著者
行武 大毅 山田 実 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101004, 2013

【はじめに、目的】 学童期における投球障害の発生割合は増加しており、特に12歳前後が好発年齢といわれている肘の障害は深刻な問題となっている。そこで、学童期の投球障害の予防のために、日本では臨床スポーツ医学会が、アメリカではUSA Baseball Medical & Safety Advisory Committeeがそれぞれ提言(投球数制限)を発表しており、12歳の選手に対する1日の全力投球数として、それぞれ50球以内、75球以内が推奨されている。しかし、これらの提言は、指導者が正しく理解、順守することで初めて意味を持つものである。アメリカにおける報告では、4割の指導者が投球数制限の正しい知識を持っており、7割の指導者が投球数制限を順守していたが、日本における現状は明らかではない。その現状を調査することは、指導者啓発の一助となると考えられる。また、指導者の投球数制限に対する意識が障害発生にどう影響するかは明らかではない。本研究の目的は、日本の学童期野球指導者における投球数制限の認知度、順守度を調査し、選手の障害発生との関連を明らかにすることである。【方法】 学童期野球チームの指導者と選手の保護者を対象とした2種類のアンケートを作成し、京都市内の平成23年宝ヶ池少年野球交流大会参加チーム111チームに配布した。指導者に対するアンケートの内容は、年齢、指導歴、選手歴、年間試合数、週あたりの練習日数、シーズンオフの有無、年間試合数に対する意見とした。加えて、投球数制限について正しい知識を持っているか、日常的に順守しているかを調査した。選手の保護者に対するアンケートでは、基本情報として選手の年齢、身長、体重、野球歴を調査し、さらにアウトカムとして、ここ1年間での肘関節の投球時痛を項目に含めた。統計解析としては、まず投球数制限の認知度、順守度の割合をそれぞれ算出した。続いて、指導者の投球数制限に対する認知や順守が選手の疼痛発生に与える影響を探るため、従属変数を選手のここ1年間での肘関節の疼痛の有無とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。ここでは、指導者の中からチームごとに指導責任者を抽出し、独立変数として選手の基本情報、認知や順守を含めたコーチ関連要因、チーム要因を投入した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、説明会において口頭で十分な説明を行い、同意を得た。【結果】 アンケートを配布した111チームのうち、58チーム(指導者123名、選手の保護者654名)から回答が得られた(回収率52.3%)。解析には、欠損データを除いた指導者113名、選手の保護者339名のデータを用いた。指導者113名のうち、投球数制限に対して正しい知識を有している指導者は45名(39.8%)であり、投球数制限を日常的に順守している指導者は32名(28.3%)であった。選手におけるここ1年間での肘関節の疼痛既往者は54名(15.9%)であり、多重ロジスティック回帰分析では、選手の身長(オッズ比1.08、95%CI: 1.01-1.15、p < 0.05)と年間試合数を多いと感じている指導者の率いるチーム(オッズ比0.29、95%CI: 0.11-0.75、p< 0.01)が疼痛発生に対する有意な関連要因として抽出された。指導者の投球数制限に対する認知度や順守度は、有意な関連要因とはならなかった。【考察】 本研究は、日本の学童期野球チームの指導者の投球数制限に対する認知度と順守度を調査した。加えて、それらの認知度や順守度と選手から報告された疼痛との関連を明らかにした。投球数制限に対して正しい知識を有している指導者の割合は39.8%であり、アメリカにおける報告(7割)と同水準の値を示したが、投球数制限を日常的に順守している指導者の割合は28.3%であり、アメリカにおける報告(7割)とは異なる値を示した。このことから、投球数制限に対する問題点に対して、世界レベルで取り組むべき問題と各国で取り組むべき問題とが存在していることが伺える。しかし、これらの認知度と順守度と実際の疼痛発生に有意な関連は見られず、年間試合数を多いと感じている指導者の率いるチームに有意な関連性が見られた。指導者が試合数に対して多いと感じることで練習量を抑えるといった二次的な影響が示唆され、オーバーユースを単なる試合での投球数のみでなく練習量も含めたものとして捉える必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 投球数制限を含めた学童期の投球障害に対して各国が連携して取り組むことで、学童期野球界への指導啓発の発展が期待される。また、指導者の年間試合数に対する意識が障害発生のリスクファクターとして抽出されたことから、この結果をスポーツ現場へ還元することにより、指導者の意識向上と障害発生割合の減少が期待される。
著者
浅井 友詞 田中 千陽 馬渕 良生 佐久間 英輔 曽爾 彊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0502, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】長期臥床による筋萎縮の研究は古くから行われ、筋力に関する研究では、1週間の臥床により10から15%、3~5週間では50%低下するといわれている。また、立野らはマウスの後肢懸垂モデルにて2週間で筋の湿重量が20%減少したと報告している。こうした量的な研究から最近では質的な検討がなされてきたが多くは動物実験である。我々は第41回本学会で献体された2症例より、入院期間の違いによる筋萎縮の変化を肉眼的観察および筋組織の横断面より検討し報告した。そこで今回は筋組織の縦断面からの情報を加え検討したので報告する。【第1報の要旨】短期(4日)および長期入院(4ヵ月半)中、肺炎にて死亡した2症例の肉眼的観察にて長期入院例の下腿三頭筋に高度の筋萎縮がみられ、扁平化していた。組織学的にも細胞間の結合組織が増加すると共に筋細胞は減少し、細胞の形態は極度に萎縮していた。【症例】症例1: 死亡時年齢90歳・女性・身長約145cm・死因;急性胆のう炎にて4日間入院中、誤嚥性肺炎にて急死。症例2: 死亡時年齢92歳・女性・身長約145cm・死因;4ヶ月半入院中、肺炎にて死亡。【肉眼的観察】症例2は、下肢筋の強度な筋萎縮と共に、大体外側の腸脛靭帯から膝関節下部外側の付着部までの軟部組織に緊張がみられ、柔軟性の低下から膝関節に屈曲拘縮が推測できる。このことより歩行困難となり、臥床を強いられていたことが予測できる。岡崎によると安静臥床後6週間で、下腿三頭筋の筋力低下は他筋と比較して特に大きいと報告され、今回の症例2の筋萎縮と同様の症状である。【組織学的観察】本献体はホルマリン固定にて保存され、肉眼解剖時に上腕二頭筋・大腿四頭筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。標本はホルマリン固定後、定法にてパラフィン包埋をした。その後、5μmで薄切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色した縦断面を光学顕微鏡にて観察した。症例1では、各筋において筋線維の形状が保たれ、線維間は、結合組織で隔壁され、密集した縦方向への筋線維が観察された。一方、症例2では不規則な筋線維の配列間に多量の結合組織を観察した。また、筋線維数の著明な減少がみられ、結合組織中には多くの核が点在していた。今回観察された症例2の廃用性の変化は、筋線維数の減少のみならず、結合組織の増加など退行性変化が強く認められ、筋の伸縮性低下より理学療法の阻害因子となり得ると思われる。【まとめ】今回献体より入院期間の違いによる筋の変化について検討し、長期入院者では筋細胞間に結合組織が増加し、筋機能の低下が示唆された。
著者
野村 瞬 治郎丸 卓三 中田 康平 兵頭 勇太郎 金沢 伸彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>knee-inは,非接触型ACL損傷における代表的な危険肢位である(Ireland 1999)。knee-inにより,膝関節外反,大腿に対して下腿外旋という一連の動きが生じる。つまり,knee-inでは大腿筋膜張筋や外側ハムストリングスなどの過活動が生じ,knee-in改善にはこれらの筋の活動を低下させることが重要となる(井野2014)。そのため,knee-inにより活動が増大する筋を知り,neutralやknee-out肢位をとることにより,その筋の活動を低下できるかを把握しておく必要がある。</p><p></p><p>理学療法を行う上で,片脚立ち,両脚立ちなど,荷重量を変えた際のknee-in,neutral,knee-out時の膝関節周囲筋の筋活動パターンに違いがあるかを理解しておくことは大切である。しかし,我々の知る限りこれらの内容について報告されたものはない。そこで本研究では,片脚立ち,両脚立ちにおける,knee-in,neutral,knee-out時の膝関節周囲筋の筋活動パターンを検討した。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は健常成人男性15名(23.8±4.7歳)とし,筋電図計(MQ16)を用いて,片脚立ちと両脚立ち時の膝関節周囲筋の筋活動を測定した。測定筋は大腿筋膜張筋,外側・内側ハムストリングス,外側・内側・中間広筋,大腿直筋,縫工筋とした。片脚立ち,両脚立ちの条件中,床面に対して体幹を垂直,進行方向に足部を平行に置き,右脚を対象に股関節屈曲25°,膝関節屈曲40°で,knee-in,neutral,knee-outの3つの課題をランダムに実施した。姿勢が崩れない範囲でknee-in,knee-outを行った。また,大腿骨の外側上顆,内側上顆にマーカーを貼付し,デジタルカメラにて各課題を撮影し膝回旋角度を算出した。両脚立ち条件では足幅50cm,左右脚同様の肢位をとり,体重計を用いて右下肢の荷重は体重の50%とした。表面電極(1×1cm)は皮膚処理後,電極間距離1cmとし,測定筋の筋線維方向に沿って貼付した。筋電図データは,筋電図解析ソフト(KineAnalyzer)を用いて,フィルタ処理後(バンドパス10~500Hz),二乗平方平滑化処理(RMS)を行い,両脚立ち条件のneutralの各筋のRMSを1として正規化を行った。統計学的分析はSPSSを用いて,条件ごとに,各筋の筋電図は一元配置分散分析(knee-in,neutral,knee-out)を用いて比較した。事後検定としてTukey法を用いて,knee-in,neutral,knee-outにおける各筋の筋電図の比較を行った。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>片脚立ち条件では,外側ハムストリングス,外側広筋の活動が,neutral,knee-outに比べknee-inで有意に増大が認められた(p<0.05)。両脚立ち条件では,大腿筋膜張筋の活動が,neutral,knee-outに比べknee-inで有意に増大が認められた(p<0.05)。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>knee-inにより,片脚立ちでは外側ハムストリングス,外側広筋の活動が増大し,両脚立ちでは大腿筋膜張筋の活動が増大した。片脚立ちと両脚立ちではknee-inにより活動が増大する筋が異なる。</p>
著者
廣瀬 恵 増山 素道 堀部 達也 岩本 卓水 廣瀬 昇 猪飼 哲夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI2125, 2011

【目的】<BR> 今回対象となった脳動静脈奇形(以下、AVM)による広範な右脳内出血患者は、重度意識障害と著明な四肢の痙縮、さらに妊娠(妊娠28週)が合併していることから様々な制限を受け、痙縮コントロールに難渋した。そこで、術前、全身麻酔下、及び術後鎮静期間、立位訓練開始時にわたり痙縮評価を実施し、本症例を通じて、痙縮コントロールの治療手段を検討し、臨床推論モデルの一助となるシングルケーススタディーとして報告する。<BR>【対象】<BR> 脳動静脈奇形による脳内出血発症の女性患者(発症時正常妊娠28週)。<BR>搬送時Japan coma scale(以下JCS)は200、瞳孔散大でCT上右前頭頭頂部に7センチ前後の血腫を認めた。入院当日にAVM摘出術、血腫除去術、外減圧手術施行した。<BR>【説明と同意】<BR>ヘルシンキ宣言に基づき、患者および家人に対し、症例報告する旨を十分に説明し、同意を得た。<BR>【理学療法経過】<BR> 第2病日目より、理学療法開始。初期評価時JCSは30、右上肢にわずかな随意運動を認めるが、除皮質硬直様姿勢を呈していた。Modified Ashworth scale(以下MAS)は、右上下肢3~4、左上下肢 3、足関節背屈可動域は右-50°左-40°で両側の重度内反尖足位を示していた。故に、可動域改善を目的とした早期介入を実施。脳浮腫最大期(第7病日目)は四肢浮腫が著明に出現。看護治療計画にも体位交換毎の可動域訓練とポジショニングを試みるが、右上下肢優位の痙縮は改善されなかった。右足趾には持続的不随意運動も観察されるが、MAS 4と著明な痙縮が持続される。第16病日、JCS I-10、時に瞬きなどでコミュニケーションが可能、バイタルサインが安定したため、車椅子訓練開始。右足部をフットレストに載せることが難しく、内反尖足改善のアプローチは困難な状況であった。第30病日、帝王切開及び残存異常血管摘出術施行。術前評価は、足関節背屈可動域が右-50°、左-40°、両上下肢MAS 3~4であったが、術前徒手矯正時は右-45°左-30°MASは3であった。理学療法士が開頭術中マニピュレーションを実施し、筋弛緩剤を併用する全身麻酔(TIVA)下ではMAS 1、足関節背屈可動域は右-30°左-20°で腓腹筋筋短縮の関節拘縮傾向が認められた。さらに、術中最大背屈位を参考とし、ナイトブレースを目的としたシーネによる装具作成をした。しかし、手術直後のドルミカム、プレセデックスの沈静のみでは強い痙縮が出現し、内反尖足位を認めた。第31病日、前足部に発赤、水疱形成が認められた為、シーネ固定を抜去し床上での可動域訓練・ポジショニング訓練を徹底した。第36病日、水疱除圧・足位修正のため足底板を作成し、車椅子訓練再開。第40病日、足関節背屈可動域は、右-50、左-35、坐位での下肢荷重が開始後、わずかに可動域改善が確認された。第52病日、徐々に座位から立位訓練へ理学療法プログラムを進め装具検討会を実施した。装具は立位訓練の効率化を目的としたもので、支柱付き前開きの短下肢装具を左右に作製予定であったが、転院の運びとなり作成を転院先に申し送った。現在は左SLB+四点杖で監視歩行が可能となっている。<BR>【考察】<BR> 本症例は、脳圧亢進と錐体路障害による重度な痙縮が早期より出現し、切迫流産を回避するため、立位訓練などの自重を利用した積極的な足関節可動域のアプローチが実施できず、徒手的な関節可動域訓練とポジショニングのみを継続したため、足関節可動域維持、改善に難渋したケースであった。臨床所見経過では、MAS・足関節可動域に画期的変化はみられず、痙縮治療のガイドラインから認められるような、持続的伸張法としてとらえるポジショニングや、装具療法を目的としたシーネ固定も、本症例のような強い痙縮筋に対して、効果を持続することは難しく、痙縮の持続的コントロールについては、あまり望ましい治療効果が得られなかった。<BR> 本症例において、MASと足関節可動域の変化として、最も痙縮に対し治療効果が認められたのは全身麻酔下(TIVA)であり、ドルミカム、プレセデックスなどの沈静中も痙縮が増強する臨床所見から、沈静ではなく筋弛緩剤の効果は確実であったと考えられる。<BR> 近年、筋弛緩薬に対する痙縮のコントロールには否定的な報告もあるが、筋緊張緩解に関して、服薬状況と理学療法の併用が痙縮コントロールにおいて治療効果が高いことを推察させた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 理学療法実施と並行して投薬による筋緊張コントロールは、関連身体症状への汎化も含め理学療法プランを円滑に進める手段として有効であり、重症症例に対する筋緊張亢進のメカニズムの推論と筋弛緩剤の薬理作用に対する検討が、筋緊張亢進に伴う障害の改善を目的とした理学療法施行に重要であると考えられた。
著者
青山 敏之 金子 文成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1O2001, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】運動イメージ想起に伴う脊髄反射の変化に関しては多くの相反する結果が報告されており,未だ一定の見解が得られていない.本研究の目的は運動イメージ想起によるH反射と伸張反射の振幅の変化を比較することにより,運動イメージ想起がγ運動ニューロンを介した脊髄反射の利得調節に及ぼす影響を明らかにすることである.また,その効果がイメージ想起する運動の強度や方向に依存して変化するかを明らかにすることである.【方法】十分な説明の上同意の得られた健常者を対象とした.測定肢位は椅子座位とし,実験用に作成された伸張反射測定装置の上に左下肢を載せ安楽な姿勢を保った.測定開始前,被験者は足関節底屈・背屈の随意性最大収縮(MVC)と50%MVCを実施した.そして,それぞれの強度の運動イメージ想起を行えるよう練習した.筋電図は表面皿電極を使用し,前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋からH反射と伸張反射を記録した.H反射は脛骨神経の電気刺激により導出した.伸張反射は角速度を3段階に設定し,足関節の他動的な背屈運動に伴う伸張反射を記録した.実験課題1:安静保持,足関節背屈運動イメージ想起(背屈イメージ),足関節底屈運動イメージ想起(底屈イメージ)とした.想起する運動イメージの強度はMVC時のものとした.実験課題2:実験課題1の条件に加え,想起する運動イメージの強度を50%MVCとした底屈・背屈イメージを実施した.統計学的解析はH反射,伸張反射の振幅に関して条件を要因とした反復測定による一元配置分散分析を実施した.【結果】実験課題1:H反射では条件を要因とした主効果はなかったが,伸張反射では底屈イメージ時に安静時よりも有意に振幅が増大した.実験課題2:背屈イメージではH反射,伸張反射ともに想起する運動の強度の変化に伴う主効果はなかった.底屈イメージでは,H反射の振幅に変化がなかったが,伸張反射ではイメージ想起する運動の強度がMVCの時のみ安静時よりも有意に振幅が増大した.【考察】H反射と伸張反射ではそれぞれの反射回路に筋紡錘が含まれるかどうかに相違がある.つまり,反射回路に筋紡錘が含まれる伸張反射はそうでないH反射に比べγ運動ニューロンによる筋紡錘の感度変化の影響を受けやすいといえる(Jeannerod, 1995).よって,本研究において運動イメージ想起に伴い伸張反射の振幅が選択的に増大したことは,運動イメージ想起がγ運動ニューロンを介した脊髄反射の利得調節に寄与している可能性を示唆する.さらに,その効果はイメージ想起する運動の強度と方向に依存するといえる.【まとめ】 本研究ではH反射と伸張反射を用い運動イメージ想起が脊髄反射の利得調節に及ぼす影響について検討した.その結果,運動イメージ想起により選択的に伸張反射の振幅が増大した.これは運動イメージ想起がγ運動ニューロンを介した脊髄反射の利得調節に寄与していることを示唆する.
著者
伊藤 実樹子 山本 泰雄 菅 靖司 当麻 靖子 鈴木 由紀子 川越 寿織 山田 摩美 重田 光一 黒川 宏伸 酒巻 幸絵 澤口 悠紀 山村 俊昭 中野 和彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.466, 2003

【はじめに】日本スポーツマスターズの第一回大会が2001年9月に行なわれた。本大会は中高年の競技レベルの全国大会である。その予選大会である北海道四十雀サッカー大会そして五十雀および六十雀サッカー大会に、我々は救護班として参加する機会を得ている。今回、中高年サッカー競技における傷害の特徴を知ることを目的に、北海道大会における傷害状況をまとめ、若干の考察を加えたので報告する。【対象と方法】対象は2001年7月及び2002年7月に開催された北海道四十雀(40歳以上)・五十雀(50歳以上)・六十雀(60歳以上)サッカー大会全65試合の参加登録者、延べ1458名である。各試合会場のピッチサイドに医師と理学療法士が控え、試合中に発生した傷害の診断と初期治療を行い、その内容を記録した。記録内容の中から、疾患名・受傷部位・重症度・受傷状況・処置について検討した。【結果】全65試合において、傷害は35件発生した。内訳は四十雀39試合中28件(0.6件/試合)、五十雀18試合中6件(0.3件/試合)、六十雀8試合中1件(0.1件/試合)であった。傷害別では筋腱損傷16件、創傷7件、靭帯損傷5件、打撲4件、骨折1件、脳震盪1件、腰痛1件と筋腱損傷が最も多かった。部位別にみると頭部6件、上肢2件、体幹2件、下肢25件と下肢が最も多く、その内訳は大腿6件、膝3件、下腿13件、足部・足関節3件であった。試合続行不可能な重症例が35件中32件と91%をしめ、4件は救急車で病院搬送を行った。主な疾患を挙げると、肉離れ9件、アキレス腱断裂、腓骨開放骨折、脳震盪、左環指PIP関節脱臼がそれぞれ1件であった。受傷状況は接触が11件、非接触が24件と非接触が7割を占めた。処置ではアイシング、テーピング、ストレッチなど、約半数で理学療法士が関与した。【考察】中高年の競技レベルの大会においては、傷害発生総数は多くはないものの、重症疾患の発生が多いのが特徴的であった。高校サッカー大会の傷害調査(鈴木ら、2001)に比べて、発生総数は1/3であったが、試合続行不可能な重症疾患に限ると約6倍の発生頻度であった。今後もデータを蓄積するとともに、重症疾患の発生予防対策が急務と思われた。一方、本大会では競技時間が四十雀大会で計50分、五十雀、六十雀では計40分と短く、しかも20名の登録選手全員が主審の許可を得て交代することができ、一度ベンチに退いた後も再び試合に出場できるルールがあり、選手の負担が軽減される工夫がもりこまれている。よって、選手がベンチに退いている間に理学療法士がストレッチやテーピングをすることで、傷害発生を予防し、競技の継続を支援することが可能となる。今後、選手達へよりよいサポートを提供できるように経験を積み重ね,検討を加えていきたい。
著者
成田 亜希
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【目的】</p><p></p><p>近年,理学療法士学生の学力や学習動機づけの低下が目立っている。このような学生の学力や学習動機づけを向上させ,国家試験合格へと導くことは教員の責務であると言える。そこで本研究では的確な学習支援を行うため,卒業生を対象に卒業時成績や卒業時の学習動機づけが入学前学力や在学時成績とどのような関係にあるのかを探索した。また成績不振者を出さないような学習指導をどのタイミングで行っていくのかを検討した。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>理学療法士養成校を卒業した88名を対象に調査を実施した。卒業時成績は模擬試験成績を用いた。入学前学力は高校偏差値,入試区分,入学前実力テスト(国語)の成績を用い,在学時成績は入学後初回小テスト,主要科目において毎時間行う復習テストの月集計,各学期末に行う模擬試験成績を用い,卒業時成績と比較した。自己決定理論に基づく学習動機づけに関する質問紙調査は3年次国家試験直前に実施した。その学習動機づけタイプと入学後に専門的学習を開始し初めて挑んだ小テスト成績とを比較した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>卒業時成績と高校偏差値の間にやや相関がみられたが,卒業時成績と入試区分・入学前実力テストの間に相関はみられなかった。次に卒業時成績は1年次4月初回小テスト成績の間にやや相関がみられ,1年次前期各月末・1年次前期~3年次前期の各学期末成績の間にそれぞれかなりの相関がみられた。また卒業時成績と1年次基礎医学科目(解剖学・運動学・生理学)成績との間でもかなりの相関がみられた。そして卒業時に学習動機づけが外的調整の学生は1年次4月初回小テストで一番低い成績であった。また1年次4月末成績で留年・退学者のうち66.7%が平均点より標準偏差以上,下回っていた。留年・退学・国家試験不合格者のうち81.8%が基礎医学科目成績において平均点より標準偏差以上,下回っていた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>入学前の学力は卒業時成績には影響しない。入学後の1年次前期成績,さらに1年次4月末成績ですでに卒業時成績とかなりの相関があり,1年次4月末には成績不振者を発見できることが示唆された。ゴールデンウィーク前には成績不振者を特定し,連休中に知識を整理し直すような課題の提示が必要である。また連休明けには補習を実施し,学習時間の確保,学習方法の指導を行うべきである。理学療法学のように基礎分野,専門基礎分野,専門分野という積み上げ型の学習では,入学直後から適切な学び方をすることが大切である。特に理学療法学の根幹である基礎医学科目ができていると卒業時にも良い成績であることが明らかとなった。また1年次4月初回小テストで成績が悪い学生は卒業時にも学習動機づけが低いことがわかった。入学当初から学習は単なる暗記ではなく理解し自分で説明できる「生きた知識」を備えることを指導し,小テストで良い成績が取れるよう導くべきである。それによって学生は有能感をもち,学習動機づけも高めていけると考える。</p>
著者
新田 祐子 鈴木 竜太 野宮 博子 井上 麻美 萩原 良治 岡 亨治 武田 利兵衛 中村 博彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E0723, 2008

【はじめに】脳卒中片麻痺患者において、より高位の移動手段を獲得することは、QOL拡大に必要不可欠である。しかし、立位や歩行時に足趾の筋緊張が亢進し屈曲変形をおこす患者も少なくない。これにより、足尖部への荷重が生じ疼痛が誘発され、歩行時の疼痛や歩行能力を低下させる要因になっていると考えられる。この屈曲変形の抑制により、裸足歩行で趾腹接地となり疼痛抑制し、足趾の正常なアライメントに整えることで安定性が増し、歩行能力拡大へつながるのではないかと考えた。claw toe を呈している脳卒中患者に、前足部のみの足趾伸展・外転装具(以下、簡易装具)を作製・使用することで、良好な結果を得られた。今回抄録では一症例を示す。<BR>【症例A】左被殻出血の30代女性、趣味は温泉や旅行。Br.stageは上肢・手指2、下肢3、表在・深部覚共に重度鈍麻。裸足歩行時、遊脚期にてclaw toe(MAS:3)、内反尖足出現し、足尖外側接地となる。自重ではclaw toe抑制困難であり、足尖部に疼痛出現。移動はプラスチック製AFOを使用し、屋内T-cane歩行自立、屋外は車椅子併用。ADLは入浴・階段以外自立レベル。<BR>【装具検討】裸足での長距離・長時間歩行は、claw toeにより生じる足尖部痛のため困難であった。歩行速度向上には背屈を可能にし、歩幅増大を図ることが必要であった。また、本人の希望もあり、より軽量かつ簡易的で温泉で使用可能な装具を検討した。これらを考慮し、市販の足趾パッドを使用し片手で着脱可能な簡易装具を作成した。<BR>【結果】簡易装具装着により立脚期のclaw toeが抑制され、前足部での接地へと変化し疼痛が軽減した。また、前足部接地になったことで自重により内反も抑制されやすくなった。10m歩行では、簡易装具は裸足よりも歩行速度と重複歩距離で増加が見られた。退院後、簡易装具使用によりclaw toeが減弱し疼痛は消失。歩行のしやすさなどの主観的変化も大きく改善し、趣味であった温泉にも足を運ぶことができたようで、QOL向上につながった。現在では装具使用せず歩行している。<BR>【考察・まとめ】足趾の運動時筋緊張が高く足趾変形が出現する脳卒中片麻痺患者に、簡易装具を使用したことで、足趾の伸展・外転筋を持続的に伸張することとなり、痙性抑制効果が得られ、claw toeも抑制されたと考えられる。また、足趾を伸展位に固定したことで、疼痛が軽減され、足趾の接地・荷重が簡易装具を介して可能となった。これにより、足底の支持面積が増加し足趾のアライメントが矯正されたと考えられる。その結果、歩行速度の向上がみられ、主観的変化も大きく改善し、退院後自宅内で日常的に使用し、裸足に近い状況での歩行が獲得されたと考えられる。このような症例では、歩行能力・QOL向上に有用と考えられる。今後、症例数を重ね有用性・妥当性の検討を行いたい。<BR>
著者
清山 風人 伊藤 菜々 大橋 裕平 田中 志歩 藤谷 亮 小森 祐輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-201_2-H2-201_2, 2019

<p>【はじめに、目的】頸部姿勢保持筋の異常筋緊張をもつ患者おいて,うつ症状だけでなく運動に対するネガティブ感情(恐怖,つらい)を持っていることが多い.そのため頭頸部姿勢保持筋の筋機能異常は感情と関連すると考えられてきた.しかしながらそれらを示す検討はない.感情と姿勢保持筋の関連を明らかにすることは,感情と筋制御の関連を示す基礎的知見となる.そこで本研究では健常成人を対象に感情が頭頸部姿勢保持筋に与える影響について検討することを目的とした.</p><p>【方法】顔面神経麻痺などの既往のない健常成人学生19名(男性11名,女性8名)を対象とした.実験1としてポジティブ映像(笑い①,笑い②),ネガティブ映像(高所,恐怖,つらい)をランダムに見せ,その間の表情筋(大頬骨筋,皺眉筋,咬筋)および頸部姿勢保持筋(後頸筋群,肩甲挙筋,僧帽筋,胸鎖乳突筋)の筋活動を表面筋電図によって計測し,目的とする感情が得られたかをVASにより記録した.またEMGデータはフィルタ処理,二乗平方根平滑化処理を行い,安静時の各筋活動のRMSを基に正規化した.実験2では,笑い・怒り・つらいの3つの表情を各被験者にランダムにとらせ,その際の表情筋および頭頸部の筋活動を実験1同様に記録した.また実験1,2において姿勢が頭頸部の筋活動に影響しないよう姿勢は固定し,頭頸部の姿勢を矢状面上より撮影し,姿勢が崩れた場合はその試技を除外し,試間での姿勢評価を行った.各実験で得られたiEMG,姿勢に対し一元配置分散分析を行い,有意差のあった項目に対して多重比較検定を行った.有意水準はいずれも0.05未満とした.</p><p>【結果】実験1の結果から,ポジティブな動画を見た際に大頬骨筋,咬筋,胸鎖乳突筋が有意に増加した(p<0.05).またネガティブな動画を見た際に皺眉筋(p<0.05)が有意に増加した.実験2の結果から大頬骨筋,咬筋,胸鎖乳突筋は笑いの表情を作ることで,また皺眉筋が怒りの表情を作ることでそれぞれ有意に増加した(p<0.05). また実験1,実験2の笑い,つらいに頭頸部の筋活動で有意な差を認めなかった.また各実験間で実験1,2前後の姿勢に有意な変化は認めなかった.</p><p>【結論(考察も含む)】本実験の結果から,感情の有無が頭頸部筋活動に影響を示さないことが明らかになった.このことから,感情変化に伴う姿勢や頭頸部の筋緊張の増加は短期的ではなく長期的,また二次的に発生するものであること考えられる.このことは頸部姿勢保持筋の過緊張とネガティブ感情を持つ患者に対する理学療法アプローチとして,感情にではなく,姿勢保持筋に対する姿勢改善や体操などの運動療法がより重要であるという基礎的知見を示すものである.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,実験を行うにあたり事前に全対象者に対して本実験内容,趣旨,データの取り扱いについて十分に説明を行い,紙面にて同意を得た上で実験を行った.</p>
著者
世古 俊明 隈元 庸夫 高橋 由依
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101430, 2013

【はじめに】大殿筋、中殿筋は股関節の肢位の違いによって筋線維走行や筋線維長が変化し、発揮される筋活動や運動作用の逆転が起こり筋機能も変化する。そのため立位保持や歩行など運動機能を考える上で関節角度の変化に伴う筋の作用や筋力発揮の特性を解明することは運動療法で重要となる。とりわけ大殿筋と中殿筋のトレーニングは関節可動域制限などの理由にて股関節屈曲位での実施となることが多々みられる。本報告の目的は、股関節の肢位の違い及び運動の違いが大殿筋、中殿筋の筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し、その機能を考察することである。【方法】対象は健常者9 名(全例男性、平均22.5 歳、169.7cm、65.0kg)とした。施行運動は等尺性股関節伸展運動(股関節伸展運動)と等尺性股関節外転運動(股関節外転運動)の2 種類とした。施行条件は股関節の屈曲角度の違いとして、側臥位での股関節屈曲90 度位(90 度位)、股関節屈曲0 度位(0 度位)、股関節伸展15 度位(−15 度位)の3 条件とした。90 度位のみハムストリングスの影響を最小限とするため膝関節90 度屈曲位とした。筋活動の測定には表面筋電計(Tele Myo G2、Noraxon社製)を用いた。右側の大殿筋上部線維(UGMa)、大殿筋下部線維(LGMa)、中殿筋(GMe)、大腿二頭筋(BF)、腰部背筋(LE)を導出筋とし、得られた筋活動を徒手筋力検査判定5 の筋活動量で正規化し、これを%MVCとして算出した。なお筋電図は生波形を全波整流し、筋電図解析ソフトにて解析した。また施行運動での股関節伸展筋力と股関節外転筋力を施行条件ごとに徒手筋力測定器(MICROFET2、Hoggan Health社製)で計測し、体重で除した値をそれぞれの筋力値として採用した。筋電図と筋力値の測定は同期化し、被験者の施行運動中は検者と別の検者が体幹を固定して測定の再現性に努めた。各筋の%MVCを施行運動の違いで、筋力値を施行条件の違いで比較検討した。統計処理はt-test、Welch検定、Wilcoxon-t検定、Holmの方法を用いて有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に則り、十分な配慮を行い、本研究の目的と方法、個人情報の保護について十分な説明を行い、同意を得た。【結果】UGMa、LGMaの%MVCは−15 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。UGMa、LGMaの%MVCは90 度位で股関節伸展運動時よりも股関節外転運動時に高値を示した。GMeの%MVCはすべての施行条件で施行運動の違いによる差を認めなかった。BFの%MVCは0 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。LEの%MVCは90 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。股関節伸展筋力値は施行条件の違いで差を認めなかったが、股関節外転筋力値は90 度位、−15 度位よりも0 度位で高値を示した。【考察】UGMa、LGMaは筋走行の特性から股関節伸展位では伸展作用、屈曲位では外転作用を有することが考えられている。今回、大殿筋の筋活動量が−15 度位では股関節伸展運動時に、90 度位では股関節外転運動時に筋活動量がそれぞれ高値を示したことは、この解剖学的筋走行の影響を筋電図学的に裏付ける結果になったと考える。また股関節伸展筋力値が施行条件で差を認めなかった。この股関節伸展運動時の筋活動量と筋力値の結果は、UGMa、LGMが90 度位では筋長が伸張位となるため活動張力よりも静止張力に依存し、−15 度位では筋長が短縮位となるため静止張力よりも活動張力に依存していた可能性を示唆するものと考える。また骨盤の代償動作を固定していたとはいえども90 度位での股関節伸展運動時にはLEが伸張位となり骨盤を介した股関節伸展運動の固定筋として活動しやすく、UGMa、LGMaによる伸展運動を効率的に発揮させていた可能性も考えられた。GMeがすべての施行条件で股関節外転運動時と股関節伸展運動時の筋活動量に有意差を認めない一方で股関節外転筋力値が0 度位で高値を示したことは、股関節深屈曲位よりも浅屈曲位でより活動すると筋電図学的に報告されている大腿筋膜張筋の影響が考えられ、膝関節屈曲角度要因とともに今後の検討課題となった。【理学療法研究としての意義】股関節屈曲角度の違いによる筋活動の違いとして、中殿筋は今後の検討課題が明確となり大殿筋は筋活動特性の一知見が筋電図学的に得られた。この知見は臨床での運動療法時や動作分析時における基礎的情報になると考える。
著者
大野 善隆 後藤 勝正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0234, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】加齢に伴う筋肉量の減少ならびに筋力の低下(加齢性筋肉減弱症:サルコペニア)の予防と症状改善のため、高齢者に対して筋力トレーニングが奨励されている。しかし、筋力トレーニングは過負荷の原則に基づくため、高齢者にはリスクが大きい。したがって、安全かつ効率的な筋力トレーニング法の早期開発が望まれている。最近、過負荷の原則に依存しない筋力増強法が報告されている。その中の1つに、熱刺激の負荷による筋力増強法がある。熱刺激に対する筋細胞の応答に関しては、筋細胞の肥大と軽運動との組み合わせによる効果の増大、負荷除去に伴う筋萎縮の抑制、そして廃用性筋萎縮からの回復促進なども報告されている。したがって、熱刺激はサルコペニアの予防と症状改善に有効な方法であると考えられるが、熱刺激による筋肥大の分子機構は明らかでない。転写因子の1つであるnuclear factor-κB(NF-κB)は、サイトカイン(TNFα、IL-1)などの刺激によって活性化する。このNF-κBの活性化は、骨格筋分化の抑制およびタンパク質分解に関与することが報告されており、骨格筋細胞の可塑性発現に寄与していると考えられる。しかし、熱刺激に対するNF-κBの応答ならびに骨格筋肥大の関連性は明らかでない。そこで本研究は、熱刺激によるNF-κBの応答について検討し、熱刺激による骨格筋肥大におけるNF-κBの関与を明らかにすることを目的とした。【方法】実験対象には、マウス骨格筋由来筋芽細胞C2C12を用い、熱刺激群及び対照群を作成した。筋芽細胞を播種し、筋芽細胞に分化させ、筋管細胞に熱刺激を負荷した(熱刺激群)。熱刺激条件は41°Cの環境温に60分間の曝露とした。同じ期間に熱刺激を負荷せず、培養した細胞を対象群とした。この熱刺激後、直後および24時間後に細胞を回収した。回収した細胞のタンパク量、NF-κBの応答を測定し、評価した。また、細胞を分画ごとに回収し、各分画におけるNF-κBの応答を検討した。【結果】熱刺激負荷24時間後、筋タンパク量の有意な増加が認められた(p<0.05)。また、熱刺激後、NF-κBの発現量の有意な減少が認められた(p<0.05)。しかし、熱刺激負荷24時間後には対照群のレベルまで増加した。【考察】熱刺激によって引き起こされる筋タンパク量の増加は、NF-κBの発現量の減少を伴うものであった。熱刺激による筋タンパク量増加の一部は、NF-κBシグナルを介したものであることが示唆された。【まとめ】熱刺激による骨格筋肥大の分子機構の解明により、安全かつ効率的な筋力トレーニング法の早期開発が可能となり、高齢者の健康維持及びリハビリテーションへ貢献が大きいと考えている。
著者
小池 有美 羽野 卓三 川邊 哲也 上西 啓裕 花井 麻美 坂口 侑花里 橋﨑 孝賢 森木 貴司 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1055, 2011

【目的】自律神経機能については様々な測定方法があるが,近年簡易で無侵襲な電子瞳孔計での検査が自律神経機能検査として用いられつつある.我々が日常的に行う重い荷物を持ち続けたり,ひっぱる動作は息をこらえて行うことが多く,バルサルバ効果を伴い血圧上昇が懸念される.また,心を落ち着かせるためによく行われる深い呼吸は,迷走神経を経由して呼吸中枢に伝えられ,自律神経の影響を受けることが知られている.今回,電子瞳孔計を用いて息こらえ時および深い呼吸を継続した時の血圧,脈拍,瞳孔機能の状態を測定し,それぞれ安静時の状態と比較検討した.【対象】健常成人14名(男性7名,女性7名)で平均年齢は23~49歳(平均31.2歳±5.8).全員高血圧と診断されたことがなく,降圧薬の服用経験もない.【方法】測定は椅座位で十分に安静をとった後,机上で血圧と脈拍を測定した.瞳孔機能については電子瞳孔計(イリスコーダーデュアルC10641; 浜松ホトニクス)を用いて瞳孔径と縮瞳速度,散瞳速度を測定した.息こらえについては5分間の安静椅座位の後,1分以上出来るだけ長く息をこらえ,自己申告で限界10秒前を知らせ,各項目を測定した.深い呼吸については5分間の安静椅座位の後,過換気とならないようにゆっくり深く溜息をつくように閉眼で2分間呼吸するよう指示した.測定は1分を経過した時点で行った.統計学的検定方法についてはstudent-t-testを用いて,p<0.05を有意差ありと判定した.【説明と同意】対象者には事前に十分に説明し同意を得た.尚,本検討は和歌山県立医科大学倫理審査会により承認されている研究の一環として行った.【結果】収縮期血圧の平均値は安静時105±4.62mmHg,息こらえ時129±7.45 mmHg,深い呼吸時105±3.63 mmHgであった。安静時との比較ではそれぞれに差はみられなかった.拡張期血圧は安静時70.2±4.68mmHg,息こらえ時83.1±8.73 mmHg,深い呼吸時64.7±3.73 mmHgで,安静時と比較し息こらえ時は有意に上昇し深い呼吸時は有意に低下を認めた.脈拍は安静時73.4±4.17bpmだった.息こらえ時は73.4±7.45bpm,深い呼吸時は68.7±3.07bpmで安静時と比較し差はみられなかった.初期瞳孔径は安静時6.16±0.64mmであった.息こらえ時は6.41±1.01mm,深い呼吸時は6.30±0.66mmであり、安静時と比較し息こらえ時で有意に拡大していた.最小瞳孔径は安静時3.82±0.83mmであった.息こらえ時は4.19±0.81mm,深い呼吸時は3.71±0.92で安静時と比較し息こらえ時で有意に拡大していた.縮瞳速度は安静時4.68±0.57mm/sであった.息こらえ時は4.96±1.51mm/s,深い呼吸時は6.1±3.11mm/sで安静時と比較し差はみられなかった.散瞳速度は安静時2.26±0.56mm/sであった.息こらえ時は2.94±1.92mm/s,深い呼吸時は3.1±0.91mm/sで,安静時と比較し深い呼吸時は有意に早くなっていた.【考察】息む動作では血圧上昇を伴うことが多く,高血圧患者や未破裂動脈瘤保持者において禁忌とされる.今回,電子瞳孔計を用いた検査で息こらえは安静時に比較し,拡張期血圧上昇や初期瞳孔径および最小瞳孔径の増大を認めた.これらはバルサルバ効果による交感神経の刺激により血圧上昇と,瞳孔径が増大したためと考える.また,今回行った深い呼吸では安静時と比較し拡張期血圧は低下し,散瞳速度は有意に亢進した.深呼吸などの深い呼吸では,肺が拡張し伸展受容器が刺激され,迷走神経を介して吸気中枢に伝わりその働きが抑制される.今回の検査では迷走神経の影響を受けて血圧低下が起こり,その間縮瞳していた瞳孔が光刺激により散瞳したためと考える.【理学療法学研究としての意義】電子瞳孔計を用いた瞳孔機能測定は、急激な血圧上昇が禁忌とされる疾患を持つ患者へのADL指導や運動療法発展に有用であると考える.<BR><BR>
著者
濱田 輝一 二宮 省悟 吉村 修 楠本 正順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】我々は,より良い臨床実習指導体制の構築の為に,H23年度から臨床実習指導の現状把握を目的に,まず指導者を対象に調査を行い,第48回及び第49回本学術大会にて発表した。今回,対象を学生に置き,実習遂行での障壁の1つと考えられる「ストレス」に着目し実習開始前と終了後で比較検討することを目的とした。【方法】本学3年次生83名を対象とし,調査期間を3つ設定。アパシーは平成25年4月3日から6か日間。実習前調査は平成25年7月17日から翌日まで。実習(8週間)後調査は,平成26年3月12日から翌日まで。方法は,質問紙無記名回答で,選択肢と自由記載の2種。質問紙事前処理として,回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適切と判断したものは除外した。その結果,有効回答54名。(男31名,女23名。20.6±0.68歳。)課題は,以下の点とし処理・検討した。1.アパシーとの関係(散布図,スピアマンの積率相関係数)と実習前後での比較:1)自覚ストレス耐性強度(VAS選択肢:0~10),2)ストレス解消の手段個数。2.ストレスピーク時期とその原因,及び対処方法(数と内容をカテゴリーで分析)。【結果】課題1.アパシー総得点との関係では,以下の2項目とも実習前後で関係は見られなかった。1)自覚ストレス耐性強度:実習前(以降,前)r=0.067,実習後(以降,後)r=0.028。前後比較では,ストレス耐性強度:前4.03±2.32,後4.41±2.37。t=0.843,P<0.05。2)ストレス解消の手段個数:前r=0.0670 r=0.35578,後r=0.028。前後比較では,前2.89±1.65,後2.26±1.37,t=2.029,P>0.05。アパシーと自覚ストレス強度の増減:前 r=0.3558,後r=0.054。課題2.ストレスピーク時期と原因(後のみ):1)時期(VAS:max~min,mean・SD);1~8週目,3.98±2.48週目。2)ピーク時のストレスの原因:最頻値順でその因をみると,「感情」要因:18件,23%(内訳:進行・終了の目途,できないこと,焦り・不安,失敗,現場での緊張,メンタルの弱さ,未熟の認識など)。「環境」要因:14件,19%(内訳:生活や施設に慣れない,施設遠い,他)。「課題・レポート」要因:14件,19%(内訳:課題多い,完成の苦労など)。「知識・技術不足」要因:12件,17%(内訳:行動力ない,下手など)。「対人関係」要因:11件,15%(内訳:SV・CVとの関係:8,職員:2,患者:1)。「体力」要因:4件,6%(内訳:睡眠不足,疲労)。3)(1)ストレスの解消方法の個数(max~min,mean・SD):<前>1~8個,2.71±1.51個。<後>0~7個,2.25±1.39個,前後で比較(t検定)すると,t=2.029,P<0.05で,実習前(以降,前)より実習後(以降,後)の方が少ないと言えた。(2)解消方法(実習前は第1位が複数回答から1位のみ74件,後は第1~3位の112件を採用):方法を4つに区分。まず「運動系」解消法(含,発散系)は,スポーツ,飲食,泣くが該当し,その計は前:24件(38.7%),後:36件(32.1%)。「休息系」解消法(含,非効率)系は,睡眠,音楽鑑賞,入浴などの計,前:12件(19.4%),後:38件(33.9%)。「気分転換系」解消法では,該当の歌う・カラオケ,外出・買物などの計,前:16件(16.1%),後:21件(15.2%)。「交流系」解消法は,友人と話す,携帯で長電話などの計,前:10件(16.3%)に対し後:17件(15.2%)であった。【考察】8週間の実習でストレスが最大になるのは,概ね中間期・4週目(mean±SD:1.5~6週)であり,その原因は,学生自身の知識技術不足もさることながら,普段と違った生活・学習環境も学習活動に影響し,実習における焦りや不安など感情的なものが主体となっていることが伺えた。また,その解消方法が心身疲労を発散させる活発な行動から,実習後には心身を休ませる睡眠,入浴などの静的行動に移行したと考えられ,その結果として,実習前より実後の方が解消の方法数が減じたと推測できる。今後も充実した臨床実習教育のあり方について,引き続き検討が必要であろう。【理学療法学研究としての意義】今回の調査より,実習を養成校,実習施設へ繋ぎ,また学習課題に偏らず,円滑で精神的サポートにも配慮した実習が遂行できる様に生活環境も含めた総合的支援の必要性がわかったことから,より良い臨床実習教育システムの構築に結びつける為のstepとして,大変意義がある。
著者
田中 瞳 植田 拓也 安齋 紗保理 山上 徹也 大森 圭貢 柴 喜崇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】高齢者における睡眠は加齢性変化によって中途覚醒の増加,午睡の増加,睡眠効率の低下などが認められる。高齢者の中でも認知症の前駆段階である加齢関連認知的低下(以下,Aging-associated Cognitive Decline:AACD(Levy R, 1994))者と類似概念の軽度認知障害高齢者において,健常高齢者より日中の眠気が弱い傾向であるという結果が示されている(Jia-Ming Yu, 2009)が,AACD者の睡眠の特徴を示したものは少ない。そこで本研究の目的は,健常高齢者とAACD者の夜間睡眠と日中の眠気を比較し,違いを明らかにすることとした。</p><p></p><p>【方法】対象はA県B市在住の認知症の確定診断がなされている者と要支援・要介護者を除く65歳以上の高齢者116名で,B市の広報誌と基本チェックリストの返送により募集した。除外基準は認知症の可能性(Five Cognitive Functions(以下,ファイブ・コグ)の総合ランク得点が5~10点),うつ症状(Geriatric Depression Scale-15が5点以上),睡眠剤の使用,脳血管障害による片麻痺・高次脳機能障害,データ欠損がある場合とした。調査は郵送で自記式アンケート,会場でファイブ・コグを実施した。調査項目は基本属性,認知機能(ファイブ・コグ),主観的な睡眠習慣や睡眠の質(ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(以下,Japanese version of Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI-J)),日中の眠気(日本語版Epworth Sleepiness Scale(以下,Japanese version of ESS:JESS))である。分析方法はファイブ・コグの総合ランク得点が15点を健常群,11~14点をAACD群として,2群においてPSQI-JとJESSの総得点はMann-Whitney U Test,カットオフ値を基準とした良否はχ二乗検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】健常群37名,AACD群18名の計55名(男性:18名,女性:37名)を選定し,AACDの出現頻度は母集団の19.83%,基本属性(年齢:健常群72.73±4.91歳,AACD群73.50±4.96歳,教育年数:健常群12.62±2.74年,AACD群12.72±2.08年)に有意差は認められなかった。除外者は,認知症の可能性4名,うつ症状41名,睡眠剤の使用7名,データ欠損9名であった。2群において,PSQI-Jの総得点と良否(健常群31名,AACD群16名),JESSの良否(健常群35名,AACD群16名)に有意差は認められなかったが,JESSの総得点(健常群35名,AACD群16)に有意差(p=0.003)が認められ,健常群に比べ,AACD群の日中の眠気が弱かった。</p><p></p><p>【結論】高齢者において健常群とAACD群の主観的な睡眠習慣や睡眠の質に差は認められなかったが,健常群に比べ,AACD群の日中の眠気が弱かった。</p>
著者
伊東 孝洋 陶山 啓子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100311, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 臨床においては踵部の褥瘡予防を目的としてクッション等を用いて下肢挙上を行うことがあるが、過度な下肢挙上により仙骨部に褥瘡を発症する事例が存在する。また先行研究において膝関節拘縮は仙骨部や踵部に対する褥瘡発生リスクを高める要因の一つとされている。以前から褥瘡予防を目的とした背臥位や30°側臥位などの体位と仙骨部接触圧との関係や膝関節の拘縮が仙骨部接触圧にどのような影響を及ぼすか調査した研究はよく行われている。しかし膝関節屈曲拘縮及び下肢挙上の高さが仙骨部接触圧に与える影響については検討されていない。本研究の目的は膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さが、仙骨部接触圧にどのような関連が生じるのか明らかにすることである。【方法】 対象者は20歳から35歳までの健常な成人男性で、BMIが18.5以上25未満の者を対象とした。測定期間は平成23年5月1日~10月31日、測定項目は対象者に対して膝関節角度(0°、30°、50°)と下肢挙上の高さ(0cm、5cm、10cm、15cm、20cm)を変化させ、背臥位におけるそれぞれの仙骨部接触圧を測定した。また対象者の背景(年齢、身長、体重)を調査した。測定方法は仙骨部接触圧をニッタ社製Body Pressure Measurement System(以下BPMSと略す)を用いてベットにマットレス(ケープ社製 アイリス2)を置き、その上にBPMSのセンサーを設置し測定を行った。そして対象者は病衣を着用し、膝関節角度(0°、30°、50°)いずれかに設定したダイアルロック式膝装具 (中村ブレイス社製ラックニリガACL)を装着後、センサー上に背臥位となり、1分間安静を保持した後に全ての膝関節角度と下肢挙上の高さについて、仙骨部最大接触圧を20秒間に1回、計3回測定し平均値を仙骨部接触圧とした。下肢挙上の高さはマットレスから踵部までの距離とし、高さの設定は体圧分散能力のない高さ5cmの足枕とニシスポーツ社製バランスパッド(以下バランスパッド)を用いて設定した。なお下肢挙上時は両下肢を挙上した。 測定において順序効果を相殺するため、膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さの順番はランダムに設定した。統計分析はExcel統計2006を用い、膝関節屈曲角度それぞれにおける下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係をSpearmanの順位相関係数によって求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻研究倫理審査委員会の承認を受け、研究への参加は対象者の自由意志にて行い、書面による同意を得て行った。また個人情報の取り扱いについては氏名についてはコード化し外部に情報流出がないよう十分に留意した。【結果】 本研究に参加した対象者は15名であった。平均年齢は28.6±4.56歳、平均BMIは22.4±1.98であった。それぞれの膝関節屈曲角度における下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係は、膝関節屈曲0°はr=0.41(p<0.001)、膝関節屈曲30°はr=0.35(p<0.001)、膝関節屈曲50°はr=0.41(p<0.001)であった。 【考察】 膝関節0°、30°、50°それぞれにおいて下肢挙上の高さと仙骨部接触圧に有意な正の相関関係が認められた。理由として下肢挙上により大腿部や下腿部後面とマットレスとの接触面積が減少し、大腿部後面や下腿部後面に係る接触圧が仙骨部へ移動したと考えた。また先行研究において大腿挙上運動によって骨盤は後傾方向へ運動するといわれており、下肢挙上による骨盤の後傾運動が生じ、仙骨部接触圧が増加した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢挙上は血圧低下時や整形外科手術前後などで行われる姿勢であり、臨床においてよく行われる姿勢である。また高齢化を迎えるにあたって膝関節屈曲拘縮を有する患者は今後増加することが考えられる。膝関節屈曲角度及び下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関連を明らかにすることで、仙骨部における褥瘡発生及び予防につながる知見が得られる可能性があり、本研究を行う意義は大きいと考える。
著者
下曽山 香織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.C-142_2-C-142_2, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>近年、理学療法士が産業保健専門職として、労働者の総合的な健康状態の向上に寄与するための活動が求められている。産業理学療法による、労働者安全と健康確保への可能性について検討する。</p><p> </p><p>【方法】</p><p>労働者数50名以下の規模の事業所労働者25名を対象とした。対象は建築関連7名、保険会社5名、Web関連5名、着物販売8名である。労働時の作業活動状況を視察後、作業環境管理と健康管理を中心に介入を行った。介入前後、紙面アンケートを実施した。</p><p> </p><p>【結果】</p><p>事業主及び労働者は、「産業理学療法」について「全く知らない」としながらも、「産業理学療法について知りたい」と回答した。実際に事業所内にて労働環境、作業内容の確認を行った所、従事内容により健康不安が異なった。建築関連業務では、大工部門は季節により変化する気温の下、高所や不安定な足場での立位作業が主であり、「脱水になった」「足場から落ちて怪我をした事がある」「上を向く時は肩が痛く、中腰の時は腰が痛くなる」という回答が挙がった。これに対し、機材・工具等と座面の距離や高さを調整し、連続労働による負担を軽減するため、定期的な休息と水分補給の時間を設けた。また、肩及び腰部周囲のストレッチを提案した。設計部門及び保険会社とWeb関連会社は、長時間座位姿勢による作業が多く、「肩周辺の違和感や疼痛がある」と12名が答えた。また、女性勤労者から「出産後で身体的な変化が起こり、仕事を続けることに不安がある」との声が挙がった。これに対し、パソコンや機材等と椅子の距離や高さ、座位姿勢の確認と調整・修正を行った。同時に、肩及び腰部周囲のストレッチを提案した。出産後の不安について、個別面談内で身体状況を聞き取り、出産に伴う変化の説明と対応、セルフマッサージ等の指導を実施した。事業主へも出産に伴う身体・精神的変化への理解を促した。着物販売会社は、姿勢による身体的不調はないが、労働者は65歳以上の高齢者であり、健康不安を抱えながらも、「これからも仕事を続けたい」と希望していた。これに対し、体操を導入し、運動習慣を身に着けると同時に、コミュニケーションの機会を設け、互いに勤労意欲を高めることを提案した。また、休憩時間の間食内容を一部変更するよう促した。介入後アンケートにおいて、全ての対象者が、産業理学療法士の存在について「必要性があると思う」と答え、継続した介入を求める声が挙がった。</p><p> </p><p>【結論】</p><p>労働安全衛生法遵守及び労働者の健康管理は経営の躍進にも繋がる。高齢化する労働者への、身体状況に応じた労働支援や疾病後復職時の再発防止等の支援も重要である。また、女性活躍推進法が定められた今日、出産前後を含めたケアも必要性を増し、産業保健専門職として、理学療法士による労働者安全と健康確保への貢献度は高く、継続した支援の必要性があると考える。</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は、ヘルシンキ宣言に沿い実施した。全ての対象者に研究目的、内容説明を口頭及び書面にて行い、同意を得た上で研究を進めた。また、本結果の公開についての許可を得ている。</p>
著者
尾崎 将俊 田中 健康 佐藤 里佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,足漕ぎ車椅子Profhand(株式会社TESS)は,肢体不自由者の新移動機器として病院・施設で使用されている。関(2005)は,片麻痺者が足漕ぎ車椅子を使用することによって,歩行速度の改善と麻痺側下肢筋の筋活動量が増大することを示した。足漕ぎ車椅子は単なる移動機器ではなく,下肢機能に対する治療機器として考えることができる。また,江西(1994)は片麻痺患者の歩行自立には安定した体幹機能が必要と述べ,江連(2009)は臨床的体幹機能テスト(Functional Assessment for Control of Trunk:以下,FACT)で評価した体幹機能は片麻痺患者のADLと強い相関関係があったと報告している。足漕ぎ車椅子が,下肢筋力に加え体幹機能の改善に寄与するのであれば,より応用範囲の広い治療機器として用いることができると考えた。本研究では,足漕ぎ車椅子の利用が体幹機能に及ぼす影響について検討した。【方法】[症例]60歳代,男性。脳梗塞後右片麻痺。入院時,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は,上肢III手指III下肢III。感覚は軽度鈍麻。著明なROM制限なし。筋緊張は麻痺側中枢,末梢ともに低緊張。座位・立位・歩行は一部介助。[実験計画]期間:100病日(入院後71日)から16日間。研究デザイン:反復型実験計画ABAB(A1:第1基礎水準測定期4日間,B1:第1操作導入期4日間,A2:第2基礎水準測定期4日間,B2:第2操作導入期4日間)。介入内容:A1:運動療法60分,B1:運動療法40分に加え足漕ぎ車椅子使用10分,A2:運動療法60分,B2:運動療法40分に加え足漕ぎ車椅子使用10分。[測定]各介入ごとに,FACT(点),座位における前方リーチ距離(cm)を測定。各セッション最終日にはShort form Berg Balance Scale(以下,SF-BBS)を測定。[分析]FACTおよび座位前方リーチ距離について,二項分布の確率を利用し,基礎水準測定期A1・A2のcelebration line(以下,CL)を決定。その上で,操作導入期B1・B2において,CLを上回る値について分析。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の了承を得た。研究への参加については,研究者が口頭で説明し同意を得た。【結果】FACTでは,B1・B2においてCLを上回る値は無かった(p=0.1)。座位前方リーチ距離では,B1の全ての値はCLを上回り(p=0.01),B2は4日目を除く値がCLを上回った(p=0.025)。FACTの平均値±標準偏差は,A1:9.3点±1.7,B1:13点±1,A2:13点±1,B2:14点±0であった。前方リーチ距離の平均値±標準偏差は,A1:38.8cm±3.8,B1:46.5cm±1.5,A2:44.8cm±1.2,B2:44.1cm±4.7であった。SF-BBSは,A1:16点,B1:19点,A2:19点,B2:21点であった。【考察】本研究においては,足漕ぎ車椅子使用によるFACTへの影響は認められなかった。FACTは,骨盤と体幹の分節的な動作課題が多い。足漕ぎ車椅子におけるパターン化した下肢交互運動であるペダリング動作のみでは,骨盤と体幹の分節的な運動は改善されず,FACTの得点向上には結びつかなかったものと考える。座位前方リーチ距離は,非介入期であるA1・A2に比べてB1・B2でCLを上回った。前方リーチ距離は,矢状面における座位バランスを反映しているが,運動の制御には下肢機能が関与する。関(2005)は,足漕ぎ車椅子使用によりBRS Iの片麻痺患者でも,麻痺下肢の筋活動誘発効果を有すると述べた。筋出力に関しては,浦川(2007)が,セミリカンベント式自転車エルゴメーターの場合に,バックレスト角度75°が股関節伸展筋出力増加に適していると述べた。足漕ぎ車椅子のバックレスト角度は70°であり,股関節伸展筋出力に適していると考える。このことから,座位前方リーチでは股関節周囲筋を主とした麻痺側下肢筋出力量の増加が,矢状面上の運動である体幹前傾の姿勢制御に影響を及ぼし,座位前方リーチ距離拡大に繋がったと推察する。また,SF-BBSは介入期であるB1,B2で改善傾向にあった。下肢機能改善は,SF-BBSにおいて測定される,立位における姿勢制御に反映されるためと考えた。本研究の結果は,足漕ぎ車椅子は体幹の選択的な活動には影響しないが,下肢の筋活動を促すことで,下肢機能を含めた体幹運動には寄与することを示唆する。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,片麻痺患者の足漕ぎ車椅子使用に関する特異的な影響を検討した点にする。治療機器として足漕ぎ車椅子を活用する場合の一助となると考える。