著者
大江 達也 三田 裕教 藤本 敦久 對馬 龍太 高橋 伴弥 井上 悟史 中江 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>スポーツ選手の膝痛で高頻度に発生するAnterior Knee Painは,膝蓋下脂肪体(Infrapatella Fat Pad;以下IFPの)内圧上昇(Bohnsack M, et al., 2005)や,IFPの疼痛感度が高い点(Dye SF, et al., 1998)などが関与しているとされ,IFPの機能は重要であると考えられる。IFPは膝伸展時に遠位や内側,外側へ広がり,遠位では膝蓋靭帯と脛骨近位前面の間へも移動し,膝蓋骨の動きに安定性を与えると報告されている(林ら2015)。しかし,動態に関する研究は散見する程度であり,本研究の目的はpatella setting時におけるIFPの動態を,超音波エコー(以下エコー)を用いて評価する事である。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>膝関節に整形外科的疾患の既往の無い31例62膝を対象とした。男性23例,女性8例,年齢は平均28.5歳(21~42歳)であった。IFPの動態評価にはHITACHデジタル超音波診断装置Noblusを使用した。IFPはpatella settingにより周囲へ広がる際,広がった部位においてIFP前後幅が増大することをエコーにて観察できた為,本研究においては周囲への広がりを前後幅として評価することとした。測定肢位は仰臥位で膝窩部にクッションを敷き,膝関節軽度屈曲位を基本肢位とした。膝蓋骨遠位1/3から下端の間で,膝蓋骨内縁,外縁それぞれにおいて大腿骨内顆関節面,外顆関節面と伸筋支帯を鮮明に描出できる短軸像にて評価した。関節面と伸筋支帯の間にはIFPが存在しており,その距離を計測することによりIFP前後幅を評価できると考えた。検討項目は,内側,外側それぞれにおけるIFP前後幅とし,弛緩時とpatella setting時の差を算出した。また,patella settingによるIFPの遠位への広がりを評価する為に,膝蓋靭帯と脛骨近位前面のなす角をエコー長軸像にて計測した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>弛緩時とpatella setting時におけるIFP前後幅の差は,内側は平均1.58±0.87mm,外側は平均3.76±3.63mmであり,外側の方が統計学的に優位に大きかった(P<0.01)。また,内側と外側の間には弱い負の相関関係を認めた(相関係数-0.31,P<0.05)。弛緩時とpatella setting時における膝蓋靭帯と脛骨近位前面のなす角の差は,平均5.37±4.9°とpatella settingにより角度は増大していた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>林ら(2015)はIFPの移動量を膝の最終伸展運動で内側,外側に流れ込む距離として測定し,外側への移動距離が内側より大きいと報告している。我々も移動距離を直接評価しようと試みたがエコーでは困難であった為,間接的にIFPの前後幅で評価した。本研究の結果から,外側への移動距離の方が内側よりも大きい事が示唆され,林らの報告を支持する結果となった。しかし,内側と外側の間には負の相関関係があり,内側へ移動しやすい膝は外側へ移動しにくく,その逆も存在することが示唆された。また,遠位への移動も観察でき,IFPはpatella settingにより周囲へ広がる事が確認できた。</p>
著者
石井 佑果 鈴木 克彦 齋藤 麻梨子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0706, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝蓋骨亜脱臼の運動療法として内側広筋(VM)の選択的強化が必要であるとされており,大腿四頭筋セッティング(セッティング)が広く行われている。通常は背臥位または長坐位で行われているが,立位で股関節内転筋の等尺性収縮を同期したセッティングによりVMの筋活動量の増加することが報告されている。また,足関節を回内位および回外位とした立位セッティングによりVMの収縮効果が変化することが報告されているが,一定の見解が得られていない。今回,足関節回内・回外位とした立位セッティングのVM収縮効果を調べるために,他のセッティング方法での筋活動量と比較することを目的とした。【方法】 対象は,健常女性10名(年齢20.9±1.1歳)とした。セッティング課題は,1背臥位でのセッティング,2立位でのセッティング,3立位で股内転を同期したセッティング(立位ADD),4足関節回外位の立位で股内転を同期したセッティング(立位ADD+EXT),5足関節回内位の立位で股内転を同期したセッティング(立位ADD+INT)の5条件とした。全ての課題は,膝関節30°屈曲位を開始肢位とし膝伸展および股内転の3秒間の最大等尺性収縮を3回行うこととした。3~5の課題で行う股内転には直径15 cmのボールを使用した。4,5の課題は傾斜角10°の楔状板の上に足底を置いて行った。なお,課題間には少なくとも3分間の休憩時間を設定した。筋活動はVM,大腿直筋(RF),外側広筋(VL),大内転筋(AM)から表面筋電図を記録した。筋電図波形は全波整流後100ミリ秒で移動平均処理を行い,3秒内の最大値を計測し,3回の平均を測定値とした。課題1の測定値を100%として正規化し,2~5の課題間,課題内の各筋活動量の比較,VM/VL,VM/RF,VL/RFの比率を各課題間で比較した。被験者情報として,膝関節伸展角度,Q-angle,Laxity testを事前に計測した。統計はShapiro-Wilk検定後,課題間および課題内の筋活動量,比率の差の検定を反復測定分散分析および多重比較検定,Pearsonの相関を用いて行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の目的と方法を十分説明し,参加の同意を得たうえで行い,被験者には不利益が生じないよう配慮した。【結果】 背臥位SETに対する3つの立位セッティングにおいて,RF,VL,VMの筋活動量は課題間で差はみられなかった。AMの筋活動量は立位ADD+EXTが最も高値を示し(p<0.01),VMとAMの間に正の相関(r=0.838)が示された(p<0.01)。課題間でのVM/VL,VM/RF,VL/RFの比率には差はみられなかったが,VM/VL比,VM/RF比が立位ADD,立位ADD+EXTで高値を示す傾向がみられた。【考察】 立位セッティングにおいてVMの筋活動量はRFに比べ有意に低値を示した。しかし,股内転を同期させた他の3課題ではRFとVMの筋活動量に差は認められなくなり,VM/VL比、VM/RF比が立位セッティングに比べて他の3課題で高値を示す傾向がみられた。VMは斜頭と長頭に分岐し斜頭はAMと連続性があり,AMの収縮によりVMの筋収縮を増大させたと推察する。今回,立位ADD+INTが立位セッティングの中でVMの収縮が低下する傾向を示した。それは,足関節回内位の足底接地では膝関節外反応力が増大し,Q-angleを増加させることが報告されており,立位ADD+INTによりQ-angleの増大に作用し,RFとVLの筋活動が優位となり,VM活動量,VM/VL比,VM/RF比が低値を示したと考える。今回,立位ADD+EXTのみVMとAMの筋活動量に正の相関を認め,AMの筋活動量が高値を示す傾向がみられた。これは,Hodgesら,Hantenらが報告している,AMの筋放電が大きくなるに従いVM/VL比が増大する内容と一致しているといえる。以上より,足関節回外位で股内転筋を同時収縮させる立位セッティングが,VMを選択的にトレーニングできる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 膝蓋骨亜脱臼だけでなく,膝関節靭帯損傷,変形性膝関節症などにおいても内側広筋の筋萎縮,筋力低下に陥る症例があり,大腿四頭筋セッティングは運動療法の中で広く応用されている。立位でのセッティングはCKCトレーニングとして有用であり,立位セッティングとして内転筋同時収縮,加えて足関節を回外位とする方法の有効性を示すことができた。
著者
貝沼 雄太 宇良田 大悟 鈴木 大介 伊東 優多 宮本 梓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-35_1-H2-35_1, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>野球選手の投球障害発生要因として投球数の増加が挙げられる。連続投球後での静的な肩甲上腕関節(以下、GHJ)可動域は外旋角度が増大し、内旋角度が減少するといわれている。しかし投球増加に伴って、投球中のGHJ角度や肩甲骨角度がどのように偏位していくかは報告されていない。今回、三次元動作解析装置(VICON MS社製)を用いて連続投球によるGHJ角度と肩甲骨角度を算出することを目的とする。</p><p>【方法】</p><p>対象は肩関節に愁訴の無い野球歴8年以上の健常男性5名(平均23.5歳)とした。測定方法は三次元動作解析装置を用いて、1球目、20球目、40球目、60球目、80球目、100球目の肩最大外旋角度時(以下、MER)でのGHJ外・内旋/水平外・内転角度と肩甲骨前・後傾/上・下方回旋/外・内旋角度とした。計測方法に際しては宮本らの方法に準じ、体表に36個のマーカーと肩甲棘パッド(マーカー4個)を貼付した。肩甲骨角度の定義は体幹に対する肩甲骨の値とした。GHJ角度の定義は体幹と上腕骨で計算される肩関節角度から肩甲骨角度を減算した値とした。統計処理は1球目と20球目以降でウィルコクソンの符号付順位和検定を用いて,比較を行った。有意水準は5%とした。</p><p>【結果】</p><p>MER時のGHJ外旋は1球目(112.1°)と60球目(125.7°)、80球目(126.5°)、100球目(138.7°)で有意に増加していた。GHJ水平外転角度も1球目(-4.6°)と60球目(5.2°)、80球目(8.5°)、100球目(8.4°)で有意に増加していた。また肩甲骨内旋角度は1球目(20.0°)と100球目(26.3°)で有意に増加していた。肩甲骨後傾角度は1球目(37.2°)と100球目(24.4°)で有意に減少していた。肩甲骨上方回旋角度は1球目(31.7°)と100球目(33.4°)で軽度上昇していたが有意差はなかった。</p><p>【結論】</p><p>今回の結果では投球数増加することにより、GHJ外旋角度と水平外転角度が増加し、肩甲骨前傾と内旋角度が増加する事が明らかとなった。MihataらはGHJ水平外転角度増大と肩甲骨内旋角度増大によりインターナルインピンジメントが生じる可能性があると報告している。投球数の増加が投球肩障害を発症させる可能性があると考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>口頭や文章にて研究の概要、方法等を説明し、被験者になるか否かを自由意志によるものであることを確認した。その後、研究の主旨に同意を得られた者に対し測定を行った</p>
著者
緒方 政寿 鈴木 裕也 野口 裕貴 山守 健太 有働 大樹 栗原 和也 十時 浩二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-238_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】股関節は、下肢と体幹をつなぎとめ身体を安定させるのに重要な関節であり、その安定性に関与しているのが股関節外転筋である。臨床において股関節外転筋の筋力低下が生じると、起立動作や歩行、階段昇降などの動作が不安定となるため、筋の特異性からも荷重位での強化練習が必要と推測される。しかし、股関節外転筋強化に関するシステマティックレビューは筆者が知る限り、Paul Macadam (2015)の一遍のみで、動作速度を規定し比較した研究はない。そこで今回、CKC動作における動作速度を規定した股関節外転筋の活動を検討し、効果的な運動方法を明らかにする。【方法】対象は健常男性10例とした。被検筋は右側の大殿筋上部(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿筋膜張筋(TFL)とした。北九州地区6病院の理学療法士に臨床で行う荷重位での股関節外転筋運動種目の事前調査を行い、上位種目の中からスクワット、段差昇降、ブリッジ、サイドステップ、フロントランジ、ラテラルステップアップダウンの6つを課題種目とした。各動作は1回を2秒で5回連続して施行し、動作時表面筋電図を計測した。解析には5回のうち間3回の計測データを用いた。筋電図解析方法は徒手筋力検査法の手技に従い、5秒間の最大随意等尺性収縮時における筋活動を測定し、0.5秒毎に移動平均を行い、最大値を最大収縮値(MVC)とした。各動作の筋活動を各筋に0.1秒毎の2乗平均平方根にて平滑化を行い、MVCで正規化(%MVC)した。3試行の最大値の平均を算出し、3筋における各動作種目別の最大筋活動を求めた。統計解析は、フリードマン検定を行い、多重比較検定にはSteel-Dwass検定を用いて各筋の%MVCを比較検討し、有意水準はP<0.05とした。【結果】G-maxの筋活動は、筋活動の高い順にフロントランジ65.9%、サイドステップ53.7%、ラテラルステップアップダウン42.2%、段差昇降35.3%、ブリッジ21.4%、スクワット14.7%で、フロントランジはスクワットとブリッジと比べ優位に高い筋活動を示した(p<0.05) 。G-medはサイドステップ76.6%、ラテラルステップアップダウン64.8%、フロントランジ59.1%、段差昇降49.4%、ブリッジ30.3%、スクワット19.0%で、サイドステップはスクワットとブリッジと比べ有意に高い筋活動を示した(p<0.05)。TFLはサイドステップ118.5%、ラテラルステップアップダウン56.8%、フロントランジ48.6%、段差昇降43.8%、ブリッジ43.1%スクワット10.7%で、サイドステップがラテラルステップアップダウン以外と比べ有意に筋活動が高かった(p<0.05)。【結論(考察も含む)】今回、事前調査の中から選定した6つのCKC動作ではG-maxの強化はフロントランジを、G-medとTFLの強化はサイドステップを、3筋総合ではサイドステップを第一選択とすることが推奨された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、当院の理事会及び、製鉄記念八幡病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号17-11)。対象者には文書及び口頭で本研究の主旨及び目的を説明し、書面にて同意を得た。
著者
簗瀬 康 中尾 彩佳 本村 芳樹 梅原 潤 駒村 智史 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-99_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】単一筋の伸縮によって周囲の筋膜が引き伸ばされ、隣接している筋が変形すること(筋膜張力伝達)が先行研究で報告されている。単に筋の走行を考慮すると、大腿四頭筋を構成する筋のうち、二関節筋である大腿直筋は股関節伸展かつ膝関節屈曲により伸張される。一方で、単関節筋である内側広筋や外側広筋は膝関節屈曲により伸張され、股関節肢位の影響は受けない。しかし、筋膜張力伝達の観点から考えると、大腿直筋が伸張される股関節肢位では内側広筋や外側広筋も同様に伸張される可能性がある。本研究の目的は、股関節肢位の違いが内側広筋と外側広筋の伸張の程度に与える影響を検証することとした。【方法】健常男性14名を対象とし、次の4種類の股関節肢位をランダムに行った:股関節90度屈曲位(屈曲条件)、股関節5度伸展位(伸展条件)、股関節5度伸展位かつ10度内転位(伸展内転条件)、股関節5度伸展位かつ40度外転位(伸展外転条件)。各肢位とも背臥位かつ膝関節90度屈曲位で実施した。これら4肢位および安静位で、超音波診断装置せん断波エラストグラフィ機能を用いて内側広筋と外側広筋、大腿直筋の弾性率を測定した。弾性率は高値であるほど筋が硬いことを示し、筋伸張位ほど高値となることが先行研究により示されている。各筋の弾性率について、肢位間の比較のために反復測定一元配置分散分析を行い、事後検定としてBonferroni法による多重比較を行った。有意水準は0.05とした。【結果】反復測定一元配置分散分析の結果、内側広筋と外側広筋、大腿直筋の全てにおいて主効果を認めた。各筋とも、伸展・伸展内転・伸展外転条件が安静・屈曲条件より有意に高値を示し、さらに伸展・伸展内転条件が伸展外転条件より有意に高値を示した。【考察】内側広筋と外側広筋は膝関節伸展の単関節筋であるが、股関節伸展位、あるいは股関節伸展内転位でより伸張された。これらの肢位で大腿直筋が伸張されたことにより、大腿直筋に付着する筋膜が移動し、大腿直筋に隣接している内側広筋と外側広筋も同様に伸張されたと考えられる。また、股関節伸展外転位では各筋とも、股関節伸展位や股関節伸展内転位に比べて伸張されなかった。大腿直筋は股関節外転モーメントアームを持つため、股関節外転位では短縮位になったと考えられる。さらに大腿直筋が短縮位となったことで大腿四頭筋間の筋膜による機械的相互作用が生じにくくなり、内側広筋と外側広筋は十分な伸張が得られなかったと考える。【結論】大腿直筋の伸張位である股関節伸展位、または股関節伸展かつ内転位において、膝関節伸展の単関節筋である内側広筋・外側広筋も同様に伸張されることが明らかになった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学における医の倫理委員会の承認を得た後に実施した。ヘルシンキ宣言に基づいて、被験者には実験の内容について十分に説明し、書面にて同意を得た上で研究を実施した。
著者
長谷川 治 金井 一暁 弓永 久哲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1269, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】頭蓋脊椎角(以下CV角)は,C7棘突起を通る水平線とC7棘突起から耳珠を通る線が成す角度とされ,CV角の減少は頭部の前方への移動を指す。本研究の目的はCV角の違いで呼吸筋や換気能力の影響を検討することである。頸部制御不良は,廃用のほか神経筋疾患などで幅広くみられる容態である。臨床では座位不良や臥位姿勢不良などの影響で頸部周囲筋から腰背部筋の緊張を高めた症例を多く経験する。特に頸部筋の緊張が高まることで誤嚥やこれによる重篤な肺疾患をきたす症例も少なくない。これは頸部体幹部の不良姿勢による影響であることを多くの報告から散見する。しかし,このような不良姿勢者の呼吸筋力への影響や換気能力についての報告,特に頸部角度について検討した報告は少なく頸部姿勢介入への方法について検討する必要があるため今回の検討に至った。【方法】CV角を他動的に設定するため自作の固定器具を被験者の背部から当て頭部および上腕部で固定を行った。固定は正中位をCV角90°としてそこからCV角60°,45°,30°位とした。検査肢位は体幹の運動を排除するため全例背臥位とした。なお被験者の両上肢を固定し,頭部は固定器から浮かさないように口頭で説明し,動いたものは測定値から除外した。次いで,各肢位における呼吸筋力および最大換気能力をスパイロメーター(ミナト医科学社製AS507)によって,最大換気量(以下MVV),最大吸気圧(以下PImax)と最大呼気圧(以下PEmax)の測定を被験者ごとに各2回行った最大値を採用し,得られた値をDuboisの式を用いた体表面積(BSA)の値で除した。各肢位における測定の順序はランダムとし,測定の間隔も十分に休息を取って行った。各被験者の測定値の平均を算出し,それぞれの角度間のMVV,PImax,PEmaxの変化を比較検討した。統計には対応のある一元配置分散分析を用い,各角度間の比較にはBonferroniの多重比較法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,研究の概要,倫理的配慮,公表の方法などについて本校倫理委員会で審査を受けその承認のもとに実施した。被験者は本実験の趣旨を十分に説明し書面によって同意を得られた健常な男性12名(平均年齢±標準偏差;20.3±1.7,平均身長±標準偏差;172.4±4.0,平均体重±標準偏差;63.7±8.0)とした。【結果】MVV/BSAがCV角90°(61.4±13.6L/min)に対して,60°(65.5±14.8L/min)で有意に増加し,逆に45°(64.1±14.2L/min)と30°(61.5±11.6L/min)では60°に比べて減少した。PImaxではCV角90°(77.3±17.7cmH2O)に対して有意差はなかったが60°(82.0±23.7cmH2O)と45°(83.9±26.6cmH2O)で増加した。しかし30°(79.5±29.0cmH2O)では減少した。PEmaxではCV角90°(70.5±14.6cmH2O)に対して有意差はなかったが60°(70.0±15.0cmH2O),45°(67.6±15.6cmH2O),30°(66.6±11.8cmH2O)とCV角の減少に従って減弱した。【考察】換気機能は頸椎の屈曲角度の増大に伴い減弱する傾向にあるが,CV角が60°となる,つまり背臥位姿勢からわずかに頸部を屈曲した姿勢では,屈曲しなかった姿勢に比べて有意に換気し易くなる結果となった。このことから背臥位姿勢では,枕などを使用したわずかな頭部挙上位が換気しやすい姿勢であることが示唆される。また,CV角60°では吸気補助筋である胸鎖乳突筋や斜角筋の走行を上位胸郭の引き上げ方向に一致させ筋活動を起こしやすくし最大吸気筋力の増大につながったと考える。しかしCV角45°以下になると,その走行が上位胸郭の運動方向より逸脱するため筋活動が起こし難くなると考える。またCV角45°以下は上位胸郭の前上方への運動制限,上気道抵抗の増大などを引き起こすため,過剰な頸部屈曲姿勢を保持し続けることは廃用的に換気不全に陥る可能性が示唆される。このことから,背臥位での過剰な頸椎屈曲姿勢は,換気機能や呼吸筋力を低下させる可能性があるため,背臥位姿勢でのポジショニングを考える際には,枕などを使用して軽度屈曲姿勢をとらせることを検討する必要性があることを示唆した。【理学療法学研究としての意義】臨床における座位不良やポジショニング不良による頸部周囲筋から腰背部筋の緊張が高まった症例に対し,呼吸筋力や換気能力の低下を予防するために,姿勢介入の重要性を考える一助になると考える。
著者
對馬 浩志 櫻庭 満 舘山 智格 高橋 美保 福司 悠佳 中井 敬太 北澤 勇気 平山 理恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1320, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】足関節底背屈運動には血流速度を増加させ,静脈還流の促進や静脈うっ滞除去効果の向上があると報告されている。しかし,その報告は運動中における血流速度の変化についての検討が多く,運動後の血流速度の変化についての報告は少ない。今回の研究は足関節底背屈運動の運動回数に着目し,運動回数の違いがどのように運動後の静脈血流速度に影響を及ぼすかを検討した。【方法】対象は健常男性,平均年齢37.6±11.6歳,平均身長176.2±6.4cm,平均体重66.0±6.8kgであり,過去に血流速度に影響を与える可能性のある既往がない10名とした。測定部位は右大腿静脈とし,静脈血流速度の測定には超音波診断装置(日立アロカ社製Prosound α7)を用いた。測定時の姿勢は安静背臥位,膝関節伸展位とし,足関節を自動運動で底背屈させた。又,運動強度は対象者の最大努力,運動速度は各自の判断とし,運動回数は10回,30回,50回の3通りに設定した。測定の状態は足関節底背屈運動前(安静背臥位にて5分間の臥床後)を測定し,それぞれの運動回数において,運動直後,15秒後,30秒後,1分後,2分後の経過時間毎の血流速度を測定した。また,測定間には5分間の休息を設け,パルスドプラにて波形が安定した状態を視覚的に確認してから次の測定を行った。統計解析は,運動前血流速度と運動後経過した時間毎の血流速度において対応のあるt検定を用いて検討した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象には本研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性とプライバシーの保護について十分な説明を行い,同意を得た後に測定した。【結果】運動直後における大腿静脈血流速度は,10回,30回,50回の順に,24.69±7.1cm/sec,25.85±7.5cm/sec,31.27±11.3cm/secとなり,運動前の17.87±5.9cm/secと比較すると,運動回数が多いほど血流速度は増加していた。又,運動回数10回では運動後15秒まで,運動回数30回では運動後30秒まで,運動回数50回では運動後1分までは運動前の血流速度よりも有意に高値を示し(p<0.05),運動回数が多いほど,増加した血流速度が維持される傾向となった。しかし,10回,30回,50回で増加した血流速度は運動後2分程度で,どの回数も運動前と有意差(p<0.05)が認められなかった。【考察】運動回数の違いに着目した今回の研究結果では,運動回数が多いほど運動直後の血流速度が増加しており,増加した血流速度は,その後,徐々に減少する傾向が確認された。これは下腿三頭筋の筋ポンプ作用の効果が影響していると推測された。筋ポンプ作用の効果において筋収縮が強いほど,又,貯留血液が多いほど,多くの血液が押し出されるという特徴があることから,運動回数の増加により筋収縮が強くなった為に,より多くの血液が押し出され血流速度が増加したと推測される。増加した血流速度が徐々に減少していった要因は,運動中とは異なり,運動後の筋では血管拡張が起きていた可能性があることや交感神経活動の低下に伴って末梢血管抵抗の減少が持続していた為と推測される。研究結果から運動回数の違いは,筋ポンプ作用の効果の違いになると推測できる。足関節底背屈運動により運動後の血流速度の増加や,増加した血流速度の維持を期待出来るが,その効果は予想よりも短い時間で収束することが1つの発見であった。臨床では制限なく運動を継続する事は不可能であり,様々な条件により足関節底背屈運動が出来ない場合も想定される。VTE予防を目的として足関節底背屈運動を実施する場合,運動回数の違いにより,筋ポンプ作用の効果に違いが生じることを踏まえて,大きく血流速度を増加させる回数で運動頻度を少なく設定する,或いは血流速度の増加が小さく少ない回数で運動頻度を多く設定するなど,足関節底背屈運動による血流速度の変化を予測しながら運動回数を設定する必要性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床において静脈還流の停滞や静脈のうっ滞を改善する目的で足関節底背屈運動を行う場合は運動回数が1つの指標になり得る可能性があると示唆された。
著者
相馬 正之 村田 伸 甲斐 義浩 中江 秀幸 佐藤 洋介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100289, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足指・足底機能は,立位・歩行時に足底が唯一の接地面となることから,その重要性が指摘され,足趾把持力に関する多くの報告が行われている.足趾把持力は,短母指屈筋,長母指屈筋,虫様筋,短指屈筋,長指屈筋の作用により起こる複合運動であり,手の握力に相当するものと考えられている.現在の測定方法は,端座位で,体幹垂直位,股,膝関節を90 度屈曲し,足関節底背屈0°の肢位で行われている.その肢位により測定された足趾把持力は,転倒経験者では低下していること,トレーニングによって強化が可能であり,強化することで転倒者が減少することから,足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されている.しかし,この足趾把持力の測定肢位については,十分な検討がされていない.手関節においては,手関節背屈により手指の屈曲が生じ,掌屈により伸展が生じるTenodesis action(固定筋腱作用)が存在する.手指の把持動作時には,この作用を効果的に用いるために手関節を背屈位に保ち,手関節を安定させることが報告されている.このように手指の把持動作においては,手関節の角度変化によって握力への影響が報告されているものの,足趾把持力に関する足関節角度の影響については指摘されていない.そこで本研究では,足関節の角度変化が足趾把持力に与える影響について検討した.【方法】対象は,健常成人女性20 名(平均年齢21.5 ± 1.0 歳,平均身長158.4 ± 4.2cm,平均体重52.2 ± 5.0kg)とした.いずれも下肢に整形外科的疾患や疼痛などの既往はなかった.測定項目は利き足の足趾把持力とした.足趾把持力の測定は,足趾把持力計(TKK3362,竹井機器工業社製)を用いた.足趾把持力の測定肢位は端座位とし,体幹垂直位,股,膝関節を90 度屈曲位で,足関節をそれぞれ,背屈位10°,底背屈位0°,底屈位10°の各条件で測定した.この足関節角度の設定には,足関節矯正板(K2590M,酒井医療社製)を用いた.足趾把持力の測定は,2 回ずつ測定し,その最大値を採用した.統計処理は,足関節背屈位,底背屈中間位,底屈位間の足趾把持力の比較に,反復測定分散分析およびBonferronniの多重比較検定を採用し,危険率5%未満を有意差ありと判定した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容について説明し,理解を得たうえで協力を求めた.また,研究への参加は自由意志であり,被験者にならなくても不利益にならないことを口答と書面で説明し,同意を得て研究を開始した.本研究は,東北福祉大学研究倫理委員会の承認(RS1208283)を受け実施した.【結果】足趾把持力は,足関節背屈位が平均19.0 ± 4.1kg,底背屈中間位が平均18.9 ± 3.4kg,底屈位が平均16.8 ± 4.9kgであった.反復測定分散分析の結果,3 群間に有意な群間差(F値=8.5,p<0.05)が認められた.さらに,多重比較検定の結果,足関節底屈位での足趾把持力は,背屈位および中間位より有意に低値を示した(p <0.05).【考察】本結果から,足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された.この要因の1 つには,足指屈曲筋の活動張力の減少と相反する足指伸展筋の解剖学的な影響が考えられる.足趾把持力に関与する長母指屈筋,長指屈筋などは多関節筋であり,足関節底屈により筋長が短縮する.そのため,発揮できる筋力は,張力−長さ曲線の関係から低下したものと考えられる.また,足関節底屈位の足指の屈曲動作では,相反する足指伸筋群の筋長が伸張されることにより,最終域までの足指屈曲が困難になることから,筋力が発揮できていないことが推測された. さらに,足関節底屈時には,距腿関節において関節の遊びが生じる.このことから,足関節底屈位の足趾把持力発揮では,足関節の安定性が不十分となり,筋力の発揮に影響を及ぼしたものと考えられる.本結果からは,足関節角度と足趾把持力発揮の関係から,歩行場面において平地および上り勾配では,足趾把持力が発揮されやすいが,下り勾配では発揮しにくいことが推測される.そのため,高齢者では,下り勾配において足趾把持力による姿勢の制御能が低下し,転倒の危険性が増大する可能性が示された.【理学療法学研究としての意義】足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されているものの,測定肢位については,十分な検討がなれていなかった.本結果から足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された.
著者
前嶋 篤志 金子 秀雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】昨今,全身振動刺激(Whole body vibration:WBV)は身体に様々な運動効果をもたらすという報告があり,振動マシンを用いたWBVトレーニングが高齢者や様々な疾患に対して試みられている。WBVによる効果として,先行研究では下肢の筋力増強効果が得られたとしたものなどがあるが,これらの先行研究では,トレーニング中の肢位として膝関節を軽度屈曲した立位姿勢で行われているものが多い。しかし,膝関節伸展位でWBVを行うことにより,下肢関節での振動吸収が減少し振動刺激が体幹筋活動を高め,体幹筋に対するトレーニングに応用できる可能性が考えられる。また振動刺激の強度も筋活動に影響することが知られているが,WBV中の姿勢や振動強度が体幹筋活動へ与える影響を調査した研究は見当たらない。そこで本研究では健常成人男性を対象にWBV中の膝関節角度,振動周波数の違いが体幹筋活動に与える影響を調査することを目的とした。【方法】対象は運動に支障をきたす整形外科的疾患,神経疾患を有さない成人男性14名(平均年齢26±5歳,平均BMI19.9±1.4kg/m<sup>2</sup>)を対象とした。測定方法として対象者には,WBVトレーニング装置(Novotec Medical社製Galileo G-900)の振動板上で,2種類の振動周波数(20Hz,30Hz)および膝関節角度(屈曲0°,20°)の組み合わせによる4条件で立位を保持させた。足部の接地位置は,振動板の中心軸から左右に6.5cm離れた位置に足部の中心がくるように接地させ,振幅が1.2mmになるように統一した。足底全体に均等に荷重をかけ,安全のため前方のハンドルを軽く触れさせ,測定中は前方を注視するように説明した。各条件においてWBVを1分間行い,その時の右側の外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO)多裂筋(MF)の筋活動を表面筋電図(Delsys,Bagnoli-8)により測定した。各条件の測定順序はランダムに設定し,各条件間には1分間の休憩を入れた。WBV時の筋活動の計測前に,各3筋それぞれの最大等尺性随意収縮(MVC)を計測した。いずれも随意収縮を5秒間行ってもらい,中央3秒間の積分値(IEMG)を求めた。4条件における筋活動は振動前の5秒間とWBV中の安定した筋活動5秒間を抽出し,それぞれ中央3秒間を解析に用いた。分析に用いた筋電図は,バンドパスフィルター(10~400Hz)にてフィルター処理を行った後,WBV時の筋電図データはバンドストップフィルターにて振動による特定周波数をそれぞれ1.5Hzの範囲で選択的に除去した。その値を整流化し,IEMGを求め,WBV前のIEMGを差し引いた値をWBV中のIEMGとした。最終的にこの値をMVCで除して%IEMGを分析に用いた。統計方法として,WBV前の膝関節角度の違いによる%IEMGを比較するために対応のあるt検定を用いた。WBV中のデータは膝関節角度と振動周波数の2要因について反復測定の分散分析を行った。いずれも有意水準は5%とし,それ未満のものを有意とした。【結果】WBV前の膝関節角度の違いによる立位姿勢の各筋活動に有意差は得られなかった。膝関節角度と振動周波数における比較では,WBV中のEO,IOの筋活動にて膝関節角度要因に主効果を認めたがMFには認められなかった。膝関節角度の違いによる%IEMGの平均値は,EOが膝屈曲0°で19.1%,膝屈曲20°で14.7%,IOが膝屈曲0°で17.5%,膝屈曲20°で13.2%となり,膝屈曲0°の%IEMGが有意に増大した。振動周波数の主効果,交互作用は認められなかった。【考察】今回,WBV前の姿勢の違い,WBV中の振動強度の違いにおける%IEMGに有意差はみられなかった。WBV中の膝関節屈曲角度の違いにおいて屈曲20°と比較し屈曲0°のEOの%IEMGが約5%,IOの%IEMGが約4%大きく,それぞれ有意差がみられた。これは膝関節角度が小さくなるほど身体上部への振動強度は増加するとするAbercrombyらの報告を支持する結果となった。一方でMFの%IEMGには各条件間で有意差はなく立位姿勢条件による影響はないことがわかった。また周波数の違いは3筋の%IEMGに影響がないことがわかった。WBV上での立位姿勢の保持は,EO,IO,MFに対して低強度の筋活動を生じさせ,EO,IOに対しては膝屈曲0°位をとることで相対的に高い筋活動が得られることがわかった。【理学療法学研究としての意義】WBV上での立位姿勢,特に膝伸展位での保持が低強度の体幹筋活動を同時に生じさせること示した本研究は,WBV上での立位姿勢保持が体幹安定性を高めるトレーニングの一つとして活用できる可能性を示唆するものと考える。
著者
水島 健太郎 久須美 雄矢 水池 千尋 立原 久義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-152_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】足関節外果骨折の術後は,創部周囲の腫脹・癒着により足関節の背屈制限が生じやすい.近年,超音波エコー(US)の普及により,運動時の軟部組織の動態を確認できるようになってきた.しかし,足関節外果骨折術後の足部周囲の軟部組織がどれくらい硬くなるのかは十分報告されていない.そこで今回,足関節外果骨折術後の足部周囲の軟部組織の柔軟性をUSを用いて測定したので報告する.【方法】対象は,足関節外果骨折術後9例(男性4例,女性5例,平均年齢60.9歳)とし,健側と患側の足部周囲軟部組織の組織弾性を,US(AIXPLORER,コニカミノルタ社製)のShear Wave Elastography用いて評価した.腹臥位足関節中間位で,Kager’s fat pad(KFP),長母趾屈筋(FHL),ヒラメ筋(SU),短腓骨筋(PB)の各筋を10回測定し,その平均値を算出した.また,ゴニオメーターを用いて足関節背屈ROMを測定した.検討項目は,各筋の組織弾性を健側と患側で比較検討した.また,各筋の組織弾性と足関節背屈ROMの相関を求めた.なお検査測定は,十分練習を行った同一者が施行した.統計処理は対応のあるt検定,ウィルコクソン検定,ピアソン相関係数を用い,有意水準を5%未満とした.【結果】KFP組織弾性(健側:患側)は,2.01 m/s :2.83 m/s,FHL組織弾性は,2.92 m/s:3.42 m/s,SU組織弾性は,2.89 m/s:4.02 m/s,PB組織弾性は,3.08 m/s:4.33 m/sであり,全ての筋において,患側が健側に比べ有意に高値を示した(p<0.05).また,足関節背屈ROMとの相関は,KFP組織弾性と-0.61(p<0.01),FHL組織弾性と-0.56(p<0.05), SU組織弾性と-0.53(p<0.05)の負の相関が認められた.【結論】今回の結果より,足部周囲の軟部組織弾性は,健側と比べて患側が有意に高値を示し,KFP,FHL,SU組織弾性と足関節背屈ROMに負の相関があることが明らかとなった.これは,これらの筋の柔軟性低下に伴い背屈ROMが制限されることを示唆している.今後は,各筋の柔軟性改善操作にて背屈ROM が改善するかを調査し運動療法として確立していきたい.【倫理的配慮,説明と同意】大久保病院倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを説明し,同意を得ることができた場合のみ対象として計測を行った.
著者
隈元 庸夫 伊藤 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0243, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】 大腿四頭筋の中で内側広筋は特に萎縮しやすく,筋力増強運動に対する反応も遅く,回復しにくい筋といわれている.このため,内側広筋の選択的なトレーニング法確立のため様々な検討がなされており,大内転筋活動を伴った股関節内転運動を行うことが重要とされている.下肢疾患者や臥床者に対する大腿四頭筋の簡便なトレーニング法として,patella setting(PS)は臨床で広く行われている. PSについては多くの報告があり,股関節回旋位に関する検討も散見されるが,いずれも股関節屈曲位や長座位での報告であり,一般に臨床で行われることが多い背臥位でのPS施行における,股関節回旋位の違いによる内側広筋の筋活動を検討した報告はない. 本報告の目的は,背臥位PS時の股関節回旋位の違いが内側広筋の筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し,内側広筋のより効果的トレーニング法確立のための一助を得ることである.【対象と方法】 対象は,下肢に整形外科的疾患の既往のない健常者20名とした.測定肢位は背臥位とし,PSは測定下肢のみ施行させた.PSの施行は,股関節内外旋中間位,内旋位,外旋位の3肢位とした.筋電測定には,アニマ社製ホルター筋電計MM-1100を用いた.導出筋は,内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿直筋,大内転筋(AM)とした.各筋の筋活動量は,股関節内外旋中間位でのPS施行時の平均積分筋電値を100%とし,外旋位と内旋位での値を各々正規化し%平均積分筋電値を算出し,これを筋活動量とした.検討項目は,(1)各導出筋の筋活動量,(2)VMとVLの筋活動量の比率値(VM/VL),(3)VMとAMの筋活動量の相関,(4)AMの筋活動量変化によるVMの筋活動量変化に関して,各々外旋位と内旋位について比較検討した.統計学的処理は(1)(2)はWilcoxon t-test,(3)はSpearmanの相関係数,(4)Kruskal-Wallis H-test 後post hoc testとして,Mann-Whitney U-test with Bonferroni correctionにて検定し,有意水準を5%未満とした.【結果と考察】 内旋位と比較し,外旋位においてVMの筋活動量の有意な増加を認めた.VM/VLに関しては,股関節内旋位・外旋位の違いによる有意差は認められなかった.VMとAMの筋活動量の相関については,外旋位では正の相関を認めたのに対し,内旋位では相関を認めなかった.AMの筋活動量変化によるVMの筋活動量変化は,外旋位でAMの筋活動量が増加した群が最も,VMの筋活動量が増加した. Cernyは長座位におけるPSの筋活動を検討し,筋活動もVM/VLも股関節回旋位による有意な差はなかったとしている.しかし,今回の結果から背臥位でのPS時には股関節外旋位で内転筋の収縮を意識することが,VMの筋活動に対してより有効となると考えられた.
著者
今泉 史生 金井 章 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 村澤 実香 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0342, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】足関節背屈可動性は,スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。足関節背屈可動性の低下は,下腿の前方傾斜が妨げられるため,踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ,パフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションの方法の一つとして,フォワードランジ(以下,FL)が用いられている。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するためにFLは必要不可欠な動作であると言える。しかし,FLにおいて足関節背屈可動域が動作中の下肢関節へ及ぼす影響は明らかではない。そこで,本研究は,FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名80肢(男性15名,女性25名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。足関節背屈可動域は,Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾壁距離を各3回計測し最大値を採用した。FLの計測は,踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように規定した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICONMOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,足関節最大背屈時の関節角度,関節モーメント,重心位置,足圧中心(以下,COP),床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度を表す),下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜)を算出した。統計解析は,各算出項目を予測する因子として,母趾壁距離がどの程度関与しているか確認するために,関節角度,重心位置,COP,床反力矢状面角度を従属変数とし,その他の項目を独立変数として変数減少法によるステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離が抽出された従属変数は,床反力矢状面角度,足関節背屈角度,股関節内転角度であった。得られた回帰式(R≧0.6)は,床反力矢状面角度(度)=0.015×重心前後移動距離(mm)+0.299×母趾壁距離(cm)-0.211×膝関節屈曲モーメント(Nm/kg)-12.794,足関節背屈角度(度)=33.304×体重比床反力(N/kg)+0.393×足関節内反角度(度)+0.555×母趾壁距離(cm)+1.418,股関節内転角度(度)=0.591×下腿内側傾斜角度(度)-0.430×足尖内側の向き(度)+0.278×股関節屈曲モーメント(Nm/kg)-0.504×母趾壁距離(cm)+1.780であった。【考察】FLにおける前方への踏み込み動作において,母趾壁距離の大きいことが,床反力矢状面角度の後方傾斜減少,足関節背屈角度を増加させる要因となっていた。これは,足関節背屈角度が大きいと下腿の前方傾斜が可能となり,前脚に体重を垂直方向へ荷重しやすくなったことが考えられた。また,母趾壁距離と股関節内転角度との間には負の関係が認められた。これは,足関節背屈角度の低下により下腿の前方傾斜が妨げられるため,股関節内転角度を増加させて前方へ踏み込むような代償動作となっていることが原因である考えられた。この肢位は,一般的にknee-inと呼ばれており,スポーツ動作においては外傷・障害につながることが報告されているため,正常な足関節背屈可動域の確保は重要である。【理学療法学研究としての意義】FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動域の重要性が示唆された。
著者
福原 隆志 坂本 雅昭 中澤 理恵 川越 誠 加藤 和夫(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101862, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節底背屈運動時には,腓骨の回旋運動が伴うとされている.しかしながら,回旋方向についての報告は一定の見解を得ていない.また,先行研究は屍体下肢を用いての報告がほとんどであり,生体を対象にした報告はほとんど行われていない.本研究の目的は,Bモード超音波画像を用い,足関節底背屈運動時の腓骨外果の回旋運動について検討するものである.【方法】対象は,足関節に既往のない健常成人男女5名(24.6±2.5歳)の足関節10肢とした.測定姿位は,長坐位にて膝30°屈曲位とした.超音波画像診断装置(LOGIQ e,GEヘルスケア,リニア型プローブ)を用い,腓骨外果最下端より3cm近位部にて足関節前外方よりプローブを当て,短軸像にて脛腓関節を観察した.被験者は自動運動にて足関節背屈及び底屈運動を行った.足関節最大背屈時及び足関節最大底屈時において,脛骨及び腓骨の運動方向を画像上にて確認した.また脛骨及び腓骨間の距離を画像上にて0.01cm単位で測定した.さらに脛骨及び腓骨の接線を描画し,両者の成す角を0.1°単位で測定した.なお,測定は1肢につき3回行い平均値を測定値とした.なお,測定はすべて同一検者1名で行った.統計学的解析方法として,足関節背屈時と底屈時に得られた測定値についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者全員に対し,研究の趣旨について十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】全ての被験者において,関節背屈時に腓骨の外旋が観察された.また,足関節底屈時には腓骨の内旋が確認された.脛骨及び脛骨間の距離は,底屈時では0.27±0.08cm,背屈時では0.36±0.13cmであり,底屈時と比べ背屈時では有意に距離は開大していた(p<0.01).脛骨及び腓骨の接線の成す角は,底屈時では4.8±5.8°,背屈時では10.0±6.42°であり,底屈時と比べ背屈時では有意に角度は増加していた(p<0.01).【考察】足関節の運動学は理学療法実施上,注目すべき重要なポイントであると考えられる.しかしながら足関節底背屈運動時における腓骨の運動方向について,これまで一定の見解を得ていなかった.今回の結果から足関節の自動運動時において,背屈時には腓骨は脛骨に対し外旋し,底屈時には内旋することが明らかとなった.今回の知見を活かすことで,足関節に対する理学療法実施の際,より適切なアプローチを実施することが可能となると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節底背屈運動に伴う脛腓関節の運動について明らかにし,適切な理学療法実施のための一助となる研究である.
著者
越野 裕太 山中 正紀 石田 知也 武田 直樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1149, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 最も一般的なスポーツ損傷である足関節内反捻挫が生じる一因として接地時の不適切な足部肢位が考えられている.また,足関節内反捻挫の後遺症である慢性的な足関節不安定性(Chronic ankle instability:CAI)を有する者では着地動作中の接地時に足関節運動が変化していることが報告されている.この変化した足関節の肢位をもたらす一因として変化した神経筋制御の存在が示唆されているが,接地前における足関節周囲筋の前活動が足関節の肢位に影響を与えるか否かは不明である.よって,本研究の目的は健常者における着地動作中の接地前における足関節周囲筋活動と足関節運動との関係性を調査することとした.【方法】 下肢に骨折・手術歴および足関節内反捻挫の既往がない健常成人9名18脚(男4女5)を対象とした.動作課題は,30cm台上で非計測肢で片脚立位をとり,そこから前下方に位置する床反力計(Kistler社製, 1200Hz)へ,計測肢で着地する片脚着地動作とした.赤外線カメラ6台(Motion Analysis社製,200Hz)を用いて,骨盤・下肢に貼付した反射マーカー25個の着地動作中の三次元座標を記録した.筋電計(日本光電社製,1200Hz)を用いて,着地動作中の長腓骨筋(PL),前脛骨筋(TA),腓腹筋内側頭(GM)の筋活動を導出し,各脚成功3施行を記録した.初期接地は垂直床反力が初めて10N以上となった瞬間とし,初期接地前100msec間における各筋の筋電積分値を算出し,それぞれ最大等尺性収縮中の筋活動によって標準化した.さらにPL積分値に対するTA積分値の割合をTA/PL比,GM積分値に対するTA積分値の割合をTA/GM比として接地前100msec間における筋活動比を算出した.解析ソフトSIMM(MusculoGraphics社製)を用いて,足関節背屈・内反角度を算出した(背屈・内反を正とした).Pearsonの積率相関係数を用いて接地前の各筋電積分値,各筋活動比と接地時の足関節角度との関係性を評価した(P<0.05).【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には口頭と紙面により説明し、理解を得たうえで本研究への参加に当たり同意書に署名して頂いた.また本研究は,本学院倫理委員会の承認を得ている.【結果】 初期接地時の肢位は平均して足関節底屈・軽度外反位であった.接地前100msec間のTA積分値は足関節内反角度と有意な正の相関を認めた(R=0.475,P=0.046).またGM積分値は足関節背屈角度と有意な正の相関を認めた(R=0.583,P=0.011).TA/PL比とTA/GM比は足関節内反角度とそれぞれ有意な正の相関を認めた(それぞれR=0.561,P=0.016,R=0.588,P=0.010). 【考察】 着地動作中の接地前における足関節周囲筋活動は接地時の足関節肢位に関連することが示唆された.TAは足関節を背屈させる他に内反させる機能を有するため,接地前のTAの筋活動が大きいほど接地時の足関節内反角度が大きかったと考えられ,TAの過剰な活動は足関節内反捻挫にとって脆弱な肢位を導き得ると考えられる.さらにTA/PL比とTA/GM比が大きいほど接地時の足関節内反角度が大きかった.この結果は接地前の筋活動バランスが接地時の足関節の肢位に影響を与えることを示唆しており,PLおよびGMの筋活動は足関節内反角度の制御にとって重要な役割を担っている可能性が考えられる.GMの足関節前額面運動に対しての機能に関しては一致した見解が得られていないが,足関節を外反させる機能を有するPLの接地前筋活動は足関節内反捻挫を予防するために不可欠であると考えられている.本研究の結果はこの考えを支持するものである.また,GMは二関節筋であり,足関節を底屈させる他に膝関節を屈曲させる機能を有する.足関節の背屈に連動して膝関節の屈曲が生じるため,GMの接地前筋活動が大きいほど接地時の足関節底屈角度が小さいという関係性を認めたのかもしれない.先行研究はCAIを有する者では着地動作中の接地前後において足関節運動が変化していることを明らかにしたが,足関節運動がなぜ変化しているのかについては未だ不明である.本研究は健常者を対象としたが,CAIにおける接地前後の変化した足関節肢位の一因として接地前筋活動が関連している可能性がある.足関節内反捻挫の予防において,特に足関節不安定性を有する者では,足関節周囲の筋バランスを考慮してアプローチすることが,着地動作時の変化した足関節肢位を修正する上で重要であると考える.【理学療法学研究としての意義】 着地動作において急速かつ過度な足関節回外により生じる足関節内反捻挫を予防するためには接地前の筋活動が不可欠であると考えられている.本研究は足関節内反捻挫の予防的介入において,さらにはCAIにおける変化した動態のさらなる解明において有用な情報を提供すると考える.
著者
吉池 史雄 前野 佑輝 齋藤 佑磨 真水 鉄也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-152_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに,目的】我々は先行研究(2016)において,距骨下関節の回外誘導により,立位姿勢における体幹の同側への回旋運動の増加が生じることを報告した.また,同様に先行研究(2017)では,回内誘導により立位姿勢における体幹の同側回旋運動の抑制が生じることを報告した.この事から距骨下関節の肢位変化は,近位だけではなく,より上位関節へ影響を与える事が可能であると分かった.今回の研究では,筋電計を用いて歩行における距骨下関節の肢位変化が,上位関節である股関節に対し,同関節筋である大殿筋の活動にどのような影響を及ぼすか検証した.【方法】対象は整形外科的疾患の既往が無い健常成人男性11名(年齢27.2±3.4歳,身長173.4±2.6cm,体重68.4±2.1kg)とした.課題は快適速度での歩行を行い,被験者の右踵骨部に対し10mm×30mm×3mmのパッドを内側及び外側に貼付し距骨下関節を回内誘導(以下回内群)及び回外誘導(以下回外群)とした.また,Gait Judge System(パシフィックサプライ社製)を用い,右大殿筋部に表面筋電図を貼付し歩行時の筋活動を計測した.表面筋電波形の計測は,歩行が定常化した後の連続3歩行周期を抽出した.得られたデータは20〜250Hz のバンドパスフィルターで処理した後,RMS波形に変換した.サンプリング周波数は1000Hzとした.また,筋電図と同期して撮影したデジタルビデオを照合し,右Initial Contact~Terminal stanceの立脚期を抽出し,測定筋の筋電図積分値を算出した.得られたデータは3歩行周期の平均値を出し,回内群と回外群にて比較した.統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】立脚相における大殿筋の活動は回内群で7.42±4.22μV,回外群では6.07±3.19μVとなり,回内群の方が大殿筋の活動が優位に増加した.(p<0.05)【結論】距骨下関節の回内誘導により,立脚期における大殿筋の筋活動が増加した. 先行研究より,上行性運動連鎖の観点から距骨下関節の回内誘導により荷重下では右下腿の内旋が促され,続いて大腿の内旋が生じる.また,骨盤も大腿内旋により左回旋方向へ誘導される.その際に,骨盤-大腿の回旋をコントロールする為に大殿筋の大腿外旋の作用により,遠心性活動が要求された事で筋活動が高まったと考えられた.また,距骨下関節の回内により距舟関節と踵立方関節は平行した位置関係を取り,横足根関節の可動性が増加し足部全体の剛性低下が生じる.足部の剛性低下により立脚期における前方推進力は低下し,立脚相前半相が延長される.大殿筋は立脚相前半にかけて強く働くことから,立脚相前半の延長により大殿筋の活動が要求されたと考えられた.【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を書面にて説明し,同意書にて参加の同意を得た.また本研究は当院での倫理委員会の承認の下実施した
著者
木山 良二 川田 将之 吉元 洋一 前田 哲男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102107, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】歩行時の足関節底屈モーメントの増加は,床反力の前方成分を強め,股関節屈曲モーメント,パワーを減少させることが報告されている。立脚後期の足関節底屈モーメントはヒラメ筋や腓腹筋などにより発揮されるが,腓腹筋は二関節筋であり,その作用は膝関節を介し,股関節にも影響を与えると考えられる。本研究の目的は,下腿三頭筋の最大筋力を変化させた筋骨格モデルを用い,腓腹筋が歩行中の股関節屈筋群に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人10 名とした。3 次元動作解析装置(Oxford Metrics社製VICON MX3)と床反力計2 枚(AMTI社製OR6-7, BP400-600 )を用い,快適速度の歩行を計測した。計測側は左下肢とし,計測回数は3 回とした。得られたデータと筋骨格モデルシミュレーションソフト(ANYBODY Technology社製AnyBody 5.2)を用い,筋の活動張力を算出した。筋骨格モデルの腓腹筋もしくは,ヒラメ筋の最大筋力をそれぞれ100%,60%,30%に減少させたモデルを用い,腓腹筋の筋張力が股関節屈筋群の筋張力に与える影響を検討した。今回は腓腹筋,ヒラメ筋,大腿直筋,大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維を分析対象とした。また大腿直筋については,腱に蓄積される弾性エネルギーも算出した。活動張力および弾性エネルギーは,時間正規化を行い,体重にて正規化し,立脚後期における最大値を比較した。統計学的検定にはフリードマン検定を用い,有意水準は5%とした。なお統計学的検定にはSPSS 20 を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の内容は,鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。測定に先立って,対象者に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,書面にて同意を得られた場合にのみ測定を行った。【結果】歩行速度は1.22 ± 0.16 m/s,歩幅は0.66 ± 0.1 m,歩行率は109.6 ± 4.9 steps/minであった。腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の最大筋力の低下に伴い,立脚後期の大腿直筋の活動張力が有意に低下し(100%, 3.7 ± 2.9 N/kg; 60%, 2.9 ± 2.6 N/kg; 30%, 2.5 ± 2.3 N/kg; P<0.001),ヒラメ筋(100%, 21.6 ± 6.5 N/kg; 60%, 25.8 ± 8.6 N/kg; 30%, 31.5 ± 8.2 N/kg; P<0.001),大腰筋(100%, 17.3 ± 6.9 N/kg; 60%, 18.4 ± 7.2 N/kg; 30%, 19.9 ± 7.5 N/kg; P<0.001),腸骨筋(100%, 7.0 ± 2.1 N/kg; 60%, 7.5 ± 2.1 N/kg; 30%, 8.0 ± 2.1 N/kg; P<0.001),中殿筋前部線維(100%, 5.5 ± 1.5 N/kg; 60%, 6.1 ± 1.6 N/kg; 30%, 7.5 ± 1.7 N/kg; P<0.001)の活動帳力が有意に増加した。股関節の屈筋群で特に変化率が大きかったのは,大腿直筋および中殿筋前部線維であった。ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,ヒラメ筋の筋力低下に伴い,立脚後期における腓腹筋,大腿直筋の活動張力が有意に増加し(P<0.001),大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維の活動張力が有意に減少した(P<0.001)。また大腿直筋腱の弾性エネルギーは,歩行周期の約50%にピークを示し,腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に減少し(P<0.001),ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に増加した(P<0.001)。【考察】今回の結果では,腓腹筋の活動張力のピークは歩行周期の約40%,ヒラメ筋は約50%であり,おおよそターミナルスタンスの後半からプレスウィングに該当する。この時期の腓腹筋の筋張力は,主に足関節底屈モーメントを発生し,重心の前方移動に関与する。しかし膝関節に対しては,屈曲モーメントを発生させる。一方,大腿直筋もおおよそ歩行周期の50% でピークを示し,股関節屈曲モーメントと膝関節伸展モーメントを発揮する。腓腹筋と大腿直筋の同時性収縮により,膝関節の安定性が保たれる。そのため,腓腹筋の最大筋力を低下させた筋骨格モデルでは,腓腹筋の活動張力の低下に伴い,それに拮抗する大腿直筋の活動張力および腱の弾性エネルギーが減少する。その結果,その他の股関節屈筋の活動張力が増加したと考えられた。また,大腿直筋は股関節に対しては,屈曲と外転の作用をもつため,同様の作用をもつ中殿筋前部線維の活動張力の増加率が大きかったと考えられた。逆に,ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の活動張力が増加するために,大腿直筋の活動張力が増加し,その他の股関節屈筋群の活動張力が減少したと考えられた。したがって,腓腹筋の活動張力は大腿直筋と連動して,股関節屈筋群に影響を与えることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】歩行中の腓腹筋の筋張力は,床反力の前方成分の増加に加え,膝関節伸展筋と拮抗することにより,大腿直筋の筋張力を高め,股関節屈筋群の負荷を軽減することが示唆された。このことは,歩行時の振り出しが困難な症例の代償戦略や,負荷が生じる部位を検討する際の基礎的情報として意義深いと考える。
著者
上田 周平 鈴木 重行 片上 智江 水野 雅康
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B4P3075, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】頭頚部の運動は環椎後頭関節を中心とする頭部の運動と下位頚椎を中心とする頚部の運動から規定される(Hislop H.J.2002)。頭頚部のアライメントの相違は咽頭、喉頭などに形態的差異をもたらし嚥下機能に密接に関与すると報告されている。しかし、頭頚部の関節可動域(以下ROM)を頭部と頚部に分け嚥下機能との関連性を検討した報告はみられない。そこで本研究は頭頚部のROMを頭部屈曲と複合(頭部+頚部)屈曲の2つに区分し、それらのROMが嚥下障害に関連して生じる誤嚥性肺炎に関与するかを検証することを目的とした。【方法】2施設の介護老人福祉施設に入所中の高齢者50名(男性12名,女性38名,平均年齢85.8±6.9歳)を誤嚥性肺炎の既往の有無にて2群(誤嚥性肺炎あり群21名,なし群29名)に分類し、2群間で頭部屈曲と複合屈曲のROMを比較した。また群間のプロフィール比較として年齢、性別、更にその他の頭頚部機能として舌骨上筋機能グレード(以下GSグレード)、相対的喉頭位置(吉田.2003)を比較した。ROMの測定肢位はベッド上臥位とし、他動運動にて最大角度と可動範囲を測定した。頭部屈曲の最大角度は外耳孔を通る床からの垂直線と外眼角と外耳孔を結ぶ線とのなす角(A角)の最大値、可動範囲は最大角度に開始肢位でのA角を加えた角度とした。複合屈曲の最大角度は肩峰を通る床との平行線と肩峰と外耳孔とを結ぶ線とのなす角(B角)の最大値、可動範囲は最大角度から開始肢位でのB角を引いた角度とした。測定にはデジタルカメラを用い、カメラが被検者と平行になるように三脚に固定して3回撮影を行った。その後データをPCに取り込み画像解析ソフトImage J(NIH)を用いて角度を算出し、得られた角度の3回の平均値を採用した。また健常人10名(平均年齢33.6±10.5歳)を対象に上記測定方法の信頼性の検討も合わせて行った。統計学的手法は対応のないt検定、Mann-Whitney検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした。【説明と同意】対象者またはその家族には研究の主旨を十分に説明し、研究に参加することへの同意を得た。また本研究は当院の倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】群間プロフィールには差を認めなかった。またGSグレード、相対的喉頭位置においても両群で差はなかった。ROM測定の信頼性はICC(1.3)で頭部屈曲は最大角度0.98,可動範囲0.98,複合屈曲は最大角度0.94,可動範囲0.97であった。得られたROMは誤嚥性肺炎あり群では頭部屈曲は最大角度1.2°±14.0°,可動範囲20.7°±8.7°,複合屈曲は最大角度59.9°±16.3°,可動範囲52.5°±16.5°,なし群では頭部屈曲は最大角度9.4°±14.2°,可動範囲18.8°±8.9°,複合屈曲は最大角度62.7°±16.8°,可動範囲45.3°±16.1°であり両群間で差を認めたのは頭部屈曲最大角度のみであった(p<0.05)。【考察】頭頚部機能の1つとして比較したGSグレード、相対的喉頭位置に差がなかったのは、吉田らは加齢による影響で甲状軟骨と胸骨間が短縮することで喉頭位置が下降すると報告しており、今回の対象者が高齢かつ施設入所中のADLの低い者であったためではないかと推察される。頚部のROM測定には1995年に日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が改定した方法が用いられるが、その方法は頭部と頚部を併せた複合屈曲での測定となっている。しかし、今回の調査では誤嚥性肺炎の有無で複合屈曲に差はなく頭部屈曲最大角度に差を認めた。また頭部屈曲の可動範囲には差を認めなかった。これらのことから誤嚥性肺炎あり群はなし群と比較し安静時に頭部が伸展位となっていることと、摂食時にchin down肢位が取りづらい状態であることが推察され、ROMの観点からも嚥下機能において不利益な状態を呈していることが確認された。今回の群分け方法では誤嚥性肺炎前にROM制限を生じたのか、誤嚥性肺炎後に2次的に制限を生じたのかは明らかでないが、嚥下機能の検査測定項目の1つである頭頚部のROM測定においては頭部と頚部の区分が必要であり、またその治療においても頭部と頚部を区分した介入、特に頭部屈曲に対する介入の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】嚥下障害患者のROM測定において頭部屈曲を測定する必要性が認められた。今回の測定方法は更なる解剖学的検討、検者間信頼性の検討が必要ではあるが、検者内信頼性は高い結果であった。嚥下分野での理学療法士の関与は十分とはいえない。しかし今回の頭頚部の関節可動域1つをとっても我々が果たせる役割は大きく、今後の更なる積極的な介入や研究が望まれる。
著者
瀬川 槙哉 齊藤 明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1356, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:以下DVT)の予防は術後管理や長期臥床時に重要であり,その原因静脈はヒラメ静脈,後脛骨静脈,腓骨静脈とされている。解剖学的には後脛骨静脈や腓骨静脈はヒラメ筋と後脛骨筋,足趾屈筋群に囲まれて存在しており,筋ポンプ作用の影響を受けやすいものと推察される。そのためDVTの予防のために行う足関節底背屈運動の際に,上記の血管に対して背側に位置する下腿三頭筋だけではなく,腹側に位置する足趾屈筋群,後脛骨筋を働かせ,両方向から筋収縮を加えることによって,より効果的な筋ポンプ作用が得られると考えるが,そのような報告はない。そこで本研究の目的は,足関節底背屈運動と足関節底屈時に足関節内反ならびに足趾屈曲を加えた底背屈運動における大腿静脈血流速度の測定を行い,DVTに効果的な運動を明らかにすることである。【方法】対象はA大学に在籍する健常男子学生33名を対象とした。測定には超音波診断装置(HI VISION Avius)を使用し,背臥位,股・膝関節伸展位で右大腿静脈血流速度をパルスドプラ法にて測定した。運動条件は①足関節底背屈(以下,単独運動群),②底屈時に足趾屈曲を行う足関節底背屈(以下,足趾複合運動群),③底屈時に足関節内反を行う足関節底背屈(以下,内反複合運動群)とした。手順は背臥位にて5分間の安静を保持し,安静時の血流速度を測定した。その後,各条件で測定をランダムに行い,測定間には3分間の休息を設けた。足関節底背屈の運動速度は50回/minとした。解析は運動開始後の20~40秒の間で波形が安定した状態を視覚的に確認し,最大血流速度(単位:cm/s)を計測した。また,運動中及び直後には脈拍を計測した。データ処理は運動時の血流速度を安静時の血流速度で除して,安静時に対する各運動条件での最大血流速度比を算出した。統計学的解析は各条件での最大血流速度比を比較するためFriedman検定を用いた。その後,有意差の認められたものに対しBonferroniの多重比較検定を行った。また各条件とも運動後と安静時の心拍数の差を求め,一元配置分散分析を用いて比較した。統計処理には,PASW Statistics18(IBM社製)を用い,危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究目的および測定方法を十分に説明し書面で同意を得た。【結果】各条件での最大血流速度比の中央値(四分位範囲)は,単独運動群で2.64(1.94-3.71),足趾複合運動群では3.36(2.58-5.49),内反複合運動群では3.93(3.04-5.2)で足趾複合運動群及び内反複合運動群が単独運動群より有意に最大血流速度が速かった(それぞれp<0.01)。安静時に対する各運動時の心拍数の差は,単独運動群3.03±0.96回/min,足趾複合運動群2.97±1.12回/min,内反複合運動群4±1.27回/minであり,各条件間では有意な差は見られなかった。【考察】単独運動群と複合運動群の血流速度に差が認められた理由の一つとして,下腿における筋と静脈の位置関係が考えられる。単独運動群では底屈時に主にヒラメ筋静脈での静脈環流が促される。これと比して複合運動群では底屈によるヒラメ筋静脈の圧迫に加え,足趾屈曲では後脛骨静脈,足関節内反では後脛骨静脈と腓骨静脈に対しての圧迫が更に加わると考えられる。よって,下腿深部静脈を背側・腹側の両方向から圧迫できる複合運動群では,単独運動群に比べ,より速い血流速度が得られたのではないかと考える。また内反複合運動においては非荷重位の影響が大きいと考えられる。下腿三頭筋は非荷重位においては十分な筋収縮が得られないが,一方で後脛骨筋は非荷重位での筋活動が高いとの報告がある。本研究においても非荷重位で測定を行ったため,後脛骨筋の活動が高まり内反複合運動がより速い血流速度を得ることが出来たのではないかと考える。このことは特に内反複合運動が術後やベッド上での安静を要する時期のDVT予防に有用であると考える。血流速度と心拍数の関係について,心拍数の上昇は,動脈血流量が増大を引き起こし,結果として静脈還流促進に伴う血流速度上昇が生じる可能性がある。本研究においては各運動群での心拍数の変化に有意差は認められず,各運動条件間の血流比較において心拍数の上昇が与える影響は少なかったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】以上のことから底背屈単独運動に比べて複合運動では,より大きな静脈還流促進効果が期待でき,臨床において効果的なDVT予防方法となりうることが示唆された。一般に臨床場面では足関節の底背屈運動によってDVT予防を図ることが多いが,今回の研究の結果より底背屈単独運動だけではなく,足趾屈曲や足関節内反の複合運動で行うことで,より高いDVTの予防効果が期待される。
著者
江玉 睦明 大西 秀明 久保 雅義 熊木 克治 影山 幾男 渡辺 博史 梨本 智史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】長母趾屈筋の停止部位に関しては多くの報告がなされており,長母趾屈筋が第II趾,第III趾に分岐するものが最も多く,今村ら(1948)は64%,川島ら(1960)は49%,Chelmer et al.(1930)は62%であったと報告している。また,今村ら(1948)は長母趾屈筋が母趾末節骨のみに停止する例は0%,Chelmer et al.(1930)は0.5%であったと報告している。このように停止部位に関しての報告は多数認められるが,長母趾屈筋が足趾の屈曲にどの程度関与しているかは検討されていない。Fukunaga et al.(2001)は,筋力や筋パワーは筋の解剖学的断面積より生理学的断面積と比例し,筋の体積は生理学的断面積と高い相関関係にあると報告している。また,佐々木ら(2012)は,下腿三頭筋の体積とアキレス腱横断面積には有意な相関関係があることを報告している。従って,足趾へ分岐する長母趾屈筋腱の横断面積を計測することで長母趾屈筋の足趾屈曲作用を定量的に検討することができると考えられる。そこで本研究では,長母趾屈筋腱を母趾と足趾に分岐する腱に分け,それぞれの横断面積の割合から長母趾屈筋がどの程度足趾の屈曲に関与しているかを検討することを目的とした。【方法】日本人遺体13体21側(平均年齢:75±11歳,男性:17側,女性4側)を用いた。足底部より皮膚,皮下組織を除去し,長母趾屈筋,長趾屈筋の停止腱を丁寧に剖出した。次に,長母趾屈筋が母趾へ向かう腱と足趾へ向かう腱に分岐した部分で各腱を横断した。また,足趾の屈筋腱(長趾屈筋,足底方形筋,長母趾屈筋が合わさった腱)をII趾~V趾の基節骨部で横断した。そうして各腱の断面をデジタルカメラ(Finepix F600EXR,Fujifilm)にて撮影し,画像解析ソフト(Image J, NIH, USA)を使用して横断面積を計測した。長母指屈筋腱において,母趾・第II~第V趾に分岐する腱の横断面積の総和を長母指屈筋腱の総横断面積として各腱の割合を算出し,更に第II~第V趾の屈筋腱に対する長母趾屈筋腱の割合を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】死体解剖保存法と献体法に基づき本学に教育と研究のために献体された遺体を使用した。また,本研究は所属大学倫理委員会にて承認を受けて行われた。【結果】長母指屈筋が母指末節骨のみに停止する例は存在せず,長母指屈筋からの分束(外側枝)が腱交叉部(足底交叉)から分かれて長趾屈筋の腱構成に加わった。その内,外側枝が第II指へ分岐するものが6例(29%),第II・III指へ分岐するものが11例(52%),第II・III・IV指へ分岐するものが4例(19%)であった。長母趾屈筋腱は,母趾へ向かう腱が65±14%,第II趾が23±6%,第III趾が9±9%,第IV趾が3±5%の割合で構成されていた。足趾の屈筋腱における長母趾屈筋腱の割合は,母趾・第II趾へ分岐するものでは,第II趾では36±3%であった。母趾・第II・III趾に分岐するものでは,第II趾では55±5%,第III趾では46±3%であった。母趾・第II・III・IV趾に分岐するものでは,第II趾では67±28%,第III趾では34±12%,第IV趾では30±2%であった。【考察】長母趾屈筋の停止部位に関しては,第II・III趾へ分岐するものが52%で最も多く,長母趾屈筋が母趾のみに停止するものは存在せず,先行研究とほぼ同様の結果であった。長母趾屈筋腱は,分岐状態にかかわらず約60%が母趾に停止する腱で構成され,第II・III・IV趾に分岐する割合は,それぞれ23%,16%,10%と減少していく傾向であった。しかし,第II・III趾の屈筋腱における長母指屈筋腱の割合は,概ね30%~60%を占めていた。従って,停止部位と横断面積の割合から考えると,長母趾屈筋の主作用は母趾の屈曲であり,第II・III趾の屈曲が補助作用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,長母趾屈筋の足趾屈曲作用を考える上で貴重な情報となり,臨床的応用も期待できる。
著者
末廣 忠延 水谷 雅年 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 高橋 尚 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】腹臥位での股関節伸展運動(Prone hip extension:以下,PHE)は,腰椎骨盤の安定性の評価としても使用され,股関節伸展に関与する筋活動のタイミングや腰椎骨盤の過剰な動きの有無が検査される。PHE時の筋活動の開始時間を調査した先行研究は,健常者を対象とした腰部多裂筋,脊柱起立筋,大殿筋,ハムストリングスを被験筋としているが,一致した結果が得られていない(Vogtら1997,Lehmanら2004)。また腰痛者でのPHE時の筋活動を調査した研究においては,健常者と比較して大殿筋の活動開始の遅延や広背筋の過剰な活動が報告されている(Brunoら2007,Kimら2014)。このように腰痛者においてPHE時の後斜走スリングを担う大殿筋,広背筋は,健常者と異なる筋活動パターンを示す。しかしながら,PHE時の広背筋の活動開始時間について調査した研究はなく,PHE時の正常な広背筋の活動開始時間は不明となっている。そこで本研究は,PHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間を明らかにすることで腰椎骨盤の安定性のメカニズムを解明することを目的とした。【方法】対象は健常男性20名(平均年齢23.4±4.0歳,身長168.9±8.4cm,体重61.2±11.0kg)とした。筋活動の測定は表面筋電計Vital Recorder 2(キッセイコムテック社製)を用い,被験筋は,対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,両側の多裂筋,股関節伸展側の大殿筋と大腿二頭筋とした。測定肢位は,リラックスした状態で両上肢は体側とし,足関節以遠をベッド端から出した腹臥位とした。また頸部は,被験者の前方に設置したLEDライトが見えるようにわずかに頸部を伸展した。被験者は,光信号に反応して可能な限り速く,膝を伸展したまま股関節の伸展を実施し,その際の筋活動を測定した。なお,股関節を伸展する足は,非利き足とし,測定は3回実施した。筋活動開始時間の決定は,安静時の筋活動の平均振幅の2標準偏差を超える点とし,データ分析には,各筋がフィードフォワード活動であったかを検出するために,各筋の開始時間と大腿二頭筋の相対的な差を分析した。各筋の相対的な活動開始時間を求める式は,各筋の筋活動開始時間-大腿二頭筋の活動開始時間で算出した。従って,負の値は,その筋が大腿二頭筋の前に活動したことを示す。統計学的解析では,統計解析ソフトSPSS 22.0(IBM社製)を用い,反復測定分散分析とTukeyの多重比較検定を実施し,各筋の相対的な筋活動開始時間の差を検出した。なお,危険率は5%未満とした。【結果】相対的な筋活動開始時間は,同側多裂筋(-3.8±9.2 ms),対側多裂筋(7.0±13.5 ms),対側の腰部脊柱起立筋(8.3±14.1 ms),同側の腰部脊柱起立筋(22.6±21.6 ms),対側の広背筋(24.5±26.1 ms),大殿筋(51.6±57.9 ms)の順であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。また同側の腰部多裂筋は同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも有意に速く活動した。【考察】フィードフォワード活動は,主動作筋の筋活動開始の100ms前から50ms後と定義される(Hodgeら1997)。そのため本研究のすべての体幹筋は,フィードフォワードの活動であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。これは,大殿筋が働く前に体幹を安定化させるためだと考えられる。また同側の多裂筋の活動は,同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも早期に活動した。これは,PHE時に多裂筋が最も早期に活動したとするTateuchiら(2012)の結果と類似している。彼らは,多裂筋の活動開始が遅延すると骨盤の前傾角度が増加すると報告している。また腰部多裂筋は,腰椎の分節的な安定性に関与すると報告されている(Richardsonら2002)。これらのことから本研究で多裂筋が早期に活動したことは,股関節が伸展する前に腰椎の分節的な安定性を増加させるために生じたと考えられる。対側の広背筋の活動は,大殿筋よりも早期に活動した。骨盤の安定性は,広背筋,胸腰筋膜,大殿筋の後斜走スリングの筋膜などによって担っている。そのため広背筋が早期に活動したことは,大殿筋が活動する前に胸腰筋膜の緊張が高まり,大殿筋の活動開始時に効率よく骨盤部の安定性が高められたと思われる。【理学療法学研究としての意義】健常者におけるPHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間が明らかとなった。本研究の結果をPHEの正常運動の基礎的資料とし,今後,腰痛を持つ者との差を検討することにより腰痛者の理学療法に寄与できる点で意義がある。