- 著者
-
清水 武
- 出版者
- 日本認知心理学会
- 雑誌
- 認知心理学研究 (ISSN:13487264)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, no.1, pp.25-34, 2005-03-31 (Released:2010-10-27)
- 参考文献数
- 53
本研究の目的は,生態心理学におけるダイナミックタッチ研究について,現在の課題と今後の展望を論じることであった.最初に,生態心理学の認識論的背景とされるGibsonの理論について,伝統的な知覚研究の枠組みと対比させて位置づけた.次に,慣性テンソルという物理量のモデルによって,この触知覚のメカニズムを明らかにした研究成果と意義を紹介した.これらの議論を踏まえ,現在のダイナミックタッチ研究が批判される可能性のある3つの問題点を指摘した.第一は,慣性テンソルモデルについての解釈が十分でなく,それによって新たな問題が生じること,第二は,知覚システム論の観点から求められる探索行為のプロセスに関する研究がほとんどないこと,第三は,人間の多様な知覚を包括可能とする分析の方法論が発展していないことである.本研究は最後に,これらの問題が生じる理由について,精神物理学の方法論的特徴との関係から議論し,人間の知覚経験を全体的に構造化する必要性について述べ,人間科学的アプローチの必要性を指摘した.