著者
野村 竜也 三浦 雅展
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.439-446, 2011-03-30 (Released:2016-08-07)
参考文献数
9

本研究では,社会において「ものづくり」にどのようなイメージが付与されているかについて,成人を対象とした自由記述回答形式のオンライン調査により探索を行った.また,同時に「ものづくり」に対する意識を尺度を用いて測定し,自由記述から抽出された「ものづくり」に対するイメージとの関連について分析を行った.結果として,「ものづくり」に対するイメージカテゴリとして「専門技術」「業種・分野・組織」「商品・製品」の産業に関連するもの,「伝統」「精神・文化」の産業に直接関連しないものが抽出された.また,非産業的イメージを抱く回答者が全体の半数近く存在すること,「ものづくり」イメージカテゴリの分布が年代によって異なること,「ものづくり」に対する意識は全体として肯定的でありながら,非産業関連のイメージを抱く回答者群は産業関連のイメージを抱く回答者群と比べて,個人や生活と関連した「ものづくり」に対してより肯定的であることが示唆された.
著者
松森 靖夫
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.211-221, 1993-03-20 (Released:2017-10-20)

本研究は,今まで研究対象としてほとんど取り上げられてこなかった児童における空の水平方向の形状認知の類型化を試みるものである.そのため本研究では,(1)空の水平方向の形状認知の記述を試みるため,その調査方法を考案する,(2)調査結果に基づき,児童の形状認知をクラスター分析によって類型化する,(3)学習者の形状認知の類型結果から,教科教育における空の概念の取扱いについて考察する,(4)本調査方法について批判的検討を加える,ことを目的とする.本研究で得られた知見は,次のとおりである.(1)児童には多様な空の形状認知が存在しており,これらの形状認知はクラスター分析によって7類型(類型A〜G)に分類できる.(2)天文教育における天球概念に代表されるような球面として空を認知している者は,小学校第5学年児童のわずか5%にしか満たない.(3)各教科領域で扱われている空の概念の多義性について,教育していく必要性がある.(4)本調査方法には測定誤差等の問題点があり,今後さらに改善していく必要がある.
著者
福山 佑樹 森田 裕介 松野 夢斗 浅見 智子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Suppl., pp.177-180, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
9

反転授業の予習に用いるデジタル教材として,デジタルゲームを用いた場合の特性を検証するための試行を行った.実践の結果,ゲームを用いた予習教材は一定数の学習者にとって「エンタメとして楽しめる」ものであったが,応用問題や科学哲学的な問題の理解を深めるためには対面授業でのディスカッションを組み合わせることが重要になること,反転授業形式にすることでゲーム教材の「授業中に必要以上に時間がかかりやすい」という欠点を乗り越え,振り返りを充実化することで学習効果を高める特性がある可能性が示唆された.
著者
中山 実 清水 康敬
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.15-23, 2000-06-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
31
被引用文献数
3

生体情報による学習評価について,その考え方や必要性を述べたうえで,研究事例を紹介した.生体反応情報による学習評価や情意的な学習活動の検討については,研究事例から主観的な評価指標と生体指標との関連や,認知的な評価指標と生体情報の指標との関連について述べた.さらに,認知神経科学的な研究から,ニューロイメージングなどによる脳内活動の観察の研究事例と,今後の生体情報による研究について概観した.
著者
宮西 祐香子 長濱 澄 森田 裕介
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Suppl., pp.149-152, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
10

本研究では,指尖容積脈波を用いて学習活動時のストレス指標を計測し,従来の生体情報計測手法と比較して安価で容易に教育現場に導入しやすい計測手法の意義を検討することを目的とした.大学生7名を対象に,学習活動時における安静状態と心的負荷をかけた状態との,心拍変動のストレス指標を計測および比較した.また,ストレス指標と主観評価質問紙との関連性を分析した.重回帰分析の結果,主観評価質問紙で測定した項目のうち,理解度項目と疲労度項目それぞれの平均値でストレス指標値が推定できる可能性が示唆された.
著者
吉田 博 金西 計英
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.449-457, 2014

FDの義務化以降ミクロレベルでのFDとして,授業コンサルテーションを実施する高等教育機関が増加しつつある.それに伴い授業コンサルテーションの成果として,対象となる教員,または学生に与えた影響などの研究,さらにコンサルテーションを実施するコンサルタントのスキルに関する研究などがなされている.本論文は,授業コンサルテーションの新しい方法として,学生の変容に焦点を当て,授業担当教員とのインタラクションを実現する「学生討議型授業コンサルテーション,SDCC(Students' Discussion-based Class Consultation)」を試みた実践研究の報告である.SDCCは,コースの中間期に授業の改善点について,学生によるディスカッション,及び授業改善のためのアンケートを行い,これらのデータをもとにして授業改善を行う実践である.本実践研究では,SDCCが学生の授業参加に対する積極性,授業外学習に対する取り組みについて,ポジティブな影響を与えたことが明らかとなった.
著者
大島 純 新原 勇介 太田 健介 大島 律子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.333-342, 2010
参考文献数
23
被引用文献数
2

本研究の目的は,協調学習活動の分析にネットワーク分析の手法を応用し,分散認知の観点からグループの知識進展や学習者個人の貢献の様相を俯瞰的に明らかにすることであった.対象とした協調学習グループは,大学の教職必修講義において,学習理論と実践の関連性を学習した5名であった.各学習者の発言のネットワーク分析から,学習内容に関わる重要発言は他の発言を媒介する傾向が強いが,時間の推移とともにその媒介性が低下することがわかった.こうした全体傾向と学習者個人の重要発言の推移を比較することで,各学習者の学習プロフィールを作成しその特徴を明らかにした.その結果,小集団で長期的に行われる協調学習を評価する際に,俯瞰的にその対話全体の特徴を明らかにし,より詳細な分析を必要とする学習者や対話の箇所を選定してく分析として有益であることが示唆された.
著者
益子 典文 前田 康裕
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌
巻号頁・発行日
vol.41, pp.141-144, 2018

<p>現職教師が学校に勤務しながら教育実践研究を展開するためには,自らを実践知の生産者と位置づける「知識生産型」の認識を持つことが重要である.本研究では,働きながら学ぶ大学院を修了し,持続的に教育実践研究を展開している現職教師(第二著者)を対象とし,PAC 分析による教育実践研究のイメージの分析を行った.その結果,特徴的なクラスターの存在が見いだされた.この結果に基づき,現職教師が持続的に教育実践研究を推進するための条件について,研究者・実践者相互の立場から考察を行った.</p>
著者
高橋 暁子 市川 尚 阿部 昭博 鈴木 克明
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Suppl., pp.25-28, 2008-02-10 (Released:2016-08-04)
参考文献数
6
被引用文献数
1

本研究では,自己管理学習スキルのうち,とくに学習内容の選択の支援を目的に,課題分析図を見ながら学習項目の選択ができるeラーニングシステムを開発した.学習項目を選択するインタフェースとして課題分析図を用いることで,学習者が習得状況を直感的に把握し,構造の上下関係に基づいて学習項目の選択を行うことを目指した.事前テストと事後テスト機能においては,課題分析図の構造による出題制御を行った.形成的評価の結果,習得状況を直感的に把握することに関して有用性が示唆されたものの,実際に構造の上下関係に基づいて学習項目を選択するかは学習者によって異なることがわかった.
著者
島田 英昭
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.61-64, 2016

説明文に挿入される挿絵は,理解支援だけではなく,読解初期の動機づけを高める効果がある.本研究は実験心理学的手法により,説明文におけるテキストと挿絵の関連性が,読解初期2秒間の間に動機づけを高めるかどうかを検討した.実験参加者(大学生,N=16)は,テキストと挿絵の関連性および挿絵の有無が操作された防災マニュアルの1ページを2秒間見た後,動機づけの程度を評価した.その結果,挿絵の有無に比較すると小さいが,テキストと挿絵の関連性の効果がみられた.また,関連性が強いほど動機づけが高かった.以上から,テキストと挿絵の関連性は読解初期2秒間の間に動機づけを高め,その効果は関連性の程度に依存することが明らかになった.
著者
梅本 貴豊
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.79-87, 2013
参考文献数
34

本研究では,メタ認知的方略,動機づけ調整方略が認知的方略,学習の持続性に与える影響について検討を行った.197名の大学生に対して,質問紙調査が行われた.動機づけ調整方略には下位尺度として自律的調整方略,協同方略,成績重視方略が,認知的方略には下位尺度として反復作業方略,深い処理方略,まとめ作業方略が含まれた.そして,重回帰分析により,以下の結果が示された.(1)自律的調整方略は,全ての認知的方略に促進的な影響を与えていた.(2)メタ認知的方略は,深い処理方略と学習の持続性に促進的な影響を与えていた.(3)成績重視方略は,反復作業方略に促進的な影響を,学習の持続性に抑制的な影響を与えていた.以上の結果に基づき,メタ認知的方略と動機づけ調整方略が学習を調整するプロセスについて議論が行われた.
著者
梅本 貴豊 矢田 尚也
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.167-175, 2014

本研究はテスト学習場面を対象に,認知的方略,動機づけ調整方略とテスト学習時間との関連について検討した.研究1では,38名の専門学校生に対して質問紙調査を行い,認知的方略,テスト学習時間,テスト得点との関連を検討した.研究2では,63名の大学生に対して縦断的な質問紙調査を行い,動機づけ調整方略とテスト学習時間との関連を検討した.分析により,以下の結果が示された.(1)テスト学習時間を統制するか否かによって,認知的方略とテスト得点との関連が変化した.(2)認知的方略に比べ,テスト学習時間の方がテスト得点とより強い正の関連を示した.(3)興味高揚方略と成績重視方略がテスト学習時間と正の関連を示し,価値づけ方略と協同方略が負の関連を示した.
著者
上淵 寿 松村 大希 敦澤 彩香
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.29-32, 2017

<p> 本研究では, 友人との学習を「意図的な協同学習」,「他者意識」,「雑談」に分類した質問紙を作成し, 動機づけ調整及び学習のパフォーマンスとの因果関係を共分散構造分析によって検討した. その結果, 意図的な協同学習は自律的調整方略を介して学習の持続性に正の影響を与え, 自律的調整方略を介さない場合は学習の持続性に負の影響を与えることが示された. また, 雑談と他者意識は成績重視方略を介して学習の持続性に負の影響を与えることが示された. ゆえに,友人との学習を行った後も動機づけを高めるための方略を使用することが学習の持続性につながり,動機づけを高めるための友人との学習は,必ずしも学習の持続性には直接はつながらないことが示された. </p>
著者
鈴木 豪
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.95-103, 2016-09-20 (Released:2016-09-15)
参考文献数
20

本研究では,「特定の教科の課題」として回答することが,グラフの解釈と判断を行う課題において,回答に差異をもたらすかを検証した.小学5年生(N=91)と6年生(N=94)を対象とし,同一の課題について「算数」または「社会科」の課題として回答する群と,特に教科を指示されない群の計3群を設定し,回答内容を分析した.その結果,5年生では「社会科」の課題として回答する場合,「算数」の課題として回答する場合よりも,省略されて差異が過大に見せられた棒グラフについて,グラフの見た目だけでなく具体的な数値を用いて解釈する傾向が見られた.また,6年生では,社会科の学習が得意であるほど,同様の解釈をする確率が高い傾向が見られた.特に,5年生で社会科の文脈が与えられることが,グラフの適切な解釈を促進する可能性が示唆された.
著者
安斎 勇樹 塩瀬 隆之 山田 小百合 水町 衣里
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.97-100, 2013

本研究の目的は,視覚障害者をリードユーザーとしたインクルーシブデザインワークショップにおいて,障害者に対する晴眼者の先入観を取り除き,共感的理解を持ちながらコミュニケーションを取ることができるようなアイスブレイク手法を提案することである.「視覚が奪われた状態で,リードユーザーが日常経験するような生活作業に取り組み,リードユーザーから支援を受ける」というアイスブレイク手法を考案し,この手法に基づく場合とそうでない場合の参加者の発話を比較したところ,考案した手法に一定の効果があることが示された.
著者
西森 年寿 望月 俊男 椿本 弥生 山内 祐平 久松 慎一 中原 淳 大浦 弘樹
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.309-316, 2014-12-25 (Released:2016-08-11)

筆者らは,大学教育での学生によるレポート課題などにおける問題設定の支援を目的として,映像資料閲覧を支援するための視聴プレイヤーMEET Video Explorerを開発した.教育現場での映像アーカイブ利用が普及し,一人一台環境が実現されるなかで,こうしたツールの利用可能性が高まっている.本研究では実験授業においてこのツールを用い,問題設定に対して映像アーカイブの個別視聴が与える効果と,ナレッジマップ機能の持つ効果について検討を行った.個別視聴活動と講師が説明を行う一斉視聴活動を行った群の比較から,個別視聴群では一部の問題に凝集しない問題設定が行えていることが分かった.また,ナレッジマップの作成により,複数の情報を統合しようとする独創性の高い問題設定が支援できる可能性が示唆された.
著者
西川 和夫
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.35-40, 1986

多くの漢字がいくつかの要素文字から形成されている事実に注目して,課題文字に含まれる要素文字の熟知性が漢字の書字再生学習に与える効果を検証した.小学校5年生を対象に12画の未習漢字12文字について,機械的に手本文字を書写する条件,筆順に従って口唱し書写する条件,課題文字を熟知性の高い既習文字単位に分解して口唱し,書写する条件で書写再生させた.実験Iでは,各条件とも4試行ブロック連続試行した場合の学習効果を比較した.熟知情報を利用する単位口唱群の正確な再生文字数は他の2群より有意に多いことが確かめられた.実験IIでは,同じ課題文字について,第2試行ブロックと第3試行ブロックの間に1週間の延滞期間を挿入した.単位口唱群では他の2群とは異なり,延滞期間挿入による保持の低下が見られなかった.また事前の書字力の低い学習者にとっても,熟知性の高い単位口唱条件はより学習の容易な方法であることが確認された.
著者
石川 奈保子 向後 千春
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.329-343, 2018

<p>本研究では,オンライン大学で学んでいる学生を対象に,自己調整学習およびつまずき対処方略の使用状況について明らかにするために調査を行った.その結果,以下の3点が明らかになった.(1)オンライン大学の学生のつまずき対処方略は,「学友に質問する」「教育コーチに質問する」「放置する」「自分で解決する」の四つの方略に分類された.(2)ゼミに所属している場合,学習の相談ができる学友がいる学生は,教育コーチや学友に援助要請することでつまずきを解消していた.一方,そういった学友がいない学生は,つまずいたときでも援助要請しない傾向があった.(3)学習の相談ができる学友がいる学生は,より多くの自己調整学習方略およびつまずき対処方略を使用していた.以上のことから,オンライン大学での学習継続においてメンターや学友との交流が重要であることが,自己調整学習方略使用の側面から裏づけられた.</p>
著者
遠海 友紀 岸 磨貴子 久保田 賢一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.209-212, 2012
参考文献数
4

本研究の目的は,初年次教育の学習活動において学生自身が到達目標を設定することが,学生の自律的な学習態度へどのような影響を与えるのかを明らかにすることである.初年次教育の授業において学生がルーブリックを作成し評価に用いる実践を行った.質問紙調査の結果,ルーブリックを自分達で作成することにより,多くの学生が目標と省察を意識しながら学習活動を行ったことが分かった.また,学生の自由記述を分析した結果,ルーブリックを自分達で作成することは「目標への意識」「課題に対する動機づけ/責任感」「課題の成果に対する省察」「評価に対する公平感」「多様な評価の観点の気付き」と関連していたことが分かった.