著者
小口 美奈 雫田 研輔 青木 幹昌 畑 幸彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1241, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 人工股関節全置換術(以下THA)は近年,術式の変化やクリニカルパスの短縮などにより入院期間の短縮が勧められているが,十分な運動機能が獲得されないまま退院に至っているという報告もある.しかし術後経過に伴った,歩行能力やバランス能力,筋力など運動機能の回復に関する報告は少ない.今回THAを施行された患者の術後6ヵ月までの運動機能の変化を明らかにする目的で,下肢筋力の中でも手術侵襲により影響を受けやすい股関節外転筋力と,術後活動性に影響するといわれる膝関節伸展筋力に着目し,歩行能力やバランス能力に及ぼす影響について調査したので報告する.【方法】 対象は,当院において2009年4月から2010年3月の間に,変形性股関節症に対しTHAを施行した症例のうち,術後6ヵ月間の評価が可能であった17例17股(平均年齢67.1歳,男性8名,女性9名)とした.術式は全例殿筋貫通侵入法(以下 Bauer法)であり,全例術後約3週で松葉杖歩行にて自宅退院となった.術前と術後2ヵ月,3ヵ月および6ヵ月において,歩行能力とバランス能力,股関節外転筋力および膝関節伸展筋力の経時的変化を評価した.歩行能力として最大歩行速度(以下MWS)を,機能的バランスとしてFunctional Balance Scale(以下FBS)を測定した.股関節外転筋力と膝関節伸展筋力は等尺性筋力計μTasF-1(アニマ社製)を使用し,最大等尺性筋力を3回測定し平均値を体重で除して標準化(Kgf/Kg)した.また,歩行能力およびバランス能力と,股関節外転筋力および膝関節伸展筋力との関連性を調査した.統計学的検討は, MWSとFBS,股関節外転筋および膝関節伸展筋の術前と術後各時期における比較にMann-Whitney’s U検定を行い,また各時期におけるMWSおよびFBSと股関節外転筋力,膝関節伸展筋力に対して単回帰分析を行った.【説明と同意】 対象者に本研究の趣旨と目的を詳細に説明し,参加の同意を得た.【結果】 MWSの平均値(m/min)は術前67.1,術後2ヵ月60.8,術後3ヵ月77.3,術後6ヵ月81.8であり,術後3カ月以降で術前と比較して有意に高値を示した.FBS(点)の平均値は術前51.0,術後2ヵ月50.7,術後3ヵ月55.7,術後6ヵ月55.9であり,術後3ヵ月以降で術前と比較して有意に高値を示した.また,股関節外転筋力の平均値(Kgf/Kg)は,術前7.4,術後2ヵ月9.1,術後3ヵ月8.3,術後6ヵ月8.9であり,術前に対し術後どの時期でも有意差は認められなかった.一方,膝関節伸展筋力の平均値(Kgf/Kg)は,術前22.1,術後2ヵ月21.3,術後3ヵ月24.5,術後6ヵ月26.8であり,術後3ヵ月で向上傾向を示し,術後6ヵ月で術前と比較して有意に高値を示した.MWSと股関節外転筋力の関係は術前にのみ有意な相関を示し(r=0.5),膝関節伸展筋力とは術後2ヵ月以降で有意な相関を示した(r=0.4). FBSと股関節外転筋力,膝関節伸展筋力の関係は術前にのみ有意な相関を示した(r=0.4,r=0.7).【考察】 今回の研究から,歩行能力とバランス能力は術前と比較して術後2ヵ月で下がる傾向を示し,術後3ヵ月から有意に回復することがわかった.術後2ヵ月の時点は,退院し自宅にて生活している時期であり,松葉杖歩行から杖なし歩行に移行する時期でもある.転倒等に対しての環境設定,患者教育も特にこの時期で必要と考えられた.また術後2ヵ月において,歩行能力と有意な正の相関関係を認めたのは,膝関節伸展筋力のみであった.Bohannon RWによると膝関節伸展筋力は股関節周囲筋力や足関節背屈筋力よりも歩行能力と関連が強いとされている.また塚越らは下肢荷重の低下による筋萎縮や筋力低下は殿筋群やハムストリングスに比べて大腿四頭筋のほうが遥かに大きいと報告している.当院クリニカルパスでは術後2ヵ月までは,部分荷重の時期であるため,膝関節伸展筋力の低下が危惧される.したがって,術後2ヵ月までは,特に膝関節伸展筋力を向上させることで,この時期の歩行能力低下を抑えることができると思われた.それにより,入院期間の短縮化が図られている現在,退院時の歩行能力低下によるリスクを避けられる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 入院期間の短縮化が図られている現在,術後早期から膝関節伸展筋力に対する積極的なトレーニングが必要であると思われた.また今後,股関節疾患に対して股関節周囲筋力に焦点を当てるのみならず,膝関節伸展筋力の評価も重点的に行っていくことが必要であると思われた.
著者
林 典雄 浅野 昭裕 青木 隆明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CaOI1021, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】肘関節周辺外傷後生じる伸展制限に対する運動療法では、特に終末伸展域の改善には難渋することが多い。その要因について筆者らは、上腕筋の冠状面上での筋膜内における筋束の内側移動、上腕骨滑車を頂点とした遠位筋線維の背側へのkinkig、加えて長橈側手根伸筋の筋膜内後方移動、上腕骨小頭と前面の関節包と長橈側手根伸筋のmusculo-capsular junctionでの拘縮要因などについて、超音波観察を通した結果を報告してきた。一方、肘伸展制限は前方組織にのみ由来するわけではなく、肘伸展に伴う後方部痛の発生により可動域が制限される症例もまれではない。このような肘終末伸展に伴う後方部痛は、関節内骨折後の整復不良例や肘頭に発生した骨棘や遊離体が原因となる骨性インピンジメントを除けば、後方関節包の周辺組織の瘢痕や関節包内に存在する脂肪体に何らかの原因を求めていくのが妥当と考えられる。本研究の目的は、後方インピンジメント発生の好発域である30°屈曲位からの終末伸展運動における肘後方脂肪体の動態について検討し、運動療法へとつながるデータを提供することにある。【方法】肘関節に既往を有しない健常成人男性ボランティア10名の左肘10肘を対象とした。肘後方脂肪体の描出にはesaote社製デジタル超音波画像診断装置MyLab25を使用した。プローブは12Mhzリニアプローブを用いた。方法は、被験者を測定台上に腹臥位となり、左肩関節を90°外転位で前腕を台より出し、肘30°屈曲位で他動的に保持した。その後徐々に肘を伸展し、15°屈曲時、完全伸展時で後方脂肪体の動態を記録した。 画像の描出はプローブにゲルパッドを装着して行った。上腕骨後縁が画面上水平となるように肘頭窩中央でプローベを固定すると、上腕骨後縁、肘頭窩、上腕骨滑車、後方関節包、後方脂肪体、上腕三頭筋が画面上に同定される。その後、上腕骨後縁から肘頭窩へと移行する部分で水平線Aと垂線Bを引き、水平線Aより上方に位置する脂肪体と垂線Bより近位に位置する脂肪体それぞれの面積を計測し、前者を背側移動量、後者を近位移動量とした。脂肪体面積の計測はMyLab25に内蔵されている計測パッケージのtrace area機能を使用した。統計処理は一元配置の分散分析ならびにTukeyの多重比較検定を行い有意水準は5%とした。【説明と同意】なお本研究の実施にあたっては、本学倫理委員会への申請、承認を得て実施し、各被験者には研究の趣旨を十分に説明し書面にて同意を得た。【結果】背側移動量は30°屈曲時平均26.7±10.5mm2 、15°屈曲時平均42.2±16.1mm2 、完全伸展時平均59.7±15.5mm2であった。完全伸展時の脂肪体背側移動は、30°屈曲時、15°屈曲時に対し有意であった。30°屈曲時と15°屈曲時との間には有意差はなかった。近位移動量は30°屈曲時平均5.4±2.9mm2 、15°屈曲時平均11.9±8.4mm2 、完全伸展時平均20.6±10.8mm2 であった。完全伸展時の脂肪体近位移動は、30°屈曲時に対し有意であった。30°屈曲時と15°屈曲時、15°屈曲時と完全伸展時との間には有意差はなかった。【考察】本研究で観察した後方脂肪体は滑膜の外側で関節包の内側に存在する。肘後方関節包を裏打ちする形で存在するこの脂肪体は、超音波で容易に観察可能であり、薄い関節包の動態を想像する際に、伸展運動に伴う脂肪体の機能的な変形を捉えることで、間接的に後方関節包の動きを推察することが可能である。今回の結果より後方脂肪体は、肘の伸展に伴い肘頭に押し出されるように機能的に形態を変形させながら、より背側、近位へ移動することが明らかとなった。この脂肪体の移動は併せて関節包を背側近位へと押し出す結果となり、後方関節包のインピンジメントを回避していると考えられた。我々は以前に後方関節包には上腕三頭筋内側頭由来の線維が関節筋として付着し、肘伸展に伴う挟み込みを防ぐと報告したが、後方脂肪体の機能的変形も寄与している可能性が示唆された。投球に伴う肘後方部痛症例や関節鏡視下に遊離体などを切除した後の症例で伸展時の後方部痛を訴える例では、後方脂肪体の腫脹像や伸展に伴うインピンジメント像をエコー上で観察可能であり、肘後方インピンジメントの一つの病態として認識すべきものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】実際の運動療法技術においては、後方関節包自体の柔軟性はもちろん、肘頭窩近位へ付着する関節包の癒着予防が脂肪体移動を許容する上で重要であり、内側頭を含めた上腕骨からの引き離し操作も拘縮治療を展開するうえでポイントとなる技術と考えられる。
著者
武田 正則
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】(一社)岡山県理学療法士会(以下,岡山県士会)は,学術活動として学会や各種研修会を実施している。しかし,近年は業者や団体など行う研修会が多く開催されており,以前に行われていた県士会の県外や高名な講師の招聘といった役割は少なくなってきている。今回は,岡山県士会での企画運営した研修会についてその変遷と特徴を検討し,研修会運営の参考とするために行ったので報告する。【方法】岡山県士会の過去5年間における県学会,特別研修会(日曜日1日コース),卒後研修会(平日夜2時間コース),新人カリキュラム研修会,支部主催研修会について,内容,講師,参加人数,受講者の感想・要望などを中心に検討した。【結果】学会・研修会の回数については,県学会は年1回,特別研修会は年3回,卒後研修会は年3~4回,新人カリキュラム研修会年は年1~5回,支部主催研修会は年4回を基本として行われていた。特別研修会は県外の講師が多く,分野別に多岐にわたり行われている傾向があった。卒後研修会は県内の講師が多く,応用的な内容から基本的な内容へ変遷している傾向があった。新人カリキュラム研修会は県士会員の要望により年1回開催から年5回ほどの分散開催を含めたものに変遷していた。参加者は経験年数が少ない会員が多く10年以上の中堅や特に20年以上ベテランの参加は非常に少ない傾向にあった。【考察】研修会の内容については,特別研修会はトピックス的なものを扱うことを望んでいる傾向があった。卒後研修会は,基本的な知識・技術的なものを求めることが多かった。新人カリキュラム研修会は,A1~5が1日で取得できる1日研修の参加が多く,特に県外からの参加者が近年は増加している傾向にあった。多様化する現在の理学療法に関する研修会の中で,県単位の理学療法士会が担う役割を再構築する必要もあるのではないかと考えられた。
著者
田内 都子 門 浄彦 岩田 健太郎 伊福 明 前川 利雄 北井 豪
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DdPF2055, 2011

【目的】 <BR> 拡張型心筋症(DCM)は慢性進行性のことが多く、予後は不良である。DCMに対する過度の運動は避けるべきで、運動療法中には突然死の危険性が上がるため、運動処方には注意を要する。今回、DCMによる僧帽弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全を合併し外科的手術に至った症例の開心術後から自宅退院可能な能力を獲得するまでの期間介入できたので報告する。<BR>【方法】 <BR> 69歳、男性。身長158.3cm、体重52kg、BMI 20.7。診断名はDCM、僧帽弁閉鎖不全。平成13年、DCMと診断。平成18年9月、意識消失発作があり、その後入退院を繰り返している(NYHAII度) 。平成22年2月、ICDの体内植え込み手術施行。平成22年6月に入り自覚症状がNYHAIII度に増悪し自宅周辺の坂道の移動も困難となった。平成22年7月30日、手術目的にて当院入院。平成22年8月11日、僧帽弁形成術、三尖弁形成術、左室形成術を施行した。合併症に糖尿病(インスリン使用中)あり。術前心エコーでは左室駆出率(LVEF)31%、拡張末期容積(EDV)211ml、収縮期容積(ESV)145mlであり、術後心エコーでは、 LVEF29%、 EDV141ml、ESV100mlであった。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究を実施する際に、事前に研究の趣旨、個人情報収集の目的とデータ利用の範囲について十分説明し、同意を得た上で行った。<BR>【結果】<BR> 理学療法は心電図モニター監視下にて、当院の心臓血管外科術後クリニカルパスに準じて行った。術後翌日よりPT開始したが、安静時より心房細動、心房粗動を繰り返しており離床は困難であった。術後4日目にはICDが作動している。術後5日目、端座位開始。術後7日目、歩行練習開始。運動時、特発性心房細動(Paf)や心室性期外収縮(PVC)3連発出現し一時中断することがあったが、医師の指示のもと経過観察となった。術後14日には約400mの歩行可能となり、ADLは自立したが心房細動のコントロールは不良であり薬物療法及び体外式ペースメーカーを装着し、個別運動療法を継続した。内容は病棟でのウォーキング、下肢筋力強化運動(スクワット、かかと上げ、股関節外転運動)とし、運動前後の血圧、運動中の低血圧症状(冷や汗、吐き気、めまい等) 、自覚的運動強度に注意し、心電図モニターにて新たな不整脈が出現しないか確認しながら行った。徐々にPafやPVCが減少していき、術後35日目、在宅での運動耐容能評価のため、心肺運動負荷試験(CPX)を実施。AT時VO2:9ml/kg/min(2.6Mets)最高酸素摂取量(peakVO2)は12ml/kg/min(3.4Mets) であった。この結果を元に、個別療法の運動量を調節し、集団心臓リハビリテーションプログラムにも参加した。集団療法では、有酸素運動(エルゴメメーター25w負荷から、1日1回20分)を開始した。その結果、1ヵ月後のCPXで、AT時VO2は15ml/kg/min(4.2Mets) 、peakVO2は18mL/kg/min(5.2Mets)であった。心エコーではLVEF32%、 EDV178ml、 ESV120mlであった。トレッドミルでの坂道運動、階段昇降も可能となった。<BR>【考察】<BR> 今回、重症不整脈を呈する低心機能のDCMに対し、長期間監視型運動療法を行った。その結果、著明な運動耐容能の改善と不整脈の改善がみられた。<BR> 運動耐容能に関しては、術後と最終の所見を比較すると、心エコー所見の変化に比べ、AT及びpeakVO2が著明に改善した。これは、最大心拍出量の増加、心室収縮能の改善などの中枢因子の効果に比べ、末梢循環や骨格筋機能の改善などの末梢因子の改善が主たる機序と考えられる。<BR> 不整脈に関しては、術後みられた重症不整脈が最終時にはみられなくなった。これは、薬物療法の効果に加えて、運動療法による酸素需要の低減・酸素供給の改善による虚血改善、また副交感神経活性の亢進による心臓交感神経活性の抑制などの効果であると推測される。<BR> また、モニター監視下にて症候限界性にトレッドミルでの坂道歩行練習を行った結果、自宅周辺の坂道も対応可能と確認でき、病態の改善に加え、症状においても改善がみられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】 <BR> 本症例は重症不整脈遷延により長期的な介入が必要であった。今回、適切なリスク管理の下に運動処方を行った結果、患者が日常生活を再獲得するに至った。DCMは予後不良と言われているが、末梢能を改善させることができ、重症心不全に対しても運動療法の重要性を確認することができた。<BR>
著者
國安 勝司 荒尾 賢 片岡 孝史 栗山 努 日傳 宗平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】日本に理学療法士が誕生し50年を迎え,理学療法士の社会的認知度も上がっていると思われる。しかし,その具体的な業務については隣接職種と混同されているのも事実である。岡山県理学療法士会(以降,本会)は県民への理学療法士(以降,PT)の啓発活動を社会局が中心となり企画しているが,効果的な方法の一つとしてマスメディアを活用した経験を報告する。【活動報告】協会が理学療法週間として啓発活動を開始した平成7年の理学療法週間モデル事業から本会は参加しており,さまざまなイベントや企画を行ってきた。PTを目指す学生に出張講義の企画や,公共施設で一般向けのPTの紹介イベントを開催した。しかし,出張講義依頼やイベントへの参加者は期待したほどにはならず,より効果的な方法を模索していた。そこに広告会社から地元紙(発行部数42万5800部,県内のシェア約60%)への記事広告掲載の提案がされた。予算的にも支出可能な範囲であり,平成16年以降,7月16日朝刊に「明日は理学療法の日」として見開き半ページのPT紹介記事と,協賛広告を掲載している。内容は会長の挨拶文,PTの業務説明,トピックス,本会主催イベント案内,養成校情報である。【考察】掲載後の反響は大きく,問い合わせも多い。今年度は介護予防についての内容を掲載したところ「PTは介護予防もされるのですね」などすぐに反応があった。様々なイベント・会議等でパンフレット配布や業務の説明をしてきたが,その効果を実感することは少なかった。その点,県内をほぼ網羅している地元紙を利用することは,費用対効果の面からも非常に効果的であると感じている。【結論】職能団体として多くの県民にアピールすることは重要であり,今後は地元紙に加え4大紙にも掲載ができるよう掲載方法を検討したい。さらに今年度は11月11日の介護の日に協賛し,地元放送局のラジオ番組への出演と20回のスポットCMを放送することを決定した。
著者
下瀬 良太 只野 ちがや 重田 枝里子 菅原 仁 与那 正栄 内藤 祐子 関 博之 坂本 美喜 松永 篤彦 室 増男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A2Se2038, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】随意筋収縮における筋力発揮の力-時間曲線は神経筋機能を評価する上で有効な情報を与えてくれる.特に高齢者は若年者に比べ筋力の発生からピークまでの力発達曲線(Rate of Force Development;RFD)が低い傾向にあり,不意の重心移動などに素早く対応できずに,転倒に繋がる事が多いといわれている.高齢者の転倒予防を考える際に,高いRFDの改善に繋がるトレーニングは重要である.RFDを変化させる因子には運動初期の速い運動単位(fast-MUs)の動員,発射頻度とその同期性や,運動単位の二重子的同期性(doublet discharge)が関与している.RFDの増加は高強度トレーニングによる報告が多く,fast-MUsの動員の寄与で起こると考えられている.しかし,高齢者に対して高強度のトレーニングは臨床的に適しておらず,日常動作で負荷が及ぶ筋力レベルの低強度の運動トレーニングが求められる.最近,低強度でfast-MUsの動員を可能にする皮膚冷刺激筋力トレーニング法が提案されているが,皮膚冷刺激がRFDにどのような影響を与えるかについての報告は未だ皆無である.そこで今回我々は,皮膚冷刺激がRFDに与える影響について検討し,高齢者への皮膚冷刺激筋力トレーニングの有効性についての一資料を得る目的である.【方法】本研究の説明を受け,同意の得られた健常成人男女8名(男性5名,女性3名,年齢34±10歳)を対象とした.被験者は椅子に座り,股関節屈曲90度,膝関節屈曲60度の姿勢で,「なるべく早く最大の力で」という指示のもと等尺性膝関節伸展運動を皮膚冷刺激(Skin Cold Stimulation; SCS)と非皮膚冷刺激(CON)の状態で行なった.SCSは冷却したゲルパック(Alcare製)を専用の装着バンドで数分間大腿四頭筋上の皮膚に密着させ,適切な皮膚温であることを確認して試行を行なった.CONも同重量の非冷却ゲルパッドを装着して行なった.試行順はランダムとし,各試行間では十分な休息をとり,皮膚温を確認して各試行を行なった.プロトコール試行中は,筋力出力と筋電図(EMG)を測定した.EMG(電極直径10mm,電極間距離30mm)は外側広筋(VL),内側広筋(VM),大腿直筋(RF)から双極誘導した.測定データはコンピュータに取り込み,後日解析を行なった.データ解析は力曲線の最高値(Fpeak)と微分最大値(dF/dtmax)を解析し,RFDは,0-30,0-50,0-100,0-200msecの区間での平均勾配を算出した.また各試行のFpeakで標準化したRFD(normalized RFD; nRFD)を,0-1/6MVC,0-1/2MVC,0-2/3MVCの区間の平均勾配として算出した.EMG解析は上述の各区間のroot mean square EMG(rmsEMG)を算出した.統計学的処理は各区間でのSCSとCONの値についてWilcoxonの符号付順位和検定を行い,統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本研究を行うにあたり,ヘルシンキ宣言に基づいた東邦大学医学部倫理委員会実験計画承認書を得た上で,本研究の意義と実験に伴う危険性を協力依頼被験者に十分説明し,納得して頂いた上で測定を行なった.【結果】SCSでFpeakとdF/dtmaxは有意に増加した.dF/dtmaxまでの到達時間はSCSで平均9msec短縮したが,有意差は見られなかった.RFDは,0-30msec,0-50msec区間でSCSにより有意な増加が見られた.またnRFDは,0-1/6MVC区間でSCSにより有意な増加が見られ,到達時間もSCSで有意に短縮した.筋活動は,0-30msec区間でRFのrmsEMGが増加し,0-100msecと0-200msecでVLのrmsEMGが増加した.nRFDの区間では,0-1/6MVCにおいてVMとRFのrmsEMGが増加し,0-1/2MVCと0-2/3MVCにおいてVLのrmsEMGが増加した.【考察】皮膚冷刺激によりRFDの増加が見られた.各筋のrmsEMGの増加傾向が見られたことや皮膚冷刺激によってfast-MUsの動員が引き起こされる結果,初動負荷の素早いオーバーカムが可能となり,RFDの増加に繋がったと考えられる.特に筋力出力の初期でRFDの増加が見られ,不意の重心移動に対して素早く対応できる可能性を示唆した.本研究において,皮膚冷刺激により筋活動・RFDは増加し,皮膚冷刺激は高齢者の転倒予防トレーニングに対して有用であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究において,高齢者の日常動作に類似した低強度でもfast-MUsの動員による筋機能改善の筋力トレーニングが提案でき,高齢者の転倒予防にも繋がる新しい筋力トレーニングとしての可能性を探るデータが得られる.そして,本研究は臨床運動療法の一戦略になり得る可能性を秘めている意味で理学療法研究として意義がある.
著者
山崎 岳之 鈴木 珠実 上出 直人 石井 麻美子 南部 路治 清水 忍 前田 真治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0493, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】姿勢保持課題には、体幹を安定させるための体幹筋力と体重心の動揺を最小限にする静的バランス能力、さらに体重心の変位を適切に修正する立ち直り反応が必要である。しかし、姿勢保持課題に対するこれらの因子が、それぞれ独立した因子なのか関連した因子なのかは明確ではない。本研究では、体幹筋力、静的バランス、立ち直り反応の各因子間の関連性を検討することを目的とした。【対象】整形外科的疾患や神経学的疾患、ならびに7日間以上継続した下肢痛と腰痛を有さない健常女性30名(平均年齢21.3歳)を対象とした。【方法】体幹筋力の測定には、ハンドヘルドダイナモメーター(Hoggan Health, MICRO FET2)を用い、徒手筋力テストの肢位で腹直筋と脊柱起立筋の筋力を3回ずつ計測した。静的バランス能力の測定には、重心動揺計(Mアニマ,G5500)を用い、前方1m先の指標を注視させながら、軸足での片脚立位を60秒間を3試行し、総軌跡長と矩形動揺面積を算出した。さらに、立ち直り反応の測定には、下記の外乱刺激発生装置と1軸(前後方向)加速度計(日本光電,TA-513G)を用いた。外乱刺激発生装置は、台車上に椅子を固定したもので、台車の後方にはロープで10kgの重錘を滑車を介して吊した。被験者を固定した椅子の上に座らせ、重錘を高さ170cmより鉛直方向へ不意に落下させることで、被験者は後方から前に瞬時に押されるような外乱を発生させることができる。外乱刺激に対する立ち直り反応を頭部に取りつけた加速度計で3試行計測し、外乱刺激発生から500ms間の各方向への頭部加速度ピーク値とピーク値までの時間を算出した。なお、被験者の体重によって、外乱のエネルギー量は変化するため、台車上に重錘を載せて負荷が一定になるよう調整をした。また、外乱刺激の同定のために台車の軌道上の床面に荷重センサーを設置した。統計処理には、計測した3試行のデータを平均化し、体幹筋力、静的姿勢保持能力、立ち直り反応の関連性を被験者の体重を制御変数とする偏相関を用いて解析した。また、体幹筋力の測定値の再現性は信頼係数アルファを用いて検討した。なお有意水準は5%とした。【結果】体幹筋力の測定値には再現性が認められた(α=0.9436)。有意な相関が認められたものは体幹屈曲筋力と総軌跡長(r=-0.56)、更に体幹伸展筋力と矩形動揺面積(r=-0.38)、外乱刺激後の前方への頭部加速度ピーク値(r=-0.48)および後方への頭部加速度ピーク値(r=0.43)に有意な相関が認められた。【考察・結語】体幹筋力が弱い程、静的バランス能力は低下する傾向にあり、また立ち直り反応も低下する傾向にあると考えられた。一方、静的バランスと立ち直り反応には相関は認められなかった。従って、体幹筋力が姿勢保持課題に大きく寄与している可能性が示唆された。
著者
大久保 美保 安東 大輔 鶴崎 俊哉 志谷 佳久 上野 尚子 永瀬 慎介 濱本 寿治 平田 恭子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0877, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】臨床において、中枢神経疾患による筋緊張の異常は姿勢や動作による影響を受けやすく、日常生活動作や随意運動を遂行する上での障害となることが多い。また、程度も多様で個人差も大きく、各個人の動作時の筋緊張を客観的に評価する必要がある。先行研究では、Wavelet変換を用いて1)関節トルクを筋電信号から推定することができること、2)関節トルクの推定式から屈筋のトルクと伸筋のトルクとに分けることができること、3)これらの推定が同時収縮の場合と漸増抵抗の場合のいずれでも成り立つことの3点が示唆されている。本研究では片麻痺患者に肘関節の屈曲、伸展方向への等尺性収縮を行わせ、前腕に生じる力を計測し表面筋電からの実際の関節トルク値と先行研究のトルクの推定式との値を比較・分析し、運動の効率性を定量的に評価できる可能性の有無や、臨床での有効性を検討することを目的とした。【対象と方法】対象は片麻痺患者5名(男性3名、女性2名、平均年齢62.8±3.4歳)で、上肢のBrunnstrom stage(以下stage)が3~4(stage3が3名、stage4が2名)であった。対象者を背臥位にて患側の肩関節内・外転0度、肘関節90度屈曲、前腕90度回外位にて前腕をロードセル(以下LC)に固定し、肘関節屈筋群と肘関節伸筋群から表面筋電信号(以下SEMG)を導出した。SEMGおよびLC信号は筋電信号計測装置を経由してPCに取り込んだ。導出条件は1:安静後、2:麻痺側上肢ストレッチ後、3:非麻痺側肘関節最大随意収縮後の3条件で、漸増屈曲を5秒間かけて行い、その後、漸増伸展を5秒間かけて行った。力の強さは任意とした。SEMGとLC信号において、各条件ごとに(1)漸増屈曲(2)漸増伸展のそれぞれ5秒間を任意に抽出して0.5秒ずつに区切り10箇所の信号を分析信号とした。このSEMGからwavelet変換を用いて0.5秒間のエネルギー密度の総和(以下TPw)を算出した。LC信号より求めた関節トルクと屈筋群および伸筋群のTPwから対象者毎に回帰式を求め、関節トルクの予測値を算出し、実測値との相関を求めた。【結果】stage3の人では3例とも安静後は相関が得られた(p<.0001)。抵抗運動後はトルクの屈曲相、伸展相の2相性がみられず相関も低かった。Stage4の人では2例とも各条件下で相関が得られた(p<.0001)。各条件下での屈筋と伸筋の最大値を比較すると、屈筋において一方は抵抗運動後、他方はストレッチ後に最大値をとっていた。伸筋においては、一方はストレッチ後、他方は安静後に最大値をとっていた。【考察】stage4では関節トルクの実測値と推定値に強い相関があり、運動の効率性を定量的に評価できる可能性が示唆された。Stage3では静止時の筋緊張の状態や、与えられた環境因子に左右されやすいことが伺え、今後、これらの情報を加味して再検討することが必要であると考えられた。
著者
伊東 可奈子 上間 智博 金子 政人 弓場 裕之 野間 知一 衛藤 誠二 川平 和美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.F0622, 2008

【目的】振動刺激は麻痺に対する促通効果があるとされているが,一方では痙縮筋に直接刺激を与える治療は痙縮を増強してしまう危惧がある.我々は脳卒中片麻痺上肢において,振動刺激を筋に直接与える方法で痙縮抑制に効果があることを報告している.今回,脳卒中片麻痺下肢に対し,同様の治療を施行し,痙縮への影響を検討したので報告する.<BR>【方法】対象は重度な高次脳機能障害のなく,研究について同意を得た片麻痺患者6名(男性6名,年齢;63.2±13.1歳,罹病期間;5.2±3.5ヵ月,Brunnstrom tset,stageV4名,IV2名)である.振動刺激は背臥位でバイブレーター(大東電機工業株式会社製MD-01)を5本同時に使用し,麻痺側足底から下腿後面にかけて5分間加えた.振動刺激は足関節背屈位にして下腿三頭筋を伸張しながら行った.評価は振動刺激治療の前後に行い,以下の項目を実施した.1)10m歩行時間2)下肢軌道追従機能評価装置(鹿児島大学工学部作製)による下肢運動機能の評価3)筋力測定装置サイベックス(cybex6000清水メディカル株式会社)による足関節背屈抵抗最大トルク値(サイベックスは背屈の角速度を15°/s,60°/s)4)足関節背屈のModified Ashworth Scale(以下MAS)<BR> 評価は訓練効果を除くため評価前に十分な練習の後,測定を行った.<BR> 統計処理は対応のあるt検定を用い,危険率0.05%以下を有意とした.<BR>【結果】振動刺激治療によって10m歩行時間とMASには有意差はみられなかったが減少傾向がみられた.サイベックスによる足関節背屈抵抗最大トルク値は角速度15°では有意差はみられなかったが,減少傾向がみられた.角速度60°では振動後が有意に減少した(p<0.05).追従装置による評価では運動・誤差面積(p<0.05),幾何学誤差面積(p<0.01)ともに有意に減少がみられた.<BR>【考察】今回の研究で振動刺激によって脳卒中片麻痺下肢の痙縮抑制および下肢の随意運動が向上したため,痙縮筋に直接振動刺激を与えることにより痙縮が抑制され,主動作筋と拮抗筋の同時収縮が軽減したと考えられ,歩行時間や下肢の運動機能の改善に繋がったと推察される.今後,電気生理学的評価を加え,さらに症例数を増やし痙縮に対する振動刺激の有用性を検討していく.<BR>
著者
平田 和彦 伊藤 義広 安達 伸生 木村 浩彰 越智 光夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0233, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝関節軟骨損傷は,しばしばスポーツによって発生し,膝関節の疼痛や機能障害を引き起こす.関節軟骨は自己修復能力が低く,関節軟骨損傷は保存的治療のみでは修復困難であり,徐々に増悪し,変形性膝関節症に移行する.そのため近年,軟骨損傷に対し,外科的治療法が選択されている.軟骨損傷に対する外科的治療として,マイクロフラクチャー(MF)や骨軟骨柱移植(OAT),自家培養軟骨移植(ACI)などが選択され,術後の膝関節機能について多くの報告がある.しかし,患者にとって最も重要と思われる術後のスポーツ復帰状況に焦点を当てた報告は少ない.今回,当院で軟骨修復術を受けた患者のスポーツ復帰状況を調査したので報告する.【方法】 2004年8月から2008年9月までに膝関節軟骨損傷と診断され,当院で外科的手術をうけた患者を対象とした.術前・術後2年でフォロー可能であった33患者のデータを収集した.患者の内訳はMF11名(男性9名,女性2名,平均年齢31.4±16.9歳),OAT9名(男性7名,女性2名,平均年齢33±18.1歳),ACI13名(男性8名,女性5名,平均年齢30.0±9.6歳)だった. 臨床データは,膝機能評価として術前と術後2年のLysholm socreを測定した.活動レベルの評価は,Tegner activity scoreを使用し,受傷前と術前,術後2年で評価した.また,術式毎のスポーツ復帰率とスポーツ復帰までの期間を評価した.統計学的解析として, Lysholm scoreの経時的変化の比較には対応のあるt検定を用いた(P<0.05を有意).Tegner activity scoreの経時的変化の比較には,Bonferroni補正法によるt検定を用い,P<0.017=0.05/3を有意とした.統計解析にはPASW statistics ver.18(SPSS Japan,日本)を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究では,世界医師会による「ヘルシンキ宣言」及び厚生労働省「臨床研究に関する倫理指針」を遵守し行った.また,本研究に参加するにあたり研究の趣旨について十分な説明を行い,同意が得られた症例を対象とした.【結果】 Lyholm Scoreは,MF(術前76.4±18.5点,術後2年97.2±4.1点),OAT(術前56.1±18.5点,術後2年94.7±10.7点),ACI(術前61.3±20.4点,術後2年92.5±8.75点) と3つの術式ともに術前と比較して術後2年で有意に高かった(P<0.05). Tegner activity scoreにおいては,MF(受傷前7.7±2.5点,術前3.9±4.7点,術後2年8.0±1.8点),OAT(受傷前6.4±2.4点,術前1.1±2.4点,術後2年5.7±2.4点), ACI(受傷前7.3点±1.5点,術前1.3±2.5点,術後2年5.9±2.0点)だった.すべての術式で受傷前と術前,術前と術後2年の間に有意な差を認めた(P<0.017).ACIのみ受傷前と術後2年の間に有意な差を認めた(P<0.017).スポーツ復帰率は,MF81.8%,OAT77.8%,ACI61.5%であった.スポーツ復帰までの期間は,MF6.9±3.4ヶ月,OAT12.9±8.1ヶ月,ACI18.9±7.4ヶ月であった.【考察】 今回の結果では,膝機能はMF,OAT,ACIで術後に同程度の改善がみられた.しかし,スポーツ活動レベルでは,ACIで術後2年の時点で術前レベルまで回復が見られていなかった。軟骨修復術後のスポーツ復帰は,手術侵襲の大きさや修復軟骨の成熟過程に基づいて計画される.ACIはOATやMFよりも手術侵襲が大きく,修復軟骨の成熟に長期間を要すため,スポーツ復帰に時間がかかる。Mithoeferらは,術後活動制限が長い程,スポーツ復帰に時間がかかると述べている.したがって、早期スポーツ復帰を目標とするアスリートにとっては,MFは有利である.しかし,理論上ACIは,修復軟骨の長期的な耐久性に関してMFやOATより優位でありより長期間のスポーツ活動を希望する場合,ACIは良い適応である.今回の結果より,軟骨修復術の選択はスポーツ復帰時期やスポーツレベル,さらに長期的な予後を考慮し,患者の希望と照らし合わせて行われるべきである.【理学療法学研究としての意義】 軟骨損傷を受傷したスポーツ選手にとって,手術後にスポーツ復帰が可能かどうかは,治療を選択する上で最も重要な情報である.さらに,スポーツ復帰に関する情報は,今後軟骨損傷リハビリテーションプログラムを発展させていく上での基盤となる.
著者
柳迫 由佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1602, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】運動後に生じる遅発性筋痛(delayed onset muscle soreness:DOMS)は,休止していた運動を再開した時や,運動初心者が運動を開始した時に遭遇することが多い。このDOMSは,関節可動域や筋パフォーマンスを低下させ,健康増進のための運動継続を妨げる要因となる。これまでDOMSの予防及び対処法については多くの観点から議論されており,その中の「低強度運動」については,実施後一時的にDOMSを軽減させるが持続性に乏しいことが報告されている。この「低強度運動」について検証した先行研究を概観すると,低強度とは言えど比較的高負荷の介入課題を用い,かつ介入が一度のみである研究が多く散見された。今回は介入課題の強度・頻度に着目し,運動習慣のない者にも毎日繰り返される「日常生活上の身体活動」が,DOMSの予防及び対処法と成り得るかどうかを検証した。【方法】被験者は健常女性10名(平均年齢20.0±0.0歳,平均身長159.2±4.7cm,平均体重55.7±11.0kg)である。被験者の条件は,①過去半年間に運動習慣がない者②下肢の傷害歴がない者③移動に自転車を用いていない者とした。実験期間は6日間とし,期間中はライフコーダGS(スズケン社製)にて身体活動を記録した。また1日毎に強度別(低・中・高)の活動時間(以下,強度別身体活動量)を算出した。実験2日目には,被験者の利き脚(膝伸展筋群)に60%/RMの負荷量で意図的にDOMSを起こす運動を実施した。DOMSの測定にはVASを用い,運動直後・運動後24時間(以下,h)・48h・72h・96hの5時点に測定した。分析は,まず運動直後を除く4時点のVASと実験期間中1日毎の強度別身体活動量との相関係数を求め,関係性を確認した。次に相関係数から関係性が有意であった組み合わせにおいて,運動後48h・72hのVASをそれぞれ従属変数,実験1日目および2日目の強度別身体活動量を説明変数とし,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。【結果】DOMS平均値は,運動後24hでは6.6±1.2cm,48hでは4.4±2.6cm,72hでは2.3±2.1cm,96hでは0.3±0.4cmであった。実験1日目の強度別身体活動量は,低強度48.8±51.8分,中強度13.1±18.6分,高強度1.2±1.5分であった。また実験2日目においては低強度44.1±24.8分,中強度10.8±8.2分,高強度1.1±1.1分であった。重回帰分析の結果,運動後48hのVASでは実験2日目の低強度活動時間が有意な因子として抽出され(β=-0.71,P<0.05,R*2=0.59),運動後72hのVASでは,実験1日目の高強度活動時間が有意な因子として抽出された(β=-0.62,P<0.05,R*2=0.36)。【結論】今回の結果から,運動前日の高強度身体活動量および運動当日の低強度身体活動量には,DOMSの回復を促進させる効果があることが示された。スムーズに運動継続に繋げるために「生活上の身体活動」のDOMSに対する有効性が示唆された。
著者
中野 静菜 玉利 光太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1312, 2012

【はじめに、目的】 近年の登山ブームで、幅広い世代の登山人口が増加している。しかし高所という低酸素環境は、生体にとってハイリスクであり、低酸素環境へいかに対応できるかが高山病などの急性症状の発症を軽減させる鍵となる。急性高山病とは、高所に到達した後6~9時間から72時間までの間に発症し、頭痛(必発)・倦怠などの症状を呈するものをいう。先行研究ではSpO<sub>2</sub>、性差、心拍数、呼吸法などの生体内因子と高山病発生との関係に着目し、リスク管理につなげることを提唱している。しかし、生体外因子、とくに登山で用いられるリュックサックが生体にどのような影響を与えるのかについてはよく分かっていない。本研究では、異なる形状のリュックサックが、換気応答、姿勢、自覚的運動強度にどのような影響を与えるのかについて検証した。【方法】 対象は、健常な女子大学生19名(年齢:19.6±1.57歳、身長:1.59±0.05m、体重:53.83±10.89kg、BMI:21.23±3.91)とした(うち呼吸器疾患の既往2名、運動器疾患の既往5名、両方の既往2名)。また、喫煙者は除外した。実験手続としてトレッドミル(AR-200、ミナト医科学)運動負荷試験を行い、呼吸代謝測定システム(AE300SRC、ミナト医科学)を用いて各種呼気ガス値と一回換気量(TVE)の測定、及び換気応答マーカーである換気効率(VE/VCO<sub>2</sub>)、呼吸リズム(TVE/RR)の算出を行った。また主観的尺度として、実験終了直後には自覚的疲労強度(Borgスケール)を用いて記録した。被験者それぞれに対し、1)通常歩行のみ(以下、コントロール条件)、2)体重20%の重量の登山用リュックサックを背部に密着させるよう肩ベルトを締めた状態での歩行(以下、タイト条件)、3)体重20%の重量の一般的なリュックサックで肩ベルトを最大限に伸ばした状態での歩行(以下、ルーズ条件)の3つのタスクを課し、測定を行った。運動負荷試験のプロトコールには、Bruceにより提唱されているものに一部修正を加えたものを用いた。運動中止基準は、年齢推定最大心拍数の85%とした。さらに、姿勢アライメントのタスク間の違いを見るために、耳垂、第7頚椎、肩峰の3点がなす角をデジタルカメラで撮影・計測した。なお、統計処理は繰り返し測定デザインの二元配置分散分析を行った(α=0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は全ての被験者に対し、目的、実験手続、危険性について十分な説明を行い、文書による同意を得た。【結果】 姿勢アライメント、自覚的疲労強度(Borgスケール)、換気効率については、各条件間に有意な差はみられなかった。しかし、TVEはルーズ条件で有意に高値を示した(p=0.003)。また、TVE/RRは、タイト条件がその他の条件に比べ低値を示す傾向がみられた(p=0.068)。【考察】 本研究のTVEとTVE/RRの結果から、タイト条件がルーズ条件に比べ浅く速い呼吸リズムを助長する傾向がみられるということが分かった。この結果の要因として、タイト条件では肩ベルトの他に、胸部及び腹部ベルトも締めていたため、胸郭の可動性が制限される、いわゆる拘束条件となっていたことが考えられる。この仮説を一部支持する結果として、Bygraveら(2004)は、12名の男性に異なる締め付け強度でリュックサックを背負わせた時の肺活量を測定し、締め付け強度が強い条件では肺活量が有意に減少したと報告している。また、女性は胸郭容積を変えるために肋骨の動きに依存する割合が大きいと言われていることからも、タイト条件は女性が呼吸するには効率の悪い条件であり、登山に際し必ずしも登山用リュックサックを背負うことは推奨されるものでないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 登山はスポーツ愛好者だけでなく余暇活動や趣味活動としても幅広い世代に愛されている運動だが、重篤な状態に陥る可能性のある高山病への予防対策は進んでいるとは言い難い状況にある。生体外因子であるリュックサックが呼吸機能に及ぼす影響は、生体内因子と比較してどの程度大きいかどうかは不明だが、介入可能であり変更も容易だという利点があるため、今後の実証研究を行うための科学的根拠として、本知見は意義があると考える。また登山だけではなく、通常の生活においても頻繁に用いられるリュックサックが呼吸機能に影響を与える可能性を提示したことは、呼吸理学療法学の基礎資料として一定の貢献を果たしていると考える。
著者
大岡 恒雄 金澤 浩 島 俊也 白川 泰山
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AdPF1015, 2011

【目的】<BR> 当院では2009年11月よりロボットスーツHAL福祉用(Hybrid Assistive Limb,以下 HAL)を導入し,これまでに延べ約60名の患者を対象に実施してきた.HALは,下肢に筋力低下や麻痺などの障害を持つ対象者に対して脚力や歩行を補助するツールとして現在約40の医療機関や施設等で使用されている.しかし,その方法や効果についての報告は少なく,疾患別の症例報告もほとんどみられない.今回,当院にてHALを使用した脳卒中片麻痺患者について筋電図学的分析を中心に検討したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 症例は70代男性,身長168.0cm体重78.0kgであった.平成13年頃より数回脳梗塞を繰り返し,平成18年にさらに脳梗塞を発症し右片麻痺となった.以降,近医にてリハビリテーションを実施し,平成22年2月より当院にてHALを用いた歩行練習が開始となった.Brunnstrom stageは上肢VI,手指VI,下肢VIであり,歩行能力は四点支持歩行器を使用し自立レベル,階段昇降は不能であった.Demandは「立ち座りがスムースになれば」,「ユンボに乗りたい」であった.これまでのHALの実施回数は1ヶ月に1または2回の合計12回であった.当初はHAL装着下での膝関節及び股関節の屈伸練習,立ち上がり練習,歩行練習を実施した.HAL実施3回目より階段昇降練習を追加した. HALに対する感想は,介入時は「重たい」,「歩きにくい」が,HAL実施3回目より「脚があがるようになった」,「階段が昇れるようになった」とHALに対する肯定的なコメントが聞かれ,HAL実施10回目以降は「ユンボに乗れた」というコメントが聞かれた. <BR> HAL実施12回目において,HAL装着の有無が歩行に与える影響を調査する目的で表面筋電図(Tele MyoG2 EM-602,Noraxon)を使用した.導出筋は,両側の大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,大殿筋,腓腹筋内側頭,前脛骨筋の12筋とし,筋電図解析ソフトウェア(Myoresearch XP, Noraxon)を用いて解析を行った.測定は,HAL装着前(以下,装着前),HAL装着時(以下,装着時),HAL装着後(以下,装着後)の歩行中の筋活動を測定した.解析に用いた歩行は10m歩行区間の中間時の安定した1歩行周期を解析し,得られたデータより各筋の平均振幅を算出し,合計3回の平均値を各筋の平均振幅とした.同時に歩行動作を三次元動作解析システム(ICpro-2DdA,ヒューテック株式会社)を使用し歩幅の解析を行った.毎回のHAL実施前後には,10m歩行テスト,各動作のVTR撮影を実施した. また,毎回のHAL実施前後にHALの使用感を聴取した.<BR> <BR>【説明と同意】<BR> 対象には事前に本研究の趣旨と測定内容に関する説明を十分に行い,紙面で同意を得た.また,医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行った(MRH1002).<BR><BR>【結果】<BR> 各筋の平均振幅のうち,右側の内側広筋の立脚期は装着前は34.4±5.67μV,装着時は55.5±0.6μV,装着後は41.2±7.77μVであった.右側の内側広筋の遊脚期は装着前は14.7±6.43μV,装着時は19.8±2.48μV,装着後は19.4±0.99μVであった.左側の内側広筋の立脚期は装着前は20.4±2.23μV,装着時は46.4±3.55μV,装着後は28.1±2.75μVであった.左側の内側広筋の遊脚期は装着前は11.9±4.07μV,装着時は31.8±8.17μV,装着後は51.2±10.9μVであった.右側の大殿筋の立脚期は装着前は19.4±4.38μV,装着時は35.5±3.46μV,装着後は28.2±7.00μVであった.その他の筋については装着による変化を認めなかった.また,右側の歩幅は装着前が28.9cm,装着時は35.6cm,装着後は32.1cmであった.HAL介入前(以下,介入前)とHAL実施12回目(以下,介入後)の測定結果を比較した.10m歩行テストは,介入前は独歩にて21.5秒28歩であったが,介入後は16.1秒21歩と歩行時間の短縮がみられた.<BR><BR>【考察】<BR> 筋電図の結果から,HAL装着によって両側の立脚期及び遊脚期の内側広筋や右側の大殿筋の筋活動が増大していた.これは,麻痺側下肢の立脚期における支持性や遊脚期の際の振り出しをHALのアシスト機能によってもたらしたと考えられる. また,HAL装着による右下肢の振り出しの増大が右側の歩幅を増大させたと考えられる.10m歩行テストの結果からもHAL実施後,顕著な歩行能力の改善を認めた.発症後約9年が経過している本症例の歩行機能はプラトーに達していたと考えられた.しかし,HALの介入により,歩行能力や階段昇降能力に改善がみられたことから,心理面にも良い効果をもたらしHALの長期継続が可能となっていると考えられる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本症例の結果から脳卒中片麻痺患者に対してHALの実施には効果が期待され,理学療法の新たな発展に寄与するものではないかと考えられる.今後は脳卒中片麻痺患者のさらなるデータの収集を行い,その効果や適応について検討していきたい.<BR><BR>
著者
積山 和加子 松尾 剛 田中 聡 沖 貞明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>ソーシャルメディア(Social Media;以下SM)とはインターネットを利用して誰もが手軽に情報を発信し,相互のやりとりが出来るメディアを指すが,近年,医師や看護師等がインターネット上に患者情報を掲載した事案や他者を誹謗中傷した事案など,守秘義務違反や個人情報漏洩の問題が数多く取り挙げられている。本来SMの私的利用は個人の自覚と責任で自由に行うべきものであるが,これまでの不適切投稿による事案から鑑みると懲戒解雇や停職等,個人に対する処分だけでなく,所属する組織にも影響を与える。そこで今回,リハビリテーション専門職に対しSMの私的利用に関する意識調査を行い,その実態について検討を行った。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は国立病院機構中国四国グループの理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の計440名とした。無記名自記式調査票を2016年6月に同グループの25施設に対して各職員数分を発送した。</p><p></p><p>本調査票の質問項目は,総務省が平成27年にSM利用に関して一般市民に行ったアンケートを参考に,①私的に利用している端末,②SM利用状況,③SM利用目的,④SMでの情報発信・拡散の程度,⑤情報拡散の基準,⑥SM利用時のトラブル経験,⑦SM利用時のリスクに関する認識,⑧SMトラブルに関する事例(報道)への意見,⑨SM利用時の留意事項の認知度の9項目とした。9項目の各回答は多肢選択法を用い,設問によって該当するものを1つまたは複数選択する形式とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>本調査では395名から回答があり,回収率は90%だった。①私的利用の端末は,全員がスマートフォンやPC等を使用していた。②SMの利用状況はLINEの利用者が最も多く86%で,SMを利用していないと回答した者は11%だった。③SMの利用目的は,「知人や家族とのやりとりや通話をするため」が65%で最も多かった。④SMの情報発信・拡散の程度では,「発信よりも他人の書き込みを閲覧することの方が多い」が57%で最も多く,拡散経験があると回答した者は40%だった。⑥SM利用時トラブルを経験したことがある者は7%で,トラブル件数は41件だった。⑦SM利用時のリスクに関する認識は,「非常に気をつけている」,「気をつけている」と回答した者が80%を超えていた。⑧SMトラブルに関する事例への意見としては,「情報モラルの低下」が60.8%で最も多かった。⑨SM利用時の留置事項の認知度は,60%以上が「知っている」と回答した。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>平成26年度の総務省調査によると,SM利用に関する情報リテラシー教育の受講経験について,本邦では20%程度であり諸外国の状況に比べ低いと報告している。本調査ではSMを利用していない者も1割程度いたが,SMを利用していなくても投稿者と一緒に写っていた写真によって投稿者以外の個人情報が流出する可能性もある。そのため,インターネット利用の頻度やSMの利用に関わらずSMの私的利用における情報リテラシー教育の機会を設ける必要性があると考えられる。</p>
著者
松浦由生子 石川大樹 大野拓也 堀之内達郎 前田慎太郎 谷川直昭 福原大祐 鈴木千夏 中山博喜 江崎晃司 齋藤暢 大嶺尚世 平田裕也 内田陽介 佐藤翔平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】近年,膝前十字靭帯(ACL)再建術後の再断裂例や反対側損傷例に関する報告が増えている。我々もサッカー選手において反対側損傷率が高いことを報告したが(谷川ら,2012),その詳細については未だ不明な点が多かった。そこで本研究ではACL再建術後に反対側ACL損傷を来たしたサッカー選手の詳細を検討し,その特徴を報告することを目的とした。【方法】対象は2003年1月から2012年10月までに当院にて初回ACL再建術を行い,術後1年以上経過観察しえたスポーツ選手612例(サッカー選手:187例,その他の競技選手:425例)とし,それぞれの反対側損傷率を比較した。さらに,サッカー選手187例を片側ACL損傷173例(男性151名,女性22名:片側群)とACL再建術後に反対側ACL損傷を来たした14例(男性11名,女性3名:両側群)に分けて,片側群と両側群の比較を行った。検討項目は,①初回受傷時年齢,②初回受傷側,③競技レベル,④競技復帰時期,⑤術後12ヶ月のKT-2000による脛骨前方移動量の患健差(以下,KT患健差),⑥術後12ヶ月の180°/s,60°/s各々の膝伸展・屈曲筋力の患健比(%)とした。なお競技レベルはTegner Activity Score(TAS)にて評価し,筋力測定には,等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社)を使用した。また,両側群(14例)を対象として初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較を行った。項目は①コンタクト損傷orノンコンタクト損傷,②オフェンスorディフェンス,③相手ありorなし,④ボールありorなしとした。なお,相手に合わせてプレーをしていた際を「相手あり」とし,相手に合わせず単独でプレーをしていた際を「相手なし」とした。統計学的分析にはSPSS Ver.20.0(IBM社)を使用した。サッカーとその他の競技の反対側損傷率の差,片側群と両側群の初回損傷側の比較にはχ2乗検定を用い,その他の項目はWilcoxonの順位和検定を用いて比較した。さらに両側群の初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較にはMcNemar検定を用いた。有意水準5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。また当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】反対側ACL損傷率はサッカー選手7.49%(14例),その他の競技選手3.29%(14例)であり,サッカー選手が有意に高かった(p=0.02)。片側群と両側群の比較において,初回受傷時年齢は片側群28.5±9.5歳,両側群26.7±8.7歳(p=0.32)であった。初回受傷側に関しては,右下肢受傷が片側群49.2%,両側群64.3%で2群間に有意差を認めなかった(p=0.82)。TASは片側群7.5±1.0,両側群7.9±1.1(p=0.12),競技復帰時期は片側群9.3±2.0ヶ月,両側群9.6±2.0ヶ月(p=0.56),KT患健差は片側群0.0±1.2mm,両側群0.5±0.8mm(p=0.14)であった。膝筋力の患健比は180°/sでの伸展筋力が片側群87.2±15.3%,両側群86.4±10.0%(p=0.62),屈曲筋力が片側群88.2±18.9%,両側群87.8±14.8%(p=0.56),60°/sでの伸展筋力が片側群84.4±19.5%,両側群86.6±10.8%(p=0.98),屈曲筋力が片側群86.6±18.2%,両側群91.6±11.5%(p=0.32)でありいずれも有意差を認めなかった。両側群の受傷機転において,初回受傷時では相手あり4名,相手なし10名であったのに対し,反対側受傷時で相手あり11名,相手なし3名であり有意差を認めた(p=0.02)。その他の項目に関しては有意差を認めなかった。【考察】本研究においてサッカー選手がその他の競技選手と比較し,有意に反対側損傷率が高いことが示された。多種目の選手を対象とした先行研究での反対側ACL損傷率は約5%と報告されているが,本研究でのサッカー選手の反対側損傷率は7.49%であり,やや高い傾向にあった。両側群の受傷機転に関しては,初回損傷時よりも反対側損傷時の方が,相手がいる中での損傷が有意に多かった。サッカーは両下肢ともに軸足としての機能が要求される競技であるため,初回再建術後に軸足としての機能が回復していないと予測困難な相手の動作への対応を強いられた際に,反対側損傷を起こす可能性が高まるのではないかと推察した。以上のことから,サッカー選手に対しては初回ACL再建術後に対人プレーを意識した予防トレーニングを取り入れ,軸足としての機能回復や予測困難な相手の動きに対応できるagility能力を高めておくことが反対側ACL損傷予防には重要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究では,サッカー競技におけるACL再建術後の反対側ACL損傷は対人プレーでの受傷が多いという新しい知見が得られた。サッカーに限らず,反対側ACL損傷率を減少させるためには,スポーツ競技別に競技特性や受傷機転などを考慮した予防トレーニングを行っていくことが重要であると考える。
著者
相原 一貴 松下 和太郎 小野 武也 石倉 英樹 佐藤 勇太 松本 智博 田坂 厚志 積山 和加子 梅井 凡子 沖 貞明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】整形外科的手術で出血量抑制のために使用されるターニケットは,虚血再灌流障害を引き起こし骨格筋の浮腫や炎症,萎縮を発生させる可能性が報告されている。我々は先の動物実験において,圧力300mmHgで90分間ターニケットを使用すると,虚血再灌流後に筋収縮力の低下が生じ,その低下は再灌流後7日目においても完全回復に至らないことを明らかにした。しかし,7日目以降の筋収縮力の変化に関しては不明である。そこで,虚血再灌流後の筋収縮力の変化を明らかにする目的で,虚血再灌流後14日目における筋収縮力の測定,および歩行動作との関係について検討した。【方法】10週齢Wistar系雄ラット12匹(体重360.1±14.2g)を6匹ずつ正常群(以下C群)と虚血再灌流群(以下IR群)に分けた。IR群は,まず麻酔下で後肢にターニケットカフを巻き,圧力300mmHgで90分間の駆血を実施した。そして14日後に,両群の筋収縮力の測定と歩行観察を実施した。歩行観察は傾斜0°のラット用トレッドミル上を分速10m/minで歩行させ,その様子をビデオカメラで撮影し,その動画から足指伸展角と踵骨高を測定した。足指伸展角は爪先離地時に踵骨と第4中足骨を結ぶ線と床に平行な線がなす角度とし,値が小さい程伸展していることを示す。また踵骨高は足底接地時の踵骨と床の垂直距離とした。筋収縮力の測定は,ヒラメ筋を摘出し95%酸素および5%二酸化炭素の混合ガスを常時通気しているリンゲル液で満たしたオーガンバス内へ入れ,電気刺激を加え測定した。測定後のヒラメ筋は,凍結させHE染色し筋横断面短径を測定した。統計学的解析は,対応のないt検定を用い,危険率5%未満をもって有意差を判定した。【結果】筋収縮力はC群116.5±7.4g,IR群69.2±13.3g,筋横断面短径はC群58.6±2.8μm,IR群46.3±4.2μmであり,どちらもC群に比べIR群に有意な低下が認められた(P<0.05)。一方,歩行に関する測定項目である足指伸展角および踵骨高では,両群間に有意差は認められなかった(P<0.05)。【結論】本研究結果にて,筋収縮力や筋横断面短径はC群よりもIR群が有意に低下していたが,歩行に関する評価項目に有意差は認められなかった。一般的に筋収縮力は,筋横断面積と比例関係にある。また,虚血再灌流障害の症状として浮腫や炎症,筋萎縮が報告されている。そのため,IR群では虚血再灌流により低下した筋収縮力が完全回復していないことが推測できる。一方で,歩行に関して差がなかったことについては,歩行自体は低負荷の運動であるため,運動から筋機能の状態を評価するには,より負荷の高い運動に対する反応から判断する必要性が示唆されたと推測する。よって,虚血再灌流後14日では,歩行が正常であっても,筋機能の回復は完全ではない可能性があることを明らかにした。
著者
藤田 唯 岩井 宏治 有吉 直弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿,低アルブミン血症を呈する腎臓疾患の総称である。近年,慢性腎臓病(CKD)患者に対する持続的な運動はADLやQOLを向上させ生命予後を改善させることが報告されているが,ネフローゼ症候群における運動療法の効果についての報告は少ない。ネフローゼ症候群診療ガイドライン2014においても,運動を制限することは推奨されないとされる程度で十分なエビデンスは示されていないのが現状である。本研究では,中等量の副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)に抵抗性を示した高齢ネフローゼ症候群2症例に対し運動療法介入における有効性と安全性について検討した。【方法】初発のネフローゼ症候群により入院加療となった80歳代男性2症例を対象とした。2症例に対して理学療法(PT)開始時に心肺運動負荷試験(CPX)を実施した。CPXは医師立ち会いのもと,下肢エルゴメーター,呼気ガス分析装置を使用しRamp10で実施した。入院中の理学療法は,初期評価で測定した嫌気性代謝閾値(AT)を参考に週5回,有酸素運動とレジスタンストレーニングを中心に実施した。PT開始後4週間目に再度CPXを行い,運動耐容能の再評価を行った。腎機能は,生化学検査からeGFR,Cr,UN,尿検査より尿蛋白の値をカルテより調査した。症例1は入院後25日目よりPTを開始した。PT開始時腎機能はeGFR49.5,Cr1.08mg/dl,UN23.5mg/dl,尿蛋白9.72g/gCrであり,プレドニン20mg/day,ブレディニン150mg内服中であった。症例2は入院後15日目よりPT開始した。PT開始時腎機能はeGFR58.1,Cr0.95mg/dl,UN12.3mg/dl,尿蛋白10.48g/gCrであり,プレドニン30mg/day内服中であった。2症例ともステロイド開始後,尿蛋白は目標値まで減少せず,主治医により治療抵抗性ありと判断された。【結果】症例1のATは初期評価2.64METsから再評価3.23METsへ向上した。PT介入期間中の腎機能はeGFR44.5~52.1,Cr1.03~1.19mg/dl,UN21.2~24.2mg/dl,尿蛋白は8.29~11.78 g/gCrであり悪化は認めなかった。症例2のATは初期評価2.28METsから再評価2.21METsと変化しなかった。腎機能はeGFR54.4~69.2,Cr0.81~1.01 mg/dl,UN12.3~21.3mg/dl,尿蛋白は4.18~6.58 g/gCrであり悪化は認めなかった。PT介入期間中,2症例ともに腎機能悪化は認めず運動耐容能は維持または向上を認めた。【考察】近年,CKD患者に対する中等度の運動は,尿蛋白や腎機能へ影響を与えないことは多くの先行報告において示されており,ネフローゼ症候群における運動療法も,一般的にはCKD患者の指標に準じて行うことが勧められている。しかし,ネフローゼ症候群の治療抵抗性患者に対する運動療法の効果や腎機能への影響についての検討はなされていない。本研究で示した2症例はともにステロイド治療に対して抵抗性を示し,尿蛋白減少には至らなかった。しかし,腎機能についてはPT期間中,eGFR,Cr,UNともに悪化をすることなく経過した。CKD患者に対する先行報告と同様に,高齢ネフローゼ症候群患者に対しても,ATレベルでの運動療法は腎機能を悪化させないことが示唆された。また,運動耐容能については症例1では向上を認めたが症例2では維持レベルであった。ステロイド治療抵抗性を示す高齢ネフローゼ症候群においても,運動療法介入により運動耐容能が維持・改善する可能性が示唆された。今回,運動耐容能が改善した症例1と維持レベルにとどまった症例2ではリハビリ時間以外の活動量に差があったことが一要因と考えられるが,今後症例数を増やし検討する必要があると考える。ステロイドに抵抗性を示す高齢のネフローゼ症候群に対する適切な運動強度での運動は,腎機能を悪化させることなく運動耐容能を維持・向上させる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】中等量のステロイドに抵抗性を示す高齢ネフローゼ症候群においても,運動療法は腎機能の悪化に影響せず,運動耐容能を維持・向上できる可能性が示唆された。
著者
菊谷 文子 伊東 一章 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】</p><p></p><p>急性期病院において早期に病棟ADLを獲得することは廃用症候群の予防,今後の転帰先を考慮する上でも重要である。病棟内ADLの自立判定基準としてバランス能力の評価であるBerg Balance Scale(以下BBS)がよく用いられている。BBSには天井効果があり,また静的なバランス能力しか評価できないためADLにつながるような包括的なバランス能力を評価する指標としては不十分である。日本語版Mini-Balance Evaluation Systems Test(以下Mini-BESTest)は,予測的姿勢制御,反応的姿勢制御,感覚機能,動的歩行の4つのセクションから構成されており,高い信頼性,妥当性,治療反応性が報告されている。さらには天井効果がなく,歩行完全自立か否かの判別能に関してもMini-BESTestのほうが優れている傾向を示している。BBSとMini-BESTestには高い相関があると言われているが,急性期脳血管疾患において報告は少ない。今回BBSとMini-BESTestを比較したので以下に報告する。</p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は2016年6月1日から同年9月まで当院に脳血管疾患で入院した患者17名(男性10名,女性7名)。脳血管疾患の既往がある者,整形疾患を有する者,検査内容が理解できない者を除外した。平均年齢は68±15歳,対象者の内訳は脳梗塞7名,脳出血5名,その他(くも膜下出血,慢性硬膜下血腫など)5名で,身体的特徴はNational Institute of Health Stroke Scale 0~6点が12名,7~14点が4名,15点以上が1名で測定日は平均11±6日だった。評価尺度はBBSおよびMini-BESTestを採用した。BBS,Mini-BESTestともに平均値,項目ごとの難易度(減点のある対象者の割合)を求め,さらにMini-BESTestは各セクションの得点率を求めた。BBSとMini-BESTestの合計点からPearsonの積率相関係数を求めた。</p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>BBSの平均値は32.5±19.8点(1~50点),難易度60%以上は両手前方,80%以上は360°方向転換,踏み台昇降,片脚立ち,タンデム立位。Mini-BESTestの平均値は10.8±8.4点(0~22点),難易度50%未満が静止立位(開眼,固い地面),座位から立位,斜面台,各セクションの得点率は,予測的姿勢制御48.0±35.8%,反応的姿勢制御22.5±27.0%,感覚機能54.9±39.4%,動的歩行31.8±28.3%,Mini-BESTestはBBS(r=0.91)と強い相関を認めた。</p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>急性期脳血管疾患患者においてBBSとMini-BESTestは慢性期脳卒中患者と同様に高い相関関係を示した。またBBSでは満点者はなく,Mini-BESTestでは無得点者がいたことやBBSにはない要素である反応的姿勢制御と動的歩行の得点率が低い傾向を示した。したがって,急性期においてBBSとMini-BESTest両者を計測することは有用であると思われるが,測定時期を考慮することや症例数を増やし運動機能別比較や疾患別の特徴をみる必要もあると考えられた。</p>
著者
木村 剛英 金子 文成 長畑 啓太 柴田 恵理子 青木 信裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100461, 2013

【はじめに、目的】二重課題とは,同時に複数のことを行う課題である。この二重課題では,単一の課題を行う一重課題よりも各課題において巧緻性や反応時間などの精度が低下する。これは,ヒトが一度に遂行出来る課題量には限界があることを示している。そして,この限界を規定する因子として,ワーキングメモリが挙げられる。ワーキングメモリとは,目標に向かって情報を処理しつつ,一時的に必要な事柄の保持を行う脳の一領域であり,保持出来る情報量に限界を持つ。また,ワーキングメモリが保持できる情報量は,トレーニングによって増加する。このことから,ワーキングメモリのトレーニングを行うことで同時に遂行出来る課題量が増え,二重課題条件下での各課題の精度低下を防げる可能性があると考えた。そこで本研究では,運動課題を用いた二重課題に焦点を当て,ワーキングメモリ容量の増加が二重課題条件下での運動精度にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健康な男子大学生24 名とした。初期評価として,二重課題条件下での運動課題,ワーキングメモリ容量の測定を行った。その後「ワーキングメモリトレーニング群」「二重課題条件下運動トレーニング群」「コントロール群」に割付け,2 週間の介入後,初期評価と同様の最終評価を行った。ワーキングメモリトレーニング群は,パソコンに次々と表示される円の位置と順番を記憶し,のちに再生する方法を用いた介入を行った。二重課題条件下運動トレーニング群は,評価で用いた二重課題条件下での運動課題を介入として行った。二重課題条件下での運動課題は,右下肢の等尺性収縮と左上肢の肘屈曲運動を同時に行う課題とした。第一課題は,事前に測定した右下肢伸展ピークトルクの20%及び40%を目標トルクとし,等尺性収縮にて目標トルクを維持させる課題とした。同時に行う第二課題として,前方のスクリーンに表示された合図に反応して,肘関節を出来るだけ速く強く屈曲方向へ等尺性収縮する運動を行わせた。下肢運動能力の評価には,実際に測定された下肢伸展トルクと目標トルクとの差の積分値を用いた。上肢運動能力の評価には,上腕二頭筋の表面筋電図より算出したpre motor time(PMT)と整流平滑化筋電図(ARV)を用い,得られたPMTの逆数とARVの積を評価指標とした。さらに,介入前後の二重課題能力の変化を評価するために,上肢と下肢の運動能力評価値から散布図を描き,分布の変化をカイ2 乗検定にて検定した。ワーキングメモリ容量の測定は,パソコン画面に表示される複数個の正方形の色判別課題を行い,結果を点数化した。得られた結果から各群および介入前後の2 つを要因とした二元配置分散分析を実施し,2 つの要因間で交互作用があった場合,多重比較として単純主効果の検定を行った。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】ワーキングメモリ容量は,全ての群において介入前後で有意に変化しなかったものの,ワーキングメモリトレーニング群において平均値が高値を示した。また,介入前後における散布図の分布の偏りは20%条件で全ての群で有意に変化した。一方,40%条件ではワーキングメモリトレーニング群,運動トレーニング群において分布の偏りが有意に変化した。【考察】下肢40%条件コントロール群のみ二重課題条件下での運動能力改善を認めなかった。これは40%条件では20%条件より負荷量が多く,必要とする注意量が増えたため各運動へ十分な注意を配分出来ず学習が進みにくかったことが原因であると考える。一方,ワーキングメモリトレーニングを行うことで,実際の運動を行っていないにも関わらず20%条件,40% 条件いずれも二重課題条件下の運動能力に改善を認めた。これは,ワーキングメモリトレーニングに伴うワーキングメモリ容量の増加が,上肢,下肢の各運動に十分な注意を配分することが出来たためであると考える。本研究結果より,ワーキングメモリトレーニングによるワーキングメモリ容量の増加は二重課題条件下の運動精度を改善する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】日常生活の動作や運動は,複数の動作を同時に行うことで成立している。今回,ワーキングメモリトレーニングにより二重課題条件下の運動が改善した。この結果は,認知課題を行うことで,運動の改善が得られることを表している。この事実から,長期臥床の患者様やケガからのスポーツ復帰を目指すアスリートなど,運動を十分に行えない環境にいる者に対し,従来の運動療法に加えて認知面からも運動機能を改善できる可能性が示唆された。