著者
曽我 孝 宮本 礼人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1323, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 関節包や靱帯などの軟部組織の伸張性や、筋緊張により関節可動範囲は変化し、正常可動範囲を超えると関節の緩みや亜脱臼を伴う。そして全身的に関節が緩い場合、靱帯損傷や亜脱臼などを生じる可能性が高くなる。 臨床場面では靱帯損傷症例を経験することがあるが、その中でも膝前十字靱帯(以下、ACL)損傷症例は多い。ACL損傷症例において膝関節弛緩性を評価することは重要であり、ACL再建術後も定期的に評価を行う。そこで今回ACL損傷症例の全身の関節柔軟性と膝関節弛緩性(特にACLに着目して)との間に関連性があるかどうかを検討した。【方法】 今回ACL損傷と診断され、当院で半腱様筋腱、薄筋腱を用いてACL再建術を施行した31名(男性11名、女性20名、平均年齢30.6±11.4歳)を対象とした。関節柔軟性の評価は中嶋のLooseness Testを使用し、手関節、肘関節、肩関節、股関節、膝関節、足関節に脊柱を加えた7部位を評価した。7項目中3項目以上が陽性であれば全身の関節柔軟性は高いと判定した。膝関節弛緩性の評価は膝関節前方弛緩測定器(KNEE LAX3、GATSO社製)を使用し、術前、術後6ヶ月の両膝関節前方移動量を測定した。KNEE LAX3における前方移動量は132Nの力を加えたときの数値(単位:mm)である。得られた結果からLooseness Testと前方移動量(健側、患側、患健差)の相関関係を調べた。統計学的分析としてピアソンの相関係数を用いて検定した。なお有意水準は5%未満(P<0.05)とした。【説明と同意】 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、同意を得てから測定を実施した。測定に必要な個人情報、測定結果などは本研究のみに使用し、対象者のプライバシーが保護されていることを加えて説明した。【結果】 今回Looseness Testと術前後の両膝関節前方移動量との間には正の相関が認められると仮定していたが、実際相関が認められたのは術前患側(r=0.5896、P=0.0004)、術前患健差(r=0.4458、P=0.0119)のみであった。【考察】 術前患側の膝関節弛緩性が全身の関節柔軟性と正の相関があることより、ACLを損傷した場合、全身の関節柔軟性が高いほどACL以外の軟部組織の伸張性及び筋緊張が膝関節弛緩性に影響すると考えられる。関節柔軟性を決める要因としては靱帯や関節包、筋肉(筋膜)、腱、皮膚などが挙げられる。この中で特に関節柔軟性に関与しているのが靱帯や関節包で、次いで筋肉(筋膜)と言われ、腱や皮膚の影響は小さい。今回膝関節弛緩性についてはACLに着目して研究を行ったが、ACL本来の柔軟性は全身の関節柔軟性にそれほど関連がないことから、膝関節においては関節包や筋肉(筋膜)が膝関節柔軟性に大きく影響しているのではないかと考えられる。今後、関節包や筋肉などの軟部組織が関節柔軟性にどれほど関連しているかを検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 ACL損傷症例のほとんどがスポーツによる受傷であり、その大半がスポーツ復帰を強く希望されている。その為に再建術を施行されるが、症例によっては手術までに長期間を要する場合がある。関節柔軟性が高い場合、膝関節への負担を考慮すると関節の支持性を高めるTrainingが重要となってくる。また再断裂や反対側の予防的観点からも同じことが言える。
著者
高倉 保幸 山本 満 陶山 哲夫 高橋 佳恵 大住 崇之 大隈 統 小牧 隼人 河原 育美 加藤 悠子 若林 稜子 草野 修輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.B0014, 2006

【目的】脳出血で最も高い割合を占める被殻出血では、血腫の進展を示すCT分類や出血量、意識障害と予後との相関が高い事が知られているが、急性期病院の平均在院日数である発症後3週での予後との関係は明らかにされていない。また、臨床的には急性期の機能的予後にはCTにおける脳浮腫の程度と相関が高いという印象を持っているが、その評価基準は確立されていない。本研究の目的は、急性期被殻出血の機能的予後を予測する指標について検討することである。<BR>【方法】対象は当院にて初回発症で理学療法を行った被殻出血47例とした。年齢は60.1±10.7歳(平均±標準偏差)、性別は被殻出血が男性32例、女性15例であった。予後予測の因子として検討した項目は、脳卒中の外科学会によるCT分類(以下CT分類)、総出血量(長径×短径×高さ÷2)、出血径(長径)、脳浮腫、発症時意識(JCS)、発症翌日意識(JCS)とした。脳浮腫の判定は独自に3段階の評価基準を作製、いずれのレベルでも脳溝の狭小化がみられないものを1、脳溝の狭小化がみられるものを2、モンロー孔のレベルから3cm上部での病巣側の脳溝が消失しているものを3とした。基本動作能力の判定には11項目からなる改訂された機能的動作尺度(以下FMS)を用いた。FMSの検査時期は21.9±2.0日であった。各因子とFMSおよび因子間におけるスピアマンの相関係数を算出し、基本動作能力の予測に有用な因子を考察した。<BR>【結果】各因子およびFMSの結果をみると、CT分類の中央値はIII、総出血量の平均は36.8ml、出血径の平均は4.7cm、浮腫の中央値は2、発症時意識の中央値はII-10、発症翌日の意識の中央値はI-3、FMSの平均は14.8点であった。FMSとの相関は、CT分類では0.64(p < 0.01)、総出血量では0.61(p < 0.01)、出血径では0.57(p < 0.01)、脳浮腫では0.55(p < 0.01)、発症時意識では0.14(p = 0.34)、発症翌日意識では0.29(p = 0.45)となった。また、浮腫との相関は、CT分類では0.40、総出血量では0.50(p < 0.01)、出血径では0.54(p < 0.01)となった。<BR>【考察とまとめ】機能的予後を予測する指標としてはCT分類、出血量、脳浮腫が有用であることが示された。出血量では総出血量を算出する方が指標としての精度は高くなるが、長径により代用する方法も簡便で有用であると考えられた。新たに作製した脳浮腫の評価は予後と有意な相関を示し、CT分類や出血量と強い相関を示さないことから評価指標としての有用性が示された。意識はリハ開始前の死亡例が除かれていることおよび発症3週間という短期間で調査であることから相関が低くなったと考えられたが、発症日の意識よりも発症翌日の意識を指標とする方が有用であることが示唆された。<BR>
著者
木暮 洸一 川越 誠 桜井 進一 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1388, 2012

【はじめに、目的】 投球動作の中で肩・肘関節に疼痛を訴えることの多い相はLate cocking期以降とされており,その動作はそれ以前の動作の影響を受ける.先行研究ではLate cocking期以降に加わる肩・肘関節へのストレスの大きさに影響を及ぼす要因として,肩・肘関節角度などが挙げられている.さらに,投球動作は下肢からの連動動作であるため,上肢だけではなく下肢にも注目する必要がある.下肢の中でも指導者や野球の指導書の多くがよく指摘するリードレッグ(前方に踏み出す足)の接地位置は投球におけるコントロールに強く影響を及ぼすため,接地位置のズレに気がつかないままの投球の継続は,コントロールを意識しすぎるが故に手投げとなることが多いとされている.そこで,本研究は野球の投球動作においてリードレッグの接地位置の違いが,肩の負荷および上肢への運動伝達に重要な体幹回旋角度にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,本研究に同意の得られた野球経験のある男性10名(平均20.4±0.5歳)とした.課題動作はリードレッグの接地位置をスタンスレッグの踵からホームベースへ引いた直線上に接地するストレートステップ(以下SS位),その線より3塁側に接地するクロスステップ(以下CS位),1塁側に接地するオープンステップ(以下OS位)とする3つの肢位での全力投球とし,各課題それぞれ3球ずつ行い,その動作を三次元動作解析装置(VICON Mx,Oxford Metrics社製)およびスピードガン(Bushnell社)で計測し解析した.サンプリング周期は250Hzで,身体の各部位に38個の反射マーカーを貼付した.解析対象としては,各課題間で球速の差を最小限にするため,球速が近い値のデータを選択し,リードレッグ接地時(以下FP)・肩関節最大外旋時(以下MER)・ボールリリース時(以下BR)の関節モーメントおよび関節角度(オイラー角を用いて表現)を算出した.統計処理には, 3条件間での比較に一元配置分散分析を用い,その後の2条件間の比較に多重比較検定のTukey-Kramer法を用いた(有意水準5 %).なお,肩関節の負荷については,肩関節モーメントと肩関節角度・体幹回旋角度を求め,それらから推定するものとした.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に対しては,研究内容と研究で起こりうる危険因子について口頭及び書面を用いて十分に説明を行い,同意を得た.【結果】 肩関節モーメントでは,MER時のSS位の内旋モーメントがCS位に比べ有意に高い値を示した(p<0.05).その他の肩関節モーメントでは有意な差は見られなかった.MER時の肩関節外旋角度は,SS位に比べCS位が,OS位に比べCS位が有意に高い値を示した(p<0.01).MER時の肩関節外転角度は,CS位がSS位・OS位に比べ有意に低い値を示し(p<0.05,p<0.01),SS位はOS位に比べ有意に低い値を示した(p<0.01).BR時の肩関節外転角度は,CS位がSS位・OS位に比べ有意に低い値を示した(p<0.05,p<0.01).肩関節水平内転角度は,MER時においてCS位がSS位と比較し有意に低く(p<0.01),BR時においてCS位がOS位と比較し有意に高い値を示した(p<0.01).FP時の体幹回旋角度では,SS位に比べCS位が,OS位に比べCS位が有意に低い値を示した(p<0.01).BR時では,SS位に比べCS位が,OS位に比べCS位が有意に高い値を示した(p<0.01).【考察】 算出した肩関節モーメントは,関節角度に比べデータの標準偏差が大きく,MER時のSS位・CS位間の内旋モーメントのみに有意な差が認められた.関節角度では,CS位が他の2条件に比べ有意に肩関節最大外旋角度が大きく,肩関節外転角度が小さくなった.また,リードレッグ接地時の体幹回旋角度でもCS位は他の条件に比べ小さい値となった.肩関節最大外旋角度が大きく,肩関節外転角度が小さい肘下がりでの投球動作はいずれも肩関節への負荷が増大するとされている.さらに,リードレッグ接地時の体幹回旋角度の不足は体幹と上肢の運動伝達を低下させ,代償的に肩にかかる負荷を増大させることから,CS位では肩の負荷が増大していると考えられる.以上のことから,3条件の中で一番肩関節への負荷が大きいのはCS位での投球動作ということが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 リードレッグ接地位置を修正することは,高速運動となるLate cocking期以降の動作を修正するよりも比較的容易であり,投球動作の指導上,有用なものになると考えられる.
著者
冨田 洋介 新谷 和文 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ba0286, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 中枢神経損傷に伴う上位運動ニューロン症候群は、陽性徴候と陰性徴候に分類される。伝統的に痙縮は拮抗筋の筋力低下や協調運動障害をきたすとの考えから、痙縮の抑制が重要視された。しかし近年、痙縮は拮抗筋の筋力低下あるいは協調運動障害とは関連が無く、また陽性徴候よりも陰性徴候の方が運動パフォーマンスに関連するとの報告がある。したがって本研究は脳卒中患者と脊髄疾患患者にて陽性徴候と陰性徴候との関連性を検討し、上位運動ニューロン症候群に関する理解を深め、理学療法介入の参考とすることを目的とした。【方法】 対象は当院に入院中の脳卒中患者15名 (68.1±9.1歳)、脊髄疾患患者16名(67.6±10.6歳)とした。測定肢は脳卒中群では麻痺側、脊髄疾患群では利き足(ボールを蹴る側)とした。痙縮はAnkle Plantar Flexors Tone Scale(APTS)のStretch Reflex(SR)を用い、0から4の5段階で評価した。当指標は数値が大きいほど神経学的な筋緊張が亢進した状態を意味する。足関節背屈筋力は背臥位にてベルトにて固定したHand Held Dynamometer(μTAS F-1,アニマ社製)を使用し、3回測定を行いその平均を代表値とした。協調運動障害は、椅子座位にてFoot Pat Test(FPT)、単純反応時間(Simple Reaction Time: SRT)、リズム課題の3種をデジタルカメラ(EX-FC100, CASIO社製)にて測定した。FPTは足関節底背屈をできるだけ速く行い10秒間で足底面が床に触れた回数を指標とした。SRTはメトロノーム(DB-30, Roland社製)の音が鳴ってから足底面が床から離れるまでに要した時間を指標とした。リズム課題は3条件(0.8Hz、1.6Hz、2.4Hz)の各リズムでメトロノームの音に合わせて足関節を底背屈(タップ)し測定した。リズム誤差(指定のリズムから各タップに要した時間の平均を減じた値の絶対値)、リズム変動(各タップに要した時間の変動係数)を 3条件において各々算出した。SRの結果と足関節背屈筋力、SRT、FPT、リズム誤差、リズム変動との関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を算出した。統計処理はIBM SPSS Statistics(Version 19、SPSS Japan社)を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には書面と口頭で説明を行い、自筆あるいは御家族の代筆により書面に同意を得た。なお本研究は榛名荘病院倫理審査委員会にて承認を受けた。【結果】 SRは脳卒中群では膝伸展位にて0が6名、1が5名、2が2名、3が1名、4が1名、膝屈曲位にて0が5名、1が5名、2が1名、3が2名、4が2名、脊髄疾患群では膝伸展位にて0が6名、1が7名、2が3名、3が0名、4が0名、膝屈曲位にて0が5名、1が5名、2が5名、3が0名、4が1名だった。脳卒中群と脊髄疾患群それぞれ、足関節背屈筋力は6.0±4.3kg、7.6±2.4kg、SRTは0.34±0.07秒、0.28±0.05秒、FPTは19.5±11.8回、29.3±6.9回、リズム誤差は0.8Hzでは0.05±0.07秒、0.01±0.01秒、1.6Hzでは0.03±0.04秒、0.02±0.03秒、2.4Hzでは0.10±0.14秒、0.03±0.07秒、リズム変動は0.8Hzでは0.11±0.07、0.07±0.02、1.6Hzでは0.15±0.13、0.07±0.03、2.4Hzでは0.24±0.17、0.09±0.03だった。痙縮と足関節背屈筋力、SRT、FPT、リズム誤差、リズム変動の相関係数は脳卒中群ではSRとFPTは膝屈曲位がrs=-0.70(p<0.01)、膝伸展位がrs=-0.64(p<0.05)といずれも中等度の相関を示し、その他の指標と有意な関連性は認めなかった(rs=-0.23~0.34)。一方、脊髄疾患群では膝屈曲位SRと2.4Hzリズム誤差がrs=0.52(p<0.05)と中等度の相関を示し、その他の指標と有意な関連性は認めなかった(rs=-0.24~0.26)。【考察】 脳卒中群・脊髄疾患群において足関節背屈筋力はその拮抗筋である下腿三頭筋の痙縮の程度とは関連を認めず、両者は独立した事象であるといえる。また痙縮と協調運動障害の関連性は脳卒中群と脊髄疾患群では異なることが明らかとなったが、これは痙縮の分布や協調運動障害の程度が両群で異なること、また注意・認知機能や感覚障害の関与などが考えられる。加えて本研究は、中枢神経疾患患者の足関節協調運動障害をFPT、SRT、リズム変動、リズム誤差という異なる観点から評価した。これらの方法は簡便に時間的協調運動障害を多面的に評価できると考える。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中患者、脊髄疾患患者の足関節において、痙縮による筋力、協調運動障害への関与は限定的だった。したがってこれらの対象には協調性向上や筋力向上を目的とした痙縮抑制治療の効果は低いと考える。
著者
岩井 宏治 西島 聡 棈松 範光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0840, 2005

【はじめに】障害者ゴルフは関東圏では普及しつつあるが関西圏ではまだまだ認知度が低いスポーツである。また片麻痺クラスにおいては片手打ちが主流となっている。今回四肢麻痺という障害でありながらオリジナルリストバンドの作成により両手打ちが可能となった障害者ゴルファーへの関わりを経験したので報告します。<BR>【患者紹介】氏名:H・N 診断名:左椎骨動脈解離 ワレンベルグ症候群 障害名:四肢麻痺<BR>【理学療法評価】BRS:右上肢、手指、下肢V 左上肢II、手指III、下肢IV 表在感覚:右上下肢中等度鈍磨 左上肢脱失 下肢重度鈍磨 深部感覚:右上肢中等度鈍磨 下肢軽度鈍磨 左上下肢脱失 自律神経障害:左顔瞼下垂、発汗異常、耳鳴り、眩暈 握力:右19kg 左4.5kg 歩行:左Knee Brace装着にて1本杖歩行自立 <BR>【ゴルフ実施における問題点】(1)左手でグリップできるか(2)上肢に過度な負担をかけないよう腰の回転でスイングできるか(3)スイングに際し動揺しないだけの下肢支持性が獲得できるか(4)感覚障害が重度であるため微細な力加減が調節できるか<BR>【問題点に対する関わりと対応】(1)左手でのグリップ、片手スイング不可。一人でも付け外しが可能で固定性が良好という点に着目しオリジナルリストバンド作成。右手の握力も低下しており、付け外し部分の輪は大きく設定し、リスト部分、手背部と固定することで安定性強化を図る(2)スイングにおける筋活動として脊柱起立筋、腹斜筋、腹筋、大殿筋が重要であり、これら筋群の強化を目的とした(3)弛緩性四肢麻痺を呈しており、CKCトレーニングにおいても筋緊張亢進の所見なく、CKCトレーニングを積極的に導入。さらに左下肢の支持性低下に対しては支柱付き軟性装具作成し、ニーパッドにて安定性向上を図る。(4)認知運動療法、反復練習による残存感覚の再教育を実施。<BR>【今後の課題】(1)腰痛の評価。腰痛はプロで約50%、アマチュアで約35%に認められると言われる。(2)肩関節痛の評価。左肩はクラブヘッドがボールにあたる瞬間や、地面と衝突する瞬間に衝撃が大きく、またスイングでは肩を大きく回すため肩関節周囲筋への負担が大きい。そのため痛みが生じやすいとされる。本症例においてはさらに上肢は弛緩性麻痺を呈しており、負荷がより大きいと予測される。(3)自律神経症状の状態の把握。プレーを継続する上で自律神経症状の影響は大きい。耳鳴りが強くなれば集中力の持続は難しく、発汗異常は体調管理において重要である。気温の変化や疲労による影響を捉え、適切な指導を行う必要がある。
著者
笠井 将也 葛山 元基 佐藤 謙次 岡田 亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101956, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 足関節捻挫は整形外科領域において多い疾患であり、それに対する理学療法評価の1つに足圧中心(COP)が用いられることがある。足関節捻挫受傷患者は歩行時にCOPが外側偏位しやすいとの報告が散見されるが、歩行の立脚期を相分けし、COPの偏位を詳細に検討した報告は少ない。そこで本研究の目的は足関節捻挫受傷患者における歩行時のCOPの偏位を詳細に検討することとした。【方法】 対象は、当院リハビリ通院患者で過去1年以内に足関節捻挫を受傷した11名、11肢(捻挫群:男性6名、女性5名、平均年齢24.4±10.2歳、平均身長168.5±12.8cm、平均体重64.4±17.2kg、受傷後平均60.1±70.3日)、および下肢疾患の既往のない健常者19名、19肢(対照群:男性9名、女性10名、平均年齢27.2±5.1歳、平均身長165.6±8.1cm、平均体重58.1±9.3kg)とした。捻挫群では両側受傷例および炎症所見、歩行時痛のある者は除外し、対照群は全例右足の測定および解析を行った。全対象者に対し、足圧分布測定装置winpod (Medicapteures社製)を用いて歩行時の足底圧分布、COPをサンプリング周期150Hzにて計測した。歩行路上にセンサープレートを設置し、被験者には5歩目がセンサープレートを踏むように指示し、数回の練習の後に計測を行った。計測時の歩行速度は自由速度とし、裸足にて3回計測を行い、平均値を解析の対象とした。解析方法はSelby-Silversteinらの方法に準じ、パソコン上でwinpod描画ツールを用い、得られた足底圧分布図の外周に枠を作図した。その後足底圧分布図を前後方向に3等分し、枠内に3等分線を作図した。COPの始点をFoot contact(FC)、3等分線とCOPの交点をそれぞれEarly-midsupport(EM)、Late-midsupport(LM)、COPの終点をToe off(TO)と設定した。次に、外枠の内側線から各点(FC、EM、LM、TO)までの最短の距離と、外枠の内側線から外側線までの距離を計測した。得られた内側線から各点の距離を、内側線から外側線の距離で除した値をpronation-spination index(PSI)とした。検討項目は各点のPSIとし、これを捻挫群と対照群で比較した。統計処理はSPSS ver.12を用い、Mann-WhitneyのU検定を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を受け、被験者には研究の主旨と方法について十分な説明をし、承諾を得て実施した。【結果】 各測定点のPSI平均値は、FCにおいて捻挫群62.9±6.8%、対照群51.7±3.7%であり捻挫群で有意に高値を示した(p=0.000)。EMにおいて捻挫群60.3±10.1%、対照群49.4±5.6%であり捻挫群で有意に高値を示した(p=0.002)。LMにおいて捻挫群53.0±9.3%、対照群47.5±5.5%であり捻挫群で有意に高値を示した(p=0.020)。TOにおいて捻挫群30.2±8.2%、対照群26.7±8.0%であり両群間に有意差はなかった(p=0.279)。【考察】 PSIが高値を示すほどCOPの外側偏位を表している。本研究において、捻挫群では対照群と比較し、有意にPSIが高く、COPが外側に偏位していた。このことから足関節捻挫受傷患者は歩行時のCOPが外側へ偏位するとした過去の報告を支持する結果となった。また本研究では歩行の立脚期をFC、EM、LM、TOの4期に分けてより詳細に検討した。その結果、FC、EM、LMにおいて有意差を認めたが、TOでは有意差は認められなかった。したがって、足関節捻挫受傷患者は歩行時において、踵接地から外側に荷重し、足指離地では正常に戻ることが示された。足関節捻挫により前距腓靭帯や踵腓靭帯の機能が低下し、後足部が回外位になりやすく、後足部の回内制限を前足部で代償するためこのような結果につながったと考える。【理学療法学研究としての意義】 足関節捻挫により立脚前期から中期にCOPが外側へ偏位しやすいことが明らかとなった。特に後足部が回外位をとりやすいと考えられ、捻挫の再受傷の危険性が増加する可能性がある。今後理学療法を展開する上で、COPを評価の一助とするとともに、立脚前期からの過度な外側荷重を内側へ誘導するアプローチを検討していく必要があると考える。
著者
西村 純 市橋 則明 南角 学 中村 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2037, 2010

【目的】スポーツ選手の能力を評価する時には、筋力や持久力、バランス能力やパフォーマンス能力のみならず、Stretch-Shortening Cycle(SSC)能力を評価することがある。SSC能力は短時間で大きな力を出す能力の指標であり、スポーツ選手の能力を左右する。しかし、客観的にSSC能力を評価するためには特殊な測定機器が必要であり、スポーツ現場で容易に評価することはできない。本研究の目的は、幅跳びと三段跳びの跳躍距離を用いて算出した指標がSSC能力の評価法として有用であるかを検討することである。<BR>【方法】対象は健常男子大学ラグビー部員54名(年齢:20.3±1.3歳、身長:172.8±5.2cm、体重:72.5±6.9kg)とした。下肢運動機能の評価として、片脚パフォーマンステスト、下肢筋力測定を実施した。測定肢は全例右側とした。片脚パフォーマンステストは、6m Hop、Side Hop、垂直跳び、幅跳び、三段跳びとした。6m Hopは同側の脚でHopしながら前方に進み、6m進む時間を測定した。Side Hopは30cm幅を同側の脚にて10回(5往復)飛び越える時間を測定した。垂直跳びは助走せずに片脚にて上方に跳び、幅跳びは助走せずに片脚にて前方に跳び、三段跳びは助走せずに同側の脚にて前方へ3回連続で跳び、その距離をそれぞれ測定した。垂直跳び、幅跳び、三段跳びは最終時点での着地は両側とした。テストはそれぞれ2回実施し、最大値を採用した。下肢筋力の測定には、等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、膝伸展・屈曲筋力をそれぞれ角速度60・180・300deg/secにて測定し、トルク体重比(Nm/kg)を算出した。SSC能力の指標として、三段跳びから幅跳びを3倍した値を引いた値を算出した。この値が全対象者の平均値以上であったものをSSC能力の高いA群、平均値以下であったものをSSC能力の低いB群とした。各測定項目の2群間の差の比較には、対応のないt検定を用い、危険率5%未満を統計学的有意基準とした。<BR>【説明と同意】各対象者に対し、本研究の目的・方法を詳細に説明し、同意を得て実施した。<BR>【結果】A群(25名)とB群(29名)の年齢(A群:20.4±1.3歳、B群:20.2±1.2歳)、身長(A群:171.8±5.1cm、B群:173.6±5.2cm)、体重(A群:71.9±6.6kg、B群:73.1±7.2kg)に有意差は認められなかった。片脚パフォーマンステストでは、Side HopはA群3.55±0.41秒、B群3.66±0.52秒で、A群はB群と比較して有意に速い値を示した(p<0.05)。6m HopはA群1.92±0.22秒、B群2.04±0.20秒であり、A群はB群と比較して有意に速い値を示した(p<0.05)。垂直跳び(A群:39.9±4.7cm、B群:40.3±8.3cm、p=0.82)、幅跳び(A群:181.6±18.3cm、B群:188.6±16.6cm、p=0.15)では両群間に有意差は認められなかった。三段跳びはA群607.3±61.6cm、B群572.8±52.9cmであり、A群はB群と比較して有意に高い値を示した(p<0.05)。下肢筋力では、膝伸展筋力は全ての角速度において2群間で有意な差は認められなかった。膝屈曲筋力は60deg/secでは有意な差は認められなかったものの、180deg/sec(A群:1.58±0.21Nm/kg、B群:1.44±0.27Nm/kg、p<0.05)および300deg/sec(A群:1.37±0.21Nm/kg、B群:1.18±0.22Nm/kg、p<0.01)ではA群はB群と比較して有意に高い値を示した。<BR>【考察】幅跳びと三段跳びの跳躍距離から算出した指標よりSSC能力が高いと判断した群においては、6m HopやSide Hopといった敏捷性を要する能力が高く、中・高速度での膝関節屈曲筋力が大きい値を示した。客観的にSSC能力を評価できる機器を用いた先行研究では、SSC能力が高いと敏捷性能力が高く、また高速度での膝関節屈曲筋力が大きくなると報告されており、本研究の結果と一致する。以上から、幅跳びと三段跳びの跳躍距離から算出した指標は、SSC能力を反映していると考えられ、スポーツ現場で簡便に利用できる評価法として有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、スポーツ現場で簡便に行える幅跳びおよび三段跳びの跳躍距離からSSC能力を評価できることが示唆され、理学療法研究として意義があるものと考えられた。
著者
久保 貴嗣 大須賀 章倫 戸田 芙美 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0784, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】熱傷患者の重症度は深度・範囲・年齢で決定される。熱傷の予後予測評価として熱傷の深度,範囲を評価するBurn indexと年齢の和で算出されるPrognostic Burn index(PBI)が使用される。PBI 90の傷病者の死亡率は13%,100では39%と上昇することが知られている。重症熱傷患者に対する理学療法は重症度が上がるほど困難となり,しばしば重症すぎるために行われないこともあり,重症熱傷患者に対する理学療法についてまとめられた報告はない。そこで本研究の目的は高死亡率が予測される患者への理学療法の実施状況及び有効性について検討することである。【方法】2011年4月から2013年3月までに当院,熱傷センターに入院した熱傷患者に理学療法を行った66例を対象とした。PBI9以上(≥90)と90以下(<90)の2群に関して,理学療法の実施率,有効性(ICU滞在日数・入院期間・人工呼吸装着期間・端座位開始までの期間・立位開始までの時間・歩行開始までの期間・退院時のADLおよび肺炎の合併例)につき検討した。なお,退院時のADLはBarthel Indexを用いた。統計解析は名義変数についてはカイ二乗検定を用い,連続変数はMann-Whitney U検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】基本情報は症例数(≥90vs<90:18例vs48例),PBI(≥90vs<90:101.5±10vs 65.3.5±17.9),Burn Index(≥90vs<90:25.5±20.3vs11.0±9),年齢(≥90vs <90:76±15歳vs54±18.5歳)であった。気道熱傷患者(≥90vs<90:8例vs19例),挿管患者(≥90vs<90:11例vs19例),理学療法開始までの期間(≥90vs<90:4.5±6.1日vs4.1±5.6日)であった。PBI,Burn Index,年齢において有意差が認められた。治療成績はICU滞在日数(≥90vs<90:38.5±27.2日vs21.4±21.1日),入院期間(≥90vs<90:90.4±41.9vs47.2±33.3日),人工呼吸器装着期間(≥90vs<90:8.8±7.8日vs9.4±7日),端座位開始までの期間(≥90vs<90:14±9.4日vs10.1±10.5日),立位開始までの期間(≥90vs<90:32.4±23.6日vs12.4±13.5日),歩行開始までの期間(≥90vs<90:41.3±30.7日vs16.8日),退院時のADL(≥90vs<90:65.0±33.8vs85.6±22.2)であった。また,肺炎は(≥90vs<90:3例vs7例),死亡例(≥90vs<90:2例vs0例)であった。ICU滞在日数・入院期間・歩行開始までの期間・退院時のADLに有意差が認められたが,人工呼吸装着期間・理学療法開始・端座位・立位開始までの期間,肺炎の合併例には差を認めなかった。【結論】PBI 90以上は死亡率が高くなるとされるが本検討での死亡例はPBI 120を超えた2例のみであった。この事により重症例でも救命できるケースは多く理学療法介入の必要性が示唆された。また,受傷後から理学療法開始,離床開始,人工呼吸器離脱までの期間において両群に差はなかった事から,超重症熱傷患者においても積極的に理学療法介入が出来,肺炎の発症予防,廃用の予防に貢献できると思われる。
著者
西 啓太郎 磯谷 隆介 輪違 弘樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1430, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】介護保険は2000年からスタートし,年を重ねる毎にその保険費が増大している。当初3.6兆円(2000年)が8.6兆円(2014年)にまで膨れ上がっている。厚生労働省の推計によると団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年に介護保険費は19.8兆円になると予想されており,国家予算がおよそ100兆円とするとその約2割を占めている。地域で理学療法士が介入することによっての介護度の変化と,それによる経済効果を具体的な数値で示したので報告をする。【方法】対象はH25.6~H27.10の間に弊社の2ヶ所のデイに通所している利用者のうち,6ヶ月以上利用し,理学療法士による運動・生活指導,個別リハを受け,その間に介護度が変化した利用者74名(男性19名,女性55名,年齢80.2±6.7歳)とした。介護度とその利用回数を抽出し,介護保険費(介護保険給付費+自己負担分)を計算した。介護保険の認定期間は新規を除くと原則12ヶ月となっているため,介護度が変化する以前と以後で1年間利用したと仮定し,年間の介護保険費に換算して差を比較した。比較には対応のあるt検定を使用した。また,理学療法士による介入は運動指導,生活指導,個別リハを行い。各利用者個人と達成可能な目標を決め,達成に向けて個別・集団での運動プログラムを実施した。【結果】介護度認定の前後での介護度は有意に改善が見られた(p<0.01)。対象者74名のうち,介護保険更新前は要支援1:15名,要支援2:19名,要介護1:17名,要介護2:11名,要介護3:6名,要介護4:6名,要介護5:0名であった。介護保険更新後は要支援1:15名,要支援2:19名,要介護1:16名,要介護2:12名,要介護3:5名,要介護4:0名,要介護5:0名であった。また,更新後自立に至った利用者は7名であった。介護度認定の前後での利用料金は優位に差が見られた(p<0.01)。年間での介護保険費を計算すると更新前は32,477,640(円/年),更新後は28,527,528(円/年)となり差額は3,950,112(円/年)であった。【結論】今回の結果において介護保険費抑制効果は3期分の合計で3,950,112(円/年間)であった。先行研究においてリハビリ専門職の介入によって介護度が優位に改善する可能性は既に言われている。故に今回の報告は国家予算を圧迫している介護保険費を理学療法士の介入によって抑制できる示唆となった。各地方行政と協同した積極的なリハビリ職種の介入によって,介護保険費の削減が可能であることが示唆された。
著者
野中 理絵 野中 一誠 西 亮介 吉田 亮太 松島 知生 西 恒亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】頸椎症は40歳以上の男性の下位頸椎に好発すると言われており,若年における症例報告は散見しない。今回,頸椎症と診断された20代女性の理学療法を担当する機会を得た。アライメントに着眼して介入し,良好な結果が得られたので,以下に報告する。【症例提示】症例は20代女性,診断名は頸椎症。現病歴は起床時に頸部痛出現,鎮痛剤にて症状消失。約2か月後に同様の症状出現,鎮痛剤でも症状変わらず,それから1か月後に理学療法開始。主訴は頸を曲げると左頸部後方が痛くなる。X-p所見では,C3/4・4/5・5/6椎間腔狭小化を認めた。座位アライメントでは頭部・上位頸椎伸展位,下位頸椎前彎が消失し,頭部・C2-3右回旋位,C4-7左回旋位を認めた。頭頸部前屈時に左頸部後方に疼痛を認めた。前屈動作として下位頸椎の動きはほとんど見られず,上位頸椎の左回旋・側屈を伴い,前屈最終域で頭部左回旋位となった。頭部を正中位へ修正することで自動運動時の疼痛消失。頭頸部筋群に過緊張・圧痛,左頭半棘筋・板状筋に硬結が認められた。神経学的所見は認められなかった。【経過と考察】本症例では頭部・頸椎マルアライメントの状態で,上位頸椎の左回旋・側屈を伴う前屈運動を行っていた。そのため頸椎症に伴う二次的な筋スパズムが左頸部筋に生じ,これが疼痛の原因であったと考える。そこで頭頸部筋群のストレッチングやマッサージに加えて,頭部正中位での頭頸部自動運動を中心に行った。その結果,介入後2ヶ月で疼痛消失,座位では頭部マルアライメントが改善し,上位頸椎の左回旋・側屈を伴わずに前屈が可能となった。頸椎症に対する理学療法の概要として,後部頸部筋群・肩甲帯周囲筋群のリラクセーションを目的としたストレッチング・温熱療法,良姿勢指導・禁忌肢位指導が報告されている。本症例により,若年で発症した頸椎症に対しても,姿勢指導や運動療法が有効であるということが示唆された。
著者
竹内 明禅 中村 勝徳 中村 裕樹 屋部 大輔 北 義一 迫田 馨 久米田 高宏 八反丸 健二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0181, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】 これまで足関節運動時における遠位脛腓関節(以下、遠位関節)についての文献はみられるが、近位脛腓関節(以下、近位関節)における足関節肢位の変化に伴う矢状・水平面での腓骨変位を定量的に分析しているものは少ない。 今回、健常人の足関節自動底背屈運動に伴う近位関節に着目し、CTを用い上下・前後・水平方向の腓骨変位を定量的に計測し、若干の知見を得たので報告する。【対象・方法】 下腿及び足関節周囲に既往のない健常人男性15名、検肢右側9肢・左側6肢、平均年齢25.8±2.99歳を対象とした。 1)CTは東芝社製X-VISION TSX-002Aを用い被験者を撮影台に背臥位にして膝関節完全伸展位で行った。そして、スポンジで大腿部を固定し、我々が作製した固定器具で下腿の回旋の防止に配慮した。尚、被験者にはあらかじめ被爆による身体への影響を説明し、承諾を得た。また、撮影に関しては当院の診療放射線技師が実施した。2)足関節の肢位は、最大自動背屈(以下、背屈11.3±5.6度)・中間位・最大自動底屈(以下、底屈48.8±9.3度)とし、腓骨変位量の計測は、中間位を基準とし、a上下方向:外側顆間結節を結ぶ水平線―腓骨頭尖距離b前後方向:脛骨粗面―腓骨頭尖距離c水平方向:内・外側顆後縁を結ぶ線に対しての腓骨頭隆起部と腓骨後面隆起部を結ぶ角度をPC上で行った。【結果】 1)腓骨上下方向の変位は全体の85.7%において底背屈共に上方へ移動し、変位量は上方方向を正とした場合、背屈0.29±0.77mm、底屈0.77±0.59mmとなった。2)腓骨前後方向の変位は92.9%において背屈時には後方へ、底屈時には前方へ移動し、変位量は前方方向を正とした場合、背屈-1.68±1.56mm、底屈1.89±1.43mmとなった。3)腓骨回旋方向の変位は85.7%において背屈時に外旋、底屈時には内旋方向へ移動し、変位量は内旋方向を正とした場合、背屈-1.95±4.2度、底屈3.97±3.33度となった。【考察】 今回、近位関節における足関節自動運動での腓骨変位方向及び変位量が判明した。上下方向では、底背屈時に腓骨が上方変位する傾向として、大腿二頭筋の収縮作用又は遠位関節の形状による突き上げ作用によるものか判断出来なかった。また、前後の移動が必然的に腓骨の転がりをも生じるというKelikianの報告と同様の結果となり水平方向と深い関連があることが分かった。次にJendによる遠位関節での腓骨変位量より近位関節の変位量が大きくなった要因として、腓骨の形状から考慮すると遠位部よりも近位部のほうが骨・関節面が小さい為だと考える。このことから足関節自動底背屈の際には近位関節にも付随した運動が生じ、この関節は足関節と機構的に連結していることが実証された。今後、足関節の疾患に対して遠位関節のみでなく、骨運動的に近位関節も考慮し運動療法を進めていく必要があると考える。
著者
佐藤 久友 淵岡 聡 黒川 洋輔 高山 竜二 大野 博司 佐浦 隆一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0136, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 股関節浅層にある殿筋群などは股関節作動筋として股関節の運動に関与する。一方、股関節深層にある短外旋筋群は力学的支持器や深部知覚の感覚器としての機能を持つことから、歩行の安定性向上に寄与すると考えられているが、その詳細な働きは明らかではない。そこで、本研究では股関節外旋筋群の機能を明らかにするために股関節外旋筋群を疲労させることで一時的な筋力低下を生じさせ、筋力低下の出現前後での歩行に関する空間的、時間的パラメータの変化を生体力学的手法によって測定し、股関節外旋筋群の筋力低下が歩行に与える影響を検討した。【方法】 健常成人18名(平均年齢25.7歳)、男性10名、女性8名を対象とした。なお、重篤な内部疾患や神経筋疾患、姿勢制御に影響を与える下肢・体幹の整形外科疾患の合併や既往のあるもの、股関節伸展0°位での内外旋可動域の差が15°以上あるものは、研究対象から除外した。測定する下肢側は無作為に決定した。被験者を体幹直立位で股関節および膝関節を90°屈曲位の端坐位とし、体幹を固定するために両手でベッド端を把持させた姿勢で、短外旋筋群を疲労させるための運動を行わせた。運動負荷強度は股関節外旋筋力の最大値の30%とし、セット間に15秒の休息を設けながら、30秒間の等尺性収縮を10セット行った。なお、この強度と頻度で運動させた場合には運動後に股関節外旋筋力が有意に低下し、短外旋筋群が選択的に疲労することをあらかじめ先行研究で確認した。歩行解析は短外旋筋群を疲労させる筋疲労誘発運動の実施前後で快適歩行速度下にて3回実施した。赤外線反射マーカーを身体セグメント35か所に貼付し、3次元動作解析装置(VICON 460)と床反力計(AMTI)を用いてマーカーの時間的な変位や軌跡から空間的、時間的パラメータを算出した。解析するパラメータは歩行速度、立脚時間、両脚支持時間、ケイデンス、ストライド長、1歩行周期における立脚相の割合とした。立脚時間は測定側の下肢が床反力計に踵接地してから足先が離地するまでの時間とした。また、両脚支持時間は、接地から立脚前半の床反力鉛直成分の最大値までを立脚前半、立脚後半の床反力鉛直成分の最大値から足先が離地するまでを立脚後半と規定した。統計解析は対応のあるt-検定を用いて行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 この研究は大阪医科大学倫理委員会と大阪府立大学倫理委員会に承認されている。また、研究を行うにあたり、対象者に本研究の主旨を文書および口頭で説明し、文書にて研究参加への同意を得た。【結果】 筋疲労誘発運動前後での立脚時間は、運動前0.617秒から運動後0.608秒(p = 0.015)へと有意に短くなり、立脚前半の両脚支持時間も運動前0.143秒から運動後0.139秒(p = 0.038)へと短縮した。また、立脚後半の両脚支持時間は運動前が0.146秒、運動後は0.142秒(p = 0.058)と有意差は認めなかったが短縮する傾向にあり、結果としてケイデンスも運動前116.8steps/min、運動後118.0 steps/min(p = 0.080)と増加傾向を示した。一方、歩行速度は運動前1.197m/sec、運動後1.198 m/sec、ストライド長は運動前1.241m、運動後1.230m、1歩行周期における立脚相の割合は運動前60.00%、運動後59.66%であり、いずれも疲労誘発運動前後で有意な変化を認めなかった。【考察】 通常、加齢や下肢の障害により立位時の支持性が低下すると歩行速度は遅くなり、それに伴い立脚時間や両脚支持期が延長するので、ケイデンスは低下すると考えられる。しかし今回の検討では疲労誘発運動前後でケイデンスは低下しなかった。これは、対象が健常者であり、短外旋筋群の疲労による一時的な筋力低下を股関節浅層の筋群などで代償することにより、疲労誘発運動後でもケイデンスを増加させ、歩行速度や1歩行周期における立脚相の割合を一定に保つことが可能であったと推測される。しかし、疲労誘発運動後には下肢の支持性の指標である立脚時間や両脚支持時間が短縮したことから、股関節深層にある短外旋筋群が下肢の支持性に大きく関与している可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】 股関節の短外旋筋群は歩行時の下肢の支持性に寄与していることが明らかとなった。下肢疾患を有する患者や高齢者の歩行の安定性を改善するためには、短外旋筋群の筋力強化が重要である可能性が示唆された。
著者
板倉 尚子 渡部 真由美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0930, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】我々はA大学女子バレーボール部(以下AVT)において、誘因が明らかでない近位脛腓関節部の疼痛を数例経験している.疼痛の誘因を探していたところ、ウォーミングアップおよびクーリングダウンの際に日常的に行われている腓骨筋に対するエクササイズ方法(以下PEx)に誤操作を確認した.AVTが行っているPExは、2人組にて股関節・膝関節屈曲位および足関節背屈位とし、両下肢内側を密着し、踵部を床面に接地させて固定させ、パートナーが両足部外側に徒手抵抗を加え腓骨筋を等尺性収縮させたのち、急激に徒手抵抗を解除する方法で行われていた.抵抗を解除した瞬間に足関節外返し運動と著明な下腿外旋が生じているのを観察した.今回、誤操作によるPExが近位脛腓関節と下腿外旋に与える影響を測定した.【対象および方法】AVT所属選手18名36肢とした.方法1についてはB大学女子バレーボール部所属選手(以下BVT)で膝関節に外傷の既往のない選手8名16肢に同意を得て実施した.方法1は触診により近位脛腓関節部の圧痛を確認した.方法2は肢位を端座位とし股関節および膝関節、足関節は90度屈曲位とした.大腿骨内側上顆および外側上顆を結ぶ線の中間点と上前腸骨棘を通る線を大腿骨長軸とし、大腿骨長軸と交わる垂直線をラインAとした.ラインAと膝蓋骨下端を通る水平線との交点をマーキングし、交点と脛骨粗面部と結ぶ線をラインBとした.ラインAとラインBをなす角度を測定した.測定は中間位および他動的に下腿を最終域まで外旋する操作をさせた肢位で行った.【結果】方法1によりBVTでは全例において近位脛腓関節部に圧痛および違和感は認められなかったが、AVTでは36肢のうち11肢(30.6%)に認められた.方法2にて得られた測定値の平均は中間位18.2±7.9°、外旋位36.2±8.9°、外旋位と中間位の差の平均は18.1±7.3であった.測定値と圧痛出現の関係においては明らかな傾向は認められなかった.【考察】方法1ではBVTでは全例に圧痛を認めなかったが、AVTでは11肢(30.6%)に圧痛を確認した.足関節外返しにより腓骨頭は上方へ引き上げられ、また膝関節屈曲位での膝関節外旋運動は大腿二頭筋の筋活動が優位となり腓骨頭を後方へ牽引させる.BVTでは誤操作によるPExは行われておらず、方法1の結果から、誤操作によるPExの繰り返しは近位脛腓関節部に負荷をかけ疼痛の誘因となることが予想された.しかし下腿外旋と圧痛出現に関しては明らかな傾向は認められず、下腿外旋が大きいほど疼痛が出現するとは限らないことが示された.【まとめ】我々はAVTとBVTに対して外傷管理を行っているが、AVTにのみ誘因が明らかでない近位脛腓関節部の疼痛を経験していた.疼痛発生の誘因は日常的に行われていた誤操作によるPExである可能性があると思われた.今後は正しいPExを指導し経過観察する予定である.
著者
藤田 暢一 服部 憲明 森 正志 工藤 俊介 宮井 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0102, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】歩行障害を有する患者を対象にしたリハビリテーション治療において,どのタイミングで問題が生じているかなど,歩行能力を詳細に評価することは重要である。しかし,従来の計測装置は高価で,空間的制約が大きいため臨床での利用には制約がある。そこで,今回我々は,安価で簡単に客観的な歩行周期を計測できる①スプリット型フットスイッチ(Split foot switch:SFS)を作製し,②加速度センサー(Accelerometer:AM),③圧センサー(Pressure sensor:PS)との歩行周期計測の比較検討を行った。【方法】対象は健常成人男性9名,年齢は27.1±2.7歳であった。測定課題は,被験者の主観的快適速度での歩行とした。測定機器と取り付け位置は,①SFS:マットセンサー(竹中エンジニアリングM-68)を用いて,踵部と爪先部の2つのセンサーを作製し,本人持ちの右側靴底の踵と爪先部に両面テープにて貼り付けた。②AM:小型無線多機能センサー(ATR-Promotions社製TSND121)を背面第3腰椎部にホワイトテープと軟性バンドで固定し,体幹の三軸方向(上下・左右・前後)の加速度を計測した。③PS:Flexiforce(ニッタ社製A201-100)を右足の踵と母趾球部にホワイトテープで固定した。これらの機器を同時に,サンプリング周波数100Hzで計測を行い,歩行が定常状態となった区間の立脚期のデータを10周期分採用した。各機器の踵接地・爪先離地の決定基準は,①SFS:踵接地は踵センサーのON,爪先離地は爪先センサーのOFF,②AM:踵接地は加速度前後成分上方ピーク,爪先離地は加速度上下成分下方ピーク,③PS:踵接地は踵センサーの上昇開始点,爪先離地は爪先センサーの上昇ピークとした。この基準より一歩行周期の時間,一歩行周期に対する立脚期の割合を計算した。解析は,被験者毎に,機器間の計測値の差に関しては,計測値に正規性・等分散性が認められた場合,一元配置分散分析で比較し,Tukey法にて多重比較を実施,認められなかった場合はfriedman検定後,Bonferroni補正されたWilcoxon検定を実施した。また,機器間の計測値の相関に関しては,Spearman順位相関係数を用いて計算した。更に,これらと同様の解析を各被験者の計測値の平均値を元にグループレベルでも行った。解析にはR version 2.8.1を使用し,有意水準を5%に設定した。【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理委員会により承認を得て,被験者には十分な説明の後,同意を得た後に実施した。【結果】9名全体の一歩行周期(秒)に関しては,平均時間±標準偏差(変動係数)はSFSが1.08±0.27(2.53),AMが1.08±0.27(2.54),PSが1.08±0.25(2.29)であった。立脚期の割合(%)はSFSが58.8±0.91(0.015),AMが68.4±1.8(0.026),PSが49.2±2.8(0.059)であった。計測値の差の検定では,一歩行周期の時間は,全ての被験者およびグループレベルで,機器間の有意差は認められなかったが,立脚期の割合ではSFS<AMと有意差を認めた者が9名中7名,SFS>PSと有意差を認めた者が8名であり,グループレベルでもPS<SFS<AMと有意差を認めた。相関の検定では,一歩行周期でSFS-AM間の有意な相関関係を示した者が7名,SFS-PS間では9名であり,グループレベルでもSFS-AM間でr=0.996,SFS-PS間でr=0.997,AM-PS間でr=0.997と強い相関を認めたが,立脚期の割合ではSFS-AM間の有意な相関関係を示した者が1名のみ,SFS-PS間では0名であり,グループレベルでも有意な相関関係は認められなかった。【考察】一歩行周期では機器間で計測値に差が無く,相関も高かった事から,いずれの機器も高い精度で歩行周期を計測できていると考えられた。一方,立脚期の割合では,多くの被験者で機器間に共通した差が認められ,また機器間で有意な相関を示しているものは少なかった。差が認められたことに関しては,AMの加速度波形から踵接地・爪先離地を決定する方法の特性とPSの接地面積の少なさなどが影響していると考えられた。相関が認められなかったことに関しては,立脚期の割合の変動係数が,SFSに比べAMやPSで大きいことが影響していると考えられた。一見より変動係数の小さいSFSが歩行計測には有効と考えられる。しかし,歩行時の体幹や下肢の運動は毎回僅かに異なっており,SFSで直接計測できる床接地時間という時間因子を維持するため,毎回運動学的な微調整が行われる機序をAMやPSの計測値の変動は反映していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,SFSによる歩行計測は変動が小さく,臨床での計測に適当と思われたが,AM・PSの変動の原因も考慮する必要があると考えられた。これらを組み合わせることで,歩行の多様な情報を収集することが可能になると考えられた。
著者
仲島 佑紀 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1265, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,野球選手の投球障害に対する予防の取り組みに関する報告が散見される。また障害予防の観点から選手・指導者に対する検診を実施する地域が増加している。我々は2012年より障害予防の啓蒙活動の一環として少年野球選手を対象に,県内複数地域で障害調査やフィジカルチェックを中心とした野球肘検診を実施してきた。調査結果やフィジカルチェックにおける所見が障害発生にどのように関連するかを追究し,投球障害予防に貢献することを目的として投球障害肘の発症を縦断的に調査し,その発症因子を検討した。【方法】対象は2014年1月,2015年1月の検診に2年連続で参加し,初回検診時に肩肘に現病歴のなかった少年野球選手168名(9-12歳)とした。調査項目は2014年1月から2015年1月までの肘痛発症の有無と,初回検診時に実施したフィジカルチェックとした。フィジカルチェックの項目は,問診情報(①ピッチャー経験の有無・②1週間の総練習時間),局所所見(③肘伸展制限の有無・④肘屈曲制限の有無),柔軟性検査(⑤広背筋テストの可否・⑥踵臀部距離・⑦投球側股関節自動屈曲角度・⑧非投球側股関節自動屈曲角度),上肢機能(⑨上肢挙上位肩外旋角度・⑩肩甲帯内転角度・⑪腕立て伏せの可否),下肢機能(⑫投球側片脚立位テストの可否・⑬サイドジャンプ距離)の計13項目とした。統計解析として肘痛発症の有無を従属変数,フィジカルチェック項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。多重ロジスティック回帰分析にて有意な関連(p<0.05)を示した連続変数についてはReceiver operating characteristics(ROC)曲線による分析を行い,カットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を用いた。【結果】肘痛発症例は168名中,39名であった。有意な関連を示した項目は,1週間の総練習時間(p=0.009,オッズ比:1.13,95%信頼区間:1.03-1.24)と柔軟性検査である広背筋テストの可否(p=0.02,オッズ比:2.89,95%信頼区間:1.20-5.96)の2項目が抽出された。総練習時間のカットオフ値は17時間(感度:60.0%,特異度:82.6%,曲線下面積:0.73)であった。【結論】週17時間以上の練習時間は,日本臨床スポーツ医学会の提唱する1日2時間以内の練習時間を上回る結果となった。広背筋テストは両側の肘を合わせ,鼻の高さ以上に挙がるかをチェックするものであり,広背筋の柔軟性・胸郭の伸展動作などが関与する。これらの機能低下は投球動作における,いわゆる「しなり」を減弱させ肘下がりなどを惹起し,肘痛発症の要因となったと考える。障害予防においては,選手や指導者でも簡便に行えるチェック項目の抽出が重要なポイントと考えており,本研究結果は現場でも導入可能であり,障害予防に貢献し得ることが示唆された。
著者
鈴木 真理子 鈴木 裕子 竹山 理恵 徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3257, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】四肢運動時において重心移動が生じるため,姿勢の調節が必要である.姿勢は,筋収縮によって発生する反作用を見越して運動調節する機構により,簡単には崩れにくいように働く.このため,予測的な姿勢調節が随意運動に先行して行われる必要がある(吉尾ら. 2007).これを先行姿勢調節機構(Anticipatory Postural Adjustments:以下APA)という.APAの先行研究では上肢外転肢位で,落下する重錘を掴む際,主動作筋に先行して対側の体幹筋が活動し,重錘を放す際,対側の体幹筋が抑制する事が明らかになっている(Alexander, et al. 2001).本研究は,上肢前方挙上時の体幹のAPAを計測し,姿勢調節におけるさまざまなstrategyを類型的に把握し検討することを目的とする.【対象・方法】対象者は健常成人24名(男性14名,女性10名:平均年齢21.8±0.6歳,身長166.6±8.2cm,体重54.5±7.8kg)とした.実験装置は,被検者が立位で肩関節を90度屈曲した肢位の手掌から40cm上方に風船を設置した.実験課題は開始肢位は両上肢を体側に下垂した開眼立位とし,風船を合図無しに落とし,被験者は肩関節屈曲運動を素早く行い,風船を把持する事とした.上記課題はフォースプレート(Kistler社製,サンプリング周波数1KHz)上で行い,課題前後の重心の軌跡を測定した.右三角筋前部線維,両側外腹斜筋,両側脊柱起立筋の筋活動を筋電計(DKH社製EMG計測システム,サンプリング周波数1KHz)にて同期して計測した.また,ビデオカメラによって矢状面の被験者の姿勢と姿勢保持のためのstrategyを観察した.解析方法は,安静立位の開始時点から三角筋の筋活動の賦活開始時点までの体幹筋の筋電図の波形からパターンに分類し,姿勢・動作との対応を探った.【説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究内容を説明し,同意を得た.【結果】全被験者で,APAの出現後から上肢挙上運動開始までの間に重心が後方に移動した.重心の後方移動距離(平均±標準偏差)は(1.1±0.5cm)で,各群間で有意差はなかった(p>.05).筋電図の波形から,A群(5名),B群(10名),C群(9名)に分類した.各群の概要は以下の通りであった.A群は,三角筋が活動する100-200msec前に外腹斜筋が抑制,50-100msec前に脊柱起立筋が活性化した群である.ビデオ解析の結果,A群は立位姿勢のalignmentが比較的良好で, 課題時の重心の後方移動は全てhip strategyによって行っていた.B群は,安静立位時に外腹斜筋の筋活動が著明に認められないものである.外腹斜筋にAPAがみられず,三角筋が活動する20-80msec前に脊柱起立筋が活性化した. ビデオ解析の結果,B群10名全員の立位姿勢alignmentは概ね不良で,過半数は頚椎前彎と胸椎後彎が強く,骨盤が後傾した姿勢であった. 課題時の重心の後方移動は8名がhip strategy, 2名がankle strategyによって行っていた.C群は,外腹斜筋,脊柱起立筋にAPAがみられないものである. ビデオ解析の結果, 課題時の重心の後方移動はC群9名中, 7名がankle strategy, 1名がhip strategy,残りの1名が knee strategy によって行っていた.【考察】全被験者において重心が後方に移動しているのは,上肢前方挙上の際に,上肢の重みにより重心が前方に移動することを予測し,姿勢を保持するために無意識的に行われている.重心移動時に,各群間で筋活動が異なるのは,姿勢とstrategyの影響によると考える.まず,A群とB群においては,同じhip strategyによって重心の後方移動を行っている. A群においては外腹斜筋に抑制のAPAが生じたが,B群においては生じなかった.A群は安静立位で腹筋群を使用した良姿勢をとっており,脊柱起立筋に拮抗して外腹斜筋は抑制されたが,B群の安静立位は腹筋群をあまり使用しない不良姿勢であったため外腹斜筋に抑制のAPAが出現しなかったと考える.次に,体幹筋にAPAが生じたA・B群と生じなかったC群を比較する. A・B群はhip strategy, C群の多くはankle strategyにて重心の後方移動を行っている.よって,APAをhip strategyにて行った場合は体幹筋が, ankle strategyにてAPAを行う場合は体幹ではなく,下肢の筋活動が三角筋に先行する可能性が示唆された.【理学療法研究の意義】姿勢調節に重要なAPA出現の仕方を姿勢・動作との対応から類型的に把握することを試みたもので,パイロットスタディーとして意義がある.
著者
太田 修平 土屋 綱紀 木島 丈博 渡邉 英一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1003, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】成長期の野球肘の中で,上腕骨小頭障害(離断性骨軟骨炎;OCD)は永続的な障害となりうるため,早期発見の重要性が高く,近年,野球肘検診は全国で広まりつつある。当院にて行った野球肘検診に関し,その活動の報告とともに,上腕骨小頭障害と遠投距離との関連に関して検証を行ったので,ここに報告する。【方法】平成22年から25年に行われた野球肘検診に参加した小学1年生から6年生(平均年齢11歳3ヶ月±5歳)の少年野球団,及びリトルリーグに所属する男子544名,女子17名,計561名を対象とした。これらに対しアンケートによる問診,超音波検査,レントゲン撮影,理学検査を行い,その結果から上腕骨小頭障害群(以下O群)と,健常群(以下N群)528名に分類し,比較検討を行った。上腕骨小頭障害の判定は,両側の肘関節に対し超音波エコー(日立アロカメディカル社製ProSoundα7)と,3方向のレントゲン撮影を施行し,医師の診断により行った。遠投距離については,事前に各チームに依頼し,C級軟式ボールを使用し,助走制限のない条件下で距離の計測を行い,回答があったものを集計した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って,事前に配布した検診内容の案内書に研究目的を明記し,各家庭に配布した上で同意に基づいて参加申し込みをいただき,倫理的配慮を行った。また当院倫理委員会の承認を得た。【結果】O群33名,N群528名であり,O群は全体の5.88%であった。遠投距離は,O群は20名,回答率60.6%,N群は309名,回答率58.5%の回答を得た。結果は,全体ではO群45.71±8.67m,N群43.35±10.25mであった。小学6年生ではO群56.52±9.80m,N群50.74±9.04m。小学5年生ではO群45.84±3.54m,N群44.13±7.41m。小学4年生ではO群41.62±6.80m,N群36.85±6.93m。小学3年生ではO群33.70±3.82m,N群30.61±6.79mであった。【考察】遠投距離は各学年ともO群で高く,O群の方が高い投球能力を示した。またアンケート結果から,野球経験年数もO群3年1ヶ月,N群2年11ヶ月と,O群でやや長い傾向にあった。さらに,投手経験においてもO群100%,N群では73.14%であった。今回の検討から,上腕骨小頭障害群は,早い段階から野球を始め,高い投球能力を有するものに生じる傾向があった。つまり,低学年から野球を開始し,繰り返しの動作により動作を習得してきたことや,投手や捕手といった投球する機会の多いポジションにつくことは,肩,肘関節に負荷がかかりやすいことが考えられた。【理学療法学研究としての意義】今回,主に上腕骨小頭障害と遠投距離との関連に関して検討を行ったが,上腕骨小頭障害と関連の大きい理学所見なども明らかにできれば,さらなる障害予防につながると考えられ,今後の検討課題としたい。
著者
齊藤 明 岡田 恭司 髙橋 裕介 柴田 和幸 大沢 真志郎 佐藤 大道 木元 稔 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1220, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】成長期野球肘の発症には投球時の肘関節外反が関与し,その制動には前腕回内・屈筋群が作用することが知られている。成長期野球肘おいては投球側の円回内筋が硬くなることが報告されており,特に野球肘の内側障害ではこれらの硬い筋による牽引ストレスもその発症に関連すると考えられている。しかしこれらの筋が硬くなる要因は明らかにされていない。そこで本研究の目的は,成長期の野球選手における前腕屈筋群の硬さと肘関節可動域や下肢の柔軟性などの身体機能および練習時間との関係を明らかにすることである。【方法】A県野球少年団に所属し,メディカルチェックに参加した小学生25名(平均年齢10.7±0.7歳)を対象に,超音波エラストグラフィ(日立アロカメディカル社製)を用いて投球側の浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,硬さの解析には各筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど筋が硬いことを意味する。身体機能は投球側の肘関節屈曲・伸展可動域,前腕回内・回外可動域,両側のSLR角度,股関節内旋可動域,踵殿距離を計測し,事前に野球歴と1週間の練習時間を質問紙にて聴取した。また整形外科医が超音波診断装置を用いて肘関節内外側の骨不整像をチェックした。統計学的解析にはSPSS22.0を使用し,骨不整像の有無による各筋のSRの差異を比較するため対応のないt検定を用いた。次いで各筋のSRと各身体機能,野球歴や練習時間との関係をPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めて検討した。有意水準はいずれも5%とした。【結果】参加者のうち肘関節内側に骨不整像を認めた者は4名(野球肘群),認められなかった者は21名(対照群)であった。浅指屈筋のSRは2群間で有意差を認めなかった(1.01±0.29 vs. 0.93±0.23;p=0.378)が,尺側手根屈筋のSRでは野球肘群が対照群に比べ有意に高値を示した(1.58±0.43 vs. 0.90±0.28;p<0.001)。浅指屈筋のSRと各測定値との相関では,各身体機能や野球歴,練習時間のいずれも有意な相関関係は認められなかった。尺側手根屈筋のSRも同様に各身体機能や野球歴との間には有意な相関関係を認めなかったが,1週間の練習時間との間にのみ有意な正の相関を認めた(r=0.555,p<0.01)。【結論】成長期の野球選手において浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さは,肘・股関節可動域や野球歴とは関連がないことが明らかとなった。一方,1週間の練習時間の増大は尺側手根屈筋を硬くし,このことが成長期野球肘の発症へとつながる可能性が示唆された。