著者
竹内 あい
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、複数の主体の意思決定がそれぞれの結果に相互に影響を与えるゲーム的状況において、他者のとる行動を推論する人としない人でどのように行動が異なるのか、実験を用いて検証することを目的としている。しかし、これまでの実験仮説は、過去の実験結果に基づくものであり、理論によって導かれたものではなかった。帰納的ゲーム理論、とくにKaneko and Kline(2009)の理論では、相手の状況について解らない場合(以下、NRS)は、他者の取る行動の推論の有無が行動に影響を与えず、一方で相手の状況について解る場合(以下、RS)は、これが行動に影響を与える。そこで、本年度は帰納的ゲーム理論に基づき実験仮説を立て、それを検証する実験を行った。具体的には、Kaneko & Kline(2009)の理論を囚人のジレンマに応用した実験を行った。理論に基づくと、NRSの場合、あるいはRSで相手のことを考えない場合には人々は協力をせず、RSで相手のことを自分と同じように考える場合は協力が生じると予測される。そこで、3種類の囚人のジレンマについて、それぞれRSとNRSの場合を比較する実験を行った。実験の結果、理論の予測通りNRSよりもRSの方がより協力が頻繁に観察された。これにより、他者の状況に関する情報がないため相手の取る行動を推論することが出来ない場合と、それが可能な場合との比較を行うことができた。また、より詳細な分析により、帰納的ゲーム理論の前提に関する分析を行うこともできた。これにより、今後の帰納的ゲーム理論の発展に寄与することが出来たと思われる。
著者
和田 宗久
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、その大きな柱として、まず、会社法および金融商品取引法(以下「金商法」とする)の下で、上場会社の取締役等が責任を負う場合、とりわけ経営判断の誤りに関して責任を負う場合と、監視・監督にかかる職務に関連して責任を負う場合に焦点を当て、研究を行った。また、責任制度の重要な機能である損害のてん補という観点から、当初の研究目的から派生して出てきた問題である、「会社自身の株主に対する責任のあり方」についても研究を行い、いずれの研究についても一定の知見を得ることが出来た。
著者
矢内 利政 城所 収二 宮澤 隆 志村 芽衣
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

通常のバッティングではバットの芯付近でボールの中心を打撃することにより高い打球速度が獲得でき、バントにおいてはバットの芯とそのやや先でボールの中心を打撃することにより打球速度は低くなるという現象を力学的に説明することを目的とした。その結果、①ヘッド速度が一定の条件でも、スイング速度と並進速度の組み合わせにより打球速度、及び打球速度を最大化するインパクト位置は変化することが明らかになった。これらの現象は, スイング角速度、重心速度、インパクト位置の条件の変化に伴いバットの反発係数が変動することに加え、ボールとバットが有する運動量が互いの間で転移する方向と大きさの変化により生じることが示された。
著者
鎌田 由美子
出版者
早稲田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究では、17-18世紀にインド北部と南部で織られた絨毯には、どのような特徴があるのか、貿易品としてどのように国際流通し、各地で受容されたのかを、国内外での調査をもとに考察した。その結果、従来「ラホール絨毯」という名称で分類され、ムガル朝のもと、北インドで生産されてきたと考えられてきたインド絨毯のなかには、インド南部の絨毯生産地で、輸出先の好みと需要を反映して貿易用に織られたものが少なからず存在することが判明するとともに、絨毯そのものの価値に加えて、絨毯が受け入れられた社会的な文脈が新たな価値を生み出していく様子が明らかになった。
著者
中門 亮太
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、パプアニューギニアにおける土器づくり民族誌調査を通して、土器型式の時期的変化・地理的分布を齎す社会的背景を探ることを目的とした。土器型式の変化においては、親族組織を通じたヒト・技術の移動が大きな影響を及ぼす。地理的分布に関しては、親族組織のつながりや製作技法に差異によって、各地域で在地の型式が成立し、分布圏を持つことが窺える。一方で、型式を超えて存在する儀礼形態が、異系統土器の共存を齎すことが想定される。これらの知見は、縄文土器型式においては、粗製土器や精製土器、特殊遺物などの広がり方と比較しうる。民族考古学的視点から、その背景には親族組織や儀礼形態の存在を垣間みることができる。
著者
山本 まゆみ
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

当研究は、1920年代長崎から和蘭領東インドに渡り、バタビアで旅館を経営した一般邦人男性が、1941年11月下旬最後の引き揚げ船で日本に戻りながらも、半年後に日本軍部の徴用でインドネシアに復帰し、戦後間もなくインドネシアでその生涯を閉じたその人生に焦点をあてた。男性の生涯を辿りつつ、20世紀前半のインドネシアにおける在留邦人社会および、祖国の政治に翻弄された彼らの異国での生活の軌跡を、明らかにすることを目的としている。軍部は、彼らの言語能力や文化知識を活用したい一方、人脈のある住み慣れた地に配属することで、諜報活動や軍部に抵抗される危険性を懸念するなど、協力を期待しながらも信頼しなかった。軍部からも疑われていた「復帰邦人」は、戦後オランダ及びインドネシアにおいても、戦争に関する記憶の中で、日本軍部の「スパイ」という、謂われざる汚名を受けることになったが、ディアスポーラのサバルタンの歴史を再構築し、誤解された言説を再編成することを目指した。研究方法としては、文献資料調査及び面接聞き取り調査で遂行した。国立国会図書館、早稲田大学図書館、オランダ公文書館(戦争資料研究所、国立公文書館、外務省)を中心に調査を行った。また、日本占領下インドネシアにおいて日本人軍属軍人と関係を持っていたオランダ人女性の研究で著名なオランダ戦争資料研究所のEveline Buchheim博士からもご助言をいただいた。当研究調査を通じ、現在にいたる戦争中の一般邦人に対する記憶は、日本およびオランダを問わず、両国間の政治あるいはそれぞれの国内事情により、社会に内在する偏見を顕著にした記憶となり定着する傾向があるのではないかという結論を導き出すことができた。現在なお記憶として再構築されている一般邦人の汚名は、戦後間もない時代また1990年代の戦争処理問題の言説と共に増幅されていったと考えることができた。
著者
FARRER GRACIA 川上 郁雄 イシ アンジェロ 田嶋 淳子 超 衛国
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、日本における移民と、移民国家であるオーストラリアにおける中国、韓国、ブラジルからの移民またベトナム難民の第1と第2世代の人々が、受け入れ社会に対してどのような市民意識と帰属感を持つかを比較研究することによって、日本社会が「移民国家」となりうるのかを検討することを目的とした。インタビューとアンケート調査を通して、同じ国からの移民が受け入れる環境が異なると、違った市民意識とアイデンティティーが形成されることがわかった。その結果、多様な背景をもつ市民を受け入れる日本側の課題が明らかになった。
著者
松本 ディオゴけんじ
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

当該年度に実施した研究の主要な成果は以下の通りである.1. ベキ等なヤン・バクスター写像の構成とバブルソートとの関係全順序集合の要素をいくつか並べ, 隣り合う要素の大小を比較しながら整列させるソーティングアルゴリズムをバブルソートと呼ぶ. バブルソートは可積分系における重要な研究対象である超離散戸田分子方程式, 箱玉系と関係があることが知られており, バブルソートに現れる"隣り合う2元を大小関係に従って並べ替える写像"は全順序集合上のベキ等なヤン・バクスター写像を与えていることが示されている. そのため一般のベキ等なヤン・バクスター写像はバブルソートの一般化と考えられ, ベキ等なヤン・バクスター写像の構成は超離散可積分系を理解するための新しい視点を与える重要な研究対象であると考えられる.本研究では, 分配束(全順序集合を含む代数系)上のベキ等なヤン・バクスター写像を考察することにより, 二つの非可換な二項演算を持つプレ・半環に吸収律を緩めた条件を追加して得られる代数系からベキ等なヤン・バクスター写像が構成されることを示した. また, この代数系は零環(積が零元となる自明な環)を含んでおり, 去年度研究をした半群上のベキ等なヤン・バクスター写像の延長上の研究である.2. 上述の代数系の構造と余積の調査分配束は上述した代数系の重要な例であり, 上述の代数系で消約律や可換律が成立をするものを考えることにより, 分配束が得られることを示した, また, 適切な条件を考えることによりこの代数系上の余積の族が得られることも示した.
著者
岩田 和子
出版者
早稲田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

日本、北京、上海、湖南、広東、および台湾の図書館、研究機関に所蔵される湖南説唱本の各種版本を閲覧、収集した。各種伝承媒体を経て民間に広がる故事と湖南説唱本の関係、説唱文芸全体からみた湖南説唱本の位置を新たに把握することができた。日本、中国における学会発表、論文発表を通して研究成果を報告した。
著者
増田 好純
出版者
早稲田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

航空機産業における「労働動員」を政策レベルと労働現場の二点から考察し、ナチ体制下の社会秩序形成過程の解明を試みた。政策レベルの分析からは、ナチ体制下の労働動員政策が、全ての要素を戦争遂行のために包摂・結集すべき「総力戦」とは相容れないものだったことが明らかとなった。また、労働現場の分析からは、「傾向として」様々な国籍・人種集団間の関係はナチ・イデオロギーに強く規定されていたが、その陰で個人的な問題もまた重要な要素であったことが明らかとなった。
著者
菊地 栄治
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

持続可能な高校教育改革の実践と構造について、事例研究と質問紙調査等を通して、以下の知見が得られた。(1)「育成すべき力」は高校階層によって強く規定されており、生徒の現実をふまえた目標設定が必要となる、(2)教員自身が他者と向き合い自己変容しつつ共通の成功体験を重ね「学習する組織」を創ることが鍵を握る、(3)他校に示唆を与えるような改革を実践している高校がきわめて限定されているという事実をふまえ、地域や行政機関などの社会資本を活用することでシステム全体として持続可能性を高めていくことが重要である。
著者
笹倉 秀夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

英・米・独・日本を対象に、法解釈上の技法を判決から析出し技法の全体構造を把握する作業と、個別の法的問題の処理にみられる法解釈の技法を、国家法人論、擬制論、社会契約論・立憲主義国家論等をめぐって析出する作業とを進めた。成果は、その都度、著書・論文にして発表した。笹倉がこれまで確認してきた、(A)法解釈の際に参照・考慮する諸事項(論点)と、(B)そうした参照・考慮を踏まえて条文を適用する際の諸技法とを区分した、法解釈作業の全体構造が、各国における法解釈分析でも有効であることを確認しえた。この点については論文執筆を進めるとともに、成果を総合すべく単著2冊の出版というかたちでの具体化を進めている。
著者
笠原 克昌 鳥居 祥二 小澤 俊介 清水 雄輝 増田 公明 さこ 隆志
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

LHCf実験はCERN LHC加速器を用いて,超高エネルギー宇宙線(UHECR)に匹敵するエネルギー領域で超前方に発生する粒子(ガンマ線=光子,中性子)のスペクトルを観測する.これにより宇宙線実験で使われているモンテカルロ(MC)シミュレーションで用いられる核相互作用モデルの検証を行い,UHECR の謎の解明に役立てるのが目的である.LHCfは2009年末に450GeV+450GeV衝突,2010年に3.5TeV+3.5TeV衝突の観測に成功した.これらは実験室系換算で4.3・10^<14>eVと2.6・10^<16>eVにそれぞれ相当する.MCのモデルとしてDPMJET(v3.04),PYTHIA(v8.145),QGSJET II(v03),SIBYLL(v2.1)およびEPOS(v1.99)を検証した.この全く未知の領域でのスペクトルは予想から全く外れている訳ではなかったものの,これらのどのモデルも実験結果を満足に再現するレベルには遠いことが判明した.光子のスペクトルは多くのMC モデルよりソフトな様相を呈し,ハドロンはハードな様相を呈している.また,LHCの他の実験(ATLAS,CMSなど)の中心領域での擬ラピディティ(η)分布の結果と合わせると,全てのモデルはLHC 領域で破綻すると言ってよい.DPMJETは低エネルギー領域では非常によいモデルであるが,LHCf での光子スペクトルはデータよりかなりハードである.η分布はLHC領域で突然データからずれる.PYTHIAはLHCのη分布を再現するように調整されたものを用いたが,光子についてはDPMJET と同じ様相を呈する.これらのことは,数年後に期待されるLHCの最高エネルギーでの実験を行い,破綻の傾向を調べ,モデルの検証行うことが重要なこと,新たなモデルの構築が必要なことを示している.
著者
福田 育弘 神尾 達之
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

全体として複合文化学の方法論の基礎が確立された。福田は、当初の予定通り、フランス、パリ・ソルボンヌ大学地理学科の教授・研究者との連携によって、日仏におけるワインの文化的受容の研究を深め、2013年12月13日14日の日仏シンポジウム「ワインをめぐる人を風景」を開催した。これによってワインの受容が文化的社会的背景をもつことが明らかになった。神尾は、行為としてのコミュニケーションに基礎をおくルーマンの社会理論を、日本のネット社会に応用し、日本の若者に顕著な「つながりたい」欲望の在り方を分析した。この2人の具体的で日常的な文化現象の考察により、複合文化学の在り方やその方法論が明確になった。
著者
木下 一彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

(1) イオンチャネルの手動開閉チャネルコンダクタンスが高く単一チャネル電流の測定が容易なBKチャネル、広く研究されており開閉が電位だけで制御されるシェーカーチャネル、などを対象として、捕捉効率の高い操作用ハンドルの導入を試みた。すでに、チャネル配列の電位センサー部に外来たんぱく質を挿入することにより、そのたんぱく質自身の存在がチャネルの開閉を制御することを示したが、このたんぱく質の位置をさらに外力で操作できれば、より明確な解釈が可能になる。そこで、この外来たんぱく質のチャネルと反対側に、アビジン結合部位を導入することを試みている。また、つい最近発表された、高効率で膜電位を計測できる蛍光プローブを、チャネルに融合させる試みも開始した。いずれも、基盤研究(S)に引き継ぐ。(2) F1-ATPaseのATP加水分解および燐酸解離のタイミングの決定どちらのタイミングもすでに分かったつもりになっていたが、最近の研究により振り出しに戻った感がある。そこで、加水分解しにくいATPアナログ(蛍光性)や、解離が遅くなることが示唆されている燐酸アナログを用いて、再検討をはじめた。基盤(S)に引き継ぐ。(3) Reverse gyraseの反応機構DNAの螺旋をさらにきつく巻き上げる酵素reverse gyraseにつき、酵素を助けるつもりで磁石によりDNAを巻き上げたところ、酵素はそれを戻してしまうようである。まだ予備的な結果なので、継続する。
著者
坂内 太
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ジェイムズ・ジョイスの初期の各短編から、『若き芸術家の肖像』『ユリシーズ』に至る諸作品を研究対象とし、この作家が膨大な人間群像の描写を通じて特殊な身体表象を展開したことを明らかにした。特に<変容の失敗>のモチーフが多様な文体的テクニックの変遷の根底に持続的に存在し続けたこと、また、同時代の他の詩人・劇作家達が取り組んだ浄罪と変身のモチーフを批判継承しながら、人間の身体的・精神的変身のモチーフを肯定的に飛躍させたことを明らかにした。
著者
濱田 瑞美
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、東アジアにおける仏教図像を、儀礼空間のなかで解き明かしていくことにある。最終年度である本年度の実地調査は、インドのデリー国立博物館所蔵のスタイン将来の敦煌画のうち、千手観音変相図6件および薬師経変相図1件を対象に行い、図像データを収集した。また、中国四川省の夾江千仏岩の千手観音寵および四川博物院所蔵の仏教彫刻の調査や、中国石窟のルーツにも関わるインドの石窟の仏教図像についての調査を行った。これまでに取得した図像データを基に、中国重慶大足石刻の薬師如来の図像と仏龕の尊像構成に関する論考、中国敦煌石窟の唐代の薬師経変の図像に関する論考、敦煌石窟吐蕃期の千手観音の図像に関する論考、敦煌莫高窟第323窟における窟内図像プログラムに関する論考を、誌上あるいは口頭で発表した。このうち、大足石刻の薬師寵の論考では、薬師如来と地蔵菩薩や尊勝陀羅尼幢とがいずれも地獄済度という共通の意味をもって寵内で組み合わされていることを明らかにした。敦煌石窟の薬師経変の論考では、薬師経変図中に設斎の様子が描き込まれていることから、薬師信仰の中で設斎が重要な行為であったことが確認されるとともに、そうした設斎図が中唐期以降の敦煌の窟内正面の仏龕内壁にも描かれる例から、現在欠失している窟本尊が薬師如来であった可能性を指摘した。窟内全体に関わる本尊に対する言及と、窟内空間において設斎と図像とが密接な関係性を持つという見解は、薬師如来だけに限らず、他の仏教図像研究にも適用できるものとして重要である。また、敦煌莫高窟第323窟の研究では、周壁図像の検討から、窟内全体の図像が相互に関連していること、図像を観ていく順序、石窟造営の目的の一端、および石窟造営時期についての新たな見解を提示し、石窟空間の機能を踏まえて仏教図像を解釈することの有効性が示されるに至った。
著者
濱田 瑞美
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

中国の摩崖石窟がどのような宗教的空間を現出していたかを明らかにするため、四川地域と関係の深い唐宋時代敦煌石窟の実地調査で図像資料を収集し、関連する経軌の解読および図像との照合を行い、論文を執筆した。また四川地域の千手観音龕における図像の解明および仏教儀礼との関係について、海外で研究発表を行った。敦煌地域の石窟壁画の千手観音変相についての実地調査は、莫高窟13箇窟14図〔第148窟主室東壁門上(盛唐)・第231窟甬道天井(中唐)および前室天井(宋)・第292窟前室西壁北側(五代)・第332窟前室天井(五代)・第335窟前室天井(宋)・第79窟前室南壁(盛唐)・第172窟前室南壁(宋)・第386窟主室東壁門上(中唐)・第45窟前室天井(五代)・第302窟甬道天井(宋)・第329窟前室天井(五代)・第402窟前室西壁門上(五代)・第380窟甬道南壁(宋)〕、西千仏洞1箇窟2図〔第13窟甬道東西壁(五代)〕、楡林窟7箇窟8図〔第36窟主室北壁(五代)・第35窟前室天井(五代)・第38窟前室天井(五代)・第39窟甬道南北壁各一図(回鶻)・第40窟前室天井(五代)・第30窟北壁(晩唐)・第3窟東壁南北両側各1図(西夏)〕に及んだ。各図における眷属像の配置図を作成するとともに、眷属像の種類や表現の相違について関連経軌によって解釈を加え、石窟の千手観音変相図と大悲会との密接な関連を指摘するに至った。また、石窟内の空間構想に関しては、莫高窟北周時代の中心柱窟の構造と図像考察を通して、窟内全体が説法空間に構想されていることを論じ、研究誌に発表した。そのほか、上記の海外研究発表を契機とし、宗教的な空間形成のコンセプトと図像および儀礼とが密接に関わるという筆者の理論を軸とした共同研究の計画が立ち上がった。
著者
片山 幹生
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

(研究目的)今年度は文体論、言語学的アプローチによる十三世紀フランスの演劇テクストの問題点についての考察を進めた。いかにして13世紀の作家たちは演劇テクストを作り出したかという問題である。初期の演劇テクストの作家たちがテクストに施した工夫を検証することによって、複数の演技者によって演じられることを前提に書かれた演劇テクストの特徴を明らかにことがこの研究の目的となる。(研究方法)13世紀の演劇作品の作者の前にモデルとしてあったのは、ファブリオ、宮廷風ロマン、武勲詩などの単独のジョングルールによる語り物文芸のテクストだ。彼らがこうした語り物のテクストのディアローグをどのようにして演劇的に書き換えていったかについて今年度は詳細に検討した。今年度の研究で主要なコーパスとして選択したのは、パリ、フランス国立図書館フランス語837写本(Paris BnF fr.837)に収録されている作品群である。この写本には単独のジョングルールによって朗唱されていたファブリオと複数の役者によって舞台上で演じられるために書かれたと考えられる演劇テクストの両方が収録されている。後者についてはリュトブフの『テオフィールの奇跡』、作者不詳『アラスのクルトワ』、そしてアダン・ド・ラ・アルの『葉陰の劇』の抜粋がこの写本に収録されている。興味深い点はこの写本に収録されている演劇テクストにはすべて、ファブリオ的な「語り」の要素が含まれていることだ。また写本のレイアウトから見ても、ファブリオとこれらの演劇作品の間には顕著な差がない。(研究成果)2010年3月に837写本を所蔵するパリの国立図書館を訪問し、写本の記述と写本に収録されたテクストの校訂を詳細に検討した。そこで明らかになったのは、これまでズムトールが指摘していた13世紀フランス文芸におけるジャンルの曖昧さ、流動性という問題がこの写本に収録されている演劇テクストでは典型的なかたちで現れているという事実である。837写本収録のテクストは演劇と語り物の間にある様々な段階の中間形態を示している。これらの調査結果については、平成22年度中に学会で発表し専門家の意見を仰いだ上で、論文の形にまとめて発表する予定である。また作成した研究書誌は平成22年4月中にウェブページ上で公開する予定である。
著者
鳥越 文蔵 内山 美樹子 飯島 満 黒石 陽子 原田 真澄 坂本 清恵 神津 武男
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

古典芸能の人形浄瑠璃文楽で頻繁に上演される演目の大方は、享保から宝暦年間(1716~1764)に初演された作品である。しかしこれまで翻刻が著しく遅れていた。本研究では、国内外の諸本を書誌調査し、十行本なども参照したうえで、現存最善の翻刻本文を提供し、国内外の演劇研究進展への貢献をめざした。成果として、義太夫節未翻刻浄瑠璃作品集成第二期10冊を出版した。また、本文のデジタル・アーカイブ化を目標とし、本文データの整理分析を行い、近世上方語資料となる語彙索引2冊を作成、刊行した。