著者
坪見 博之 渡邊 克巳
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第9回大会
巻号頁・発行日
pp.23, 2011 (Released:2011-10-02)

日常生活において高次認知活動を遂行するためには、目標行動に必要な情報をアクティブに短時間記憶することが必要である。この記憶機能はワーキングメモリと言われるが、保持できる容量は物体3個程度であり、保持機能に厳しい制約がある。外界には目標行動に不必要な情報も存在するので、効率的な行動達成のためには、妨害情報を排除しながら現在必要な情報のみを保持するようコントロールすることが必要となる。本研究では、これらのワーキングメモリ機能の発達過程を横断的に検討した。その結果、保持に関するワーキングメモリ容量は10才で、コントロール機能は12才で、成人と同様にまで発達することが明らかになった。また、単純な保持ではなく、コントロール機能が高い児童ほど学業成績も高いという正の相関を持つことも示された。
著者
有馬 多久充 梁 葉飛 森田 愛子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第21回大会
巻号頁・発行日
pp.83, 2023 (Released:2023-10-18)

内声化は頭の中で文章を音読する活動のことであり,内声化中に聞こえる声の種類や鮮明さには個人差がある。本研究では,大学生を対象に挿絵の有無 (研究1) や会話主の種類 (研究2) が,内声化の具象性にどのような影響を与えるか検討を行った。研究1では,挿絵の有無を操作した文章の読解後に,研究2では,文章の会話主 (人間・人間以外) を操作した文章の読解後に,内声化量と内声化の具象性について評定を求めた。その結果,研究1では,挿絵なし条件では,登場人物に合わせた声での内声化や声の使い分けがやや行われにくかった。研究2では,人間以外が会話主である条件では,文章によって内声化時の声の種類数が変化する人が多かった。これらの結果から,個人の内声化のしかたは一貫しているわけではなく,聞こえている声の種類数は文章によって変化しており,会話主の種類といった文章の特性によって変化のしかたが異なることが明らかとなった。
著者
澤田 和輝 野村 理朗
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第21回大会
巻号頁・発行日
pp.9, 2023 (Released:2023-10-18)

大自然の絶景等の広大かつ既存のスキーマを超越する刺激に対して生じる「畏敬の念」と呼ばれる感情反応がある.畏敬の念−好奇心−創造性の関連において,これまでの研究は各心理特性の個人間変化に着目するあまり個人内変化については未検討であった.本研究では,20代を対象に2時点4ヶ月間隔で畏敬の念,好奇心,創造的自己を測定し,潜在変化モデルを用いることで各変数の個人内の変化量の関連を検討した(N = 257; 平均年齢26.10±3.17歳,女性183名).潜在変化モデルにより推定された各変数の変化量に対して,ブートストラップ法を用いて媒介分析を実施した結果,畏敬の念を感じる頻度が増加した個人ほど知的好奇心が増加し,転じて自己を創造的に感じる程度が増加することが明らかになった(間接効果b = 0.18, 95%CI [0.09, 0.29]).本研究の結果は,個人内変化の観点から畏敬の念が知的好奇心の向上を介して創造性を促進することを新たに示唆する.
著者
矢ノ倉 萌 渡辺 めぐみ
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第21回大会
巻号頁・発行日
pp.94, 2023 (Released:2023-10-18)

音楽テンポの知覚と心拍数や内受容感覚の精度の関係を実験で検討した。予備調査より基準刺激のテンポを86.50bpmとし,そのテンポを0.5倍から1.5倍に0.1倍ずつ変えた11種類の比較刺激を作成した。参加者には基準刺激と比較刺激の差を視覚的尺度で回答させ,主観的等価点(PSE)とテンポが実際に位置する基準点の差を得た。実験前後に心拍数測定と内受容感覚として心拍数の自覚回数の報告を行わせた。テンポ倍率を独立変数,PSEと基準点の差を従属変数として一要因分散分析を行うと,テンポが基準値に近い程その差は有意に小さかった。参加者を群分けし,独立変数に基準刺激と心拍数の差または内受容感覚の精度を加えた二要因分散分析を行うと,群間の差に前者では有意差がなく後者では有意傾向が見られた。テンポ倍率が0.7倍と0.8倍の時,内受容感覚が高精度な群の方がPSEと基準点の差は有意に小さく,内受容感覚の精度がテンポ知覚に関わることが示唆された。
著者
鈴木 萌々香 氏家 悠太 高橋 康介
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第19回大会
巻号頁・発行日
pp.15, 2022 (Released:2022-04-20)

複数の顔写真を周辺視野に次々に提示すると不気味さや歪みを感じる(FFDE)。本研究ではFFDE刺激として顔全体提示、上半分提示、目のみ提示、目非提示、輪郭非提示の5条件を用いて、顔の各部位がFFDEの強さに及ぼす影響を検討した。実験では250 msごとに写真を切り替えながらFFDE刺激を10秒間提示し、刺激観察中に歪み知覚が生じたらボタンを押すこと、刺激提示後に歪みと不気味さの主観的強度を7段階で回答することを求めた。実験の結果、提示する顔部位により歪みや不気味さの主観的強度が異なり、顔全体>輪郭非提示>上半分>目非提示>目のみ提示の順となった。また刺激観察中に歪みを知覚するまでの潜時も提示する顔部位により異なっていたが、主観的強度の順序とは乖離が見られた。以上の結果から顔の全体処理がFFDEの生起に関与すること、またFFDEの強度と潜時には異なる決定要因が存在することが示唆された。
著者
実吉 綾子 稲田 尚子 敷島 千鶴 赤林 英夫
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第21回大会
巻号頁・発行日
pp.84, 2023 (Released:2023-10-18)

幼児、児童を対象とし、スマートフォンやタブレット等を用いて語彙力、視覚的ワーキングメモリ、推論能力を測定するためのオンライン認知検査を開発した。語彙力は「絵画ごい発達検査」を参考に、4種類のイラストを提示し、音声で提示される言葉に合致するイラストを1つ選択させ、その正答数を測定した。視覚的ワーキングメモリは欠落ドット検出課題(Di Lollo,1977)を参考に、マトリクス内に果物のイラストを配置した二つの画像を1000ミリ秒の刺激間間隔で継時提示し、画像を統合した時に空白となるセルを選択させその正答数を測定した。推論能力は「レーブン色彩マトリクス検査」を参考に、標準図案の欠如部分に合致するものを6つの選択図案の中から1つ選択させその正答数を測定した。全国から無作為抽出された年中児から小学2年生1300人以上から取得したデータについて、成績の分布、課題間の相関、年齢との相関などを検証する。
著者
三雲 真理子 水政 沙貴
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2015 (Released:2015-10-21)

本研究では、携帯情報端末上のアプリを使用してバーチャルペットとの触れ合いによってどのような気分変化が現れるかについて、女子大学生にバーチャルペットと触れ合う前後の気分評定(POMS短縮版30項目を使用)を求めて検討した。その結果、本研究で使用したような単純な育成アプリであっても隙間時間に利用するだけで緊張‐不安・抑鬱‐落ち込み・怒り‐敵意・疲労・混乱のような気分が緩和され、一時的な癒しやリフレッシュにつながることがわかった。また、このようなバーチャルペットによる気分改善効果は、日常的に育成アプリを使用している人やペットを飼育していない人にとってのほうが、やや大きく現れることが示唆された。このことから、ペットに触れる機会が減っている我々にとって、バーチャルペットと短時間触れ合うことは、直接ペットに触れ合う代替機能を果たすとは言えないまでも一時的な癒しやリフレッシュ効果はもつと考えられる。
著者
本間 喜子 川口 潤
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第9回大会
巻号頁・発行日
pp.138, 2011 (Released:2011-10-02)

意図的な記憶抑制は中央実行系の働きが介在していることが明らかになっており (Depue et al., 2007),実行系は記憶の制御だけでなく,感情制御においても重要な役割を果たしていることが示されている (Ochsner et al., 2004)。そこで,意図的な記憶抑制の制御によって感情制御が生じる可能性をThink/No-Thinkパラダイムを用いて検討した。ニュートラルとネガティブ刺激の感情価の変化を比較した結果,ニュートラル刺激では変化が認められなかったが,ネガティブ刺激ではよりネガティブ方向に変化することが示された。よって,記憶抑制の制御では感情の抑制制御は生じないといえる。しかし,本実験では記憶抑制も示されなかったため,十分に記憶の制御が作用せず,感情の低下制御がなされなかった可能性も考えられる。加えて,記憶抑制の困難さは感情制御が生じるかどうかと関連する可能性が示唆された。
著者
伊丸岡 俊秀
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第5回大会
巻号頁・発行日
pp.139, 2007 (Released:2007-10-01)

本研究では,単語の意味から想起される色が探索効率に与える影響を,単語の視覚探索課題を用いて調べた.実験では,色を想起しやすい語10語(色想起条件;例えば“空”)と想起しにくい語10語(色非想起条件;例えば“心”)を用いた.全ての単語には課題とは関係のない色がつけられていた.探索目標となる単語は,事前に被験者ごとに調査しておいた単語から想起される色(“空”ならば薄い青)あるいは,赤・青・緑・黄・橙・白のいずれかで彩色され,妨害項目は目標項目の輝度にマッチした別々の色によって彩色された.実験の結果,想起条件に関わらず,想起した色がつけられた目標に対する探索効率が他の色が着けられたときに比べて良くなることが示された.目標が想起した色ではない色で彩色されたときの効率低下は色想起条件で大きく,単語によって想起された色と実際に単語に着けられた色との不一致が今回見られた効果の原因であると考えれる.
著者
宮城 円 中尾 敬 宮谷 真人
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.142, 2015 (Released:2015-10-21)

同程度に好ましいアイテムから好ましい方を選択すると,自らが選んだものの選好は増加し,選ばなかったものの選好は減少する。この現象は“選択による選好の変化”と呼ばれ,近年自らが選択したものの選択率を上げるといった強化学習によって説明できることが示唆されている。抑うつ傾向者では,ギャンブル課題等において強化学習による価値の学習が生じにくくなることが知られているが,選択による選好の変化について抑うつ傾向との関連は明らかになっていない。本研究は選択による選好の変化と抑うつ傾向との関連についてBlind choice paradigmを用いて検討した。その結果,抑うつ傾向者ほど選ばなかったものの選好が減少しにくいことが明らかとなった。一方,選んだものの選好の変化と抑うつ傾向との関連はみられなかった。このことから,選んだものと選ばなかったものの選好の変化は異なる過程により生じている可能性が示唆された。
著者
満田 隆 阪口 遼平
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.131, 2015 (Released:2015-10-21)

画像選好判断において,対象が顔の場合は見慣れた画像を好む傾向(親近性選好)が生じ,対象が風景の場合は初めて見る画像を好む傾向(新奇性選好)が生じる。本研究はその詳細を明らかにするために,まず,魅力が大変高いモデル,魅力の高い高校生,低い高校生の顔写真を用いた選好判断課題を行い,顔の魅力度と親近性選好の関係を調べた。その結果,魅力の低い顔は高い顔と比べて親近性選好が強く生じた。また,魅力が大変高い顔では親近性選好と新奇性選好のいずれも生じなかった。つぎに,ティアラ,リビング,家具,住宅街,銃,食器,星雲,抽象画を用いた選好判断課題を行った。その結果,リビングと星雲で新奇性選好が生じ,その他のカテゴリでは偏りは生じなかった。また魅力度と新奇性選好に相関があった。以上の結果より,魅力の低い顔画像では親近性選好,顔以外の画像では画像全体が変化する魅力の高い画像で新奇性選好が表れることが示された。
著者
髙橋 麻衣子 片岡 史絵 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.124, 2016 (Released:2016-10-17)

音楽を聴きながら,電車に乗りながら等,我々は背景に無関連な音が提示されている中で読書をする場合がある。本研究は,このような背景音の種類によって小説の読解成績がどのように異なるのかを検討することを目的としたものである。24名の参加者に,歌詞あり音楽,歌詞なし音楽,歌詞朗読,無音の4条件の背景音提示下で小説から抜粋した300字程度の文章を読ませ,主観的な理解度の評定と内容の要約,登場人物についての記述の作成を求めた。その結果,歌詞朗読条件の主観的理解度や文章要約の質が,他の3条件のものより低いことが明らかとなった。登場人物の記述の成績は条件間で差がなかった。さらに,読解活動中の参加者の視線を計測して分析したところ,歌詞朗読条件の読解中の注視時間と注視回数が他の3条件よりも多いことが示された。以上の結果から,小説の読解時には音楽にのせていない意味のある音声の提示が読解を妨害することが考えられた。
著者
眞嶋 良全
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.69, 2015 (Released:2015-10-21)

迷信的信念に関する先行研究の多くは,超常信奉が思考スタイルによって予測可能であることを示している。本研究は,これら先行研究で見られた信念と認知能力・スタイルの間の関連性が,疑似科学的信念,特に通俗的心理学神話においても観察されるかどうかを検討した。103名の学部学生が,認知スタイル・能力,科学リテラシーおよび通俗的心理学神話への信奉の程度を測定する質問に回答した。重回帰分析の結果,通俗的心理学神話への信奉は,分析的思考スタイルのみによって予測されることが示され,直観的思考スタイル,認知能力,科学リテラシーは予測力を持たないことが示された。この結果は先行研究に沿っているものの,分析的思考傾向が強い者ほど信念も強いという,先行研究とは逆のパターンが観察された。この違いは,先行研究との参加者集団の違い,特に文化に依拠した思考スタイルの違いから生じた可能性がある。
著者
篠原 恵 松下 戦具 森川 和則
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2016 (Released:2016-10-17)

株価の予測は、過去の変動から未来の変動を予測する賭け行動である。このような事態では、物事の変化の受け止め方に関する性格特性が賭け行動に影響する可能性がある。しかし、株価の予測への性格特性の効果はほとんど調べられていない。 そこで、本研究では、世の中や人生の移り変わりについての見方である無常観が、株価予測にどのように影響するかを調べた。 実験課題は、株価の変動を示すチャートを観察し、その後の株価が上がるか下がるかを予想することであった。実験の結果、チャートが上昇トレンドの場合、無常観の低い参加者はその後の株価も上昇すると予測する傾向があった。一方、無常観の高い参加者は、上昇の継続と下降への反転を同程度予想した。これらの結果は、無常観の高い人は、賭け行動においても中立的なあるいは保守的な予測を行うということを示している。
著者
神原 歩 満石 寿 原田 祐規
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第20回大会
巻号頁・発行日
pp.7-8, 2022 (Released:2022-11-24)

コロナ禍になり,親しい人とオンライン上で時間を過ごす人が増えた。本研究は,親密な他者とオンライン上で会うことが,直接会うことと同様の身体的・心理的効果をもたらすのかを検討した。参加者は22組の友人ペアで,独り群(個室に1人),対面群(友人と同じ個室),オンライン群(zoomを介した画面越しに友人が居るが個室に1人)の3群に割り振られた。参加者は個室でストレス課題が与えられ,課題前,課題中,課題後の3時点の心理指標(肯定的感情,覚醒度)と身体指標(血圧,心拍)が測定された。その結果,課題後の身体指標に群間の差が認められ,オンライン群と対面群は,独り群に比べてストレス後の回復が早かった。一方,心理指標には群間の差は認められなかった。従って,親密な他者の存在の効果は,オンラインと対面の両方で認められることが判明した。そして,その効果は認知的プロセスを経ずに身体に直接影響を与えている可能性が示された。
著者
武藤 沙羅 松香 敏彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.79, 2008 (Released:2008-11-10)

R. Plomら(1965)は質問紙法を用いて、1オクターブ間における代表的な整数比の和音に対する不協和曲線を発表した。彼らの不協和曲線は、現代も多くの音楽実験などにおいて参照され、協和・不協和を定量的に論じる基礎となっている。本研究は、既存の不協和曲線が数値計算で出されたこと、発表以降の音楽の多様化などから、実測値を用いた再検証を試みた。 本実験では、先行研究で使用された「心地いい-心地悪い」に加え19種の形容詞対を使用し、被験者の複数の和音に対する印象を集計した。 その結果、「心地いい-心地悪い」においては先行研究とほぼ一致した値が得られた。 また、複数の形容詞を用いたことによって、多面的な協・不協和音の性質の考案や、不協和曲線の見直し、新しい解釈の可能性を示すことができた。
著者
寺本 渉 吉田 和博 日高 聡太 浅井 暢子 行場 次朗 坂本 修一 岩谷 幸雄 鈴木 陽一
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第8回大会
巻号頁・発行日
pp.37, 2010 (Released:2010-09-01)

背景的・空間的な「場」の本物らしさに関係する臨場感はよく取り上げられるが、場面の印象にとって重要な前景的要素(対象や事象など)の本物らしさを表す感性については検討されていない。本研究では,この前景的要素の本物らしさに対応する感性を「迫真性」と定義し,臨場感との比較を通じて,その時空間特性を検討した。まず,「鹿威し」がある庭園風景を素材とし、その提示視野角と背景音の音圧レベルを操作した。その結果、臨場感は視野角も音圧も大きいほど高まるが,迫真性は視野角が中程度,背景音が実物と同じ場合に最も高くなることがわかった。次に,鹿威しの打叩映像と打叩音の時間ずれを操作した結果,臨場感は音が映像に先行しても高く維持されるのに対し,迫真性は音が映像に対して遅れても維持された。以上の結果は,臨場感と迫真性は異なる時空間情報によって創出される独立した感性であることを示唆する。
著者
松田 憲 牛尾 琴 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第19回大会
巻号頁・発行日
pp.11, 2022 (Released:2022-04-20)

単純接触効果において,過度の反復呈示は刺激への心的飽和が生じて好意度の上昇を妨げることが知られている。松田ほか(2019)は,女性アバターを反復呈示する毎に化粧を変化させて新奇性を付加させることで,心的飽和の生起が抑制されて好意度が上昇することを示した。しかし男性参加者にはこのような結果が見られず,化粧変化が男性にとって身近でないことが原因として考えられた。そこで本研究では,髪型を変化させることで,両性別の参加者に対して単純接触効果が生じるかを検討した。呈示刺激は男女のアバターで,予備調査に基づいて事前好意度の高低を操作した。参加者は反復呈示されたアバターに対する事後好感度と親近性,新奇性を評価した。実験の結果,女性参加者は,髪型変化によって特に事前好意度の高い女性アバターへの単純接触効果が促進された。一方で,男性参加者には,先行研究と同様に,髪型変化による単純接触効果の促進は見られなかった。