著者
井関 紗代 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第15回大会
巻号頁・発行日
pp.115, 2017 (Released:2017-10-16)

ただ商品を触るだけで,自分の物であるかのような感覚(所有感)が生じることがわかっている. 本研究では,商品を触るイメージをするだけで,所有感が高まり,その結果,商品に支払ってもよい金額(支払意思額)も高まるのか検討した. さらに,エフェクタンス動機づけが,触るイメージの効果に及ぼす影響についても検証した. エフェクタンス動機づけとは,環境をコントロールしたいと動機づけられることであり,所有感を抱くことは,そのコントロール欲求を満たすことにつながると考えられる.結果として,触るイメージをすると支払意思額が高まり,その効果は,商品に対する所有感を完全媒介していることが示された.さらに,エフェクタンス動機づけが高まると,所有感が高まり,支払意思額に影響を及ぼすことも確認された. よって,マーケティングにおいて,触るイメージの想起やエフェクタンス動機づけを高めることが有益であると考えられる.
著者
澤田 和輝 野村 理朗
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

大自然や偉大な人物などの,既存の認知的枠組みの更新を必要とする広大な刺激に対し生じる感情反応を畏敬の念と呼ぶ.先行研究より,畏敬の念は認知的制約からの解放を促し,拡散的創造性を高めることが示されているが,その詳細な心理学的機序については不明な点が多い.とりわけ,いくつかの快感情が拡散的思考を促進することを考慮すると,未検討である他の快感情との比較検討を行う必要がある.したがって,本研究では,学生21名を対象に,VR動画による感情導入(畏敬/楽しさ/中性)と,日用品の創造的な用途を生成する代替用途課題を用いて,先行研究であるChirico et al. (2017)の概念的追試を行い,畏敬の念が拡散的思考に及ぼす影響について検討した.その結果,畏敬条件において,統制条件よりも,創造性得点(e.g., 流暢性)が高かった.この結果は,先行研究の結果を再現するだけでなく,他の快感情に見られない畏敬特有の効果を示唆している.Awe is an emotional response to a vast stimulus that requires an update to the current schema, such as beauty of nature and people of power. Although previous study has suggested that awe promotes liberation from the cognitive restriction and enhances divergent creativity, its psychological mechanism remains unclear. Especially, given that several positive emotions enhance divergent thinking, the upcoming research should examine the comparison between effects of awe and other positive emotions. Therefore, we conducted the conceptual replication of Chirico and colleague (2017) and investigated the influence of awe on divergent thinking, by using 360°VR clips (awe/amusement/neutral) and the Alternative Uses Test that requires participants to report original uses of presented household items (N = 21). The results revealed that induction of awe enhances scores on creativity (e.g., fluency) than that of control. These results reproduce the results of the previous study and may indicate the awe specific effect.
著者
宮崎 由樹 鎌谷 美希 須田 朋和 若杉 慶 松長 芳織 河原 純一郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第20回大会
巻号頁・発行日
pp.50, 2022 (Released:2022-11-24)

マスク着用は感染症拡大防止に有効だが,その着用で表情が読みとりづらくなる。こうしたマイナス面の報告は,成人被験者を対象とした実証研究の知見に依拠しており,学童期の子どもを対象とした知見は極めて少ない。本研究では,マスクなし,不織布マスク,あるいは透明マスクを着用した顔表情画像を小学生に提示し表情弁別を求めた。そして成人の既データと比較した。実験の結果,成人では,マスクなし顔に比べて,不織布マスク着用顔において「喜び」「無表情」「悲しみ」の弁別パフォーマンスの低下が認められた。対して小学生では,「嫌悪」「恐怖」「喜び」「無表情」「悲しみ」「驚き」とより多くの表情でその低下が認められた。なお,このような低下は,透明マスク着用顔では総じて認められなかった。本研究の結果は,不織布マスク着用による顔表情認知の妨害は小学生でより大きい可能性,その対処として透明マスクの活用可能性を示している。
著者
後藤 理咲子 北神 慎司
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.81-90, 2023-02-28 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

本研究の目的は,嘘に伴う認知的負荷が有効視野を狭めるかについて検証することであった.実験では,参加者は嘘つき群と統制群のいずれかに割り当てられた.参加者はディスプレイに提示されたトランプカードを記憶した後,カードと同じ内容(一致条件)または異なる内容(不一致条件)を回答し,回答後に現れる光点の位置を同定するよう求められた.嘘つき群と統制群の相違は教示であり,嘘つき群の参加者は嘘をつく時には真実を話しているかのように振る舞い,実験者を騙すよう求められたが,統制群の参加者は求められなかった.光点の正答率から相対的に有効視野を測定した結果,嘘つき群は統制群よりも有効視野が狭まったが,一致条件と不一致条件の有効視野に差は示されなかった.以上の結果は,意図的に相手を騙すこと(嘘の意図性)による負荷は有効視野を狭めるが,事実と異なる内容を回答すること(嘘の虚偽性)および嘘をつく時に真実らしく振る舞うことによる負荷は有効視野を狭めないことを示唆するものである.
著者
水原 啓太 柴田 春香 入戸野 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.87, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

左右対称な物体において,正面から見た画像よりも,斜めを向いた画像のほうが好まれる (Nonose et al., 2016)。斜め向きの画像は,物体についての多くの情報を表すため,見た目が良く感じられると考えられている。本研究は,左右対称な物体の画像において,物体の左右の向きが物体の選好に与える影響について検討することを目的とした。オンライン実験で,左右の向きのみが異なる日常物体100個の画像を対提示し,見た目が良いほうの画像を強制選択してもらった。画像は物体が正面を向いた状態から,鉛直軸に関して左右のどちらかに30°回転した画像と,それを左右反転した画像であった。その結果,左向きの物体を選好する割合は平均61.2%であり,有意に偏っていた。物体ごとに検討しても左向きよりも右向きのほうが有意に好まれた物体はなかった。この結果について,物体の操作可能性や左方光源優位性の観点から考察した。
著者
濱田 明日也 金城 光
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.103, 2016 (Released:2016-10-17)

Johansson R, Holsanova, Dewhurst, & Holmqvist,(2012)は、記憶の検索時の視線を制限することが記憶成績に影響することを示した。具体的には、画面の中心に表示される注視点に視線を向けながら課題を進める(center条件)より、何も表示されていない画面に視線を向けながら課題を進める(free条件)ほうが課題成績が良かった。 しかしながら、その他の記憶検索時の視線の役割に関する研究では、課題の正確さにおいてだけ差がみられる研究(Laeng,Teodorescu,2002)や、課題の反応時間だけ差がみられる研究(Johansson R,Johansson M,2014)があげられ、結果の指標に一貫性がないことが問題点としてあげられる。 そこで、本研究では、記憶検索時の視線の制限がどの指標に影響を及ぼすのかを再検討することを目的とした。 結果、center条件よりもfree条件のほうが課題の成績が高く、視線の制限の効果がみられた。反応時間については2条件で差はみられなかった。本研究により、記憶の検索の正確さに視線が影響している可能性が示唆された。
著者
松下 戦具 柳澤 洋希 富田 瑛智 森川 和則
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第10回大会
巻号頁・発行日
pp.146, 2012 (Released:2012-07-20)

この研究では、人が自分の顔、知人の顔および他人の顔を見た時に知覚される歪みの大きさが調べられた。実験参加者は、標準刺激として正像の顔写真、比較刺激として正像と鏡像とが合成された顔写真を観察し、どちらがより歪んで(左右対称から離れて)見えるかを回答した。比較刺激の合成比率は系統的に操作され(正像20%:鏡像80%から正像-20%:鏡像120%のカリカチュア)、その比率によって歪みの度合いが操作された。実験の結果、正像と鏡像とを比較したときは、本人の顔においてのみ、正像がより歪んで知覚されることが明らかにされた。また、本人の正像の歪みの大きさ100%に相当する鏡像の歪みの大きさは約105%であることが示された。これらの結果は、自分の鏡像への順応が日常的に起こっており、知覚レベルの判断においても残効をもたらすことを示している。
著者
乾 敏郎 小川 健二
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2008 (Released:2008-11-10)

なぞりと模写のfMRI実験の結果から、これらのメカニズムに関するモデルを提案し、動作模倣との関連性についても考察する。乾(2007)では、左頭頂葉と右頭頂葉において、対象が自己中心座標と対象中心(または環境中心)座標でそれぞれ表現されていると仮定している。言い換えると、左頭頂葉は、主に外界の時空間的な変化を身体運動に変換するという意味で、情報の流れが「他者→自己」であり、右頭頂葉は自己の運動を他者(物体)に投影して、外界にある他者(物体)のイメージを作り、操作するという意味で、情報の流れは「自己→他者」であると言える。なぞりは、対象中心座標の表現のみでカーソルの軌道を制御できるのに対し、模写は、曲線を一旦自己中心表現に変換して再生しなければならない。しかも、自己中心座標と対象中心座標の変換を行い、部分の確認がなされる必要がある。このモデルによって、closing-in現象も説明可能である。
著者
大杉 尚之 河原 純一郎
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.69-77, 2020-02-29 (Released:2020-03-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

日本において,お辞儀は第一印象の形成にポジティブな効果を持つと信じられている.最近,Osugi & Kawahara(2015)は,お辞儀が魅力知覚に及ぼす影響について実験的に検討した.写真上辺を前方に傾け,元の角度に戻すお辞儀条件では顔写真の主観的な魅力が上昇した.本研究では,これらの発見を拡張し,お辞儀の効果の変調要因を検証した.研究1の結果は,顔写真の外見魅力(実験1と2),顔の性別(実験3),人間と人間以外のエージェントの違い(実験4)のいずれともお辞儀の効果は独立であった.これらのことから,さまざまな顔刺激間でお辞儀効果量に違いはなく,外見的特徴とは独立に印象形成に寄与している可能性が示された.すなわち,誰がお辞儀をするかは重要ではなく,お辞儀動作そのものによる効果が加算的に作用することで印象が形成されると考えられる.また,この結果がお辞儀効果に関するメタ認知と一致しているかについて検討した結果(研究2),実験結果とメタ認知の食い違いが生じ,低魅力の人や人間以外のエージェントのお辞儀効果が小さく見積もられることが明らかとなった.
著者
斎川 由佳理 仁平 義明
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第13回大会
巻号頁・発行日
pp.47, 2015 (Released:2015-10-21)

記憶を補助する外部手段として「手に直にメモを書く行動」について,なぜ ある人はこの手段を用いて,ある人は用いないか,大学生を対象とした質問紙調査によって,その要因をパーソナリティ要因も含めて総合的な視点から分析を行った。その結果,「手にメモをする行動」をとる群の人ほど,他のいくつかの「し忘れ防止手段」も併用していることが明らかになった.また,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの要因については,メモ経験群は,ものごとに現実的に対応する傾向である,「経験への開放性」のスコアが有意に高い傾向があった.すべての結果を総合すると,手にメモをするのは,その人が失敗回避傾向がある気の弱い人だからというよりは,「確実に予定を果たそうとする現実的な行動をとる人」だからというべきだと考えられた.
著者
米満 文哉 山田 祐樹
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第17回大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2019 (Released:2019-10-28)

心の中を他人に見透かされていると感じる現象を透明性の錯覚と呼ぶ。この現象は,係留と調整のヒューリスティックを用いる際の調整が不十分になることで生起する。この一因に覚醒度の上昇があげられるが,先行研究では不快かつ高覚醒を喚起する操作をしており,感情価と覚醒度のどちらが透明性の錯覚を上昇させるのか不明である。そこで,本研究は高覚醒で快感情を喚起する性的な画像を用いて検討した。参加者は画像内容が他者に分からないよう無表情で性的・中性画像を観察した後,参加者が見た画像の内容を当てると思われる人数と自身の表情表出強度を推定させたところ,中性より性的画像の観察時の方が透明性の錯覚が強く生じた。本研究により覚醒度の高い快感情によっても透明性の錯覚が強化されることが示唆されたが,錯覚生起における覚醒度の具体的な役割についてはさらなる検討を必要とする。
著者
中村 航洋 浅野 正彦 渡邊 克巳 尾野 嘉邦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.23, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

政治的意思決定や選挙行動は,政治家の掲げる公約や政策の内容だけでなく,有権者の偏見や政治家の容姿といった,政治とは直接的関連の薄い要因にも左右される。しかしながら,人々がどのような容姿を政治家としてふさわしいと感じ,なぜそれが政治的意思決定に影響を及ぼすのかは明らかにされていない。本研究では,逆相関法を用いた顔画像分類から,日本人が心のなかで想像する政治家の顔ステレオタイプを可視化し,政治家らしいと判断される顔の特性について明らかにすることを目的とした。実験では,2016年の参議院議員選挙候補者の平均顔にランダムノイズを付加した2枚の画像を生成し,実験参加者に「内閣総理大臣」あるいは「防衛大臣」にふさわしい顔つきの写真を繰り返し選択してもらう課題を実施した。参加者の画像分類を逆相関法により解析した結果,各大臣としてふさわしい男性顔および女性顔のステレオタイプを可視化することができた。
著者
森川 和則 片岡 咲
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第8回大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2010 (Released:2010-09-01)

制御幻想とは、偶然によって決まり制御できない事象をある程度自分の意思や行動でコントロールできると思いこむ認知錯覚であり、一般にギャンブルの状況で現れるとされる。ギャンブルを用いた先行研究のほとんどではまだ起こっていない一回限りの賭けで賭け金の大きさを従属変数としてきた。また、まだ起こっていない事象に対する予期的な制御幻想と、すでに起こった事象に対する回顧的制御幻想とは別々のパラダイムで研究されてきた。これに対し、本研究では、より現実的な反復ギャンブル状況(ルーレット)を用い、ギャンブルから得られる満足感と予期的制御幻想および回顧的制御幻想を同じパラダイムで研究した。実験ではコンピュータ上でルーレットゲームを作成し、回転するボールが減速し始めるタイミングを参加者が手動で決定できる条件とコンピュータが自動的に決定する条件とで満足感と制御幻想を測定した。手動条件で強力な制御幻想が生じた。
著者
高橋 翠 遠藤 利彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.165-173, 2013-02-28 (Released:2013-04-05)
参考文献数
25

顔の魅力に対する進化心理学的アプローチは,異性の容貌において繁殖に寄与する資質の手がかりがヒトに普遍的な魅力規定因であると仮定する.しかし,男性顔において「男らしさ」が知覚される容貌は優れた資質のシグナルであるが,女性は必ずしも魅力を知覚しない.本研究では,「男らしい」容貌から知覚される脅威性もまた,そうした容貌に対する魅力評価を抑制している可能性に着目した.男性顔(無表情・直視)に対する印象評価の多変量解析的検討(研究1),および表情(無表情・笑顔)と視線(直視・逸視)の異なる条件下での魅力評定(研究2)を通じて,評定者の性にかかわらず,脅威性(および脅威表情)の知覚が「男らしい」容貌に対する魅力評価を抑制している可能性が示唆された.ただし研究2では,男女で異なる結果として,女性評定者のみで脅威性が相対的に知覚されにくい場合に「男らしさ」の優れた資質のシグナルとしての側面が魅力として知覚されるようになる可能性も示唆された.
著者
重森 雅嘉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

ヒューマンエラーを事故が起こる前に発見するためダブルチェックを複数回行うことがある。しかし、複数人が作業に関与すると、単独で行うよりも個々のパフォーマンスが落ちること(社会的手抜き)が知られている。したがって、ダブルチェックにおける社会的手抜きの可能性を検討した。大学生を対象に、2つの誤字を含む文章校正課題を単独で行う条件(単独条件13名)と複数人で行う条件(複数条件、1回目:31名、2回目:29名、3回目:28名)で実施し、各回の平均誤字検出数を比較した。その結果、単独条件の検出数が複数条件の各回よりも多かった。また複数条件の各回の検出数には違いがなかった。これらの結果から、既にチェック済みのものを再度チェックする場合とこれからチェックするものがその後他者にチェックされる場合の社会的手抜きについて検討した。
著者
景山 望
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2013, pp.145, 2013

これまで長期間の隔離生活を伴う深海潜水時のストループ干渉は,隔離生活等による心理的ストレスではなく,高圧曝露や環境圧の大きさ等の物理的要因によって変化することを明らかにした.しかし,これまでの研究に用いたシミュレータ環境では,心理的ストレスは小さいことが報告されており,実海面で長期間の深海潜水を行った場合,心理的ストレスの増加,単純反応時間は遅延することが報告されている.本研究では,実海面での深海潜水訓練中の心理的ストレスの有無とストループ干渉について,2種類の質問紙(日本語版POMS質問紙,GVA質問紙)と,4つの課題から構成され2種類のストループ干渉を測定できる新ストループ検査Ⅱを用いて検討した.訓練期間中のストループ干渉の変化や心理的ストレスは見られなかった.本研究の結果から,実海面での潜水作業においても,心理的ストレスは小さく,ストループ干渉に影響しないことが示唆された.
著者
上田 卓司 安田 孝 椎名 乾平
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.146, 2014 (Released:2014-10-05)

McWeeny, et al. (1987) によって発見された Baker-baker パラドックスは,同じ名でも職業名として憶えるより名字として憶える方が顔との対連合記憶成績が低下する,という現象であり,しばしば固有名の記憶の難しさを示すものとして扱われている.本研究では,文化的背景や名前の多様性等の条件が異なる日本語圏において同様の現象が生起するかを確認するため,人物属性(座右の銘・お気に入りの物事)を表す名詞を用いて,日本語版 Baker-baker パラドックスが見られるか検討することを目的とした.実験において40名の参加者は,印象評定,偶発再生,意図的再生の各課題で顔写真とともに記された人物プロフィール(氏名,人物属性)を学習し,顔写真を手がかりとした再生を行った.その結果,名詞を人物名として記憶する場合と,人物属性を表す名詞として記憶する場合とに顕著な差は認められなかった.
著者
佐藤 智明
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.29, 2009 (Released:2009-12-18)

エントロピーの概念は分かりにくい概念のひとつである.そのため,熱力学の教育においてその概念をどのように表現するかということは非常に重要である.本報では,抽象的なエントロピー概念を説明する際に最も重要である言語表現に着目した.ここでは,これまで一般的に用いられてきたエントロピー概念を表す言語表現について調査し,特に熱力学的エントロピー概念を表現する場合の言語表現の問題点について検討した.更に,実際の分子運動を表現した粒子のアニメーションを制作し,運動範囲(体積)や粒子速度(温度)の異なる8種類の映像を被験者に見せ,それぞれ粒子の運動から計算によって得られるエントロピー値による順位と代表的な数種類の言語表現によって順位づけされた映像の順位との相関性について検討した.その結果,「拡散の度合い」と「捕まえにくさの度合い」という言語表現がエントロピー値と相関が高いことが分かった.
著者
尾田 政臣
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第6回大会
巻号頁・発行日
pp.106, 2008 (Released:2008-11-10)

動物行動学では,繁殖のための相手選びに体の対称性が重要な役割を果たしていると主張している。顔の魅力についても同様の議論がなされている。本稿では,顔および顔以外の対象として幾何学図形,模様,動物,昆虫などを選び,魅力度ならびに美しさを評定させる心理実験を行った。実験は1課題につき4種類の図形を同時に提示し,各図形に対して絶対評価で評定させた。その結果,従来の実験結果と同様に,片目が大きく他の部位は対称である非対称顔が,総ての部位が対称である顔より魅力度・美しさが高い値を示した。また,いずれも左右対称である4種の幾何学図形に対しては,図形の種類によって評価値が異なり,動物や昆虫については,ある程度の非対称性があっても許容され高い評価値を示していた。即ち,対称性が常に魅力を決定する最大の要因となるわけではなく,また魅力と美しさの評価は必ずしも一致する訳ではないことが明らかになった。