著者
金村 尚彦 今北 英高 白濱 勲二 森山 英樹 坂 ゆかり 新小田 幸一 木藤 伸宏 吉村 理
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A0521, 2005

【目的】 <BR>我々が行った先行研究では,荷重除去を行った後に,長期に重力下でラットを自由飼育しても,一度変性した機械受容器は正常な受容器までに回復しないのではないかという結果を得た.本研究では,受容器の変性を防止することはできるのかという観点から,荷重運動による影響を比較検討した.<BR><BR>【方法】 <BR>10週齢のWistar系雄性ラット30匹を実験に供した. 4週間懸垂中のラットに対し,時間は1日に1時間,頻度は週5日懸垂を除去し,ケージ内で自由飼育した群を運動群(EXC4W群),その対照群は自由飼育群,4週間飼育した群(CON4W群),4週間懸垂のみを行った群(SUS4W群)を各々10匹とした.懸垂の方法はMoreyの変法で行った.<BR> 飼育期間が終了した後,ラットにペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与し,脱血により安楽死させた.靱帯はZimnyらのGairns塩化金染色変法に従って染色を行った.組織標本は光学顕微鏡にて観察し,機械受容器の種類とその数について検討した.<BR>受容器の総数(靭帯体積比)については,一元配置分散分析,多重比較はFisher's PLSD法,定型受容器と非定型受容器の割合については,χ<SUP>2</SUP>検定および多重比較Ryan法を用いた.有意水準は5%以下とした. <BR> この研究は,広島大学医学部附属動物実験施設倫理委員会の承認のもとに行った.<BR><BR>【結果】 <BR>すべての群において,パチニ小体,ルフィニ終末,ゴルジ様受容器,自由神経終末の4タイプの神経終末を認めた.SUS4W群,EXC4W群では,定型受容器 以外に非定型受容器(パチニ小体,ルフィニ終末)を観察した.総数については,CON4W群に比べSUS4W群,EXC4W群に比べSUS4W群(p<0.01)が有意に減少していた.CON4W群とEXC4W群においては有意な差を認めなかった.定型受容器では, CON4W群よりSUS4W群,EXC4W群よりSUS4W群(p<0.01)において有意に減少していた.非定型受容器では, CON4W群よりSUS4W群,EXC4W群よりSUS4W群,CON4W群よりEXC4W群(p<0.01)が有意に増加していた.<BR><BR>【考察】 <BR>長期の荷重除去において機械受容器は,形態学において正常な個数までは回復せず,回復しても変性した受容器の増加を認めたが,荷重運動を行うことにより,受容器の数の減少を防止し非定型受容器の増加を抑制することが可能であるのではないかと考えられた.しかし運動群においても,非定型受容器が観察されていることから,受容器の変性を防止するには靭帯へのより適切な力学的刺激が必要であると考えられる.廃用性筋萎縮の改善だけではなく,機械受容器の変性の防止を考慮した神経・筋協調システムを考慮した運動療法の必要性が実感される.
著者
松尾 奈々 村田 伸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1103, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】利き手についての研究は散見されるが、利き足についての研究は少ない。今回、左右どちらの足を多く使用するかの調査を行い、下肢周径と下肢筋力、片足立ち保持時間を測定し、その関係を検討する。さらに簡易な利き足決定法について検討することを目的とする。【方法】健常成人25名(男性6名、女性19名、平均年齢21.2±3.16歳)を対象とし、利き手、利き足の自己認識について、また、上下肢ともに左右どちらを多く使用するか(下肢:蹴り足と踏切り足)のアンケートを「右」「左」「どちらともいえない」で回答してもらった。次に、利き手、利き足との相関を検討するため、上肢周径は伸展位上腕骨内側上顆10cm上、下肢周径は背臥位膝関節90°屈曲位で膝関節外側裂隙10cm上を計測した。握力測定はデジタル握力計(日本国竹井機器工業製)にて立位体側下垂位で実施し、大腿四頭筋筋力測定はハンドヘルドダイナモメーター(POWER TRACKII COMMANDER)にて端坐位膝関節90°屈曲位の等尺性最大筋力を測定した。閉眼での片足立ち保持時間は両上肢体側下垂位にて測定した。統計処理は、利き手と非利き手、利き足と非利き足の比較については対応のあるt-検定、測定項目間の関係についてはピアソンの相関係数を用いて比較検討した。【結果】1.アンケート結果:23名(92%)が利き手を右と答えた。また、利き手を右以外と答えた2名はボールを投げる手が左手だった。下肢について17名(68%)が利き足を右と答えた。また、22名(88%)が蹴り足を右と答えた。蹴り足と踏切り足が同側の者は10名、対側の者は9名いた。 2.計測結果:利き手と非利き手について測定値を比較すると、上肢周径、握力ともに有意差が認められた。下肢では、蹴り足と非蹴り足、踏切り足と非踏切り足との比較において、すべての項目に有意差は認められなかった。【考察】今回、下肢周径、大腿四頭筋筋力、閉眼での片足立ち保持時間の計測から、簡易に利き足を決定することができるか否かの検討を行ったが、測定した全ての測定値に有意差は認められなかった。アンケートにより、蹴り足を利き足と認識している人が多かった。踏切り足、蹴り足はそれぞれ、支持足、機能足と表現され、機能的に多く使用される機能足を利き足とされている。これらは対側の下肢であることが多いとされているが、今回の結果では同側の下肢を支持足、機能足として使用している対象者も認められた。以上の結果から、上肢については利き手と認識している方が能力的、形態的にも優れていることが明らかにされたが、下肢については明確にされなかった。これは、下肢機能に左右差がないことで、歩行を中心とした下肢の体重支持機能を効果的にしている結果かもしれない。
著者
内田 大 岡本 龍児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1272, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ウォーミングアップの具体的な効果として血流量や皮膚温の増加,神経伝導速度や心理的な興奮水準の上昇,怪我の防止とさまざまな効果があると報告されている。しかし,実際にウォーミングアップを行うことで神経伝導速度の変化について明らかになっていない。よって今回,ウォーミングアップを行うことで,ウォーミングアップにおける神経伝導速度の変化を研究し,実際にどの程度ウォーミングアップを行えばよいか,運動時間を把握することを目的とした。【方法】対象者は健常大学生男性:10名(年齢:20.5±1.0歳,身長:173±4.4cm,体重:62.2±7.2kg,BMI:20.76±2.5kg/m²)とした。事前に研究の趣旨と内容を説明し,同意を得て測定した。神経伝導速度の変化は誘発電位・筋電図検査装置(MEB-2208日本光電)を用い,記録電極を小指球(小指外転筋)の中間部と小指基節骨基部に表面電極を装着し,アースは手背面に装着した。尺骨神経の遠位側刺激部位(T1)として手関節近位部,また,近位刺激部位(T2)として上腕内側上顆付近と設定した。刺激強度はM波の振幅が増大しなくなる最大刺激より更に15~20%程度強い刺激である,最大上刺激を用いた。ウォーミングアップではトレッドミル(WOODWAY社製)を使用し,ウォーミングアップを行った。走行では,トレッドミルの歩行速度及び負荷量はポラールスポーツ心拍計(polar社製S810i)を用い,心拍数が110~120回/分となるよう設定し30分間行った。運動前~運動終了後5分後までを測定した。走行5分ごとに尺骨神経の神経伝導速度の測定を行い,迅速な測定が必要となるため,アースや電極は装着しながら行った。なお,室温は26℃と設定した。統計処理は統計ソフトJSTATを用い,神経伝導速度において一元配置分散分析反復測定法を使用した後,多重比較検定(Bonferroni法)を使用した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】計測に先立ち,全対象者に文章及び口頭にて研究の趣旨を説得し,同意書へ署名をもって同意を得た。なお,本研究計画は国際医療福祉大学の倫理審査会の承認(番号13-30)を得ている。【結果】神経伝導速度では,運動前55.7±4.3(m/s),運動5分後57.0±4.4(m/s),運動10分後57.0±4.8(m/s),運動15分後57.6±5.4(m/s),運動20分後56.6±5.4(m/s),運動25分後56.0±5.2(m/s),運動30分後55.0±4.9(m/s),5分休息後56.2±4.6(m/s)であった。神経伝導速度は,運動15分後までは上昇し,その後,運動30分後まで減少し,走行後に5分間休息を挟むと再び上昇した。運動15分後で神経伝導速度は最高となり,運動30分後で最低となった。一元配置分散分析の結果,走行期間に主効果がみられた(p<0.05)。また,多重比較の結果,運動15分後は運動前に比べ有意に上昇し,運動30分後は運動5,10,15分後に比べ有意に低下した。【考察】今回,神経伝導速度は運動15分後まで上昇し,運動20~30分後まで減少し,休息を挟むと再び上昇した。運動15分後が運動前に比べ有意に上昇した原因として,走行による体温上昇が神経伝導速度の上昇に関与していると考える。小村¹)らはトレッドミルでの走行より皮膚温の上昇を報告している。また,湯浅²)らは,皮膚温度は神経伝導速度へ最も影響を与える因子であると報告している。運動30分後が運動5・10・15分後に比べ有意に低下した原因として,走行による疲労が関与している可能性があると考える。運動30分後に5分休息を挟むことで再び伝導速度が上昇したことからも疲労の影響が考えられる。青木³)によると運動が長時間にわたるとシナプスや運動終板における刺激の伝達物質であるアセチルコリンの分泌は低下し,神経衝撃は筋に伝達されにくくなると報告している。走行というウォーミングアップでは,神経伝導速度を上昇させるには心拍数110~120回/分程度の運動強度で15分程度の走行が適切であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】心拍数110~120回/分程度の運動強度で15分程度の走行がウォーミングアップに適していると考えられ,ウォーミングアップを行う際の指標になると考える。
著者
山下 陽輔 田野 聡 高岡 克宜 田岡 祐二 鶯 春夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】平成22年度の国民生活基礎調査によると,高齢者が要支援,要介護に至る要因の第4位は転倒による骨折で約1割を占めるという結果が出ている。加齢による敏捷性の低下が転倒の原因の一つとして考えられるが,敏捷性はトレーニングによって向上が見込めることが報告されている。SAQトレーニングはその代表的なトレーニングであり,速さをSpeed,Agility,Quicknessという構成要素に分けて考案された。その中でも敏捷性の向上を狙って最も多く活用されるのがラダートレーニング(以下,ラダー)である。ラダーは梯子状の器具を地面に敷き,1つの升を1歩ずつ順次進んでいくステップから,サイドステップやバックステップを取り入れたり,身体の捻りを加えたりするものなどパフォーマンスの必要性に応じて様々なバリエーションが活用されている。そこで今回は,ラダーを用いた高齢者の転倒予防プログラムを立案するために,健常成人を対象にステップ難易度を検討することを目的とした。【対象及び方法】対象は,下肢に器質的疾患のない健常成人男性17名(平均身長:171.6±5.3cm,平均体重:66.5±6.7kg,平均BMI:22.6±1.6kg/m<sup>2</sup>,平均年齢:31.2±5.9歳)とした。ステップ課題は日本SAQ協会編SAQトレーニングよりベーシックステップからジャンプ系ステップを除く10種目,ステップ1(クイックラン),ステップ2(ラテラルクイックラン),ステップ3(サイドラテラルラン),ステップ4(カリオカ),ステップ5(パラレル),ステップ6(シャッフル),ステップ7(1イン2アウト),ステップ8(サイド1イン2アウト),ステップ9(サイド2イン1アウト),ステップ10(バック1イン2アウト)を選択して実施した。ラダーはIGNIOトレーニングラダー(8m)を使用し,各ステップ課題を正しく遂行できるまで繰り返させた。そして,ステップエラーがなく,課題と同じように正しく遂行できたときの回数をステップクリア回数とし,ステップクリアできた際には,次のステップに進ませた。なお,実施前には映像を見せてステップを確認させた他,2回連続でエラーした場合には再度,映像を確認させた。そして,統計学的解析は各ステップ課題のステップクリア回数(中央値)をKruskal-Wallis検定を用いて検討し,有意差が認められた場合には多重比較検定を行った。なお,全ての有意水準は5%未満とした。【結果】各ステップ課題のステップクリア回数を比較した場合,ステップ1~3に対してステップ4~10で有意に高値を示した。また,ステップ4に対してステップ7,9が,ステップ10に対してステップ7,9が有意に高値を示した。各ステップ課題の中央値は,ステップ1~3は1回目,ステップ4は3(1-11)回目,ステップ5は4(1-9)回目,ステップ6は3(1-17)回目,ステップ7は7(2-11)回目,ステップ8は3(1-20)回目,ステップ9は5(1-20)回目,ステップ10は3(1-11)回目であった。【考察】ベーシックステップの中でも,特にステップ7のように身体を捻る動作や,ステップ9のように横方向への複雑なステップ課題でのステップクリア回数は多くなった。健常成人でも普段は身体を捻ったり,サイドステップを行う機会は少なく日常の活動では行わないことが原因であると考えた。また,複雑なステップであっても,ステップ7とステップ10のように前後の姿勢が異なるだけの同じステップでは,一度,ステップを経験したことが,その後のステップクリア回数に影響を及ぼしている可能性がある。これらのことから,初めは前向きでステップを正確に行い,正しい動きが身体にインプットされたらスピードを上げて敏捷性を向上させ,さらには横向きや身体を捻るステップを取り入れることがラダーの難易度を考慮したプログラムとなると考える。今後は女性や高齢者を対象に実施し,高齢者の転倒予防プログラムとして有用なラダートレーニングを検討したい。【理学療法学研究としての意義】SAQトレーニングは競技スポーツだけでなく,健康づくりにおいても大きな効果が期待され導入が進んでいる。今後,地域包括ケアシステムが推進され,介護予防事業の拡充が考えられるなかで,集団で敏捷性を向上させる転倒予防プログラムの構築は,理学療法学の研究としての意義があると考える。
著者
建内 宏重 谷口 匡史 森 奈津子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF2020, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 腹臥位での股関節伸展運動は、股関節伸展筋のトレーニングとして一般的に用いられている。しかし、股関節伸展運動には、骨盤・脊柱の前傾・伸展や回旋、および脊柱伸展筋群の過剰な筋活動を伴うことが多い。このような代償的な運動や筋活動は、腰痛のリスクにもなり得ると考えられる。したがって、股関節伸展運動時の運動パターンおよびそれに影響を与える要因について分析することは重要である。我々は、股関節伸展運動時の骨盤運動や体幹筋群の筋活動に影響を及ぼす要因として、股関節周囲筋の筋活動バランスを仮定した。すなわち、伸展運動時の同時活動(屈曲筋群の活動)や股関節伸展筋群内での筋活動優位性が運動パターンに影響を及ぼす可能性があると考えた。本研究の目的は、股関節伸展運動における股周囲筋群の筋活動バランスと運動時の体幹筋筋活動や骨盤傾斜との関連性を明らかにすることである。【方法】 対象は、整形外科的および神経学的疾患を有さない健常若年成人16名とした(男性9名,女性7名;年齢,24.3 ± 5.2歳)。測定課題は、ベッド上腹臥位での右股関節伸展運動(屈曲30度から伸展10度まで)とした。下肢の挙上位置を各被験者および各試行で一定にするために、伸展10度で大腿遠位部背面にバーが接するように予め設定した。1秒間でバーに大腿部が接するまで股関節を伸展し、その肢位を3秒間以上保持させた。骨盤・脊柱の固定は行わなかった。測定前には、課題に慣れるために複数回の練習を行った。 測定には、Noraxon社製表面筋電図と、Vicon社製3次元動作解析装置を用いた。筋電図の測定筋は、右側下肢の大殿筋(Gmax)、半腱様筋(ST)、大腿直筋(RF)、大腿筋膜張筋(TFL)、および両側の脊柱起立筋(腰部)、多裂筋(腰部)、外腹斜筋、内腹斜筋・腹横筋混合部の計12筋とした。各筋とも、股関節伸展位で保持している時の3秒間の平均筋活動量を求め、各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量で正規化した。加えて、正規化した筋活動量から、RF/(Gmax+ST)、TFL/(Gmax+ST)、ST/Gmaxの各比を算出し、筋活動バランスの指標とした。なお、先行研究に基づいて、最大筋活動量の5%以上の筋活動を意味のある筋活動と定義し、活動量が5%未満の筋は分析から除外した。動作解析では、反射マーカーを両側の上後腸骨棘と腸骨稜頂点に貼付し、安静腹臥位の骨盤肢位を基準として股関節伸展位における骨盤の3平面の角度を求めた。筋活動量、骨盤角度ともに、5試行の平均値を解析に用いた。股関節伸展筋の個々の筋活動量、筋活動バランス指標と体幹筋筋活動量、骨盤角度との相関関係を、Spearmanの順位相関係数により分析した。【説明と同意】 倫理委員会の承認を得て、対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を書面で得た。【結果】 Gmaxの筋活動量が高いと反対側の脊柱起立筋の筋活動量が高くなる傾向を示した(r = 0.58, p < 0.05)が、骨盤傾斜との関連はなく、右側STの筋活動量はどの変数とも有意な関係を認めなかった。伸展運動時のRFの筋活動量は、最大筋活動量の5%未満であったためRF/(Gmax+ST)は分析より除外した。TFLの筋活動量は最大筋活動量の5%以上であり、TFL/(Gmax+ST)が高いと骨盤の前傾角度が増加する傾向を示し(r = 0.52, p < 0.05)、同側の内腹斜筋・腹横筋混合部の筋活動量が増加する傾向を示した(r = 0.51, p < 0.05)。しかし、内腹斜筋・腹横筋混合部の筋活動量は最大筋活動量の5%未満であった。また、ST/Gmaxが高いと同側の脊柱起立筋筋活動量が高くなる傾向を示した(r = 0.57, p < 0.05)。【考察】 本研究の結果、股周囲筋の筋活動バランスが骨盤の前傾角度や脊柱起立筋の筋活動量に影響を与えることが明らかとなった。股関節伸展時に股屈曲筋であるTFLの過剰な同時活動があると股関節の伸展運動が制限されるため、代償的に骨盤前傾が増加したものと思われる。また、運動学的機序は明確ではないが、ST優位での股関節伸展運動は、同側の脊柱起立筋の筋活動増大につながる可能性も示された。股関節伸展に関わる筋のモーメントアームは、股関節伸展域ではSTよりもGmaxの方が大きくなるため、ST優位での股関節伸展運動は効率の悪い運動になると思われ、そのことが脊柱起立筋の筋活動増大を引き起こしているのかもしれない。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、股関節周囲筋の筋活動バランスが骨盤の前傾角度や脊柱伸展筋群の過活動と関連することを示しており、臨床で多用される股関節伸展運動の注意点について重要な示唆を与えると考えられる。
著者
宮地 諒 藤井 亮介 西 祐生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0565, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】しゃがみ動作は日常生活や理学療法で頻回に行われ,股関節運動との関連が深い。中でも股関節屈曲運動の主動作筋である腸腰筋は骨盤の前後傾の肢位により活動が変化することが知られている。しゃがみ動作における下肢筋の活動を分析した報告は散見されるにも関わらず,腸腰筋の活動を測定したものはみられない。近年,超音波画像診断装置(以下,US)を使用し鼠径部で測定した腸腰筋厚と磁気共鳴画像診断装置で測定した筋横断面積に差がないことや,USで測定した腸腰筋厚と股関節屈曲筋力とが関連するといった報告があり,USが腸腰筋の活動を評価する方法として有用であるとされている。そこで本研究はUSによってしゃがみ動作での骨盤前後傾による腸腰筋厚への影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢や脊柱に関節障害などの既往がなく,日常生活に影響する疼痛がない健常成人男性9名(28.6±5.0歳)とした。課題動作は立位から膝関節屈曲60°までのしゃがみ動作とした。しゃがみ動作は骨盤前傾位と後傾位の両肢位で行った。骨盤前傾位と後傾位は被験者の最大努力下での骨盤前傾位及び後傾位とした。腸腰筋の筋厚の測定にはUS(LOGIQ e,GEヘルスケアジャパン社製)を使用した。測定するプローブ位置を一定にするために鼡径部中央にあらかじめマーキングを施行し,その上にプローブを接触して測定した。測定はBモードにて実施し,プローブはリニアプローブ(10MHz)を使用した。取得したUSの画像から画像解析プログラムImage Jによって腸腰筋厚を計測した。統計処理はWilcoxonの符号順位和検定を行った。【結果】しゃがみ動作終了時の腸腰筋厚は骨盤前傾位と後傾位のどちらも開始時よりも有意に増加した(P<0.01)。また,骨盤前傾位でのしゃがみ動作における腸腰筋厚は,開始時と終了時ともに後傾位よりも有意に高値を示した(P<0.01)。さらに骨盤前傾位でのしゃがみ動作では,開始時と終了時の腸腰筋厚の変化率が骨盤後傾位でのしゃがみ動作と比較して有意に大きかった(P<0.01)。【結論】骨盤前傾位と後傾位のどちらにおいてもしゃがみ動作により腸腰筋厚が増加し,その変化は骨盤前傾位で行う方が後傾位よりも大きい。そのため,骨盤前傾位でのしゃがみ動作は後傾位で行うよりも腸腰筋の活動が増加し,より効率的な腸腰筋のエクササイズと成り得ることが示唆された。
著者
杉山 統哉 田中 宏太佳 鄭 丞媛 松本 大輔 近藤 克則
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O2093, 2010

【目的】<BR> 脳卒中後の機能回復の予後において社会的サポートのレベルが高いほどActivities of Daily Living (以下ADL)点数が高くなるという報告がある.社会的サポートとは周囲の人々から得られる有形・無形の援助のことであり,家族介護者は社会的サポートの主な提供者の1つである.そこで介護力の有無により自宅退院率だけではなく,脳卒中後の機能回復に影響があるのかどうかを明らかにすることを目的とした.<BR> 日々の臨床においてもリハビリテーション(以下リハ)の対象となる患者は,関わる人が多い場合,帰結が良くなるという印象がある.仮説として特に家族介護者の関わりが多い方がより早く治したい,動けるようになりたいという感情が強くなり,帰結に影響を及ぼしているのではないかと考えた.しかし脳卒中後リハ対象患者において人の関わりがADLにどう影響を及ぼしているかを検討した報告はほとんどない.そこで多施設参加型データベースであるリハビリテーション患者データバンク(リハDB)に登録されている脳卒中患者のデータを使用し,検討したので報告する.<BR>【方法】<BR> 2009年5月までにリハビリテーション患者データバンク(以下リハDB)に登録された3,930名(30病院)のうち入院病棟区分が「一般病棟」の2,238名(19病院)から今回の検討するデータが入力されている9病院から入院時歩行不可である618名(男性365名,女性253名)を対象にした.患者選択基準は「発症前modified Rankin Scale(以下mRS)0~3」,「入院時mRS4・5 」,「55歳以上84歳以下」,「在院日数8日以上60日以下」,「発症後リハビリ開始病日21日以下」,「発症後入院病日7日以下」,以上の基準を満たすものを分析対象とした.対象の内訳は年齢72.4±7.9歳,発症から入院までの日数1.3±0.7日,発症後リハ開始病日2.8±2.8日,在院日数29.1±12.3日,リハ期間26.0±12.3日,1日あたりのリハ単位数(保険請求分)4.0±2.3単位であった.今回の検討は転・退院時の歩行状態が自立か非自立を帰結にした.そこで対象を転・退院時歩行自立294名と歩行非自立324名に分類した.転・退院時の歩行の自立・非自立の定義は入院時のFunctional Independence Measure(以下FIM)とmRSを掛け合わせることで設定した.リハDBのデータ項目の中から転・退院時の歩行状態を予測する因子として性別,年齢,確定脳卒中診断分類(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),在院日数,糖尿病の有無,高血圧の有無,合併症の有無,脳卒中既往歴,発病前mRS,発症後リハ開始病日,認知症の有無,意識レベル,下肢運動,入院時半側空間無視の有無,入院時感覚障害の有無,入院時FIM運動項目合計,入院時FIM認知項目合計,介護力の有無,装具処方の有無,リハ専門医の関与の有無,カンファレンスの実施状況,休日・付加的な訓練の有無,1日あたりのリハ単位数を選択した.上記の項目を独立変数とし,転・退院時の歩行自立・非自立を従属変数としてSPSSver12.0を用いてロジスティック回帰分析を行った.また,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 本研究において用いたデータは,リハDBについて説明の上同意した協力施設から,匿名化処理をし個人情報を削除したデータの提供を受けた.<BR>【結果】<BR> 選択した各変数の単変量解析(χ2検定)を行った結果,糖尿病の有無,高血圧の有無,発症後リハ開始病日,装具の処方の有無,カンファレンスの実施状況,1日あたりリハ単位数以外は有意確率0.05以下であった.<BR> ロジスティック回帰分析の結果は性別が「男」,脳卒中確定診断分類のうち「脳梗塞」,脳卒中既往歴「なし」,発症後リハ開始病日が「3日以内」,下肢運動「正常」,感覚障害「正常」,入院時運動・認知項目合計得点が高い,介護力「0~1人」「1人以上」,リハ専門医の関与「あり」が転・退院時の歩行自立が多い因子(p<0.05)であった.判別的中率は87.3%,HosmerとLemeshowの検定ではχ2=4.485(p=0.811)であった.今回の検討項目である介護力の有無に関してのオッズ比は歩行非自立を「1」としたとき,介護力「なし」に対して「0~1人」が7.142(95%信頼区間:1.846~27.625),「1人以上」が7.448(95%信頼区間:1.799~30.832)であった.<BR>【考察】<BR> 入院時の他の条件が同じ患者でも介護力が大きい人ほど歩行自立する確立が高いことが示された.1993年StrokeのGlassらによると高いレベルの社会的サポートは脳卒中後の機能回復に関連し,重要な予後因子であるかもしれないと報告している.今回の結果においても介護力の有無が脳卒中患者における歩行自立の重要な予後因子であるかもしれないということが示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究の結果から,急性期脳卒中患者において集約的合理的にリハを行う・予後予測する一助になると考えられる.
著者
行武 大毅 袋布 幸信 永井 宏達 薗田 拓也 山田 実 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cd0834, 2012

【はじめに、目的】 野球肘の発生は11歳から12歳が,野球肩の発生は15歳から16歳がピークであると言われており,それらの発生要因としては過度の投げ込み,投球フォームなどが報告されている.また,初期の自覚症状である疼痛を見逃さないことが重症化を防ぐうえで重要である.一方で,日本臨床スポーツ医学会の,青少年の障害予防を目的とする提言の中で定められている投球数を超える練習を課しているチームも多数あり,指導者の意識的な面が障害発生に影響を与えていると考えられる.本研究の目的は,1) 京都市内の少年野球チームの選手の保護者や指導者を対象にアンケート調査を行い,少年野球チームにおける肩もしくは肘の疼痛発生に関する実態調査を行うこと,および,2) 学童期野球選手の投球障害発生要因を選手の個人要因や指導者の意識面を含めた環境要因から検討することである.【方法】 アンケート用紙を京都市内の平成23年度宝ヶ池少年野球交流大会参加チーム120チームに配布し,そのうち回答の得られた64チーム(選手の保護者740人,指導責任者58人)を対象とした.選手の内訳は男子714人(96.5%),女子24人(3.2%),性別未記入2人(0.3%)であり,選手の学年は6年生355人(48.0%),5年生286人(38.6%),4年生58人(8.8%),3年生29人(4.9%),2年生9人(1.2%),1年生3人(0.4%)であった.選手の保護者に対するアンケートの内容は選手の学年,性別,身長,体重,野球歴,ポジション,ここ1年での肩もしくは肘の疼痛の有無,自宅での自主練習について,ここ1年間の身長・体重の伸び幅,1日の睡眠時間とした(個人要因).指導者に対するアンケートの内容は年齢,指導歴,年間試合数,週の練習日数,投手の練習での投球数,投手の試合での投球数,投球数制限の知識の有無を含めた障害予防に対する知識・意識についてとした(環境要因).統計解析としては,従属変数をここ1年での肩もしくは肘の疼痛既往者とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.階層的に分析するため,第一段階としては独立変数に個人要因のみを投入した.その後第二段階として,環境要因による影響を明らかにするため,両要因を投入した分析を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,説明会において口頭で十分な説明を行い,同意を得た.【結果】 解析には,欠損データを除いた選手の保護者531人,指導責任者58人分のデータを用いた.ここ1年での肩もしくは肘の疼痛既往者は210人(28.4%)であり,その内訳は6年生123人(58.6%),5年生69人(32.9%),4年生15人(7.1%),3年生2人(1.0%),2年生1人(0.5%)であった.個人要因を独立変数としたロジスティック回帰分析では,1年間の身長の伸び幅のみが有意な関連要因となり,伸び幅が大きいものほど,疼痛発生のリスクが高かった(オッズ比1.14,95%CI: 1.02-1.26,p<0.05).個人要因に加え,チーム情報や指導者の意識面などの環境要因を加えたロジスティック回帰分析では,1年間の身長の伸び幅(オッズ比1.15,95%CI: 1.02-1.30,p<0.05),および年間試合数が少ないと感じている指導者の率いるチーム(オッズ比1.74,95%CI: 1.11-2.72,p<0.05)の2つが疼痛発生のリスクを高める関連要因となっていた.さらに,判別分析を用いて身長の伸び幅のカットオフ値を求めたところ,6.3cmで疼痛発生者を判別可能であった.【考察】 現在野球肩や野球肘の発生要因には練習時間や練習日数などの環境要因が多数報告されているが,今回の解析により,投球障害に関わりうる数多くの個人要因,環境要因で調整してもなお,1年間の身長の伸び幅が独立して疼痛発生に影響していることが明らかとなった.疼痛発生は野球肩や野球肘の初期の自覚症状であることは報告されており,1年間の身長の伸び幅が大きい成長期(特に6.3cm以上)にある選手には,疼痛発生に対して特に注意を要すると考えられる.また,指導者の年間試合数に対する意見では,チームの年間試合数に対してより多い試合数が望ましいという意見を持っている指導者の率いるチームに,疼痛発生者が多いことが明らかとなった.この結果は,指導者の意識的な面が疼痛発生の一要因として関与している可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,学童期の障害予防を進めるうえで,指導者に対しての意識面に関する啓発活動が必要である可能性が示唆された.また,身長の伸び幅の大きな選手に疼痛発生のリスクが高いという点はこれまでほとんど報告されてこなかった情報であり,これらに関して理解を得ることが重要となる.今後,この結果をスポーツ現場へ還元することにより,指導者の意識の向上と障害発生率の減少が期待される.
著者
永瀬 外希子 伊橋 光二 井上 京子 神先 秀人 三和 真人 真壁 寿 高橋 俊章 鈴木 克彦 南澤 忠儀 赤塚 清矢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G0428, 2008

【目的】理学療法教育において客観的臨床能力試験(OSCE)の中に取り入れた報告は散見されるが、多くは模擬患者として学生を用いている。今回、地域住民による模擬患者(Simulated Patient以下SPと略)の養成に取り組んでいる本学看護学科(山形SP研究会)の協力を得、コミュミケーションスキルの習得を目的とした医療面接授業を実施した。本研究は、効果的な教育方法を検討するために、授業場面を再構成し考察することを目的とする。 <BR>【対象と方法】面接授業は、本学理学療法学科3学年21名を対象とし、臨床実習開始2週間前に行った。山形SP研究会に面接授業の進行と2名のSPを依頼し、膝の前十字靭帯損傷患者(症例A)、脊髄損傷患者(症例B)のシナリオを作成した。事前打合せや試行面接を行い、シナリオを修正しながらより実際の症例に近い想定を試みた。学生に対しては、授業の1週間前に面接の目的、対象症例の疾患名、授業の進行方法についてオリエンテーションを行った。面接授業実施30分前に詳しい患者情報を学生に提示し、4つに分けたグループ内で面接方法戦略を討論する機会を設けた。症例A・BのSPに対し、各グループから選出された学生が代表で10分間の面接を行い、それ以外の学生は観察した。それぞれの面接終了後に、面接した学生の感想を聞き、その面接方法に関して各グループで20分間の討論を行った。この面接からグループ討論までの過程を各症例につき交互に2回ずつ合計4回行い、全体討論としてグループごとに討論内容を発表し合った。最後に、SPおよび指導教員によるフィードバックを行った。<BR>【結果と考察】今回の医療面接の特徴は、第一点が情報収集を目的とするのではなく、受容的、共感的な基本的態度の習得を目的としたこと、第二点はトレーニングを受けている初対面のSPを対象としたこと、第三点は代表者による面接後グループごとに討論する時間を設定したことである。理学療法場面における医療面接では、医学的情報収集が中心となる傾向にある。今回の学習目的は、初対面の患者の話を拝聴し信頼関係を築くこととした。これにより、SPの訴えや思いなどを丁寧に聞いている学生の姿勢が認められた。また、初対面のSPとの面接を導入したことで、より臨場感あふれた状況の中で、学生が適度な緊張感を持って対応している場面が認められた。一巡目の面接では、SPに対して一方的に質問する場面が多くみられたが、二巡目ではSPが答えた内容に対して会話を展開させていく場面が際立った。これは、初回の面接終了後の討論により、面接者自身の反省や第三者の視点から得られた新たな方策を、次の面接に生かすことができたためと推測される。理学療法教育にSP参加型医療面接を導入することは、コミュニケーションスキルの向上を図るうえで有効な教育方法であると考えられる。 <BR>
著者
森本 浩之 浅井 友詞 中山 明峰 加賀 富士枝 和田 郁雄 水谷 陽子 水谷 武彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1152, 2011

【目的】<BR>世界では前庭機能障害によるめまいや姿勢不安定に対するリハビリテーションが古くから数多く行われている。日本においては一部では行われているものの一般的ではない。<BR>前庭機能障害患者は非常に多く、また前庭機能障害に対するリハビリテーションを必要としている患者も少なくはない。<BR>今回我々は前庭神経腫瘍摘出後6年経過し、前庭障害の改善がみられなかった症例に対するリハビリテーションを経験し、良好な結果を得たので報告する。<BR>【方法】<BR>症例は60歳の男性で、6年前に左前庭神経腫瘍の摘出術を行った。その後、抗めまい剤などの薬物治療を継続して行っていたが、めまい感、姿勢不安定感などの症状が改善しないためリハビリテーションを行うこととなった。<BR>リハビリテーションはCawthorne、Cookseyらが報告したものをもとにAdaptation、Substitution、Habituationを行った。Adaptationは文字が書かれたカード(名刺)を手に持ち、カードの文字が正確に見える状態でカードと頭部を水平および垂直方向に出来るだけ早く動かした。Substitutionは閉眼にて柔らかいパッドの上に立たせた。Habituationは問診やMotion Sensitivity Quotientにて、めまい感や姿勢不安定感が強くなる動きを選択し、その動作を繰り返し行わせた。リハビリテーションの時間は1回50分、頻度は週に2-3回、また病院でのリハビリテーション以外にHome exerciseとして上記のAdaptation、Habituationを毎日行い、合計3週間行った。<BR>評価は3週間のリハビリテーション前後にDizziness Handicap Inventoryの日本語版(以下DHI)、VAS(めまい感、姿勢不安定感)、Neurocom社製Balancemaster<SUP>&#9415;</SUP>にて4つのCondition(Condition 1:開眼・硬い床、Condition 2:閉眼・硬い床、Condition 3:開眼・柔らかい床、Condition 4:閉眼・柔らかい床)における重心動揺の総軌跡長を計測した。<BR>【説明と同意】<BR>本研究の主旨を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>DHIは、リハビリテーション前では44点、リハビリテーション後では32点であり改善がみられた。<BR>VASは、リハビリテーション前ではめまい感49mm、姿勢不安定感51mm、リハビリテーション後ではめまい感31mm、姿勢不安定感24mmで、めまい感・姿勢不安定感ともに改善がみられた。<BR>重心動揺は、リハビリテーション前ではcondition 1が4.27cm、condition 2が6.23cm、condition 3が9.49cm、condition 4が61.34cm、リハビリテーション後ではcondition1が3.26cm、condition 2が2.93cm、condition 3が6.44cm、condition 4が61.17cmであり、すべてのConditionにおいてわずかではあるが重心動揺の減少がみられた。特にCondition 4においてはリハビリテーション前では3回中2回は転倒により計測不能であったが、リハビリテーション後では3回全てにおいて計測する事が可能であった。<BR>【考察】<BR>前庭神経腫瘍摘出後の後遺症に関して、3週間のリハビリテーションでDHI、VAS、重心動揺において効果が認められた。Girayらは慢性前庭機能障害患者に対し4週間の短期的なリハビリテーションを行い、その効果を報告している。今回も先行研究と同様に3週間の短期的なリハビリテーションで効果を認めることができた。<BR>今回の症例では手術から6年経過していたが中枢代償が完成されておらず、めまい感や姿勢不安定感が残存していた。前庭機能障害に対するリハビリテーションは、平衡制御システムの障害に対し本来身体に備わっている可塑性を促進させ、かつ残存している健常機能で消失している機能を置換・代用し、平衡機能を向上させることを目的としている。今回前庭リハビリテーションを行ったことにより前庭および視覚・体性感覚が刺激され、その結果中枢代償が引き起こされめまい感や姿勢不安定感が改善したと考えられる。<BR>今回は3週間での短期的なリハビリテーションであったが、6ヵ月後までの効果を認めている報告もあり、さらなる平衡機能の向上が期待できると考える。今後もリハビリテーションを継続して行い、経過を追っていきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>日本においては前庭機能障害に対するリハビリテーションは確立されていない。前庭障害の患者は多く、リハビリテーションを必要としている患者も多く、今後症例数を増やし前庭障害に対するリハビリテーションを確立していくことが課題である。
著者
岩崎 和樹 浅川 大地 中川 和昌 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0078, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】重量物持ち上げ動作(以下,リフティング動作)は,腰痛受傷率が最も高い動作であるとされており,腰痛の一因とされる体幹表層筋の過剰な筋活動を伴いやすい。また,体幹深層筋の機能低下は代償的戦略として体幹表層筋の筋活動を増加させることが推測されている。本研究では,体幹深層筋に対する継続的な運動が体幹表層筋の筋活動量に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】対象は腰痛の既往のない健常男性10名(年齢20.7±0.7歳,身長171.2±4.2cm,体重62.4±5.2kg)とし,継続的な運動の実施が可能であった7名を分析対象とした。介入内容は体幹深層筋に対して3種類の運動を4週間にわたり可能な限り毎日実施してもらい,その前後で腹横筋機能評価とリフティング動作時の筋活動量を測定した。腹横筋機能評価には,圧バイオフィードバックユニット(CHATTANOOGA社製)を使用し,腹臥位でのDraw-inによる腹圧の変化を計測した。リフティング動作時の筋活動量の測定には表面筋電図計(酒井医療社製マイオリサーチXPテレマイオG2 EM-601 EM-602)を使用し,両側腹直筋,外腹斜筋,広背筋,胸部および腰部脊柱起立筋の筋活動量を測定した。動作課題は体重の30%の重量物のリフティング動作とした。開始肢位は足底が全面接地した膝関節最大屈曲位の時点とし,終了肢位はリフティング動作後,体幹と下肢が完全伸展位をとった時点とした。筋電図計測は,計測開始2秒後に検者の合図で動作を開始し,終了肢位から2秒経過した時点で計測終了とした。動作は3回試行し,全3回の筋活動量の平均値を代表値とした。運動方法は①腹臥位・背臥位でのDraw-in保持,②四つ這い姿勢から対側上下肢の挙上,③背臥位で臀部を挙上し体幹と大腿を一直線に保持する運動の3種類とした。統計学的解析は,エクセル統計Statcel Ver.3を使用し,介入前後の各代表値をWilcoxonの符号付順位和検定にて比較検討した。尚,有意水準は5%とした。【結果】腹横筋機能評価は,介入前-5.0±9.0mmHg,介入後-7.1±3.4mmHgであり,介入後に圧の減少傾向を認めた。リフティング動作時の筋活動量は,右広背筋では30.4±10.3μVから24.1±9.1μV,左広背筋では34.4±10.3μVから22.7±8.5μVと両広背筋で介入後有意な減少(p=0.018)を認め,有意差はないものの右外腹斜筋以外の全筋で減少傾向がみられた。【結論】体幹深層筋に対する4週間の運動介入により,体幹表層筋の活動量は抑制されることが示唆された。体幹深層筋機能向上により,リフティング動作時に動員されていた体幹表層筋の筋活動が減少したことが推測される。これらより,今回実施した運動はリフティング動作時の腰痛予防プログラムの一助になる可能性が示された。
著者
岩下 功平 三宮 克彦 徳永 誠 渡邊 進 野口 大助 中薗 寿人 當利 賢一 當利 綾 大迫 健次 松本 彬 田中 昭成 中井 友里亜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1192, 2012

【はじめに】 当院における脳卒中片麻痺患者のクリティカルパスは、入院時のFunctional independence measure(以下FIM)を基に、A~Eの5コースに分類している。各コースはそれぞれアウトカム設定が異なり、A、B、Cコースでは退院時移動手段を歩行獲得に設定している。今回、その中でも歩行獲得困難なCコース(入院時FIM70~89点)に関して、退院時の身体機能から歩行獲得に影響を及ぼしている要因を分析したので報告する。【方法】 対象は、当院の回復期リハビリテーション病棟に入棟した初発の脳卒中片麻痺患者でCコースに該当する79例とした。退院時の実用移動手段が歩行であったものを歩行群、歩行以外であったものを非歩行群に分類した。調査項目は、年齢、性別、退院時Fugl-Meyer Physical Performance Scale(以下FM)とした。FMにおいては、股・膝・足関節の随意運動、下肢の協調性・スピード、バランス、感覚、関節可動域、疼痛の6項目のそれぞれの合計点を用いた。FMの評価尺度は、各小項目が3段階で点数化されており、点数が高いほど正常に近いことを意味する。各項目を歩行群と非歩行群の2群間でMann-WhitneyのU検定及びカイ二乗検定を用いて検討した(P<0.05)。次に歩行群と非歩行群の間で有意差のあった項目を独立変数とし、退院時実用歩行の可否を目的変数としてロジスティック回帰分析(Stepwise)を行った。【説明と同意】 当院の倫理委員会の規定に従って承認を得て実施した。【結果】 年齢、性別において、歩行群は、平均年齢66.5±14.2歳、男性45名女性14名、非歩行群は、平均年齢69.4±12.6歳、男性11名女性9名であり、2群間で有意差は認めなかった。FMは、股・膝・足関節の随意運動(歩行群中央27点最大32点最小11点、非歩行群中央17点最大28点最小8点)、下肢の協調性・スピード(歩行群中央6点最大6点最小2点、非歩行群中央4.5点最大6点最小2点)、バランス(歩行群中央12点最大14点最小6点、非歩行群中央8.5点最大11点最小4点)、感覚(歩行群中央20点最大24点最小8点、非歩行群中央13.5点最大24点最小2点)、関節可動域(歩行群中央44点最大44点最小20点、非歩行群中央41点最大44点最小30点)、疼痛(歩行群中央44点最大44点最小20点、非歩行群中央41.5点最大44点最小38点)の全ての項目で歩行群が有意に高かった(P<0.05)。ロジスティック回帰分析においては、FMバランス(p=0.0051、95%信頼区間1.31-3.82、オッズ比2.10)、感覚(p=0.0071、95%信頼区間1.10-1.63オッズ比1.30)が歩行獲得に有意な関連性があった。【考察】 脳卒中片麻痺患者の歩行獲得の要因は、年齢、性別、発症部位、発症から入院までの期間、麻痺側、在院日数、随意運動、感覚障害、高次脳機能障害、認知機能、バランス機能など多様な報告がある。しかし、歩行獲得に関連する諸因子を抽出することは、その病態の多様性から容易でない。本研究においては、入院時FIMが70~89点の脳卒中片麻痺患者に限定しており、歩行群と非歩行群の年齢、性別において有意差を認めず、影響はない。FMは、股・膝・足関節の随意運動、下肢の協調性・スピード、バランス、感覚、関節可動域、疼痛の全項目で有意に点数が高く、身体機能全般において歩行群の能力が高いことがわかった。また、ロジスティック回帰分析により、歩行獲得にはFMのバランス、感覚との関連が高く、歩行獲得に重要な要因であることが示唆された。望月やBohannonらは、脳卒中片麻痺患者の立位バランスが歩行能力に深く関与していると述べており、本研究においてもバランスが歩行獲得に関連する結果となった。しかし、バランス項目の詳細な内容やその他のバランス評価との関連性については言及できず、今後さらに検討していく必要があると考える。歩行獲得と感覚の関連性においては、諸家の意見は様々であった。臨床の現場においても重度の感覚障害患者は歩行獲得に難渋する印象にあるが、推測の域のため今後、詳細に検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 FMは標準化された脳卒中患者の身体機能評価として世界的に使用されており、その評価を用いて歩行獲得に関与する要因を検討することは重要と考える。また、今回の研究においては、入院時FIM70~89点で歩行予後が判断しにくい症例が、歩行獲得を目指す上でFMのバランスと感覚が1つの指標となる可能性がある。
著者
岩佐 麻未 高沢 百香 伊藤 晃 牧野 七々美 城 由起子 松原 貴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0425, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】疼痛に対する理学療法の有効性に関して1990年代より系統的な取りまとめが各国でなされ,その中でも運動は強く推奨されている。そのエビデンスは,近年の運動による疼痛緩和(exercise-induced hypoalgesia:EIH)に関する報告で示されているが,いずれも高強度・長時間の運動による効果であり(Julie 2010),疼痛患者に処方することは難しい。また,疼痛に対する理学療法を想定すれば低負荷の有酸素運動が適するが,歩行やランニング,自転車運動など有酸素運動の方法による効果の違いは明らかにされていない。一方,これまで我々は3METs程度の歩行,自転車エルゴメーターによる下肢運動,クランクエルゴメーターによる上肢運動の低負荷有酸素運動により広汎なEIHが得られる可能性について報告した(山形2013)。しかし,個人の運動耐性能により身体へ負荷される運動強度は異なることから,運動強度を統一したうえで運動方法の違いによるEIH効果を厳密に比較するまでには至っていない。そこで本研究では,個々の運動耐性能をもとに運動強度を統一し,歩行,下肢運動,上肢運動といった運動方法の違いによるEIH効果について比較検討した。【方法】対象は,健常成人45名(男性22名,女性23名,年齢21.4±0.7歳)とし,全身運動群,下肢運動群,上肢運動群の3群(各群15名)に無作為に振り分けた。全身運動群はトレッドミル(STM-1250,日本光電)による歩行,下肢運動群は自転車エルゴメーター(Ergociser EC-1200,キャットアイ)による下肢ペダリング運動,上肢運動群はクランクエルゴメーター(881E,Monark)による上肢ペダリング運動を各20分間行わせた。また,運動強度は予測最大心拍数を算出し,Karvonen法を用いて40%heart rate reserve(HRR)に設定した。評価項目は,圧痛閾値,心拍変動,および主観的運動強度の指標であるBorg scaleとした。圧痛閾値はデジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH)を用い,僧帽筋,上腕二頭筋,前脛骨筋にて運動前(pre),運動終了直後(post 0)および15分後(post 15)に測定し,pre値で除した変化率を測定値とした。心拍変動は携帯型心拍変動記録装置(AC-301A,GMS)にて心電図を実験中経時的に記録し,心拍数,および心電図R-R間隔の周波数解析から低周波数成分(LF:0.04~0.15 Hz),高周波数成分(HF:0.15~0.40 Hz,副交感神経活動指標)とLF/HF比(LF/HF,交感神経活動指標)を算出し,圧痛閾値の測定に対応した時点のそれぞれ前1分間の平均値を測定値とした。統計学的解析は,経時的変化にはFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,群間比較にはKruskal-Wallis検定およびDunn's法による多重比較検定を用い,いずれも有意水準は5%とした。【結果】圧痛閾値は,3群とも全ての測定部位にてpreに比べpost 0で上昇し,全身運動群では全ての測定部位,下肢運動群では上腕二頭筋と前脛骨筋,上肢運動群では前脛骨筋でpost 15においても上昇を示した。また,全身運動群は他群に比べ僧帽筋のpost 15で高値を示した。心拍変動は,3群ともpreに比べ運動中にHFが減衰,心拍数とLF/HFが増大し,群間に差はなかった。またBorg scaleも群間に差はなかった。【考察】すべての運動方法で,運動中の心拍数,自律神経活動,主観的疲労感は同程度であったことから,個々に負荷された運動強度は同一であった。運動方法にかかわらず非運動部を含め広汎な痛覚感受性の低下,およびその持続効果を認め,さらにその効果は全身運動で最も顕著であった。有酸素運動に関する先行研究では,60%HRR以上の高強度負荷によりEIHが生じ,さらに30分~2時間の負荷でその効果は大きいとされている(Kodesh 2014, Naugle 2014, Hoffman 2004)。しかし今回,低負荷・短時間の運動であっても,その方法にかかわらずEIHが生じた。さらに,歩行のようなより広範部の運動の方がEIH効果は大きかったことから,有酸素運動のEIHは全身性の運動で効果が増大する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】有酸素運動は低負荷であっても疼痛を緩和させ,特に,誰もが簡便かつ安全に行える歩行のような全身性の運動がより大きなEIH効果をもたらす可能性が示されたことは,疼痛マネジメントとしての運動療法を確立する一助となる意義深い結果である。
著者
石川 陽介 森下 一樹 寺島 裕雅 山城 真里子 木村 州作 片山 幸広 出田 一郎 平山 統一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101276, 2013

【はじめに】大動脈瘤に対する手術療法においてステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair;以下、EVAR)は2006年7月に腹部用、2008年3月に胸部用が薬事承認となった。EVARは低侵襲の手術であり、術後リハビリテーション(以下、リハビリ)介入が必要ない場合も多く存在するという見解もある。しかし、大動脈疾患患者は虚血性心疾患患者と比較し、高齢でしかも併存症、合併症を有していることが多いという報告もある。また、我々が調べ得た範囲では本邦でのEVAR 術後のリハビリに関する報告は散見されるのみであった。当院でのEVAR術後のリハビリの現状をまとめ、理学療法介入の必要性について検討した。【方法】2011年10月1日から2012年9月30日までの間に当院にて腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm;以下、AAA)又は胸部大動脈瘤(thoracic aortic aneurysm;以下、TAA)に対するEVAR目的に入院された患者で、術後リハビリ依頼があった連続48例(男性36例、女性12例、平均年齢78.85±5.72歳)とした。当院でのEVAR術後の設定在院日数(術当日含む7日間)の1.5倍である11日以上を要した例を遅延例とし、それ以外の例を順調例とし、診療録より後方視的に検討した。【倫理的配慮、説明と同意】当院では、倫理的配慮として入院時に御本人、又はその御家族に個人情報保護に関する説明をしており、個人が特定されないことを条件として院内外へ公表することに同意を得ている。【結果】EVAR 48例中、手術部位別ではAAA38例(男性30例、女性8例、平均年齢78.66±6.15歳)、TAA10例(男性6例、女性4例、平均年齢79.60±3.53歳)であった。順調例は43例(AAA37例;平均年齢78.49±6.14歳、TAA6例;平均年齢80.33±3.45歳)であり、遅延例は5例 (AAA1例;年齢85歳、TAA4例;平均年齢78.50±3.35歳) であった。入院前ADLはBarthel Index(以下、BI)が100点を自立、95点以下をADL低下とし、順調例は自立39例(AAA33例、TAA6例)、ADL低下4例(AAA4例、TAA0例)、遅延例は自立2例(AAA1例、TAA1例)、ADL低下3例(AAA0例、TAA3例)であった。離床開始日は全体2.17±0.75日で、順調例2.07±0.25日(AAA37例;2.05±0.23日、TAA6例;2.17±0.37日)で、遅延例3.00±2.00日(AAA1例;2日、TAA4例;3.25±2.17日)であった。術後平均在院日数は全体8.96±5.08日(中央値8.00日)、順調例7.84±0.83日(中央値8.00日)、遅延例18.60±11.76日(中央値12.00日)であった。遅延理由としては、術後合併症(仮性動脈瘤、下肢虚血による大腿切断等)や転院調整によるものであった。転帰は自宅復帰39例(AAA34例、TAA5例)、転院9例(AAA4例、TAA5例)で、転院率はAAA10.5%、TAA50.0%であり、TAA患者の転院率が高かった。転院の理由としては継続加療(リハビリ)目的が2例、療養目的が7例であった。入院前ADLが低下していたAAA4例 (術後平均在院日数8.00±0.71日)の転帰は自宅復帰2例、転院2例であり遅延例は認めなかった。一方、TAA3例(術後平均在院日数22.00±14.14日)は全て遅延例であり、転院していた。【考察】EVARは低侵襲な手術であり、術後リハビリ介入が必要ない場合も多く存在するという見解もある。本研究においては特にTAAの患者で入院前ADLが低下している症例では術後在院日数の長期化や自宅復帰困難な症例を多く認めた。一方、AAAは術後順調例が多く、殆どの症例が自宅復帰可能であったが、少数の症例では入院前ADLが自立しているにも関わらず、術後在院日数が長期化する症例も存在していた。EVAR 術後におけるAAAの多く(38例中34例;89%)は自己完結型の治療が可能であるが、TAAには転院を必要とする例(10例中5例;50%)が多いため、TAAにおいては地域完結型の包括的心臓リハビリを提供する必要性があり、TAAでは術前を含めたより早期かつ密接な理学療法介入が必要であると考えられた。AAAにおいては入院前ADL状況から術後経過を予測することは困難であり、希に合併症などにより在院日数の長期化も認めるため、手術部位に関わらず理学療法介入は必要である。【理学療法学研究としての意義】EVAR術後は手術部位に関わらず、全ての症例に対してより早期かつ密接な理学療法介入によって適切なアウトカムの設定や円滑な地域完結型の包括的心臓リハビリの提供が出来る可能性が示唆された。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 武田 直樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2229, 2011

【目的】近年,慢性腰痛症において脊椎に直接付着する体幹深部筋群,特に腹横筋の機能不全が注目されている.また,この腹横筋の機能不全に対して過去に行われた介入研究では疼痛の変化や質問紙でのみ評価しているものが多く,筋厚の変化といった形態学的な視点からみたエクササイズ(ex.)の効果や,より機能的な肢位における腹横筋の活動に与える影響について検討している研究は見当たらない.そこで本研究の目的は,超音波画像を使用して慢性腰痛症例に対する体幹安定化ex.が腹横筋の筋厚や疼痛,機能障害レベルに及ぼす効果を究明することとした.<BR>【方法】3か月以上続く慢性腰痛を有する本学学生19名を対象とし,介入期間中に体幹安定化ex.を行うex.群と,対照としてのcontrol.群の2群に群分けし,被験者をランダムに割りつけた(ex.群:12名,con.群:7名).介入期間は10週間とし,開始前(baseline),中期(5週目;5 wks),終了後(10週目;10 wks)にそれぞれ3回計測を行った.期間中使用する体幹安定化エクササイズはAbdominal Drawing-in Maneuvers(ADIM)とし,10秒保持を10回繰り返すことを目標として1日15分,週3回行った.また,被験者にはエクササイズ実施日などを記入するためのself check sheetを配布し,最終日に回収した.con.群には期間中に体幹安定化ex.を実施しないよう指示した.次に,計測手順として,まず始めに各質問紙表(Oswestry Disability Index 2.0;ODI 2.0,Roland Morris Disability Score;RMD,McGill Pain Questionnaire;MPQ,VAS)に回答してもらい,その後,背臥位,座位,立位,Active Straight Leg Raise(ASLR)といった異なる4姿勢における腹横筋の筋厚(安静時,動作時)を,各々3回ずつ,超音波画像により計測した.ASLRは計測側に対して同側,対側での下肢挙上を行った.計測機器はEsaote社製MyLab25(リニアプローブ,12MHz)を用いた.データ処理は各群,各姿勢,各時点における腹横筋筋厚の3回計測の平均,また各質問紙のスコアを算出した.筋厚,筋厚変化率に関する統計解析は反復測定による一元配置分散分析を用いて行い,post hoc testにはBonferroniを使用した.質問紙スコアに関してはWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した.有意水準は0.05未満とした.<BR>【説明と同意】本研究の被験者には事前に書面と口頭により研究の目的,実験内容,考えられる危険性等を説明し,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した.本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>【結果】まず期間中,ex.群の1名が音信不通によりドロップアウトしたため,解析の対象から除外した.ex.群の腹横筋安静時筋厚は5 wks,10 wksにおいて,背臥位に比して座位,立位で有意に増加した(p<0.001).同様に,ex.群の腹横筋動作時筋厚では座位,立位においてBaselineに比して5 wks,10 wksで有意な筋厚増加を認めた(p<0.05).ex.群のASLRに関しては5 wks,10 wks時に同側,対側下肢挙上共に安静時に比して動作時に有意な筋厚の増加を認めた(p<0.001).しかしながら,以上の3結果はcon.群では同様の結果は認められなかった.VAS,ODI,MPQに関して,ex.群でのみBaselineと10 wksの間で有意差が認められた(p<0.01).<BR>【考察】本結果から,ex.群の腹横筋安静時,動作時筋厚は座位,立位で増加し,またASLRは動作時に有意に筋厚が増加するようになった.過去に,健常者で見られる腹横筋の自動的収縮が慢性腰痛症例では見られなかったという報告がある.つまり,本研究から慢性腰痛症例に見られる腹横筋の機能不全がex.により改善したために座位,立位といったより機能的な肢位への姿勢変化に対して腹横筋の自動的収縮を引き出せるようになり,更には腹横筋を活動させやすくなったことが動作時筋厚の増加につながったことを示す.動作時筋厚の増加もex.の効果を示す指標ではあるが,これがより機能的な肢位における腹横筋の自動化された応答活動につながらなければ真に腹横筋の機能が改善したとは言えない.故に,腹横筋の自動化された収縮とはADIMのような意識的な収縮とは異なり,より体幹の安定性に対する腹横筋の本質的な機能を反映すると考えられる.質問紙スコアに関しては,ex.による脊椎安定性の向上が機械的ストレスを減弱させ,これが疼痛や機能不全の改善につながったものと考える.しかしながらcon.群では同様の結果が認められなかったことから,con.群では腹横筋の機能不全が持続していることを示唆する.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究から,体幹安定化ex.の効果を検討する際は,腹横筋の自動化された収縮に着目して評価することが重要であることを示した.
著者
松田 直樹 金子 文成 稲田 亨 柴田 恵理子 小山 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0499, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】運動錯覚とは,実際に運動を行っていないにも関わらず,あたかも運動が生じているような自覚的運動知覚が脳内で生じることである。近年,我々はKanekoらが報告した視覚刺激による運動錯覚を用いて,脳卒中片麻痺患者に治療的介入を実施し,急性効果を検証してきた。本研究では,発症後10年を経過した脳卒中片麻痺患者に対して,視覚刺激を用いた運動錯覚と運動イメージを組み合わせた治療的介入を実施し,上肢の自動運動可動域に急性的な変化が生じたので報告する。【方法】対象は,平成14年に被殻出血を発症した右片麻痺症例(50代男性)であった。Br. stage上肢・手指II,下肢IIIであり,表在・深部感覚は共に重度鈍麻であった。認知機能に障害はなかった。治療的介入方法は,視覚入力による運動錯覚と運動イメージの組み合わせ(IL+MI),動画観察と運動イメージの組み合わせ(OB+MI),運動イメージ単独(MI)の計3種類とし,別日に行った。IL+MIでは,視覚刺激による運動錯覚を誘起するため,事前に撮影した健側手指屈伸運動の映像を左右反転させ,麻痺側上肢の上に配置したモニタで再生し,対象者に観察させた。さらに,動画上の手指屈伸運動とタイミングが合致するように,麻痺側手指の屈伸運動を筋感覚的にイメージするよう教示した。OB+MIでは,IL+MIと同じ映像を流したモニタを,対象者の正面に設置し,観察させた。そして,IL+MIと同様に動画に合わせて運動イメージを行わせた。MIでは,麻痺側手指屈伸運動の運動イメージのみ実施させた。各治療は20分間とし,2週間以上の期間をあけて実施した。日常生活上で本人が希望することとして肘関節屈曲運動があったことから,運動機能評価として,各治療の前後に麻痺側肘関節の自動屈曲運動を実施した。肩峰,上腕骨外側上顆,尺骨茎状突起にマーカーを貼付し,対象者の前方に設置したデジタルビデオカメラによって撮影した映像から,最大肘関節屈曲角度を算出した。また,IL+MIにおいて,上腕二頭筋及び上腕三頭筋に表面筋電図を貼付し,肘関節屈曲運動中の筋活動を治療前後で記録した。さらに,ILを実施した際に,どの程度運動の意図(自分の手を動かしたくなる感覚)が生じたかを,Visual Analog Scale(0:何も感じない~100:とても強く感じる)で評価した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,研究者らが所属する大学および当院倫理委員会の承認を得て実施した。また,対象者に対しては書面にて研究の内容を説明し,同意を得た上で実施した。【結果】IL+MIでは,治療前と比較して,治療後に最大肘関節屈曲角度が増大した(治療前3.1°,治療後56.1°)。これに対し,OB+MIとMIでは治療前後で大きな変化を示さなかった(OB+MI:治療前3.6°,治療後1.2°,MI:治療前2.3°,治療後3.4°)。また,IL+MI後においては,治療前後で上腕二頭筋の筋活動の増加が確認された。さらに,IL中にはVisual Analog Scaleで98と強い運動の意図が生じた。IL+MI後には,対象者から「力の入れ方を思い出した」という内観が得られた。【考察】本症例においては,OB+MI及びMIでは自動運動可動域に変化が生じなかったのに対し,IL+MIでは自動運動可動域が拡大した。このことから,視覚刺激により運動錯覚が生じたことが,自動運動可動域の改善に寄与した可能性があると考える。本研究では,手指の運動錯覚により上腕の筋に急性効果が生じた。Kanekoらは,視覚刺激による運動錯覚中に補足運動野・運動前野の賦活が生じることを報告している。高次運動野は一次運動野と比較して体部位局在の影響が少ないことから,本研究においては,手指の運動錯覚に伴う高次運動野の賦活が上腕の運動機能に影響を与えた可能性があるものと推察する。以上より,本研究では視覚刺激による運動錯覚と運動イメージを組み合わせた治療的介入が,脳卒中片麻痺患者における上肢の自動運動可動域に対して,急性的な変化を生じさせる可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,視覚刺激による運動錯覚と運動イメージの組み合わせが,慢性期脳卒中患者の運動機能に対して,急性的な変化を生じさせることを示した最初の報告である。本研究で用いた治療方法は,非侵襲的かつ簡便であり,本研究は理学療法における新たな治療方法の開発という点で意義深いといえる。
著者
須藤 沙弥香 高橋 俊章 神先 秀人 遠藤 優喜子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1037, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】「食べる」という動作は、栄養を摂取し生きていくために必要な動作であり、摂食姿勢は円滑な咀嚼・嚥下を行う上で重要な因子である。嚥下障害がある場合に、ギャッジアップ30度ないし45度程度での食事摂取を推奨するとの報告があり、座位が不安定な場合などにも、ギャッジアップの状態で食事摂取を行うことがある。しかし、通常われわれは頭部や体幹を自由な状態にして食事をしており、後方へ傾斜した状態は頭部や体幹の制限をするため必ずしも自然な姿勢とは言いがたい。そこで本研究の目的は、ギャッジアップ45度、65度の肢位並びに端座位の肢位の違いが咀嚼・嚥下に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】神経学的疾患ならびに顎形態異常を有さないベッド上長座位が可能な健常成人男性5名(平均年齢22.4歳±0.5)及び女性5名(平均年齢22歳±1.2)を対象とした。なお、対象者全員に文書にて十分な説明を行い、同意を得た。ギャッジアップ45度(枕使用・不使用)、65度(枕使用・不使用)、端座位の5つの肢位で、食物テスト、水飲みテスト、反復唾液嚥下テスト(以下RSST) の3つのテストを行った。食物テストはこんにゃくゼリー16gを完食するまでの咀嚼回数・嚥下回数・時間を測定した。水飲みテストは硬度20の冷水30mlの嚥下回数・飲み終えるまでの時間を測定した。また、これらのテストの間、表面筋電計を用いて舌骨上筋群、咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋の筋活動を測定した。筋活動の比較では各テストにおいて、テストの開始から終了までの積分値を用いた。さらに主観的評価として、各テストにおいて最も楽な姿勢を問診にて調査した。統計処理は、多重比較検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】筋活動量の比較においては、食物テストとRSSTを行った際の胸鎖乳突筋の活動量が、端座位と比較してギャッジアップ45度枕使用時において有意な増加が認められた。また、RSSTを行った際の僧帽筋の活動量は、端座位と比較して他の全ての姿勢において有意な増加が認められた。主観的評価においては、端座位がゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下、唾液の嚥下いずれにおいても最も楽な姿勢であった。端座位の次に楽な姿勢は、ゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下においてギャッジアップ65度枕使用であった。またゼリーの咀嚼回数、水の嚥下回数では明らかな差は認められなかった。【考察】結果より、端座位と比較して、ギャッジアップ45度、65度どちらも胸鎖乳突筋及び僧帽筋の筋活動量が増加した。これらは主観的評価から得られた、端座位がゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下、唾液の嚥下いずれにおいても最も楽な姿勢であったという結果と一致しており、本研究の対象である健常成人においてはギャッジアップベッドの食事姿勢が咀嚼・嚥下に不利な影響を及ぼしている可能性が示唆された。
著者
今岡 真和 板垣 香里 黒﨑 恭兵 七川 大樹 中村 貫照 池内 まり 藪 陽太 児玉 佳奈子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】標準型車いすの多くは,折りたたみ機能を有し座面および背面はスリングシートが採用されている。また,この折りたたみ機能は乗車時の快適性を損なう要因と指摘されている。そこで,これまでに我々は介護老人保健施設(以下:老健施設)入所者を対象にバネ式座面機構を採用した標準型自走式車いすと,従来からのスリングシート機構の標準型自走式車いすを比較し,検討を行ったところ,バネ式座面機構は有意に乗車時の体圧分散性,駆動性,動的安定性の乗車時快適性に関わる3要素が向上するという知見を得た。しかしながら,同タイプ車いすを入所者へ長期使用させることによる,身体や精神に与える影響は明らかになっていない。そこで,本研究は施設入所車いす使用者を対象にバネ式座面機構の標準型自走式車いすを3ヶ月間使用させ,身体機能や精神機能に与える影響を検証することとした。【方法】対象は大都市近郊A老健施設に入所する標準型車いす使用者とした。研究同意が得られた女性19名,平均年齢88.7±6.9歳をランダムに2群化し,バネ式座面機構車いす(ピジョン社製アシスタイースI・II)群10名(以下:イース群)と比較対照とするため,スリングシート座面機構車いす群9名(以下:スリング群)とした。なお,全ての測定は開始前と3ヶ月後の計2回とした。身体・精神機能の影響を明らかにするため,調査項目は握力,股関節屈曲筋力,座面または背面クッションの使用有無,臀部痛の有無,FIM,Geriatric Depression Scale(以下:GDS),Dementia Behavior Scale(以下:DBD),長谷川式簡易知能評価スケール(以下:HDS-R),Neuropsychiatric Inventory-Questionnaire(NPI-Q),食事摂取量,要介護度,年齢,身長,体重,BMIとした。統計解析は調査項目に応じて方法を選択し群内および群間の比較をおこなった。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】全ての対象者は継続して3ヶ月間,それぞれの車いすを使用して生活を行った。イース群とスリング群の2群比較は,座面または背面クッションの使用有無でイース群2名(20.0%),スリング群7名(77.8%)とスリング群で有意に座面や背面のクッションを使用していた(p=0.023)。その他の身体・精神機能の評価項目では,全ての項目で有意差を認めなかった。イース群の開始時と終了時の群内比較においても有意に変化した項目はなかった。今回,スリング群で座面や背面のクッションを入れて日常生活を行う者が多数となった結果,本来の座面や背面の機構の違いによる身体面や精神面への影響は明確に調査出来ないという課題が残った。【結論】イース群のクッション使用者は有意に少なかった。これは乗車の快適性に優れていることで,長期使用においても座り心地が快適であることを示唆するものである。そのため,従来のスリングシート式と比べて乗車中の臀部痛や身体接触面の不快感に対策を講じる必要性が少ない。