著者
佐々木 剛
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

注意欠如多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder;ADHD)は、多動・衝動性および不注意を基本症状として、種々の生物学的要因(ドパミン仮説を例に挙げれば、背外側前頭前野皮質―尾状核―淡蒼球-視床と続く神経回路の障害)を基盤に、養育に関連した心理的要因や環境要因、さらに行動統制を要求される現在の生活環境などが複雑に絡み合って症状を呈するものと理解されている。治療としては認知行動療法を中心とする心理社会的な治療・支援の提供と、不注意や多動性・衝動性の改善を目的とする薬物療法が主として行われている。近年、チペピジンヒベンズ酸塩などのGタンパク質共役型内向き整流性K+(GIRK)チャネル活性化電流抑制が神経興奮の制御に重要であることが示唆されており、その作用を持つ薬剤がADHDの新たな治療薬として期待されている。本臨床試験の主要目的は、80名の小児思春期ADHD患者(6歳から17歳)を対象として、チペピジンヒベンズ酸塩またはプラセボを4週間投与した際の臨床症状への有効性および忍容性を比較検討するものである。プラセボ対照、ランダム化、二重盲検、並行群間比較による探索的臨床試験であり、主要評価項目は、実薬群とプラセボ群における投与前から 投与4週間後のADHD-RS合計得点の変化量であり、副次的評価項目は、ADHD-RSの下位尺度の合計得点の変化量、DN-CAS各得点の変化量、CGIの変化量、血中バイオマーカーの変化量である。平成29年度は、3名が臨床試験同意・実施し合計20名の進捗となった。
著者
林 正幸
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

昨年度までの研究では、カオマダラクサカゲロウ卵のもつ卵柄がアリに対して有効な防御手段として機能し、卵がアリ随伴アブラムシコロニー付近に産下された場合、随伴アリからの保護という間接的な利益を受けることを示した。また、カオマダラクサカゲロウ幼虫の載せるアブラムシ死骸の体表炭化水素成分がアリの攻撃性を抑制し、アリに対し化学的偽装の役割を担っていることを明らかにした。このアブラムシ死骸の機能により、カオマダラクサカゲロウ幼虫はアリ随伴アブラムシを捕食可能であることが示唆された。これらの研究成果の一部は、Journal of Chemical Ecology誌およびEnvironmental Entomology誌に投稿し、受理・採録された。本年度は、カオマダラクサカゲロウ幼虫の載せるアブラムシ死骸のアリに対する化学的偽装機能がどのようなメカニズムで生じているのか明らかにすることを目的に、アリのアブラムシ認識機構について検証実験を行った。まず、アリのアブラムシ認識が個体の経験に依存しているかどうかを検証したところ、アリのアブラムシ認識に学習が関与することが示唆された。次に、アリのアブラムシに対する学習行動が種特異的かどうか調査した結果、随伴経験のない他の共生型アブラムシ種に対してもアリは寛容に振る舞うようになった。アブラムシ各種の体表炭化水素を塗布したダミーに対しても、アリは同様の行動変化を示した。GC/MSを用い化学分析を行ったところ、共生型アブラムシ種の体表炭化水素成分は質的類似性をもつことが示された。この化学成分の質的類似性が、随伴経験のないアブラムシ種へのアリの攻撃性減少の要因であることが示唆された。
著者
松香 敏彦
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

これまでの学習および知識形成に関する認知科学・心理学の研究は多くの場合、個人内でかつ短期間で完了するものが研究の対象とされていた。しかし、本研究では実際には学習や知識形成は個人内で完了するものではなく、他者とインターアクションを介し、他者の知識の影響をうけながら発展してゆくと考え、行動実験と計算機シミュレーションを用いて検証した。その結果、一見無駄だと思われる情報、冗長な情報、社会的・経済的規範から異なる情報・価値を保持することによって汎化能力の高い知識の獲得することが示された。
著者
花澤 豊行
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1)手術時に得られる鼻粘膜標本(アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎)において、一酸化窒素合成酵素(NOS)の存在を免疫組織化学法を用いて確認した結果、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎の鼻粘膜ともNOSは、上皮細胞および血管平滑筋細胞に陽性所見を示した。しかし、両者における染色性に有意な差は認められなかった。このことより鼻腔内NOの産生部位は上皮細胞もしくは血管平滑筋であることが予想される。2)正常コントロール、アルレギ-性鼻炎患者における鼻腔内一酸化窒素(NO)濃度を測定するとともにacoustic rhinometryを用い鼻腔内容積を測定し、単位面積あたりの産生量を比較検討した結果、アレルギー性鼻炎患者においては有意に鼻腔内NO濃度が上昇していることを確認した。また、手術患者の協力のもと、鼻腔、上顎洞におけるNO濃度を副鼻腔炎症例、正常例にて上記同様単位面積あたりに換算し比較検討した結果では、副鼻腔炎症例においては鼻腔内NO濃度が上昇しているものの、NOの産生量に鼻腔と副鼻腔では有意な差がないことを確認した。この結果より鼻腔内NOガスは炎症により産生が増加することが確認できた。今後はこの機序にいかなるサイトカインが関与するかを検討する。3)鼻腔内NOの下気道における生理学的影響を検討するため、鼻呼吸と口呼吸において咽頭におけるNOガス濃度を比較するとともに、血液ガス交換の指標の一つである有効肺血流量を比較したところ、口呼吸に比べ鼻呼吸では有効肺血流量が増加する症例が多いことが確認できた。この結果は、鼻腔内NOガスが下気道の血液ガス交換に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。今後は吸気中のNOが関与することを確認するため、鼻呼吸時と同濃度のNOガスを口呼吸時に吸入させ有効肺血流量が改善するか否かを検討する予定である。
著者
永岡 麻貴 大島 郁葉 平野 好幸 中川 彰子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

強迫症の治療には,暴露反応妨害法を含む認知行動療法が有効である。しかし,認知機能の低下や自閉スペクトラム症の併存や、それに伴う実行機能の低下が、認知行動療法の治療効果に影響を与えている可能性がある。強迫症の治療効果に影響を与える要因を調査した結果、実行機能の機能の一部である作業記憶と、自閉スペクトラム症の特性を示すコミュニケーション能力の低下が、強迫症の認知行動療法に対する効果を低下させる可能性が示され、自閉スペクトラム症を併存する強迫症の実行機能に着目した心理プログラムを開発の助けとなる知見を得た。
著者
村松 成司 松浦 友功 服部 洋兒 服部 祐兒 村松 常司 BRODOWICZ Gary STAVRIANEAS Stasinos
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.381-387, 2004-02-28

本研究はセルフレジスタンストレーニング(SRT)の主観的強度の違いが生体に与える影響について検討した。今回は最大の強さ100SRTと100SRTの50%強度の50SRTを設定した。実験は40秒のSRT(右腕10回,左腕10回)を間に20秒の休息を挟んで5回行った。心拍数は50SRTと100SRTの間で有意な差が観察された。呼吸商は実験を通じて50SRTと100SRT状態の間に有意な差が見られた。酸素消費量,EMGは実験を通じて50SRTと100SRTの間に有意な差が観察された。血中乳酸濃度は50SRTではほとんど変化しなかったが,100SRTでは試技後に大きく増加した。結論として,SRTは生体に与える負荷強度を意識的にコントロールすることが可能であり,SRTがトレーニングだけでなく,リハビリテーションを目的としても利用することが可能であることが示された。
著者
藤井 克則
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

我々はGorlin症候群患者由来細胞を用いて紫外線ないし放射線照射実験を行った。PTCHの免疫染色は内因性PTCHが少なく、通常のPTCHポリクローナル抗体では染色精度が低かった。内因性ヘッジホッグタンパクの検出では、ヒト皮膚線維芽細胞におけるヘッジホッグシグナル構成分子(Gli1, Gli2, Gli3)のRT-PCRを行いシグナリングの線維芽細胞内での機能を確認した。これらは紫外線・放射線照射を行うことで増幅され阻害剤cyclopamineで阻害された。
著者
寺井 勝 地引 利昭 小穴 慎二 浜田 洋通 山本 重則
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

川崎病は乳幼児に発症する原因不明の血管炎である。当該研究者は,血中の単球遊走活性化因子MCP-1が急性期に血中に増加し,組織においても発現が増強していることを見出した。川崎病の治療薬であるガンマグロブリンは,MCP-1の生理活性を抑制することが判明した。またMCP-1をコードする遺伝子の転写開始部位から2518塩基上流のアデニン(A)とグアニン(G)のSingle nucleotide polymorphismとin vitroでの単核球によるMCP-1産生の関連をみたところ,G allele carrierが統計学的有意差をもってMCP-1を大量に産生することが判った。さらに急性期川崎病患者では,G allele carrierがAA homozygousよりも血中MCP-1を大量に産生することが判明した。同時に,日本人はG alleleを高率に有する民族であることを初めて明かにした。以上より,川崎病血管炎では,単球遊走活性化因子MCP-1が血管炎初期において炎症現揚の免疫担当細胞の遊走・活性化に重要な役割を果たしていること。さらに,日本人は外的な刺激に対してこのMCP-1を産生しやすい人種的特徴をもっていることが判明した。日本人に川崎病が多いことの背景になりうるかどうか,今後も更に検討が必要である。
著者
北島 満里子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

正倉院薬物「冶葛」の基原植物マチン科アジア大陸系Gelsemium elegansと同属北米産系G.sempervirensについて生理活性物質の大量供給と新規薬理活性物質・生合成中間体等の取得を目指し細胞・組織培養体の取得と二次代謝成分の探索を行った。また、これら植物についてDNA系統解析を試みた。1.植物本体と細胞培養体の含有成分の比較のためG.sempervirens植物本体について含有成分の精査を行った。その結果、茎部メタノール抽出物より既知アルカロイドGelsevirine,(Z)-Akuammidine,11-Methoxyhumantenineとともに新規オキシインドールアルカロイド4種、新規イリドイド1種を含む7種の化合物を単離することができた。また、HPLCによる部位別含有アルカロイドパターンの分析を行っている。2.タイ産G.elegans、北米産G.sempervirens葉・茎部より誘導したカルスの培養を行った。大量増殖したG.sempervirensカルスでは、β-Sitosterolなどテルペン4種が単離されたがアルカロイドは認められず、アルカロイド生産酵素系が発現していないことがわかった。また、G.sempervirensの液体培養においてジャスモン酸、イーストなどの添加による含有成分の変化について検討中である。3.G.sempervirens葉・茎部を用いてアグロバクテリウム感染による毛状根の誘導を試みている。4.タイ産G.elegansと北米産G.sempervirensについて遺伝子レベルでの差異を調査するため、DNA抽出を試みた。同じくマチン科のマチン、ホウライカズラとともにシュ糖含有抽出バッファーの使用により葉部からのDNA抽出に成功した。現在種々のプライマーによるPCRを行い、検出バンドの比較を行っている。
著者
小野 佐和子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.45-55, 1997-03-28
被引用文献数
1

帯笑園には,広い地域から様々な階層の人が訪れている.それは,帯笑園が東海道に面しており,その名声が,東海道を往来する旅人を通じて広まり,旅人を引き寄せたことによる.植松家が収集した多数の書画も帯笑園の魅力であった.植木や書画を話題に,富士を眺望する庭で一時を過ごすのが,帯笑園での訪問者の一般的な過ごし方であった.訪問者は,帯笑園に様々なものをもたらしている.大名や公家といった高貴な身分の者のもたらすのは,訪問による栄誉や返礼に贈られる工芸品や美術品であり,それには公家たちの書や絵画も含まれる.第一線で活躍する武士たちは珍しい話,特にこの時期には異国船や大砲についての新しい知識と情報をもたらした.遊芸の師も,煎茶や月琴といった当時教養ある人々が習得すべきとされる芸をたずさえて訪れた.帯笑園の魅力を作り出す,珍しい植物も旅をする植木屋たちが運んでいる.旅人たちを通じて,植物や書画のコレクションが集められ,それらのコレクションが帯笑園の名声を高めてさらに訪問者を呼び寄せる.これら植物と書画のコレクションを通じて,小さな宿場町の民家の庭である帯笑園は,様々な土地から訪れた様々な階層の人々がひとときを過ごす場たり得たのである.
著者
平出 昌嗣
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.203-208, 2006-02-28

日本は湿気の多い国であり,その文化も,まるで霞に包まれたかのように,曖昧で,流動的で,しっとりした情緒を重んじる。一方,湿気が少なく,空気が澄んでいる西洋では,明るい光を当てるかのように,鮮やかなもの,明確なもの,ドライで理性的なものを好む。それは人の話し方や生き方,あるいは絵画や音楽や文芸にも見て取ることができる。例えば西洋の油絵は事物を立体感や重量感を持ってリアルに描き,日本の水墨画は,まるで霧がかったように,平面的であっさりしていて,何も描かない空白部分を多く持つ。言い換えれば,日本は包む文化であり,むき出しのもの,裸のものを隠そうとするが,西洋は広げる文化であり,覆いを取り払ってすべてを光の下に明らかにしようとする。文芸に描かれる理想の空間も,日本では人をやさしく包んでくれる子宮のような閉じられた空間であり,西洋は天から光が降り注ぐ明るく開かれた空間になる。
著者
大野 正夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.39-55, 1956-12-30

(1)1950年度において果樹の人工授粉の能率化をはかる第一手段として花粉の増量剤について小実験を行つた.(2)モモ,ナシ,カキ,リンゴについて,夫々の授粉用花粉に増量剤としてシッカロトール,小麦粉,馬鈴薯澱粉,小豆粉を用いた.(3)増量剤の混入率は重量比で花粉の8〜10倍とした.(4)これ等増量剤中果樹の授精に障害のあつたもはのシッカロールで,次で粒子の大きな麸を混じた小麦粉は成績わるく,馬鈴薯澱粉,小豆粉はこの範囲の混合比では良好な結果率を得,花粉単用区に比しいささかも遜色がなかつた.(1)1951年度にカキ富有について禅寺丸花粉に石松子,蒲黄を夫々20, 40, 60倍量容量比で添加し圃場での人工授粉による結果率を調査した.(2)増量割合が多くなるに従つて結実は低下した.その実用的利用倍率は30〜40倍までの範囲と考えられた.(3)結実率不良はカキ花粉に対し,石松子60倍添加の場合にのみ看取された.(4)増量割合が増加するに従い,果実内種子数も減少した.(1)1952年において,カキ富有に対し,禅寺丸花粉の人工授粉に際し,増量剤として石松子,蒲黄の他胡桃,赤松,多行松,ヒマラヤ杉,玉蜀黍花粉を使用した.増量割合は容量で10倍とした.(2)実験は千葉県松戸,埼玉県上尾の2ヶ所で行つた.その成績は何れも同様な傾向を示し,花粉単用区に比し遜色のない良好な結実率を示したのは胡桃花粉増量区であつた.(3)胡桃花粉を増量剤として用いた区の果実内含有種子数も花粉単用区に近似し,1果につき4個以上のものが76〜82%を占めた.(4)人工発芽床上での増量花粉中のカキ花粉の発芽並に花粉管の伸長も胡桃花粉区がもつとも花粉単用区に近似して良好であつた.(5)これを要するに,胡桃花粉はその大きさ,粉末比重共にカキ花粉のそれに近似しているのでよく混合し,柱頭にカキ花粉がむらなく附着することと,柱頭上で何等有害作用を及ぼさないことによるためと考えられた.
著者
李 文哲
出版者
千葉大学
巻号頁・発行日
2010

本論文は、中国朝鮮族メディアである延辺テレビが中国朝鮮族の「想像の共同体」にどのような影響を与えているのかという問題意識のもとに、延辺テレビのあり方について考察するものである。 論文は、以下のように構成されている。 序では、中国朝鮮族における延辺テレビの意味を研究する目的およびそれに関する問題提起を行い、論文構成の概略を提示した。中国のような多民族社会で、少数民族言語である朝鮮語に依拠する延辺テレビは朝鮮族アイデンティティの維持や伝統文化の引継ぎ・発展と密接な連携性を持つと考えられる。それは、中国共産党の民族融合政策の下で、民族性の維持が難しくなっている朝鮮族社会が直面する問題でもある。中国朝鮮族はいかなる内外的、空間的な版図を有し、民族アイデンティティ問題をどのような角度から理解し観察しているのか。こうした問題意識のもとに、中国朝鮮族における延辺テレビの役割を探ることは、極めて重要な作業である。 第一章では、世界で最も巨大な市場をもつ中国メディアの状況を、党中央宣伝部直轄のメディア体制による管理と、市場経済への転換の中で急速に進行しつつある企業化の中で論じた。具体的には、中国の放送制度の法律、条例、管理体制、プロパガンダの歴史などについて客観的分析あるいは理論的な考察を行った。第二章では、延辺朝鮮族に焦点を当てて、延辺への移住の歴史と延辺からの人口流失の現状、延辺におけるメディアの変遷、アイデンティテイの変容、少数民族政策と朝鮮族のディスクールを分析し、論じた。第三章では、延辺朝鮮族自治州でのテレビの受信、利用状況、視聴者の性向を考察・・・
著者
山之内 克子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学社会文化科学研究 (ISSN:13428403)
巻号頁・発行日
pp.27-51, 1997-02-28
被引用文献数
1

本稿では、このヘトリング=ノルテの理論的枠組みを念頭に、まず、市民史、とりわけその祝祭に関する先行研究の成果を前提として、十九世紀の市民祝祭の中にドイツ市民の精神性、特にかれらのドイツ民族主義を確認する。そのうえで、国家単位として、また、文化圏としての「ドイツ」にたいして常に微妙な立場にあったハブスブルク帝国、なかんずくその首都ウィーンをとりあげ、多民族国家におけるナショナリズムの特殊性が帝国首都の市民祝祭においていかなる形で現われたのか、また、しばしば「政治的アクション」としての側面が強調される市民祝祭において、その最も根源的な部分を支えた「象徴的行動様式」の特色を、ここにいかなる形で読み取ることができるか等の問題について検討したい。
著者
木村 琢麿
出版者
千葉大学
雑誌
法学論集 (ISSN:09127208)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.79-139, 2000-07