著者
岩井 雪乃
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、アフリカゾウによる農作物被害が発生している地域で、地域住民がゾウといかに共存できるのかを「被害認識の緩和」の視点から実証的に明らかにすることを試みた。研究の過程では、タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接する村落において、被害対策(車による追払い・養蜂箱の設置)を実践し、多様な関係者(県・地元NGO・国際NGO・観光企業・日本人ボランティアなど)が連携する場をつくった。その結果、被害対策において多義的な関係性を創出することが、被害認識の緩和につながる可能性が示唆された。
著者
伊野 良夫
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

日本海側の最大積雪1.5m以上の地域にはヒメアオキ、ユキツバキ、エゾユズリハなお、太平洋側に近縁種をもつ常縁低木がブナ林床などに分布している。これらは多雪環境に適応して太平洋側の近縁種より小型、ほふく型になったと考えられている。平成3年度〜4年度の一般研究(C)「多雪環境に生育する常緑低木の生理生態学」において、それらの光合成活性と生育環境を近縁種アオキ、ヤブツバキと比較し、機能面から環境適応を考察した。1.5m以上の積雪による圧力は大きなものであり、これら常緑低木は積雪期間を地表に押しつけられた状態で過ごしている。しかし、春になって、積雪量が少なくなると、上部の雪をはね除けて直立し、常緑葉で盛んな物質生産をおこなすことが判明している。秋には雪をかぶるとひれ伏し、春には雪をはね除けるということは茎の弾性が冬の間に変化するか、弾性にある閾値が存在するかを示している。本研究ではこの茎の弾性の季節変化とそれに関わる構造炭水化物量の季節変化について、ヒメアオキ、ユキツバキ、エゾユズリハとアオキ、ヤブツバキを比較し検討した。ヒメアオキ、ユキツバキでは11月あるいは12月と5月の茎の性質(重さと曲がりの関係)はあまり違わなかった。しかし、アオキ、ヤブツバキでは生重の増加に対する曲がりにくさの増大は大きく、枝の肥大が木化とつながっていることが明らかであった。一方、エゾユズリハでは12月の枝はやわらかさがあったが、5月の枝では著しく曲がりにくくなっていて、雪に埋もれている間に枝に構造上の変化があったことが推測された。茎に含まれる炭素は細胞壁などの成分となっている構造性のものと、移動可能な非構造性のものとに分けられる。非構造性の炭素は主に澱粉とスクロース、グルコースの形態とをとている。トータルの炭素含有率は年間で大きな変化は認められなかったが、非構造性炭素含有率は変化し、多雪地の種類で雪解け前後にその含有率が高かった。少雪地の種類では冬前のトータルの炭素含有率が高く、非構造性炭素含有率は低かった。これらのことから構造性炭素の含有率が茎の曲がりやすさと関係あることが推察された。
著者
岩井原 瑞穂
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

WikipediaやFacebookなどのソーシャルメディアを対象として,ユーザの投稿行動により生じる履歴や,投稿行動の動機分析を主な目的とする.Wikipediaの編集履歴において,バージョン集合の派生や手戻りをバージョン間に含まれる曲共通文字列を用いて,正確に再構築するアルゴリズムを開発した.またユーザの投稿行動について,投稿の動機を質問票により調査し,新たな友人を獲得する動機,および既存の友人と交流する動機などのモデルを構築した.さらにユーザプロファイルや投稿量などの指標から,投稿動機を高精度で推測できることを示した.
著者
江澤 雅彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「保険顧客の需要を喚起・認識させ、その需要に合致した適切な保険商品を保険顧客が選択することを促すという役割を期待される募集行為の本質は、保険商品をめぐる情報を提供し、それについて保険顧客の理解を得て、その後、契約締結にいたらしめることに他ならない」という認識の下、平成16年度日本保険学会大会(10月23日、上智大学)の「シンポジウム」において、保険募集行為規制の沿革をたどり、特に、保険募集人の禁止行為を規定した保険業法300条のうち、情報提供に係るものとして、「重要事項の説明」、「不正転換・乗換」、「予想配当」を検討した。結論として、保険募集行為の2重構造性を認識すべきであると述べた。すなわち、1つは「全社共通部分」で、保険のニーズを喚起し、それを質的(保険種類)、量的(保険金額、保険料の大きさ)に明確にさせるプロセスである。これは特定会社の特定商品の購入に直接結びつくものではないが、それは募集行為の今1つの構成要素である、「自社商品販売促進部分」にとり不可欠の前提となっている。これは、保険という、その需要が間接的である商品を扱う「業界共通のコスト」として積極的に負担する必要がある。個別会社にとり一見迂遠に思える「保険リテラシー」を充実させ、「情報を十分得た上での保険購入あるいは保険の乗換」を図ることが、結局は、喫緊の課題である「失効・解約の増大」といった問題解決にも資すると主張した。
著者
根来 龍之 國領 二郎 木村 誠 森田 正隆
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

プラットフォームビジネス・サービスについて、理論追求と事例研究の双方について成果を発表した。前者については、メディア機能型PFBと基盤機能型PFBの概念的区分とその融合に関する研究を行った。同時に、上記の理論的研究に基づきながら、事例研究も進めた。具体的には、電子マネー、ソフトウェアビジネス、ゲームビジネス、ネットプロモーションについて、事例研究を発表した。同時に、研究の背景となる情報システムと競争優位に関する研究も進めた。
著者
戸川 達男
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

恒温動物の精密な体温調節が進化したのは、聴覚による周波数弁別機能が適応度に寄与し、聴覚が温度依存性を持つことによるという仮説を裏付けるため、絶対音感保持者の音感の体温依存性を調べることを計画した。音感の測定のため、レバーで周波数が可変できる音源(2台)を用い、7名(男性1名、女性6名)の絶対音感保持者を被検者とし、A音(440Hz)を決定させ、決定周波数を0.1Hzの精度で測り、測定直後の体温を耳式体温計で計測した。測定は最長2ヶ月間毎日2回行った。その結果、若干例において決定周波数が体温に依存する傾向が認められたが、体温の上昇時に周波数が低下する例(最大約4HZ/℃)が多かったものの、逆の傾向を示した例もあり、現時点ではまだ結果をまとめる段階に至っていない。短期間の体温の増減と決定周波数の変動には相関が見られることから、体温と音感には何らかの関係があることが示唆されている。被検者の中には5Hz(半音の約1/5)以下の誤差でA音を決定できる者がおり、周波数および体温の測定精度も十分であったが、大きな体温変動が見られなかったため、聴覚の温度依存性を裏付けるに十分なデータを得るには至らなかった。短時間では周波数決定の再現性が高いことから、計測精度は十分であるが、体温以外に周波数決定に影響を与えている要因がある可能性が高いので、その要因を特定することも今後の課題である。今後さらに例数を増すとともに、体温変化の大きい場合の観察を期待しており、十分なデータを得た時点で発表する予定である。
著者
久保山 力也 井門 正美 藤本 亮
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、ゲーミング手法を用いて、裁判員制度と民事紛争解決教材の開発を行うものであったがそれに付け加え、各種調査や教材の開発、実践等を行った。5年間の研究期間において、裁判員裁判ゲーム、ADRゲーム、取調べ体験ゲーム、被害者学教育ゲーム、法専門家活用ゲーム等を作成した。法教育フェスタや東京ゲームショウ等でプレゼンを行ったほか、国際会議、国際学会、国内学会等で広く成果を公開するにいたった。ゲーミング法教育、という1ジャンルを形成することができたことが、本研究最大の成果であると考える。
著者
大師堂 経明 大場 一郎 相沢 洋二 小松 進一 小原 啓義
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

この計画は総じて予算の割に目標が高いために、あちこちで資金難の問題にぶつかるが、とにかく直径20mφのパラボラアンテナ64台の働きをする装置が1億円強でできあがり、観測結果が出始めた。早稲田大学が開発したこの観測装置については、URSI(国際電波連合)総会(1990プラハ)の招待講演で報告し、各国の関係者はその安さに驚いていた。安く建設できた理由は、干渉計のデザインにあたって電磁波の基本的性質(エルゴ-ト的信号と非エルゴ-ト的信号)にまでたちもどって検討を行い、十分時間をかけて試験的研究をおこない、その成果をふまえて大型化するというプロセスをとったからである。手間をかけて開発し、アルゴリズムの最適化を行ったということである。広い視野を高い感度でマッピングするために小型のアンテナを多数、狭い範囲に配置する計画をカナダのドミニオン電波天文台、米国国立電波天文台/NRL、などがもっている。早稲田大学のプロジェクトと似た計画であるが、方式としては従来のフ-リエ合成干渉計のアルゴリズムを使うため100億円以上かかりそうで実現は簡単ではない。以下では1991年5月に提出した交付申請書(今年度の研究実施計画)のうち何が実現でき、何ができなかったかを記す。またできなかった部分についての対策と今後の見通しについて述べる。(*)位相を精密に測るためには、各アンテナに正確なロ-カル信号を送る必要がある。現在8台あるがそれぞれでは1次元像しか得られない。その装置を作る予算が足りないので、民間の財団などへ申請中である(本度の研究実施計画1991年5月)。→山田科学財団より600万円の研究助成が得られ、必要なロ-カル信号発信器64ー8=56台のうち半分ほどをつくるめどがついた。現時点でできる最善のことは、必要な56台全部をつくり、支払いのできない部分についてはメ-カ-から貸与を受け、後日支払を行うやりかたである。成果としては、まず1次元のうち2素子を使って天の川にある超新星の残骸カシオペアAの干渉じまが得られ、1991年10月の日本天文学会で発表した。この天体は、その膨張速度を逆算すると今から250年前にカシオペア座で爆発したはずであるが、世界のどこにもその記録が残っていない。引きつずき、カニ星雲(1054年に爆発した超新星の残骸で、藤原定家の名月記に記録がある)、はくちょう座A(銀河系の外にある電波銀河)、オリオンA(銀河系中の大きな電離水素領域)などの干渉縞が受信された。さらに2素子から8素子への拡張も比較的スム-ズに実現でき、1991年12月には8素子1次元大型アレイにより上記天体の微分像の直接合成に合功した。つまり毎秒2千万枚のカニ星雲やカシオペアA微分像が世界で初めて得られた。これらの結果はリストにあげた論文として報告した。また多くの新聞社、テレビ局の取材を受けた。(*)パルサ-サ-ベイ用の分散消去フィルタ-の概念設計を行う。→これは非エルゴ-ト的信号も観測できる早稲田大学干渉計でなければできないプロジェクトである。概念設計をすすめた結果、既存のパラボラアンテナをそのまま用い、既存のディジタルレンズのほぼ2倍の規模の処理システムでパ-クスを上回る感度でミリ秒パルサ-のサ-ベイが可能であることがわかった。すなわち空間・時間フ-リエ変換を行い、その結果を2乗積分した後に周波数・時間領域で2次元FFTを行う方法(2+1+2次元FFT)である。このシステムは移設が簡単であり、ワイヤ-をたらしただけの14mφの簡易球面アンテナを110m四方に64台展開するだけで、アレシボを上回る感度でパルサ-を捜すことができる。総経費は3億円で、現在、特別推進研究に応募している。これが実現すると世界最大の集光力をもつ電波望遠鏡となり、多くの連星ミリ秒パルサ-を捜していまだに実現されていない強重力場中での一般相対論の検証に貢献できるであろう。
著者
山田 満 吉川 健治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

広義の平和構築を考えると、長期的視野を持った社会経済的開発が求められ、特に社会開発・人間開発の視角から平和構築に必要な適正規模の「開発」とは何かが問われている。本研究では、紛争経験国のラオスと新生国家で開発段階に至った東ティモールとの比較研究を行った。その結果、政治体制及び独立に至る歴史的背景、つまりラオスはインドシナ旧仏領諸国との連携、また東ティモールは国連やドナー諸国の援助という外部アクターとの関係性が開発方法の基本的な相違点として浮き彫りになった。
著者
久米 郁男 北山 俊哉 大西 裕 曽我 謙悟 直井 恵
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、グローバル化、とりわけ自由貿易がどのような国内政治的反応を生み出しているのかを、計量分析と事例分析による過程追跡の手法を結合することで実証的かつ総合的に解明することを目指した。そこでは、自由貿易協定の締結で日本に先行する韓国との比較及び日本国内における中央と地方でのTPPをめぐる政治過程の比較を事例分析的に検証する一方、そこでの知見をサーベイ調査と国会議員候補者調査を利用して自由貿易がもたらす「雇用不安」と「消費者利益」そして、自由貿易協定をめぐって論じられる外交戦略、とりわけ「安全保障」という要因が、貿易をめぐる政治過程に影響を与えることを実証し、そのメカニズムを解明した。
著者
石原 千秋
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

明治30年代の読者が馴染んでいて、なおかつ礎石文学と共通点を持つ女学生小説と家庭小説と漱石文学との違いを明らかにした。第一は、漱石文学の女性主人公は女学校を卒業して以降の女性の運命を書いたものであって、彼女たちは恋愛や結婚生活において自らを「謎」の存在とすることで、男性との関係にいおて主体性を確保したこと。第二は、漱石文学は明治31年に施行された明治民法を意識して書かれており、これは「家族小説」と呼ぶべきで、山の手に形成されつつあった新興の中間層に父権的資本主義下の近代家族の質を提示し続けたことである。
著者
福川 康之 下方 浩史 高尾 公矢 川口 一美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「祖母仮説」は,繁殖期を過ぎた個体が子の繁殖に貢献するために長寿化したと仮定する理論である.しかしながら本研究では,娘の繁殖成功度の向上(第一子の早期誕生や第一子と第二子の出産間隔の短期化)に最も貢献していたのは義理の母親(夫の母親)であった.日本のような母方居住の傾向が強い地域では,実娘と実母よりも嫁と姑の関係が繁殖に影響している可能性がある.祖母仮説を現代社会で検討するうえでは文化的な背景に配慮する必要があるといえるだろう.
著者
矢野 敬生 堀口 健治 吉沢 四郎 柿崎 京一 小玉 敏彦 林 在圭 金 一鐡 陸 学芸 間 宏 松田 苑子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本プロジェクトは、共通の漢字・儒教文化圏の中核をなす日本・中国・韓国を対象にして、社会学・文化人類学的実証研究法を駆使して、三国の民族社会の基層的な構造・文化的特質を明らかにすることを目的とした。そこで上記の目的を遂行するために、文化的伝統を比較的濃密に保持している村落社会(具体的には(日)長野県富士見町瀬沢新田、(中)中国山東省菜蕪市房幹村、(韓)韓国忠清南道唐津郡桃李里)を対象として、参与観察にもとづくフィールド調査を実施した。研究の枠組としては、第一に「家・家族・同族・宗族」、「土地・労働関係」、「信仰・地域統合」の3つのカテゴリーを設定した。第二に暫定的な結果として、以下述べるような諸点が明確となった。(1)中核的な文化概念が、例えば家族・同族・村落といった同一漢字で表現されていても、意味内容は相違しており、概念を再規定する必要がある。(2)社会結合の類型として定住型社会(日本)と移動型社会(中国・韓国)を設定することが可能であり、「村落」およびそれに基づく人間関係のあり方、村落祭祠、同族関係の様相が大いに異なっている。「信仰・地域統合」の面からみると、(3)日本の基礎構造が「ムラ」的地縁関係に規定される固定的な「入れ子型」体系をなすのに対して、韓国においては「ウリ」概念にみられるように伸縮自在の可変性を特徴としている。こうした特徴は「土地・労働慣行」においても同様であり、(4)日本の場合はムラを基盤として共同的志向が強いのに対して、中国・韓国では個人的祈願の志向が強くみられる。そして、(5)こうした全般的構造の特徴は、「親族・家族の構成や人間関係」においても顕著な差異をみせている。ただし、今回の研究では個別のフィールド調査に力点がおかれたために、三国の基層的文化構造の比較という側面はむしろ今後の課題として残されている。
著者
山口 富士夫 吉田 典正
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

現在の、CADを支えている形状処理の技術には,(1)不正確さ,(2)不安定さ,(3)複雑さ,の点で避けることの出来ない限界が存在し、これらの問題はシステムの信頼性に影響を及ぼす。著者は,"諸悪の根元は除算にある"とし,除算を用いない処理方式として「完全4次元同次処理」を提案している。ここに"完全4次元"とは、"一貫して4次元による"の意である。本研究は、現行の「ユークリッド処理」と本方式との理論および実験による比較である。(1')厳密な正確さ:除算を伴う「ユークリッド処理」では、厳密な正確さは実現困難である。一方、本方式では、有理数を扱う限り、厳密に正確な演算が可能である。これは様々な実験結果により確認されている。(2')頑健性:本方式では、除算を実行しないので、除算に伴うオーバーフローなどの不安定さは存在しない。また幾何的ニュートン法において、有理式曲線・曲面を対象とするときに現れる不安定さも、本方式では原理的に存在せず、更に解の局所一意性の点でも格段に優れている。(3')簡潔性:「ユークリッド処理」は射影による切断後の図形を対象とし、また「4次元同次処理」は射影前の図形を対象とする。前者は、切断の仕方により様々な形となるので組み合わせの場合が増え、複雑さが増大する。上に見たように、上記の3点に関しては圧倒的に「完全4次元同次処理」が優れていると結論できる。更に、処理の"一般性"と"統一性"および"双対性"に関しても、本方式の優越性が分かっている。
著者
今井 正司
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度における研究テーマは、発達障害児における注意制御機能の促進が学習課題遂行に関する認知と感情に及ぼす影響について検討することであった。具体的には、認知神経課題を用いて注意制御機能を促進することで、学習への取組みに必要な「集中力」「達成動機」という認知的側面を向上させ、「イライラ感(怒り)」「無力感」などの感情的側面を自己制御できるようにすることであった。成人を対象にして行われた注意制御機能の促進に関する研究においては、「注意制御機能の促進は、メタ認知的な対処方略を活性化させ、感情制御能力を高める」という知見が得られている。本研究は、これらの研究知見を学習に対する困難さを抱えている児童に適用した神経教育学的アプローチという新たな視点に基づく試みであった。研究の結果、注意制御機能の促進は、集中力や達成動機に関する能力を向上させ、課題遂行に伴うネガティブな感情を制御する効果が示された。特に、課題遂行に伴う「イライラ感」や「衝動性」の制御において効果がみられ、学校生活場面においては、攻撃行動の低減(自己抑制)が顕著に示された。しかしながら、「全問正解しなければ意味がない」などの「過度な完全主義的認知」を有している児童の場合には、注意制御機能とは別の認知機能にも焦点を当てる必要性が課題として示された。神経教育学的アプローチに基づく本研究においては、学校適応の基盤となる認知・感情・行動に関する制御機能の獲得促進に関する具体案と根拠が示されたといえる。今後は、本研究で得られた知見を、特別支援教育において有益な実証的知見を蓄積している応用行動分析的アプローチに組み込むことで、さらなる効果を期待できることから、教育臨床的に意義が高い研究であると言える。
著者
峯田 史郎
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、大メコン圏(GMS)において、国家スケール主導の開発プログラムによって社会変化を強いられてきた生活者に注目し、彼ら自身が生活領域を確保する実態を検証することを目的とした。境界地域に暮らす生活者は、関係する各種行為体から、政治的、経済的、文化的影響を受けながらも、境界領域の権力構造を巧みに利用し、生存戦略を模索する過程を明らかにすることができた。