著者
橘 秀樹 押野 康夫 山本 貢平 桑原 雅夫 上野 佳奈子 坂本 慎一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成10年に改正された「騒音に係る環境基準」では、環境騒音の状況に関して従来の点的把握から面的把握に変更され、評価指標としても騒音レベルの中央値(L50)から国際的に広く用いられている等価騒音レベル(LAeq)に変更された.また「環境影響評価法」でも大規模開発の際には環境の変化を正確に把握することが必須となった.このような背景の下に、本研究では、騒音のエネルギー的平均値を意味する等価騒音レベル(LAeq)によって環境騒音の状況を正確に把握あるいは予測し、その結果を客観的な形で表示する手法を確立することを目的として、以下の研究を行った。(1)道路交通騒音の予測・モニタリングに関する検討わが国における統一的な道路交通騒音予測モデルであるASJ RTN-Model 1998の内容をさらに充実するための基礎的研究として、大型車の影響や都市部における垂直方向の騒音分布に関する実測調査や、掘割・半地下道路からの騒音伝搬の計算手法の簡易化、きわめて複雑な特性を有する交差点周辺の騒音予測手法の開発などを行った。また、騒音対策として多用されている遮音壁の挿入損失の数値解析手法の検討や建物群による騒音低減効果などについても、検討を行った。(2)騒音伝搬特性の測定法に関する検討屋外では、騒音の伝搬に対して風などの気象条件による影響が大きく、またそれによって伝搬特性が時間的に変化する問題(時変性)が大きな問題となる。このような環境下において騒音の伝搬特性を精度よく測定する方法について、時間伸張(TSP)信号を用いる手法などについて、理論的・実験的検討を行った。(3)建設工事騒音の予測に関する検討最近では、各種の建設工事に伴って発生される騒音についても、環境アセスメントの対象となってきており、この種の騒音の予測手法を開発する必要がある。そこでそのための基礎的検討として、時間変動特性がきわめて多様である建設工事用機械類を対象とした騒音源データの測定・表示方法、LAeqを基本評価量とする騒音予測計算法の基本スキームについて検討を行った。
著者
野村 亨 WOLLNIK H. MEUSER S. ALLARDYCE B. SUNDEL S. 稲村 卓 RAVN H. 中原 弘道 松木 征史 HANSEN G. D'AURIA J.M. 永井 泰樹 篠塚 勉 藤岡 学 和田 道治 池田 伸夫 久保野 茂 川上 宏金 福田 共和 柴田 徳思 片山 一郎 NITSCHKE J.M BARNES C.A. KLUGE W.K. BUCHMANN L. BARMES C.A. MEUSEV S. D´AURIA J.M. SUNDELL C.
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は,原子核反応で生成するさまざまな短寿命の不安定核種を,その場で分離・選別し,さらに加速して二次ビ-ムとして実験に供する技術の開発とそれによる先駆的研究の実施であった。上記の実験技術は,現在世界的に注目されている先端的技術で,原子核物理学と関連基礎科学分野に全く新しい研究手法を導入するものと期待されている。本研究では,以下の研究課題を設定し,東大核研を軸にして,欧米の主な関係大学・研究所と共同開発・研究を実施した。その成果は,国際会議等に発表するとともに,論文として雑誌に報告されている。A.大効率・高分解能オンライン同位体分離器(ISOL)の開発・・・不安定核のその場分離・選別(ア)大効率ISOLイオン源の開発CERN(スイス)とTRIUMF(カナダ)等と共同開発を実施。表面電離型,FEBIAD型,ECR型イオン源を試作し,さまざまな不安定核原子のイオン化効率を測定。その結果を踏まえてイオン源の改良を行った。アルカリ金属元素については40%以上の大効率イオン化に成功した。また,ビ-ムバンチングについても成功した。(イ)超高質量分解能ISOLの光学計算M/ΔM【greater than or similar】20,000のISOLイオン光学系の設計を,東大核研・東北大・ギ-セン大学(独)の共同研究として実施。機械精度や放射線ハンドリングの観点から,そのフィ-ジビリティを検討。その成果は,東大核研の不安定核ビ-ムファシB.不安定核ビ-ムの加速技術の開発(ア)世界の現状の調査・検討不安定核ビ-ムの加速は,唯一例としてベルギ-の新ル-バン大学でサイクロトロンによって試験的に実施されている。そこでの現状を調査の上,CERN(スイス),GANIL(仏),TRIUMF(カナダ)等の加速計画を吟味し,種々の加速器の長所・短所を明らかにした。この結果は次の(イ)に反映されている。(イ)分割同軸型RFQリニアックの開発電荷質量比の極めて小さい,入射エネルギ-の非常に低い重イオンリニアックの設計・開発を東大核研で行った。そのさい,GSI(独)とTRIUMF(カナダ)の研究者に詳細な検討・批判をあおいだ。試作した分割同軸型RFQリニアックは順調に稼動し,世界的な注目を集めている。C.不安定核ビ-ムによる核物理・天体核物理学の研究(ア)レ-ザ-による不安定核の精密核分光GaAs,AlGaInPなどの固体結晶中に, ^<75>Br, ^<114m>In等の不安定核を打ちこみ,レ-ザ-による光ポンピングにより,娘核( ^<75>Seや ^<114>In)のスピン偏極を実現した。固体中の不安定核のスピン偏極は世界的に稀な成功例である。さらに,RADOP法により,娘核の核磁気能率を精密に測定した。これは,CERN(スイス)との共同研究である。(イ)不安定核の天体核反応率の測定東大核研・理研・GANIL(仏)との共同研究として宇宙における重元素合成機構において,不安定核の天体熱核反応に役割の研究を実施。 ^<13>Nの熱核反応率の測定に成功した。上述の研究成果の多くは,平成3年度に開催された国際会議(原子核・原子核衝突に関する第4回会議,於金沢;第2回放射性核ビ-ム国際会議,於新ル-バン大学[ベルギ-];第12回EMIS会議,於仙台等)の招待講演として発表されている。また,国際誌等に論文として報告した。本研究成果は国際的な反響をよび,東大核研の研究プロジェクトにその結果が活用されたばかりでなく,CERN(スイス),TRIUMF(カナダ),LANL(米)等の研究所から共同研究が期待されている。
著者
長田 敏行 渡辺 昭 岡田 吉美 中村 研三 三上 哲夫 内宮 博文 岩淵 雅樹
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

体勢上レンガ積み構造に例えられる植物体に発達された内・外的刺激に独特の応答反応を示す現象の分子機構の解明を目的として立案された本研究組織において、研究期間終了にあたって次のような成果が得られた。まず、植物ホルモンのうち作用が最も広範かつ劇的ゆえ重要とされるオーキシンについて発現制御をする遺伝子を探索して得られた遺伝子は、グルタチオンS-トランスフェラーゼをその翻訳産物と同定したが、これはオーキシン制御の遺伝子で機能の同定された最初であった。また、やはりオーキシン制御の遺伝子で細胞増殖に関っていると推定されるGタンパク質のβ-サブユニット様の遺伝子も同定したが、これは植物で初めてのGタンパク質関連遺伝子であり、タンパク質Cキナーゼを介する新しい信号伝達経路の展開を予測させたが、同様な展開は蔗糖により誘導されるβ-アミラーゼでも、Ca依存タンパク質キナーゼの介在を予測させ、斯界に本邦発の情報として貢献できたといえる。また、植物ホルモンが形態形成に果たす役割についても遺伝子の同定がなされた。一方、植物への病原菌の感染に伴う応答機構については、エリシターに対応する受容体の同定、中間で作用するホスホイノチド代謝経路の推定もなされ、病原菌抵抗性植物の再生も試みられた。さらに、植物ウイルスであるタバコモザイクウイルスの感染に関しては、ウイルスの複製酵素領域が抵抗性を支配していること、またウイルスの細胞間移行に関する30kDaタンパク質のリン酸化が抵抗性に関与していることも示された。なお、本研究グループで広く用いられたタバコ培養細胞株BY-2は、高度な同調化が可能ということで世界18ヶ国で使われるにようなったが、その流布にあたっていは本研究グループが大いに貢献してた。
著者
鈴木 和夫 福田 健二 井出 雄二 宝月 岱造 片桐 一正 佐々木 恵彦 斯波 義宏
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

1.材線虫病感染後の光合成・蒸散などのマツの生理的変化と萎凋・枯死機構との関連について検討を加えた結果、これらの生理的変化はキャビテーションが或る程度以上進行した後に、水ストレスの発現と同時に、あるいは、それ以降に生ずる現象であることが明らかにされた。2.材線虫の病原性と電解質の漏出現象との関連について細胞レベルで検討した結果、病原力の強弱に応じてマツ組織への影響が異なり、その強さに応じて電解質の異常な漏出が生じることが明らかにされた。3.材線虫病感染組織で産生されるセルラーゼについて検討した結果、このセルラーゼは真核生物起源であり、生きた細胞からの電解質の漏出を高めることが明らかにされた一方、抵抗性マツでは、この電解質の漏出は殆ど見られない。4.強・弱病原線虫を用いて、マツ組織細胞の応答について組織化学的に検討を加えた結果、DAPI染色によって組織細胞の生死の判定が容易となり、この方法を用いて病原性の差異を判別することが可能となった。5.誘導抵抗性の発現について検討した結果、誘導抵抗性はマツ樹体にストレスがかからない条件下、すなわち気象環境によるストレスと弱病原線虫によるストレスが、あるバランスを保った時にのみ誘導される現象であると考えられた。
著者
福来 正孝 岡村 定矩 安田 直樹 市川 伸一 土居 守 須藤 靖 市川 隆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

SDSSプロヂェクトは1993年よりその建設が開始され、1998/9年に觀測機材が完成2000年春より探査觀測を始め、2005年6月の末を以って當初の觀測計画を終へた。撮像は予定領域の115%、分光は76%である。分光の達成率が稍低いのは2004年2005年冬春期の天候不良の為である。SDSSでは欠損領域を埋める事を第一の目的とし、當計画遂行中其有効性が確認された二つの新プロヂェクト(1)銀河内の星の分布の觀測に據る銀河形状の研究、(2)超新星の探査を加へてSDSS-IIとして三年間の觀測延長を行ふ事を決定し、その觀測は2005年7月より始まっている。現在迄に一般に公開されているデータは9600平方度の天域に存在する2億9000万個の天體(約半数が銀河)及127万銀河のスペクトルである。本科研費はSDSS當初計画觀測の中、後期及び追加觀測の期間に當る。SDSSは現在迄に當初目論まれた學門的目標を十分に満足のいく程度に達成し、本觀測に據って得られたデータベースは今世紀中に亘り用ひられるものと見込まれる。サイエンスの解析は部分サンプルを用ひ有意に出来ると判断されたものから爲され科研費チームメンバーによる論文は160編とされ尚科研費研究期間中では108編の論文が出版された。被引用回數は合計16000回に上り非常に高いと考へられる。SDSSに據って探られた天體物理學は宇宙論、大規模構造クエーサによる高赤方偏移宇宙、銀河物理學、星特に低温星の物理學、太陽系内小惑星の探索等夛岐に及ぶが、特に宇宙の發展と原状を記述する宇宙論を定量的に確証したことはプロヂェクト最大の成果と云ってよい。更に、SDSSで見出されてた或はこの様な探査の有効性が確認された幾つかの現象が今後の大規模觀測計画の指針、或は目標を與へるものとなったことは我々にとって十分満足のいく事である。
著者
山形 伸二
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

エフォートフル・コントロール(EC)は,実行注意の効率を表す気質で,非顕在的な反応を行うために顕現している反応を抑制する能力をさす.申請者は,前年度までにEC尺度の信頼性・妥当性,遺伝的斉一性を明らかにするとともに,ECの低さが外在化問題行動(衝動性が極端に高い場合に生じる不適応;ADHD,行為障害,物質乱用などの総称),抑うつ・不安などの内在化問題行動の両方の遺伝的素因である可能性を明らかにしてきた。本年度は,まず(1)「因果の方向性モデル」という手法を用いて昨年度までに得られたデータの再解析を行い,ECと問題行動との関連が年齢とともに変化することを明らかにした(博士論文の一部,学会発表)。また,(2)ECの成人期における発達的結果と考えられている勤勉性・協調性について,アメリカの双生児サンプルの二次データ(National Survey of Midlife Development in the United States ; MIDUS)を用いて,宗教性の個人差が勤勉性,協調性への遺伝的・環境的影響の強さを調節することを明らかにした(投稿中)。この他,(3)衝動性についての気質モデルの行動遺伝学的な妥当性および発達的変化について検討し(パーソナリティ研究,Personality and Individual Differences,ともに印刷中),また(4)アメリカ・ドイツの研究者との共同研究を行い,他者評定によって得られた双生児のパーソナリティのデータを用いて,パーソナリティの5次元構造の高次因子が認知的バイアスによるartifactである可能性を示唆した(投稿中)。最後に,(5)パーソナリティ研究における行動遺伝学的知見と今後の展望をまとめ,Handbook of Behavior Geneticsの一章にまとめた(印刷中)。
著者
亀田 純
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

浅部化石付加体である三浦-房総付加体に発達する沈み込み帯前縁断層(白子断層、浅間断層)を対象として粘土鉱物分析を行った。その結果、いずれの断層においても断層内部(断層ガウジ)における局所的なスメクタイト-イライト相転移反応の進行が見られた。この反応はおそらく断層運動時の摩擦発熱によるものと考えられ、地震性の高速すべりが付加体先端部まで到達していたことの物的証拠と考えられる。
著者
藤井 省三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1949年の人民共和国建国以来、1988年の台湾全面自由化までの四〇年間、香港は台湾海峡を挟む中国・台湾の間にあって国家機構の過酷な統制を免れ得た「公共空間」であり、そこでは経済発展に伴い独自の文化が成熟した。80年代に至り中国返還が問題化するにともない、市民層は香港人アイデンテイテイの確立を強く求め、その際に大きな役割を演じたのが相互に密接な関係を有する文学と映画であった。本研究は香港アイデンテイテイの形成とこれに対して文学・映画が果たした作用を歴史的に解明し、「香港文学」という概念が登場してくる過程を明かにすることにある。主に1950年代以後の香港の文化および社会を対象として、以下の課題について調査・研究を行った。(1)香港文学の成熟と香港アイデンティティの形成:主要な三作家を取り上げ、也斯に関しては論文「香港詩人のFoodscapeというファンタジイ」、李碧華に関しては共著『文学香港与李碧華』等、施叔青に関しては拙訳『ヴィクトリア倶楽部』(国書刊行会)所収の「解説」で考察した。(2)香港映画の成熟と香港アイデンティティの形成:50年代の宝田明・尤敏コンビの『香港三部作』を中心とした日本映画界との影響関係を考察した成果は、宝田明(語り手)・藤井省三(聞き手)、「インタビュー宝田明、『香港三部作』を語る」また香港映画が香港および口頭発表「張愛玲〜上海文壇から香港映画界へ」で報告した。また中国の20世紀史を香港映画がいかに描いているかという問題は、拙著『中国映画 百年を描く、百年を読む』(岩波書店)香港の章収録の7本論文で考察した。(3)(1)(2)に関する国際シンポジウム等の開催およびその他のシンポジウムへの参加:香港大学中文系開催シンポでは「東亜的村上春樹現象」(中国語)を、国際交流基金開催のシンポでは「香港映画の黄金時代I」の報告を行い、前者の内容は論文「村上春樹と東アジア」に記した。
著者
林 文代 斉藤 兆史 斎藤 兆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、新しい文学研究のあり方を、英米文学とテクノロジーやメディアの表象に関する観点から探るものである。狭義な意味での文学研究の枠を越え、社会科学的、自然科学的要素などの視野も含め、テクノロジー(たとえば映画)やネットなどのメディアと文学の多様な関係について論証を試みた。このような研究は、まだ日本では新しい分野であり、さらに今後研究が必要であるが、研究成果欄に記載したように多くの成果をえることができた。
著者
安村 直樹
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

11年度においては埼玉県と山梨県を結ぶ国道140号線雁坂トンネルの開通による、埼玉県大滝村および山梨県三富村の両村民の視野拡大に与える影響を把握することにつとめた。あわせて産直住宅事業により上下流の交流を試みている宮崎県諸塚村などにて実態調査を行った。村民の視野拡大に与える影響についてはアンケート調査により把握した。アンケート調査は大滝村、三富村各3集落、合計6集落の全住民を対象に99年11月に行い、回収率は86%であった。トンネル開通前と開通後を比較して「どのようにして観光客を増やすか」「どのようにして村おこしを進めるか」「農産物の販路をいかにして拡大するか」などについて考えることが増えたかどうか聞いてみたところ、どちらの村でも「変わらない」「以前からあまり考えない」とする住民がほぼ半数を占めている。しかし、観光客の特に増加している三富村ではこうしたことを考えることが「増えた」とする人が大滝村の2倍以上の44%に至っている。昨年度の調査からは大滝村でもトンネル開通により少なくない経済的効果が発生していることがわかっているが、村民のこうした意識の形成までには至っていない。意識の形成にはより密度の深い交流が必要であると言える。宮崎県諸塚村では村の林業活性化のために、村産材を住宅一戸分まとめて近隣の県内・県外各地に供給する産直住宅事業に取り組んでいる。アフターケアーを十分に行うため建築棟数が制限され、経済的効果は十分ではないがこうした事業の一環として消費者が木材産地を訪れるツアーが積極的に行われており、消費者には木造住宅の良さを理解する機会、産地側には消費者ニーズを把握する機会となっている。トンネル開通により近隣都市へのアクセスが良くなったことを生かして、大滝村でもこうした事業に取り組むことにより、経済効果と共に村民の視野拡大という人的効果も見込めるものと思われる。
著者
竹井 祥郎 安藤 正昭 坂本 竜哉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究において、グアニリン、アドレノメデュリン、リラキシンなどのイオン排出・降圧ホルモンが魚類で多様化しており、それらが魚類の浸透圧調節に重要であることを明らかにした。また、飲水を抑制するナトリウム利尿ペプチドと促進するアンジオテンシンが、延髄の最後野に作用して嚥下による反射的な飲水を調節していることを明らかにした。この結果は、前脳に作用して「渇き」という動機づけにより飲水する陸上動物と異なる。
著者
吉田 英人 寺澤 敏夫 吉川 一朗 寺澤 敏夫 吉川 一朗 宮本 英明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、送信点と異なる場所に多数の受信点を配置し(多地点観測法)、流星が流れたときその飛跡に沿って生じるプラズマで反射した電波(以下流星エコーと呼ぶ)を、多地点で受信してその到達時間差より流星の飛跡を求める方法を開発した。このような方法で求められたのは、世界で初めてである。大規模な施設を使わず安価で携帯性に優れ、超高層大気中でおこる物理現象を身近に感じることができる教材が完成した。
著者
荒川 忠一 佐倉 統 松宮 ひかる 尾登 誠一 飯田 誠 山本 誠 松宮 輝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

日本においても風車普及の方向性が明確になってきた。本研究においては、将来の大規模な風車導入に備えて、景観に適合しその地域のメッセージを発信できるヴァナキュラー性に根ざしたデザインを提言してきた。さらに、本研究の方向性を生かして、東京都臨海風力発電所が「東京らしさ」をメッセージにして2003年3月に運開することになった。はじめに、洋上風車などの新しい環境条件を導入し、エネルギー経済シミュレーションを行った。京都議定書の遵守などの条件を加えると、50年後にはエネルギーの8%を風車がまかなうことが要請されること、そのとき、日本においては1MWの風車が10万台導入する必要性があることを示した。高さが80mにもおよぶ大型風車を大量に導入するためには、景観適合のみならず、地域の文化や情報を発信できるデザインの必要性を訴えるとともに、いくつかの地域でデザインの試作を行った。海岸地域、田園地域、そして東京を対象とした。海岸地域では防風林の松のイメージ、あるいは小型風車にマッチングしたデザインなどを創作した。風況調査により、東京湾中央防波堤埋立地に風車に適した風があることを見出し、その成果を受けて大学院生の都知事への提言から、短期間で風車建設の事業が行われた。本研究において、「東京らしさ」をテーマにした様々なデザインや付帯設備を提案し、日本科学未来館のキュレータらとの社会学的な検討を加えた。最終的には、デザイナーの石井幹子氏を指名して緑と白の2色による世界初のライトアップを実現し、またインターネットで回転状況を配信する仕掛けを構築した。本研究の一環によるこのような実践は、新聞各紙の熱心な報道をはじめとして、社会的に評価を得ていること、また風車の今後の導入加速の方法となりえることを示した。本研究のさらなる発展として、日本らしい風車つまり海洋国日本の特徴を最大限に生かした超大型洋上風車の早期実現を提案していく。
著者
福山 寛 松井 朋裕 戸田 亮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

グラファイト表面に吸着したヘリウム3(3He)とヘリウム4(4He)の1原子層目と2原子層目の量子状態相図を比熱測定から研究し、従来の理論予想を覆し、2次元3He が超低密度の液体に自己凝集すること、3He と4Heの2層目に1層目に対して整合な固体相が存在することを発見した。後者は、恐らく零点格子欠陥を含む新奇な量子固体と考えられる。グラファイト表面に吸着したクリプトンの1層目整合固相の初めてのSTM観測に成功し、吸着サイトが炭素ハニカム格子の中心であることを特定した。また、希釈冷凍機温度で作動するLEED装置開発のための詳細設計を行った。
著者
大村 敦志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

後期年少者(15歳~25歳)につき、高校生(五つの高校-麻布高校・大妻女子高校・都立新宿高校・県立千葉高校・県立兵庫高校-の生徒)・大学院生(東大法科大学院の学生。なお、比較のために東大法学部生も調査対象に加えた)を対象に調査・研究を行い、成年(20歳)を境にして成年者と未成年者とをカテゴリックに区別して法的処遇を大きく変える現行法制に対して、未成年者にも自律を広く認める一方で、成年者に対しても支援が必要であることを確認した。
著者
川村 太一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

当年度は研究期間の最終年度であり、これまでの研究成果の発表や得られた成果を統合した議論を行った。研究課題であった重力計データを用いた月震波解析では新たな観測点を加えた拡大された観測ネットワークを用いて過去の観測の観測バイアスを詳細に調べ、観測バイアスを考慮した深発月震の震源分布に議論した。その結果現在観測されている深発月震の震源の帯状の分布が観測バイアスによるものではなく、実際の震源分布を反映したものである事をあきらかにした。この結果は過去の深発月震の研究で想定されていた均質な月のモデルや1次元の層構造を持った月モデルでは説明できない現象であり、月の内部が水平方向にも不均質な構造を持つ事を示唆する重要な結果である。また、月内部構造に迫る手段として周波数解析とそれを用いた月震の震源仮定の推定も行った。周波数解析ではこれまで独立に用いられてきたアポロの短周期月震計と長周期月震計のデータを数値的に合成し、より広帯域のデータを用いた解析を行った。これにより深発月震の際に月内部で0.1MPa程度の応力降下が起きている事を示した。このような研究は過去にも行われてきたが本研究では複数の震源の多数のイベントについて行っており、より一般的な深発月震の発震機構の議論が可能になった。この応力降下量の値は深発月震の震源域の圧力と比較してきわめて小さい。この事は深発月震の震源域では効率よく応力を解放する構造や摩擦係数を小さくするメルトが存在するなどの可能性を示唆するものである。最後に月震観測で観測された隕石衝突についても解析を行った。本研究では隕石衝突の衝突サイトの空間分布を調べ、理論的に予測されているクレーター生成率不均質が月震データでも観測されている事を示した。月震観測で観測された隕石衝突は他の研究で観測されているものよりも小さなものが多く、そのような小さな隕石衝突でも不均質な分布が検出できたことは重要な示唆を持つ。このように今年度の研究では月震データを軸に多角的な研究を行った。その中でも震源分布や月震の発震機構の研究から月の内部構造、内部の状態について示唆する結果が得られた事は非常に大きな意義を持つ。
著者
阿部 豊 阿部 彩子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.南北一次元エネルギーバランスモデル(EBM)を用いた検討:拡散近似の南北一次元エネルギーバランスモデルを構築し、離心率と自転軸傾斜の影響を吟味した(1)気候レジームは年平均日射、最大日射、最小日射に複雑に依存まる。(2)離心率の増大で年平均日射が大きくなるため概して温暖化する。(3)一般に離心率の増大によって気候の多重状態は解消する。(4)近日点での一時的な暴走状態の発生が、平均的な気候状態や生物生存可能性に大きな影響を与える。(5)自転軸傾斜角、離心率、軌道長半径は一定のままでも、歳差運動(春分点と近日点の位置関係の変化)によって気候モードが変化する惑星が存在する。(6)年間の温度変化幅は傾斜角の大小と歳差運動によって大きく変わる2.大気大循環モデル(GCM)を用いた検討:地球大気用に気候システム研究センターと国立環境科学研究所で共同開発してきたCCSR/NIES AGCM 5.4gを使用して、理想的な惑星(現在の地球大気、地球サイズ)のモデルを作り、離心率を変化させる実験をすすめた。(1)定性的にはEBMを用いた結果と一致するが、やや寒冷化する傾向がある。(2)地面状態の違いによって、離心率が増大したときに暖かくなる場合と寒くなる場合がある。(3)降水分布の年変化は自転軸傾斜による直立・傾斜レジームと離心率による溜め込み・放出サイクルの合成されたものとして理解できる。3.生存可能性について:(1)熱容量が大きい場合、年平均日射が最も重要である。(2)歳差運動まで考慮すると、生存可能な緯度帯を持つ惑星の軌道は自転軸が少しでも傾くと離心率が小さい範囲に制限される
著者
松本 良 荻原 成騎 徳山 英一 芦 寿一郎 町山 栄章 沼波 秀樹 小池 義夫 大出 茂
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、海洋のガスハイドレートが地球環境へどのような影響を与えうるか、また現に与えつつあるかを、地質学、地球物理学、海洋生物学など異なるアプローチで総合的に解明することである。3年間の調査を通じて、以下を明らかにした。1. 日本海、直江津沖では「海鷹丸」による調査航海を3回、海洋機構の「なつしま」で2回、「かいよう」で1回の調査を行なった。2. 日本海の調査海域で強いメタンの湧出域を確認した。メタンはプルームとして海面近くまで立ち上がり、表層海水にメタンを供給していることが分かった。メタンプルームが立ち上がる日本海の底層水は温度が非常に低く、ガスハイドレートの安定領域に含まれる。従って、メタンバブルの表層にはガスハイドレートが形成されると予想され,この事が高さ600mものメタンプルームの発達要因である。3. 潜航艇による調査で、海底にガスハイドレートが露出していることを確認した。これは本邦周辺では始めての発見である。このことは、海底下からのメタンフラックスが高いことを示す。4. 水温が低いため海底の生物相は単純で、分布密度低は低いが、メタンプルーム付近ではバクテリアのコロニー、ハナシガイなどの化学合成生物、さらに食物連鎖の頂上にベニズワイガニが存在している。5.メタンプルームが発達する海脚上には直径約500mの凹地(ポックマーク)が発達する。当初、この凹地がメタン湧出源と予想したが、実際は、ポックマークは非活動的であり、堆積物で埋められている。この事は、過去に今よりも激しいメタン湧出があったことを示唆する。6. もう一つの調査海域、下北半島東方では、2年目に海洋機構の「淡青丸」による調査を行なった。ここでは、メタン湧出を確認することはできなかったが、海底下に強いBSR反射面が発達することが分かっており、ガスハイドレートが発達することは明らかである。
著者
松浦 純 浅井 健二郎 平野 嘉彦 重藤 実 イヴァノヴィチ クリスティーネ 浅井 健二郎 西村 雅樹 藤井 啓司 松浦 純 冨重 純子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

この研究では、4年間で計9回の研究会を開催し、のべ63名から研究成果の報告を受け、討論を行った。トピックは次のようなものであった。・記憶と身体に関する研究・記憶のメディア、メディアと記憶に関する研究・集合的記憶と文化的アイデンティティーに関する研究・記憶と意識、記憶と無意識、記憶と忘却に関する研究・記憶と痛みに関する研究これらのトピックに関して、具体的な分析対象として取り上げられたのは、ヘルダーリン・ニーチェ・リルケ・カフカ・ベンヤミン・フロイト・レッシング・マン・ゲーテ・グリルパルツァーなどの作家・批評家たちである。これまでの研究から、広義の「記憶」にあたるドイツ語の類義語はさまざまあり、ドイツ文学に表現された記憶の系列は多岐にわたっていることが明らかになった。記憶とはもともと過去に由来するものだが、文学テクストにおける記憶は、過去・現在・未来という直線的な時間観念とは異なった時間を内包している。また記憶とは元来は個人の機能であるはずだが、その記憶を保ち続けることにより、記憶が集合的な歴史へと拡大されるシステムを持つことも明らかになった。特に「痛み」の記憶は、個人にとっても社会にとっても忘れがたいものであり、文学テクストにおいても痛みの聖化・神秘化・倒錯など、さまざまな表現形式が存在する。これまでに明らかになった上記のような研究成果をまとめ、さらに今後研究を進めることが必要だと思われる点を検討した。特に「痛み」という文化ファクターの視点からドイツ文学における表現形式を検討することは、この研究では十分にはできなかったので、今後の重要な課題として残ることになった。