著者
齊藤 匠 土居 健次朗 河原 常郎 大森 茂樹 倉林 準 門馬 博 八並 光信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1133, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】神経モビライゼーション(以下NM)とは末梢神経系の感受性,伸張性,運動性を改善する手技であり,その目的には疼痛やしびれの改善,二次的障害の予防がある。NMによって神経伝導速度低下との関係性が示されている。しかし,理学療法分野で臨床的指標となる,筋力や可動性について十分な検証がなされていない。本研究は橈骨神経NMの手関節背屈筋力と手関節掌屈角度に対しての効果を検証することを目的とした。【方法】対象は,健常成人18人(男性15人女性3人:25.8±3.9歳)とした。測定装置は,徒手筋力測定器IsoforceGT-310(OG技研),ストップウォッチ(CASIO HS-70W)とした。NMの対象は利き手側の橈骨神経とした。手法はMaitlandConceptのgrade4の位置から,ULTT2bを選択した。神経の伸張は頸部の側屈を行って確認し,10秒間の伸張位を保持した。NM施行前後に筋の伸長度,筋出力を測定した。筋の伸長度は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が制定した関節可動域測定法を参考に,手関節掌屈の角度を測定した。筋出力は手関節背屈筋群の等尺性収縮にて計測した。測定肢位は,椅子座位となり,机の上に前腕を置き,肘関節屈曲90°,肩関節内外旋および,前腕中間位とし,手関節中間位,手指屈曲位とした。解析は可動域と筋力それぞれのNM前群とNM後群の差を検証した。さらに,手関節掌屈の可動域の値の変化をもとに,母集団をA,Bの2群に分け検証した。A群は手関節掌屈可動域の変化量が平均値以上のものとし,平均値以下のものをB群とした。統計処理は対応のある一元配置分散分析とし,有意水準は5%未満とした。【論理的配慮,説明と同意】所属施設における倫理委員会の許可を得た。対象には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明し同意が得られた者のみを対象に計測を行った。【結果】手関節掌屈の可動域の平均は,NM前は70.9±8.1度,NM後は76.3±7.6度と増加し有意差を認めた(p<0.05)。筋出力の平均は,NM前は1.5±0.3N/kg,NM後は1.7±0.4N/kgと増加したが,有意差は認めなかった。NM前後の手関節掌屈の可動域変化量は,5.4±2.5度であり,筋出力変化量は0.2±0.3N/kgであった。NM後の可動域と筋出力の変化は弱い相関が認められた(r=0.5)。手関節掌屈可動域の変化量は平均5.4度であり,A群7名,B群11名であった。NM前後の筋出力変化量はA群:21.6±19.5Nkg,B群:6.5±23.3N/kgであり,AB間に有意差を認めた(p<0.05)。【考察】NMを行う事で,神経線維の緊張が緩み,神経の伝導速度は低下することが言われている。その際に,神経のみならず周辺組織の緊張が緩むことで全体として可動域の向上がみられたと考えられた。筋出力はNM前後で統計学的有意差は得られなかったが,ほぼ全対象でNM後の増加を確認した。また,A群はB群と比較し筋出力の変化量が大きくなった。A群はNM後の反応が大きかったことから,運動の阻害要素に神経線維が貢献する割合が大きかったと考えた。可動域がNMに対して反応を示す場合は,適度なNMにより筋出力を促す可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究よりNMは可動域・筋力に対し有効な結果をもたらすことが示唆された。しかしながら,適切な伸長の強度,持続時間,頻度など検討すべき項目は残存している。近年,超音波診断装置の普及が目覚ましい。これらの計測装置をNMと併用することで,より客観的かつ効果的な治療の提供につながるものと考えられる。
著者
村上 仁之 渡邉 修 来間 弘展 松田 雅弘 津吹 桃子 妹尾 淳史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0561, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】近年,PETや機能的MRIなどのイメージング技術により,随意運動や認知活動の脳内機構が明らかにされている.しかし,随意運動遂行中に密接に関連する触覚認知の脳内機構に焦点化した研究は極めて少ない.触覚認知がどのように行われ,どのように学習されるのかを明らかにすることは,脳損傷後の理学療法の治療戦略を立てる際に,重要な示唆を与えると考えられる.そこで本研究は,触識別時の脳内機構および学習の影響を明らかにすることを目的に,機能的MRIを用いて麻雀牌を題材として,初心者と熟練者を対象に,触識別に関する脳内神経活動を感覚運動野(sensorimotor cortex: 以下,SMC)と小脳に焦点化して定量的,定性的に分析を行った.【対象】対象者は健常者16名である.内訳は,麻雀経験のない初心者が10名(対照群)と、5年以上の麻雀経験を持ち,母指掌側のみで牌を識別できる熟練者6名(熟練者群)である.【方法】GE社製1.5T臨床用MR装置を用いて,閉眼にて利き手母指掌側での麻雀牌の触知覚時および触識別時の脳内神経活動の測定を行った.データ解析はSPM99を用い,得られた画像データを位置補正,標準化,平滑化を行い,有意水準95%以上を持って賦活領域とした.加えて,両群間の差の検定をt‐検定を用いて分析した.【結果】対象者16名中,触知覚時では,対側SMCが14名で賦活した.さらに触識別時では,SMCの賦活のなかった2例を加えた16名で,SMCの賦活領域の増大を確認した.加えて,同側SMCが12名と同側小脳が11名の賦活を認めた.また,全脳賦活領域をボクセル数として定量化した平均値は,対照群は触知覚時467.0ボクセル,触識別時4193.0ボクセル,熟練者群は触知覚時408.5ボクセル,触識別時2201.8ボクセルであった.両群とも触知覚時に比べ,触識別時では有意に増加した.また熟練者群は対照群に比べ,触識別時に全脳賦活領域が有意に減少した.【考察】触知覚時は,対側SMCの賦活が認められ,触識別時は,対側SMCだけでなく,さらに同側SMC,小脳でも賦活が認められた.つまり,単なる触知覚に比べ,触識別という認知活動時には,両側SMCや小脳などの広い領域が関与していると考えられる.しかし,熟練者においては,全脳賦活領域が減少し,限局したことから,“学習”により,全脳賦活領域の縮小,限局をもたらすことが示唆された.触識別という認知的要素が脳内機構として明確化され,学習により縮小,限局するという脳内の可塑的現象は,脳損傷者に対する理学療法において,認知的要素が中枢神経系になんらかの影響を及ぼす可能性を示唆しているではないかと考えられる.
著者
藤井 奈穂子 小野 玲 米田 稔彦 篠原 英記 中田 康夫 長尾 徹 石川 雄一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0241, 2005

【目的】 現在高齢社会である日本では、今後さらに高齢者人口の増加・総人口の減少により平成27年には超高齢化社会に入ることが予測されている。この中で老後の時間をいかに過ごし、いかに生活の質(Quality of Life:QOL)を向上させるかということが重要になる。高齢者のQOLに影響を与える因子としては家族構成・友人関係・健康状態・身体活動習慣等が報告されており、周囲との関わりや活動への参加がQOLの向上に深く関わっていると考えられているが、QOLの概念を細分化し余暇活動習慣との関連を検討した報告は少ない。本研究の目的は地域高齢者の余暇活動の実施状況を把握し、余暇活動とQOLとの関連を検討することである。<BR>【方法】 対象は大阪市内の2ヶ所の老人福祉センター利用者で、質問紙調査に参加した132名(平均72歳、女性96名、男性36名)とした。調査内容は余暇活動の実施状況として活動内容と頻度、QOLを細分化し抑うつ度としてZung Self-Rating Depression Scale(SDS)得点、生活満足度としてLife Satisfaction Index-Z(LSI-Z)得点、健康関連QOLとしてEuroQoL(EQ-5D)効用値である。解析は週1回以上余暇活動を実施している群(実施群)と、週1回未満または実施していない群(非実施群)に分け、各群とSDS・LSI-Z・EQ-5Dとの関連にMann-WhitneyのU検定を用い、活動内容(種目)とSDS・LSI-Z・EQ-5Dとの関連にKruskal-Wallis検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。<BR>【結果】 132名中71名が何らかの余暇活動を1週間に1回以上の頻度で実施していた。実施・非実施の比較では、実施群の抑うつ度が有意に低く、生活満足度が有意に高かったが、健康関連QOLについて有意差を認めなかった。実施者の多かった活動種目は「ダンス」・「歩行」・「卓球」・「グラウンドゴルフ/ゲートボール」で、これらの種目間について抑うつ度、生活満足度、健康関連QOLの比較では有意差は認められなかった。<BR>【考察】 抑うつ度は不安等の精神面の状態を示し、生活満足度は主観的幸福感を示すもので生きがいや幸福といった広義のQOLに含まれる概念である。健康関連QOLは身体機能に起因し医療行為に影響される領域に限定された概念である。本研究の結果より定期的な余暇活動習慣の有無は身体機能との関連よりも精神面での満足感との関連が強いことが明らかとなり、余暇活動の習慣化が精神面および主観的幸福感を良好にすると考えられた。また実施者の多かった活動種目として、高齢者にとって実施しやすい活動や老人福祉センターで実施されている種目があがっており、地域高齢者の身体活動動習慣における老人福祉センターの役割の重要性がうかがわれた。
著者
堀本 ゆかり 山田 洋一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.G0043, 2007

【目的】<BR> 理学療法士の需要拡大に伴い、養成校は急増している。判によると臨床能力は知識・情報収集能力・総合的判断力・技能・態度とある。卒前教育の流れをよくし、臨床実習を経て、臨床能力のある理学療法士を育成することが早急に望まれる。そこで、特に認知領域に着目し、学力の定着に寄与する性格的指標を検討する目的で、主要5因子性格検査を用い、学力テストの総合得点から傾向を分析したので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は常葉学園静岡リハビリテーション専門学校1期生(2クラス編成)84名(男性46名・女性38名)平均年齢19.6±3.0歳とクラス担任2名(男性2名・平均年齢41.5歳)である。<BR> 方法は各クラスで一斉に主要5因子性格検査を実施した。また、各クラス担任は受け持ちクラス全員に対して同様の検査を実施し、いずれも5因子ごとに総点を算出し比較した。また、学力テストの総合得点と5因子の関係の検討を行い、特性を検討した。<BR> 統計解析は日本科学技術研修所製 JUSE-StatWorks/V4.0を用いて処理した。<BR>【結果】<BR>1.学生自己評価とクラス担任の評価の相関関係<BR> 学生の自己評価とクラス担任の評価という2変数間の相関係数では外向性0.788・協調性0.719・勤勉性0.779・情緒安定性0.652・知性(開放性)0.709と5因子いずれも高い相関が得られた。<BR>2.学力テスト総合得点に影響を及ぼす因子<BR> 次に数量化1類を用い、学力テスト総合得点に影響を及ぼす変数を抽出したところ重相関係数0.709で外向性と勤勉性が選ばれた。特に勤勉性は5因子の中でも分散比が大きく特に強い影響を示している。また、主成分分析でも総合得点と勤勉性は関係が強いことがわかった。<BR>3.勤勉性を修飾する因子<BR> 勤勉性では、気まぐれ-計画性のある・いい加減-徹底的・怠惰-勤勉・浪費的-節約的といった項目が特に勤勉性を強く修飾していた。<BR>【考察】<BR> 情意領域・精神運動領域・認知領域をリンクさせた問題解決手法の導入に先立ち学生の性格を把握し、学力を定着させることは重要である。主要5因子性格検査は、文章の意味が大体理解できれば実施できる評価ツールであるため性格の基本的な特徴が把握し、学生指導に用いるには簡便といわれている。<BR> 今回の調査で学生の自己評価とクラス担任の評価の強い相関は、担任の評価にある程度の信頼がおけることがわかる。また、学力テスト総合得点に関しては、勤勉性・外向性の影響が強く、情緒安定性・協調性・知性に関係はなかった。この結果より学生は主体性を持ち計画性のあるくり返し学習を徹底的に行うことが重要であると思われる。<BR> 本校ではこの傾向を臨床実習の情報提供や縦割り少人数授業(ゼミ授業)活用している。<BR><BR>
著者
田宮 創 田村 由馬 餅 脩佑 赤澤 祐介 伴場 信之 安 隆則
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.A-109_1-A-109_1, 2019

<p>【背景および目的】糖尿病性腎症(DMN)患者における座位時間の延長が新規心血管イベント発症リスク及び腎機能に及ぼす影響を明らかにすること.</p><p> </p><p>【方法(または症例)】平成25年9月から39ヶ月間の前向きコホート研究である。対象は外来DMN患者173例(男性101例,71±11歳,CKDステージⅠ期41例,Ⅱ期93例,Ⅲ期30例,Ⅳ期7例,Ⅴ期2例)であり,国際標準化身体活動質問票(IPAQ)の回答が得られた方である.新規イベントの定義は,全死亡,入院を必要とする脳卒中および心血管疾患,新規透析導入とした.IPAQ座位時間からイベント発症に対するカットオフ値をROC曲線により算出した.また,観察開始時の年齢,HbA1c,eGFR,Alb/Cre比,座位時間,既往を共変量としたCOX比例ハザード分析により,新規心血管イベント発症に対するハザード比ならびに独立変数を抽出した.座位時間のカットオフ値から座位高低値群に分け,2群間における39ヶ月間のeGFRを対応のないt-検定で比較した.</p><p> </p><p>【結果】座位時間のカットオフ値は525分/日であった(AUC:0.74、感度:0.71、特異度:0.67、p<0.001).新規心血管イベント発症に対する有意な独立変数としてHb(HR:0.697、95%CI:0.53-0.91、p=0.008),座位時間(60分/日)(HR:1.26、95%CI:1.00-1.59、p=0.049)が抽出された.座位時間を高値群と低値群に分け,eGFR(ml/min/173m<sup>2</sup>)を比較すると,開始時で61.5±2.5vs65.5±1.7と有意差はなかったが,39ヶ月後で42.2±4.0vs.59.6±2.0と高値群において有意に低値を示した(p=0.016).</p><p> </p><p>【考察および結論】座位時間が延長したDMN症例は腎機能の低下を加速させ,心血管イベント発症のリスクとなる. 1日当たりの座位時間が60分延長すると心血管イベントを増加させる可能性がある.座位時間延長要因を評価し,PT介入による検討も必要である.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】「ヘルシンキ宣言」及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し実施した.本研究は,獨協医科大学日光医療センター倫理審査委員会の承認を得ており(承認番号:日光27001),紙面を用いた説明と書面による同意を得て実施した.</p>
著者
木下 信博 崔 正烈 荒木 滋朗 志堂寺 和則 松木 裕二 日高 滋紀 戸田 佳孝 松永 勝也 小野 直洋 酒向 俊治 塚本 裕二 山崎 伸一 平川 和生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0761, 2005

【目的】 <BR> 整形外科病院におけるリハビリ診療の中で、中高年齢者において変形性膝関節症(以下膝OAと略す)は頻繁に見られる疾患である。膝関節の主な働きとして、歩行時に支持性と可動性で重要な役割があり、現在、理学療法士の行う関節可動域訓練や四頭筋訓練及び装具療法などが治療として行われており、予防的視点からのアプローチが行なわれているとは言い難い。<BR> 膝OAは老化を基礎とした関節軟骨の変性が原因で、軟骨に対するshear stressは軟骨破壊に大きく作用すると考えられている。<BR> 新潟大学大森教授らによると、より早期に起こると考えられる、3次元的なscrew home 運動の異常が膝関節内側の関節軟骨に対する大きなshear stressになっている可能性が大きいとの報告がある。<BR> そこで我々は膝OA予防の視点から、歩行立脚時のscrew home 運動を正常化出来る靴を、久留米市の(株)アサヒコーポレーションと共同で作成し、九州大学大学院の松永教授らとの共同研究で、膝OAの予防の可能性を検証したので報告する。<BR>【方法】 <BR> 歩行時の踵接地より立脚中期に、大腿部から見た下腿部の外旋であるscrew home 運動を確保する為に、靴の足底部に下腿外旋を強制するトルクヒールを付けた靴を作成し、患者さんに使用してもらった。<BR> 方法として、(1)約7ヶ月間に亘りO脚傾向のある患者さんに日常生活で、はいてもらい靴底の検証。<BR>(2)九州大学大学院システム情報科学研究所製作の位置測定システムで、下肢の荷重時での下腿外旋運動出現の検証。<BR>(3)トレッドミルにおいて、骨の突出部にマークして、高速度撮影での歩行分析。などを実施した。 <BR>【結果及び考察】 <BR> 大森教授らによると、膝OAの進行に伴い、screw home運動の消失もしくは、逆screw home 運動(膝最終伸展時の脛骨内旋)の出現との報告がある。<BR> そこで、(株)アサヒコーポレーションとの共同開発による、トルクヒールを靴底に装着した靴を作成し検証した。<BR>(1)での検証結果は、通常靴の踵は外側が磨り減り、今回の靴では内側が磨り減り、膝が楽になったとの報告があった。<BR>(2)では、歩行時の踵接地より立脚中期に大腿部から見た下腿部の外旋をとらえる事が出来た。<BR>(3)では、歩行時の立脚期に、前方からの撮影でlateral thrust が3度抑制された結果となった。<BR> 膝OAは、高齢化社会の中でも大きな問題となっている、もともと内反膝の傾向にある人にとっての歩行訓練は、かえって有害であることもあり、今回の靴は、歩行時の立脚時において、下腿部に外旋の力を伝えることで膝OAの発症予防に有用であると考えられた。
著者
千鳥 司浩 平井 達也 村田 薫克 下野 俊哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0219, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】術後の症例は術侵襲による疼痛や疼痛に対する不安から十分な筋出力が発揮できないことが少なくない。こうした筋出力不全を呈する症例では反射性抑制などの神経生理学的な影響だけではなく、筋収縮を行う上での運動イメージが変容し、筋収縮が困難になっていることが考えられる。本研究では運動イメージを想起する作業が即時的な筋出力に及ぼす影響について検討した。【対象】ACL再建術(BTB)を施行した患者8名(男3名、女5名)を参加者とした。平均年齢20.9±5.7歳、平均身長164.7±5.2cm、平均体重67.4±21.7kgであった。すべての患者に本研究の主旨を十分に説明し、同意を得た。【方法】すべての患者は術後スケジュールに沿い、術後2週より5日間にわたり膝90度屈曲位にて疼痛の許容範囲内で膝伸展筋の等尺性最大収縮の筋力強化練習を30分間行った。毎回の筋力強化練習直後にHand Held Dynamometerにて練習時と同肢位における膝伸展筋の最大等尺性筋力を3回測定し、最大値を代表値とした。同時に膝伸展筋力発揮時の主観的疼痛強度をVASにて測定した。運動イメージを想起する介入は5日目の筋力強化練習の終了直後に行った。介入の方法は精度の高い運動イメージを形成させることを目的に健側の筋収縮における感覚を言語化し、そのイメージを患側に転移させ、比較照合する作業を繰り返し行った。また言語化を援助するために筋収縮の感覚を物に例える隠喩や擬態語で表現するように指示し、筋感覚を符号化する手続きを20分間行い、その直後に筋力とVASについて介入前と同様の測定を行った。分析はデータ収集初回の筋力値、VASの値を基準値として、2~5日および介入後の値の変化率(%)を算出し、標準化を行った。統計学的分析には一元配置分散分析、多重比較検定(Scheffe)を用い、有意水準を5%未満とした。【結果】2~5日の練習後の筋力には変化が認められなかった。一方、5日目における筋力の増加は平均32.4±24.9%、その直後の介入では平均81.3±30.6%であり、介入による有意な筋力増強の効果が確認できた。またVASは介入前後における変化は認められず、介入により疼痛が減少もしくは変化のないものが7例であった。介入後はすべての者が身体に生じる筋収縮の感覚について言語化することができ、筋出力の増大を実感した内省報告が得られた。【考察】運動イメージ想起の介入直後では筋出力が増加し、疼痛の増大は認められなかった。このことより介入前における筋出力の低下は疼痛強度とは直接的な関係がないことが示唆された。今回の即時的な筋出力の増加は健側の運動イメージを参照することで、術侵襲により変容していた筋収縮イメージが修正され、運動ユニットの動員、発射頻度そして同期化による神経性の要因が変化を起こしたものと考える。
著者
帖佐 梨菜 早崎 奈央 永田 直樹 吉留 直希 鮫島 啓太郎 高田 和真 田口 光 川元 大輔 横山 尚宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】ヒトの運動機能を定量的に評価することは,臨床において効果判定やプログラム立案に極めて重要となる。多用途筋機能運動評価装置バイオデックスシステム3(以下:BIODEX)はヒトの筋力を正確に測定し,数値が可視化できるため数多くの研究機関で使用されている。ただし,場所が制限される事や高価であるため,使用する施設は限られている。一方,Hand Held Dynamometer(以下:HHD)は,測定方法が簡便であるため,理学療法領域において幅広く使用されている。一方,体重計はどの家庭にも存在する。体重計はBIODEXやHHDと比較し,鉛直方向にしか計測ができない。しかし,測定方法を工夫することで,等尺性収縮を定量的に評価することが可能ではないかと考える。本研究は,BIODEXで表された数値がHHDや体重計と相関関係があるかを三角筋とハムストリングスで実施し,自宅で簡便に筋力測定が可視化できるかを検討することを目的とした。【方法】対象者は本校に在籍する学生20名で,整形外科的,神経学的に既往のない学生を選出した。平均年齢は20±1.92歳,平均身長は166.5±8.7cm,平均体重は61.2±8.9kgであった。測定肢は三角筋,ハムストリングスともに右上下肢で統一した。三角筋・ハムストリングスの計測課題はBIODEX上で端座位とし,大腿部・骨盤部・体幹をベルトにて固定,両上肢は胸の前で交差して手掌面を胸郭上部で固定するように指示した。膝関節90°屈曲位でアーム回転軸と膝外側裂隙中心部が一致するようにシートの高さ・前後長を調整した。筋力はisometricで測定し,最大筋力を5秒間保持,3セット実施した。各セット間のインターバルは30秒とした。HDDと体重計による測定課題として,三角筋はベッド上端座位の肢位で肩関節屈曲90°,肘関節伸展位とした。前腕遠位部に抵抗を加え,5秒間保持するように指示した。被験者が代償動作を起こさないように最大限留意した。ハムストリングスの測定肢位はベッド上腹臥位とし,体重はベッドに預け,股関節45°屈曲位,両下肢は下垂させ,足底が接地しないように指示した。HDD,体重計の計測ともに,被験者は両下腿を地面と平行に保持し,検者は下腿遠位部に鉛直方向へ抵抗を加えた。HHDと体重計の筋力測定は検者が体重計に乗り,被験者に重力方向に抵抗を加えた時の体重と,抵抗を加える前の体重との差を重力(9.8N)で除して算出した。統計学的解析は相関係数を用いてBIODEX,HHD,体重計で測定した筋力の一致度を分析した。また,3者の関係については回帰分析を用い,回帰式を算出した。有意水準は5%未満とした。【結果】三角筋の最大収縮はBIODEXで31.9±14.9N,体重計は81.3N±30.9N,HHDは79.9±27.4Nであった。ハムストリングスの最大収縮はBIODEXで60.6±22.9N,HHDで221.5±80.3N,体重計は217.6±76.8Nであった。三角筋の相関係数はHHDと体重計(r=0.99;P<0.01),BIODEXとHHD(r=0.98;P<0.01),BIODEXと体重計(r=0.97;P<0.01)すべてに有意な相関関係が示唆された。ハムストリングスの相関係数はHHDと体重計(r=0.98;P<0.01),BIODEXとHHD(r=0.85;P<0.01),BIODEXと体重計(r=0.91;P<0.01)と,すべて有意な相関関係が示唆された。回帰式において,三角筋のBIODEXとHHDの関係はy=2.382x-9.752,BIODEXと体重計の関係はy=0.251x-5.956を示した。ハムストリングスのBIODEXとHHDの関係はy=3.572x+7.184,BIODEXと体重計の関係はy=3.526x+1.576となった。【考察】本研究の結果,全ての項目において有意な相関関係を示唆した。先行研究において,HHDと体重計は相関関係があるという報告がある。本研究は先行研究を支持する結果となり,HHDと体重計の相関関係があることを証明した。BIODEXは筋力測定において正確な数値を表す装置として認知されている。臨床で広く使われるHHDと一般家庭にも存在する体重計が,BIODEXと相関関係を示唆した。今後は症例の自宅においても,体重計を使用することによって,工夫次第で筋力を数値化し正確に測定できると考える。筋力の数値化はMMTのような主観的な筋力評価と違い,治療の効果判定や症例の目標設定など,臨床で有用な客観的評価となるのではないだろうか。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,BIODEXとHHD,BIODEXと体重計ともに高い相関関係がみられた。HHDは施設に,体重計は施設や自宅にほぼ存在する。筋力の可視化が可能となれば症例自身が筋力向上を確認でき,目標を持ちやすく,心理面にも好影響を与えるのではないかと考える。
著者
事柴 壮武 浦辺 幸夫 前田 慶明 篠原 博 山本 圭彦 藤井 絵里 森山 信彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;ACL)損傷はストップやジャンプ着地動作,サイドステップカッティング(sidestep cutting;SSC)動作で多く発生している。一般的に"Knee-in & Toe-out"という下肢アライメントの組み合わせが,マルアライメントの代表的なものとしてあげられる。SSC動作の筋活動について,Xieら(2012)はストップ期において大腿四頭筋に対するハムストリングの比(H/Q比)は,側方移動期よりも低値を示したとしている。また,ACL損傷のリスクである膝関節の過度の外反を制動するためには,大腿四頭筋とハムストリングの同時収縮をタイミングよく行う必要がある。よって,ACL損傷のメカニズムや予防を考慮すると,筋活動量だけでなく筋活動のタイミングを検討することは重要であると考える。SSCは足部運動との関連が示されており,足部の外側接地(Dempseyら,2009)や後足部での接地(Cortesら,2012)がACL損傷のリスクになるとされている。しかし,足部の方向(Toe-out)とSSCの関連を調べたものはみあたらない。本研究は,Toe-outでのSSCが膝関節運動学,筋活動様式に及ぼす影響を検討することを目的とした。仮説は,Toe-outでのSSCはNeutralと比較して膝関節外反角度が大きく,H/Q比が低いとし,さらに筋電位ピーク到達時間が遅延するとした。【方法】対象は下肢に整形外科的疾患の既往がない,健常な女性バスケットボール選手6名(年齢20.0±1.4歳,身長158.0±3.5cm,体重49.3±5.3kg,競技歴9.3±5.3年)とした。対象は5m離れた地点から最大努力速度で助走し,軸脚の左脚で踏み切り,右90°方向へSSCを行った。その際,着地条件として足部Neutral(条件N)と足部Toe-out(条件TO)の2条件を設定し,3試行ずつ実施した。なお,反射マーカーを対象の左下肢8ヶ所に貼付し,ハイスピードカメラ(フォーアシスト社)5台を用い,サンプリング周波数200HzでSSCを撮影した。撮影した映像を動作解析ソフト(Ditect社)に取り込み,DLT法で各マーカーの3次元座標を求め,膝関節屈曲,外反角度を算出した。本研究ではSSCを足部接地から膝関節最大屈曲位までのストップ期,膝関節最大屈曲位から足部離地までの側方移動期の2期に分割し,各期の膝関節最大外反角度を分析に用いた。筋活動の記録には表面筋電図(追坂電子機器社)を用いた。被験筋は外側広筋(VL),内側広筋(VM),大腿二頭筋(BF),半膜様筋(SM)とした。筋電図は生波形からRMS(root mean square)に変換して解析した。本研究ではVLとVMの活動量の平均値を大腿四頭筋の活動量,BFとSMの活動量の平均値をハムストリングの活動量とした。Initial contact(IC)を基準(0)とし,筋電波形の振幅がピークに達する時間をピーク到達時間と規定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1327,1335)。対象に本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】膝関節最大外反角度はストップ期の条件Nで7.0±3.8°,条件TOで8.8±5.5°であった。側方移動期の条件Nで4.6±3.9°,条件TOで7.9±5.4°であり,条件TOで有意に高値を示した(p<0.05)。H/Q比はストップ期の条件Nで0.33±0.08,条件TOで0.33±0.13であった。側方移動期の条件Nで0.67±0.22,条件TOで0.48±0.12であり,条件TOで有意に低値を示した(p<0.05)。各筋のピーク到達時間は,条件NでVMは119.9±49.1msec,VLは114.3±49.6msec,SMは102.1±76.1msec,BFは175.4±79.5msecであった。条件TOでVMは145.2±26.2msec,VLは151.9±24.8msec,SMは88.6±62.6msec,BFは194.1±58.8msecであった。条件TOでVMのピーク到達時間が有意に遅延していた(p<0.05)。【考察】本研究の結果より,Toe-outでのSSCはNeutralと比較して,側方移動期の膝外反角度が高値となり,H/Q比が低値を示した。膝関節外反角度が大きく,H/Q比が低いことは大腿四頭筋優位となりACL損傷のリスクが高いことを示している。さらに,VMのピーク到達時間の遅延を認めた。また,有意差はなかったもののSMのみピーク到達時間がNeutralよりも早期であった。VMは内側ハムストリング(SM)と協同して内側機構の支持に働き,膝関節の安定性に関与している(Myerら,2005)。したがって,内側安定機構であるSMとVMのピーク到達時間のずれは,過度の膝関節外反の制動を困難にしていることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】Toe-outでのSSCが膝関節運動学,筋活動様式に与える影響を明らかにすることは,ACL損傷メカニズムを解明する一助になるだけでなく,スポーツ現場やリハビリテーション場面において,ACL損傷の予防につながると考える。
著者
梅垣 雄心 中村 雅俊 武野 陽平 小林 拓也 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101963, 2013

【はじめに、目的】臨床現場において、ハムストリングスのストレッチングは多くの場面で用いられている。近年、ストレッチングの効果に関して多く報告されているが、ストレッチング法について検討した報告は少なく、特に内外側ハムストリングスの選択的なストレッチング法について、科学的根拠は示されていない。理論的に筋のストレッチングは筋の作用と逆方向へ伸張すべきであり、ハムストリングスは股関節伸展・膝関節屈曲作用に加え、内側は股関節内旋、外側は外旋作用を有していることから、内側は股関節屈曲・外旋位から膝関節伸展、外側は股関節屈曲・内旋位から膝関節伸展の他動運動が効果的なストレッチングになると考えられる。その一方で股関節屈曲・膝関節伸展に股関節外旋を加えることで外側を、内旋を加えることで内側を選択的に伸張できるという報告もあり、統一された見解は得られていない。そこで、本研究では筋は伸張されると硬くなるという先行研究に基づき、超音波診断装置と弾力評価装置を用いて筋硬度を測定し、筋の伸張量の指標とした。本研究の目的は股関節屈曲・膝関節伸展に股関節の内旋と外旋を加えることが、内・外側ハムストリングスの伸張量に与える影響を明確にすることである。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常男性17名(平均年齢24±3.4歳)の利き脚(ボールを蹴る)側の大腿二頭筋(以下:BF)及び半腱様筋(以下:ST)とした。ストレッチング肢位は、背臥位でベッド側方から非利き脚をたらし、ベルトで骨盤を固定した。試行は股関節90°屈曲、膝関節90°屈曲位(以下Rest)、股関節 90°屈曲・最大内旋からの膝関節伸展(以下IR)、股関節90°屈曲からの膝関節伸展(以下NOR)、股関節90°屈曲・最大外旋からの膝関節伸展(以下ER)の4試行とし,IR、NOR、ERでは痛みを訴えず、最大限伸張する角度まで他動的関節運動を行い、その時の膝関節伸展角度と筋硬度を測定した。 筋硬度の評価はテック技販製弾力評価装置(弾力計)と、SuperSonic Imagine社製超音波診断装置の剪断波エラストグラフィ機能 (以下:エラスト)を用いた。弾力計では圧力20NでRestのみ2回測定し、その平均値を算出した。IR、NOR、ERは1回の測定値を使用した。エラストでは全て1回の測定値を使用した。測定位置は,坐骨結節と外側上顆を結ぶ線の中点の位置でBFを、坐骨結節と内側上顆を結ぶ線の中点の位置でSTを触診しながら測定を行った。統計学的解析では、BFとSTにおける筋硬度値と膝関節伸展角度をそれぞれ各条件間でWilcoxon検定を用いて比較し、Bonferroni補正を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を説明し、研究に参加することの同意を得た。【結果】BFでは、弾力計の値はRestに比べ、IR,NOR,ERが有意に減少し、エラストの値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に増加しが、両筋硬度ともIR、NOR、ERの間に有意な差は認められなかった。STでは、弾力計の値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に減少し、ERに比べ、IR、 NORが有意に減少したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。エラストの値はRestに比べ,IR,NOR,ERが有意に増加し、ERに比べIR、NORが有意に増加したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。膝関節伸展角度は、NORで-21.5±12.2、IRは-31.5±7.2、ERは-36.5±8.8であり、NORはIR,ERに比べ有意に高値を示し、IRはERに比べ有意に高値を示した。【考察】本研究では、 BFはIR,NOR,ERの間で伸張量に変化がなかったことから、BFの伸張量を股関節内外旋の動きにより、コントロールすることは困難であることが示唆された。一方、STはERに比べIR、NORの方が有意に伸張されたことから、大きな外旋の動きを加えた場合より、股関節内外旋の動きを加えない場合や大きな内旋の動きを加えた場合の方が、STは伸張されやすいことが示唆された。この理由として、内側ハムストリングスの股関節内旋作用、外側ハムストリングスの外旋作用というのは解剖学的肢位での作用であり、股関節屈曲や最大内外旋することによって作用が変化している可能性が考えられる。また、ERにおいて、NORやIRと比較して膝関節伸展角度が有意に小さく、BFが伸張されていないことから、ERではハムストリングス以外の要素が優先的に膝関節伸展を妨害しており、その結果としてBFが伸張されなかった可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】ハムストリングスのストレッチングにおいて、股関節内外旋の動きを加えることでより伸張することは難しいことが考えられ、ハムストリングスのストレッチングにおいては股関節内外旋の動きを大きく加える必要はないことが考えられる。
著者
渡辺 光司 山口 和之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.H1057, 2004

【はじめに】<BR>当通所リハビリテーションセンター(以下通所リハ)ではマシントレーニングを特徴とするパワーリハビリテーション(以下パワーリハ)を導入した。導入前から利用者の活動性維持・向上を目標として行っていたが、十分な成果を出しているかが疑問であった。今回、導入前1年間とパワーリハ介入後のADL・身体能力の変化に着目しパワーリハの効果を検討したので報告する。<BR>【方法】<BR><U>調査1</U> 平成14年1月と同12月に第1回目と2回目のADL、身体能力調査を行った。対象は、歩行可能で研究協力に同意を得られた通所リハ利用者で継続して評価が可能であった81名(男性41名、女性40、平均年齢76±9.2歳)だった。調査項目はADL評価としてBarthel Index(以下BI)、身体能力評価として、Functional Reach(以下FTR)、片脚立位、Timed Up & Go(以下TUG)を行った。<BR> <U>調査2</U> 調査1の対象者からパワーリハを行った61名に、パワーリハ介入3ヶ月後のADL、身体能力調査を行った。<BR>【結果】<BR><U>調査1</U> 第1回目と2回目の調査の結果、ADL評価でBIは、88.4±11.8点から88.0±11.7点となり統計学的な差異はなかった。低下した人数の割合(以下、低下者率)は11.1%となった。一方FTR、片脚立位、TUGにおいては統計学的に優位な低下を認めた(p<.01)。低下者率はそれぞれ、69.1%、66.8%、74.0%だった。<BR> <U>調査2</U> BIは88.3±10.7点から88.6±10.7点で統計学的な差異はなかった。一方片脚立位、TUGにおいてそれぞれ優位な改善を認めた(p<.05)(p<.01)。またFTRは統計学的な差異はなかったが改善傾向があった。<BR>【事例】<BR>88歳、女性、要介護度1。5年前に大腿骨頚部骨折受傷し人工骨頭置換術を施行した。日常生活は歩行自立も転倒への恐怖感から屋外に出られない生活を送っていた。最近、易疲労やふらつきが多くなり室内に閉じこもる事が多くなった。パワーリハ導入前1年間のBIは90点で変化なかったが、TUGは26.1秒から37.2秒と低下が見られた。パワーリハ介入3ヶ月後、TUGは24.5秒に改善した。近くの店へ買い物に出かけるようになり、次はパーマ屋に行ってみたいと行動範囲や目標が広がっている。<BR>【考察】<BR>導入前はADLが維持されていても、身体能力は大きく低下していた。事例のように身体能力低下から行動範囲、生活意欲が低下している要介護者もおり、将来的にADL低下を引き起こす事が予測された。そのため通所リハではADLの維持のみならず、身体能力の低下を未然に防止する取り組みが極めて重要で、パワーリハは身体能力の改善効果が期待できると思われた。以上から身体能力への積極的なアプローチを行うことができるパワーリハは、今後、通所リハで極めて有用な手法と思われる。
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-106_2-I-106_2, 2019

<p>【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした.</p><p> </p><p>【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した.</p><p> </p><p>【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった.</p><p> </p><p>【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた.</p><p> </p><p>【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.</p>
著者
清水 結
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.F-25-F-25, 2019

<p> 筆者は,これまでスポーツ医科学施設,国内トップスポーツチーム,日本代表,海外リハビリ施設と,様々な領域や立場でスポーツと関わってきた。</p><p> 理学療法士免許取得後に主に関わってきたのは,女子バスケットボールのトップリーグのチームであった。体育系大学においてトレーナー活動を経験してきたことと,医療施設での治療に携わった経験が,現場での活動においては大きな糧となった。同時に医療現場にも身を置くことで,医療現場とスポーツ現場をつなぐ道筋,反対に間にあるギャップにも目を向けることができた。また,トップリーグおよびジュニア世代における外傷予防のための外傷調査および予防介入を行い,チームを超えるリーグ・協会組織の一員としての活動も経験してきた。</p><p> その後,日本バスケットボール協会専任トレーナーとして,女子日本代表チームに帯同する機会を得ることができた。代表チームにおいては,他チームから集まる選手を管理する点で,一チームに所属して選手に対応する場合とは大きく異なる経験となった。また,リーグに所属するトレーナーや代表に関わるトレーナーの人材不足および育成の重要性を痛感した。</p><p> その後,韓国のリハビリ施設の開設を任され,施設運営やスタッフ育成を手掛けた。トップ選手の対応に従事しながらも,言語や環境,習慣や思考など,様々な面で日本との違いに戸惑いながら,また日本のスポーツ理学療法士の存在や役割について見直すきっかけとなった。</p><p> 今回はこれまでの私自身の経験をもとに,様々な活動場所における役割とスポーツ理学療法士として心がけていることをご紹介できればと思う。また,今後多くの女性理学療法士がスポーツ現場で必要とされる中,スポーツへ参加しやすい環境づくり,人材育成について議論したい。</p>
著者
藤本 貴大 吉田 聡志 松坂 佳樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0228, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰椎を含む椎体圧迫骨折の発生率は,女性で高く加齢とともに著明な上昇を示す。一方で,Sinakiら(2002)は背筋伸展運動による背筋力維持は椎体骨折率を低下させるとしている。さらに,背筋力は円背姿勢と関係し,歩行能力さらには消化器・循環器系の機能障害にも影響する。そのため,背筋の筋力強化および腰椎安定化運動は有効である。近年,背筋のひとつに腰部多裂筋(以下;LM)の役割が疼痛や椎体分節制御・安定性に重要とされている。そして,LMの画像評価において,筋横断面積に加え実質的な筋収縮組織以外の脂肪組織増加といった質的変化も機能障害に関与するとされる。我々は第50回日本理学療法学術大会において,女性腰椎圧迫骨折患者の脊柱起立筋(以下;ES)およびLMに占める脂肪浸潤を計測し,中等度(脂肪浸潤率10%以上50%未満)生じていたと報告した。本研究の目的は,その後腰椎圧迫骨折患者の硬性コルセット(以下;コルセット)装着期間における理学療法実施が腰椎脂肪浸潤に影響するか検証することである。【方法】対象は当院を受診しMRI検査により初発単椎体の腰椎圧迫骨折と診断され入院しコルセット装着となった65歳以上女性で,受傷直後とその後1ヶ月以降にMRIを実施した8例(年齢;72.9±12.0歳,BMI;21.9±3.9,MRI検査期間;63.6±24.3日)とした。対象患者は,コルセット装着下で背筋の筋力強化および腰部安定化運動を加えて実施した。MRI撮影部位は,各腰椎上縁および椎体上下縁から中間位,仙椎上縁の横断像計11画像とした。計測する筋はLM・ES・大腰筋(以下;PS)とした。脂肪浸潤計測は,Ransonら(2006)の先行研究を参考にImage Jを使用し,筋横断面積に占める脂肪浸潤面積を脂肪浸潤率とした。統計処理は,受傷時とコルセット装着後の比較をWilcoxon signed rank testにより行った。有意水準は5%未満とした。【結果】各筋の平均脂肪浸潤率において,受傷時:LM;17.262±11.312%,ES;15.898±13.667%,PS;0.870±1.158%に対し,コルセット装着後:LM;13.927±9.249%,ES;9.209±6.371%,PS;0.466±0.593%であった。これらの期間前後に有意差は認められなかった。一方,各椎体部位別では,LM仙骨上縁部に有意な減少が認められた(27.349±7.711%から15.273±9.658% P<0.05)。【結論】先行研究において,長期のコルセット装着は筋活動低下に伴い筋力低下や筋量減少が生じることが示唆され,脂肪浸潤増加も予測される。しかし,各筋ともに増加することなく,ES脂肪浸潤率は軽度(10%未満)となった。また,LMにおいて仙骨上縁の有意な減少が認められていた。LMの選択的な運動には,腰椎の動きが生じない低い筋活動量で行なうことが望ましく,コルセット装着により腰椎運動制御が制限されているため,効率的にLMにアプローチできたと考えられた。よって,コルセット装着にも理学療法実施によりLM,ES,PSの脂肪浸潤増加を予防できると考えられた。
著者
廣重 陽介 浦辺 幸夫 榎並 彩子 三戸 憲一郎 井出 善広 岡本 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.FeOS3067, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】スポーツ現場で頻繁に遭遇する足関節外側靭帯損傷において、競技復帰が遅れる要因のひとつとして長期にわたる腫脹の残存があげられる。腫脹など受傷直後の炎症反応のコントロールにはRICE処置が用いられ、応急処置として浸透している。近年、組織修復促進効果があるとされている(Owoeyeら,1987、藤谷ら,2008)マイクロカレント刺激(Microcurrent electrical neuromuscular stimulation,MENS)もRICEと併用することがあり、筆者らも腫脹の軽減に有効であると考えている。しかし、MENSが腫脹軽減に効果があるというエビデンスは十分でなく、MENS単独での有効性を報告した文献は見当たらない。 本研究では、MENSが急性期に発生する腫脹を軽減するか否かを検討することを目的とした。【方法】対象は足関節外側靭帯損傷と診断され、視覚的に腫脹を認め、受傷後72時間以内、初回損傷、RICE処置を施していない患者22名とした。対象をMENS施行群(MENS群)11名(男性6名、女性5名)と非施行群(安静群)11名(男性5名、女性6名)に無作為に分けた。MENS群の年齢(平均±SD)は35.3±18.9歳、身長は162.9±11.2cm、体重は58.5±7.1kg、安静群の年齢は30.2±19.7歳、身長は163.3±7.5cm、体重は60.8±14.7kgであった。 説明と同意の後、水槽排水法にて足部・足関節の体積を測定した。その後、安静背臥位にて2個のパッド(5cm×5cm)を前距腓靱帯の距骨、腓骨付着部付近に貼付し、MENS群はMENSを20分間施行し、安静群は通電せず20分間安静を保った。再び体積を測定し、最後に医師から処方された理学療法を実施した。MENSにはDynatron950plus(Dynatronic Corporation,USA)のmicrocurrent modeを使用し、周波数0.5Hz、パルス幅1sec、刺激強度50μAとした。 測定値より、各群の体積、腫脹の程度およびその変化率を求めた。腫脹の程度は、水槽排水法による健常者の足部・足関節の体積は左が1.4%大きい(廣重ら,2010)ことを考慮し、非受傷側の体積から受傷側における受傷前の体積を算出し、これを基準とした。 統計学的検定として、各群におけるMENS前後、安静前後の腫脹の程度の差には対応のあるt検定を、MENS群と安静群との腫脹の程度の差、腫脹変化率の差には対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】対象には事前に研究の目的と方法に関する説明を十分に行い、紙面にて同意を得て測定を行った。本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号1001)。【結果】MENS群で、MENS施行前の足部・足関節の体積(腫脹の程度)は977.0±111.1ml(106.2±3.9%)、施行後の体積は967.2±107.0ml(105.2±4.1%)となり9.8±6.9ml(1.0±0.7%)減少した。(p<0.05)。安静群で、安静前の体積は911.4±167.1ml(106.5±3.4%)、安静後の体積は909.2±166.6ml(106.2±3.2%)となり2.2±4.7ml(0.3±0.6%)減少したが、有意差は認められなかった(p=0.16)。 各群の腫脹の程度に有意差は認められなかった(p=0.86)。 各群の体積減少率を比較すると、MENS群の体積減少率が有意に大きかった(p<0.05)。【考察】MENSについて、Gaultら(1976)が阻血性皮膚潰瘍患者に施行したところ治癒が早まったと報告して以来、様々な臨床効果が報告されている。森永(1998)は、MENSは微弱電流を通電することで組織損傷時に生じる損傷電流の働きを補い、ATPやたんぱく質の合成を速め、組織修復促進の効果が期待される物理療法であるとしている。従来の電気刺激がはっきりした通電感覚を与えるのに対し、MENSは感覚刺激のない微弱な電流を使用するため、不快感を与えることなく治療を行うことができる。 MENSの腫脹に対する効果を認める者もいるが、その客観的評価や基礎的なデータはほとんどみられず、効果に対して懐疑的意見もあった。しかし今回、足関節外側靱帯損傷患者の急性期においてMENS使用前後で足部・足関節の体積が有意に減少したことから、MENS単独でも腫脹の軽減に効果が認められた。 本研究における腫脹の軽減はそれほど大きくはなかったが、水槽排水法を用いた信頼性が高い方法(廣重ら,2010)で測定したため、少ない体積変化も正確に読み取ることができたと考えられる。 板倉(2008)は、足関節外側靭帯損傷後の理学療法(MENS+冷却)で10~26mlの体積減少を認めたと報告している。今回の減少量9.8±6.9mlを考慮すると、他治療との併用においてもMENSの腫脹軽減に対する効果は大きいと考えられる。 作用機序など分からないことが多いが、今後、臨床研究により様々な使用方法を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】MENSは足関節外側靱帯損傷患者の急性期において腫脹の減少に有効であり、早期復帰の一助と成り得ることが示唆された。
著者
廣瀬 美幸 森山 紋由美 鈴木 孝夫 李 相潤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0231, 2008

【目的】最近、患者一人ひとりの栄養状態が極めて重要視され、栄養状態の管理・改善を院内栄養サポートチーム(Nutrition Support Team)で取り組んでいる病院もある。そこで、ラットを用いて運動と食餌・カロリー摂取量の違いが骨格筋にどのような影響を及ぼすかを比較・検討した。<BR>【方法】実験動物は生後8週齢の雄性Wistar系ラット15匹を用い、普通食自由摂取+運動負荷(CT)群、普通食制限摂取+運動負荷(LT)群、高カロリー食自由摂取+運動負荷(HT)群の3群各5匹に分けた。実験期間を通して、CT群には普通食、LT群にはCT群の餌摂取量の60%、HT群には普通食比カロリー120%、脂肪含有率332.6%の高カロリー食を与えた。その間、1日1回45分同時間帯に、最高速度25m/minのトレッドミル走行を5回/週、2週間実施した。実験終了後、対象筋である左右のヒラメ筋、足底筋、腓腹筋外側頭を摘出し、通常の方法、手順により筋線維横断面積を測定し、統計処理を行った。なお、運動負荷のない通常飼育の対照(C)群は先行研究の同週齢ラットの値を参考とした。<BR>【結果】体重:実験開始時には群間有意差は見られなかったが、実験終了時にはLT群はCT群に比較し78.1%の低値と有意差を示した。一方、CT群とHT群間には有意差は認められなかった。平均餌摂取量:HT群はCT群の摂取量の83.5%であった。筋線維横断面積:3種の筋においてCT群はC群と比較し有意の高値を示した。LT群はCT群と比較し有意の低値を示したが、C群と比較すると有意の高値を示した。HT群はヒラメ筋においてCT群と有意差が認められた。<BR>【考察】3筋の筋線維横断面積において、LT群はCT群、HT群と比較し有意の低値を示した。従って、栄養不良状態では筋萎縮が進行することが示唆された。これは、1)低栄養状態で筋内蛋白質の合成不良によること、2)筋線維横断面積は収縮の強度に関係するので、LT群は各筋の収縮の強さが飢餓の影響を受け低下したことが考えられる。一方、LT群はC群と比較すると有意の高値を示した。これはLT群は週5回の運動を実施したため、低栄養状態であっても運動負荷により筋萎縮予防、筋肥大が得られたと考えられる。<BR> 今回、足底筋と腓腹筋においてはHT群とCT群間に有意差が認められなかった。これは筋肉の主要構成成分は蛋白質であり、運動時には蛋白質の必要量が増加するが、今回与えた高カロリー食は蛋白質含有量が普通食とほぼ同じであったためと考えられる。蛋白質を多く摂取することで、より効果的に筋力増強が得られると考えられる。<BR>【まとめ】低栄養状態であっても運動負荷により筋萎縮予防、筋肥大が得られ、また蛋白質を多く摂取することにより、より効果的に筋力増強が得られると考えられる。
著者
中元 唯 岡 真一郎 高橋 精一郎 黒澤 和生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101553, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】疼痛は,組織破壊よる自発痛と,潜在的な組織障害および不快な感覚が絡み合った慢性疼痛がある.慢性疼痛は,自律神経反応との関連が深いことから交感神経の抑制を目的とした星状神経節や胸部交感神経節ブロック,星状神経節に対する直線偏光近赤外線照射などが用いられている.一方,理学療法においては,胸椎のマニピュレーションが指先の皮膚温を上昇させ,軽微な圧迫刺激が遅く鈍い痛みを特異的に抑えることから,胸背部への体性感覚入力が自律神経系に影響を及ぼす可能性がある.本研究の目的は,胸背部に対する持続的圧迫刺激が自律神経活動,末梢循環動態におよぼす影響について調査することとした.【方法】対象は,健常成人男性10 名(22.2 ± 1.2 歳)とした.測定条件は,室温25°前後で対象者を背臥位とし,メトロノームを用いて呼吸数を12 回/分で行うよう指示した.測定項目は,胸背部硬度,体表温度,心拍変動解析とした.胸背部への徒手的圧迫刺激は,簡易式体圧・ズレ力同時測定器プレディアMEA(molten)を用い,右第2 −4 胸椎棘突起の1 横指下外側に圧力センサーを接着して50mmHgに調整した.胸背部硬度は,生体組織硬度計PEK-1(井元製作所)を用いて右第2 −4 胸椎棘突起の1 横指下外側をそれぞれ3 回測定した.体表温度は,防水型デジタル温度計SK-250WP(佐藤計量器製作所)を用い,右中指指尖を1 分ごとに測定した.心拍変動解析は,心拍ゆらぎ測定機器Mem-calc(Tawara)を用いて心電図R-R 間隔をTotal Power(TP),0.04 〜0.15Hz(低周波数帯域,LF),0.15 〜0.40Hz(高周波数帯域,HF)として行った.自律神経活動の指標は,自律神経全体の活動をTP,副交感神経活動をHFn(HF/(LF+HF)),交感神経の活動をLF/HFとした.測定プロトコールは,圧迫前の安静10 分(以下,圧迫前),胸背部圧迫10 分,圧迫後の安静10 分(以下,圧迫後)とした.統計学的分析はSPSS19.0Jを用いて,圧迫前後の比較を対応のあるt検定およびWilcoxon符号順位和検定を行い,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究内容を十分に説明し書面にて同意を得た後に測定を実施した.【結果】TPは圧迫前後で有意差がなかった.胸背部硬度は,圧迫前57.0 ± 4.3 から圧迫後55.8 ± 3.7 と有意に低下した(p<0.01).体表温度は,圧迫前33.8 ± 0.6℃から34.4 ± 0.6℃と有意に上昇した(P<0.05).心拍数は,圧迫前70.1 ± 12.9bpmから圧迫後67.6 ± 11.5bpmと有意に低下した(p<0.05).HFnは,圧迫前10.0 ± 4.7 から圧迫後13.0 ± 4.3 と有意に増加した(p<0.05).LF/HFは,13.5 ± 7.1 から圧迫後10.1 ± 5.4 と有意に低下した(P<0.05).【考察】胸背部硬度は圧迫後に有意に低下した.皮膚の静的刺激を感知する受容器は順応が遅く,持続的な圧迫刺激により皮神経支配領域のC線維を抑制すると報告されている.また,皮神経支配領域における求心性線維の興奮は,軸索反射により求心性神経終末から血管拡張物質を放出させる.胸背部硬度の低下は,圧迫刺激による皮膚受容器の順応,C線維の抑制と血管拡張に起因すると推察された.胸背部圧迫後のHFnは有意に上昇し,LF/HFは有意に低下した.ラットによる先行研究では,後根求心性線維への刺激は逆行性に交感神経節前ニューロンにIPSPを引き起こすとともに,脊髄を上行し上脊髄組織で統合されて交感神経節前ニューロンに投射し,副交感神経の興奮と交感神経の長期抑制を起こす.HFnの上昇とLF/HFの低下は,胸背部への圧迫刺激が副交感神経の興奮と交感神経の抑制を引き起こしたと考えられる.さらに,皮膚血管は交感神経性血管収縮神経によって支配されており,交感神経の抑制が皮膚血管を拡張させたため右中指体表温度が上昇したと考えられる.胸背部圧迫後の心拍数は有意に低下した.Miezeres(1958)は,犬の胸部交感神経節機能は左右差があり,右側が心拍数,左側が伸筋収縮力を増加させると報告している.本研究における圧迫後の心拍数の減少は,右胸部交感神経節の活動が抑制されたためと考えられる.胸背部への持続的圧迫刺激は,交感神経を抑制し,副交感神経を興奮させることが示された.上脊髄組織は,交感神経の長期抑制させることから胸背部圧迫刺激の持続性について検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】胸背部への軽度な持続的圧迫刺激は,慢性疼痛を有する患者の治療法のとして有用な可能性がある.
著者
永岡 直充 今田 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100802, 2013

【はじめに、目的】大殿筋下部線維(以下,LGM)は歩行時における立脚初期の屈曲モーメントを制御し,同筋上部線維(以下,UGM)は中殿筋(以下,GMM)と共に立脚中期の骨盤落下を制御する筋として重要視されている。機能的に異なる作用を持つ大殿筋に対し,UGMの筋力強化を意識した股関節伸展外転運動を側臥位にて実施(以下,股関節外転位運動)している。本研究では,股関節外転位運動を伴う大殿筋筋力強化エクササイズ(以下,エクササイズ)を行い,UGM,LGMの筋活動を計測し,従来用いられている同筋の強化を目的とした異なるエクササイズとの比較を表面筋電図(以下,EMG)を用いて検討した。【方法】対象は,健常成人男性4例(年齢28.8±3.7歳,身長173.3±7.3cm,体重61.5±1.6kg,BMI20.6±1.3 kg/m2)であった。エクササイズ時に右側のUGM,LGM,GMMの筋活動を無線筋電計km-818MT(メディエリアサポート社)にて計測した。エクササイズは,腹臥位での股関節伸展運動(以下,腹臥位運動),片脚ブリッジ,股間節外転位運動,レッグプレス,フォワード・ランジの5通りとした。腹臥位運動は骨盤を固定した腹臥位にて,股関節伸展15°で膝窩から抵抗を加え2秒間保持した。片脚ブリッジは腕と左下肢を組んだ臥位にて,下肢90°屈曲,股関節内外転0°の肢位から体幹と大腿長軸が平行になるまで臀部を拳上し2秒間保持した。股関節外転位運動は膝関節90°屈曲位で固定した側臥位にて,足底をセラピストの骨盤に当てた。大腿骨に対し直角に抵抗を加えつつ,股関節屈曲,内転,内旋位から伸展,外転運動を股関節屈曲20°から-20°の範囲で行った。レッグプレスはシート角40°に設定したレッグプレスマシンに座り,下肢90°屈曲位から膝関節伸展0°まで伸展した。負荷量は1RMの60%とした。フォワード・ランジは両手を頭の後ろで組んだ立位にて,下肢90°屈曲位になるよう右下肢を踏み出し,2秒間保持した。運動回数は10回とし,運動開始から終了までの積分筋電図と最大随意筋力(以下,MVC)より相対筋電図(以下,%IEMG)を求めた。Tukeyの多重比較検を用いて5通りの%IEMGを筋ごとに比較した。独立変数は5通りのエクササイズ,従属変数は筋ごとの%IEMGとした。有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,研究の目的,方法について説明し,研究の理解と同意が得られた上で実施した。参加は任意であり同意後もいつでも中断可能であること,それによる不利益を一切被らないこと,収集したデータは厳守されることを説明した。【結果】UGMでは股関節外転位運動,腹臥位運動,レッグプレス,フォワード・ランジ,片脚ブリッジの順に,LGMでは腹臥位運動,股関節外転位運動,レッグプレス,片脚ブリッジ,フォワード・ランジの順に,GMMでは股関節外転位運動,腹臥位運動,フォワード・ランジ,レッグプレス,片脚ブリッジの順に高い筋活動を示した。各筋(UGM/LGM/GMM)の%IEMGについて,腹臥位運動では62.7±14.9/68.4±13.5/38.9±29.1%,股関節外転位運動では84.7±41.6/61.5±26.5/54.1±48.9%であり,UGMにおいて股関節外転位運動は腹臥位運動に対し有意に高い値を示した(p<0.01)。さらに腹臥位運動と股関節外転位運動は,その他のエクササイズに対して有意に高い値を示した(p<0.01)。【考察】股関節外転位運動と腹臥位運動の3筋の%IEMGは同等の値を示し,その他のエクササイズとの比較において有意差を認めた。大殿筋は股関節伸展外転方向で最大の筋活動が発揮され,次いで伸展方向,外転方向の順に高い値を示すとの報告がある。股関節伸展と外転運動を組み合わせた股関節外転位運動においてUGMは高値を示したと考えた。一方,腹臥位運動は大殿筋本来の働きに即した抗重力肢位で行う運動として,UGM,LGMは共に高値を示した。この2つのエクササイズにおいて,UGMとLGMに対する負荷強度はMVCの60%を超えており,大殿筋の筋力強化を意識した運動として有効な方法と言える。さらに股関節外転位運動は,UGMに対し80%を超える負荷強度となり,UGM強化に特化したエクササイズである可能性が示唆された。臨床において,体幹および股関節術による禁忌肢位や片麻痺,円背など身体機能の変化に伴い,腹臥位を設定することが困難な場合が多い。本研究の結果から,患者の設定可能な姿勢に対応できるエクササイズ肢位の選択の幅が広がり,治療プログラム立案の一助になると考えた。【理学療法学研究としての意義】大殿筋は移動動作に重要な筋であり,幾多の筋力強化肢位が考案されてきた。今回の報告より,臨床で実施される代表的なエクササイズと股関節外転位運動について,EMGを用いて定量的に確認できた。股関節外転位運動は大殿筋の最大の筋活動を引き出しやすい肢位として,治療手段の1つとなり得ると考えた。