著者
目黒 公郎 越村 俊一 高島 正典 近藤 伸也 村尾 修 庄司 学
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,津波災害経験の乏しい発展途上国を主な対象として,効果的な津波防災対策を実施する際に必要な総合的な津波防災戦略のモデルを提案するとともに,いくつかの発展途上国への具体的な導入考えた場合の課題を整理した上で,津波警報システムを構築するものである.その結果、津波を探知し,警報を出し,住民を避難させるまで,総合的に支援するシステムを長期的に維持する基盤が整った.
著者
小林 正彦 尾崎 正孝 嶋田 透 永田 昌男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1.カイコへの遺伝子導入の際にマーカーとして利用すべく,オモクローム色素(卵の漿膜の色素)の生成に関わる遺伝子群のひとつである,キヌレニンモノオキシゲナーゼ遺伝子を単離し,塩基配列を決定した。また,この遺伝子が第10連関群に所属することを明らかにし,同連関群に座乗する第2白卵遺伝子や無翅遺伝子との組換え価を調査した結果,この遺伝子がカイコの卵色の突然変異である第1白卵の正常遺伝子である可能性が濃厚となった。2.カイコのランダム増幅多型DNA(RAPD)や,既知の遺伝子を利用して,性染色体(Z染色体およびW染色体)や第10連関群の染色体の構造の解析を行った。3.カイコのZ染色体上の遺伝子の発現量を雌雄で比較することによって,カイコにおいては,遺伝子発現の量補正が存在しないことを明らかにするとともに,人為的に誘発した3倍体のカイコにおいても,遺伝子の量にほぼ比例した量のmRNAが転写されていること確認した。また3倍体においては,2倍体にくらべて細胞の大きさは増大するものの数は少なくなっており,各器官や虫体の大きさには2倍体と3倍体の間で差が見られないことが判明した。4.カイコ核多角体病ウイルスにおいて,多角体の形成に関する変異株や,感染状況に違いの見られる変異株について,原因遺伝子の単離および塩基配列の決定を行った。またウイルスに感染したカイコの体液に,ウイルスを不活化する効果があることを確認し,その因子およびその効果を阻害する因子について検討を行った。5.W染色体の上に転座染色体をもつカイコの限性系統から,転座染色体が再転座したものと思われる変異個体を複数分離し,それらの形質を支配する遺伝子のうち,第5連関群上のものを2つ,第6連関群上のものを1つ,第13連関群上のものを1つ,それぞれ確認した。また,それらの座位を調査した結果,常染色体の端に付着しているらしいことが示された。
著者
正木 忠彦 石丸 悟正 富永 治 山形 誠一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

目的大腸癌に見られる遺伝子変化の中で18番長腕の染色体の欠失が大腸癌の進展の中で、どのような意義があり、また臨床上応用されうるかを検討しるものである。材料と方法手術より得られた大腸癌原発巣80例で検討した。標本は-80℃で保存し、proteinase-K及びフェノール/クロロフォルム症例によりDNAを抽出した。18番長腕の染色体の欠失は、DCC内のマイクロサテライトの多型性を利用し、polymerase chain reaction (PCR)法を用いLOHを判定した。結果遠隔転移による死亡はDCCのLOHが見られないものでは、3/15 (20%)、LOHのみられるものでは13/31(42%)であった。術後生存期間をDCCのLOHで検討してみると、単変量解析では、有意差が出なかったが、有意に生存に関与していたDukes分離と(p=0,019)組織型(p=0.002)を考慮に入れた多変量解析をおこなったところ、DCCのLOHのある症例は、術後生存期間が短いという傾向が出た。(p=0.056)結論ガン抑制遺伝子であるDCCの存在する第18番染色体長腕の欠失は、大腸がん患者において予後に相関し、有用な臨床マーカーとなりうる可能性が示唆された。
著者
田中 寛 佐藤 直樹 野崎 久義 河村 富士夫
出版者
東京大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2004

真核細胞の基本的な作動原理を、その成立に深く関わったミトコンドリア・葉緑体の進化や機能に注目して研究した。動物・菌類を除く多くの真核細胞系統が一旦は葉緑体を持っていたとする'超植物界仮説'を提唱すると共に、共生由来オルガネラである葉緑体からのシグナルが、植物細胞周期の開始に必須であることを示した。さらに、細胞内に共存する3種ゲノムにおける遺伝情報の発現協調機構の解析などを通じ、原始的な真核細胞シゾンをモデル系とした細胞生物学の新分野を切拓いた。
著者
児玉 聡
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度は、ジェレミー・ベンタムの功利主義に基づく政治思想を中心に研究し、それを口頭で発表したものをベースにした論文を現在校正中である(『公共性の哲学を学ぶ人のために』に収録)。また、功利主義的立場から生命倫理における臓器移植の問題について学会発表を行ない、発表に基づいた論文を現在執筆中である。1.ベンタムの政治思想に関しては、口頭発表に基づき、「何のための政治参加か--19世紀英国の政治哲学に即して--」という論文を現在校正中である。これは、ベンタムやジェームズ・ミル、ジョン・ステュアート・ミルの政治思想をもとにして、デモクラシーにおける二つの政治観(経済学的な理解と、参加や討議を通じた公共心の育成を強調する理解)を対比的に描き出し、政治参加における公共精神の役割を検討するものである。2.ベンタムの功利主義思想の応用として、生命倫理学の分野で、「慢性的な臓器不足問題についてのささやかな提案」という口頭発表を学会で行なった。これは、富の再配分の問題に関するベンタムの議論を参考にして、現在見直しが喫緊の課題となっている脳死・臓器移植法に関する提案を行なうものである。とくに、今日の英米圏で問題になっている限定的市場化や臓器提供の義務化の議論を検討し、提供臓器の慢性的不足を解決するために提案されている臓器移植に関する推定同意制、報償制度、市場化、義務化の持つ倫理的問題について、比較検討を行なった。現在、この発表に基づいた論文を執筆中である。
著者
石井 明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

中ソ関係のソ連側資料はソ連邦崩壊後、ある程度使えるようになった。さらに中国側資料を含め、中ソ間で1950年代、中ソ指導者間に生まれた認識のズレから、次第に相互不信がエスカレートしていく構造が出来上がっていく過程についての研究を深めた。中ソ対決は1969年3月、中ソ国境を流れるウスリ-江の川中島の珍宝島(ロシア語名、ダマンスキー島)で両国国境守備軍が戦った珍宝島事件でピークを迎える。この事件についても、両軍指揮官の回想を入手し、検討した上で、中国黒龍省虎林県の現地を訪れて、事件の真相を探った。珍宝島の対岸に位置する「209高地」(事件の際、ソ連側から砲撃を受けた。高さが209メートルなので、このように呼ばれている)に登って、考察した。事件は1969年3月3日と15日の2回の大きな衝突からなるが、第1回衝突は中国側優勢、第2回衝突は、敗勢を挽回しようと戦車まで動員したソ連側が優勢であったことが、裏付けられたと言ってよい。また、珍宝島が川の主要航路の中国側に位置していることも確認できた。なお、中ソ関係はその後、中ソ西部国境でも衝突が起き、対決状況が続く。中ソ冷戦と称される時期を経て、両国は関係改善に向けて瀬踏みを続けるが、両国間の見解の食い違いは調整がむつかしく、両国関係が正常化したのは1989年のゴルバチョブ書記長の訪中を持たねばならなかった。今後もこの分野の研究を進めて、中ソ対決の構造の全面的な研究を進めていきたい、と考えている。
著者
宮下 志朗
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

19世紀フランス文学において「読書の文化史」の研究が立ち後れていることを実感して、16世紀研究者でありながら、あえて19世紀の読書空間の探索に乗りだしてみた。この間、平成12年度〜14年度の基盤研究(C)(2)「19世紀フランスにおける、著作権・印税システムと作家の関係について」(課題番号12610521)に続き、合計7年間を、19世紀読書空間の研究に捧げた。その成果を、前回のもの([]に入れた)と合わせて、箇条書きにしておきたい。・[パリでのシンポジウムでの発表を共著として公刊したこと(2001年、パリ)。]・[『書物史のために』(晶文社、2002年)を刊行したこと]・自著『本の都市リヨン』が韓国語に翻訳されたこと(2004年、ハンギル社)。・19世紀のパリで、読書クラブ・書店・新聞発行元として、英語話者を中心にヨーロッパ中に顧客を擁した、Galignani書店の資料類の調査をおこない、放送大学大学院の「地域文化研究III--ヨーロッパの歴史と文化」(第13回「近代読者の成立」)で具体的に紹介したこと。・「フランス的書物の周辺」と題する連載をおこなったこと(NHKテレビフランス語講座のテクスト)。・研究の実践態として、《ゾラ・セレクション》全11巻(藤原書店)の刊行を、小倉孝誠慶応大学教授とともに実現させたこと(『美術論集』『書簡集』が未刊)。・バルザックに関しても、今回の成果を生かし、短篇を翻訳中であること(光文社古典新訳文庫)。・本研究の総括として、「19世紀の読書の文化史」という主題で、単行本を執筆中であること(刀水書房)。
著者
保谷 徹 箱石 大 山田 史子 横山 伊徳 小野 将
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の成果は、第1に、下関戦争を主導した英国をはじめ、仏・米・蘭各国の動向を当時の国際関係の中で立体的に解明するさまざまな一次史料の発掘にある。本研究は「19世紀列強の陸・海軍省文書を中心とした在外日本関係史料の調査報告」(平成11-12年度科学研究費補助金基盤研究(B)-(2)、課題番号:11691006、研究代表者:保谷 徹)と連携させて遂行した。これまで十分に利用されてこなかった海軍省文書をはじめ、欧米各国の日本関係史料に幅広く目配りし、とくに英国の出先機関(駐日公使)と本国外務省、あるいは軍部(出先と本国)や政府首脳の動向に関して、多くの新たな史料と論点の解明をおこなった。第2に、戦争記録の発掘によって、列強側の軍事行動の具体的有様と、当時の日本および長州藩の軍事力に関するデータと列強側の評価を具体的に明らかにすることができた。第3に、かかる軍事記録に含まれた数々の画像史料の発掘も大きな成果である。本研究遂行の過程で収集した英仏海軍省文書などの欧文史料群あるいは長州藩毛利家の国内史料、作成した目録類は、東京大学史料編纂所に寄贈され、マイクロフィルムやデジタル画像のかたちで、同所において広く公開され研究に供される。
著者
武川 一彦
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部教育行政学研究室紀要 (ISSN:02880253)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.27-34, 1992-08-31

In 1826,the New York Free School Society changed its charter and renamed itself as the New York Public School Society. Accompanied with this single substitution of Public for Free was a transformation of tution system. In this year, the Society firstly charged tution fees according to economic abilities of parents. But in 1832,only six years' experiences, this tution system was abandaned. In this study, I try to examine why the tution-system was changed between 1826 and 1832. Part 1 deals with rationales proposed by the Society, for and against tution fees. In Part 2,Special attention will be focused upon controversies between the Society and the Working Men.
著者
西田 栄介 米沢 直人
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

コファリンとでストリンは、低分子性の互いに近緑のアクチン結合蛋白質で、前者はpH依存性の、後者はpH非依存性のF-アクチン脱重合活性を有する。コフィリンのTrp^<104>-Met^<115>の領域(デストリンにも保存されている)がアクチン結合部位であることが明らかになった。また、この領域がイノシトールリン脂質(PIP_2並ビにPIP等)結合部位でもあることが判明した。この領域に相当する合成ドデカペプチドは、アクチン並びにPIP_2及びPIPと強く結合し、結果としてPIP_2ないしPIP感受性のアクチン重合阻害活性を有することがわかった。このドデカペプチド及びコフィリンが、ホスホリパーゼCによるPIP_2の加水分解を強く阻害することがわかった。したがって、コフィリンはアクチン系細胞骨格の調節因子としてばかりでなく、イノシトールリン脂質の関与するシグナル伝達系の制御因子として機能する可能性が示唆された。出芽酵母から、DNaseI-アフィニティークロマトグラフィーを用いてコフィリン様蛋白を同定した。部分アミノ酸配列をもとに、遺伝子のクローニングを行った。また、cDNAクローンをもとに大腸菌に組み換え体の蛋白質を発現させ、精製してin vitroでの性質を調べたところ、(i)pHに依存したF-アクチン脱重合活性を有する、(ii)G-アクチン及びF-アクチンの双方に結合しうる、(iii)PIP_2と結合する、ことの3点が明らかになった。この性質は哺乳類コフィリンと完全に一致していた。さらに、アミノ酸配列も哺乳類コフィリンと約40%同一であった。以上の結果から、この出芽酵母コフィリン様タンパク質は酵母コフィリンであると結論し、その遺伝子をCOF1と命名した。COF1は、遺伝子破壊の実験から、酵母の生育に必須であることが判明した。
著者
瀬地山 角
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

今年度は北朝鮮と韓国で資料収集を行ったほか、資料の収集と整理を行い、最終的に単著として刊行する上での最終的な準備を行った。北朝鮮では簡単なインタビューや見学を行い、実情に対するある程度の感覚をつかむことができた。特に儒教と社会主義が絡んで独特のジェンダー規範が形成されていったことを後づけることができた点は大きな成果となった。社会主義としての中国との類似点のほかに同一の文化としての韓国との類似点を摘出できた点は本研究の独自の貢献であると考える。また韓国では統計資料などを中心に資料を集め、論文執筆への基礎作業を終えることができた。そうした成果についてはアジア経済研究所の研究会、ソウルや静岡での国際シンポジウム、日本社会学会・現代中国学会などさまざまな機会で発表し、批判を吸収してきている。アジア経済研究所の研究会での成果は佐藤・服部編『韓国・台湾の発展メカニズムの再検討(仮)』としてまもなく出版される予定であり、そのなかで私は家父長制という文化規範の考察を通じて、韓国・台湾の経済が似ているように見えて実はかなり違う様相を持つものであることを文化的側面から明らかにした。女子労働・肉体労働の評価といった点で伝統的文化規範の作用から大きな差異が生まれるのである。今年度後半からは主に単著の執筆に専念しており、本研究の成果は、博士論文として総合文化研究科に提出した後、勁草書房より『家父長制の比較社会学(仮)』として出版される予定となっている。
著者
山本 伸一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

当初の研究計画が、ゲルショム・ショーレムによる先行研究の批判的検討であったのに対して、以下に述べるように、当該年度の研究の過程において、より新規性に富む視点からシャブタイ派運動を分析することができた。そのなかで私が研究の目的として設定したのは、シャブタイ派思想における反律法主義の起源の解明であり、これはシャブタイ派思想のカバラーの性質を究明しようとした所期の目的をより厳密にしたテーマである。律法主義(nomism)を本質とするユダヤ教において、戒律の変更と更新を目指す反律法主義(antinomism)は、単に律法を副次的に理解する非律法主義(anomism)とは区別されねばならない。現段階の想定によれば、メシアの時代における救済の実現のために行われた祭日、慣習、戒律の大胆な変更は、(1)ツファット盛期のカバラー、及び(2)中世の占星術に影響されていた現象である。反律法主義の起源を研究するために、それぞれの点について以下のことを研究した。(1)ツファット盛期のカバラー(16世紀にパレスチナの小都市で起こったカバラーの復興運動)においては、神秘家によって伝統的な戒律や慣習がより厳密に規定され直したことが知られている。このカバラー的律法主義を終末論的に解釈したのが、シャブタイ派の反律法主義であることを立証する。(2)中世の占星術は、ユダヤ教徒、キリスト教徒、ムスリムなど宗教の枠組みを越え、多くの知識人が共有した普遍的な学問領域であった。すでにカバラーはその初期から占星術を採用しており、こうした言説のなかには、反律法主義的な性格のものが存在する。シャブタイ派文献のなかにもその影響が見られるため、その関連性を一次資料に依拠しながら研究する。現在のところ、研究成果の発表にはいたっていないが、以上の論点はシャブタイ派思想研究においては、極めて本質的かつ独創的な試みであると考える。
著者
笹川 千尋 冨田 敏夫 戸辺 亨 福田 一郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

赤痢菌は経口的にヒトへ感染後回腸に到達し、腸上皮細胞へ自ら食作用を誘発し細胞内へ侵入する。これには本菌の有する大プラスミド上のipaBCDから産生される侵入性蛋白(IpaB,IpaC,IpaD)が深く関っていることが知られているが、その機序は不明であった。そこで本研究ではIpa蛋白の性質と侵入に果す役割を理解する目的で、(i)Ipa蛋白の上皮細胞に対する作用、(ii)Ipa蛋白の菌体外論送機構、(iii)ipaBCD遺伝子の発現調節機構、の以上3つの研究を実施し、以下に列挙する知見を得ることができた。(1)Ipa蛋白は通常菌体表層に発現し結合状態にあるが、菌体から遊離することが細胞侵入に不可欠である。(2)Ipa蛋白の菌体からの遊離には、菌と上皮細胞との接解が必須である。(3)(2)の現像は、菌と細胞外マトリックス(フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIV)との接解により惹起される。(4)Ipa蛋白の遊離能には、大プラスミド上のSpa遺伝子の1つ、Spa32が関与している。(5)遊離したIpaBとIpaC蛋白は複合体を形成し、IpaDと共に上皮細胞上のレセプター(現在同定中)に結合する。(6)IpaB、IpaC、IpaDの菌体外論送には、大プラスミドのコードするmxi領域と共に、Spa領域が必要である。(7)Spa領域中には8つのSpa遺伝子が存在する。(8)Spa蛋白のアミノ酸一次構造は、動物・植物病原菌に広く存在する蛋白分泌系蛋白と著るしい(20〜45%)ホモロジーを示し、互いの遺伝子構成も類似している。(9)(8)で認められる蛋白による蛋白論送系は、Sec-依存的蛋白論送系あるいはヘモリジン蛋白論送系とも異なる、第3の蛋白論送系である。(10)ipaBCDの温度依存的な発現調節は、本遺伝子群の正の転写因子、virB、の転写段階で行なわれている。以上の成果は欧米でも注目され、平成6年にはゴ-ドン会議に於て招待講演として発表を行った。
著者
川出 敏裕
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究期間の最終年度である本年度は,平成12年の6月に,いわゆる犯罪被害者保護のための二法が,同じく11月に,「少年法等の一部を改正する法律」が成立し,本研究の二つの対象分野それぞれについて,大きな動きがあった。犯罪被害者保護立法はもちろんのことであるが,今回の少年法の改正では,少年事件における被害者への配慮という要素が、その重要な背景をなしている。その意味で,これらの法律の制定は,本研究課題に直接関連するものであるため,本年度は,その内容を検討することを第一の課題とした。この間に公表した研究成果は,いずれもそれに関するものである。まず第一の「非行事実の認定手続の改善と被害者への配慮の充実」(ジュリスト1195号)は,改正少年法の内容のうち,少年審判における事実認定手続の改正に係る部分と,被害者保護のための措置として新たに導入された,審判結果の通知,審判記録の閲覧・謄写,被害者からの意見聴取を取り上げて,廃案となった旧改正法案と対比しつつ,検討を加えたものである。第二の「逆送規定の改正」は,被害者保護と結びついて主張された,少年犯罪に対するいわゆる厳罰化の象徴的な規定である逆送年齢の引下げと,原則逆送制度の導入につき,その内容と意義を分析したものである。最後に,椎橋教授,高橋教授との共著である『わかりやすい犯罪被害者保護制度』は,犯罪被害者保護のための二法の内容について,一問一答式で解説を行ったものである。それは幅広い内容を含むものであるが,筆者は,そのうちでも,少年事件にも同様に適用されることになる証人尋問の際の被害者保護の問題を中心に執筆している。このように,本年度は,新立法の検討が中心となったため,比較法的考察を踏まえた少年事件における犯罪被害者の法的地位に関する原理的な考察は,必ずしも十分になしえなかった。この点は,今後の課題としたい。
著者
DODBIBA Gjergj 藤田 豊久
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では金属液体として金属ガリウムを使用し、分散させる強磁性粒子には数百nmの粒子径で温度の上昇とともに飽和磁化が低下する感温性がある鉄合金粒子をシリカ被覆してガリウムに分散させやすくして使用した。ガリウム中に3%程度の本粒子径の鉄合金粒子を分散させると、流体は外力でやわらかく変形するゲル状になった。本流体は流動性が少ないため、流動性がある磁性流体よりは懸濁液であるMR流体に近いと考えられる。この金属流体へ磁界の印加の有無によるトルクと角速度の関係を円錐平板型粘度計および共軸二重円筒型にて測定した。磁界中での流体の粘度変化が少なければ、応用として磁界の印加でオンとオフで移動できるスイッチ、あるいは、磁界印加状態で温度が変化すると流体が保持されなくなることによる温度スイッチなどが考えられる。
著者
川畑 貴裕
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

A=4Nの質量数をもつ軽い原子核では、N個のα粒子からなるクラスター状態がα崩壊の閾値近傍に現れることが知られている。例えば、^<12>Cでは3個のα粒子からなる3αクラスター状態の存在が知られている。近年、αクラスター模型はA=4N以外の原子核にも拡張されつつあり、^<12>Cに中性子をひとつ追加した^<13>Cには、クラスター状態をなす3個のα粒子が中性子を介して共有結合している状態が存在すると予測されている。一方、^<12>Cから陽子をひとつ取り除いた核である^<11>Bでは、3個のα粒子が空孔を共有している状態が存在する可能性がある。これらの背景を踏まえ、本研究では3α配位,3α+n配位および3α+p^<-1>配位をもつ^<12>C,^<13>Cおよび^<11>Bのクラスター状態をアルファ非弾性散乱の手法で研究し、原子核における共有結合モデルを検証することを目的とする。平成17年度に^<12>C,^<13>C,^<11>Bを標的とするアルファ非弾性散乱実験の実施したのに引き続き、平成18年度には、これらのデータ解析を行った。畳み込みポテンシャルを用いた歪曲波ボルン近似計算に基づいて多重極展開を実施し、3つの標的核における単極子遷移強度分布を決定した。さらに、決定した遷移強度分布を反対称化分子動力学計算と比較し、^<11>B,^<13>Cにおいて、3α+p^<-1>ないし3α+n配位をもっクラスター共有結合状態の候補を発見した。この結果を、ドイツ・ミュンヘンで開かれた国際クラスターワークショップの席上において報告するとともに、Physical Review C誌、および、Modern Physics Letters A誌、Journal of Physics誌上において公表した。
著者
紺野 茂樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

まず取り組んだのは、「苦しむことを望まない」という、全人類に共通する属性に依拠する、「共苦の連帯」の反対物である、排外主義的民族主義の分析である。集団的な「些細な差異に拘るナルシシズム」(フロイト)に基づく、この排外主義的民族主義は、1930年代から40年代にかけて猛威を振い、冷戦後、世界各地で不死鳥のように蘇った。その最も陰惨な形が、90年代の旧ユーゴやルワンダ等における、そしてイスラエルによる現在進行形の、「民族浄化」である。具体的には、まずは従来から親しんできた、30年代から40年代にかけての『権威と家族』をはじめとするフランクフルト学派とその周辺の思想家達による、ファシズム-ナチズムおよび反ユダヤ主義の分析や、丸山眞男による天皇制軍国主義の分析等を繙き、今日でも学ぶに値する洞察にアクセントを置いて、再構成した。これらの社会心理学的研究で展開されているのは、マルクスの唯物論とフロイト精神分析の総合を目指して行われた、ファシズムの大衆=群衆心理分析である。しかし大いに驚いたのは、この30-40年代の大衆=群衆心理のかなりの部分が、90年代以降の日本のそれも含めた排外主義的民族主義において、反復しているという点であった。更に、他者の苦しみに対する想像力として、これまでのホルクハイマー-ショーペンハウアーにおける「共苦(Mitleid)」に加えて、ルソーにおける「憐れみ(pitie)」やスコットランド啓蒙における「同感(sympathy)」の思想史的・現代的意義と問題性についても、イグナティエフやマルガリートといった、現在存命中の内外の思想家による研究と照らし合わせながら探究した。そして、この過程の中で、これまではあまり視野に入っていなかった、世界人権宣言をはじめとする、人権を国家の枠組みを超えて普遍化しようとする、国際法上の試みにも取り組み始めた。
著者
王寺 賢太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

1)「哲学的歴史」と考証学レナルの「哲学的歴史」は、ベイルらの「歴史の懐疑主義」の提起したユダヤ-キリスト教的な世界観の批判、あるいは王と信仰と法の統一性の証明を志すべくベネティクト会士の考証学の批判を受け入れたところから出発する。しかし、レナルにとって一層重要なのは、「歴史の懐疑主義」による歴史認知一般の真理妥当性の否定を退け、「蓋然性」にもとづく歴史認識を理論的に擁護したのみならず、新旧論争における相対主義の提起、聖書の創造譚を規範とする中国の歴史的・民俗学的叙述の批判を行った碑文アカデミーの考証学者フレレである。だが、キリスト教的な世界観にかわる近代的な世界観を示唆したフレレも、過去の事実の検討に目標をおく考証学の言説の内部では、新たな歴史叙述の枠組み自体を示すことはできなかった。世紀中盤考証学の忠実な読者であったレナルが近代ヨーロッパの歴史叙述を選択する背景には、十八世紀の考証学の認識論的な発展によってあきらかにされたその限界を乗り越えようとする企図が控えている。2)「哲学的歴史」と法思想マキャヴェッリの政治思想とベイルにいたる懐疑論の継承者であるレナルは、ストア=キリスト教的な目的論的枠組みのなかで、「真正な理性」や「社交性」から絶対王政の法秩序を導き出す自然法思想を否定する。また、当時「書かれた理性」ないし自然法を体現するとみなされていたローマ法については、フランス王国を近代におけるローマの帝権と法の継承者とみなすボシュエやデュボスの「ロマニズム」をしりぞけ、ブーランヴィリエの「ゲルマニスム」をうけてローマ帝国と近代ヨーロッパ諸国家の断絶を強調する。レナルにおいて法の起源は理性にではなく社会内部の権力関係にあり、近代の王国の政治的秩序は、とりわけ暴力装置と所有の分配の変動を通じて歴史的に生成したものなのである。この認識はモンテスキューによる法についての歴史的で政治的なアプローチを受け継いだものだが、さらにレナルは、「法を歴史によって、歴史を法によって説明する」モンテスキューを批判して、実定法以前にある多数者の意思とその間の社会的な諸関係の存在を強調する。そこで歴史は法を特権的な参照項として叙述されるものであることをやめ、法体系に断絶さえもたらしかねない、社会的な諸関係総体の変動として把握されることになるのである。以上2)の研究内容は、4月25日、パリのフランス国立科学研究所において開かれる『十八世紀における法学的知の形成』研究会で発表される。
著者
斎藤 馨 岩岡 正博 藤原 章雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

(1)無電源地に太陽光発電システムを設置し、定時伝送システムに24時間電源供給を実現した。(2)無電源地でブナ林、2次林、人工林の森林景観と気象データを、携帯電話データカードを用いて、毎日定時に伝送するシステムを開発設置し、運用を続けている。(3)森林映像インターネット配信サーバの稼働を開始した。日々データカードで伝送蓄積している景観データについては、インターネットを使い、(a)PodcastによりPCとiPodに日々配信、(b)ブログによりPCと携帯電話への配信システムを開発し、運用を続けている。(4)過去13年間の高品質映像データから、紅葉期についてデジタル化し、配信サーバにデータベース化して組み込んだ。(5)環境学習教材開発と検証実験を行った。上記の(3)、(4)を用い、森林映像による過去13年間の紅葉期の季節変化と、定時伝送システムとインターネット配信により日々送られる紅葉期の映像データを用いた、環境学習プログラムを開発した。プログラムは、(a)映像による季節区分クイズ、(b)13年間の紅葉期映像パンフレットによる解説、(c)カエデ類の実物の葉の配布、(d)紅葉実験キットの説明と配布とした。(6)小学生とその家族を含む約100名による検証実験を行ない、アンケートを行った。(7)紅葉期が終わった後に、伝送映像と別に、高精細な映像を編集したDVDを制作し、郵送配布しアンケートを行った。(8)(5)でのプログラムでは、(a)が最も良かったと回答され、プログラム実施後に携帯電話やインターネットによる日々の配信映像を見てもらえることが分かった。また(7)では、ブログと携帯電話での視聴者が最も多く、森林景観の日々の様子を映像により観察する場合、重要なメディアであることが示された。
著者
宮本 英昭
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

小惑星イトカワの岩塊上にある高輝度の点に着目し、岩塊が10~100万年という極めて若い年代を示すことを示した。これは岩塊が幾度となく小惑星表面において流動化したとする研究代表者らの説と調和的である。さらに、3次元の複雑形状の粒子の分布を計算する数値シミュレーションコードを開発し、イトカワの高解像度画像における岩屑は幾何学的に飽和していることを示した。また、岩塊粒子の移動に関する理論的な研究を進め、特に静電気力による微粒子の浮遊効果が重要な意味を持つ事をあきらかにした。そして土星の衛星アトラスでは、その表面更新に主要な役割をはたしていることを示し、この現象が、実は微小重力下においては極めて重要な地質プロセスの一つであることを明らかにした。