著者
諫早 勇一
出版者
同志社大学
雑誌
言語文化 (ISSN:13441418)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.101-119, 2007-08

亡命プラハのロシア文学は、従来スローニムや雑誌『ロシアの意志』が代表と考えられ、ソヴィエト文学志向や若い世代への期待がその特徴とされてきた。ところが、近年これまで公刊されていなかった文書が発表されるとともに、アルフレッド・ベームと彼が率いる文学サークル〈庵〉の役割が再評価されるようになった。本稿はそうした近年の研究を踏まえて、ベームと〈庵〉の活動をロシア亡命文学のコンテクストのなかで捉えなおそうとしたものである。19世紀ロシア文学、とくにドストエフスキイの専門家として知られるベームは、プラハ移住後若い詩人たちの指導者となり、彼らに詩的技巧や言語の大切さを説き、文学の能動的な意義を訴えつづけた。そして、1930年代になっても依然としてソヴィエト文学の優位を主張していたスローニムに対しては、亡命文学が着実な成果を上げていることを説き、心の内面を素朴に表出する「日記的」な詩をよしとするパリのアダモーヴィチに対しては、形式の重要性を訴える論争を積極的に挑んだ。こうした当時の文学状況を振り返るとき、亡命プラハのロシア文学を支えていたのはベームであり、彼の功績は今後さらに検証されなければならない。
著者
窪田 光男
出版者
同志社大学
雑誌
言語文化 (ISSN:13441418)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.89-108, 2011-08

研究ノート(Note)本稿の目的は、LaveとWenger(1991)が提唱する「状況的学習論」を従来の学習観と比較しながら整理することである。状況的学習論の大きな特徴は、学習を所与の知識の吸収と定義することにより、個人の認知過程を観察、分析の第一義とするのではなく、共同体への参加の過程で生じる参加形態の変化やアイデンティティの発達を研究の中心に据え、参加の過程で発生する知識や技能の吸収は付随的なものと考える点である。この学習の概念を第二言語や外国語の学習と関連づけながら検証、考察するとともに、言語の教育、研究に対して状況学習論に基づく新たな視点を提案する。The goal of this paper is to develop new perspectives on education and research through reviewing the concept of situated learning proposed by Lave and Wenger (1991). Specifically, the paper explores the concept in relation to learning a second or foreign language. The new perspective towards learning will influence practices and research in educational settings. This paper examines how teachers' and learners' roles are viewed, how to motivate learners, and how learning materials can be selected and organized under the concept of situated learning in contrast to the traditional view of learning. Based on this examination, the paper discusses possible directions for research under the framework of situated learning.
著者
翻刻の会
出版者
同志社大学
雑誌
同志社国文学 (ISSN:03898717)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.105-139, 2009-03
著者
小山 健一 山口 洋典
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.17-32, 2010-09

論説(Article)本論文は、民間の劇団による公的事業の展開に着目し、フィールドワークを通じて、文化芸術分野からの地域活性化の方策を取りまとめたものである。特に、第一筆者が自治体からの交付金を得ておこなった演劇公演の運営を経て感じてきた、創造集団における「作家性・芸術性」とアートマネージャーによる「戦略」とのあいだで生じた衝突・軋轢の中から、いくつかの検討を重ねた。実践に対しては、文化政策やアートマネジメントの観点から論考がなされた。そして、(1)公立文化施設での非文化芸術分野の活動への公的資金充当で市民芸術家は育成されるか、(2)アートマネージャーと創造集団の代表者とのあいだにはどのような確執があるかについて接近している。これらを通じて、公による文化施設の活用、すなわち「アウトリーチ」の視点に加えて、民による公への「インリーチ」の観点が重要であることを明らかにした。そして、アウトリーチとインリーチが断続的に展開されること、すなわち反復的交替するとき、公民協働のダイナミックスが導かれることを示し、その状態を担保するために民に求められる視点をまとめた。This fieldwork argues about the difficulty of the community revitalization through a private theatrical company with local government. The difficulty is featured of the gap between artisticity and strategy in the 1st author's practice. From reviewing some references especially in arts management and cultural policy studies, two critical points became clear. (1)How can public fund develop a citizens' art movement in cultural facilities. (2)What kind of discords are generated between Arts manager and representative. mutually as feed-forwarding to create the better future. Finally, this paper proposed the importance of private inreach activity for public outreach program. Furthermore, we had pointed it out about the necessity of repetitive change in project independence which is started from a citizen's action to keep the dynamics on inreach and outreach.
著者
小山 健一
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.45-61, 2009-12

研究ノート(Note)本稿は、わが国の地域文化政策のあり方について、演劇を事例にまとめたものである。考察にあたり、はじめに、演劇の定義や社会的効用について、先行研究をふまえながらまとめた。次に、演劇の振興をはかるうえで重要な役割を果たすこととなる行政と劇団については、いずれも筆者の活動フィールドであることから、その現状の整理と課題の析出に多くの分量を割いた。そのうえで、地域文化政策のあり方を提示した。本稿では地域文化政策を論じるうえで協働という概念を採用しており、協働する主体を「行政」「劇団」「アートNPO」「企業」の4つとした。また、協働のあり方については、それぞれが他の協働主体に対し、どのようなコンテンツを提供することが必要かという観点から論じた。特に、行政や劇団、アートNPOについては、アウトリーチとよばれる活動に焦点を当て、そのうえで協働主体としてのあり方を提示した。その際、筆者みずからが参加した関連活動における事例をいくつか紹介した。最後に、4者が協働による地域文化政策において果たすべき役割を、主体間の相互作用も含めて明らかにしたうえで、今後の展望と課題を示した。本稿は2009年6月27日、28日両日に、大阪市立大学にて開催された日本演劇学会全国大会において、筆者がおこなった研究発表に大幅な加筆修正を加えたものである。I argue in my paper the local cultural policy, especially theater arts ,  in Japan. First, I review the previous research to define social effects by theater arts . Second, I discuss about the administrative policy of local government and the situation of the theatrical company from my action research. In this paper, "collaboration" is the key concept for an appropriate cultural policy agreement with local government, theatrical company, nonprofit organization in Arts and profit organization. This kind of collaboration brings about cooperation to share the each contents and ideas each other. And this paper feature the action which is called "outreatch" by collaboration among stakeholders in my practices as the cases. Finally,  I show the the roles of collaborators in a local cultural policy,  especially theater arts . Incidentally, this paper is based on the my presentation in the Japanese Society for Theatre Research annual conference 2009 on June 27-28 at Osaka City University.
著者
鹿野 嘉昭
出版者
同志社大学
雑誌
經濟學論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.509-529, 2007-03

本稿は、バブル期から金融システム不安期において銀行経営に対する資本市場の経営チェック機能が働いていたか否かという問題について実証的に検証することを目的とする。そして、銀行全体としてみた場合、資本市場からは銀行経営者に対する警鐘が期待されたほどには鳴らなかったという結果が得られた。その背景としては、第1には株式の相互持合い、4社体制と称される1990年代半ばまでの株式市場を支配した日本に独特の市場論理、第2には株価裁定手段の欠如が挙げられる。このほか、銀行経営に固有の要因として護送船団方式と称される手厚い銀行保護行政を背景として醸成された銀行不倒神話が投資家におけるモラルハザードを発生させ、それが資本市場の経営チェック機能を減殺したことが指摘できる。
著者
メストメッカー エルンスト ヨアッヒム 早川 勝[訳]
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.1-19, 2010-07

翻訳(Translation)自由社会を特徴づける正義に適った(公正な)行動ルール、分業および競争は、ひとの行為の積み重ねの所産である。しかし、これらの制度は、なんら最初から設計されていたものではなく、経験を通じて認識できるようになった点において共通の特徴がある。翻訳:早川勝
著者
中谷 猛
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.731-764, 2007-07

フランスの共和主義的伝統において,ジャコバン主義とデモクラシーとの間にはどのような論理的関連があり,またそこにはどんな特徴が見られるのか。フランス革命と革命後世紀で展開された革命擁護論とそれに対立する批判論に含まれたジャコバン的観念の特質,つまりジャコバン的パラダイムの明確化をめざす。この過程でジャコバン的観念がデモクラシーや共和制のイメージに及ぼした影響を検討して,共和主義言説におけるデモクラシーとジャコバン主義の複雑な関係を整理したい。
著者
中西 久枝 内藤 正典 嶋田 義仁 伊勢崎 賢治 大坪 滋 末近 浩太 吉川 元 立山 良司 中村 覚
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

中東の紛争では、中東の内外からの外部勢力の介入が紛争の長期化をもたらす実態が明らかになった。また、紛争防止策として、(1)国家再建時にすべての勢力をそのプロセスに包含すること、(2)イスラーム社会組織が果たす社会サービスの分配機能への着目、(3)難民や避難民の保護と共生のしくみを域内で構築すること、(4)民主化への移行期は、治安・雇用の創出・市民社会の政治参加への拡大などの課題への舵取りが紛争の再燃防止になること、などが挙げられる。
著者
柿本 昭人
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策研究 (ISSN:18818625)
巻号頁・発行日
no.5, pp.20-38, 2011-03

論説近代ヨーロッパは、古代ギリシアを再発見し、民主主義の源流としてアテネを参照してきた。大人=市民として登録されるには、父と、母の父が市民であり、試練と待機の期間を経なければならなかった。そして市民同士が平等な者として議論に参加できるのは、ただ一人の母=大地から生まれたという神話に基づく「生まれの平等」があったからである。安定した大人/子供関係を裏面から支えていたのは、大人になることのない奴隷と女性の存在であった。
著者
佐藤 豪 木村 穣 小崎 篤志
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では生活習慣の変容を促進し、また従来から問題とされているせっかく新しい生活習慣を身につけてもそれが逆戻りしてしまう現象について、基本的に無理をして生活習慣の変容を行っても、その後その効果が持続しない、そこには安心感というものがベースになっていないためであるということを検討してきた。このような点の検討を行うために、喫煙者と非喫煙者との性格特性や身体的な感覚の相違などについての分析を行い、これについての知見を得た。それに基づいて、生活習慣変容のためのプログラムを策定し、それを WEB 上で展開するという研究を行った。