著者
東山 篤規
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究によりつぎの2点が明らかにされた.1)地図をたよりに歩きながら,ある地点から別の地点に移動するときには,我々は距離,方向,ランドマーク(LM)の手がかりを用いていると考えられるが,この研究ではどのようにそれらを用いているのかを認知心理学的に明らかにしようとした.実験では,距離,方向,ランドマーク(LM)の3手がかりがすべて与えられた地図,1つあるいは2つの手がかりしか与えられていない地図を数種類用意して,各地図に対して正しく歩くことができた被験者数とその歩行速度を比較することによって,うえの3手がかりの相対的な効果性について検討した.我々の実験の結果によれば,もっとも重要な手がかりは,LMであり,ついで方向,もっとも重要度の低い手がかりは距離であった.竹内(1992)の「方向音痴尺度」をもちいて,あらかじめ被験者の方向音痴の程度を尺度化し,そのあと各被験者に対して,地図を見ながら方向の判断を求めたところ,判断エラーと方向音痴尺度の間には,まったく相関が認められなかったが,反応時間と方向音痴尺度との間には相関が認められた.すなわち,方向音痴の自覚が高い被験者は,方向判断のエラーの数は,通常の人と変わらないが,反応までに長い時間を必要とすることがわかった.
著者
中本 大 赤間 亮 赤間 亮 冨田 美香
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、立命館大学アート・リサーチセンターに寄贈された近世絵入版本を中心とする作品の基礎的研究を行い、展覧会の開催、ならびにその目録化を推進した。研究協力者を含めた研究会活動により、カタロギングのための情報収集と情報の共有化に研究の重点がおかれ、その成果として詳細な書誌目録としての報告書を世に送り出すこととなった。とくに絵入本の内、希少価値が高いもの、歴史上意義の高いものについて、目録とは別に、詳細な解説を付し、挿絵入りの解説が実現できている。本コレクションは、江戸絵入本のジャンルを広くカバーしており、価値が高いものであるが、残念なことに、林美一氏の自宅に保管されていた段階で虫損被害が進み、保存状態としては、劣悪なものである。本研究では、こうした状態の悪い古典籍の修復をも兼ねてしかも、修復を終えたものをデジタル画像で発信するという、公開型の研究を実施した。さらに、本コレクションの整理分類をするなかで、林美一氏が京都在住時代に映画会社大映京都に働き、また江戸研究家として独立し、時代考証により映画制作に関った経緯があるために、大量の映画スチル写真を持っていることがわかり、その目録化も鋭意進めることとなった。残念ながら、研究期間内では、完全な目録としては上梓できなかったが、日本映画のスチル写真データベースとして研究利用が可能となった。また、本報告書は、現代の情報発信技術に照らし合わせて、印刷物としてのみ提供するに不足を感じるものであり、別途WEBサイトにより、冊子では提示できなかった解説情報も含めて公開することになる。URL : http://www.arc.ritsumei.ac.jp/db1/arcsyoseki/search.htm
著者
山原 裕之
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

これまでの研究成果をベースに、より精度の高い行動検知と適切なタイミングでのサービス提供の実現のために以下の項目に取り組んだ。(1)多様なユーザの習慣の違いの影響を受けないように、行動検知アルゴリズム中の閾値にユーザごとに適切な値を自動的に設定する手法。(2)falseサンプルを用いた行動パターン洗練手法。(3)サービス提供の適切なタイミングの決定手法の検討。当初、項目(3)ではなく(4)無線通信機器を活用した家の中での位置情報推定手法とユーザの物体への接触情報を組み合わせた新しい位置情報推定手法に取り組む予定であったが、科研費が申請額より減額されたことで通信機器およびセンサ類の購入が難しくなったため、項目(4)に代わり次年度の研究計画に盛り込んでいた項目(3)を実施することとした。この計画変更に関しては、科研費申請時の研究計画にて報告済みである。全体として、項目(1)および(3)の研究の進展によって研究成果を発表する機会を多く得たため、項目(2)に関する発表が本年度中に間に合わなかった。これに関しては、現在、投稿準備中である。また項目(4)に関して、本年度の研究計画としては扱わなかったものの、特別研究員および科研費の予算外での活動として、パッシブ型RFIDタグを用いた位置・歩行情報取得システムの開発および実験を行った。上記の内容に関して、計5件の論文が採択され、さらに3件の論文を論文誌に投稿中である。当初の計画どおり、CEATEC JAPANおよびTRONSHOWの2つの展示会で研究を展示発表し、研究者のみならず一般の様々な方から多くの有益な意見を得た。また、本研究に関してTV取材を受け、2009年3月25日にNHK総合「おはよう日本」で放送された。研究計画はおおむね予定通り進行した。項目(4)に関しても、研究計画外の活動で進展した。これらの進捗状況から、全体として当初の予定以上の成果が得られたと考えられる。
著者
筧 文生 野村 鮎子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本の宋代文学研究は、一部の古文家や詞の作者を除いて質・量ともに唐代のそれに及ばないのが現状である。この原因の一つには、別集に関する基礎研究の不足があげられる。そこで、我々は清朝考証学の精髄というべき『四庫全書總目提要』宋代別集の部の研究に着手した。『四庫全書』は北宋別集として115家122種の別集を著録している。平成10年度には、この122種の別集の解題すべてについて訳注をつけるという作業を行った。平成11年度は、その中でも特に重要な文学者50家56種の別集提要を選んで整理分析を行い、その成果をまとめた『四庫提要北宋五十家研究』(筧文生・野村鮎子著 汲古書院 2000. 2)を上梓した。また、野村鮎子はこれに関する論文「『四庫提要』にみる北宋文学史観」(立命館文学563号 2000. 2)を発表した。『四庫提要北宋五十家研究』は、日本学術振興会の研究成果公開促進費の助成を受けて出版したものであり、今後、宋代文学研究に必備の文献となるものと確信している。また、版本の研究については、平成10年度は国内の研究機関・所蔵機関を中心に調査し、平成11年度夏には、中国における宋代文学研究の中心である四川大学古籍整理研究所に赴き、日本国内では見ることのできない版本を閲覧する機会を得た。これらの版本研究の成果は上記の本と論文に結実している。ただ、南宋別集は北宋別集の数倍の量があるため、作業が思うように進捗せず、出版に至らなかったことは残念である。数年のうちにはこれを整理し、南宋編の出版をめざしたい。
著者
ウェルズ 恵子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、アメリカ黒人文学と音楽文化におけるイスラム教の影響を検討する目的であったが、イスラム教よりも黒人の民間宗教的世界観や口頭文化の伝統に根ざしつつ、アメリカ社会からの圧力に応じたり抵抗したりする形で変容を繰り返してきているということが明らかになった。そこで主に、(1)人種差別撤廃運動とイスラム教のヒップホップ世代との関連、(2)奴隷時代からの黒人音楽文化の特色とラップ文化の特色、(3)黒人口頭文化の諸様式、の3点を追求することとなった。細部について詳細の研究が課題として残った。
著者
大平 祐一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

従来の研究によれば、近世の糺問主義のもとでの刑事裁判では、奉行所で無罪を宣告するのは奉行の恥辱であるので、そうならぬよう奉行所の裁判にかける前に下吟味においてふるいにかけ、有罪と思料されるものだけを奉行所に送った。そして、一たん奉行所で裁判をすることになると、そこでは「吟味詰の口書」をとること、即ち、有罪宣告のための供述調書をとることが終局目標とされ、そのため自白が執拗に追求された。即ち、有罪確保をめざして徳川幕府の刑事裁判は進行していった、といっても過言ではない。しかし、この見解からは「無罪」の姿が浮かび上がってこない。糺問主義の刑事裁判では裁判役所での事実認定は有罪の事実認定だけが追求されたのであろうか。「無罪」の事実認定はなされなかったのであろうか。本研究では、こうした問題関心のもとに、江戸幕府刑事裁判における「無罪」に焦点をあて、近世(江戸時代)前半期の長崎奉行所の裁判では奉行所での審理(吟味)の結果、「無罪」を申し渡した事例が多かったことを明らかにした。特に注目すべきことは、奉行所での審理の結果、犯罪の事実は認定されなかったという事例が極めて多かったことである。「犯罪事実が存在しなかった」、「罪を犯す意思がなかった」などの理由で「無罪」を申し渡された事例が少なくなかった。その背景には、捜査と公判の手続が未分離であったこと、下吟味でのスクーリングがゆるやかであったことが想定される。近世の糺問主義手続のもとでの刑事裁判において「無罪」判決が多数みられ、しかも、そこには、一たん奉行所で審理を開始したからには何としても有罪にもちこむ、といった有罪確保へのこだわりが見られなかったということは、従来の有罪確保主義的な刑事裁判像に修正を迫ることになろう。また、有罪確保主義を江戸時代からの伝統と見る精密司法論に対しても問題を投げかけることになろう。
著者
西川 長夫 米山 裕 高橋 秀寿 今西 一 麓 慎一 石原 俊 宮下 敬志 李 〓蓉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近代としての「帝国」を、その世界的な支配秩序の形成過程に巻き込まれてきた人びとの経験の場から実証的・理論的に捉え直すことを目的とした本研究では、それぞれの「植民地」における個々の歴史的実態を解明するためにフィールドワークを重視した。日本国内と韓国での複数回にわたる国際シンポジウムの開催と現地調査、およびそれらを踏まえた研究交流を通じて「帝国/植民地」の形成過程に関する比較分析を蓄積し、グローバル化時代における「国内植民地主義」の更なる理論化を準備した。
著者
田中 弘美 平井 慎一 徐 剛
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

研究期間内において、機能(記憶容量)を拡張した現有のPCクラスタ上にAdaptive Gridアルゴリズムを実装し,アルゴリズムの並列性を評価した.今年度購入のVolumeProを用いて,高次微分特徴に基づくアダプティブグリッドのモデリングおよびボリュームレンダリングの性能を評価した。また,柔軟物体の内部計測のための埋め込み用マイクロフォースセンサを試作した.さらに、代表者及び分担者らにより以下の研究項目について検討を進めた。・Adaptive Meshに基づく幾何&力学ベース適応的モデリング:レオロジー特性をもつ柔軟物体の変形/切断のリアリティベース・シミュレーションモデルを構築することを目的とし,レオロジー物体の3次元変形特性を表すために,体積効果を用いたパーティクルベースの幾何及び力学特性に適応的な格子モデルの研究を進めた.今年度はまず,現在の幾何形状に適応的な2次元Adaptive Meshを各格子要素にかかる外力と内力に適応的なDeformable Adatptive Meshに拡張し,変形及び切断に適応的なモデリング法を検討し,さらに,手術の事前プランニングを可能にする手術シミュレーションモデルの生成法を検討した.・Adaptive Gridに基づく高速ボリュームレンダリング法の開発:対象ボリューム空間を構成する四面体集合の隣接構造をAdaptive Grid表現の二分木構造からDual Graphとして自動抽出する方法と,Dual Graphを用いて各レイ(ray)に属する四面体集合を高速に選出するレイキャスティング法を提案し,ボリュームレンダリングの高速化を図った.・ボリュームデータを用いるAdaptive Gridに基づく並列領域抽出:本年度は,肝臓の実CTボリュームデータを入力として、1)ボリュームデータに含まれるすべての領域集合と,2)その位相関係記述,を同時に並列に抽出することを検討した.・独立形状を用いたnon-rigid位置あわせ法の開発:医用画像の位置あわせには,術前撮影された画像を,何らかの変換で術中の画像に精度よく重ね合わせて表示することを目標とする.Adaptive Grid生成時に抽出された微分特徴を用いて,平行や回転を計算する大域変換と,変形を計算する局所変換の二つからなる位置あわせを検討した.・柔軟物体埋め込み用マイクロフォースセンサを用いる内部計測:本年度は柔軟指の力学モデルを確立し,2mm角サイズの6軸のマイクロフォースセンサを内蔵した柔軟指の研究を進め,柔軟指で使われるマイクロフォースセンサを用いて,物体内部の変形挙動を計測する方法を検討した.さらに,二液混合型のシリコンゴムを用いて様々な粘弾性を有するテストピースを作成し,その中の様々な位置にセンサを埋め込み、加重による内部変化をMR画像により観測し分析する方法を検討した.
著者
兵藤 友博 梶 雅範 岡本 正志 中村 邦光 松原 洋子 永田 英治 東 徹 杉山 滋郎 高橋 哲郎
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は基本的に、2003年度から始まる、高等学校の理科教育への科学史の本格的導入にあたって、これまでの科学史の成果をどのようにしたら生かせるかにあるが、その研究成果報告書の概要は以下の通りである。第一に、科学史研究関連の文献・資料の調査・調達をおこなうと共に、科学史教育の意味について論じた先行研究の分析を行ない、それらの中から高等学校の理科教育に適用しうるタイトルをピックアップし整理した。第二に、高等学校の理科教育における科学史の導入、その教材化の望ましいあり方について検討すると共に、個別教材の位置づけを検討し、それらの構成のあり方、理科教育における科学史教育の目標などについて検討した、より具体的にいえば、科学的発見の歴史的道筋、科学的認識の継承・発展のあり方・科学法則・概念の形成の実際、科学実験・観測手段のあり様とその時代的制約、あるいは理論的考察や実験、観察に見られる手法、またそれらの理科学習への導入のあり方について、個別的かつ包括的な検討をおこなった。また、個別科学史教材に関わって、科学の方法の果たした役割、科学思想との関連などについて検討した。第三に、その上で、新科目「理科基礎」を含む高等学校の理科教育を射程に入れた科学史の教材化の開発研究をおこなった。具体的には、物理学史系、化学史系、生物学史系、天文学史。地学史系の個別科学史分野別にトピック項目を設定し、ケース・スタディ的にその具体化をおこなった。本研究プロジェクトが掲げた当初の目標を達成した。これらの成果について、最終的に冊子として印刷し、広くその成果を普及することにしている。
著者
木村 朝子
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

操作デバイスの形状を日頃使い慣れた道具の形にすることで,その道具に対するユーザの過去の使用経験を利用し(メタファ),操作デバイスの使い方をよりスムーズに理解することが可能となると考えられる.そこで,本研究では道具の形状をした入出力デバイスシステムとその操作環境を構築し,その有用性,道具型入力インタフェースにおける触覚提示の効果などについて調査することを目的とする.最終度は,以下の研究を行い,対外発表を行った.・道具の形状および使用時の触感を利用する道具型入力インタフェースにおいて,どの程度現実に即した触覚が必要なのか,触覚のリアリティとユーザの操作感覚との関係について調査した.具体的には,現実に近い重力感,実物の触覚を連想できる衝撃感といった触覚,振動のような実物を連想しない信号的な触覚を提示し,どの程度リアリティのある触覚を提示する場合に,データを道具型入力インタフェースに取り込んだ瞬間,およびデータがインタフェースに入っている状態を,自然に知覚することができるのかを調査した.・道具型入力インタフェースに触覚を付加することの有効性を評価する実験を行った.操作内容に即した触覚が提示されることで,初めて利用するユーザがその形状・触覚ゆえにインタフェースに興味を持ち,ユーザ自身の過去の経験を当てはめながら試行錯誤することを確認した.・一方,携帯端末のような一般的な携帯機器の操作に,現実のメタファを利用した触覚を適用する試みを行った.姿勢入力と現実触覚提示を組み合わせたインタフェースを構築し,ユーザが端末を傾けると,画面上に表示されているデータがスクロールされ,データが端に達したときに「衝突感」を提示し,データが携帯端末の壁に当たってそれ以上進まないことを,ユーザが触覚として実感できるようにした.
著者
竹濱 朝美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本とドイツの太陽光発電の普及政策について、費用と効果を比較分析した。(1)ドイツの太陽光発電に対するフィード・イン・タリフ(FIT)の買取価格は、システム価格の10%程度の売電収入を実現している。ドイツのFIT制度の普及促進効果は、日本政府補助金よりも6倍も高い。1kWh当たりのFIT分担金は小額である。ドイツの電力集中型企業に対するFIT分担金減免は、非特恵電力消費者のFIT分担金を0.17セント/kWh押し上げている(2009年)。分担金減免を受ける企業は、鉄鋼、金属、化学産業および中小企業である。 (2)日本の住宅用太陽光発電の累積設備容量を2020年までに18.5GW、2030年までに31.6GWにするシナリオを検討した。ドイツのFIT制度の検討から、システム価格に対する年間売電収入比率で10%を実現する買取価格が必要である。原油価格が80ドル/バレルの水準から年3%で上昇する場合、原油輸入費用節約により、FIT買取費用の30~40%を回収できる。購入電力費用が大規模になる電力集中型企業に対して、FIT分担金の減免が必要である。
著者
松本 郁代
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

今年の実績は、(1)立命館大学21世紀COEプログラム主催×ロンドン大学SOAS日本宗教研究センター共催の国際シンポジウム「The Power of Ritual:儀礼の力-学際的視座から見た中世宗教の実践世界-」で、研究発表「入洛する神輿・神木と「神威」」を行った。(2)仏教的世界観の構築に関わった中世日本の職能民に関する研究発表として、慶応義塾大学巡礼記研究会研究集会にて「室町期京都の「霊場」と職能民-聖俗の相克をめぐって-」を発表。(3)宗教を文化史研究の対象にする際の研究手法の追究として、論文「中世日本文化研究の覚え書き-「歴史叙述」における文化の位相を中心に-」を発表。(4)立命館大学オープン・リサーチセンター主催、風俗画研究会にて、研究発表「描かれた神輿・神木-都市に対する示威イメージ-」を発表した。(1)では、中世に頻発した仏教による「神威」の発動のメカニズムを「神輿入洛」という行為に捉え、これを宗教的な一連の動き=儀礼として解釈した。これによって、中世の政治システムだけでは割り切れない「神威」の存在を史料に表された表現や絵画史料によって明らかにした。(2)は、宗教技能を持つ中世職能民を中世社会に位置づけるための研究。中世に存在した「仏教的世界観」や「宗教景観」を創ったと考えられる職能民の宗教技能を捉えながら、その歴史的位置づけを試みた。(3)は、海外の日本研究手法に鑑みながら日本文化史研究の手法を論じたもの。海外における日本研究は、歴史や文学にかかわらず、「日本学」や「アジア学」の枠組みで解釈されているため、巨視的な視点から日本を捉えることに成功しているが、視覚的なものだけを文化の対象として捉える研究手法が根強く存在しているため、一部、日本の歴史的文脈が無視されたままの偏った文化研究が流通している現状に対し、本論文では、これらの方法論を経験的に踏まえ批判を行った。
著者
倉田 玲
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本国憲法第15条第3項には「成年者による普通選挙を保障する」と明記されているが,公職選挙法第11条第1項には「次に掲げる者は,選挙権及び被選挙権を有しない」として,第2号に「禁錮以上の刑に処せられその執行を終るまでの者」を,第3号に「禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)」が列記されており,ここに議会制民主主義の政治過程の根幹に関わる重大な憲法問題がある。この問題の本質を探るため,従来から日本の選挙法の理論と実務にモデルを提供してきたアメリカ合衆国の諸州における同種の問題の構造を実証的に検分してきた。現地の関連訴訟の書類など第1次資料を中心とした文書の収集と整理を進めたとともに,とりわけニュー・ジャージ州立ラトガース大学に設置されている2つの法科大学院の双方を訪問し,カムデン校の州憲法研究所とニューアーク校の憲法訴訟クリニックに属する研究者各位の協力を得て,裁判所に係属中の訴訟の関係者に対する聴取調査を含む現地調査を遂行したことにより,近年では市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく人権委員会の報告書(2006年9月15日),欧州安全保障協力機構の民主制度人権事務所の報告書(2007年3月9日),あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に基づく人種差別撤廃委員会の報告書(2008年3月5日)など国際機関の文書によっても抜本的な是正が勧告されるまでになった同国における重罪犯の選挙権剥奪が,州権基調の連邦制度を固有の背景としつつ,それを共有しない日本の法制度にも通底する根源的な問題として,破廉恥罪という古典的な概念の歴史的な沿革に由来する要素を核心部分に内包していること解明した。また,現在の世界各国に類例をみないほど広範囲にわたって峻厳な剥奪の実態が看取される合衆国の諸州においては,この種の制度を運用する選挙実務の次元でもマイノリティ集団に属する有権者に対して差別的な効果を及ぼしている重大な過誤が多発していることを検知し,この点についても分析した。
著者
立岩 真也 天田 城介 小泉 義之 福島 智 星加 良司 上農 正剛
出版者
立命館大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2008

報告書『視覚障害学生支援技法 増補改訂版』を関係者・機関に配布。大学附属図書館と書籍のディジタル・データ化、そのデータの提供の仕組みについて協議。7月に開始されたその運用のあり方について提言すべく検証作業を行った。文字データのディジタル・データ化を巡る議論や実践の歴史を検証する研究を進めるとともに、電子書籍を巡る最近の動向を把握する作業を開始。電子書籍のアクセシビリティについて、その基本的な方向と社会的仕組みを検討し提言することを目的とする「電子書籍普及に伴う読書バリアフリー化の総合的研究」が2011年度から5年間の立命館大学グローバル・イノベーション研究機構研究プログラムに採択される(年間1000万円)。京都市内のALS等コミュニケーションの困難な人を支援する活動を継続的に行い、その記録および種々の技術に関わる情報をHPに掲載。大学院生が日本難病看護学会等で報告。2011年2月には「重度障害者コミュニケーション支援講座--難病者・重度障害者ITコミュニケーション支援技法を学ぶ」を開催。利用者・支援者が参加。全国手話通訳問題研究会、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全日本ろうあ連盟、全国要約筆記問題研究会から参加を得た2010年3月のシンポジウム「聴覚障害者の情報保障を考える」の記録に新たな文章を加えた報告書を作成。2011年5月に刊行予定。以上の他、障害者のコミュニケーションに関わる技術・制度の歴史、関連文献、著作権に関する報道等をまとめ、ウェブサイトhttp://www.arsvi.com(→「異なる身体のもとでの更新」)に掲載、随時更新して提供している。
著者
小田内 隆
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究計画は12世紀末から13世紀にかけての北中部イタリアにおけるカタリ派、都市コムーネ、教会の諸関係を、この地域の独自の政治的社会的環境の中で研究し、ラングドック地方のケースとの比較を通じて、カタリ派異端の形と意味の多様性、およびそれに対する態度、政策の地域的偏差の重要性を明らかにしようとした。この報告書では3年間の期間でなされた、以上の計画のための基礎作業の成果の一部を3つの章に分けて提示した。第1章では、異端審問を権力過程の問題として考察する上での方法論的な諸問題を考察した。主として、Tアサドの研究に導かれながら、異端統制のための制度的メカニズムである異端審問の権力作用を具体的な歴史的コンテクストで分析する上での理論的な枠組みを素描した。とくに、異端審問が「告白」の制度の出現と密接な関係に立つことを踏まえて、フーコー的な権力論による理解が目指された。第2章では、ラングドックの異端審問に関する研究を踏まえて、同時代のヨーロッパにおける権力技術の発展の一部として異端審問の成立を理解した。異端と教会(異端審問)の関係は、地域社会の複雑な権力関係の網の目の中に置いて初めて、理解可能である。第3章では、Cランシングによるオルヴィエトのカタリ派に関するミクロな研究を紹介しながら、北中部イタリア都市におけるカタリ派の問題を、コムーネという特定の権力空間のなかでおきた「聖なるものと権威との関係」をめぐる論争という視点から考察した。現段階ではなお史料研究にもとづく研究成果には至らなかったが、少なくとも以上の作業にょって異端を具体的な権力関係の相において解釈し直すための枠組みを確立することはできた。
著者
吉田 美喜夫
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

「法と現実」との乖離を埋める課題は、法律学にとって古典的な課題であるが、タイのような経済発展を急速に進めている国の場合、この課題には2つの側面がある。1つは、国内法と現実との関係の側面であり、もう1つは、国際的な基準と現実との関係の側面である。とくに、グローバリゼーションが進展している状況の下では、国際的側面が重要である。グローバリゼーションの視点からタイ労働法の動向を見た場合、労働団体法と労働保護法の分野で大きな違いがあるように思われる。労働保護法の分野では、98年の労働保護法の制定に見られるように、ILO基準との整合性が図られており、その意味で、国際労働基準との一致が追求されている。しかし、労働団体法の分野では、近年の労働法改革において労働組合の保護を強化する方向には向いていない。その理由は、グローバリゼーションの中で影響力を高めてきた企業家が、労働組合は国際的な経済競争を勝ち抜く上で障害になると評価しているからだと思われる。では、現実の変化に対応し、「法と現実」との乖離を埋めるための労働法改革はどのような方向に向かうのか。1997年の通貨危機の経験を通じて、再度、伝統的な規範の評価が認められる。しかし、それは開発法制への回帰ではなく、協調的労使関係への回帰であるように思われる。その装置が1999年の労働関係法改正草案が新たに定めた合同協議委員会である。また、企業自体が大きくなっている条件の下で、むしろ交渉や協議を通じた労使関係の方が合理的だと考えられつつあるように思われる。さらに紛争解決手続を一層丁寧に規定しようとしている。このような労働法改革の帰趨は、タイ労働法が開発法制を清算し国際標準化を達成するかどうかを占うことになる。
著者
久保 幸弘
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

GPSに代表される衛星測位システムでは,衛星から送信される擬似ランダム符号や搬送波の位相観測値を用いて,衛星,受信機間の距離を測定(測距)し,受信機座標を求める.従来,受信機単独でその絶対座標を求める手法は「単独測位」と呼ばれ数m程度の誤差を持つとされている.本研究では,この誤差要因を,1.電離層・対流圏の影響,2.衛星の軌道誤差,3.サイクルスリップ,4.移動体の動的モデル,の4つに分類し,その各々についてより正確な数式モデルを構築(GRモデル;GNSS Regression equation)し,観測データからこれらを同時に推定することにより,測位精度の向上を図った.また,サイクルスリップに関しては,測位演算アルゴリズムにおいて使用されるカルマンフィルタのイノベーション過程を監視し,カイ2乗検定,尤度比検定に基づく検出手法を提案した.さらに移動体の動的モデルに関しては,移動体の速度を一次のマルコフ過程,加速度を一次のマルコフ過程,躍度を一次のマルコフ過程と仮定するモデルをそれぞれ構築し,精度の検討を行った.また,測位に用いる衛星の選択手法として,衛星の仰角による重み付け,観測残差の絶対値による衛星選択アルゴリズムを構築し,上述の高精度単独測位アルゴリズムに導入し,測位計算プログラムを実現した.それらの結果,実証実験においては,本学所有のNovAtel社製受信機および国土地理院殿の電子基準点で得られた観測データ等を用い,静止点において常に約50cm程度の精度で受信機座標を得ることが可能であった.
著者
里見 潤 加納 樹里
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、心拍変動(HRV)の解析によって得られる指標(HRV解析指標)のスポーツ活動への有効利用の可能性を探ろうとするものである。本研究は、(1)ボート競技日本代表選手の海外合宿期間中の心拍変動の推移、(2)自転車競技選手の漸増的運動負荷テストにおける心拍変動応答、(3)女子陸上競技長距離選手のフィールド漸増的運動負荷テストにおける心拍変動応答から構成されている。HRV解析指標を用いたコンディションの把握の可能性に関しては、研究(1)において、起床時の安静HRV解析指標(SD1, HF)の推移より、鍛練期から調整期に移行することにより心拍変動が増大し副交感神経活動が高まることが示され、トレーニングプロセスにおけるHRV解析指標の推移にもとづくコンディションの把握の可能性が示唆された。漸増的運動負荷テストにおけるHRV解析指標の応答に関しては、研究(2)において、SDlミニマムの現象として捉えられるHRV閾値が多くのケースで認められる可能性が示唆されたが、HRV閾値と乳酸閾値との間に明確な関係性は認められなかった。また、研究(3)において、漸増的運動負荷テストにおける周波数解析の手法によるHRV解析指標の応答に関して、個々の選手に固有の応答パターンがある可能性や、トレーニング状態がHRV解析指標(LF)の応答のありように反映する可能性が示唆された。漸増的運動負荷テストにおけるHRV解析指標の応答をアスリートのトレーニング状態の把握に利用ためには更なる研究が必要と考えられる。
著者
赤間 亮 CLARK Timothy TOMPSON Sarah
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

全8回の現地調査により大英博物館所蔵のすべての浮世絵・画帖と関連する所蔵版本400点について、精細な画質のデジタル画像を取得することにより、網羅的にカタロギングし、全貌を把握することができた。常にレベルの高い専門学芸員が継続的に収集を続けてきた博物館であり、著名な絵師、初期作品などの知られていた名品以外にも稀少絵師、特殊フォーマットが網羅的に収集されているなど、高い質を有することが判明した。
著者
井上 幸孝
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

現地調査を引き続き行うために、8〜9月にかけてメキシコに滞在した。現地では、昨年度に引き続きメキシコ国立公文書館において原史料の調査を継続した。とりわけ、今回は同文書館内Mapoteca所蔵の関連史料を数多く参照し、地図や図版史料を写真という形で持ち帰ることができた。また、必要な文献で未入手だったものについても、メキシコ滞在中に手に入れることができた。さらに同地での2度の発表機会(下記)では、現地研究者との有意義な意見交換をすることができた。それ以外の期間については、昨年度以降に収集してきた史料の分析を進め、その成果を口頭発表いう形で積極的に発表した。口頭発表をしたのは、CANELA学会(5月27日、南山大学)、日本ラテンアメリカ学会(6月3日、アジア経済研究所)、社会人類学高等研究院での講演(9月13日、メキシコ市)、メキシコ国立自治大学歴史学研究所での研究発表(9月14日、メキシコ市)である。その上でさらに考察を深め、研究論文(次頁記載のもの)として公表した。研究論文の主たる内容は、土地権利認定書(論文では「権原証書」と訳した)のこれまでの研究の概要と問題点の指摘、ならびに、メキシコ盆地南東部の数村落のナワトル語文書の個別事例分析である。前者は昨年度までに収集した主にスペイン語の資料をもとに研究動向を整理し、本研究のみならずメキシコやその他の国々の研究者にも有益となる当該研究テーマの問題点と今後の方向性を示そうとした。後者については、これまで総括的にしか扱われてこなかった事例をナワトル語原文に基づいて詳細に分析し、16世紀(スペイン征服)以前の概念が17世紀以降に編纂されたこれら文書群に反映されている点を明らかにした。