著者
新井 保久 山田 邦子 藤井 幸太郎 渡辺 健太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1346, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】リハビリ訓練室の訓練用具や機器には,患者が直接手で触れる物が多い。そのため患者の手から細菌がついてしまうことが予想され,2つの調査を行った。調査1は「患者の手にどれだけ細菌が付着しているか」,調査2は「手の細菌数が消毒剤で減少するか」である。【調査1の対象】動作能力によって手に付着している細菌が違うかどうか,理学療法実施中の患者で「A=外来の独歩移動3例,B=入院中の独歩移動3例,C=入院中の歩行器移動3例,D=入院中の車椅子移動3例,E=入院中の車椅子移動の片マヒ3例」を調査した。【調査1の方法】リハビリ訓練室の入室時に,効き手または健側の手掌を「ハンドぺたんチェック」に押しつけ,48時間培養後に各菌のコロニー数(目で数えられるものは数え,それ以上で数えきれないものは大まかな数)を調べた。細菌として「1. CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌群),2.コリネバクテリウム,3.バチルス,4.ミクロコッカス,5.MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),6.MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌),7.グラム陰性桿菌」を調べた。【調査1の結果】1~7を合わせた全体のコロニー数は,各々の平均数「A=219,B=262,C=377,D=1158,E= 317」である。その中で病原性の高いとされる,MRSAは1例も検出されなかったが,MSSAは「Bに1例,Eに2例」,またグラム陰性桿菌は「Cに1例,Dに2例,Eに2例」検出された。【調査2の対象】動作能力の低い患者に細菌数が多い傾向であったため,前述と同様に「C=3例,D=3例,E=3例」について調査した。【調査2の方法】「リハビリ入室時(消毒前)」及び「速乾性擦式アルコール消毒剤(商品名ゴージョーMHS )による消毒後」の2回,手の細菌を検出し比較した。【調査2の結果】1~7の細菌を合わせた全体のコロニー数は,各々の平均数でリハ入室時(消毒前)は「C= 557,D= 720,E= 953」が,消毒後は「C=16,D=59,E=31」へと減少した。その中でも「1. CNS,2.コリネバクテリウム,4.ミクロコッカス」が著明に減少した。しかし「3.バチルス」については芽胞を有するためか「C・D・Eの総数が 266から 195へ」と減少しにくい傾向であった。またMRSA・MSSAは1例も検出されなかった。グラム陰性桿菌は「C・D・Eに1例ずつの3例検出され,平均数8から1へ」と減少したが,「他2例は消毒後」に検出された。【調査1・2の考察】リハビリの用具・機器を患者毎に清拭することが望ましいが,現状では困難なことも多い。今後は,職員の手指の洗浄・消毒はもちろん,患者自身にも積極的に手洗いやアルコールによる消毒を心掛けてもらう必要がある。また自力で手洗い等が困難な歩行器・車椅子使用例や片マヒの症例には,職員が介助して擦式アルコール等による手指消毒を行うことが望ましいと考えられる。
著者
矢野 秀典 柚原 一太 浅沼 哲治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1400, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】我が国の高齢者人口は増え続け,平成26年10月現在で高齢化率も26.0%と過去最高となった。同時に虚弱高齢者も増え続け,要介護認定者は600万人を超えている。これら多くの虚弱高齢者に対して豊かな生活を支えるサービスを提供することは,医療・保健・福祉に携わる我々の使命でもある。高齢者の余暇活動に関しては,今までにも多くの調査が行われてきているが,それらの対象は,ほとんどが地域在住の健常高齢者である。虚弱高齢者を対象とした調査は非常に少なく,その詳細は明らかにされていない。本研究の目的は,要介護認定を受けているデイサービス利用者の余暇活動および旅行活動の詳細を明らかにすることである。【方法】東京都区内の5つのデイサービスを利用し,日常生活自立度判定基準ランクがIもしくはIIの92名(男性36名,女性56名)を対象とした。平均年齢は84.7(標準偏差6.5)歳,要介護度は,要支援7名,要介護1・2が61名,要介護3~5が24名であった。これらに対して,質問紙調査を実施した。調査項目は,体が丈夫な頃および現在に行っていた,または行っている余暇活動および現在の旅行活動とした。そして,男女別の余暇活動および要介護度別の旅行活動状況を集計,分析した。分析にはカイ二乗検定を用いた。統計ソフトは,SPSS Statistics 17.0を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】体が丈夫な頃に余暇活動を行っていたものは男性36名(100%),女性54名(96.4%)であった。男性では,旅行35名,読書28名,ドライブ22名の順に多く,女性は,旅行50名,読書28名,裁縫・編み物38名の順であった。一方,現在の余暇活動では,男性が読書23名,旅行19名,園芸・庭いじり10名,女性が読書24名,旅行21名,裁縫・編み物および園芸・庭いじりがそれぞれ14名となっていた。また,現在旅行に出かけているものは,要支援4名(57.1%),要介護1・2:22名(36.1%),要介護3~5:13名(54.2%)と3群に差はなかった。旅行日程は日帰り,同伴者は家族,交通手段は自家用車がすべての群で最も多かった。旅行先は,近郊が,要支援4名(100.0%),要介護1・2:12名(54.5%),要介護3~5:5名(38.5%)と有意ではない(P=0.097)ものの要支援者に多い傾向が認められた。【結論】体が丈夫な頃には,男女ともにほとんどのものが余暇活動を行っていた。一方,要介護となった現在でも,多くのものが余暇活動を楽しんでいる実態が明らかになった。やはり,多くは屋内の静的活動が多かったものの,男女ともに屋外活動を主とする旅行が2番目に多く,旅行の特殊性が認められた。旅行活動に関して,対象者の運動機能低下が日程,同伴者,交通手段に影響を与えているものと考えられた。その一方で,旅行先を近郊としたものが要支援で極端に多かったことは,自分自身である程度移動可能なことが影響していたためと推察された。
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0850, 2006

【目的】体幹機能の評価および機能改善の方法に座位での側方移動がある。座位側方移動に関しては、骨盤・胸椎の傾斜角度や腹斜筋群、脊柱起立筋などの筋活動について研究がなされており、その研究成果は臨床で活用されてきている。臨床においては頭頚部筋や肩甲帯周囲筋の過剰努力を呈し、座位バランスを保持している症例を頻繁に経験する。しかし、座位での側方移動における頭頚部筋や肩甲帯周囲筋の機能に関しては明確にされていない。本研究目的は、肩甲帯周囲筋である僧帽筋に着目し、健常者の座位側方移動時の僧帽筋の筋活動について筋電図を用いて検証することである。<BR>【方法】対象は健常男性5名(平均年齢30.2±4.3歳)両側。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は両側の僧帽筋上部、中部、下部線維とし筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。具体的な運動課題は両腕を組み、両下肢を浮かした座位姿勢を開始肢位とした。開始肢位より5cm、10cm、15cm、20cmと前額面での延長上に設置した目標物に対し三角筋外側最大膨隆部を接触させていくよう側方移動を行った。各移動距離における測定時間は5秒間とし、これを3回施行した。なお、被検者には頭部・体幹は前額面上に、両側の肩峰を結んだ線は水平位を保持するよう指示した。分析方法は開始肢位における僧帽筋各線維の筋積分値を基準として各移動距離の筋積分値相対値を算出し、各線維ごとに移動距離間での分散分析(Turkeyの多重比較)を行った。<BR>【結果】非移動側僧帽筋の筋積分値相対値は下部線維のみが移動距離20cmにおいて5cm、10cm、15cmと比較して有意に増加した。<BR>移動側僧帽筋の筋積分値相対値は中部線維のみが移動距離20cmにおいて5cm、10cm、15cmと比較して有意に増加した。<BR>【考察】座位側方移動での体幹機能の特徴には非移動側の腹斜筋群による抗重力的な求心活動によって胸郭と骨盤を連結させること、非移動側骨盤の水平面上での前方回旋に対し体幹上部では反対側の回旋が生じ、カウンタームーブメントによる体幹の安定化が図られるなどがある。本研究での非移動側僧帽筋下部線維の筋活動が有意に増加したことについては、胸郭上を浮遊する肩甲帯を積極的に下制、内転させることで肩甲帯と胸郭の連結を行い、かつ胸郭を垂直に保持することに関与したのではないかと考える。これにより肩甲帯-胸郭-骨盤といった体幹の安定化が図られると考える。一方、移動側僧帽筋中部線維の筋活動が有意に増加したことについては、カウンタームーブメントによる体幹の安定化とは異なり、本研究では前額面上の目標物に到達させる課題であることから、移動側肩甲帯を内転位に保持する必要がある。移動側中部線維の活動は肩甲帯を内転方向へと導いていく方向舵としての機能に関与したのではないかと考える。<BR><BR>
著者
富島 奈々子 田中 雅侑 金指 美帆 前沢 寿亨 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】肥満は生活習慣病の重要な要因であり,社会問題になっている。肥満には低強度走行運動等の有酸素運動が代謝や体重軽減に有効で推奨されている。代謝向上にはミトコンドリア数増加やコハク酸脱水素酵素(SDH)活性の上昇,毛細血管新生等の適応があり,有酸素運動は代謝向上に好影響がある。近年,無酸素性エネルギー代謝が起こる高強度インターバルトレーニング(HIIT)でもミトコンドリア数の増加が報告されている(Hoshino,2013)。一方,継続的な運動後の血中乳酸値濃度が乳酸性作業閾値(LT)以下の低強度運動とLT以上の高強度運動が代謝に与える影響を比較した研究は皆無である。HIITは有酸素運動よりも代謝が向上するという先行研究(Laursen,2002)から,ミトコンドリア機能亢進には有酸素運動よりもLT以上の高強度運動の方が好影響ではないかと仮説を立て,低強度及び高強度走行運動がラットヒラメ筋の代謝及びミトコンドリア数に与える影響の検証した。【方法】5週齢のWistar系雄性ラットを対照群(CON群,n=8),低強度運動群(LI群,n=7),高強度運動群(HI群,n=7)の3群に分けた。運動介入としてトレッドミルを用いた走行運動を1日1回,週に5回の頻度で実施し,LI群では速度15m/分,継続時間60分間,傾斜0°,HI群では速度20m/分,継続時間30分間,昇り傾斜20°の運動を負荷した。運動後の血中乳酸値濃度は運動前に比べて,HI群でのみ有意な上昇を認めた。3週間の実験期間終了後,サンプルとして精巣上体周囲脂肪及びヒラメ筋を摘出し,湿重量を測定した。ヒラメ筋は急速凍結し,-80℃で凍結保存した。ミトコンドリア数の指標としてTaqmanプローブによるリアルタイムPCR法を用いてヒラメ筋のmtDNAコピー数を相対的に測定した。また,薄切したヒラメ筋横断切片を用いてSDH染色によりヒラメ筋のSDH活性を測定した。ATPase染色(PH4.3)で筋線維をType IとType IIAに分け,筋線維タイプ比とタイプ別筋線維横断面積(CSA)を測定した。アルカリフォスファターゼ(AP)染色により筋線維数に対する毛細血管数(C/F比)を測定した。全ての測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得た上で実施した。【結果】体重はLI群及びHI群共にCON群に対し有意に低値を示したが,脂肪量/体重比はHI群がCON群及びLI群に対し有意に低値を示した。ヒラメ筋/体重比はLI群及びHI群と共にCON群に対し有意に高値を示した。筋線維タイプ比とCSAはLI群及びHI群共にCON群との有意な差を認めなかった。また,mtDNAはLI群がCON群に対し,HI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示した。C/F比も同様にLI群がCON群に対し,HI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示した。また,SDH活性は,Type IではLI群がCON群に対し,HI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示し,Type IIAではHI群がCON群及びLI群に対し有意に高値を示した。【考察】HI群ではmtDNA増加とSDH活性上昇,C/F比増加がLI群より有意であった。運動によるミトコンドリア数増加やSDH活性上昇が知られており,異なる強度の走行運動では強度が高いほどミトコンドリア新生及び酵素活性の上昇が示された。運動強度が高いほど酸素需要が増大するという先行研究(Sasaki,1965)から,酸素需要増大に適応するためミトコンドリア機能向上が促されたと考えられる。また,運動によるミトコンドリア新生や酸化的リン酸化酵素活性上昇に伴う酸素需要増大が毛細血管新生を促すことが報告(Suzuki,2001)されている。C/F比もLI群よりHI群で有意に高値を示したため,毛細血管新生に与える影響の違いは,HI群がミトコンドリア新生や酵素活性に与える影響の大きさが反映していると考えられる。また,CSAとタイプ比に有意な差が見られないことやHI群のみ脂肪が減少したことから,HI群では筋力増強効果はないがミトコンドリア内での脂肪酸分解が活性化され,LI群より脂質代謝が活性化したと考えられる。これらの結果から本研究ではLI群よりHI群でミトコンドリア機能が向上し,代謝亢進に効果的であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】骨格筋の代謝活性の増加には低強度,高強度走行運動ともに有力な手段となるが,LT以上がより効果的であり,肥満の改善や予防に有効な手段となり得ることを示した点で意義があると考える。
著者
曽田 武史 遠藤 弘樹 矢倉 千昭 荻野 和秀 萩野 浩 辻井 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0809, 2004

【目的】筋硬結などの筋病変は関節可動域制限や感覚障害のみならず,障害部位の冷え,発汗異常などの自律神経機能障害も複雑に絡んでいることが多い。マイオセラピーはMyoVib(マイオセラピー研究所)の振動刺激により,これらの障害を改善する治療方法として開発,考案された治療技術である。本研究では,健康成人を対象にMyoVibの振動刺激が自律神経機能に及ぼす影響について検討した。<BR>【対象】循環器障害の既往のない健常な成人6名(男性3名,女性3名)で,平均年齢は20.2±1.9歳であった。すべての対象者に対して研究主旨と内容を説明し,同意を得た上で研究を実施した。<BR>【方法】対象者は腹臥位となり,呼吸数を15回/分に維持させ,第2胸椎から第5胸椎レベルの多裂筋に振動刺激を20分間実施した。MyoVibは振幅3mm、周波数30Hzのものを使用した。心電計はLifeCorder-8(日本光電)を用い,CM5で記録した。記録は実施前,実施中,実施直後,実施終了10分後,実施終了20分後に3分間ずつ記録した。分析方法は心電図波形をBIMUTAS II (キッセイコムテック)でサンプリング周波数200HzにてA/D変換し,3分間の心拍から定常な128拍を分析対象に平均RR間隔,標準偏差,心拍変動係数(CVRR)の算出と周波数解析を行った。スペクトル解析ではRR間隔を平均RR間隔で再サンプリングし,スプライン補間にて連続関数を得た。解析方法は高速フーリエ変換を用い,得られたスペクトルから低周波成分(LF)および高周波成分(HF)のパワースペクトルを求めた。このパワースペクトルから,LF/HFを求め,LF/HFを交感神経活動,HFを副交感神経活動の指標とした。統計処理は実施前を基準に,実施中,実施直後,実施終了10分後,実施終了20分後の平均RR間隔,CVRR,LF/HF,HFの変化をWilcoxon signed rank testで行った。<BR>【結果】実施前と比較し,平均RR間隔は,実施中および実施終了20分後に有意な減少(p<0.05)が認められた。CVRRは実施中と実施終了10分後に有意な減少(p<0.05)が認められた。LF/HFは実施直後に有意な低下(p<0.05)が認められ,その後増加する傾向がみられた。HFは実施後および実施終了10分後に有意な低下(p<0.05)が認められた。<BR>【考察】CVRRでは実施中および実施終了10分後に有意に減少していることや,実施直後にLF/HF,HFがともに有意に低下していることから,MyoVibによる振動刺激は,交感および副交感神経の双方の活動を抑制する傾向がみられた。今後は対照群を設け,実施中,実施後の自律神経活動の変化についてさらに検討していく必要がある。
著者
浮橋 明洋 田中 創 西上 智彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-23_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【背景】変形性関節症(膝OA)において,neglect-like症候群,身体イメージの異常,固有受容感覚の低下などの身体知覚異常が認められることがある.The Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ)は,膝OA患者における9項目から構成される膝の身体知覚異常の評価であり,一元性,信頼性や再現性が認められている.また,FreKAQスコアは疼痛や能力障害と関係があることが明らかになっている.しかし,どの項目がFreKAQにおける特性を適切に反映しているかは明らかではない.本研究の目的は項目反応理論(Item Response Theory:IRT)を用い,FreKAQの識別力の高い項目を明らかにすることである.【方法】本研究は膝OA患者303例(男性66例,女性237例,69.1±9.9歳)を対象とし,IRTにおける段階反応モデルによって,FreKAQにおける識別力及び項目反応カテゴリ特性曲線を推定した.識別力は0.65以下がlow,0.65-1.34がmoderate,1.35-1.69がhigh,1.7以上がvery highとした.項目反応カテゴリ特性曲線は各カテゴリの反応段階のカーブがピークを表出しているか検討した.統計解析はMplus 8を用いて行った.【結果(考察も含む)】FreKAQのすべての項目においてmoderateからvery highの識別力が認められた.特に項目5(日常生活(家事や仕事など)をしている時に,自分の膝がどのような姿勢になっているか正確に分からない)と,項目6(自分の膝の輪郭を正確にイメージすることができない)は,高い識別力であった(それぞれ2.00,1.70).項目9(私の膝は右側と左側で感じ方が違う(一方が重たく感じたり,太く感じる))の識別力は,他の項目と比較して相対的に低かった(0.83).項目反応カテゴリ特性曲線において,項目5,6については反応段階のカーブがピークを表出しているが,一方で,項目9ではピークを表出されることなく,次の反応段階の確率曲線にとってかわっていた.FreKAQにおいて,特に重要となる項目は5と6であることが認められた.項目5は固有受容感覚の低下,項目6は身体イメージの異常にそれぞれ関与する項目であり,これらの項目の改善を目的とした理学療法がFreKAQスコアを減少し,さらに,疼痛の軽減や能力障害の改善に有効である可能性がある.【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,すべての対象者には本研究の研究内容,リスク,参加の自由などを十分に説明した上で書面による同意を得た.また,本研究は九州医療整形外科・内科 リハビリテーションクリニック倫理委員会の承認を得た上で実施した.
著者
勝井 洋 瀬戸 健 町 貴仁 長面川 友也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O2136, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】頚椎深層屈筋群の抑制と頚部痛との関連性が、Boydら(2001)により報告されている。Jullら(2009)は頚椎深層屈筋群が筋力低下していると、頭部重心が肩関節を通る前額面を越えて伸展せず頭頚部の伸展が優位になると述べている。以前、頚椎伸展制限のある患者において頚椎伸展可動域を改善しても最終伸展位からの頚椎屈曲が不可能な症例を経験した。前述の症例の場合、頚椎屈曲に先立ち肩甲骨外転を伴った代償的な胸椎屈曲運動がみられた。以上の経験から、胸椎の代償を制御した頚椎の運動を評価する為、肩甲骨内転強制により胸椎屈曲運動を制限しながら頚椎を伸展位から屈曲させる頚椎伸展―屈曲テスト(以下本テスト)を考案した。頸部深層筋群では遅筋線維の割合が多いという伊藤ら(2001)の報告を参考に我々が行った先行研究(2009)では、健常女性28名に本テストを行った結果13名が屈曲不可能で、可能な群に比べ頚椎筋持久力として測定した平均頸部正中位保持時間は有意に短かった(p<0.01)。そこで今回は本テスト不可能群に対し頚椎深層屈筋トレーニング(以下トレーニング)を行い、頚椎運動と頚椎筋持久力に対する効果を調べることとした。【方法】対象者は頚椎疾患の既往の無い健常女性で、本テストにて不可能だった13名のうち協力の得られた7名(平均年齢27±4歳)であった。頚部正中位保持時間測定方法は再現性の報告されている木津ら(1995)の方法に従い、ベッド上背臥位で第7頸椎棘突起をベッド辺縁上に位置させ、頭頂・耳介・肩峰が直線上にならぶ位置を頸部正中位とした。トレーニングの運動方法は、Jullらの方法に従い空気圧を利用したプレッシャーバイオフィードバック(TYATTANOOGA社製Stabilizer)を背臥位にて頚椎下に置き,顎を引く運動を行なわせた。運動負荷・量については、Stabilizerのカフ圧を20mmHgから24 mmHgまで上昇させる負荷で10秒を5セットの量とし、頻度は週3回、期間は3週間とした。実際のトレーニングの進行は、まずStabilizerを用いて運動方法・負荷を指導し、その後はタオルを用いて監視下にて行った。統計にはt-検定を用いた。【説明と同意】この研究は対象者にヘルシンキ宣言に基づき説明し、文書にて承諾を受けた上で行った。【結果】対象者7名中4名が3週間のトレーニング後、本テストにおいて可能となった。対象者全員の平均頸部正中位保持時間はトレーニング前が7±4秒、トレーニング後は12±8秒で、平均変化率は208±180%であった。トレーニング後も不可能のままであった3名(不変群)の平均頸部正中位保持時間はトレーニング前が9±4秒、トレーニング後は18±10秒で、平均変化率は272±284%であった。トレーニング後可能となった4名(改善群)の平均頸部正中位保持時間はトレーニング前が6±3秒、トレーニング後は8±2秒で、平均変化率は160±65%であった。年齢・トレーニング前後それぞれの平均頸部正中位保持時間において、不変群と改善群との間で有意差はみられなかった。また全体・不変群・改善群それぞれの平均頸部正中位保持時間において、トレーニング前後の間で有意差はみられなかった。【考察】頚椎伸展位からの屈曲運動は、Fallaらによると頚椎深層屈筋群と胸鎖乳突筋の活動がみられており、頚椎深層屈筋群であり後頭骨と上位頚椎をつなぐ頭長筋や下位頚椎と上位胸椎をつなぐ頚長筋、頚椎表層の屈曲筋である胸鎖乳突筋が関連していると考えられる。今回行ったトレーニングはその中でも頚椎深層屈筋群をトレーニングする運動であった。このトレーニングで頚椎最大伸展位からの屈曲運動に改善がみられたことは、頚椎深層屈筋群の機能不全により頚椎屈曲運動が制限されていたと推察できる。しかし、このトレーニングで変化がみられなかった対象者もいた。頚椎伸展位からの屈曲運動には頚椎深層屈筋群のみでなく表層筋である胸鎖乳突筋や胸椎・肩甲帯アライメントも関係しており、これらの要素に問題があった可能性もある。今後は表層・深層の頚部筋力やアライメント評価を本テスト法に含めることで、より頚椎深層屈筋群の機能不全を評価できるテストとして活用できる可能性がある。また今回のトレーニングでは全体・不変群・改善群ともに平均頚部正中位保持時間に有意な増加はみられなかった。頚椎屈曲筋持久性トレーニングを同頻度・期間で行った我々の先行研究(2009)では、頚椎正中位保持時間に有意な増加がみられており、今回の頚椎深層屈筋トレーニングでは筋持久力改善効果はみられにくいと考えた。【理学療法学研究としての意義】我々の調べた限りでは頚椎伸展位からの屈曲運動へのトレーニング効果についての報告は無く、臨床上重要とされる頚椎深層屈筋群のトレーニングの頚椎運動への効果や、考案した本テストと頚椎深層屈筋機能との関連を探る上で有益と考えた。
著者
吉澤 悠喜 山下 和樹 岩井 信彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100880, 2013

【はじめに、目的】 自転車エルゴメーターは、ペダルの重さや回転数を変えることにより運動負荷量を調節できる。下肢の整形外科疾患において荷重制限の指示がなされている場合があり、体重計などで荷重値の測定は容易に行える。しかし、エルゴメーターにて下肢の運動を行う場合、足底にどの程度荷重されているか不明である。そこで今回、エルゴメーターの仕事量・回転数を変化させ足底にかかる荷重値を計測したところ、部分荷重期における患者の負荷設定を考慮する際の一助になる結果が得られた。若干の考察を加えてここに報告する。【方法】 対象者は健常男性10名で、年齢27.4±5.1歳、体重62.8±6.7kgである。自転車エルゴメーターはコードレスバイク65i(セノー株式会社製)を用いた。サドルは下死点のペダル上に足部を置き膝屈曲30°となる高さとした。足底にかかる荷重値の計測には両足部に靴式下肢荷重計(ANIMA社製、ゲートコーダMP-1000)を装着し、トークリップで足部を固定せず、ペダル上の足底位置は第2中足骨頭がペダルの中心に位置するように設置した。負荷設定は、仕事量を25w・75w・125w、回転数を20回転・50回転・80回転とし、各々を組み合わせた計9通りを実施、荷重値を計測した。なお、回転数の計測はメトロノームを設定し、その音に合わせて駆動させることにより調整した。ペダリング時間は各々30秒間とし、中間10秒間の荷重値を計測し、各対象者の利き足の荷重値を採用した。9通りのペダリング順は乱数表を用いてランダムに行い、各ペダリング間の休息は5分間とした。各々の負荷設定で計測された荷重値を記録するとともに、被験者毎の最大荷重値における体重比を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】 10名の被験者のうち体重比が最大であった症例の値のみ記載する。25w時、20回転で20.1%、50回転で26.1%、80回転で26.2%であった。75w時、20回転で35.4%、50回転で37.1%、80回転で51.1%であった。125w時、20回転で33.2%、50回転で56.1%、80回転で59.9%であった。 荷重値は、25w時、20回転で7.6±3.1kg、50回転で11.3±2.9kg、80回転で13.3±2.8kgであった。75w時、20回転で13.1±4.5kg、50回転で15.0±4.4kg、80回転で16.1±5.5kgであった。125w時、20回転で15.3±5.3kg、50回転で24.2±4.1kg、80回転で22.0±4.9kgであった。【考察】 エルゴメーターにおける仕事量は、ペダルの回転に対する接線方向に加わる力(回転トルク)と回転数によって求められる。よって、仕事量・回転数の変化に伴って回転トルクや足底にかかる荷重値も異なってくる。体重比において、上記結果のように体重比が1/3を超える設定は75w以上の時であり、中には1/2を越える者も存在していた。このことから、今回と同程度の体重であれば、部分体重負荷1/3荷重までと指示されている患者でも25w程度での設定ではエルゴメーターの使用ができる可能性が示唆される。また、体重比2/3を超える荷重値は存在しなかったことより、部分体重負荷2/3荷重以上が許可されている患者であれば125w程度の負荷設定でも使用できる可能性があることがわかった。ただし、これらはあくまで体重比であり、体重の違いによって比率が異なる。今回の被験者より体重が小さければ体重比は大きくなってしまうため、体重の考慮が必要である。またペダルから下肢の各部位へどのような力が加わっているのかということも考慮に入れる必要がある。本研究により健常男性がエルゴメーターを駆動した場合、どの程度足底に荷重されているかが明らかになったことで、整形外科疾患において早期からエルゴメーターを使用していくことへの一助になったと考える。 さらに今後は被検者数を増やし、また仕事量や回転数をより詳細に分割した設定で行うことで、その荷重値の傾向性を検証する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 自転車エルゴメーター駆動中の足底にかかる荷重値を知ることは、部分荷重期の患者にエルゴメーターを使用する際の負荷設定を考える上で、一つの指標になると考える。
著者
福原 隆志 坂本 雅昭 中澤 理恵 川越 誠 加藤 和夫(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101862, 2013

【はじめに、目的】足関節底背屈運動時には,腓骨の回旋運動が伴うとされている.しかしながら,回旋方向についての報告は一定の見解を得ていない.また,先行研究は屍体下肢を用いての報告がほとんどであり,生体を対象にした報告はほとんど行われていない.本研究の目的は,Bモード超音波画像を用い,足関節底背屈運動時の腓骨外果の回旋運動について検討するものである.【方法】対象は,足関節に既往のない健常成人男女5名(24.6±2.5歳)の足関節10肢とした.測定姿位は,長坐位にて膝30°屈曲位とした.超音波画像診断装置(LOGIQ e,GEヘルスケア,リニア型プローブ)を用い,腓骨外果最下端より3cm近位部にて足関節前外方よりプローブを当て,短軸像にて脛腓関節を観察した.被験者は自動運動にて足関節背屈及び底屈運動を行った.足関節最大背屈時及び足関節最大底屈時において,脛骨及び腓骨の運動方向を画像上にて確認した.また脛骨及び腓骨間の距離を画像上にて0.01cm単位で測定した.さらに脛骨及び腓骨の接線を描画し,両者の成す角を0.1°単位で測定した.なお,測定は1肢につき3回行い平均値を測定値とした.なお,測定はすべて同一検者1名で行った.統計学的解析方法として,足関節背屈時と底屈時に得られた測定値についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者全員に対し,研究の趣旨について十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】全ての被験者において,関節背屈時に腓骨の外旋が観察された.また,足関節底屈時には腓骨の内旋が確認された.脛骨及び脛骨間の距離は,底屈時では0.27±0.08cm,背屈時では0.36±0.13cmであり,底屈時と比べ背屈時では有意に距離は開大していた(p<0.01).脛骨及び腓骨の接線の成す角は,底屈時では4.8±5.8°,背屈時では10.0±6.42°であり,底屈時と比べ背屈時では有意に角度は増加していた(p<0.01).【考察】足関節の運動学は理学療法実施上,注目すべき重要なポイントであると考えられる.しかしながら足関節底背屈運動時における腓骨の運動方向について,これまで一定の見解を得ていなかった.今回の結果から足関節の自動運動時において,背屈時には腓骨は脛骨に対し外旋し,底屈時には内旋することが明らかとなった.今回の知見を活かすことで,足関節に対する理学療法実施の際,より適切なアプローチを実施することが可能となると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節底背屈運動に伴う脛腓関節の運動について明らかにし,適切な理学療法実施のための一助となる研究である.
著者
堀本 ゆかり 山田 洋一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1576, 2009

【目的】学力向上は理学療法実践能力の獲得のために必要不可欠な要因である.先の報告で、学生の認知領域を修飾する要因は勤勉性であり,学習にあたっては抑うつが伴うが,効率を高めるためには活力が必要であることがわかった.今回は,Goldbergのチェックリストより勤勉性を観測変数として構造方程式モデリングを用い,関係の深い性格的特性の抽出を目的に分析したので報告する.<BR>【方法】対象は本校在学生290名で,平均年齢は20.69歳(±2.78)である.今回は特にI期生75名のデータを中心に解析した.<BR> 知識・技能面の指標は定期試験総合得点とし,情意領域の指標はGoldbergのチェックリストを使用し,共分散構造分析を実施した.情動の指標は気分プロフィール検査(POMS),抑うつに関する指標はSDSを使用した.<BR> 対象には、研究の主旨・方法について事前に説明し、同意を得た上で調査を開始し,統計処理に関しては個人情報の扱いに十分留意した.<BR> 統計処理は日本科学技術研修所製 JUSE-StatWorks/V4.0 SEM因果分析編を使用し解析した.<BR>【結果】まず、POMSデータより各学年の項目の分布と、4年生の定期試験成績が上位・中位・下位に分類し同様に分布を確認したところ,抑うつが高く,活力が低い傾向を示した.成績分類下位群は抑うつが高く,特に活力が低い傾向がみられた.<BR> 次にI期生のデータより観測変数である勤勉性に対するチェックリスト7項目(プラス方向の形容詞を採用)を指標として因子構造を分析した.カイ二乗検定での検定推定値は17.29,P値は0.24である.作成されたパス図の適合度判定ではAGFI0.88,CFI0.97,RMSEA0.06と比較的良好な適合度が得られた.直接効果を示すパラメータ推定値は勤勉0.84,計画性のある0.69,徹底的0.62,責任感のある0.61は比較的大きな値を示したため,最終学年への進級群と非進級群で同様にパス図を作成した.結果,勤勉は両群とも最も高い関係性を示した.進級群に対して非進級群は責任感のあるでは高く計画性のあるでは低いパラメータ推定値を示した.特に徹底的では進級群0.68に対して非進級群0.09と低い値を示した.非進級群のSDSデータでは抑うつ状態は低い傾向であった.<BR>【考察】臨床能力向上にあたっては,問題解決能力は不可欠である.臨床実習を実りのあるものにするために学内で基礎学力を向上しておくことは大きな課題である.非進級群の勤勉性に関する性格的因子では,課題を遂行しなければならないという責任感はむしろ進級群より大きかったが,計画性や徹底性の因子では勤勉性に対する関係性が弱くなっている事がわかった.この項目が低い値の学生に関しては,細かな目標設定と都度進捗状況の管理が必要であると考える.正規のカリキュラムとは別に個別指導の重要性が示唆された.
著者
本田 俊介 立花 孝 西川 仁史 峯 貴文 長井 大治 船曳 久由美 小林 佐智 野村 星一 中村 真理
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1025, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】 肩関節は人体最大の可動域を持つ多軸性関節であり、その動きを3次元的に捉えることは難しい。そして結帯動作について、指椎間距離という指標はあるが、その実測値は不明瞭であり、結帯動作として記述した報告が少ない。そこで今回下垂位から最大結帯位に至るまでの連続的動作の実測値を導き出し、肩甲骨の動き及び上腕骨の内旋や伸展の関連度合いを理解する事を目的として、Motion Captureを用いた3次元的動作分析を行った。【対象と方法】 健常成人男性10名(平均年齢27歳,平均身長171cm)の右肩関節を対象とした。体表指標点として、体幹に4点(第7頚椎,第7胸椎,胸骨頚切痕,剣状突起)、肩甲骨に5点(烏口突起,肩鎖関節,肩峰角,棘三角,下角)、上腕骨に3点(三角筋粗面,内・外上顆)と内・外側茎状突起に2点の計14点の反射マーカを貼付した。撮影は立位にてまず下垂位を撮影し、以降結帯動作をとってもらい、被検者の母指先端が尾骨、第5腰椎、第12胸椎、第7胸椎の位置に達した所で撮影した。その際皮膚上のマーカと実際の骨上とはずれが生じているため、各々の撮影場面でマーカを定位置に張り直した。なお、体幹側屈の代償を抑えるために反対側も同様の動きを行ってもらった。使用システムはQualisys社製ProReflex ,MCU-500で7台のCCDカメラを使用。サンプリングレートは60Hzである。そしてQToolsを用いてデータ解析を行った。【結果】 まず肩甲骨の動きについて、前傾は下方回旋と比べて序盤動きが大きいものの、最終的には16.9°で、下方回旋とほぼ同じ数値を示した。上腕骨の動きについて、まず内旋は0°から41.4°と初期に大きな動きを行う特徴を示し、最終的に47°で、肩甲骨の動きに対して1対2.8という比率を示した。伸展は下垂位-3.1°から最終的に26.7°まで変化した。外転は、最後の第12胸椎から第7胸椎の相では変化が少ないという特徴を示した。【考察】 肩甲上腕関節の運動について、まず内旋に着目すると母指先端が尾骨から第7胸椎に到達するまでに6.6°しか内旋しておらず、下垂位から母指先端が尾骨に到達するまでにほぼ最大に近い内旋を行っている事がわかった。次に外転と伸展について、この2つの運動は、臼蓋に接触した小結節を徐々に前方から下縁に向かって移動させている事に貢献しているものと思われる。また、第12胸椎から第7胸椎の相で内旋と外転は殆ど変化が無い事から、肩甲上腕関節運動の限界が示唆され、第12胸椎以降は肩甲骨運動によって行われていると思われる。肩甲骨の前傾と下方回旋については、臼蓋の関節面を前下方へ向けるためのもので、小結節の移動を行いやすくさせると同時に、見かけ上の上腕骨の内旋及び伸展を補強していると考える。
著者
長屋 秀吾 成瀬 友貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2102, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】握力は、簡便で安全に計測可能な評価項目の一つである。多くの身体機能・能力との相関が報告されており、握力により種々の能力を予想することも可能である。対象者の握力を比較検討する際、文部科学省による年齢別握力平均を用いて比較検討することが可能である。しかし、発表されている握力は立位での平均値であり、座位や臥位での握力と比較検討することの妥当性は低い。この問題は同一の対象者での効果判定においても同様のことがいえる。先行研究では肢位別にすべての握力が相違するといった結果や、一部は相違するといった結果が報告されている。しかし、対象が高齢者のみに絞られている研究や実験対象者が著しく少ない研究などの課題が生じている。そこで今回の研究では健常成人の立位、座位、臥位における握力の違いを改めて明らかにし、また、各肢位間の関係を明らかにすることにより座位、臥位の握力を立位の握力へ補正し、より正確なデータでの比較検討を可能にすることを目的とした。補正は有意差の検定が可能である点、親しみやすい用語である点、分かりやすい数値である点からハンデ率を用いて行った。当研究でのハンデ率は、立位値を基準として肢位の違いをハンデとみなし、各肢位での値を立位値で除しその平均を求めたもの、と定義した。【方法】対象は健常成人50名(男27名、女23名)平均年齢27.78±6.67歳(男27.7±6.78歳、女27.87±6.4歳)である。立位、座位、臥位1(肩関節屈曲0度)、臥位2(肩関節軽度屈曲位で握力計とベッド上10cmの高さで計測)の4肢位にて計測した。計測は右左の順で2回ずつ行い最大値を採用した。1日の計測は1肢位のみとした。計測の順序は、被験者自身の選択により行なった。立位での計測は基本的に文部科学省新体力テストに準じた方法で実施した。座位での計測は背もたれ・肘掛を用いない端座位で股・膝関節は屈曲90度、足関節背屈0度にて行なった。臥位はほぼ立位と同様であるが、臥位1では握力計をベッドに押しつけないことを注意した。4肢位計測後、壁立位(壁に踵、体幹、頭部を接触させた状態で計測)を実施した。統計は各肢位間の有意差に関してはフリードマン検定(間隔尺度に対する統計法は通常反復測定一元配置分散分析を用いるが、今回は有意差の判定を行うには対象者が少ないことからフリードマン検定を用いた)、分散分析はシェッフェ法、立位値と臥位値の関係についてはピアソン関率相関を用いた。有意水準は5%とした。ハンデ率は小数点以下四捨五入とした。【説明と同意】参加者は、病院職員及び学生である。全参加者に対して、本研究の目的、方法を紙面と口頭にて説明し同意を得た。【結果】立位値と座位値の間には有意差は認められなかった。臥位1値と臥位2値の間にも優位差は認められなかった。一方、立位値、座位値と臥位1値、臥位2値の間には有意差が認められた(P<0.01)。再計測を行った壁立位値に関しては、立位値と座位値のそれぞれの間に有意差が認められた(P<0.05)。一方、壁立位値と臥位1値、臥位2値の間にはそれぞれに有意差が認められなかった。立位値と臥位1値との間には強い相関がみられ(r=0.89)、ハンデ率は臥位1値が立位値に対して93%だった(t>1.95)。【考察】立位値、座位値間と臥位1値、臥位2値、壁立位値間の有意差がなく、また、立位値、座位値と臥位1値、臥位2値、壁立位値間に有意差が認められた。それぞれの共通点、相違点は下肢、体幹、頭部の位置関係が考えられる。臥位1、臥位2、壁立位は各部位がベッド、壁に接しており、固定された状態となっている。一方、立位、座位は体幹と頭部が固定されている。つまり、矢状面では体幹と頚部の前屈による肘関節の屈曲により、上腕二頭筋の代償が作用したことや、体幹の前屈により同じ屈筋群としての手指屈筋群が働きやすくなったこと、前額面と水平面では体幹の側屈と回旋により末梢の筋を促通させたこと、などが立位値、座位値と臥位1値、臥位2値、壁立位値間の握力に優位な差を生じさせた理由ではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床において握力を計測し、時間的変化や他者平均値との比較を行う場合、同肢位での計測値が最も妥当性が高い。しかし、何らかの理由により同肢位での計測が困難な場合は、立位値と座位値間に関しては、それらを比較検討しても問題はないと考えられる。この結果は先行研究の健常高齢者に対する研究と類似しており、健常成人に対しても同じことがいえると考えられる。一方、立位値、座位値と臥位値間を比較検討することは妥当ではないと考えら、臥位値を立位値、座位値間と比較検討するには93%のハンデ率を考慮し補正する必要があると考えられる。
著者
堤 恵志郎 大重 匡 瀬戸口 佳史 大勝 祥祐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P1096, 2009

【目的】慢性呼吸不全患者は呼吸困難・息切れ時に呼吸の回復を目的として、上半身を前傾させ、上肢を肩から垂らすことなく、ものの上に置く肢位をとる.しかし、運動によって呼吸循環反応が亢進した後の回復過程を、座位姿勢で比較している報告は見当たらない.そこで今回、前傾座位姿勢によって生じる影響を明らかにすることを目的とし、健常者を対象に呼吸循環反応亢進後の回復過程を、自然座位と前傾座位とで比較し検討した.<BR><BR>【対象】対象者は健常若年男性12名(22.2±0.9歳、174.7±6cm、66.2±9.2kg)とした.各対象者には本研究の目的、方法を説明し同意を得た.なお、本研究は鹿児島大学研究倫理委員会にて承認を得ている.<BR><BR>【方法】まず対象者には、椅子座位にて5分間の安静座位を取らせる.この安静座位には、背もたれにもたれずに上肢を体側に垂らした座位(自然座位)、体幹を前傾させ両肘を各膝につけた座位(前傾座位)の2条件とした.その後、5分間のトレッドミル歩行を行わせ、それぞれ5分間の安静座位と同じ姿勢で回復過程を測定した.測定パラメータは、安静座位時、回復過程の0、3、6、9分時における心拍数、血圧、SPO<SUB>2</SUB>、RPEとした.統計学的処理は、安静時・回復過程0分値において、対応のあるt検定を用いて比較した.そして、2条件間における回復過程を比較するために2元配置分散分析を行い、交互作用の有無を検定した.その後の検定としてTukey法による多重比較を行った.<BR><BR>【結果】両条件間の安静時・回復過程0分では、いずれの値においても有意差は示されなかった.回復過程では、心拍数において両条件間に交互作用が認められ、回復過程3、6、9分時時点の値は、それぞれ自然座位と比較して前傾座位で有意に低値であった.しかし、SPO<SUB>2</SUB>、血圧、RPEでは、いずれも両条件間で有意差は示されなかった.<BR><BR>【考察】前傾座位で心拍数の回復が早かったのは、呼吸パターンが深くなり、酸素の取り込み量を高く維持し得る状況下にあったためと考える.これは、体幹を前傾させ上肢を支持することで、肩甲骨の固定がなされ、呼吸補助筋である肩甲帯挙上筋群の緊張が解かれたためと考える.また体幹を前傾することにより、腹壁の緊張を解き、横隔膜の降下を容易にすることで呼吸を整えることができたためとも考える.そして、静脈還流量は筋ポンプ作用に加えて胸腔内圧の陰圧による呼吸ポンプ作用によって維持されており、この深い呼吸パターンがこの呼吸ポンプ作用を増し、Frank-Starling機序によって1回心拍出量が増加したと推察される.つまり、前傾座位をとることで、深い呼吸パターンとなり1回心拍出量が増加し、心拍数の回復を早めるにもかかわらず、血管にかかる負担やRPEが自然座位と差がないということが示唆された.
著者
福添 伸吾 玉利 光太郎 河村 顕治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AdPF1005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】歩行中,身体は2つの機能的単位であるパッセンジャー(上半身と骨盤)とロコモーター(骨盤と下半身)に分けられ,ロコモーターの筋活動の有無や程度はパッセンジャーの姿勢で決定される(月城,2005)。しかしながら,歩行中のパッセンジャーの姿勢がロコモーターの筋活動に与える影響については良く分かっていない。先行研究(高橋,1998)より体幹を股関節において35°に屈曲させた歩行では,大殿筋,中殿筋,大腿二頭筋の筋活動が歩行周期を通しておよそ200%に増加したと報告がある。しかし,健常人がこのような姿勢で歩行することは稀であり,むしろいわゆる猫背と言われる上部体幹屈曲姿勢を呈す場合が多い。本研究では,パッセンジャーの姿勢がロコモーターの筋活動に与える影響について検討し,その際歩幅や歩行速度,股関節の運動が両者の関係に影響を与えるか明らかにすることを目的とし以下の研究を行った。【方法】対象は,整形外科学的・神経学的に問題のない健常男性15名(年齢22.1±1.2歳,身長:170.5±4.1cm,体重:63.5±8.1kg)とした。歩行条件は1)体幹装具を装着(上部体幹中間位)での歩行(以下,条件A),2)体幹装具を装着で上部体幹屈曲位での歩行(以下,条件B)の2条件とし,それぞれ5回ずつ実施した。なお歩行は快適速度とした。体幹装具は,ダイヤルロック式サブオルソレン装具を使用した。矢状面上の歩行動作をデジタルビデオカメラ(SONY,HDR-CX550),により撮影し,動画解析ソフトDartfish(株式会社ジースポート),を用いて踵接地時の股関節屈曲角度と上部体幹屈曲指標を計測した。なおこれらを同定するため,マーカーを対象者の右上前腸骨棘,右上後腸骨棘,右肩峰,右大腿骨外側顆,右大転子に貼付した。歩行中における大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,大腿直筋,内側広筋,外側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋(以下,BF)の筋活動を表面筋電計(Noraxon社製)を用いて測定した。最大等尺性収縮時の筋活動を100%として標準化し,踵接地から0.1秒間の積分値を求めた。統計は条件間の筋活動の違いを対応のあるt検定, B条件での筋活動上昇を説明する変数を同定する目的で重回帰分析をそれぞれ実施した(alpha=0.05)。【説明と同意】対象者には事前に本研究の目的を十分説明し,EMGを用いた運動機能測定に関する十分な理解と協力の意思を確認し,同意書を得た上で実施した。【結果】条件Aに対して,条件Bで筋活動が上昇した筋群は,BF(p=0.004)であった。また,重回帰分析によりBFの筋活動上昇を説明する変数として,歩幅(B=3.069,p=0.044)と股関節屈曲角度(B=-0.400,p=0.082)が抽出された。【考察】条件Aに対して条件Bでは,BFのみ有意に筋活動の増大を認めた。条件Bでは条件Aよりも重心線が通常よりも前方に移動するため,外的股関節屈曲・膝関節伸展モーメントが増大した結果,拮抗する大腿後面の筋群を中心に筋活動量が増大したと考えられる。殿筋群は,単関節筋であり主に関節の安定化に寄与すると言われているが,上部体幹屈曲位での歩行においては,脊柱起立筋とハムストリングスを結ぶ筋・筋膜を介して(Myers,2001)股関節でなく膝関節にストレスが大きくかかった可能性がある。 BFの筋活動上昇を説明する変数として,股関節屈曲角度の減少が抽出された。これは骨盤後傾角度の増大に伴うBFの筋活動の増加を意味している。この理由については推測の域を出ないが,上部体幹屈曲による腰椎の代償的伸展がより困難な者は,踵接地時の外的体幹屈曲モーメントが高まった結果BFの活動が亢進した可能性がある。また,骨盤後傾角度の増加に伴って股関節は自動的に外旋し,膝関節は屈曲・内反する(佐保,1996)と言われており,その反応的活動としての膝関節外反保持のため,BFが活動を高めた可能性も否定できない(福井,1997)。これらの結果から,上部体幹屈曲はBFの筋活動を亢進させ,BFの活動は股関節屈曲角度の増減に関連することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】若年健常者男性において腰椎疾患有病率は非常に高く,臨床現場ではハムストリングスの短縮やタイトネスが散見される。こういった病態の一因として上部体幹の屈曲姿勢,いわゆる猫背が関与している可能性は以前より指摘されていたものの,それを実証したものは無かった。本研究はその根拠を呈示できたのではないかと考える。踵接地時のBFの活動に股関節屈曲が関与している要因として前額面上の運動機能連鎖の作用も考えられ,今後の検討課題である。
著者
木村 淳志 西村 勇輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0062, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩には医学的な定義は明確ではないが,なで肩といかり肩の肩型がある。通常,見た目で判断されるこの分類は,安静時での胸郭に対する肩甲骨の位置や回旋角度の違いによるものであり,肩甲骨運動を不規則にする一因であると考える。本研究の目的は,なで肩,いかり肩が肩甲上腕リズムに与える影響を調査することである。【方法】対象は肩に愁訴のない成人男性で,事前の調査で分類した普通肩9名,なで肩9名,いかり肩8名の26名(26肩),平均年齢は27.3±4.0歳とした。この分類は,鎖骨遠位端から頚部への線と水平線がなす角度を頸肩傾斜角として,なで肩24°以上,普通肩24未満19°以上,いかり肩19°未満とした判断基準(第50回日本理学療法学術集会)を使用し,普通肩22.7±1.5°,なで肩27.9±2.4°,いかり肩17.9±1.7°で3群に有意な差を認めた。本研究の計測は,磁気センサー式3次元空間計測装置(Polhemus社製)を用いた。運動課題は上肢肩甲面挙上で,下垂位から最大挙上までを練習後,運動を1回行い,上肢挙上0~120°に伴う肩甲骨上方回旋角,後方傾斜角,外旋角および肩甲上腕関節挙上角を10°毎に算出した。この上肢挙上0~120°の算出値と30~120°の10°毎の肩甲上腕リズム(=肩甲上腕関節挙上角/肩甲骨上方回旋角)を普通肩,なで肩,いかり肩の3群で比較した。統計処理は多重比較検定(Bonferroni法)を用い,危険率5%未満を有意差ありと判断した。【結果】上肢挙上0~120°の肩甲骨上方回旋角は,普通肩(0.7~41.3°)と比較してなで肩(-2.6~36.0)は低値,いかり肩(4.7~42.6°)は高値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は10~50°でなで肩が有意に低値を示したが,普通肩といかり肩の比較は全角度で有意な差を認めなかった。なで肩といかり肩の比較では,0~100°でなで肩が有意に低値を示した。肩甲上腕関節挙上角は,上肢挙上0°は普通肩(6.6°)と比較してなで肩(4.8°)が低値,いかり肩(8.3°)が高値であり,上方回旋角と同様であった。上肢挙上10~120°では逆となり,普通肩(9.7~75.7°)と比較してなで肩(12.2~79.1°)が高値,いかり肩(7.8~75.3°)が低値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は上肢挙上40~60°でなで肩が有意に高値,なで肩といかり肩では上肢挙上10~90°でなで肩が有意に高値であった。上肢挙上30~120°の肩甲上腕リズムは普通肩1.8,なで肩2.7,いかり肩1.6(全例2.0)であり,なで肩は普通肩,いかり肩と比較して有意に高値を示した。【結論】Inmanは外転30°,屈曲60°まではsetting phaseで肩甲骨の動きは一律ではないと述べている。本研究の結果より,なで肩といかり肩の上肢肩甲面挙上での肩甲骨上方回旋,肩甲上腕リズムに差があるわかり,なで肩やいかり肩の分類も挙上初期の肩甲骨運動を不規則にする要因の一つであることが示唆された。
著者
森本 浩之 水谷 陽子 浅井 友詞 島田 隆明 水谷 武彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0110, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】人間のバランスは視覚、前庭覚、体性感覚の情報を入力し、中枢で処理した後、運動神経を介して出力している。その中でも視覚情報は重要な役割を果たしており、全感覚の約60%を占める。動作の中で頭部や眼球が動き、網膜の中心の像が2~4°ずれると見えにくくなる。そのため、vestibuloocular reflex:VORとcervicoocular reflex:CORの働きで、視覚情報を補正している。また眼球追視(smooth pursuit:SP)も複雑な脳での処理システムにより調節している。今回、立位バランスにおける頭部・眼球運動に着目し、重心動揺計を用いて視覚情報の刺激(SP)や、VOR・CORの影響について検討したので報告する。【方法】対象は、同意を得た20歳~34歳(平均:23.4歳)の健常な男女10人。重心の測定は、Neurocom社製BALANCE MASTERにより立位時の重心を評価した。被検者はバランスマスター上に立ち、眼から70cm前方に視標追視装置を設置し固視点を映し出した。負荷方法は1)固視2)追視運動(SP)3)固視したままの頚部の左右回旋(VOR・COR)の3条件にて行った。さらにバランスマスター上にFORMを置き、同様の3条件の計測を行い、各条件間の総軌跡長を比較した。また、計測環境は、その他の外乱刺激が入らないよう暗室で行い、頚部回旋はメトロノームを用いて1秒間に1動作の設定とし、頚部の回旋範囲は60°に設定した。各設定時間は10秒間とした。【結果】FORMなしの立位時での重心の総軌跡長は、5.85±2.06cm、追視運動時の重心の総軌跡長は、5.38±2.67cm、頚部回旋時の重心の総軌跡長は、5.42±2.01cmであった。また各条件間に有意差はなかった。FORMありの立位時での重心の総軌跡長は、18.10±3.08cm、追視運動時の重心の総軌跡長は、17.77±4.81cm、頚部回旋時の重心の総軌跡長は、15.18±3.44cmであった。SP群とVOR・COR群のみ有意差が認められた。また、FORMの有無での各条件間に有意差を認めた。【考察】FORMの使用で体制感覚入力の抑制を行った事により、体制感覚が立位バランスに大きな影響を与えていることが示唆された。また、体制感覚の抑制で、立位保持とVOR・COR群に有意差がなかったことから、視覚情報と前庭器官のみでも立位バランスを保持することが可能であると考えられる。しかし、VOR・COR群と SP群に有意差があったことから、視覚情報の混乱と体性感覚の抑制により動揺が大きくなったと考えられる。これは、日常生活において、突然の視覚情報の変化、例えば振り向き動作時の風景の変化に視覚情報が対応しきれずにバランスを崩す可能性があると考えられる。
著者
近藤 正太 井手 裕一朗 井関 康武
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O3068, 2010

【目的】肩の有痛性運動機能障害、特に腱板損傷症例においては関節窩に対し上腕骨頭が腹頭側偏位することは臨床場面で多く経験すると共に文献的にも示されている. このアライメント異常がアウトレットインピンジメントを発生させ運動時痛を伴う機能障害の誘発要因であると考える. 従来、腱板損傷に対するトレーニングはセラバンド等を用いて負荷をかけた回旋運動、アウターマッスルの過活動を誘発するような運動等、上腕骨頭の中心化を考慮しないトレーニングが一般的と思われる. そこで今回、この骨頭の腹頭側偏位を修正し関節窩に対し骨頭の中心化を促すトレーニングが、肩外転時における外転筋の筋発揮能力に改善が見られるか検討したので報告する.【方法】腱板損傷と診断され、視診、触診にて骨頭の腹頭側変位を認めた15例18肩. 男性7例、女性8例、平均年齢62.8歳(31~79歳)を対象とし、上腕骨頭の中心化を促すための治療(中心化トレーニング)を施行し、その前後における外転筋力を測定した. さらに15例18肩の中から、一般的に行われている腱板損傷に対するトレーニング(腱板トレーニング)が施行可能であった13例16肩に対し、腱板トレーニング前後での外転筋力を同様に測定した. トレーニングとして、1.骨頭の中心化トレーニング:まず関節窩に対して骨頭の中心化を促すため、背臥位において骨頭の背側へのモビリゼーションを、Grade2(軟部組織の伸張による制限を感じるところまで)までを用い、中心化が得られるまで断続的に2分~3分間施行した. その後椅子座位で、肩約30°~45°外転位にし上腕骨を肩甲骨面上に保持し、肘をベッドに置き軽度外旋位から骨頭を背側誘導しながら肩甲下筋による内旋運動を、各症例の疲労を考慮し30回~50回行わせた. 2.腱板トレーニング:肩を下垂位、肘90°屈曲位にした椅子座位で肩の内旋、外旋運動をセラバンドにより、筋疲労を起こさない程度の抵抗量でそれぞれ30回、手を顎に当てた状態で90°までの肩屈曲運動をセラバンドで抵抗を加え同様に30回施行した. 外転筋力測定:端坐位にて肩甲骨面上で肩90°外転、手掌を床に向けた肢位を保持させ、最大での等尺性肩外転筋力をhand-held dynamometer(マイクロFETII)を用い前腕遠位に抵抗を加え、中心化トレーニングと腱板トレーニングの施行前後でそれぞれ2回測定し、最大筋力を測定値(単位;ニュートン)として比較した. なお中心化トレーニングと腱板トレーニングは日を変えて行った. 統計学的検討は対応あるt検定を用い、危険率1%未満を有意差ありとした. 【説明と同意】被検者に研究の内容を説明し同意を得た.【結果】腱板損傷15例18肩の平均最大外転筋力は28.41N±8.51であったが、上腕骨頭の中心化トレーニング後では34.57N±10.09と筋力の増加を示し、有意な差を認めた(p<0.005). また平均増加率は24.1%でありトレーニング後、筋力低下を示したのは18肩中1肩だけであった. その中から中心化トレーニングと腱板トレーニング共に施行可能であった13例16肩の中心化トレーニング前後の筋力は、それぞれ29.28N±8.49、35.01N±10.66となり有意な差を認め(p<0.001)、平均増加率は20.8%であったが、腱板トレーニング前後では、トレーニング前30.58N±14.5、トレーニング後は31.93N±15.4であり統計学的有意差を認めず(p<0.12)、平均増加率も5.07%にとどまり、しかも、逆にトレーニング後筋力低下を示したものは16肩中4肩に認められた.【考察】今回、上腕骨頭の中心化トレーニングにより、最大外転筋力が平均28.41Nから34.57Nに向上し、平均24.1%の増加率を示した. また腱板トレーニングも施行可能であった13症例16肩に限定しても中心化トレーニング後は筋発揮能力の改善を見た. つまり、効率的外転運動を行うためには上腕骨頭の回旋軸は外転運動の全般にわたり、関節窩の中心に位置するよう比較的一定していなければならないことを示すものであり、健常人の肩運動時におけるバイオメカニクスの研究と一致する. これを裏付けるものとして、今回骨頭の中心化を考慮しない肩の回旋筋強化を主とした腱板トレーニング前後において、最大外転筋力にあまり変化なく効果は認めなかった. しかも4肩で逆に筋力低下を示した事は、この腱板トレーニングが大胸筋や三角筋後部繊維、小円筋、棘下筋の筋スパズムを複合的に強化し骨頭の腹頭側偏位を助長したためと考えられ、このことからも腱板損傷症例に対する骨頭の中心化は重要であり、トレーニングの有用性を示すものと考える.【理学療法学研究としての意義】腱板損傷に対する理学療法を骨頭の位置異常と言う視点からも捉える事で、より高いレベルでの治療効果の可能性が期待出来る.

1 0 0 0 OA 腰痛とBMI

著者
岡村 秀人 小鳥川 彰浩 林 伸幸 大西 雅之 岩越 優 四戸 隆基 佐藤 正夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1002, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】腰痛は、その発生により、時には日常生活に支障を来たし、更には仕事面においても長期欠勤等を引き起こす症状である。その原因は多岐にわたり、骨関節・軟部組織や心因性等様々である。医療従事者が患者教育の面で、肥満は腰痛の原因となり体重増加は症状を悪化させるとの説明をする機会も少なくない。直感的な認識として、肥満が一般的な腰痛疾患の重要な原因ではないかと考えられているが、今回、アンケート調査を基にどの程度関連性があるか検討してみた。【対象】岐阜県厚生連に所属する職員で、書面にて研究の趣旨を説明し、同意を得た1,168名(男性279名、女性889名、職種別内訳は医師81名、看護部665名、コメディカル部門157名、事務・その他265名、勤続年数11.4年±9.94年)とした。(有効回答率81.8%)【方法】アンケート調査にて、職種、勤続年数、年代、性別、身長、体重、腰痛の有無の各項目を記載し、腰痛有り(有訴)の人はRolland-Morris Disability Scaleに記入とした。肥満度の判定はBody Mass Index(以下BMI)を用い、18.5未満をやせ、18.5~25.0未満を標準、25.0以上を肥満とした。【結果】職員全体の腰痛有訴率は58.0%であった。性差でみると、男性48.0%、女性61.1%であった。職種別では医師48.1%、看護部65.9%、コメディカル部門43.9%、事務部門・その他は49.1%であった。年齢別にみると、10歳代は0.0%、20歳代56.1%、30歳代は52.7%、40歳代は65.2%、50歳代は58.7%、60歳代は60.9%であった。経験年代別では10年未満が55.6%、10年以上20年未満が56.6%、20年以上30年未満が64.0%、30年以上が65.5%であった。肥満度別の全体の割合は、やせが13.8%、標準が75.1%、肥満が11.1%であった。肥満度における有訴の割合は、やせが53.5%、標準が57.0%、肥満が66.4%であった。【結語】肥満が腰痛患者によくみられる併存所見であるという説得力のあるエビデンスは確かに存在する。しかし、体重増加が腰痛治療アウトカムの強力な予測因子であることは証明されていない。肥満と腰痛に関する多数の研究が行われており、横断的研究と縦断的研究の両面から検討がなされている。総合的にみてエビデンスは相反している。つまり、肥満と腰痛との明らかな因果関係は実証されていない。腰痛に関しては、発生原因が多様であり、肥満という危険因子のみを除外しても解決はされない。今回の結果では傾向は見られるものの、今後さらなる検討が必要である。
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 布谷 美樹 近藤 克征 加古原 彩 鈴木 俊明 森原 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A1290, 2008

【はじめに】<BR>肩関節疾患症例において肩甲上腕リズムが破綻している症例を頻繁に経験する。Ludewigらは僧帽筋上部線維の過剰収縮が肩甲骨の異常な運動を引き起こすとしており、理学療法では僧帽筋上部線維の過剰収縮を抑制することが重要である。一方、我々は上肢挙上に伴う肩甲骨の安定化と上方回旋機能の役割として僧帽筋下部線維が重要であることを報告してきた。よって上肢挙上時の僧帽筋各線維の協調した肩甲骨の上方回旋機能を改善させていくには過剰収縮している僧帽筋上部線維の抑制と僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促す方法を考慮していく必要性がある。 <BR>そこで、我々は肩甲胸郭関節の安定化に対するアプローチとして運動肢位に着目している。今回、側臥位という運動肢位で肩関節外転保持を行った時の僧帽筋各線維の筋活動を筋電図学的に分析し、肩甲胸郭関節の安定化に対する理学療法アプローチを検討したので報告する。<BR>【対象と方法】<BR>対象は健常男性5名両側10肢(平均年齢29.0±4.2歳、平均身長177±9.3cm、平均体重68.8±7.2kg)である。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は僧帽筋上部線維、中部線維、下部線維とし、筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。電極貼付位置は、Richard(2003、2004)、下野らの方法を参考にした。具体的な運動課題は側臥位において肩関節を30°、60°、90°、120°、150°外転位を5秒間保持させ、それを3回施行した。3回の平均値を個人データとした。分析方法は座位での上肢下垂位の筋電図積分値を求め、これを基準に各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。統計処理には角度間での分散分析(tukey多重比較)を行った。<BR>【結果と考察】<BR>外転角度の増大に伴い僧帽筋上部、中部線維の相対値は漸減傾向を、下部線維の相対値は漸増傾向を示した。上部、中部線維は30°と比較して120°以降有意に減少し、下部線維は30°~90°と比較して150°で有意に増加した。側臥位での肩関節外転保持は90°を境に抗重力下から従重力下へと変化する。このことから90°以降では上肢自重に伴い肩甲骨には挙上方向に対する制動が必要になると考えられる。90°以降では肩甲骨は上方回旋位を呈していることから、鎖骨、肩峰、肩甲棘上縁に停止する上部、中部線維の筋活動は減少し、拮抗作用を有する下部線維が肩甲骨の制動に関与したのではないかと考える。 <BR>臨床上、上肢挙上角度の増大に伴う、僧帽筋上部線維の過剰収縮と僧帽筋下部線維の収縮不全によって肩甲骨の上方回旋不良が生じている症例に対し側臥位での外転120°以降では僧帽筋上部線維の抑制が、外転150°保持では僧帽筋上部線維の抑制及び僧帽筋下部線維の筋活動促通が可能であることが示唆された。<BR><BR><BR>