著者
是澤 紀子 堀越 哲美
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.39, pp.145-150, 2004-10-25
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

本研究では、京都市街地を通過する花折断層南部の周辺地域を取り上げ、地震情報としての活断層を含む自然環境の条件と、信仰の場としての神社の立地との関係性を探ることによって、立地場所の地形地質的要素が神社とその周辺における景観の様相に及ぼす影響を把握し、景観整備のための景観形成を評価する指標を探ることを試みた。神社立地の頻度分布において活断層付近の神社は、活断層沿いに分布する様相を呈していることが示された。地形と地質の構成を検討した結果、活断層周辺の神社景観を形成する自然環境の表出は、基盤岩と被覆層という地質条件により区別できる可能性が考えられ、地形的特徴となる断層崖の地質のうち隆起した被覆層は、神社立地と自然環境との関わりを考察する上で、両者のインターフェースかつ指標であると推察される。このような自然環境条件の指標は、その土地固有の自然と文化により構成されるものであり、建造物と一体化した神社の周辺環境すなわち景観を保存整備していく上で重要である。
著者
鶴田 佳子 陣内 秀信
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.901-906, 2002-10-25 (Released:2017-11-07)
参考文献数
11

イスラーム地域の都市の中心部にはバーザールと呼ばれる商業空間が広がっている。商業空間には、商業機能だけでなく多様な機能が含まれ、活気あふれる都市の核をなしている。こうした都市の核となる商業空間の構造を分析することによって、イスラーム地域、とりわけトルコの都市の特徴を把握することが本稿の目的である。本論で対象とするトルコの3都市は、いずれも緑豊かな木造文化圏に属す都市であり、城壁の内側に高密、かつコンパクトに形成されたアラブ都市に比べると、建物と建物の間の隙間や前庭、外庭、広場といったオープンスペースが多くとられ、全体としてゆったりとした景観を見せていることが特徴として抽出された。
著者
鵜飼 孝盛 栗田 治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.163-168, 2003-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
4 2

交通網に伴う地の利に関する理論的な値を計算する.この値はグラフ理論に基づいており,交通網に対応する隣接行列の固有ベクトルとして計算され,その特徴は交通網の位相的構造にのみ依存するということである.しかしながら,この値は交通網の結節点に対してのみ定義されている.人々が2次元平面上に住んでいることを考えると,この欠陥を無視することはできない.本論分ではまず,首都圏鉄道網でこの値を計算した後,その特徴を損なうことなく,所要時間を考慮するように値の定義を一般化する.また,メッシュ・システムを用いて,対象を平面へと拡張する.
著者
村中 大輝 雨宮 護 大山 智也
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.357-364, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

近年,地方自治体による公共空間への防犯カメラの大規模設置事例が報告されているが,こうした事例は萌芽期にあり,方法論は様々である.こうした状況下で,先進的に事業に取り組む自治体の事例を把握し,現時点での評価を加えることは,将来普及が見込まれる防犯カメラの設置・運用方針の検討に向け重要である.本研究では,一度に100台以上の規模で防犯カメラの設置事業を行った8自治体へのヒアリングから,事業の方法論を明らかにし,さらに,犯罪統計や市民アンケートの結果も加えて,事業の評価を行うことを目的とした.その結果,以下が明らかとなった.1)防犯カメラの設置過程は,事業を主導する主体や市民への広報に対する考え方等の面において自治体により大きく異なる.2)現在の防犯カメラ設置過程には,防犯カメラの設置規模や設置箇所の決定過程や市民への説明の機会の面で,問題がある可能性がある.3)防犯カメラ設置から5年が経過した一事例では,防犯カメラが車両関連犯罪を減少させ,市民にも受容された可能性が高いと考えられる.以上の結果に基づき,最後に本研究では,自治体が設置する防犯カメラの設置・運用方針について議論した.
著者
浜田 麻里奈 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.783-788, 2014-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
8

地縁に基づいたコミュニティの崩壊を受け、既存のネットワークとは異なる形で地域活動を維持することの重要性が高まりつつある。本研究では、地域活動の拠点となりうるコミュニティカフェ(以下、C.C.)の中でも、さらに地域外部との交流拠点ともなりうる、特有のテーマ性を持ったC.C.(以下、テーマ型C.C.)に着目する。その上で、テーマ型C.C.の運営者および関係を持つ団体にヒアリングを行い、持続的な地域活動における役割とそのメカニズム明らかにすることを目的とする。以下の点が明らかとなった;(1)テーマ型C.C.は地域周辺と良好な関係を形成した場において、地域活動の拠点となる。(2)地域活動を通してネットワークを形成した結果、関連団体は主体的に活動へ参加する意向が見られた。これは、テーマ型C.C.が、テーマに基づいた活動の経験や人材を地域側に紹介し、新たな活動が展開されたためである。(3)テーマ型C.C.は地域活動の拠点、および地域外部団体間との経験や人材を提供する役割を担う。これは、テーマ型C.C.が多目的の活動拠点を整備し、特有のテーマ性を有していたため可能であった。
著者
楊 慶雲 花岡 利幸 大山 勲
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集
巻号頁・発行日
vol.37, pp.799-804, 2002

中国成都市の府南河総合整備事業は1992-1997年の5カ年の短期間に実施された都心大規模再開発事業である。この事業は(1)洪水防止、過密人口移転、歴史資源復元、公園・緑地整備、道路整備、下水道整備を目標とする総合整備事業であり、事業区域面積357haに及ぶ都市中心部の再開発事業である、(2)この事業は10万人の移転事業を含み、5年という短期間に行った、(3)民間投資を中心とする資金調達で財源を賄っている、などの特徴を持つ。本論は、中国成都市の都市計画が、都心大再開発事業において如何にその実行可能性を確保したかを、実例を基に都市計画制度、総合計画策定、資金調達、実施体制の視点から分析したものである。
著者
楊 慶雲 花岡 利幸 大山 勲
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.37, pp.799-804, 2002-10-15
参考文献数
8
被引用文献数
2

中国成都市の府南河総合整備事業は1992-1997年の5カ年の短期間に実施された都心大規模再開発事業である。この事業は(1)洪水防止、過密人口移転、歴史資源復元、公園・緑地整備、道路整備、下水道整備を目標とする総合整備事業であり、事業区域面積357haに及ぶ都市中心部の再開発事業である、(2)この事業は10万人の移転事業を含み、5年という短期間に行った、(3)民間投資を中心とする資金調達で財源を賄っている、などの特徴を持つ。本論は、中国成都市の都市計画が、都心大再開発事業において如何にその実行可能性を確保したかを、実例を基に都市計画制度、総合計画策定、資金調達、実施体制の視点から分析したものである。
著者
石山 千代 窪田 亜矢 西村 幸夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.328-335, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1

我が国における「もっとも初期の住民憲章」であり今日まで約半世紀、運用されている「妻籠宿を守る住民憲章」の起源、すなわち地域が集落保存という新たな方向に舵を切る時に、自主規範としての住民憲章を制定することに着目する点に独自性がある。制定の背景を整理し、制定の過程自体を明らかにすることを通じて、私有財産や自らの生活・生業のあり方を左右しうる住民憲章が広域で合意形成されえた要因と自主規範の制定が集落保存初動期に果たしうる役割を考察した。集落保存の初動期に自主規範を考えることは、地域の置かれている状況を理解し、今後起こりうることを具体的に考え、地域の理念等を徹底的に話し合う重要な機会である。住民間での具体的議論の蓄積による合意形成につながり、一人一人の覚悟、「自律」につながるプロセスと捉えられる。これを促すベースをより良くつくる必要条件として、慎重かつ段階的プロセスと外部主体の活用、集落保存実施以前からの先見性ある対応、事業と計画上での部落間バランス調整と憲章制定の契機があげられる。自主規範が持続的に機能するには明解さも重要ゆえ盛り込める範囲には限界があり、運用システムの構築で補いうる。
著者
上野 純平 岸本 達也
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.49-54, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
6
被引用文献数
1

近年、都心部の鉄道周辺地域を中心に再開発事業がさかんである。再開発事業により駅周辺地域の建築物や駅施設が複合かつ多層になっていくことで、駅施設の魅力が上がり今度もその駅を利用する人が増加していく一方で、駅の利用者からすれば複雑な空間形態に加えて多くの歩行者が行き交い各々の目的地までに行くのに分かりづらい空間形態になっていくことが予想される。本研究では、このような空間形態を「複雑多層空間」と定義した。このような複雑多層空間内で、人々は何を基準に経路選択をしているのだろうか。それをスペース・シンタックス理論(以下、SS理論)を用いて定量的に分析することが本研究の目的である。本研究では東京都渋谷区にある渋谷駅を事例対象として分析を行った。歩行者流動を実測し、SS理論を用いて空間形態を分析し、それらの結果を用いて歩行者流動を表す重回帰モデル式を作成した。その結果、「視野範囲の広さ」と「ターン回数の少なさ」及び「最短距離で歩けること」が経路選択時において重要な影響を与えることが明らかになった。
著者
永家 忠司 外尾 一則 猪八重 拓郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.43-48, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本研究の主たる目的は防犯環境設計における「監視性」、「領域性」を対象にスペースシンタックス理論を基に都市空間の防犯性能を考察した上で、スペースシンタックス理論におけるインテグレーション値と街頭犯罪の発生および警察の犯罪リスク認知空間との関係を分析することである。街頭犯罪の発生と警察の犯罪リスク認知空間の空間的分布を把握するため、アンケート調査を地域住民および警察官に対し行い、GISデータベース化を行った。本研究の成果は1.街頭犯罪の発生と警察の犯罪リスク認知空間の空間的分布状況を明らかにしたこと、2.都市全体から見たアクセシビリティの高低が容易に判断できるアクシャルマップを作成することにより、人通りや見通しがもたらす潜在的な監視性や領域性の推定を行ったこと、3.街頭犯罪の発生および警察の犯罪リスク認知空間とインテグレーション値の高さにおいて関係性があることが明らかとなったことである。
著者
小伊藤 亜希子 上野 勝代 中島 明子 松尾 光洋 室崎 生子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.39, pp.68-73, 2004-10-25
参考文献数
1
被引用文献数
2

女性が仕事を続け、責任ある地位にも昇級し、女性の視点を生かして建築・都市計画分野の仕事に貢献するための条件を探ることが、本研究の目指すところである。本稿は、都道府県の建築・都市計画分野における建築職女性の進出状況の量的な把握と女性の働く職場環境の実態を明らかにした。近年、当分野で働く女性が増加し働く環境も改善されつつあるが、昇級に関しては今なお男女差が存在し、女性が責任ある地位につき能力を発揮できているとは言えない。一方、家庭と仕事の両立に奮闘している女性が、家庭生活の中で身につけた細やかな生活者の視点が、主に住宅設計に関わる分野で発揮されることが期待されていることがわかった。
著者
吉野 大介 羽藤 英二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.802-809, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
11

公共交通サービスの提供がビジネスとして成立しない地区においては,公的主体により公共交通の整備を行う必要がある場面が見受けられる.その財源として税が投入される場合,社会的合意を得る必要があり,その際には公的負担の上限を鑑み,最も効率的に活動機会の均等化(公平性)が図られる施策を選定する必要がある.このような課題に対するひとつのアプローチとして公共交通需要の顕在化率をもとに施策展開の優先順位を検討する方法があり,包絡分析法を用いた評価手法が先行研究により開発されている.しかしながら,既往の評価手法は静的モデルであり,施策導入前後のwith-without評価に適用することが難しかった.そのため,本研究において包絡分析法とMalmquist指数の組み合わせにより評価モデルの動学化を図った.開発モデルについてはケーススタディの中でその適用可能性を検証し,将来趨勢シナリオではベンチマークとなる地区における需要の顕在化が図られる一方,ベンチマーク地区とそれ以外の地区の格差が広がることから,ベンチマークへの近接を促す施策の導入が必要であることが確認された.
著者
吉武 俊一郎 高見沢 実 中名生 知之
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1093-1100, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

都市縮減時代における計画的な市街地縮減について、横須賀市谷戸地域での調査研究を行った。計画開発された住宅地とは異なる、都市基盤水準や建物、居住者に多様性のある、高度成長期以前からの市街地の縮減の方向性の中での豊かな市街地再生を目的とする。特に空き家増加が進んでいる2地域において全区画の目視調査を行い、空き家・空き地発生・消滅と各区画の属性をクロスすることで、空き地空き家が発生しやすい区画の属性とその数を抽出し、谷戸地域における市街地縮減の将来像を検討した。さらに居住者アンケートを行ううことで、居住者の観点からの入居・退去・生活問題を把握した。谷戸地域には都市基盤整備状況や、アクセス利便性などで、縮減の動態が異なってくる。空き地・空き家が半分以上になると考えらえる非市街地化指向地域、安定的な市街地運営を進める地域、緩やかな低密度化を進める地域といったメリハリのある計画的縮減について検討した。
著者
吉武 俊一郎 高見沢 実 中名生 知之
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1093-1100, 2016
被引用文献数
1

都市縮減時代における計画的な市街地縮減について、横須賀市谷戸地域での調査研究を行った。計画開発された住宅地とは異なる、都市基盤水準や建物、居住者に多様性のある、高度成長期以前からの市街地の縮減の方向性の中での豊かな市街地再生を目的とする。特に空き家増加が進んでいる2地域において全区画の目視調査を行い、空き家・空き地発生・消滅と各区画の属性をクロスすることで、空き地空き家が発生しやすい区画の属性とその数を抽出し、谷戸地域における市街地縮減の将来像を検討した。さらに居住者アンケートを行ううことで、居住者の観点からの入居・退去・生活問題を把握した。谷戸地域には都市基盤整備状況や、アクセス利便性などで、縮減の動態が異なってくる。空き地・空き家が半分以上になると考えらえる非市街地化指向地域、安定的な市街地運営を進める地域、緩やかな低密度化を進める地域といったメリハリのある計画的縮減について検討した。
著者
坂本 慧介 横張 真
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.854-859, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
16
被引用文献数
2 6

本研究は,地方中核都市である栃木県宇都宮市の住宅地を対象に,ポアソン回帰モデルを用いて空き家と空閑地の発生動態の相違性を解明することにより,人口減少期における既成住宅地の住環境の再編に向けた基礎的知見を得ることを目的とした.研究の結果,空き家の多寡と撤退タイプ空閑地の多寡には開発年代との関係による類似性が見られるものの,空き家の多寡が駅からの距離や10.0m以上の広幅員道路延長の割合といった住宅需要を牽引する立地的特性と強く関係している一方で,撤退タイプ空閑地の多寡にはそのような関係が見られなかった.つまり,空き家の発生動態は住宅需要と密接に関係しているが,撤退タイプ空閑地の発生動態には住宅需要以外の要因による影響が強いことが示唆された.今後,既成住宅地における住環境の再編を進めるにあたっては,上述のような両者の発生動態に作用する要因の違いを考慮した施策の検討が必要であると考えられる.
著者
坂本 慧介 横張 真
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.854-859, 2016
被引用文献数
6

本研究は,地方中核都市である栃木県宇都宮市の住宅地を対象に,ポアソン回帰モデルを用いて空き家と空閑地の発生動態の相違性を解明することにより,人口減少期における既成住宅地の住環境の再編に向けた基礎的知見を得ることを目的とした.研究の結果,空き家の多寡と撤退タイプ空閑地の多寡には開発年代との関係による類似性が見られるものの,空き家の多寡が駅からの距離や10.0m以上の広幅員道路延長の割合といった住宅需要を牽引する立地的特性と強く関係している一方で,撤退タイプ空閑地の多寡にはそのような関係が見られなかった.つまり,空き家の発生動態は住宅需要と密接に関係しているが,撤退タイプ空閑地の発生動態には住宅需要以外の要因による影響が強いことが示唆された.今後,既成住宅地における住環境の再編を進めるにあたっては,上述のような両者の発生動態に作用する要因の違いを考慮した施策の検討が必要であると考えられる.
著者
金 洪稷 樋野 公宏 浅見 泰司
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1304-1311, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2

今後,高齢者の増加により要介護者の人数も増えていく中で、介護保険の赤字額もより上昇すると予想されている.介護保険の収支構造見直しの一環として社会参加による介護予防を促進する必要があるが,その効果も地域によって異なる可能性がある.本研究では,年齢・要介護度別の人口推計モデルを用いて高齢者の社会参加による介護保険の財政および介護労働力への効果を分析することで,社会参加の促進政策の優先順位を考えることを目的とする.その結果,人口規模が一定水準以下の地域において高齢者の社会参加による効果に地域差があり得ることが分かる.また,社会参加による財政的な効果と介護労働量の逓減効率は必ずしも一致するとは限らない.2055年までは都心部から距離がある地方が介護保険への財政的効果の観点でより効果的であるが,2060年からは都心部がより効率が高い可能性がある.
著者
山崎 賢悟 津々見 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.163-168, 2007-10-25
参考文献数
12

同業種の小売商業店舗が高密度に集積する専門店街は、広域的な集客力を有することから、商業地が目標とする姿の一つである。専門店街は、街を訪れる人がいることで活気を維持しており、それが減少すれば衰退する危険性がある。そこで本研究では、成熟した専門店街としての「本の街」神田神保町を対象とし、専門店街の継続的発展に関する知見を得ることを目的とする。本研究の結論は以下の通りである。神田神保町は、古本まつりが始まった1960年頃に『本の街』として成熟したと捉えられる。書店数は1995年以降大幅に増加し、近年は約200軒に達する。1995年以降は一般消費者へのメディア露出が高まっている。書店立地は、かつての線的分布から、面的分布に変化した。成熟後もエリア内外の活発な新陳代謝があることで、専門店街の活力を保っている。成熟期以前から立地する書店と、成熟期以後に立地した書店とでは、基本属性や立地の特徴が異なる。成熟した専門店街・神保町エリアでは、象徴的イメージを保つ界隈と、新しい展開を育む界隈の両方があることで、「本の街」としての位置づけを保ちながら継続的に発展することができてきたと総括する事ができる。