><u>症例</u></b> 55歳女性,卵巣癌,心拍数94回/min,ROM制限無し,MMT4-,BI 15点(介護依存あり)。2011年11月当院で卵巣癌の手術施行。短期入院を繰り返していたが状態悪化し当院一般病棟を経てホスピス病棟へ転棟。後にリハビリテーション(以下リハ)依頼。介入当初の希望は「車椅子に乗ってどこか行きたい。なるべく出来ることは自分でやりたい」である。<u><b>経過</b></u> ADL向上目指し下肢筋力増強運動を中心にリハ継続していたが,介入8日目に「もっとアロマを教えたい」と熱望あり。患者はアロマトレーナー有資格者で,入院前はアロマ教室を開催していたため,リハ目標を「アロマ教室開催」,リハ内容をリラクゼーション中心に行い身体調整を行った。同時にアロマクラブに依頼し承諾を得た。患者には低負担で行える様に環境調整を行い,介入12日目に1回目開催。翌日状態悪化が見られたが,「またやりたい」と熱望があり,症状改善したため介入19日目に2回目開催。その3日後に逝去される。</p><p></p><p>【結果】開催日の患者は身支度し,活気に溢れていた。生きがいを達成し,患者や参加者から好評を得た。途中リハ内容を変更し,身体的ストレス軽減を図りアロマ教室を2回開催した。そのため患者は生きがいを達成し満足感を得たためQOLが向上したと考えられる。</p><p></p><p>【結論】終末期患者のQOL向上のため,優先順位の選択の難しさを実感した。また患者の要望を叶えるにはスタッフ間の連携及び迅速な対応が必要なため,チーム医療の重要性を実感した。今後もチームとしての連携を図り,要望に対し身体や環境調整を行い,QOLの向上及び患者満足度に対し客観的評価も検討していきたいと考える。</p>
著者
中村 浩明 岡本 高志 山本 友紀 加藤 太郎 五十嵐 進 伊藤 大起 古野 薫 横井 秋夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0998, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】顎関節症患者の顎関節だけを一時的にアプローチしても、また症状が元に戻ってしまうことを多く経験する。今回、顎関節に疼痛、違和感を訴えている患者を、疼痛増強主訴である歩行から関連を捉え、足部からのアプローチを行い、良い結果が得られたので報告する。【症例紹介】26歳、男性。理学療法士。診断名:左顎関節症、変形性頚椎症。18歳頃より左顎関節に違和感出現。25歳に総合格闘技で、右足部にアンクルホールドを極められ左顎関節症状が悪化。その後、全身体調不良となった。主訴は、口を開けるとクリック音がして痛い。左顎が常に重だるく違和感がある。よく顎を鳴らしたくなる。両足首に不安定感があり歩行中、歩行後に全身に違和感、疲れやすさがあるとの事であった。【理学療法評価および治療】Passenger Unitへアプローチを座位から行い、顎関節へのメカニカルストレス軽減を狙ったが、歩行するとLocomotor Unitの不安定性から身体が崩れてしまう傾向があり、良い治療結果が残せなかった。特に本症例の場合、疼痛、違和感が増強するという訴えは、歩行時のLoading Response~Mid Stance、Mid Stance~Terminal Stanceにかけて著名であった。Loading Response~Mid Stanceでは距骨下関節が過回内し、Ankle Rocker機構機能不全、また、Mid Stance~Terminal Stanceでは横足根関節が過外反しForefoot Rocker機構機能不全の状態がみられた。その機能不全状態を、足部からのテーピングにより各Rocker機構が機能的に作用する環境に整えた。【結果】テーピング後は、下顎が真っ直ぐ下制するようになり、顎関節の疼痛、違和感の消失。開閉の最終時の左顎関節のクリック音が消失した。歩行時も前方への推進力が発揮できるようになり、全身状態も楽であるとのことであった。【考察】歩行時に違和感を訴えたLoading Response~Mid Stance、Mid Stance~Terminal Stanceは、荷重期の特に下肢の支持性、推進力の維持、下肢と体幹の支持性が必要な相である。これらの相に必要な骨での支持は、足部ではRocker機構の事を指し、身体のアライメント、軸の形成には不可欠であると考えられた。各相でLocomotor Unit、または、Locomotor UnitとPassenger Unitのアライメント、軸形成を足部から同時に図ったことにより、顎関節へのメカニカルストレスは開放され疼痛、違和感が消失したと考えられた。【まとめ】顎関節症患者を足部からコントロールし、姿勢アプローチをした。特に主訴であった歩行時の足部Rocker機構に注目してアプローチを行なった。軸の形成は、各々の組織が、分化的に働けるような環境を作る意味で重要であると考えられた。
著者
松尾 達彦 新田 收 信太 奈美 古川 順光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>心拍数調節は,交感神経と副交感神経の二重支配を受け,運動強度に比例して増加する。しかし,心臓への交感神経支配に障害のある頸髄損傷患者は心拍数の上限が低いことが知られている。そこで,激しい運動量が求められる車椅子スポーツにおいて,脊髄の損傷レベルによる心拍数変化の違いを明らかにすることを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>1.対象</p><p></p><p>対象は,車椅子ラグビー選手9名(頸髄損傷,以下頸髄群),車椅子バスケットボール選手14名(胸腰髄損傷,以下胸腰髄群)とした。男性のみで,頸髄群の平均年齢(SD)[歳]は26.3(3.8)歳,胸腰髄群は26.4(4.0)歳だった。</p><p></p><p>2.方法</p><p></p><p>心拍センサーPolar Team Pro(ポラール・エレクトロ・ジャパン株式会社)を装着させ,体育館内で平均約4時間,試合形式の練習をさせ,1秒毎の心拍数(SD)[回/分]を測定した。安静時1分間の心拍数の平均値を安静時心拍数,練習中で最も高い心拍数を最大心拍数とした。</p><p></p><p>統計解析は,最大心拍数を従属変数,頸髄群・胸腰髄群の2群を対応の無い要因,安静時・練習中を対応のある要因とし,二元配置分散分析およびBonferroni法による単純主効果の検定を行った。解析はIBMSPSSver22を用いた。有意水準を5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>I.分散分析結果</p><p></p><p>群間比較では,安静時心拍数と最大心拍数は,どちらも頸髄群が有意に低値を示した。前後比較では,頸髄群と胸腰髄群は,どちらも練習中に有意に高値を示した。さらに交互作用が有意であり,練習による心拍数変化が,頸髄群,胸腰髄群で有意に異なることが示された。</p><p></p><p>II.単純主効果の検定</p><p></p><p>単純主効果においては,安静時・練習中,および頸髄群・胸腰髄群の全ての組み合わせにおいて有意差が示された。頸髄群の安静時心拍数の平均値は78.78(10.23)回/分,胸腰髄群は89.43(6.82)回/分であった。頸髄群の最大心拍数の平均値は141.00(19.22)回/分,胸腰髄群は181.36(7.15)回/分であった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>最大心拍数は,頸髄群が有意に低値を示した。心拍数は,Th1-Th4の高さにある交感神経の興奮によって増加するが,頸髄群は中枢から心臓への神経が頸髄で障害されている。しかし,副交感神経による抑制を解くことで,心拍数が120回/分前後まで増加することが報告されている。そのため,頸髄群は胸腰髄群より低値だが,競技中に心拍数を増加させることができたと考えた。</p><p></p><p>一方,安静時心拍数も頸髄群が低値を示した。これは,残存している筋の差により頸髄群の方が必要なエネルギーが少なくて済むのではないかと考えた。また,神経性調節による心拍数コントロールに限界がある頸髄群は,液性調節による心拍数コントロールを優先している可能性があると考えた。</p>
著者
沼澤 俊 有本 久美 横山 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>バスケットボール選手において足関節捻挫は頻発する傷害の一つであり,高校生の年代では多くの選手が既往歴として有している現状がある。しかしその危険因子は未だ明らかになっておらず,十分な予防の対策が行われているとは言い難い。</p><p></p><p>今回,我々は大阪府バスケットボール協会の活動の一環として,高校生バスケットボール選手の足関節捻挫に繋がる身体的特性を調査し,傷害発生との関連性を把握することを目的として,事前に身体所見を検査した上で足関節捻挫を受傷した者の特徴について検証したので報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は大阪府バスケットボール協会に登録し,2015年度夏季大阪府大会ベスト8以上に進出した男女各3チームの高校1・2年生,181名(男子106名,身長:173.4±6.9cm,体重:62.7±7.6kg,女子75名,身長:163.9±6.9cm,体重:57.5±6.4kg)とした。</p><p></p><p>調査項目は,①足関節捻挫の既往歴などのアンケート調査,②身体特性(身長・体重・体脂肪率・骨格筋量など),③下肢関節可動域,④下肢アライメント(Q-angle,Leg-Heel angleなど),⑤筋力(片脚立ち上がり能力や足趾把持筋力,体幹筋力),⑥片脚閉眼立位保持時間,⑦足・膝関節の関節位置覚,⑧片脚3段ホッピングによるパフォーマンス測定とした。</p><p></p><p>足関節捻挫受傷前にメディカルチェックによる調査を行い,その後半年間における足関節捻挫を含む傷害発生の有無を調査した。尚,傷害発生は初発・再発を含む「練習を一日でも休むに至った傷害」を判定基準とした。</p><p></p><p>足関節捻挫の発生状況と受傷前の身体的所見との関係について各項目における相関関係を調査した。統計処理にはSPSSver25を使用しSpearmanの相関係数にて,有意水準はp<0.05とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>メディカルチェックを受けた対象181名で,足関節捻挫を受傷した者は男子25名(右足受傷者15名・左足受傷者10名),女子10名(右足受傷者6名・左足受傷者4名)の計35名であった。男子では,足関節捻挫受傷の有無と荷重下での下腿前傾角度に負の相関がみられ(右:r=-0.262,p=0.007,左:r=-0.245,p=0.011),非荷重下でのQ-angleにおいて正の相関がみられた(右:r=0.285,p=0.003,左:r=0.236,p=0.015)。一方,女子では足関節捻挫受傷の有無と身体所見との間の相関関係を認めず,男子のような傾向はみられなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>男子高校バスケットボール選手において,足関節捻挫を受傷しやすい足では,荷重下での足関節背屈可動域が少なく,非荷重下でのQ-angleが大きい傾向が示唆された。しかし女子選手では同様の傾向がみられず,足関節捻挫の受傷要因には性差の影響を受ける可能性が示唆された。</p>
著者
片山 訓博 甲藤 由美香 甲藤 史拡 大倉 三洋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0675, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】筋肥大を目的としたレジスタンストレーニング(以下,RT)の効果は,負荷量,頻度,期間に影響を受ける。RT効果をより短期間で得るために加圧トレーニングが用いられ,局所的な酸素不足を生じさせての筋負荷を増加が実施させている。本研究では,常圧低酸素環境を用い局所的な酸素不足ではなく,全身の酸素不足を生じさせた場合のRT効果を検討したので報告する。【方法】対象は,疾患健常で肘・肩関節に疾患を有さない男性12名,平均年齢20.3±0.5歳,平均身長171.4±6.5cm,平均体重66.5±6.8kgであった。RTの対象筋は上腕二頭筋とした。RT前に徒手筋力測定機器(アニマ社製 μ-TAS F-1)を用いて対象筋の最大筋力値(kgf)と肘関節屈曲位上腕最大周径をメジャーを用いて測定した。常圧低酸素環境は,酸素濃度14.5%(標高3,000m相当)に設定した。RTは,負荷量70%1RM,上肢自然下垂位から肘関節最大屈曲までの運動を10回,3日/週,3週間継続させた。尚,RTの前には低酸素環境順化を行った。各測定項目をトレーニング開始から1週間ごとに1週間後・2週間後・3週間後に再測定し,統計学的手法は,一元配置の分散分析法を用い有意基準は5%未満とし比較検討した。【結果】上腕二頭筋最大筋力の平均値は,開始時・1週間後・2週間後・3週間後の順にそれぞれ23.3±4.0kgf・27.8±6.1kgf・28.9±6.4kgf・30.0±6.2kgfであり,開始時に比べ3週間後は有意に高値を示した(P<0.05)。肘関節屈曲位上腕最大周径の平均値も同様にそれぞれ30.5±2.2cm・31.4±2cm・32.3±2.1cm・32.9±2.3cmであり,統計学的有意差は認めなかったが,開始時に比べRT後は大きくなっていた。【結論】常圧低酸素環境下で酸素濃度14.5%のRT結果は,3週間後の上腕二頭筋筋力において開始時より有意に筋力増強効果を認め,増加率は29%であった。Nishimuraらの常圧低酸素環境下で酸素濃度16.0%,70%1RM,2回/週のRT結果は,6週間後には上腕二頭筋筋力の61.6%の増加率を認め,通常酸素濃度下の38.9%に比べより有意であったことを報告している。本研究結果は,この先行研究の通常酸素下の結果と比べると3週間後ですでに6週間後の筋力増強率の74.6%を占めていた。これは,常圧低酸素環境では,筋内の低酸素ストレスは高く,活性酸素種の活性が上がり,一酸化窒素が有意に上昇した結果,一酸化窒素が筋の幹細胞である筋サテライト細胞の増殖・分化を促進したからと考える。また,本研究結果を先行研究の低酸素環境下の結果と比べると,3週間後ですでに6週間後の筋力増強率の48.7%を占めていた。Nishimuraらは3週目からより筋力増強を認めたとの報告する。酸素濃度の低い本条件は,すでに3週間で約半分の効果があり,酸素濃度がより低ければRT効果が高いことを示唆した。