著者
椎名 紀久子 嶋津 格 南塚 信吾 森川 セーラ 寺井 正憲 只木 徹
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本科研は、母語としての日本語と外国語としての英語で「批判的に思考」し「論理的に発信」できる力を小中高大で系統的に育成する指導システムを構築し、具体的な教材開発と授業提案を行うことであった。批判的思考の定義や研究史を踏まえたうえで研究を行った結果、外国語教育の分野だけでなく、倫理哲学と歴史学においても、批判的思考力育成のための教育方法をある程度提起することができた。
著者
大河内 信夫 藤澤 英昭 鈴木 隆司 大河内 信夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は伝統技能を教育学的な検証を経て学校教育の現場で活用できる題材として開発し、実践によって評価しようとしたものである。具体的には3つの代表的な取り組みを行った。第1に、伝統の刃物づくりの調査とそれを題材としたDVDの製作、第2に銅鏡の製造過程の調査と製作マニュアルとしてのCD製作、第3に伝統的な養蚕の実践とできた繭から絹糸を取り出し小型のランプシェードをつくる題材の開発と実践をおこなった。DVDとCDは千葉県下の市教育委員会へ配布し、その教育的評価を調査した。実践的な検証の取り組みでは、附属小学校において、銅鏡づくりは鋳型づくりと研磨を主に体験して製作し、ものをつくるにはいろいろな道具と時間がかかることを体得した感想が多かった。教員養成学部の授業実践として銅鏡づくりと行灯づくりに取り組み、教員資質にとってものづくりが重要であることを実証した。技能に裏付けられたものを作る能力を定着させる方法論が次の課題である。
著者
関 朋宏
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は過去3年間を通じて研究課題にあるペリレンビスイミドのJ会合体の構築・内部構造の解明、更にはその機能材料化に取り組んだ。残念ながら、見出したペリレンビスイミド分子の合成が非常に困難であり、内部の構造を詳細に調査できるだけのサンプル量が得られていなかった。しかしながら、これまでに得られた知見を最大限に活かして大量合成が可能な一つの合成経路を確立することに成功し、内部構造の解明および機能材料化を急ピッチで調査中である。一方昨年度までの研究を通じて、ペリレンビスイミド色素においては元来困難とされてきた「塗布法により薄膜形成が可能な二次元層状構造の創製」、および「最低ゲル化濃度が低く透明なゲル材料の構築」に成功した。これらの系の分子レベルでの集合構造を精査し、光学的・電子的特性、および材料特性との相関を明らかにした。前者に関しては、半導体有機エレクトロニクス材料としての応用展開を見出し、溶液塗布法により作成可能な有機薄膜トランジスターデバイスの活性層への適用に成功した。一方後者の系では、ゲルの分子レベルの配列とよりマクロな層構造との明確な相関関係を解明することに成功した。得られた成果は、機能性の色素分子から望みのゲル材料の形態を構築させるための重要な分子設計指針を与えた。本研究を通じて、ペリレンビスイミドの機能化を目指した合成の高収率化、分子レベルの集合構造と光学的・電子的特性との相関の解明、有機エレクトロニクス材料としての有用性の証明に成功した。更なる詳細な調査によって、他の色素材料の構築にも適用可能な分子設計指針の確立が期待される。
著者
大江 靖雄 栗原 伸一 霜浦 森平 宮崎 猛 廣政 幸生
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題では、都市農村交流時代における新たな農業と農村の役割として近年注目を集めている農業の教育機能について、理論的な整理と実証的な評価を加えて、今後の増進の方向性についての展望を得ることを目的に研究を実施してきた。主要な分析結果については以下のとおりである。1)農業の教育機能は、正の外部性を有する農業の多面的機能の一つの機能で、その外部性が環境ではなく人間を対象としている点に、特徴がある。2)定年帰農者の事例分析から、農業の教育機能は、近代的な最先端技術よりも、伝統的な技術の方が、教育的な機能が大きいことを明らかにした。この点で、高齢者や退職者帰農者などの活躍の場を農業の教育機能の提供者として創出できる余地がある。3)その経済性について実証的な評価を行った結果、正の外部性については、十分な回収がされておらず農家の経営活動として内部化は十分されておらず、農業の教育サービスの自律的な市場としてはまだ十分成長してないことを、計量的に明らかたした。4)酪農教育ファームについての分析結果から、多角化の程度と体験サービスの提供とはU字型の関係を有していることを、実証的に明らかにした。その理由として、技術的結合性、制度的結合性が作用していること、特に制度的な結合性の役割が大きいことを明らかにした。5)農業の教育機能については、今後とも社会的なニーズが高まることが予想されるので、農業経営の新たな一部門として位置づけて、有効な育成支援策を講じることが重要である。
著者
七澤 朱音
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,教育実習前の大学における効果的なカリキュラムを検討・実践するとともに,一貫性のある大学と実習校との指導体制を検討することを目的とした.大学のマイクロティーチングでは,教師役学生の指導言が,複合状態から短文に整理される様子や相互作用行動の向上が見られ,説明における"質問機会の提供"と"明確な課題提供"が有意に向上した.教育実習簿と指導教官の指導内容の分析からは,実習生が「教材研究」「技能下位生徒への適切な相互作用」に課題を残すことが明らかになった.
著者
日野原 啓子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、昨年度に行った学会発表にて得られた示唆をもとにデータ収集方法及び概念の修正を行いながら、継続して縦断的・前向きなデータ収集を積み重ねた。しかしながら、自然死産・早期新生児死亡後の次子妊娠出産までの追跡には至らず、今後も継続してデータ収集を行う必要性が示唆された。自然死産・早期新生児死亡を経験した母親は、児の喪失後きわめて早期に次子の妊娠出産を痛切に願う時期が共通してみられていた。しかし、1〜3か月が経過すると次子妊娠出産への希望は一度小さくなる傾向があった。その後、その母親なりに亡くなった児の存在や、亡くした体験を成長へのステップとして意味づけ、亡くなった児との時間を過ごすことに満足ができると、改めて次子の妊娠を現実的に考えるに至っていた。そのような考えの変化が起こる時期として、亡くなった児の出産予定日が過ぎた頃、100か日を終えた頃、お盆を過ぎた頃などがあった。児の喪失直後の次子妊娠出産への希望は、亡くした子どもの代償として、あるいはとにかく子どもが欲しいと、次子を望む傾向が見られていた。しかし、数か月が経過してからの次子妊娠出産への希望は、喪失直後と異なり、自分や夫、(亡くなった児以外の生存している)他の子どもにとって、次子の誕生がどのような意味を持つのか、ライフサイクルの中でいう次子を持つことが家族全員とってよいのかを考慮した上で、「いつ頃次の子どもが欲しい」と考えるように変化していた。また、このような現実的な希望を抱くようになると、母親は自分の健康を維持するようなセルフケア行動をより積極的にとるような変化も見られた。基礎体温を測定する、体重コントロールを心がけるなど、できる限り次子の妊娠をよりよい健康状態で迎えることができるような行動であった。
著者
西山 伸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

より高い変換効率を持つセラミックス焼結体を作製することを目的としてCuOを添加したAgSbO_3をはじめとするナノ粒子の金属を分散させた半導体焼結体について調べた。まず、AgSbO_3系が高い熱電変換特性を示す理由を解明すべく、焼結体中の銀の粒径や分布の状態を調べるため、焼結時間の異なる試料を作製し、熱電特性とその中の銀の微粒子の関係について調べ、作製方法に関して、(a)か焼条件の影響と、(b)原料粉末作製法の影響について検討した。また、CuO以外に、ZnO, CoO, Fe_2O_3, PdO, WO_3を添加した系についても評価した。また、金属ナノ微粒子を半導体に分散させた系として、LaCoO_3中へのCa_3Co_4O_9についても実験を行った。以上の結果、次のような知見を得た。(1)AgSbO_3焼粘体作成の際の合成条件やか焼条件の検討より、この系の熱電変換効率が微細に析出している銀粒子のサイズや分布状態に影響を受けることを見出した。(2)AgSbO_3にZnO, CoO, Fe_2O_3あるいはPdOを添加すると電気伝導度が向上しゼーベック係数の絶対値が減少することを見出し、これらの酸化物の添加によりキャリアが増加したことを示した。(3)La_2NiO_4にFe_2O_3を添加することで、LaNiO_3を析出させることは成功したが、キャリア濃度が低下し、性能の向上を得られることは難しかった。(4)AgSbO_3の状態密度計算により、伝導を担っている軌道はアンチモンの5s軌道であり、この軌道の改良が、高い熱電変換効率をもたらすと考えられる。
著者
福富 久夫 安蒜 俊比古
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.85-91, 1970-12-31

前回報告した松戸および柏市の小学校のうち,校舎の平面型が異なる4校を対象として,夏の日課時期における児童の屋外行動を調査した.なお,動的利用調査も一部試みた.その結果を要約すれば次のようである.1.学校における自由時間に屋外で遊ぶ児童は,ピーク時で40〜70%であり,冬の時期に比べて10〜15%多い.中学年が最も高率であり,低学年が最も低い.性差については,女子の方が男子より10%程度低い.この傾向は季節的に変りがない.時間的には,昼休みが最も高く,休み時間の長さが関係する.2.遊びの内容は,年令・性別によって異なる.低学年はスポーツ的な遊びは殆んどなく,器具を使った遊びが最も多い.中学年はポール遊びが最も多く,高学年では殆んどボール遊びである.学校の施設条件などによって差がみられる.また,学校の体育指導による影響から季節的に変化がみられる.3.児童の形成する集団の範囲は,2〜45人であり,各学年を通じて最も多いのは,2〜5人の小グループであるが,学年・性別によって差がある.低学年児童および中学年女子の集団化の大きさは,7人以下が殆んどである.中学年男子および高学年男女は,集団の人数は14人位までである.男女の混合集団は10〜14人の中グループが最も多く,集団化の大きさは19人位までである.遊びの種類別にみると,集団化の大きさは最も盛んな遊びが最も集団のサイズが大きい.季節的には,冬の時期の方が夏より同じ遊びでも,多少集団のサイズが大きくなる傾向がある.4.学年・性別によって使いやすい場に差がある.低学年は器具の近辺と校舎前の限られたスペースであり,中・高学年男子は運動場の広い場所を中心に,最も大きなスペース,同じく女子の行動領域は,この男子と低学年の間に分散し,最もまとまりがない.学校の施設条件や学年構成の違いなどによって,かなりおもむきが異なる.運動場におけるさまざまな遊びや運動は,集団化の水準を高め,知的発達や社会性を育てるために重要なのであって,児童の形成する小集団と,その行動をより重視して校庭の取扱いを検討することが必要である.
著者
大町 淑子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第2部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.121-153, 1983-12-20

1.第4報について家庭内で家族が一緒に生活する実態を,NHK国民生活時間調査を資料として,第1,2報でみてきた。第4報は,昭和55年を昭和45と比較して,共通起床在宅率,同一生活行動を中心に検討した。共通起床在宅率は,40%以上の時間帯で,昭和55年の平日は1コマ(15分単位)減ったが,土曜日は2コマ,日曜日は19コマ増加している。労働時間の縮小,休日の増加による男子40代の生活時間の変化が大きくかかわっているとみられる。同一生活行動の率は,食事,くつろぎ,テレビを合わせた率であるが,20%以上の比率となる時間帯は昭和45年に比較して平日は同じ,土曜日,日曜日は,1コマずつの増加である。食事とテレビが主行動となり,夕食後はテレビのパターンは45年と変わらない。平日,日曜日の同一生活行動はやや減少ぎみで,家族の生活行動は一緒に過ごす型から徐々に個人型へ移っていくように思われる。2.反省と今後への課題第4報は仮説の立て方が十分ではなかったので,この研究方法では検証できたとは言えず,推論になっている。研究方法の巾をもっと拡げて違った面からもっとつめることも検討する必要がある。朝食,夕食については,一応第3報で実態調査から分析したが,テレビに関してもっと研究方法を転換,発展させることが望ましいと思う。
著者
大町 淑子
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第2部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.153-185, 1980-12-20

1.昭和45年の共通起床在宅率平日,土曜日の朝は7.00〜7.15をピークに急上昇し,下降している。平日の日中は2〜5%程度で,小学生がマイナス要素となり,16.00以降は男子40代に変る。夜の18.00〜21.30が40%以上の共通起床在宅率で,最高は21.00の73%である。夜70%以上の時間帯は平日の半分の30分と少なく,就床が平日より遅いので,減少のカーブは緩やかになっている。日曜日の朝の40%以上の時間帯は平日より短い30分だが,昼に1時間あり,夜の最高が80%をこえることも,他の曜日と異っている。日中も25〜40%の範囲で,全般的に率が高い。また,共通起床在宅率の高い時間帯は,平日の朝・夕の2つの山に対し,日曜日は朝・昼・夕と3つの山になっている。2.昭和45年の同一生活行動の率平日,土曜日は,朝食,夕食とその後のテレビを主行動とする時間帯で同一生活行動の率が高い。昼食の率は高いが,起床在宅率を上回っており,家庭外でとる昼食が多いため,条件からはずれている。土曜日の夜は夕食後のテレビを主行動とする時間が4時間と,平日より30分長く,また高率である。日曜日は朝の同一生活行動が低く,昼食とその後のテレビ,夕食とその後のテレビを主行動とする時間帯で高い。夕食は平日より30分早く始まるが,低下していくのは同じ時刻である。3.昭和50年と昭和45年の起床在宅率の比較昭和50年は全体的にみると,起床が遅く,また遅寝になっているが,遅寝の傾向は中学生に著しい。小・中学生の平日の日中の率は低くなったが,夕方から夜にかけても低下している。日曜日の日中,男子40代の共通起床在宅率は大巾に上昇しており,労働時間の変化などの影響がみられる。女子30代の率も増加しているが,男子40代ほどではない。4.昭和50年と昭和45年の同一生活行動の比較(1)食事の率は起床が遅くなったため,朝食も遅くなっている。平日の夕食は17.00〜19.00に減少し,19.30〜20.30にやゝ増加するというように遅い方へズレている。日曜日の昼食は昭和50年に遅くなっているが,平行に下ったというより散らばる傾向にある。(2)くつろぎの率は比率が小さいので増減も小さいが,全体としてみると50年にはかなり増加している。男子40代の日曜日のくつろぎは減っているが,交際や余暇活動に回ったとも思われる。(3)テレビの率の全般的傾向は,小学注,男子40代が増加し,中学生,、女子30代が減ったといえるが,細かくみるといろいろな変化がある。4者の中テレビの率が最もはっきり低下したのは女子30代で,日曜日の減少が著しい。5.共通起床在宅率の変化概観すると平日・土曜日に大きい変化はないが,日曜日には40%以上の共通起床在宅率の時間帯が,5時間15分から11時間30分と,2倍以上に増加し,比率の高い時間帯も多くなっている。平日の最高は73%から77%へとやゝ上昇したが,時間帯は1つ減っている。土曜日は,同順位でも率が高く,朝は減ったがその分だけ夜がふえている。日曜日は最高の共通起床在宅率こそおちたが,時間帯が大巾に拡がり,社会的要因との関連がみられる。6.同一生活行動の変化同一生活行動は,共通起床在宅のような著しい変化はみられない。平日は,時間帯が遅い方へズレただけで,主行動が同じ割合になっている。土曜日の比率はやゝ低くなって,時間帯は広がっている。日曜日は,45年に3位だった昼食時の12.15が第1位になったが,他に目につく程の変化はみられない。7.まとめとして共通起床在宅率が40%をこえる時間帯が,日曜日に2倍以上の著しい増加を示し,また男子40代の日曜日の共通起床在宅率が上昇していることをみると,労働時間の短縮や週休日の増加など社会的要因の影響の大きいことが分かる。たゞ女子30代は,女子雇用者の増大や男子に比して労働時間が余り減少していないことも関っているのか,共通起床在宅率はそれ程上昇していない。小・中学生は時間帯によっては比率が低くなり,受験戦争の過熱や塾通いの影響が憂慮される。経済成長,収入増の時期,そして石油ショックを経験しながら,物やカネよりも人間を大切にする志向がようやく高まってきた。徐々に増加している家庭内の家族共通の時間の活用について,家族の触れあいを高め,団らんを深めるように工夫し,実践していきたいと考える。
著者
山崎 文雄 松岡 昌志 丸山 喜久
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,高解像度光学センサ衛星とマイクロ波を用いる合成開口レーダー(SAR)を組み合わせた,被災地域の抽出手法を検討した.災害前には衛星光学センサ画像,衛星SAR画像,更には数値標高データ(DEM)が得られているものとし,災害後に衛星SAR画像が得られた場合,これらを全て用いて被災範囲と程度を抽出する.イタリア・ラクイラ地震,ハイチ地震,東日本大震災等の被災地域に対して実データに基づいて被害抽出を行い,現地調査データと比較して精度を検証した.
著者
石出 猛史
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.399-403, 1993-12-01

江戸時代末期において,千葉市内で実施された種痘について書かれた古文書をもとに,当時の予防医学について検討を行った。安政7年佐倉藩の医師2名が,現在の千葉市若葉区平川町に巡回し,近隣の町村の児童に種痘を行った。この佐倉藩医師の巡回による種痘は,慶応3年2月に仮種痘所が設置されるまで行われた。平川町における種痘は,佐倉藩領民のみならず,他領の町村民にまで施された。しかし,この時の佐倉藩領民の受診率は決して高いものではなかった。その理由として,1人当り300文の種痘代の負担が考えられる。その他には,疾病および予防医学に対する,住民の理解不足が推定された。種痘実施のsystemに関しては,村役人を通じての,藩政府からの通達の徹底化,「宗門五人組帳」の受診者台帳としての利用,仮種痘所の設置など,現代の予防接種施行の基礎が,すでにできあがっていたことが推定された。
著者
手塚 和彰 村山 真維 岩間 昭道 中窪 裕也 木村 琢麿 金原 恭子 野村 芳正 柿原 和夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

経済の国際化(グローバル化)は、日本を含む先進国の経済構造と雇用構造を根本的に変えることとなった。第一は、使用者と労働者の関係が、両者のほかに、派遣業者や職業紹介業者などが介在し、二面構造から、三面構造へと変化した。この構造をどのように法的に整備するのかに関しては、労働法的規制の少ない英米と、規制を、労使関係(労使の交渉、協約)により強めて来たドイツ、フランスなど大陸諸国も欧州のグローバル化により規制緩和を進めている。我が国も、いわゆるバブル経済の崩壊後、製造業をはじめとして、リストラを進め、正社員の減、従来の年功序列による賃金体系を業績評価による体系に変更した。他方、パートタイマーや派遣労働者はますます比重を高めてきている。第二に、このような雇用構造変化は、日本の先端技術・技能における我が国の国際競争力を低下させている。従前の研究開発システムは、従業員発明制度の不備もあって、新規開発に遅れ、付加価値をつけることのできない企業を低迷、倒産の危機に追い込んでいるが、この点でも本研究は学界に先鞭をつけた問題提起を行なうこととなった。第三に、本研究は、人口、雇用の将来予測を独自に行い、このような少子高齢化の中での、労働市場、雇用の将来でのあり方を探った。とりわけ、高齢者の雇用と年金のあり方を探り、今後の我が国の雇用のあり方とそれを支える法制につき具体的な展望を行なった。さらに、WTO体制の元に進捗する経済のグローバル化と、人口減少にともない、外国人労働者の導入が現実的な課題となってきている。実際に、現在200万人の外国人が日本で就労しているが、その社会的な受け入れの体制や、法制度上の問題は極めて多い。この点に関しても本研究は先端的な分析と方向付けをすることができた。
著者
若桑 みどり 池田 忍 北原 恵 吉岡 愛子 柚木 理子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本課題は、20世紀において、男性が支配する国家が起こした世界戦争において、主導権を持たない女性が、ただに「被害者」となったのではなく、さまざまな方法で、戦争遂行に「利用」され、そのことによって一層その隷属性を悪質化したことを明らかにした。以下、代表および分担者の研究成果の要旨を個別に簡略に述べる。若桑は、南京の性暴力の「言説史」を中心課題として研究し、南京で性暴力を受けた被害者に関する日本ナショナリスト男性の「歴史記述」がこの被害を隠蔽したばかりでなく、この性暴力を批判した女性たちをも攻撃し、その言論を封殺したことを明らかにした。これは被害者としての女性への性暴力のみならず、女性の被害を記録する「女性の告発」をも抹消する行為であった。池田は、民族服の女性表象に着目し、アジア・太平洋戦争期における植民地・侵略地への帝国の眼差しを分析した。総力戦体制下の女性服めぐる言説と表象は、国家による女性の身体の管理と動員に深くかかわっていることを明らかにした。北原は、第一次世界大戦期にアメリカ合衆国で制作された戦争プロパガンダポスターに焦点をあて、女性が、男性を戦争へと誘惑する強力な徴発者として利用されたことを明らかにした。この誘惑する女性を媒介としてこれを「守る」男性性が「真のアメリカ人」として構築された。吉岡は中国入スターとして使用された日本人女優李香蘭の仮装と国籍の移動(バッシング)を分析し、植民地と宗主国の国境を逸脱する女が戦略的に植民地民衆の慰撫に利用されたことを明らかにした。
著者
千坂 武志 Corvalan Diaz Jose
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第2部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.37-61, 1979-12-20

1970年度の文部省の海外学術調査で「千葉大学南米アンデス山地の地質・古生物学的研究」が実施された。幸いにも私はこれに参加する機会が与えられ,チリ,アルゼンチンの両国に同年の10月から12月まで約3ケ月間出張した。私は主としてチリ国,南部のマドレデデオス島(聖母の島という意味)においてフズリナの化石を採集した。ここは米国のワシントン市にある国立博物館に勤務している、レイモンドCダグラス博士によってくわしく調べられている所であるが,筆者が研究したところ新しく3種類を発見した。しかもそのうち2種類は新種であることがわかった。本研究にあたってはカルロス ルイス フーレル博士をはじめチリ地質調査所の方々から研究に非常な便宜をはかって下された。本研究で層位学の方の研究は主として,ホセコルバランデアス博士がなされたフズリナの研究は主として千坂が担当した。ここから産するフズリナの地質時代は下部二畳系を示している。フズリナの形態的な特徴は個体数は多いが種類の数は少く,殻は細長く,隔壁がうすい。またやせ衰えたような形をしているので,生活環境は非常に悪かったと思う。その原因は寒い気候と関係があるのではないかと思う。
著者
今井 知正 中村 秀吉 (1985) 丹治 信春 野家 啓一 村田 純一 大庭 健 藤田 晋吾 土屋 俊 長岡 亮介
出版者
千葉大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

われわれの研究課題は「現代科学哲学における実在論と反実在論」であったが, われわれは三年間の研究を通じ, 個別的な論点はともかく, この研究課題についての次のような全体的な概観を得ることができた.レーニンの『唯物論と経験批判論』を今世紀の実在論のひとつの出発点として取り上げることができる. 彼は「宇宙は人間が存在する前から存在していた」「人間は脳なしで思考することはできない」という二命題を不可疑とみて, 観念論に対する唯物論を擁護した. しかし, フレーゲとウィトゲンシュタインに端を発する論理的実証主義の言語論的展開は言語を哲学の中心に据えることによって, 〈物質-精神〉の枠組をたんなるひとつの哲学問題としての地位にまで引き下げたのである. 超越的実在を語ることも超越的観念を語ることもわれわれに理解可能な言語を越えることであるから, 従来の実在論と観念論の対立は無意味となった. だが, 論理実証主義の言語論的展開もまた不徹底をまぬかれなかった. そしてタメットが二値原理を基準にして実在論と反実在論を定式化したときにはじめて〈物質-精神〉の枠組自体が撤去され, それに代わって古典論理と直観主義論理の対立が実在論論争の全面に現われてきた. 彼は, われわれの言語の論理を二値原理の貫徹する古典論理であるとすることに疑問を提起し, 二値原理を保持する実在論は幻影ではないかと主張した. 要するに, 〈物質-精神〉の枠組が〈世界-言語〉の枠組に取って替わられたとき, 実在論は劣勢に回ったのである. ダメットの提起した論点はなお検討に値する点を多く含んでいるが, 一言でいってわれわれは, 実在論と反実在論の対立の根本問題が指示の理論における言語の役割と言語理解の問題にあると結論することができる. そしてこれはまたわれわれの研究の次の課題でもあるのである.