著者
矢口 幸康
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.119-129, 2011-02-28 (Released:2011-06-28)
参考文献数
25
被引用文献数
4 1

共感覚的表現とは異なる感覚に属する語を組み合わせた表現である.共感覚的表現の理解は感覚の組み合わせによって変化することが知られているが,共感覚の言葉であるとされるオノマトペを修飾語としてもちいて検討した例はない.そこで,本研究はオノマトペを修飾語とした共感覚的表現における理解可能な感覚の組み合わせを検討した.研究1では,参加者に47語のオノマトペの感覚関連性の評定を求めた.結果,39語のオノマトペが,視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感のいずれかと関連した.研究2では,195種類の共感覚的表現がどの程度理解可能であるか評定を求めた.評定の結果,原則として低次感覚から高次感覚への修飾が理解可能であることが示された.また,修飾構造内で聴覚が他の感覚から独立した.
著者
坪井 寿子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2017 (Released:2017-10-16)

お菓子の自伝的記憶について懐かしさや食育などの社会文化的側面に関する検討(坪井 2016)を踏まえ、幼児期及び児童期に経験したお菓子に関する最も印象に残るエピソードの想起について調べた。幼児期については大学生133名を対象とした結果、家族と一緒に食べたエピソードが比較的多く見られた。また、エピソードの各評定値の平均値は、鮮明度は4.0、重要度は3.9、頻度は3.5、当時の気持ちは4.9、現在の気持ちは4.7であった。一方、児童期についても大学生126名を対象に同様に調べた。その結果、友達と一緒に食べたエピソードが比較的多く見られた。同じく、エピソードの各評定値の平均値は、鮮明度は4.2、重要度は3.6、頻度は2.8、当時の気持ちは4.9、現在の気持ちは4.8であった。更に、お菓子の種類やエピソード時の感情状態なども検討し、お菓子の自伝的記憶に意義に関して幼児期と児童期との比較検討を行った。
著者
永井 聖剛 山田 陽平
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心大会論文
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.27, 2013

創造性には,広範かつ新しい枠組みから物事を捉え新規かつ独創的なアイデアを産み出す「拡散的思考」,制約や状況に基づきアイデアを産出する「収束的思考」の2成分が存在する。創造性を促進する要因として“気分状態”は主要な研究対象であるが,本研究では,認知情報処理は身体の状態や動作に影響を受けるとする“身体性認知(Embodied Cognition)”の枠組みに基づき,「腕を大きく回す動きが(小さく回す動きよりも)広範で拡散的な思考を導き,拡散的思考が促進されるか否か」を検討した。「実在しないコメの名前」を考えるという創造性課題を課し,事前に「○○ヒカリ」という典型的回答を5例提示した。実験の結果,腕回し動作の大小は回答総数には影響を与えなかったが,大きく回す群では小さな群よりも典型例に縛られない非典型的なアイデアの回答比率が高く,拡散的思考が促進されることが明らかとなった。
著者
原田 悦子 運天 裕人
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.21, 2015 (Released:2015-10-21)

高齢者は人工物の創発的な利用が困難であるとされ(赤津・原田,2008),それが高齢者のICT機器利用の学習を阻害していると考えられる.そこで,本研究では高齢者の創発的な利用を促進する可能性として,若年成人との相互作用をとりあげ,高齢者同士,若年成人同士のペアと比較した際に,高齢者-若年成人ペアにおいてどのような創発的活動が見られるのか,検討を行った.各8組のペアにカプラ(単純な積み木)を渡し,自由に遊ぶという課題を行ったところ,高齢者-若年成人ペアでは,早い時期からさまざまな置き方を試みる,抽象化された作品を作る,などの創発的な行動が見られたのみならず,自分達の作品や活動に対する肯定的な評価や満足感が示された.高齢者-若年成人ペアのこうした特長は若年成人同士のペアよりもさらに高く,特に初対面の若年成人よりも初対面の「異世代」との活動は,コミュニケーションや活動を促進する可能性が示された.
著者
梶井 直親
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-12, 2017-08-31 (Released:2017-12-16)
参考文献数
45

近年,アニメーションはクールジャパン政策における海外に発信する日本のコンテンツの一つとなり,注目が集まっている.本研究は文章理解過程モデルの一つであるイベントインデックスモデルを援用し,アニメーション理解過程に影響する要因を検討した.また,アニメーションを二つのジャンルに分け,ジャンルによって理解過程に影響する要因が異なるかどうかも検討した.理解過程に影響する要因として,イベントインデックスモデルで提案されている五つの状況的次元とBGMの開始,BGMの終了を採用した.実験では,ショットごとの反応時間を測って従属変数とし,重回帰分析を行った.その結果,アニメのジャンルによって理解過程に影響する状況的次元が異なることが明らかとなった.一方,両ジャンル共にBGMの終了が理解過程に影響することが示された.アニメーションにおいてBGMは状況モデルの更新を促進させている可能性が考えられる.本研究の結果は,視聴者の理解に配慮したアニメーション制作を可能にするだろう.
著者
岩木 信喜 田中 紗枝子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.42, 2017 (Released:2017-10-16)

問題に対する回答に与えられる正答フィードバック(FB)を遅延させると、回答直後に与える場合よりも正答の記憶が定着すると言われてきた(e.g., Kulhavy, 1977)。しかし、手続き上の問題が指摘され、正答FBを与えてから再テストまでの時間(lag-to-test, Metcalfe et al., 2009)を直後FB条件と遅延FB条件の間で統制すると効果が消失したという報告がある。これについては、そのように統制してもなお効果を認めた研究(Mullet et al., 2014)もあり、結果が一致していない。本研究では、漢字熟語の読み課題を使って追試し、効果の有無を検討した。その結果、lag-to-testを統制した場合、遅延FBの学習促進効果は認められなかった。
著者
Ryo Ishibashi Taiji Ueno Satoru Saito Tatsuya Mima Matthew A Lambon Ralph Gorana Pobric
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.146, 2017 (Released:2017-10-16)

事物の意味を認知することは人間の持つ高次認知機能のうちでも特に中心的な機能の一つである。本研究では経頭蓋直流電流刺激(tDCS)を用いて、近年意味認知の中枢と考えられている大脳皮質左前側頭葉(ATL)の活動を促進したときに日本語単語意味認知能力の向上が見られるかどうかを検討した。結果としてtDCSによる類義語の判断成績向上が認められ、この効果は事前調査で難易度が高いとされた試行群において得に顕著であった。本知見はATL領域と意味認知との関係についてその因果的関係をさらに強力に立証すると同時に、意味認知障害の臨床においてtDCSが意味認知能力の維持・向上の補助手段として用いられる可能性について示唆するものである。
著者
羽生 奈央 小野 史典
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2017 (Released:2017-10-16)

Dehaene et al.(1993)は呈示された数字の偶奇判断を左右のキー押しにより行う際,小さい数が呈示された場合右よりも左キーでの反応が速くなり,大きい数が呈示された場合その逆になる効果をSNARC効果と呼んだ。これは左から右へ文字を読んでいく読みの習慣が原因であるとされている。日本では左から右への横読みの習慣に加え縦読みの習慣が存在しておりこれは読字方向に物理的な制限がかかる”ふきだし”内の文で顕著であると考えられる。本研究ではふきだしの形状(横長・縦長)がSNARC効果に与える影響を検討した。実験の結果横長ふきだし時には通常のSNARC効果がみられたが縦長ふきだし時にはSNARC効果はみられなかった。この結果はふきだしの形状が誘発する読み方向によりSNARC効果が影響を受けることを示しSNARC効果の原因が読みの習慣であるとするDehaene et al.(1993)の見解を支持する。
著者
田中 孝治 加藤 隆
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.39-47, 2009-08-31 (Released:2010-11-10)
参考文献数
34

本研究では,新たな知識の習得という実社会の学習に即した課題において,「再学習の機会を学習ではなくテストに用いる」,「学習時に意識的なメタ記憶判断を行う」,「再学習の時間間隔をあける」という三つの学習方略の効果を検証した.時間間隔をあけるという要因については他の学習方略の中に組み込む形で操作した.実験1a・1bでは,2回の学習フェーズをともに学習に用いる統制条件との比較において,再学習に替えてテストを行うことの効果および学習時に意識的にメタ記憶判断を行うことの効果は認められなかった.しかし,2回の学習フェーズの間隔を短くするときよりも長くするときのほうが成績が良いという分散効果が一貫して見られた.さらに実験2では,こうした分散効果が学習フェーズの間で行う挿入課題の質と難易度に影響を受けないことが示された.本研究において示された分散効果の頑健性と生態学的妥当性は,分散学習がさらなる加算的な効果をもたらすものと期待できることから,分散学習をあらゆる学習方略とともに取り入れることを推奨するものといえる.
著者
清水 武
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.25-34, 2005-03-31 (Released:2010-10-27)
参考文献数
53

本研究の目的は,生態心理学におけるダイナミックタッチ研究について,現在の課題と今後の展望を論じることであった.最初に,生態心理学の認識論的背景とされるGibsonの理論について,伝統的な知覚研究の枠組みと対比させて位置づけた.次に,慣性テンソルという物理量のモデルによって,この触知覚のメカニズムを明らかにした研究成果と意義を紹介した.これらの議論を踏まえ,現在のダイナミックタッチ研究が批判される可能性のある3つの問題点を指摘した.第一は,慣性テンソルモデルについての解釈が十分でなく,それによって新たな問題が生じること,第二は,知覚システム論の観点から求められる探索行為のプロセスに関する研究がほとんどないこと,第三は,人間の多様な知覚を包括可能とする分析の方法論が発展していないことである.本研究は最後に,これらの問題が生じる理由について,精神物理学の方法論的特徴との関係から議論し,人間の知覚経験を全体的に構造化する必要性について述べ,人間科学的アプローチの必要性を指摘した.
著者
大住 倫弘 今井 亮太 森岡 周
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2014 (Released:2014-10-05)

近年,視覚的身体像を操作するリハビリテーションアプローチが慢性疼痛患者に応用されてきている.しかし,視覚的身体像を操作することによって「不快な身体情緒」が生じてしまうと鎮痛効果が得られにくいことも考えられている.そこで今回,ラバーハンド錯覚手法を応用して,健常者の視覚的身体像を操作した時に惹起される不快な身体情緒が痛みを変化させるのかについて調査した.不快な身体情緒を惹起させるような,「傷ついたラバーハンド」,「毛深いラバーハンド」,「腕がねじれているラバーハンド」を作成した.そして,各ラバーハンドに身体所有感の錯覚を生じさせた時の,不快感および痛み閾値を測定した.その結果,「傷ついたラバーハンド」と「毛深いラバーハンド」に不快感は生じたが,痛みが増悪したのは「傷ついたラバーハンド」のみであった.このことから,痛みという文脈における不快な身体情緒が痛みを変化させることが明らかとなった.
著者
山本 偲 漁田 武雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.46, 2014 (Released:2014-10-05)

色に対する情動反応を測定する研究において,背景色に関する研究はされていなかった。焦点情報を色刺激,環境的文脈を背景色とすると,色彩情動反応は色彩に対する情報処理の結果と言える。焦点情報を認知する時に環境的文脈が影響を与えているのであれば,背景色も色彩情動反応に影響を与えていると考えられる。そこで本研究では,背景色の明るさ,背景色の情動反応等,環境的文脈としての背景色が与える情動反応への影響を探るため,3種類(白・グレー・黒)の背景色において色に対する情動反応を測定した。その結果,背景色自体が色相に対する情動反応に影響を与えることがわかった。また,交互作用が有意でないため,背景色の違いによって色相情動反応が変化するということはない。これを踏まえ,色相とトーンの組み合わせにおいて,情動反応に与える背景色に注目することが求められる。
著者
赤嶺 亜紀
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.140, 2015 (Released:2015-10-21)

本研究では女性大学生の化粧が対人行動に及ぼす影響を検討するため,女性実験参加者の化粧を操作し,前方に加え,後方と左右の4方向のパーソナルスペースを測定した。またSTAI日本語版状態不安尺度(清水・今栄,1981)用いて,化粧が感情と対人積極性に及ぼす効果を検討した。
著者
井口 望 鈴木 奈津子 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.82, 2015 (Released:2015-10-21)

本研究では心理学的にどのような警告音が人々の適切な判断や行動を促進するのかを検証するために、音によって知覚される緊急性を操作し、難しい認知課題の遂行に与える影響を明らかにする実験を行った。実験では「音刺激によって同じ刺激に対する反応を切り替える」という場面を想定し、ストループ様サイモン課題を用いた。課題遂行中に提示される音刺激(緊急性高/低)を合図に課題の難易度(難/易)を切り替えるように教示した。その結果、緊急性が高い音の呈示後3試行において、課題の難度が高いとき、反応時間及びエラー率が増加した。このことから、音の緊急性知覚の処理と課題遂行に必要な注意資源が共有されている可能性を指摘することができた。緊急性の高い音の近く処理に多くの資源を消費されてしまうと、難しい課題遂行に必要な注意資源が枯渇し、課題遂行に干渉すると考えらえる。
著者
安田 晶子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.21-21, 2009

多くの人が経験する音楽聴取による感動の生起メカニズムの一端を明らかにするため,以前の研究では,感動と身体反応の関係性を検討した。その結果,音楽聴取による感動と複数の身体反応が複合的に関係していることが示唆された(安田他, 2008)。そこで本研究では,感動と関連する身体反応が,どのような音響特性によって喚起されるのかを検討した。特に本研究では,数ある音響特性の中から音量の変化傾向に着目し,音量の変化傾向が感動と関連の深い身体反応に及ぼす影響について検討することを目的とした。聴取実験の結果,鳥肌が立つ,胸が締め付けられる,背筋がぞくぞくする,興奮するといった身体反応は,音量が増大傾向(クレッシェンド)の場合に生起しやすいことが示唆された。
著者
高山 智行
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.92-92, 2011

大喜利に対して感知されるユーモアのタイプが、その時の生理反応(脳波)に及ぼす影響を検討した。まず,予備実験において,36名の大学生が30の大喜利作品を,遊戯的ユーモアあるいは攻撃的ユーモアを感知する程度について評定し,それらの中から,どちらか一方のユーモア感知度が相対的に高い作品を3作品ずつ選別した。本実験では,それらタイプ別各3作品を刺激材料として,18名の大学生を対象に,大喜利閲覧前後での脳波を計測するとともに,大喜利作品のユーモア感知度の評価を改めて行った。その結果,両タイプの材料は「おかしさ」の評価自体には違いが認められなかったが,遊戯的ユーモアの感知度が高い作品に対しては,広範囲の測定部位でα波,β波ともに有意に増加し,攻撃的ユーモアの感知度が高い作品に対しては,主に側頭部位でβ波が有意に増加した。遊戯的ユーモアはリラックスと同時に脳活動の広範な活性化をもたらすのかもしれない。
著者
関口 貴裕 大東 玲子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第5回大会
巻号頁・発行日
pp.156, 2007 (Released:2007-10-01)

顔記憶の個人差と,顔に対する記銘時の注視パタンの関係を眼球運動計測により検討した。実験参加者45名に,液晶ディスプレィ上に提示された未知の人物20名(動画)の印象判断を行わせ(偶発記憶課題),その際の注視パタンを記録した。そして8分間の挿入課題の後,写真刺激を用いて先ほど見た顔に対する再認記憶課題を実施した。顔記銘時の注視パタンを再認記憶成績高群,低群で比較したところ,両群ともに眼,鼻,口の内部特徴を,頬,額,輪郭,髪の外部特徴に比べ長く注視していたが,内部特徴に対する注視時間は高群の方が低群よりも長く,外部特徴に対する注視時間は低群の方が高群よりも長くなっていた。この結果から,顔の内部特徴を長く注視することが顔記憶に促進的であり,顔を見た場合にどの領域をより長く注視するかの違いが顔記憶の個人差に関わることが示唆された。
著者
野内 類 兵藤 宗吉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.71-78, 2007-08-31 (Released:2010-09-29)
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

気分一致記憶とは,気分と一致した感情価をもつ刺激語の記憶成績が良くなる現象を指す.本研究は,自伝想起課題と修正自伝想起課題を用いて気分一致記憶を検討した.大学生90名をランダムに実験条件に割り振った(ポジティブ,ネガティブ,ニュートラル).ポジティブとネガティブ気分群は,気分誘導のために音楽を聴取した.各群の被験者には4秒間隔で刺激が呈示された.刺激は快語30語と不快語30語の形容詞を使用した.自伝想起課題の参加者は刺激語にあてはまるエピソードを生成し,それが自分の経験にあるかどうかの再認を行った.修正自伝想起課題の参加者は,刺激語から自分自身のエピソードを生成するのが簡単か難しいかどうかを判断した.実験の結果,自伝想起課題の再生率においてポジティブ気分でもネガティブ気分でも気分一致記憶が見られ,修正自伝想起課題では気分一致記憶が見られなかった.このことから,再認処理もしくは生成・再認処理が気分一致記憶の生起に重要であると考えることができる.
著者
浜田 寿美男
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.133-139, 2007-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

わが国では刑事取調べにおいて無実の人が嘘の自白をする例が少なくない.この虚偽自白の典型例は強制下の迎合によるものである.身柄を拘束された被疑者に対して,取調官が被疑者は犯人に間違いないと確信して取り調べるが,それはしばしば証拠なき確信である.この状況のもとで,被疑者は一般に想像されるよりはるかに強い圧力をこうむる.被疑者は身近な人々から遮断され,生活を警察のコントロール下に置かれ,屈辱的なことばを投げつけられ,弁明しても聞き入れてはもらえない無力感にさいなまれる.しかもこの苦しみがいつまで続くかわからず,見通しを失ってしまう.そこでは有罪となったときに予想される刑罰が自白を押しとどめる歯止めにならない.取調べ下の苦しみはたったいま味わっているものであって,それを将来に予想される刑罰の可能性と比べることはできないからであり,また,無実の人にとっては予想されるはずの刑罰に現実感をもてないからである.虚偽自白の心理は,第三者の視点からではなく,まさに渦中の当事者の視点からしか理解できない.この渦中の視点からの心理学をどのように展開するかは,今後,刑事事件を超えた課題となりうるはずである.