- 著者
-
中西 央
小野瀬 裕子
草野 篤子
- 出版者
- The Japan Society of Home Economics
- 雑誌
- 日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.11, pp.1185-1198, 1998-11-15 (Released:2010-03-10)
- 参考文献数
- 17
第3章人権条項のうち「男女平等」と「教育の機会の平等」を中心にベアテが第一次案として起草した条項の生成過程を考察してきた結果を以下にまとめる.(1) GHQ内における草案の作成第一次案の作成を担当することになったベアテは, 10年に及ぶ在日経験から憲法で女性の権利を明確にしておく必要性を認知していた.具体的には, 以下の内容を起草している.「法の下の平等」「家庭における男女平等」「家制度の廃止」「母性保護」「既婚・未婚の差別禁止」「嫡出子・非嫡出子の差別禁止」「長子相続権の廃止」「教育の機会の平等」「児童への無償医療制度」「学齢期の児童及び青少年の常勤的雇用禁止」「男女雇用機会均等」「男女同一価値労働同一賃金」「社会保障制度 (生活保護) 」「著作・特許権」等である.その後, 簡潔・原則主義のGHQ内での検討・修正によって, 多くの条項が削除・統括される.ただし, 「法の下の平等」「家庭における男女平等」だけはほぼそのままの形で残り, その他「教育の機会の平等」「社会保障」「勤労の条件に関する基準の設置」が残る.しかし, 削除された中には, 後に法制化の課題として残ったものもあり, ベアテの先進性がわかる.(2) マッカーサー草案から日本国憲法に至るまで次にGHQと日本政府の折衝の結果, 修正が行われた.「家庭における男女平等」について日本側は抵抗を示したが, 通訳としてよく働き好感をもっていたベアテの起草と聞き, 残すことになる.ここにベアテが同席していたことは重要であった.帝国議会では, 「個人の尊厳」に基づく人権意識は希薄で, 議員の多くは戸主権の廃止に危惧感を示した.ベアテが起草していたものと同じ「母性保護」規定を求める提案があったが却下されている.(3) 日本国憲法制定に伴う動きと現在日本国憲法が制定され, その24条が, 個人の尊厳と両性の本質的平等に基づく婚姻を家族の出発点としたことで, 「家」制度を規定していた明治民法, 刑法の規定が改正された.今なお残る課題の中で, 「非嫡出子の差別の禁止」「男女同一価値労働同一賃金の原則」については, ベアテがGHQ第一次案で起草しカットされた条文と重なり, ベアテの先進性がわかる.(4) 第3章人権条項の推移GHQ第一次案として起草された第3章人権条項が, どのように修正され, 統括され, または削除されて日本国憲法となったかを系統的に整理し, 図によって提示した (図1).ベアテ起草条項の文言が日本国憲法になるまでを整理し, 表によって提示した (表 1).以上のように日本国憲法の第一次案の起草にベアテが携わったことで, 第24条, 第26条等が盛り込まれ, 「家族」「両性の本質的平等」「児童」という言葉が使用される等, 民主主義日本の出発にあたって, ベアテの果たした役割の大きい事がわかった.