著者
尾畑 佑樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

ヒトの消化管粘膜は、およそ100兆個の腸内細菌に曝されている。腸内細菌は宿主の消化酵素では分解できない食物繊維などを微生物発酵により分解し、終末代謝産物として様々な低分子化合物を産生する。これら代謝物は、宿主細胞の栄養源として利用されている他、免疫系調節因子として機能している。しかしながら、腸内代謝物が免疫系を修飾する分子メカニズムは不明であった。本研究課題の目的は、腸内細菌が粘膜バリア機能の維持に重要なイムノグロブリンA(IgA)産生B細胞を誘導するメカニズムを解明することである。無菌マウスに通常のマウス由来の腸内細菌を定着させたマウスの解析から、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸の一つである「酪酸」が大腸のIgA産生B細胞の誘導を促すことが分かった。そこで、酪酸によるIgA誘導作用機序を明らかにするため、未熟B細胞をIgA誘導条件下で培養し、酪酸添加によるIgA陽性細胞割合の変化を調べた。その結果、酪酸を添加してもIgA産生細胞の割合に変化は見られなかった。これより、酪酸はB細胞以外の腸管内細胞に作用し、間接的にIgA誘導を促す可能性が示唆された。そこで、生体内における酪酸の作用を調べるため、酪酸を含む餌をマウスに一定期間与え、大腸の免疫学的表現型を解析した。その結果、酪酸は大腸の腸上皮細胞におけるTGFβの発現および樹状細胞におけるレチノイン酸(RA)合成酵素の活性(ALDH活性)を高めた。TGFβおよびRAは、IgA誘導に必須の因子であることから、酪酸はこれら因子の発現を高めることで、間接的にIgA産生細胞を増やす可能性が示唆された。現在、本現象の分子メカニズムの解析を行うとともに、本研究成果の論文化に向けた準備を進めている。
著者
宮崎 あゆみ
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.169-177, 1993-03-30

This research examines student subcultures with a gender perspective, using the ethnographic approach on a girls' high school. In this paper I call subcultures studied with gender frameworks in mind "gendered subcultures". In the first part, I briefly review traditional subculture studies and school organization studies which have overlooked such aspects as gender roles and femininity and masculinity. I also review the debate about single sex education v. s. co-education. This debate focuses on sexism within schools and subcultures related to girls' academic achievement. In contrast, this research focuses on femininity and gender roles as aspects of gendered subcultures. In the second part, the research, focusing on femininity of girls, shows that, within a girls' high school, there are gendered subcultures free from femininity, peculiar to a single sex school, but that they both accommodate and resist femininity out of school. It is confirmed that femininity is not fixed but changing.
著者
前多 敬一郎 平林 真澄 井上 直子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ヒトのモデルとして有用な実験動物であるスンクスでは、これまで初期胚操作技術が確立されていなかった。本研究において、スンクスの受精卵採取、偽妊娠誘起ならびに胚移植の確立に成功し、マイクロインジェクション法によりVenus遺伝子をスンクス前核期胚に導入したところ産子を得ることに成功した。Venus遺伝子を発現する個体は未だ得られていないが、今後例数を重ねることにより遺伝子改変スンクスの作出が期待できる。また哺乳類では、霊長類とスンクスでのみ存在が確認されているGnRH2遺伝子を標的とした遺伝子改変スンクスの作出を目指し、スンクスGnRH2遺伝子のプロモーター領域を同定した。
著者
住谷 昌彦 井上 隆弥 松田 陽一 精山 明敏 宮内 哲 真下 節 宮内 哲 精山 明敏 井上 隆弥 松田 陽一 眞下 節
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

難治性疼痛疾患の幻肢痛やCRPS を対象に、視覚系と体性感覚系(疼痛系)のcross-modalityについての心理物理研究を行い、疼痛患者の視覚情報認知が障害されていることを明らかにし、さらにその視覚情報認知を修飾することによって疼痛が寛解することを明らかにした(Sumitani M et al. Neurology 2007 ; 68 : 128-33 ; Sumitani M et al. Neurology 2007 ; 68 : 152-4 ; Sumitani M et al. Rheumatology 2008 ; 47 : 1038-43 ; Sumitani M et al. Eur J Pain 2009 in press)。これらの知見はこれまで知られていた難治性疼痛疾患の発症メカニズムに、体性感覚系だけでなく運動系が密接に関連していることを示唆し全く新規の治療への応用展開が期待できるものである。光トポグラフィーに加えfMRI による運動系と体性感覚系(疼痛系)との相互作用についての脳機能画像研究も継続して行い、deep somatic allodynia と呼ばれる運動時痛の発症メカニズムについての知見を得た。
著者
加瀬 和俊
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.141-184, 2005-02-07

本稿は中高等教育修了者の就職状況が著しく悪化し,すでに就職していた官公庁・民間企業の職員層の解雇も増加した状況の下で,1929年度から開始された小額給料生活者失業救済事業について,その立案過程・実施過程の特徴を実証的に検討したものである.本稿の分析の結果,失業職員層を対象としたこの事業は,日雇失業者を対象とした失業救済事業とはその内容・性格が大きく異ならざるをえなかったことが明らかになり,失業対策を労働者の階層性,労働市場の分断性を考慮せずに論じることはできないことが確認できた.また,結果的に見れば,失業問題打開のために中高等教育修了者数を減少させよとする財界の主張が実現せず,日中戦争前後の景気回復の中で職員層失業問題がなし崩し的に解消されたのであるから,この事業は客観的には,職員層の失業問題の深刻化を部分的に抑えつつ,景気回復までの時間稼ぎの意味を持ったと位置付けることができる.
著者
藤原 聖子 奥山 史亮 江川 純一 久保田 浩 木村 敏明 宮嶋 俊一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、(a)1990年代までの宗教現象学の成果とその突然の消滅の原因、さらに(b)日本を含む各国で宗教現象学がどのように受容されたかを解明することを全体の目的とする。初年度である28年度は、国内の宗教現象学世代に対して聞き取り調査を行うとともに、関連文献を収集、整理した。また、海外の研究者と現地で行う調査計画を具体的に詰めることができた。聞き取りを行うことができたのは、華園聰麿氏(東北大学)、澤井義次氏(東北大学・天理大学)、土屋博氏(北海道大学)、小田淑子氏(京都大学・東京大学・シカゴ大学)、金井新二氏(東京大学)、永見勇氏(シカゴ大学・立教大学)、棚次正和氏(京都大学・筑波大学)、長谷正當氏(京都大学)、氣多雅子氏(京都大学)に対してである。宗教現象学の国内での受容の状況、自身の宗教現象学観が聞き取りの内容の中心となった。また、2017年に刊行100年を迎える『聖なるもの』の著者、ルドルフ・オットー(宗教現象学者の草分けとされる)の研究が国内でどう受容されたかについても聞くことができた。後者の情報は、日本でのオットー受容に関する英文論文を執筆する際に用いた。聞き取り調査と同時に、どのようなデータベースが役立つかについて検討を重ねた上で、博士課程の院生の協力を得て、国内の関連文献のデータベースを作成し、必要なものを収集した。海外に関しては、宗教現象学者の詳細な一覧を作成した。海外については、ヨーロッパ宗教学会のヘルシンキ大会に合わせて、フィンランド宗教学者による宗教現象学の受容について、Veikko Anttonen氏とTeuvo Laitila氏から聞き取りを行った。さらに、スウェーデン宗教学会会長のDavid Thurfjell氏と現地調査方法、論文集の刊行について計画を進めた。
著者
川名 敬
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

子宮頸癌前癌病変(CIN3)の初の治療薬として、HPV16型E7発現乳酸菌,GLBL101c, の有効性を臨床試験によって証明したが、その有効性を増強させることを目的とした。GLBL101cに粘膜アジュバントLTBを添加した状態で十全大補湯、補中益気湯を併用したところ、腸管粘膜リンパ球にGLBL101c単独よりも4-5倍高いE7-CMIが誘導された。1.2x10~8乳酸菌あたり E7分子量として0.1-0.3μgが菌体表面に表出する最高量であり、かつ0.3μgのE7分子量の量比が最もE7特異的IFNγ産生細胞の誘導能が高かった。新型E7発現乳酸菌を開発するための基礎情報となる。
著者
梅田 耕太郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

核融合炉の実現には高温高圧のプラズマを長時間閉じ込める必要があり、その閉じ込め配位として30-40%の高いベータ値を持ちつつ、トカマクの安定性を引き継いだ球状トカマクが注目を集めている。しかし、球状トカマクはその形状からトカマクと同様の、中央ソレノイドコイルによる立ち上げを行うことができない。本研究では外部コイルの誘導により生成した2個の球状トカマクを合体させることにより高ベータ球状トカマクを立ち上げる手法を提案している。本年度は球状トカマクを含むコンパクトトーラスの合体加熱実験において、2次元磁場揺動を得るために、アンプ回路の設計、構築を行った。この結果、得られた磁場揺動は単体コンパクトトーラスの生成時、および合体時において著しく生じることが示され、合体後、5μsで生成時の1/10まで減衰する。この揺動は250kHz前後と低い周波数を持っており、また合体前から生じることから圧力駆動型不安定性由来の揺動ではないと推測される。また、1次元で対向させた光ファイバによる分光計測を用いて、流速を計測し、流速による補正を加えたイオン温度を算出した。その結果、イオン温度は60eV程度であった。磁気リコネクションでの磁場から熱への変換効率は100%近いことが報告されており、本実験では理論的には200eV程度が予測される。この損失は前述の揺動によるもの、すなわち合体後の配位完成までの間の熱損失が原因と考えられ、初期コンパクトトーラス形成、移送時の平衡、安定性についての議論が今後の課題である。
著者
佐藤 一子 森本 扶 新藤 浩伸 北田 佳子 丸山 啓史
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.321-347, 2005-03-10
被引用文献数
1

This paper intends to discuss some theoretical issues of Action Research as a methodology of educational research. Action research has been developed in the field of social investigation, especially in workplaces. In the 1970s, some argument was brought out on the cognitive problems in social science and on the way of understanding of the world, not only as the objective existence but as emergent and interactional forms constructed with others. Also, Participatory Research has been created through adult educational practices in developing countries, and research networks have been constructed by International Council of Adult Education. Theoretically, this movement was first influenced by the philosophy of Paulo Freire. Considering these historical backgrounds, our discussion will focus on some controversial issues of AR and PR; a) problems of practical or reflective knowledge derived from the process of research; b) relationships between researchers and participants; and c) attributions as a way of inquiry. Finally, we examine some problems of validity of AR or PR.
著者
高橋 美保
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.149-157, 2006-03-10

Due to the change of the labor market, it is said that Japanese working consciousness has been changing. The purpose of this paper is to pursue the questing asking ""What is the characteristic of Japanese working consci ousness"". Firstly, the various words which have some relation to the word ""working"" were examined. It was found that the notion of working itself has been changing historically, and the word ""working"" has multifold meanings. Secondly, Japanese working consciousness was pictured based on the theoretical studies and research, and was also investigated from the aspect of its historical and international originality. Finally, the prospects of future studies on Japanese working consciousness were proposed.
著者
小屋口 剛博 眞木 雅之 鈴木 雄治郎 小園 誠史 萬年 一剛 前坂 剛
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

爆発的火山噴火に伴う火山灰拡散過程は,航空機航行障害の原因となるため,その高精度観測と予測が急がれる. 本研究では,申請者らが開発した3次元噴煙モデルとレーダ観測技術を応用し,「供給源の物理過程を考慮した火山灰移流拡散モデル」を開発した.具体的には,3次元噴煙ダイナミクス・火山灰輸送カップリングモデルの開発,火山灰移流拡散モデルに基づく逆解析手法の開発,レーダ観測による空中火山灰粒子分布の推定法の開発を行った.また,これらのモデルや解析手法を,霧島2011年噴火や最近の桜島の火山爆発などに伴う噴煙に適用した.
著者
木村 暁
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

昨年度に続いてウズベキスタンでの史料調査(2008年8-9月と2009年2月の二期)を行いながら原典史料の分析に取り組み、ブハラ王権の権威とイデオロギー、あるいは統治機構にかかわる以下4本の口頭発表を行った。(1)「ブハラにおける非チンギス裔の即位:年代記『ハンヘの贈物』が映し出す伝統への挑戦」では、王朝年代記がブハラにおける新興の非チンギス裔マンギト朝政権の支配をイランのナーディル・シャーによるブハラ支配(1740-47年)の事実に結びつけて正当化した点を明らかにした(2)「イスラーム都市としてのブハラ:そのイメージと意識化の史的展開」では、このマンギト朝政権がスンナ派正統主義的イデオロギーに依拠してイスラーム王権としての性格を強めるのと並行して、首府ブハラの聖なる都としてのイメージが普及・定着していくプロセスを跡づけた。(3)「ブハラの法廷証言」では、ブハラ・アミール国治下で作成されたイスラーム法廷文書をつぶさに読み解く作業を通じて、売買や権利放棄など日常的に見られる法的行為の処理のあり方を具体的に示すと同時に、ロシア帝国の直轄地に組み込まれたサマルカンドも視野に収めながら法廷台帳や行政文書など他史料も併用することで、カーズィーの司る法廷における文書業務をアミール国の文書行政のより大きな枠組みのなかに位置づけた。(4)「ムッラー・カマールッディーンの弁明書:その史料的性格と可能性について」では、サマルカンドのカーズィーがテュルク語で著した手稿本(目下出版を準備中)について、それがロシア統治下のムスリム社会の諸問題に内在的な視点から光を照らす、きわめて重要な史料であることを指摘した。以上の各テーマについては論文を随時発表していく予定である。
著者
佐伯 仁志 大澤 裕 橋爪 隆 樋口 亮介 宇賀 克也 森田 宏樹 神作 裕之 白石 忠志 山本 隆司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本件研究は、経済活動における違法行為に対する制裁手段の在り方について、刑事制裁と非刑事法的な規制手段とを比較しつつ、多角的な検討を加えるものである。具体的な研究成果としては、①刑事法上の過失概念と民事法上の過失概念の関係、②公務員の過失責任の限界、③銀行取引における違法行為の処理、④金融商品取引法における罰則の解釈、⑤独占禁止法におけるサンクションの在り方などの問題について、検討を加えることができた。
著者
木内 貴弘 大津 洋 石川 ひろの 岡田 昌史 辰巳 治之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

クリニックなど小規模医療機関等、治験や臨床試験に参加したいがシステム負担が大きく参加協力が難しかった施設においても本研究成果を利活用することにより従来に比較し容易に治験や臨床研究に参加できる環境を提供できる道が開けた。これにより疾患に依存して、その当該疾患の研究に、より適している施設に試験参加協力の上、臨床研究を効率的に推進可能な対象施設範囲が広がった。UMINセンターが持つ全国集計サーバーへ匿名化した臨床試験情報を安全かつ効率的に収集できる対象がこれまでの大規模病院のみならずクリニック等小規模医療機関まで広がった。
著者
武内 進一
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.101-129, 2004-03-19

独立直前の「社会革命」と1990年代の内戦というルワンダにおける2つの紛争を比較し,後者がジェノサイドヘと至ったメカニズムを考察する.2つの紛争はいずれも国家権力闘争に発する内戦であり,それがエスニックな紛争へと転化した点で似ているが,犠牲者の数は圧倒的に異なる.ジェノサイドが可能になったのは,権力喪失の危機感を抱いた急進派が特定のエスニック集団の殺戮を正当化するイデオロギーを流布し,かつ地方行政機構をはじめとする国家機構を動員して民間人の殺戮を実践したからであった.こうした国家機構を通じた動員は,独立後冷戦下に存立した国家のあり方に由来する.国際環境の変化がこうした国家を脆弱化させて紛争を引き起こす一方,従来の体制下で成立した動員システムを急進派が利用し,組織的な暴力が行使されたためにジェノサイドに至ったといえる.