著者
山内 大士 長谷川 聡 中村 雅俊 西下 智 簗瀬 康 藤田 康介 梅原 潤 季 翔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1031, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】野球選手は肩関節の内旋や水平内転方向の可動域が制限されることが多く,またこうした可動域制限と投球障害との関連も報告されている(Wilk;2011)。可動域制限の要因としては肩関節後方の軟部組織の伸張性低下が大きな要因として考えられており,一般的に肩関節後方タイトネスと呼ばれている。肩関節の内旋・水平内転可動域制限に対するストレッチング(以下ストレッチ)方法としては,水平内転方向へのcross-body stretchと,内旋方向へのsleeper stretchが多く用いられる(McClure;2007)。近年Wilk(2013)らによって,これらのストレッチを改良したmodified cross-body stretch(以下mCS)と,modified sleeper stretch(以下mSS)が提唱された。しかし,実際にこれらのストレッチ方法が関節可動域に及ぼす効果を比較・検討した報告は見当たらない。また,これまでは個別の筋の柔軟性を測定することはできなかったが,近年開発されたせん断波エラストグラフィー機能を用いることで各筋の弾性率を測定することができ,ストレッチが各筋の柔軟性に及ぼす効果を明らかにすることができるようになった。本研究の目的は,mCSとmSSによる肩関節内旋・水平内転可動域制限の改善効果と,各筋の弾性率の変化を比較検討し,これらのストレッチが及ぼす即時効果を明らかにすることである。【方法】対象は大学硬式野球部員24名の投球側24肩とし,無作為に12名ずつmCS群とmSS群とに群分けした。mCSは,投球側を下にした側臥位になり,投球側肩甲骨を固定した状態での水平内転方向へのストレッチである。mSSは,投球側を下にした側臥位から体幹を30°後方に回旋させることで肩関節の圧迫を減じつつ,投球側上腕の下にタオルを敷くことで水平内転角度を確保した状態での内旋方向へのストレッチである。ストレッチは各群とも投球側に対して30秒を3セット行い,ストレッチ前後に測定を行った。可動域計測にはデジタル角度計を用い,背臥位で肩甲骨を固定しながら2nd内旋と水平内転可動域を計測した。各筋の弾性率の計測には超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,測定肢位は座位肩関節90°外転・40°内旋位(2nd内旋位)と座位肩関節110°水平内転位(水平内転位)とし,測定筋は棘下筋・小円筋・三角筋後部とした。各測定項目について,対応のあるt検定を用いて介入前後の値を比較した。有意水準は5%とした。【結果】介入前後で比較すると,各群共に内旋可動域は介入後に有意に増加した(mCS群;49.1±6.2°→55.8±5.5°, mSS群;51.8±6.7°→ 59.7±7.4°)。水平内転可動域はmCS群のみ有意に増加した(mCS群80.5±10.5°→83.9±8.1°, mSS群;85.7±8.8°→85.6±7.2°)。筋の弾性率は,mCS群では2nd内旋位の小円筋(15.5±4.5kPa→13.1±4.2kPa),水平内転位の小円筋(19.6±5.3kPa→15.8±4.1kPa),三角筋後部(30.5±6.5kPa→26.4±6.8kPa)において有意に減少した。一方mSS群では,2nd内旋位の棘下筋(9.7±2.9kPa→8.9±2.3kPa)のみ有意に減少した。【考察】mCS群とmSS群は共に内旋可動域の改善率は同程度であり,2nd内旋位での筋の弾性率はmCS群では小円筋が,mSS群では棘下筋が低下した。一方,水平内転可動域はmCS群でのみ改善が見られ,水平内転位での筋の弾性率はmCS群の小円筋・三角筋後部のみ低下した。以上の結果から,mCSでは小円筋と三角筋後部に対するストレッチ効果が,mSSでは棘下筋に対するストレッチ効果が得られていたと考えられる。2nd内旋可動域に関しては,過去に棘下筋や小円筋に対するマッサージにより内旋可動域が改善するという報告がされており(Poser;2008),本研究の結果からも,これらの筋の柔軟性が増加したことにより内旋可動域が改善したと考えられる。一方,水平内転可動域に関しては,小円筋と三角筋後部の弾性率が低下したmCS群でのみ可動域が改善していたことから,水平内転可動域制限と関連が深い筋は三角筋後部と小円筋であり,mSSではこれらの筋が効果的にストレッチされなかったため水平内転可動域が改善されなかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により,野球選手における投球側肩関節の内旋可動域制限に対してはmCSとmSSの両方法が効果的であり,水平内転可動域制限に対してはmCSが効果的であることが示唆された。また,mCSでは小円筋と三角筋後部,mSSでは棘下筋のストレッチ効果が得られやすいことが示唆された。
著者
仲島 佑紀 藤井 周 坂内 将貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100654, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】鏡視下肩腱板修復術後の早期後療法における腱板機能エクササイズとして等尺性運動が選択され、ホームエクササイズとしても指導することが多い。しかし臨床上、適切な運動負荷量の設定が困難であり、運動時に肩関節周囲筋の過活動など運動習得に難渋する症例を経験する。そのような症例においては前腕や手関節運動を用いた腱板筋群の賦活を行っているが、運動様式の違いによる腱板筋群の筋活動については明らかとなっていない。そこで本研究では肩関節外旋等尺性運動に着目し、運動様式の異なる3種類の腱板機能エクササイズにおける筋活動について、表面筋電図学的に検討することを目的とした。【方法】対象は肩関節に既往のない健常男性17名(25.5±2.1歳)の非利き手側17肩とした。測定筋は棘下筋、小円筋、三角筋前・後部線維とした。測定機器はNoraxon社製Myosystem1400の表面筋電図を使用し、サンプリング周波数は1000Hzに設定した。電極は十分な皮膚処理後に貼付した。測定肢位はすべての運動課題において、外転装具を用いて肩関節外転位、前腕回内外中間位、手関節掌背屈中間位で肘を机上に乗せた坐位とした。運動課題は3種類とし、試行回数は5秒間を3回とした。<1>肩関節外旋等尺性運動(以下、外旋);自家製pulleyを用いて、0.5kg重錘にて肩関節内旋方向の牽引力が加わるよう設定した。抵抗部位を手関節とし、保持させた。<2>前腕回外反復運動(以下、回外);輪ゴムの一方を固定し、一方を母指に掛け、前腕回内外中間位から最大回外位までの反復運動を行わせた。<3>手関節背屈反復運動(以下、背屈);輪ゴムを母指と示指・中指で把持し、手関節掌背屈中間位から最大背屈位までの反復運動を行わせた。<2>と<3>については最大回外位、最大背屈位で輪ゴムが一定の張力となるよう設定し、メトロノームを用いて1秒に1回のリズムで運動を行わせた。解析区間は5秒間のうち中間3秒間とした。筋活動の解析は、各筋の最大等尺性収縮を測定し、得られた筋活動最大値から%MVCを算出した。解析区間で得られた%MVC積分値を筋活動量とし、各運動課題の3試行の平均値を算出した。統計学的解析には2元配置分散分析を用い、各運動様式および各筋活動量を比較検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理委員会で承認を得た後に行われた(承認番号2012019)。被験者に対して倫理委員会規定の同意書を用いて研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】各運動課題における筋活動量(%MVC)は、外旋において棘下筋19.6±11.5、小円筋12.0±5.3、三角筋前部2.5±1.4、三角筋後部3.3±1.5、回外において棘下筋22.1±11.2、小円筋14.7±6.0、三角筋前部3.9±2.9、三角筋後部4.3±2.2、背屈において棘下筋18.7±10.1、小円筋13.4±6.2、三角筋前部3.2±2.4、三角筋後部3.8±2.1であった。2元配置分散分析から各筋の筋活動量に主効果が認められ(p<0.01)、各運動様式には主効果が認められなかった(p=0.19)。交互作用は認められなかった(p=0.96)。【考察】本研究結果は、最も高値の筋活動量が棘下筋であり、次いで小円筋、三角筋後部、三角筋前部の順となり、各運動様式においてその傾向が同様であったことを表している。これは本研究運動課題における低負荷外旋等尺性運動と回外や背屈を用いた腱板機能エクササイズがそれぞれ同様の運動効果をもたらす可能性を示唆するものと考える。林らは肩関節ROMエクササイズとしての腱板等尺性収縮の有効性を報告し、また石谷らは、術後早期の腱板機能エクササイズについて、鏡視下腱板修復後のRSD様症状の発生予防や挙上角度の早期改善に有利であること、装具固定期間の等尺性収縮を用いた早期後療法と術後1ヶ月後にエクササイズを開始した群において腱骨接合部癒合不全率に差がなかったと報告している。先行研究からも後療法における等尺性運動は有効であると考える。しかし臨床上、外旋等尺性運動においては運動強度を定めることが困難であり、組織修復期間の過剰な筋収縮のリスクなどを考慮する必要がある。そのため早期後療法として低負荷での筋収縮を行わせるうえで、運動課題が容易である前腕や手関節を用いた腱板機能エクササイズの有用性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】腱板機能エクササイズについて表面筋電図学的検討を行ない、各運動様式で筋活動が同様の傾向を示したことは、本研究結果が臨床上、症例に応じた運動療法選択の一助となる可能性が示唆された。
著者
溝口 想 黒川 純 佐久間 孝志 室井 聖史 小口 駿
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0371, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】肩関節疾患では腱板機能が重要視されており,腱板エクササイズの肢位や負荷量などについてさまざまな報告がなされている。我々は,腱板エクササイズの運動速度について検討し,運動速度の増加が棘下筋と三角筋の筋活動のバランスに影響を与えることを報告してきた。しかし,以前の報告は求心性収縮相のみの検討であり,遠心性収縮相の筋活動については検討していない。筋活動へ与える影響は運動速度だけでなく収縮様態によっても異なると考えられ,腱板エクササイズにおいても求心性収縮相と遠心性収縮相では運動速度の影響が異なることが予想される。本研究の目的は腱板エクササイズにおける棘下筋・三角筋の筋活動を求心性収縮相と遠心性収縮相で分け,運動速度が各筋活動に与える影響を検討することである。【方法】対象は肩関節に疾患のない健常者13名とした。測定肢位は端座位で肩関節45°屈曲位・肘関節90°屈曲位・前腕回外位で肘を机上に乗せた肢位とした。被験筋は棘下筋・三角筋中部・三角筋後部とした。運動課題は,セラバンドを把持させ,肩関節内旋60°から0°までの範囲の内外旋運動を9回とした。なお,運動速度はメトロノームを用い60回/分・120回/分・180回/分とした。解析区間は筋電図とビデオカメラを同期し外旋運動開始から内外旋0°までを求心性収縮相(CC相)とし,内外旋0°から内旋運動終了までを遠心性収縮相(EC相)とし,9回における前後2回を除いた中間5回の値を使用した。また,Danielsらの徒手筋力検査法に準じた肢位でMMT3遂行時の等尺性収縮を5秒間測定し中間3秒間の値から平均筋活動(RVC)を算出し,得られたデータより各筋の平均筋活動を正規化し,%RVCを算出した。検討項目は,棘下筋・三角筋中部・三角筋後部の筋活動の割合とし,各相別における運動速度間で比較した。統計学的処理はSPSS ver.12.0を使用し,棘下筋・三角筋中部・三角筋後部の筋活動の割合を一元配置分散分析を用いて検討した。その後の下位検定としてTuckyの多重比較を行った。なお,有意水準は5%とした。【結果】棘下筋はCC相・EC相ともに各運動速度で有意差を認めなかった。三角筋中部はCC相において各運動速度で有意差を認めなかった。EC相においては60回/分で6.2%,120回/分で8.6%,180回/分で10.4%であり,60回/分と比較し180回/分で有意に高値を示した。三角筋後部はCC相において60回/分で11.8%,120回/分で15.1%,180回/分で18.4%であり,60回/分と比較し180回/分で有意に高値を示した。EC相においては60回/分で9.5%,120回/分で11.1%,180回/分で13.8%であり,60回/分と比較し180回/分で有意に高値を示した。【結論】運動速度の増加によりCC相のみでなくEC相でも三角筋中部・後部の筋活動が増加し,棘下筋は一定の筋活動を示した。これより,運動速度の調節には棘下筋より三角筋中部・後部の影響が大きいと考えられた。
著者
駒村 智史 梅原 潤 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-107_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】肩甲骨は、投球動作を行う上で重要な役割を担っている。投球動作時の肩関節最大外旋位(MER)では肩や肘の関節にかかる力が大きくなるとされており、その力を軽減させるためにも、MERにおける肩甲骨運動は重要である。野球選手の肩関節機能において、安静時の肩甲骨肢位の評価や、肩関節90°外転位(肩2nd)での外旋可動域の評価は一般的に用いられているが、それらの肢位における肩甲骨の角度と、実際の投球時の肩甲骨角度との関連を明らかにしたものはない。本研究の目的は、安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と投球動作のMERにおける肩甲骨角度との関連を明らかにすることとした。【方法】大学生野球選手21名を対象とした(年齢20.7±0.9歳、身長169.8±6.2cm、体重65.6±9.7kg)。安静時および肩2nd外旋時、投球動作時の肩甲骨角度を計測した。肩甲骨角度は、6自由度電磁気式動作解析装置(Liberty;Polhemus社製)を使用し、肩甲骨の外旋、上方回旋、後傾の各角度を計測した。安静時の計測は、座位にて上肢下垂位で5秒間姿勢保持した。肩2nd外旋時の計測は、肩90°外転位にて他動的に外旋し、伸張感が疼痛に変わる直前の強度で5秒間静止した。安静時、肩2nd外旋時ともに、解析には中間の3秒間の平均値を使用した。投球動作時の肩甲骨角度の計測については、全力投球を行い、投球中に上腕骨が最大外旋位となった時点をMERと定義し、MERでの肩甲骨角度を用いた。投球動作は3回行い、MERでの肩甲骨角度の3回の平均値を解析に使用した。統計解析には、Peasonの相関分析を用いて、肩甲骨外旋、上方回旋、後傾それぞれについて、安静時の肩甲骨角度とMERでの肩甲骨角度との相関および肩2nd外旋時の肩甲骨角度とMERでの肩甲骨角度との相関を分析した。有意水準は5%未満とした。【結果】安静時とMERでの肩甲骨角度の相関は、上方回旋(r=0.632, p=0.002)、後傾(r=0.670, p=0.001)はそれぞれ有意な相関がみられた。肩甲骨外旋角度については有意な相関がみられなかった(p=0.907)。また、肩2nd外旋時とMERでの肩甲骨角度の相関は、外旋(r=0.543, p=0.011)、上方回旋(r=0.894, p=0.000)、後傾(r=0.718, p=0.000)全てに有意な相関がみられた。【考察】MERにおける肩甲骨角度は、安静時の肩甲骨外旋角度を除き、安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と関連があることが明らかとなった。安静時の肩甲骨外旋角度に相関がみられなかった原因として、肩甲骨外旋角度は上肢の挙上面の影響を受けやすく、MERの上肢挙上面が安静肢位の肩甲骨面と異なると考えられる。本研究の結果から、MERでの肩甲骨角度は、肩2nd外旋時の肩甲骨角度とより強い関連があり、MERにおける肩甲骨角度の評価には肩2nd外旋肢位での肩甲骨角度の評価がより有効である可能性が示唆された。【結論】安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と投球動作時のMERにおける肩甲骨角度に相関がみられることが明らかとなった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、本学の医の倫理委員会の承認(C1247-1)を得て実施した。対象者には紙面および口頭にて研究の趣旨を説明し、同意を得た。
著者
田井 啓太 山中 正紀 石垣 智恒 廣川 基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1132, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩甲骨周囲筋である前鋸筋は,様々な肩関節疾患に関与すると報告されている。先行研究において,前鋸筋の筋活動を強調するために考案された運動は,壁や治療台に手をつくような荷重下での運動で(standard push up plus,wall push up plus)あった。しかしながら,上肢非荷重下での前鋸筋の筋活動を強調した運動に関する報告は少ない。日常生活において,上肢は非荷重下で運動を行なう頻度が高いと考えられるため,上肢非荷重下で前鋸筋の筋活動を促す運動方法が求められる。それゆえ,本研究の目的は,上肢への荷重を伴う,もしくは伴わない様々な動作課題における前鋸筋の筋活動を検討することとした。【方法】被験者は健常男子学生15名(平均年齢21.9±0.83)とし,除外基準は肩関節に疼痛がある者,肩関節に整形外科的および神経学的な症状や既往がある者とした。動作課題は,standard push-up plus(SPP:腕立て伏せの姿勢において,肩甲帯のProtractonを意識させた姿勢),wall push-up plus(WPP:壁に寄りかかるよう手をつき,肩甲帯のProtractionを意識させた姿勢),立位での肩関節屈曲(Flex),肩甲骨面上挙上(Scaption:前額面より30°前方と定義),セラバンドに抗して水平外転方向への筋収縮を伴うScaption(Sera Scap)および屈曲(Sera Flex),バランスボールを両上肢間ではさむように水平内転方向の筋収縮を伴った屈曲(Ball Flex),セラバンドに抗して水平内転方向への筋収縮を伴う肩関節屈曲(Sera Flex)とし,挙上角度は135°で,それぞれ1kgのダンベルを保持して行った。前鋸筋の筋活動は表面筋電計MyoSystem 1200(Noraxon, USA.inc)を用いて計測した。表面電極貼付位置は先行研究に準じ,肩関節90°屈曲位において,腋窩の下部かつ肩甲骨下角と同じ高さで,前鋸筋の走行に沿って貼付した。各動作課題の試行順は無作為化し,各動作肢位は5秒間保持され,各試行を3回反復した。筋電データの解析は,整流化,フィルター処理(band-pass filter;10-500Hz),RMS(ウインドウ100ms)による平滑化を行った。得られた5秒間の筋電データのうち中間3秒間を解析に用い,各筋電データはMVCで正規化し(% MVC)解析した。各動作課題における前鋸筋筋活動の違いを検討するため,統計解析には反復測定一元配置分散分析を用い,Post-hoc testにSidak法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本学倫理委員会の承認を得て行い,被験者には事前に研究の要旨を口頭及び書面にて十分に説明し,同意を得た。【結果】SPP(%MVC±SD:54.78±39.69)はWPP(31.50±24.97)よりも前鋸筋の筋活動が有意に高かった。Ball Flex(52.02±19.94)は,WPP,Flex(31.80±10.55),Scaption(32.12±12.19),Tube Flex(23.86±9.33)よりも前鋸筋の筋活動が有意に高かった。【考察】先行研究において,上肢荷重下で行われるSPPやWPPが前鋸筋筋活動を強調した運動として推奨されてきた。本研究において,上肢荷重下であるSPPでの前鋸筋筋活動と,上肢非荷重下であるFlex,Scaption,Ball Flex,Sera Scap,Sera Flexの前鋸筋筋活動との間に有意差を認めなかった。これは上肢非荷重下での運動でも上肢荷重下の運動と同程度の筋活動を導き出すことが可能であることを示す。上肢荷重下での運動は,日常動作において行なわれることは少ないと思われる。本研究結果より,セラバンドによる肩関節水平外転方向の力や,ボールを持つことによる肩関節水平内転方向の力を加えることによって,上肢非荷重位であったとしても,前鋸筋の筋活動を強調することが可能であることが示唆された。特に,Ball FlexはWPP,Flex,Scaption,Sera Flexより有意に高い前鋸筋筋活動を示し,前鋸筋の筋活動を高める介入方法として推奨されるかもしれない。【理学療法学研究としての意義】抗重力位にて上肢運動を行なう時期のリハビリテーションにおいて,通常の上肢拳上よりも,水平内転方向や水平外転方向の力を加えることによって,前鋸筋筋活動を強調した運動が可能となるかもしれない。肩関節は日常生活において,非荷重下で使用されることが多い。臨床で非荷重下での前鋸筋の筋力強化を目的とした介入を行なう場合,上肢挙上時に水平内転方向へ力を加えることによって,より大きい前鋸筋の筋活動を促すことが期待できると考えられる。
著者
大塚 直輝 建内 宏重 永井 宏達 松村 葵 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ce0109, 2012

【はじめに、目的】 ミリタリープレス(Military press:以下MP) は臨床現場で一般的に行われているリハビリテーションプログラムの1 つであり,肘関節屈曲位で肩関節前方に重錘を保持した肢位を開始肢位として,肘関節伸展しながら肩関節を挙上する動作である。MPは多くの先行研究でリハビリテーションプログラムとしての有用性が示されており,臨床現場では通常の挙上に比べてMPでより容易に拳上可能となることが経験される。しかしながら,通常の拳上に対してMP時の肩甲帯の運動学的,筋電図学的変化について詳細に分析した研究はない。肩関節疾患患者のリハビリテーションでは肩甲骨・鎖骨運動の誘導や,肩関節周囲筋の賦活に焦点を当てることが多く,MP時の運動学的、筋電図学的特徴を知ることは、運動療法の中でのMPの適応を明らかにするために重要な情報となりうる。本研究では,MP時の肩甲帯の動態と肩関節周囲筋の筋活動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男性 16名(21.8 ± 1.1歳)とし、測定側は利き手側とした。測定には 6 自由度電磁センサー(POLHEMUS 社製, LIBERTY)と表面筋電図(Noraxon社製, TeleMyo2400)を用い,これらを同期して上肢拳上時の肩甲帯の運動学的データと肩関節周囲筋の筋電図学的データを収集した。筋電図は三角筋、僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋に貼付した。拳上方法は上肢矢状面拳上(以下:SE)とMPとし、それぞれに無負荷条件と2 kg重錘負荷条件を設定した。測定は椅坐位にて4秒間で下垂位から最大拳上する動作をそれぞれ5回ずつ行い,間3回の平均値を解析に用いた。運動学的データは胸郭に対しての上肢拳上角度,肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度,鎖骨拳上・後方並進角度を算出し,筋電図学的データは最大等尺性随意収縮時の筋活動を100%として正規化した。また負荷による影響を除外するため,上肢拳上の主動作筋である三角筋の筋活動に対する僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋筋活動の比を算出した。解析区間は上肢拳上30 - 120°とし、30°より10°毎の肩甲骨・鎖骨角度、筋活動比を算出した。なお筋活動比は,各解析時点の前後100 msec間の平均値とした。統計学的処理には肩甲骨・鎖骨角度および,各筋の筋活動比を従属変数とし,拳上方法(SE, MP)、負荷(無負荷, 2 kg)、上肢拳上角度(30 - 120°)を三要因とする反復測定三元配置分散分析を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 肩甲骨外旋角度は,負荷に関わらず拳上初期~中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。上方回旋角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.01)。後傾角度は,負荷に関わらず拳上中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。鎖骨後方並進角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01)。鎖骨拳上角度では,挙上方法による有意な違いがみられなかった。三角筋に対する僧帽筋上部,前鋸筋の筋活動は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.05)。三角筋に対する僧帽筋中部・下部の筋活動では,それぞれ挙上方法による有意な違いがみられなかった。【考察】 本研究の結果,MPではSEと比較して、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾と鎖骨後方並進が増加することが明らかとなった。またMPではSEと比較して,三角筋に対する僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加することが明らかとなった。肩甲骨・鎖骨運動と肩甲骨周囲筋の筋活動に関して負荷の有無による差は見られなかったため,上記の運動学的・筋電図学的変化はMP時に特異的な運動・筋活動様式であることが考えられる。前鋸筋は特に肩甲骨上方回旋に関わる筋であり,さらに前鋸筋の活動が肩甲骨外旋や後傾にもつながるとされている。また僧帽筋上部の活動は鎖骨後方並進を生み出すとされている。MPでは負荷に対して僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加したため、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾運動と鎖骨後方並進が増加したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 上肢拳上時の肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度、鎖骨後方並進角度の減少は、様々な肩関節疾患患者で見られる現象である。本研究結果より、MPは前述の特徴を示す肩関節疾患患者の肩甲骨・鎖骨運動を誘導するトレーニングとして有用であると考えられる。
著者
櫻井 健司 日石 智紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1333, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】Elbow push test(以下EPT)は,原テストの11項目の1つで野球肩・肘障害の理学的評価として用いられ,陽性であるものは肩甲帯や体幹の機能不全として捉えられている。今回,EPTと肩関節屈曲のBreak test(以下BT)の肢位での前鋸筋と外腹斜筋の筋活動の違いを,表面筋電図(以下EMG)を用いて比較し検討した。【方法】対象は,運動器疾患を有しない健常男性12名の右上肢である。平均年齢は28.6歳であった。被験筋は,前鋸筋中部線維,下部線維,外腹斜筋としEMGを記録した。測定肢位は,原テストのEPTの方法に準じ,被験者は両足底を床から離した端座位にて,肩・肘関節屈曲90°とした。検者は肘頭部に抵抗を加え3秒間保持した。BTには徒手筋力検査の方法に準じ,被験者は端座位にて肩関節屈曲130°,肘関節伸展位にて上腕部に抵抗を加え3秒間保持した。EMG導出は多チャンネルテレメーターシステム(WEB-1000,日本光電社製)を用いた。双極導出法で,電極間10mm,筋電図周波数帯域30~500Hzとして,筋活動電位をサンプリング周波数1000Hzで記録した。EMGよりRMS値を算出し,肩関節屈曲130°保持した肢位でのRMS値を1として両テストの測定値を正規化し,%RMSとして表した。統計学的検定には,Wilcoxonの検定,Speramanの順位相関係数を用いた。【結果】外腹斜筋の%RMSは,EPTが9.41,BTが2.15でありEPTにて有意に高かった。前鋸筋下部線維では,EPTが1.13,BTが5.08とBTが有意に高かった。前鋸筋中部線維は,EPT5.97,BT5.91と両テストに有意な差は認めなかった。前鋸筋中部線維,前鋸筋下部線維,外腹斜筋の間に有意な相関は認めなかった。【結論】伊藤らは,EPT時の筋活動では前鋸筋,外腹斜筋で高値であったが,前鋸筋と外腹斜筋の関係性は低かったと述べている。今回の結果からも前鋸筋と外腹斜筋に相関は認めなかった。EPTはBTと比べ,外腹斜筋の筋活動が高く,前鋸筋中部線維に差がなく,前鋸筋下部線維の筋活動が低かった。EPTは,前鋸筋中部線維の収縮により肩甲骨の肋骨面に固定するとともに,外腹斜筋によって体幹回旋作用するものと思われる。そのため,EPTはBTよりも体幹機能の影響が高かったものと考えられた。また五十嵐らは,前鋸筋の作用として中部線維は肩甲骨外転,下部線維は下角を外転・上方回旋に作用するとしている。EPTの評価では肩甲帯機能に加え外腹斜筋による体幹の影響を受けるが,BTにおいては,肩甲骨上方回旋機能の評価の可能性が示唆された。
著者
石井 陽介 出家 正隆 藤田 直人 車谷 洋 中前 敦雄 石川 正和 林 聖樹 安達 伸生 砂川 融
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0343, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】内側半月板損傷は膝関節の疼痛を呈する。しかし,内側半月板自体に神経線維は少なく,内側半月板損傷の疼痛は他の要因が影響していると考えられる。内側半月板逸脱(medial meniscus extrusion:以下MME)は内側半月板付着部の損傷や伸長によって内側半月板がより内側に逸脱する現象で,膝関節内側部の衝撃吸収を破綻させ,内側大腿脛骨部の荷重負荷を増大させる。しかし,MMEと疼痛との関係は明らかにされておらず,荷重下でのMMEの逸脱量と疼痛に着目した報告は見られない。本研究は,内側半月板損傷者における荷重下MMEの逸脱量が疼痛を増加させるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は内側半月板損傷と診断された患者16名16膝(平均年齢57.6±9.5歳)を対象とした。内側半月板の逸脱量は超音波装置(Hivision Avius,HITACHI社)を用いて,内側半月板中節部で測定し,脛骨骨皮質の延長線から垂直に内側半月板の最大内側縁距離を逸脱量として計測した。測定は臥位と立位の2条件で行い,臥位と立位の逸脱量の差から,内側半月板移動量を算出した。先行研究を参考に,対象者を内側半月板の逸脱量が3mm以上の6名をLarge群,3mm未満の10名をSmall群に分類した。疼痛はVASとKOOSを用いて評価した。内側半月板の逸脱量の比較には,群間(Large群,Small群)と条件(臥位,立位)を2要因とした混合2元配置分散分析を行い,交互作用を認めた場合には単純主効果検定を行った。2群間における内側半月板移動量,VAS,およびKOOSの比較には,Mann-WhitneyのU検定を用いた。統計解析には,SPSS Ver19.0(日本IBM社,東京)を用い,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】Large群,Small群ともに,内側半月板逸脱量は臥位よりも立位で有意に大きかった(Large群臥位:3.7±1.2mm,立位:4.5±1.0mm;Small群臥位:1.7±0.5mm,立位:2.1±0.7mm)。内側半月板移動量はLarge群がSmall群より有意に大きかった(Large群:0.9±0.3mm,non Small群:0.4±0.3mm)。VAS値はLarge群がSmall群より有意に高く,KOOSのpain scoreはLarge群がSmall群より有意に低かった。【結論】本研究の結果から,荷重下MMEの逸脱量が疼痛に影響を及ぼす一要因である可能性が示唆された。これは荷重に伴う内側半月板の逸脱が膝関内側部の負荷をより増大させたためと予想される。内側半月板損傷者の疼痛には,荷重下MMEの逸脱量が影響している可能性が示された点に関して,理学療法研究としての意義があると思われる。
著者
梅垣 雄心 中村 雅俊 武野 陽平 小林 拓也 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101963, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】臨床現場において、ハムストリングスのストレッチングは多くの場面で用いられている。近年、ストレッチングの効果に関して多く報告されているが、ストレッチング法について検討した報告は少なく、特に内外側ハムストリングスの選択的なストレッチング法について、科学的根拠は示されていない。理論的に筋のストレッチングは筋の作用と逆方向へ伸張すべきであり、ハムストリングスは股関節伸展・膝関節屈曲作用に加え、内側は股関節内旋、外側は外旋作用を有していることから、内側は股関節屈曲・外旋位から膝関節伸展、外側は股関節屈曲・内旋位から膝関節伸展の他動運動が効果的なストレッチングになると考えられる。その一方で股関節屈曲・膝関節伸展に股関節外旋を加えることで外側を、内旋を加えることで内側を選択的に伸張できるという報告もあり、統一された見解は得られていない。そこで、本研究では筋は伸張されると硬くなるという先行研究に基づき、超音波診断装置と弾力評価装置を用いて筋硬度を測定し、筋の伸張量の指標とした。本研究の目的は股関節屈曲・膝関節伸展に股関節の内旋と外旋を加えることが、内・外側ハムストリングスの伸張量に与える影響を明確にすることである。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常男性17名(平均年齢24±3.4歳)の利き脚(ボールを蹴る)側の大腿二頭筋(以下:BF)及び半腱様筋(以下:ST)とした。ストレッチング肢位は、背臥位でベッド側方から非利き脚をたらし、ベルトで骨盤を固定した。試行は股関節90°屈曲、膝関節90°屈曲位(以下Rest)、股関節 90°屈曲・最大内旋からの膝関節伸展(以下IR)、股関節90°屈曲からの膝関節伸展(以下NOR)、股関節90°屈曲・最大外旋からの膝関節伸展(以下ER)の4試行とし,IR、NOR、ERでは痛みを訴えず、最大限伸張する角度まで他動的関節運動を行い、その時の膝関節伸展角度と筋硬度を測定した。 筋硬度の評価はテック技販製弾力評価装置(弾力計)と、SuperSonic Imagine社製超音波診断装置の剪断波エラストグラフィ機能 (以下:エラスト)を用いた。弾力計では圧力20NでRestのみ2回測定し、その平均値を算出した。IR、NOR、ERは1回の測定値を使用した。エラストでは全て1回の測定値を使用した。測定位置は,坐骨結節と外側上顆を結ぶ線の中点の位置でBFを、坐骨結節と内側上顆を結ぶ線の中点の位置でSTを触診しながら測定を行った。統計学的解析では、BFとSTにおける筋硬度値と膝関節伸展角度をそれぞれ各条件間でWilcoxon検定を用いて比較し、Bonferroni補正を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を説明し、研究に参加することの同意を得た。【結果】BFでは、弾力計の値はRestに比べ、IR,NOR,ERが有意に減少し、エラストの値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に増加しが、両筋硬度ともIR、NOR、ERの間に有意な差は認められなかった。STでは、弾力計の値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に減少し、ERに比べ、IR、 NORが有意に減少したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。エラストの値はRestに比べ,IR,NOR,ERが有意に増加し、ERに比べIR、NORが有意に増加したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。膝関節伸展角度は、NORで-21.5±12.2、IRは-31.5±7.2、ERは-36.5±8.8であり、NORはIR,ERに比べ有意に高値を示し、IRはERに比べ有意に高値を示した。【考察】本研究では、 BFはIR,NOR,ERの間で伸張量に変化がなかったことから、BFの伸張量を股関節内外旋の動きにより、コントロールすることは困難であることが示唆された。一方、STはERに比べIR、NORの方が有意に伸張されたことから、大きな外旋の動きを加えた場合より、股関節内外旋の動きを加えない場合や大きな内旋の動きを加えた場合の方が、STは伸張されやすいことが示唆された。この理由として、内側ハムストリングスの股関節内旋作用、外側ハムストリングスの外旋作用というのは解剖学的肢位での作用であり、股関節屈曲や最大内外旋することによって作用が変化している可能性が考えられる。また、ERにおいて、NORやIRと比較して膝関節伸展角度が有意に小さく、BFが伸張されていないことから、ERではハムストリングス以外の要素が優先的に膝関節伸展を妨害しており、その結果としてBFが伸張されなかった可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】ハムストリングスのストレッチングにおいて、股関節内外旋の動きを加えることでより伸張することは難しいことが考えられ、ハムストリングスのストレッチングにおいては股関節内外旋の動きを大きく加える必要はないことが考えられる。
著者
水元 紗矢 島田 周輔 神原 雅典 石原 剛 加藤 彩奈 大野 範夫 鈴木 貞興 小笹 佳史 浅海 祐介 吉川 美佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1300, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】変形性膝関節症において、異常な膝回旋運動を呈しているという報告を散見する。膝回旋はわずかな運動であり、回旋を評価することは難しい。内外側ハムストリングスは膝屈曲においては共同筋だが、回旋では拮抗筋となるため筋活動をみることで膝回旋運動を推察することができる。我々は第45回の本学会で下肢アライメントと歩行時筋活動との関係について、Q-angle高値側は内外側ハムストリングス筋活動比(M/L比)が低いと報告した。臨床において足位や後足部アライメントが脛骨回旋異常を引き起こしている症例を経験することから、今回足位および後足部回内外アライメントがM/L比に与える影響について検討したので報告する。【方法】対象は膝に障害のない健常男性10名(平均年齢27.5歳±1.9歳)の左膝10肢である。足位と後足部アライメントを変化させた条件下で、片脚スクワットを行なわせた際のM/L比を比較検討した。課題運動は片脚立位から膝屈曲60°の片脚スクワットである。上肢は胸の前で固定し、反対側の下肢は膝屈曲位、膝内外反および股関節内外転中間位で後挙させた。スクワットは屈曲2秒、屈曲保持2秒、伸展2秒の計6秒間とし、計3回行った。被験者には十分練習を行った上で計測した。筋活動の算出にはスクワット伸展2秒間の大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、半膜様筋(SM)の筋活動を計測した。筋活動の記録には表面筋電計(Megawin Version2.0、Mega Electronics社)を用いた。得られた筋活動のRoot Mean Square(RMS)振幅平均値を算出し、計3回の平均値を各筋のRMSとした。さらに膝屈曲45°での最大等尺性収縮を100%として正規化し、%RMSを算出し各筋の%RMS を求めた。ST、SMに対するBFの割合をそれぞれST/BF比、SM/BF比とした。足位は、床に対して足長軸を進行方向に向けた位置をtoe 0°、それより5°外側に向けた位置をtoe-outとした。後足部アライメントは、入谷の方法をもとに2mmのパットを用いて回内位(PR)、中間位(NP)、回外位(SP)を誘導した。検討項目は、ST/BF比とSM/BF比を以下に示す3通りの方法で比較検討した。1.(1) NP・toe0°とNP・toe-out、(2) NP・toe0°とPR・toe0°とSP・toe0°、(3) NP・toe-out とPR・toe-out とSP・toe-outとした。2.NP・toe-outでのST/BF比とSM/BF比を検討した。各筋の%RMSを比較した。統計学的解析には、二元配置分散分析法と多重比較検定、対応のあるt-検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、被験者には研究の主旨を十分に説明し同意を得た上で計測した。【結果】1-(1) toe0°とtoe-outではST/BF比、SM/BF比とも有意差を認め(P<0.05)、toe-outでBFの活動が高くなった。1-(2) toe0°では、ST/BF比でPRとSP間に有意差を認めた(P<0.05)。1-(3) toe-outでは、SM/BF比でNPとPR間に有意差を認め(P<0.05)、PRでBFの活動が高まり、SMの活動低下がみられた。2. toe-outでのST/BF比とSM/BF比は有意差を認めなかった。【考察】 本研究により、荷重位での足位および後足部アライメントによりM/L比が変化することが示された。Scott.K(2009)はtoe-outでのエクササイズにてM/L比の減少が起こると報告しており、本研究の結果もそれを支持する結果となった。toe-outにてBF筋活動が高まることは、内旋方向へ誘導される下腿の運動を制御した結果ではないかと考えた。toe-out・PRにおいてSM/BF比は減少を認めたが、ST/BF比は有意差を認めなかった。この理由としては、STとSMの筋機能の違いによるものと考えた。SMは筋形状とレバーアームの関係により浅屈曲で筋活動が優位になり、STは深屈曲で筋活動が優位となる。回旋作用としてはSMに比べSTで作用が高い。本研究ではスクワット60°屈曲位で行ったことから、SM筋活動の抑制が起きたためSM/BF比に有意差を認めたと考えた。【理学療法学研究としての意義】本報告で、足位および後足部アライメントの変化によるST/BF比、SM/BF比の基礎的データが得られた。足位および後足部アライメントが内外側ハムストリングスの筋バランスに影響を与えることが示された。スクワット運動や荷重位でのエクササイズにおいて、足位や後足部アライメントを考慮する必要があると考えた。
著者
池澤 秀起 井尻 朋人 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0386, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つに,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。腹臥位での下肢空間保持は股関節伸展筋の活動が必要となる。一方,骨盤の肢位を保持するために空間保持側の骨盤と脊柱などに付着する筋肉の活動が必要となり,同様に脊柱の肢位を保持するために空間保持側と対側の脊柱と肩甲骨などに付着する筋肉の活動が増大するのではないかと考えた。先行研究にて筋活動を検証した結果,腹臥位での下肢空間保持時の対側の僧帽筋下部線維の活動と,腹臥位での肩関節外転145度位保持側の僧帽筋下部線維の筋活動は同程度であった。先行研究では肩関節外転角度などの肢位を変え僧帽筋下部線維の活動を測定したが,全て肘関節屈曲位での測定であった。そこで,肘関節肢位の変化が僧帽筋下部線維の活動に与える影響を明確にし,僧帽筋下部線維の活動を促すためのトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は健常男性14名(年齢24.6歳,身長170.1cm,体重61.9kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位で両股関節中間位,両膝関節伸展位,両肩関節外転90度,両前腕回内位とし,肘関節伸展0度と肘関節最大屈曲位で測定した。測定筋は,下肢空間保持側と反対の僧帽筋上部・中部・下部線維,三角筋後部線維,棘下筋,両側多裂筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。算出された筋電図積分値相対値は正規分布を認めなかったため,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。比較は,肘関節屈曲,伸展位条件間で行い,危険率は5%未満とした。【結果】僧帽筋下部線維,三角筋後部線維の筋電図積分値相対値は,肘関節伸展位と比較し屈曲位で有意に増加した。僧帽筋下部線維,三角筋後部線維の中央値は肘関節屈曲位で10.2,28.0,肘関節伸展位で5.2,17.0であった。その他の筋電図積分値相対値は肘関節肢位の変化による有意差を認めなかった。【結論】腹臥位での下肢空間保持課題は,肘関節伸展位と比較し屈曲位で僧帽筋下部線維の筋活動を促せる可能性が高いことが示唆された。また,肘関節伸展位と比較し屈曲位で三角筋後部線維の筋活動も有意に増大した。このことから,肩関節水平外転運動に作用する三角筋後部線維の筋活動の増大に対して,起始部の肩甲骨の安定性を高めるために僧帽筋下部線維の筋活動も有意に増大したのではないかと考える。
著者
池澤 秀起 井尻 朋人 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1307, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。そのため、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、患側上肢を用いない運動として、腹臥位での患側上肢と反対の股関節外転位空間保持が有効と考えた。腹臥位で股関節外転位空間保持は、股関節に加え体幹の安定を得るための筋活動が必要になる。この体幹の安定を得るために、股関節外転位空間保持と反対側の僧帽筋下部線維が作用するのではないかと考えた。そこで、僧帽筋下部線維のトレーニングに有効な股関節外転角度を明確にするため、外転保持が可能な範囲である股関節外転0度、10度、20度位における外転保持時の僧帽筋下部線維の筋活動を比較した。また、各角度での僧帽筋下部線維の活動を、MMTで僧帽筋下部線維の筋力測定に用いる腹臥位での反対側の肩関節外転145度位保持時の筋活動と比較した。これにより、僧帽筋下部線維の活動がどの程度得られるかを検証した。【方法】 対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性14名(年齢23.1±3.7歳)とした。測定課題は、利き足の股関節外転0度、10度、20度位空間保持と、利き足と反対側の肩関節外転145度位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位とし、この肢位から股関節屈伸0度位で設定角度まで股関節外転させ、空間保持させた。肩関節外転位空間保持は、MMTでの僧帽筋下部線維の測定肢位である、肩関節145度外転、肘関節伸展、手関節中間位で空間保持させた。測定筋は利き足と反対側の僧帽筋下部線維とした。筋電図測定にはテレメーター筋電計(MQ-8、キッセイコムテック社製)を使用した。また、肩関節、股関節外転角度はゴニオメーター(OG技研社製)で測定した。測定筋の筋活動は、1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。さらに、股関節外転位空間保持において、股関節外転角度の変化が僧帽筋下部線維の筋活動量に与える影響を調べるために、各外転角度での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。加えて、僧帽筋下部線維の活動量を確認するため、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と、股関節外転0度、10度、20度位保持における各々の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】 股関節外転位空間保持での僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転0度で14.6±10.9、10度で17.1±12.3、20度19.9±16.6となり、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。また、肩関節外転145度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は17.6±9.9となった。股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値と、肩関節外転145度位保持時では全てにおいて有意な差を認めなかった。【考察】 腹臥位での股関節外転位空間保持で、僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、股関節外転角度の増減により有意な差を認めなかった。この要因として、ベッドによる体幹支持、体幹筋や僧帽筋下部線維を含めた肩甲骨周囲筋の活動など、様々な要素が脊柱や骨盤の固定に作用したためではないかと考える。 一方、腹臥位での肩関節外転145度位保持時と股関節外転0度、10度、20度位保持時の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値を比較した結果、有意な差は認めなかった。つまり、全てにおいて同程度の僧帽筋下部線維の筋活動が生じていたといえる。このことから、腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、上肢の運動を伴わずに反対側の僧帽筋下部線維の活動を促せるため、可動域制限や代償動作により筋活動を促すことに難渋する対象者の治療に活用できる可能性がある。しかし、股関節外転位空間保持による反対側の僧帽筋下部線維の活動は脊柱の固定に作用することが考えられるため、起始部付近の活動が主であることが推察される。そのため、上肢挙上時の僧帽筋下部線維の筋活動に直結するかは検討の余地が残ると考える。【理学療法学研究としての意義】 腹臥位での股関節外転0度、10度、20度位保持は、反対側上肢の僧帽筋下部線維のトレーニングに有効であることが示唆された。これは、可動域制限や代償動作により僧帽筋下部線維の活動を促すことが難しい対象に対して有効であると考えられた。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0690, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩関節疾患患者の上肢挙上運動は,肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして,僧帽筋下部線維の筋力低下が挙げられるが,疼痛や代償運動により患側上肢を用いた運動で僧帽筋下部線維の筋活動を促すことに難渋する。そこで,上肢の運動を伴わずに僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として,腹臥位での患側上肢と反対側の下肢空間保持が有効ではないかと考えた。その結果,第47回日本理学療法学術大会において,腹臥位での下肢空間保持と腹臥位での肩関節外転145度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。また,第53回近畿理学療法学術大会において,両側の肩関節外転角度を変化させた際の腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大したと報告した。一方,先行研究では両側の肩関節外転角度を変化させたため,どちらの肩関節外転が僧帽筋下部線維の筋活動に影響を与えたか明確でない。そこで,一側の肩関節外転角度を一定肢位に保持し,反対側の肩関節外転角度を変化させた際の僧帽筋下部線維の筋活動を明確にする必要があると考えた。これにより,僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す因子を特定し,トレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢,体幹に現在疾患を有さない健常男性16名(年齢25.6±2.1歳,身長168.5±2.5cm,体重60.4±6.7kg)とした。測定課題は,利き腕と反対側の下肢空間保持とした。測定肢位は,腹臥位でベッドと顎の間に両手を重ねた肢位で,下肢は両股関節中間位,膝関節伸展位とした。また,空間保持側の上肢は肩関節外転0度で固定し,反対側の上肢は肩関節外転角度を0度,30度,60度,90度,120度と変化させた。肩関節外転角度の測定はゴニオメーター(OG技研社製)を用いた。測定筋は,空間保持側と反対の僧帽筋上部,中部,下部線維,広背筋とした。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は,1秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また,5つの角度における全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には反復測定分散分析及び多重比較検定を用い,危険率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し,同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した。広背筋の筋電図積分値相対値は,肩関節外転角度が30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大した。僧帽筋上部線維,僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は,全ての肢位において有意な差を認めなかった。【考察】先行研究と今回の結果から,腹臥位での下肢空間保持における僧帽筋下部線維の筋活動は,空間保持側と反対の肩関節外転角度の影響が大きいことが判明した。つまり,腹臥位での下肢空間保持は,空間保持側と反対の肩関節外転角度を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことが出来る可能性が高いと考える。まず,腹臥位での下肢空間保持は,下肢を空間保持するために股関節伸展筋の筋活動が増大する。それに伴い骨盤を固定するために空間保持側の腰背筋の筋活動が増大し,さらに,二次的に脊柱を固定するために空間保持側と反対の腰背筋や僧帽筋下部線維の筋活動が増大することが考えられる。このことを踏まえ,僧帽筋下部線維の筋活動が肩関節外転0度,30度,60度に対して90度,120度で有意に増大した要因として,肩関節外転角度の変化により脊柱を固定するための筋活動が広背筋から僧帽筋下部線維に変化したのではないかと考える。広背筋の筋活動は肩関節外転30度,60度,90度,120度に対して0度で有意に増大したことから,肩関節外転0度では脊柱の固定に広背筋が作用したことが推察される。一方,肩関節外転角度の増大により広背筋は伸長位となり,力が発揮しにくい肢位となることが推察される。また,広背筋は上腕骨,僧帽筋下部線維は肩甲骨に停止することに加え,肩甲上腕リズムから肩関節外転角度の増大に対して,広背筋は僧帽筋下部線維と比較し伸長される割合が大きいことが推察される。その結果,肩関節外転角度の増大に伴い脊柱を固定するために僧帽筋下部線維の筋活動が増大したのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での下肢空間保持において,僧帽筋下部線維の筋活動は先行研究と同様の結果であったことから,空間保持側と反対の肩関節外転角度が僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す要因となる可能性が高いことが示唆された。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100556, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。理学療法の場面において、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として、腹臥位での患側上肢と反対側の股関節外転位空間保持が有効ではないかと考えた。その結果、第47 回日本理学療法学術大会において、腹臥位での股関節中間位空間保持と腹臥位での肩関節外転145 度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。一方、先行研究では下肢への抵抗負荷を用いない自重負荷であったことから、下肢への抵抗負荷を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促せるのではないかと考えた。腹臥位での股関節中間位空間保持において下肢への抵抗負荷の有無が僧帽筋下部線維や肩甲骨周囲筋の筋活動に与える影響を明確にし、僧帽筋下部線維のトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性22 名(年齢25.4 ± 2.4 歳、身長168.9 ± 2.2cm、体重60.6 ± 4.0kg)とした。測定課題は、利き腕と反対側の股関節中間位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位で股関節中間位とした。測定筋は、股関節中間位空間保持側と反対側で利き腕側の僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維、僧帽筋下部線維とした。股関節中間位空間保持側への抵抗負荷量は、対象者の体重の0%、10%、30%、50%の重さを抵抗負荷量として設定し、Isoforce(オージー技研社製)を用いて測定した。抵抗負荷をかける位置は、大腿骨内側上顆と外側上顆を結んだ線の中点と坐骨を結んだ線分の中点とし、鉛直下方向に抵抗を加えた。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は、1 秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また、抵抗負荷が無い場合(0%)、抵抗負荷が体重の10%、30%、50%とした場合の測定筋の筋電図積分値相対値を算出し、4 群全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。【考察】腹臥位での股関節中間位空間保持において、空間保持側と反対側の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。この要因として、脊柱の固定には体幹筋や肩甲骨周囲筋の選択的な筋活動ではなく、全ての筋群の協調的な筋活動により脊柱の固定を図るのではないかと推察する。このことから、腹臥位での股関節中間位保持における下肢への抵抗運動において僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいのではないかと考える。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。低負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するために両側の腰部多裂筋の筋活動が作用したと推察する。一方、高負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するためにより大きな力が必要になる。そのため、腰部多裂筋など骨盤と脊柱に付着する筋群に加え、空間保持側と反対側の僧帽筋など脊柱と肩甲骨に付着する筋群の筋活動が増大することで脊柱の固定を図ったのではないかと考える。一方、肩関節挙上時に肩甲骨内転筋の筋緊張低下により肩甲骨外転位を呈する対象者は、高負荷での抵抗運動により僧帽筋上部・中部・下部線維の筋活動を総合的に促すことが可能となるため効果的なトレーニングになるのではないかと推察する。しかし、肩関節挙上時に僧帽筋上部線維の過剰な筋活動を認める対象者は、高負荷での抵抗運動は効果的ではないと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での股関節中間位空間保持課題において、抵抗負荷の増減により僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいが、高負荷での抵抗運動は、肩関節挙上時に肩甲骨の内転運動が乏しい対象者のトレーニングとして効果的であることが示唆された。
著者
中山 裕子 大西 秀明 中林 美代子 石川 知志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0602, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】肩甲下筋は主に肩甲上腕関節の内旋作用を持つ筋で,回旋筋腱板を構成する重要な筋である.肩甲下筋はその構造や神経支配より,部位による機能の違いの可能性が報告されているものの,上・中・下部に分けた筋活動特性についての報告はみない.本研究の目的は,肩甲下筋の上・中・下部線維の機能的な違いを明らかにすることである.【対象と方法】対象は実験内容を書面にて説明し同意を得た健常成人6名(男性4名,女性2名,平均年齢35.0歳)であった.運動課題は5秒間の肩関節最大等尺性内旋運動とし,筋力測定器(BIODEX)を使用して行った.測定肢位は椅子座位とし,肩甲上腕関節内外旋中間位で,上腕下垂位,肩甲骨面挙上60度,120度に固定した肢位で2回ずつ行い,肩甲下筋の上部・中部・下部線維の筋活動をワイヤー電極にて導出した.電極はウレタンコーティングのステンレス製ワイヤー電極を使用し,電極間距離を5mmとして,肩甲骨内縁から関節窩方向に向けて刺入した.肩甲下筋の上部線維には内角,中部線維には内角より3横指尾側,下部線維には下角より1横指頭側からそれぞれ刺入し,電気刺激を利用して確認した.ワイヤー電極の刺入は共同研究者の医師が行った.筋電図は前置増幅器(DPA-10P,ダイヤメディカルシステムズ)および増幅器(DPA-2008,ダイヤメディカルシステムズ)を用いて増幅し,サンプリング周波数2kHzでパーソナルコンピューターに取り込み,運動開始後1秒後以降で最大トルクが発揮された時点から0.5秒間を積分し,上肢下垂位の値を基に正規化した(%IEMG).統計処理には分散分析と多重比較検定(有意水準5%未満)を用い比較検討した.【結果】肩甲下筋上部線維の%IEMGは,60度挙上位で93.9±11.5%,120度挙上位で79.1±23.6%であり,120度挙上位の値は下垂での値よりも小さい傾向が見られた(p=0.08).中部線維では60度挙上位で119.3±14.9%であり,120度挙上位(93.7±18.4%)より有意に高い値を示した(p<0.05).下部線維では60度挙上位で112.4±11.9%,120度挙上位で129.6±19.4%であり,120度挙上位の値は下垂位の値より有意に高い値を示した(p<0.05).【考察】肩甲上腕関節回旋中間位における等尺性内旋運動において,肩甲下筋上部線維の活動は肩関節面挙上角度の増加に従い減少する傾向があり,中部線維の活動は60度屈曲位が最も大きく,下部線維の活動は120度屈曲位が最も大きいことが示された.このことは上腕骨長軸に対しより垂直に近い線維が最も効率よく肩関節内旋運動に作用することを示唆していると考えられる.
著者
宮﨑 和 島岡 秀奉 山﨑 香織 西本 愛 森澤 豊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1328, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 肩関節の運動療法において,腱板機能不全の改善を目的とした運動課題や肩の主動作筋などの運動課題に関する知見は多く,臨床的にもこれらの筋の機能改善が重要視されている.しかし,肩関節疾患の患者に認められる肩関節運動変容として,いわゆる「肩の代償運動」でリーチ運動や挙上を行っている場合が多く,肩関節の機能的特性を考えると単一の筋群もしくは運動方向に対するトレーニングでは,挙上能力の改善に難渋する例もしばしば経験する.また腱板断裂術後患者では自動運動が許されるまでの間に修復腱板以外の健常な肩関節筋群が運動様式の変化とともに廃用に陥ることが予測され,その後の肩関節挙上,リーチ運動などの回復に長期間を要する.そこで今回われわれは,肩関節周囲筋の中でも体表にあり比較的表面筋電図の測定が容易な僧帽筋群に着目し,ADLおよびAPDLを考慮し立位における肩関節屈曲および外転運動における僧帽筋活動を健常者で検討したので報告する.【方法】 対象は健常男性7名(両肩14肢,平均年齢22.4±1.8歳)とし,被検筋は左右の肩関節の僧帽筋上部・中部・下部線維とした.測定は,両上肢を下垂し後頭隆起および臀部を壁に接触させた立位を開始肢位とし,運動課題は両側肩関節屈曲および外転位を30°,60°,90°の合計6パターンで各5秒間保持させ,各運動とも3回施行した.各運動課題中の筋活動は,NeuropackS1(日本光電製)にて導出し,得られた5秒間のEMG値のうち安定した3秒間の積分値を算出し,左右3回試行分の平均EMG積分値を個人のデータとした.統計学的処理として,屈曲および外転運動とも各筋の30°での平均EMG積分値を100%とし,平均EMG積分値の規格化を行った上で,7名(14肩)の各僧帽筋の線維毎に各運動課題における筋活動の相対的な変化を一元配置の分散分析にて比較した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に本研究の目的・方法と研究参加に関するリスクと個人情報の管理に関する被検者説明書を作成し十分な説明を行った上で,紙面にて同意を得た.【結果】 各筋の屈曲および外転30°での平均EMG積分値を100%とした場合,肩関節屈曲動作において,角度60°では僧帽筋上部線維は157%,中部線維111%,下部線維163%となり,90°では僧帽筋上部線維350%,中部線維114%,下部線維190%となり,僧帽筋上部および下部線維に屈曲角度の増加に伴う筋活動の増大がみられた(P<0.01).一方,肩関節外転運動においては,角度60°で僧帽筋上部線維239%,中部線維164%,下部線維96%となり,90°では僧帽筋上部線維568%,中部線維245%,下部線維117%となった.外転角度の増加ともない僧帽筋全線維に筋活動の増大がみられ,特に僧帽筋上部および中部線維にその変化が顕著であった(P<0.01).【考察】 肩関節屈曲運動では,肩甲上腕関節の動きに伴い肩甲骨は上方回旋する.肩甲骨の上方回旋は前鋸筋と僧帽筋上部・下部線維の共同した活動により出現する.過去の報告では,僧帽筋下部線維は起始を肩甲棘内側縁に持つため肩甲骨上方回旋の支点となる.また肩甲上腕関節を屈曲保持した場合,肩甲骨に前傾方向へのモーメントが発生し,この前傾モーメントを制動するのが僧帽筋下部線維であるとされる.本研究でも肩関節屈曲時に僧帽筋上部・下部線維の筋活動が増加しており,これら僧帽筋群の協調した筋活動により肩甲骨上方回旋が起こっていることが示唆され,立位時の肩関節屈曲時においても,僧帽筋下部線維が肩甲帯の安定性に機能すると推察された.一方,肩関節外転運動では肩甲骨に下方回旋モーメントが発生し,これを制御するために鎖骨外側・肩峰・肩甲棘上縁に付着する僧帽筋上部・中部線維が活動するとされ,本研究においても,肩関節外転時に僧帽筋上部・中部線維の筋活動が増加しており,立位時においてもこれらの僧帽筋群が協調して肩甲骨を内転方向に固定し,肩甲帯の安定性に機能することが推察された.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,立位でのリーチ運動や空間保持における肩関節周囲筋の活動様式を確認する上で,重要な筋電図学的分析であると考える.また肩関節疾患患者の挙上運動における,いわゆる「肩の代償運動」の要因を検討する際に必要な知見であると考えられ,より効果的な理学療法プログラムの立案のために必要性の高い研究であると考える.