著者
中原 淳
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-35, 1999-06-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
31
被引用文献数
4

近年の学習環境論において学習者自身が学習過程の再吟味を行うことの重要性が主張されている.本論文の目的は,学習過程を重要視する学習環境のデザインと,それが学習者にもたらす変容を明らかにすることである.研究方法としては,「エスノグラフィー(ethnography)」を採用する.より具体的には,ある学習環境における空間配置・学習材・ストラテジ- (strategy)の3つの学習活動を構成する「リソース(resource)」について考察を加える.それをふまえた上で,他者に対する学習過程の内省的認知活動である「語り(Narrative)」とそれらリソースとの関係を論じる.上記の認知活動は,研究対象の実践において特異に観察された.「語り」は,3つのリソースが「協調(coordination)」して構成される内省的な認知活動である.学習者にとっての「語り」の教育的効果は,学習そのものをどう定義するかという認識のレベル-「メタ学習観」の転換・変容に存在する.以上の議論をふまえ,学習活動支援の方法としての「語り」を概観し,「語り」を誘発する学習環境のデザインについて本稿からの示唆を述べる.
著者
鈴木 智之
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.299-311, 2020-03-20 (Released:2020-03-30)
参考文献数
39

本研究の目的は,大学生が就職活動で企業に提出するエントリーシートに焦点を当て,エントリーシートに記載した就業希望文の基準関連妥当性を研究することにある.それによって,大学生の特性が企業に十分に理解され,適職に就けるようなエントリーシート選考法とはどうあるべきかを実証的に論じた.国内企業から実際の新卒採用選考試験で用いられたエントリーシートと採用面接データを取得し,予測的妥当性を分析した結果,エントリーシートに記載された19個の語について,採用面接成績別の語頻度平均値に有意差が見られた.パーソナリティ尺度との併存的妥当性を分析した結果,エントリーシートに含まれる一部の語の頻度とBig Five の各因子に有意な相関係数が見られた.さらに,有効性の評価を行った上でES の分析法を示した.
著者
滝田 亘 中山 実
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.suppl, pp.81-84, 2004-03-05 (Released:2017-10-20)
参考文献数
6

本研究では,文章を視覚と聴覚で提示した場合の記憶への影響を調べるために,課題文を視覚と聴覚で提示し,提示文章の内容について問題文により真偽判定する実験を行った.課題文に含まれる命題数が記憶に与える影響について,問題文での正答率と反応で検討した.その結果,3〜5命題課題において,視覚提示時の正答率は聴覚提示時の正答率より有意に高くなった.また聴覚提示について,2〜5命題課題においては,提示文章の命題数増加に伴い正答率は有意に低下した.問題文に対する判断の難易度を信号検出理論のd'を用いて検討した.その結果,視覚提示では命題数による低下は認められなかった.聴覚提示では,命題数増加に伴い,正誤の判断が有意に難しくなった.
著者
林 一真 梅田 恭子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.44109, (Released:2021-01-19)
参考文献数
20

本研究の目的は,1人1台のタブレット端末を活用した情報活用能力を育成する授業設計の留意点の提案である.この目標を達成するため,情報活用の場面を教育活動に応じて7つの区分に分け,公立小学校第6学年を対象として,1人1台のタブレット端末を活用した社会科の授業実践に取り組んだ.1学期は児童が自ら情報を収集し,整理,分析する「考える授業」,2学期は分析の結果を生かす「表現・伝達」をゴールに見据えた「探求的な学習」に取り組んだ.4回のスキル調査や評価テスト,5回のワークシートの内容や文字数の調査で,授業実践による児童の情報活用能力の変容を測り,分析を行った.
著者
澁川 幸加
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.44079, (Released:2020-11-19)
参考文献数
63

本稿の目的は,ブレンド型授業との比較・従来授業における予習との比較を通して,反転授業独自の特徴と定義を検討することである.検討の結果,反転授業は対面授業時の学習活動の質を向上したり新たな学習活動を取り入れたりするために授業外学習の時間の使い方を変えることに重きを置いているが,ブレンド型授業は対面学習と個別学習の組み合わせとテクノロジーの使用に重きを置いているという相違を明らかにした.また,従来授業における予習とは異なり,反転授業における事前学習には教師による学習内容の解説と丹念な設計という要素が含まれることを明らかにした.さらに反転授業は事前学習と対面授業の間に順序性,主と主の関係,不可分性があることが独自の特徴であると述べた.最後に,反転授業では事前学習と対面授業を連関させた授業設計をする必要性と,反転授業を契機に「対面」の価値を再考する議論の必要性を示した.
著者
高橋 薫 保坂 敏子 宇治橋 祐之 我妻 潤子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S42066, (Released:2018-10-04)
参考文献数
7

学習者の多様化が進む日本語教育では,多様な学習者の個人差を保管する一つの手法として,反転授業への関心が高まっている.しかし,反転授業では,デジタルコンテンツを自作することに対する技術的なハードルや,教材をLMS などにアップロードする際に生じる著作物利用の許諾申請など,著作権に関する心理的なハードルもあり,二の足を踏んでしまう人も多い.そこで,他者との対話を通して体験的に著作権を学ぶ,ワークショップ形式の著作権セミナーを開発した.セミナーの前後で質問紙調査を実施したところ,著作権に対する理解が進み,ワークショップ形式の参加型のセミナーが肯定的に評価されたことがわかった.
著者
岸 俊行 塚田 裕恵 野嶋 栄一郎
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.265-268, 2005
参考文献数
5
被引用文献数
13

講義におけるノートテイキング行動と事後テスト得点との関係について検討した.講義の情報をキーセンテンスごとに分類し, ノートテイキングされた項目とノートテイキングされた量について調べ, 授業後と2週間後に課したテストの得点との関係について分析した.その結果, 直後テスト, 2週間後のテストどちらにおいても, ノートテイキング量とテスト得点の間に強い相関が認められた.また, 項目ごとに検討した結果, 項目によってノートテイキングされる割合に差が有り, ノートテイキング有群は無群より有意に成績が良い傾向が見られた.その差は授業直後でより大きく, 時間の経過とともに解消していく傾向にあった.
著者
池尻 良平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.375-386, 2011-03-30 (Released:2016-08-07)
参考文献数
24

近年,高等学校において歴史の因果関係を問題解決のアナロジーとして活用することの重要性が指摘されている一方で,その効果的な学習方法は検証されていない.そこで本研究では,(1)歴史の因果関係を参考に現代の社会的問題における因果関係を構築させるための段階的な学習方法を設計し,(2)世界史を学習した高校生向けに,歴史の因果関係を利用しながら現代の因果関係を構築していくことを競いあう対戦型カードゲーム教材をデザインし,(3)教材の効果を検証した.その結果,本教材は歴史的事象と同じ性質の現代的事象を連想する力と,現代的問題の因果関係を歴史的問題の因果関係を参考に分析する力の向上に効果があることが示された.
著者
桂 瑠以 松井 洋
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Suppl., pp.013-016, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
13

本研究では,大学生を対象に2時点のパネル調査を行い,LINE 依存のメカニズム及びLINE 依存が精神的健康に及ぼす影響について検討を行った.その結果,1)LINE の使用量,LINE での自己演出が多いほどLINE 依存傾向が高まる一方,LINE での所属感が獲得されるほど依存傾向が低下すること,2)LINE 依存傾向が高いほど精神的健康が低下すること等が示された.
著者
安斎 勇樹 益川 弘如 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.287-297, 2013-11-20 (Released:2016-08-10)

本研究の目的は,協同制作を課題とした大学生向けのワークショップにおいて,創発的コラボレーションを促すプログラムの活動構成の指針を示すことである.本研究では,ジグソーメソッドと類推の効果を組み合わせた「アナロジカル・ジグソーメソッド」という活動構成を仮説として設定した.アナロジカル・ジグソーメソッドのほかに,ジグソーメソッドと類推の有無によって合計4群の活動構成を設定し,それぞれ2回(各6-7グループ)の実践を行い,各グループの制作プロセスを質的に分析した.その結果,アナロジカル・ジグソーメソッドによって活動を構成すると,創発的コラボレーションが促されることが示唆されたほか,視点の相違から類推が活用され,さらにそれが異なる視点から再解釈されたり,複数の概念を結びつけたりする可能性が示された.
著者
瀬戸崎 典夫 鈴木 滉平 岩崎 勤 森田 裕介
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.253-263, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究は,TUIを有するタンジブル天体学習用AR教材を開発した.また,開発したタンジブル天体学習用AR教材の教育現場における教材としての適性およびインタフェースについて評価した.次に,協同作業における学習者特性を観点として教材を評価した.さらに,本教材を使った協調学習における発話を分析することで,本教材の利点および改善点を明らかにし,本教材を用いた授業実践に向けての示唆を得ることを目的とした.その結果,本教材は学習者の興味を引きつけるとともに,月の満ち欠けのしくみの理解を促し得ることが示された.また,学習意欲を高める上で有用であることが示唆された.さらに,協同作業に対する意識が低い被験者においても協調学習を支援する教材として有用である可能性が示された.発話分析の結果,TUIやARを実装することにより,仮想環境内で現実環境のオブジェクトを関連付けることでき,学習者間の知識共有に有用であることが明らかになった.
著者
阿部 裕子 楠本 誠 久保田 善彦 舟生 日出男 鈴木 栄幸 加藤 浩
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.141-144, 2012
参考文献数
6

本研究は,「ごんぎつね」のクライマックス場面のマンガを,Voicing Boardで作成した.マンガ作成による視覚化と,児童の情景及び心情理解との関連を明らかにすることが,研究の目的である.その結果,以下のことが示唆された.物語の語り手の視点にある登場人物の心情は,マンガ作成の有無にかかわらず,理解しやすい.語り手の視点にない登場人物の心情は,マンガの作成を通してその視点が獲得できるため,理解が向上しやすい.複数の構図を想定できる場合は,情景理解が曖昧になり,マンガ作成による心情理解の効果を得にくい.
著者
益川 弘如
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.89-98, 1999-09-20
被引用文献数
16

ノートやメモなど自分が書いたものを後から見直すとき,作成時に利用した資料がすぐに参照できると,書かれた内容をより発展的に利用できると考えられる.また,他人のノートについても同様のことができると,お互いに相手が何をどう考えてきたかが分かりやすくなり,協調的な学習支援につながるであろう.そのような相互参照の履歴を活用する「相互リンク機能」を備えた協調学習支援ノートシステム「ReCoNote」を製作,実際に大学の授業で使用し,評価した.あるグループでは話し合いなどを進める前に,各自がお互いのノートどうしにリンクを作成して関連付けを行っていた.その相互リンクをみんなで活用して,お互いに考えたことをグループで共有しながら話し合いが進められ,質の高い教え合いが起きていた. ReCoNoteの活用により全体としてさまざまなノートや資料にリンクが結ばれ,協調的な学習が進んだと考えられる.
著者
常田 将寛 椿 美智子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.259-270, 2016-03-31 (Released:2016-03-23)
参考文献数
24

本研究では,批判的思考力に関わる3つのスキルに基づき大学生を対象にタイプ分けを行い,タイプ毎に批判的思考に関する態度や行動と能力の関係を分析するとともに,能力を高めるために態度や行動を通して寄与している要因を分析した.その結果,3タイプに分類することができ,批判的思考力に関わるスキルが比較的高いタイプでは小中学生時からの経験の積み重ねが現在の行動に影響を与えており,能力が身に付いていることが分かった.また,スキルが全体的に高くないタイプでは,過去からの積み重ねと結びついておらず,現在の行動が能力に影響を与えていること,文章コミュニケーション力のみ高いタイプでは,態度がその能力に影響を与えていることが分かった.そして,条件付き確率分布を考察することにより,批判的思考力に関わるスキルが高いタイプと低いタイプで,必要な行動や態度の強さによる能力向上の変化に違いがあることが分かった.
著者
藤原 康宏 大西 仁 加藤 浩
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.125-134, 2007
被引用文献数
7

近年の教育評価の研究では,学習の場面と独立した評価ではなく,学習の場面に埋め込まれた評価が試みられている.その方法の1つとして,学習者同士が評価を行うことが有用であることが知られている.相互に学習コミュニティメンバー全員の評価をすることは,メンバーの人数が多くなるにつれて困難になるため,評価すべき相手を選択する必要が生じる.その選択方法を考えるために,評価する学習者が,評価対象となっている学習者からも評価されるか否かにより評価が変化するかについて実験を行った.その結果,お互いに評価しあう方が甘い評価を行う傾向があり(「お互い様効果」),お互いに評価しあわない方が教員の行った評価に近いことが分かった.そこで「お互い様効果」を除去し合理的に評価すべき相手を選択し,相互評価を容易に実施できるツールを開発し,その評価を行った.学生と教員による評価の結果,相互評価をさせる場合に有効であることがわかった.
著者
尾澤 重知 森 裕生 江木 啓訓
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.41-44, 2012

Wikipediaは誰もが編集に参加できる世界最大の百科事典である.本研究では,大学教育の授業実践において,日本語版Wikipediaの編集を目指す活動を取り入れた授業をデザインした.授業ではWikipediaの編集方針でもある「中立的」「検証可能」な項目の検討を含め,研究活動で必要なスキルの育成を目指した.量的・質的分析の結果,学生の約半数が実際にWikipediaに投稿したこと,文献による根拠づけなど研究活動でも必要なスキルの習得につながったこと,投稿にあたって授業内BBSでのメンターや教員からのコメントや,学生間のやりとりが有用だったことなどを示した.一方,既存記事の削除を伴う編集の少なさなど課題も明らかになった.
著者
野上 俊一 丸野 俊一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-11, 2008
参考文献数
14

本研究は大学生が自己の学習状態と達成すべき学習目標の達成困難度を考慮に入れて,限定された学習時間の範囲内で,学習活動をどのように調整するかを検討した.実験の結果,学習目標の違いに関わらず,学習状態の悪い項目群より良い項目群を多く学習することが明らかになった.この結果は階層的システムモデル(学習目標が難しい場合は学習状態の悪い項目群を,容易な場合は学習状態の良い項目群を多く学習する)からの予測とは一致しなかった.しかし,達成困難度の高い条件での学習行動は最近接学習領域モデル(学習目標の達成困難度に関係なく,学習状態が中程度の項目群を多く学習する)からの予測と一致した.また,時間経過に伴った学習活動の変化と被験者の内省報告の分析から,どの学習目標条件においても,学習の初期段階では学習状態の良い項目群の学習を優先し,その後,残りの学習状態の悪い項目群の学習に移行する2段階の学習調整が示された.
著者
向後 千春 冨永 敦子 石川 奈保子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.281-290, 2012
参考文献数
14

eラーニングと教室でのグループワークを週替わりで交代に行うブレンド型授業を設計し,3年間に渡って実践した.1年目は通信教育課程向けのeラーニングコンテンツを流用し,2年目以降はブレンド型授業用に新規に開発した.ブレンド型授業導入以前の対面授業,ブレンド型授業の1年目,2年目,3年目の成績分布を比較したところ,1年目はほかに比べて成績高群が有意に少なく,成績中群が有意に多かった.しかしながら,2年目以降は,対面授業と有意な差はなかった.また,学習者のブレンド型授業に対する好みは,1年目よりも2年目以降が有意に高くなった.このことから,ブレンド型授業用に授業を設計すれば,対面授業と同程度の学習効果を上げることができ,かつ受講生からも受け入れられることが示唆された.しかしながら,一方で,対面授業に比べて,ブレンド型授業は不合格者が有意に多く,ブレンド型授業に馴染めない学習者が一定の割合で存在していることが示唆された.