著者
佐藤 朝美 佐藤 桃子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.49-52, 2013

本研究では,子どもを取り巻くメディアに対する親の意識調査と,タブレット用デジタル絵本について「読み聞かせ」の観点から分析を行う.親子による絵本の読み聞かせは,親子のコミュニケーションを促すとともに,子どもの認知発達を促す場としても重要な役割を果たすという.紙媒体からタブレットに変化する事で,どのような差異が生じるか把握するために,紙絵本とタブレット用デジタル絵本の親子による読み聞かせ場面を記録し,質的に分析を行った。その結果,紙絵本では親主導で読み聞かせが行われるのに対し,タブレットでは子ども中心で操作が行われるケースが多く見られた.いっぽう,タブレットでは絵本に接する時間が増え,子どもからの発話数も増える傾向にあった.親子の対話も紙絵本と異なる内容が生じており,飽きずに物語世界を繰り返し堪能している様子がみられた.
著者
滝田 亘 中山 実
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.81-84, 2004-03-05
参考文献数
6
被引用文献数
7

本研究では,文章を視覚と聴覚で提示した場合の記憶への影響を調べるために,課題文を視覚と聴覚で提示し,提示文章の内容について問題文により真偽判定する実験を行った.課題文に含まれる命題数が記憶に与える影響について,問題文での正答率と反応で検討した.その結果,3〜5命題課題において,視覚提示時の正答率は聴覚提示時の正答率より有意に高くなった.また聴覚提示について,2〜5命題課題においては,提示文章の命題数増加に伴い正答率は有意に低下した.問題文に対する判断の難易度を信号検出理論のd'を用いて検討した.その結果,視覚提示では命題数による低下は認められなかった.聴覚提示では,命題数増加に伴い,正誤の判断が有意に難しくなった.
著者
吉冨 友恭 今井 亜湖 埴岡 靖司 前迫 孝憲
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.165-168, 2008
参考文献数
3
被引用文献数
1

本研究では河川上流域の瀬・淵を対象として,児童が川をどのように観察するか(川の見方)を小学生を被験者として調査し,その結果から得られた知見をもとに,河川の生物と環境を題材としたデジタルコンテンツを開発した.開発したデジタルコンテンツは,児童の川の見方の調査実施場所で撮影された生物と環境の短編映像を素材とし,河川環境の縦横断面を表現したイラストや360度回転させながら風景全体を確認できるバーチャルリアリティ画像から,これらの素材を視聴できるようにした.また,開発したデジタルコンテンツが児童の川の見方を補完するものであるかを評価した.
著者
駒谷 真美 無藤 隆
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.9-17, 2006
参考文献数
19
被引用文献数
1

児童は,テレビをはじめメディアが発信する様々な情報を受け取っている.彼らには,メディアと正しく上手につきあうメディアリテラシー教育が必要である.そこで本研究では,小学校低学年を対象とし,「テレビの中の空想と現実の理解」に特化したメディアリテラシー教育入門教材「うっきーちゃんのテレビふしぎたんけん」(ビデオ・ガイドブック)を開発し,実践において総括的評価を行った.プレポストデザインの統制群法による授業実験を公立小学校1学年2学級で実施した.その結果,「テレビの現実性理解度」について実験群が統制群より有意に上昇し,本教材の効果が認められた.この教材活用により,児童はメディアリテラシー教育への「気づき」と「やる気」を示した.加えて,本教材を使用しても児童の一般的なファンタジーは維持されることがわかった.
著者
姫野 完治
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Suppl., pp.13-16, 2017-01-15 (Released:2017-03-06)
参考文献数
10

本研究では,公立小学校教師1名を対象として,授業者の視線から撮影・記録した映像をもとに,授業中の教師の視線傾向や意図を継時的に振り返る授業リフレクションの試行と評価を行った.その結果,教師の視線に焦点を当てた授業リフレクションは,授業中に教師が無意識で行っている教授行動の意図の表出や,授業中の子どもの様子を教師自身の視線を通して対象化することに寄与するという特徴があることが明らかになった.また,教師の視線から撮影された映像に資料的価値が認められた一方で,その利用目的を明確にしておく必要性があるといった課題が示された.
著者
山口 洋介 三宮 真智子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Suppl., pp.113-116, 2013-12-20 (Released:2016-08-10)

本研究では,思考過程を推測するための新たな手法として,「タイピング思考法」を提案し,その有効性について検討した.タイピング思考法とは,「課題遂行時に,頭の中で考えている内容を,そのまま即時にコンピュータにタイピング(キーボード入力)する」という手法である.大学生および大学院生10名を対象に,タイピング思考法を実施してもらった後,アンケートへの回答を求めた.その結果,参加者は自身の思考内容をプロトコル上におおむね反映できたと報告し,困難感も比較的小さいことが示された.さらに,得られたプロトコルをもとに,創造的思考方略を抽出・分類した結果,多様な側面が見出だされた.
著者
尾関 基行 野宮 浩揮
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.23-32, 2016-06-20 (Released:2016-06-17)
参考文献数
8

本論文では,近年話題となっている“人工知能”をテーマとした学生実験の設計と実践について述べる.情報工学分野の学生実験でよく実施されている画像処理やシステム制御といったテーマに比べて,人工知能の取り扱う範囲は広く,また各々が独立しているため,トピックを単純に並べただけではその関連性が掴みにくい.そこで我々は,ミンスキーの心的活動の6階層モデルを学生実験の土台に据え,その各階層に一つずつトピックを割り当てることで,トピック間の繋がりを強く意識させる学生実験を設計した.本学生実験では,小型移動ロボットがエネルギーを補給しながらポイントを獲得するタスクを設定し,シミュレータと実機(e-puck)による実験環境を用意した.実際に学生実験として3年間実施し,アンケート評価を行った結果,ミンスキーの心的活動の階層に各トピックが紐付けられたことで相互の関連性がよく理解できたという回答が多く得られた.
著者
宮田 仁 石原 一彦
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.167-172, 2001-08-20
参考文献数
4
被引用文献数
7

小学生を対象として「インターネットで, こんなページが出てきたら, 君ならどうする?」をテーマに, 各児童が7つのWebページを閲覧し, その中に埋め込まれた情報モラルや問題点に関してワークシートに記入しディスカッションを行った.その結果, 学習前には, 個人情報の保護や情報発信の留意点, うわさや誤情報への対処方法, 電子掲示板での中傷への対処が, 今回の調査対象者の小学生では対応が不十分であったが, 指導後, 正しい知識や正しい対処法を回答できた.また, 学習展開を分析した結果, 情報モラルに関する対処的なルールの指導ではなく, それらのルールの意味を正しく理解し, 新たな場面でも正しい行動, 自分の身を守れるような行動がとれるような指導展開が有効であることが明確となった.
著者
北神 慎司 山縣 宏美 室井 みや
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.37-40, 2004-03-05
参考文献数
7
被引用文献数
1

本研究では,視覚シンボル検出課題を用いて,北神ほか(2002)で示されたシンボルの認識容易性に対する白抜きシンボルの優位性を,背景の色を変更して再検討した.また,意味内容の事前学習,および,シンボル自体の意味の明瞭さの影響も併せて検討した.その結果,認識の速さという点において,白抜きシンボルの優位性はみられず,白抜きシンボルの優位性は,シンボルが配置される背景の色と,シンボルの地の色との関係によって変動する状況依存的なものである可能性が示唆された.また,先行研究と同様,事前に学習を行う方が,あるいは,もともと意味がわかりやすいシンボルの方が,認識が容易であることも示された.
著者
清水 康敬 堀田 龍也 中川 一史 森本 容介 山本 朋弘
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.115-123, 2010
参考文献数
13
被引用文献数
2

教員のICT活用指導力を向上させる教員研修Web統合システム(TRAIN)を開発した.このTRAINでは,教員のICT活用指導力の向上や校内でのICT活用の普及促進に役立つことを意図した短時間のビデオ・モジュール218本をストリーミング視聴ができるようにした.また,全ビデオ・モジュールのタイトルと内容説明,画面の一部,説明者名をA4版半ページ程度で分類整理したハンドブックを作成し,これを参考に視聴することができるようにした.さらに,TRAINを利用した自己研修,校内研修,神合研修への支援を強化するために,ビデオ・モジュールの中から50の実践事例を選んで,アドバイス付き事例を作成した.これらと関連した指導場面,実践事例とともにTRAINから提供した.教員のICT活用指導力に関する234件のFAQを提供し,このFAQを利用した学習も可能とした.このTRAINに関する教育委員会対象の評価を実施した.
著者
杉原 真晃 橋爪 孝夫 時任 隼平 小田 隆治
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.341-349, 2015-03-20 (Released:2016-08-11)

本研究では,大学初年次教養教育科目としてのサービス・ラーニングにおける現地での活動の質の向上という課題に対して,地域住民とともに活動を行う参与型の実践,評価者に地域住民も加わる実践,地域住民と教員が協働で評価基準を開発・活用するケースについて,評価基準の協働作成と学生への提示の有効性を検討した.その結果,現地での活動の目標の意識化・再設定,意義・方法・役割の明確化,現地の人々や他学生との意義の共有・一体感の獲得等に対して,評価基準が有用であることが明らかとなった.学習成果との関連については,評価基準に示された項目の中で,現地にて重要視されており,学生がそれを達成し,評価基準がそれに対して有用であったと感じられた項目が多い結果となり,本授業で活動・学習の質の保証・向上が概ね達成されており,協働作成した評価基準が有効に機能したことが明らかとなった.
著者
Kanji HIMENO
出版者
日本教育工学会
雑誌
Educational technology research (ISSN:03877434)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.5-13, 2017-11-25 (Released:2017-04-18)
参考文献数
19

This article reports on recent trends in research on classroom instruction and teacher education based on the educational technology approach in Japan. First it was surveyed research on classroom instruction and teacher education during the early period of educational technology. Then it traces the genealogy and background of research based on the educational technology approach, having divided the material into research on classroom instruction and teacher education. The article then shifts its focus to the activities of “SIG-02: teacher education and practical research,” one of the Special Interest Groups founded in 2014, and reports on the achievements and future challenges of five SIG study meetings and SIG sessions at three annual conferences.
著者
青山 郁子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-4, 2017

<p> 本研究は,高校生のインターネット上でのコンタクトリスク行動に関連する防御・リスク要因を特定することを目的とした. 高校生200名を対象に, ネット上でのコンタクトリスク行動, 通信機器でのフィルタリング・ペアレンタルコントロールの有無,ネット使用における保護者による統制実践, 保護者によるモニタリング, 接続自由, 保護者との信頼関係, 学校での所属感, バーチャルな人間関係への親近感を測定し,関連を検討した. 結果は,コンタクトリスク行動とフィルタリングの有無で実質的な差は見られなかった. コンタクトリスク行動の予測に関しては,学校での所属感, バーチャルな人間関係への親近感, 接続自由が有意な説明変数であった. </p>
著者
永野 和男 天花寺 博司
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.1-11, 1986-12-20

学習反応データの処理については,これまで統計的手法が主であったが,学習診断においては,教師の扱っている情報のほうが,実際にコンピュータにデータ化し入力できる情報より質・量ともに上回っているため,教師が主観的に判断した値や,判断過程そのものをパラメータとして扱えるようにする必要がある.本研究では,学習項目の関連情報と学習反応データをあらかじめ蓄積しておいた場合に,これに基づいて,教師の学習診断をシミュレートするシステムを開発した.このシステムは,1)会話形式で定義した項目関連構造から自動的に診断ルールを生成し,これを用いて診断を実行する,2)学習反応データに対応する下位目標の達成度を求める場合には,必ず教師の主観的判断を問い合わせる,3)判断ルールを蓄積しておき,以後の診断に再利用できる,4)教師でも利用できるように,なめらかな日本語会話で動作する,の特長をもつ.このシステムが実用にたえるものであるかを評価するために,実際の中学校数学の授業で収集した34時間分の学習データを用いて,1クラス全員について,診断を試みた.その結果,ほとんど教師の予測と一致した診断結果が得られた.このシステムは,教師の入力した診断ルールにより,診断過程をシミュレートしていることになるが,エキスパートシステムのようにベテラン教師の診断をまねるのではなく,教師自身に診断過程を明示し,意識化させる訓練システムとしての機能ももつことがわかった.
著者
姫野 完治
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.139-144, 2001
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究の目的は, 教職経験や教材経験の異なる教師を対象に, 授業過程の分節化を活用した調査を行うことによって, 教師の授業認知を比較検討することにある.現職教員と大学生の計5名に対し, 小学校2年算数科のある授業記録(VTR)を分節化する作業を課した.つぎに, 分節化の意図などについてインタビューを行った.これらの調査における発言記録を分析対象とし, 分析には各教師による発言の要旨を整理する方法と, 筆者が作成した9つの観点によって分析する方法を併用した.その結果, 教職経験や教材経験の豊富な教師ほど, 授業過程を構成している離れた分節や, 分節を集めた分節群を関係づけて認知していることが明らかになった.
著者
藤江 康彦
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.201-212, 2000
参考文献数
26
被引用文献数
4

本研究の目的は,教師による子どもの発話の「復唱」に,教授行為としてどのような意味があるのか,ということを明らかにすることである.小学5年の社会科単元「日本の水産業」の一斉授業(計7時間)を対象に,教師の復唱と後続する発話に着目し,カテゴリーの数量的分析と事例の解釈的分析を行った.その結果,次のことが明らかとなった.(1)教師は子どもの発話に対する応答として,復唱を多用していたが,復唱には,子どもの発話より教師の発話が後続する場合が多かった.(2)教師は教授意図に応じて復唱の機能と形状との組み合わせを使い分け,談話進行の円滑化や子どもの学習の進行に向けた教授行為として運用していた.(3)教師は,復唱を明示的評価の回避,授業進行の主導権の維持や授業進行のテンポの調整など,自らの教授行為の構成のために運用していた.よって,教師の復唱は発話内容としてではなく言語行為として,教授活動上の意味をもつといえる.
著者
赤堀 侃司
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.139-147, 1989
被引用文献数
3

授業を対象として,これを分析する方法を開発した.授業を教師と学習者のコミュニケーション過程としてとらえ,教師の教授行動と学習者の学習行動の相互作用を,単位時間の授業のなかから抽出する方法である.その方法は,従来の教授行動,学習行動のカテゴリー分析に改良を加えたものであり,カテゴリーの時系列データから,授業の特徴を表すカテゴリーの遷移パターンを抽出する方法である.その遷移パターンは,ネットワーク構造と階層構造の二つの形で表示することができる.授業の事例に適用し,(1)授業のなかで出現する頻度による遷移パターンの差異,(2)授業者(熟練教師と教育実習生)による遷移パターンの差異を検討した.その結果,遷移パターンの分析から,(1)では,出現頻度が小さくなるにしたがって,ネットワーク構造になること,(2)では,教育実習生は,教師主導型であり,単調な応答パターンであることに対して,熟練教師は,教師と学習者の双方コミュニケーショソ型であり,多様な応答パターンであることがわかった.本研究は,その分析方法の提案と適用結果について報告するものである.
著者
長倉 康彦
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.135-142, 1986

建築計画の分野のひとつとして,学校建築を対象とした計画的研究がはじめられたのは,1955年頃からである.建物が利用されている状況を観察・調査することから,教師と子供達の生活・行為と,学校建築空間との間の関係を分析する研究が主眼になり,爾来30年の間多くの研究蓄積をみるようになった.一方学校建築は社会的にも特に重要な建物であるから,学校建築を対象とした耐震性,学校開放,面積基準,システムズビルディングなどに関する総合的研究も多くの蓄積がある.本論文は,これらの研究成果を18項に分け,主要な研究文献リストを用意しながら,学校建築研究の展望をこころみたものである.