著者
鈴木 悟史 中村 俊之 吉井 正広 中島 正勝 中西 洋喜 本田 瑛彦 小田 光茂
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集C編 (ISSN:18848354)
巻号頁・発行日
vol.79, no.807, pp.4233-4248, 2013 (Released:2013-11-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

Generally, many space satellites have large solar array panels for power generation and large antennas for observation and communication. The panels and antennas must be lightweight because of the payload weight limit of the launch vehicle. So, they are very flexible, with little damping ability. This results in vibrations cause serious problems. When the thermal environment around a flexible structure on orbit such as a solar array panel changes to cold or hot, the flexible structure produces its own deformation or vibration. These occur most often during rapid temperature changes called thermal snap or thermally-induced vibration, which has been known to cause attitude disturbance in Low Earth Orbit (LEO) satellites. Thermal snap vibration occurring on a flexible solar array panel is very slow. It is very difficult to measure thermal snap motion by sensors such as accelerometer. The behavior of a space structure affected by thermal snap has never been observed directly in space so far. This report presents the measurement results of “IBUKI” solar array panel's behavior using monitor camera.
著者
中川 良三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌 (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.4, pp.703-708, 1985-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
22
被引用文献数
8

人為的水銀汚染の実態を解明するためには,まず,自然環境から供給される水銀量を明らかにしなければならない。火山ガスは環境大気中に水銀を供給する発生源の一つである。火山ガスの水銀に関連する基礎資料を得るために,北海道地方の地熱地帯 10 箇所(知床半島羅臼,屈斜路湖畔和琴オワツコツ地獄,川湯アトサヌプリ硫黄山,阿寒湖畔ボッケ,大雪山系高原温泉,旭岳地獄谷,十勝岳安政および新々噴火口,登別温泉地獄谷,昭和新山,恵山)の噴気孔ガス中の水銀含量を調べた。 34 試料の噴気孔ガス中の水銀量は乾きガスあたりで 3.2~1828μg/m3,相乗平均値 54μg/m3 であった。これらの値は,本州および九州地方の噴気孔ガス中の水銀含量の約 6 倍であった。同時に採集した凝縮水中の水銀含量は 0.01~32μg/l の範囲であり,火山性温泉水の水銀含量と同程度か,やや高値であったが,平均して気体として揮散した水銀量の 5 % 以下であった。温泉ガス中の水銀含量は 1.2μg/m3 以下であり,噴気孔ガスにくらべて 1/100 以下の低値であつた。火山活動によつて大気中に放出される水銀量を噴気孔ガス中の水銀含量から試算した結果,北海道地方では大気に関連する水銀の約 4 % が火山ガスの寄与によると推定された。この値は本州および九州地方の噴気孔ガス中の水銀量から試算した値の約 6 倍であった。
著者
伊藤 肇 関 朋宏
出版者
Japan Society of Coordination Chemistry
雑誌
Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry (ISSN:18826954)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.3-11, 2013-11-30 (Released:2014-03-20)
参考文献数
70
被引用文献数
1

Aryl gold isocyanide complexes are found to have interesting photoluminescence properties in the solid state, being referred to as luminescence mechanochromism and molecular domino. A gold complex containing two gold atoms, {[pentafluorophenylgold]2(μ-1,4-diisocyanobenzene)}, shows significant change in its luminescence property when mechanical stimulus such as grinding or pressing is applied on its solid sample. This “luminescence mechanochromism” is most probably attributed to a ground state structure change from the microcrystalline to the amorphous state accompanied to the optical properties alternations. Different feature observed in phenyl(phenyl isocyanide)gold(I) complex is “molecular domino”, where even a small mechanical stimulus can trigger the structure change of the entire crystal. This spontaneous structure change proceeded in a single-crystal-to-single-crystal fashion with the drastic emission color alternation. These features enable sub-molecular-level structure investigation with single X-ray crystallographic analysis and visual observation of the phase transition under UV light irradiation during the mechano-induced phase change.
著者
佐藤 厚子 北宮 千秋 李 相潤 畠山 愛子 八重樫 裕幸 面澤 和子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.318-326, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

目的 育児不安を「育児ノイローゼ,育児不安,育児ストレス,育児疲労,育児葛藤などを諸要因とした Child Rearing Burnout」として捉えた。4 か月健康診査時での訪問群(訪問指導を受けた母親)と非訪問群(訪問指導を受けなかった母親)の育児不安の実態を調査し,育児不安得点を比較することを目的とした。方法 対象者は H 市保健センターの 4 か月健康診査に来所した母親169人であり,自記式質問紙による調査を行った。調査用紙は受付けで配布し,健康診査終了後にその場で回収した。配布部数は196部であった。調査用紙配布の際に本研究の目的,意義他,研究によって得られた個人情報は研究以外の目的には使用されないこと,研究者以外の者がデータを用いることはないこと,アンケートの回答は任意であることを明確に記した文書を示し,口頭で説明した。同意が得られたものを対象者とした。結果 有効回答率は86.2%であり,訪問群は92人(54.4%)であった。アンケート結果を因子分析し,育児不安因子として 5 因子22項目を抽出した。各因子を次のように命名した。第 1 因子:「気分変化の因子」(気分変化)(7 項目)第 2 因子:「身体的疲労の因子」(身体疲労)(5 項目)第 3 因子:「家族関係の因子」(家族関係)(4 項目)第 4 因子:「子育てに関する不安・心配の因子」(子育て)(3 項目)第 5 因子:「人付き合いの因子」(人付き合い)(3 項目)。訪問群・非訪問群とも「育児の協力は夫であるか」の質問に「いいえ」と回答した対象者に「子育てに失敗するのではないかと思うことがある」,「この子がうまく育つかどうか不安になることがある」,「子供のことでどうしたらよいかわからないときがある」と答えたものが有意に多かった。育児不安項目と関連していた対象者の特性は,初産婦,拡大家族,無職,30才代以降の出産であった。訪問群と非訪問群では第 1 因子(気分変化),第 2 因子(身体疲労),第 4 因子(子育て)において有意差があり,訪問群の育児不安得点が高かった。結論 訪問群は非訪問群よりも育児不安得点が有意に高く,訪問指導時に Child Rearing Burnout の内容を把握することで,継続支援が必要な母親を把握できる可能性がある。
著者
竹下 治範 井上 知美 髙瀬 尚武 波多江 崇 室井 延之 濵口 常男
出版者
Japanese Society of Drug Informatics
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.270-276, 2017-02-28 (Released:2017-03-17)
参考文献数
10

Objective: Finger-tip unit (FTU) has been used in Western countries to apply a specific amount of steroid ointment available in tube form.  Although prescription ointments for treating skin disorders are available in Japan, there are no indications for patients regarding the amount to be used.  Therefore, we investigated the factual assessment of patient compliance instructions on using the ointments given by pharmacists and conducted a comparative test on the amount of ointment in 1 FTU using commercially available ointment tube products.Methods: We conducted a questionnaire survey for 21 hospital pharmacists on patient compliance instructions for ointments.  Using six types of ointments, we measured the aperture area of ointment tube, weight of 1 FTU and squeezing number of tube.Results: Fewer than 50% of pharmacists explained the application methods and amounts for one-time use when they provided patient compliance instructions.  There were many patients who used an ointment inadequately.  The most were problems about the quantity of application.  Wide variations were found among the amount of ointment in 1 FTU weight and number of available uses.Conclusion: The survey results demonstrated that the methods used to apply the ointments are items that must also be emphasized by pharmacists when providing patients compliance instructions.  Furthermore, the patient compliance instructions should include the amount of ointment in 1 FTU and number of available uses within pharmaceutical products.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1385, pp.42-45, 2007-04-02

東京・汐留のソフトバンク本社25階の社員食堂には、昼時になると従業員が続々と集まってくる。首にかけた社員証の紐が黄色か黒なら正社員、それ以外の色は派遣社員やパート。足早に社食に向かう人の波は、黄色と黒が圧倒的に多い。
著者
田中 晃代
出版者
近畿大学総合社会学部
雑誌
近畿大学総合社会学部紀要 (ISSN:21866260)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.11-18, 2012-03

[Abstract] The purpose of this study is to verify whether to support citizen participation in community planning in the City Hall and study how to do it. In this study, community planning in Toyonaka has been taken up as a case study. Initially, technical assistance that the administrative staff provided to the citizens involved in community planning in Toyonaka was later to be inherited. Technical assistance is provided by the project team comprising local government officials, and business representatives give advice to citizens. Such technical support measures are likely to decline. Therefore, it is necessary to improve staff morale.著者専攻: まちづくり
著者
水澤 英洋
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.1783-1801, 2015-09-10 (Released:2016-09-10)
参考文献数
23
被引用文献数
1
著者
森 啓
出版者
北海学園大学
雑誌
北海学園大学法学研究 (ISSN:03857255)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.479-501, 2004-12-31

1. The citizens autonomy system 2. Situation follow idea 3. Idea and axis of coordinate 4. Decision and execution of policy 5. Meaning of "cooperation of labor" 6. Autonomy system and administrative culture
著者
西山 知佐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3O1166, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】リハビリテーション(以下リハとする)医療における今後の展開として、訪問リハサービスの提供量を増やし、かつ質も高めることで国民により認知されるよう働きかける動きがある。一方で鍼灸マッサージ師等が訪問マッサージを行っているが、なかには「訪問リハビリマッサージ」と称して機能訓練も行う業者も存在する。介護保険制度においては利用者本位の観点から必要でかつ適切な介護サービスが選択できることが理念の一つとして謳われている。我々現場で携わる者としては質の良いサービスを提供しないと利用を中止され、さもないと経営面にも大きく影響する場合もある。このような状況下にありながらも、どの程度サービスを利用されているのか実態を調査した文献はなかった。そこで訪問リハと訪問マッサージの併用利用について調査し、現状を把握することを目的とした。【方法】対象者は平成20年10月から21年9月までの間で当院理学療法士(以下PTとする)が提供する訪問リハを1か月以上利用した76名とした。サービス利用状況は調査期間内の対象者のサービス提供票から集計した。必要に応じて担当PTやケアマネージャー、利用者およびその家族からの情報を参考にした。さらに愛知県介護サービス情報公表センター、社団法人愛知県鍼灸マッサージ師会のホームページを参考に、当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区の資源の分布状況を調査した。【説明と同意】訪問リハ開始にあたって契約時に個人情報の取り扱いについて説明を行い、文書で同意を得た。個人情報取り扱いに関する院内規定に則り実施した。この中には質の向上のための研究が使用目的の一つに挙げられている。【結果】対象者76名のうち訪問マッサージを利用しているのは10名、過去に利用していたのは3名、加えて接骨院等へ通っているのは2名であった。うち訪問マッサージを利用した13名の介護度は要介護2が3名、要介護3が1名、要介護4が2名、要介護5が7名であった。該当する利用者の障害像は要介護2、3の場合は疼痛が強く日常生活に何らかの支障を来していた。ADLのほとんどは自立もしくは一部介助レベルであるが、外出は諸々の事情により困難であった。一方要介護4、5の場合は関節可動域制限や疼痛のあるケースがほとんどであり、寝たきりでおおむね全面的に介助が必要な状態であった。訪問マッサージ利用者が他に利用している介護保険サービスとその人数は訪問介護8名、訪問入浴6名、訪問看護9名、通所介護2名、通所リハ1名、短期入所3名であった。当院が存在する名古屋市南区および隣接する5区のサービスの分布状況は訪問リハが11箇所、リハを提供している訪問看護ステーションが15箇所であった。また従事者数は訪問リハのPT38名、訪問看護ステーションのPT24名に対して、鍼灸マッサージ師会の登録者は164名であった。【考察】今回当院訪問リハ利用者の中における訪問マッサージ利用者の割合は19.7%であったが、他事業所との比較については言及できない。あくまで当院利用者における傾向を知るものであり、この研究の限界である。また資源の分布状況についても公表されているデータを用いたため、妥当性に欠けるところがある。ある文献にて「近隣に訪問リハサービスがなかったため、訪問マッサージを導入した」という報告が散見されたが、当院近隣の状況はこれとは違い決してサービス量は少なくない。だが訪問リハに従事しているPTよりも鍼灸マッサージ師の方が圧倒的に多く、提供できるサービス量の上でも後者の方が多いと思われた。しかし単純に量だけでなく、併用しているケースが存在することを考えるとリハとマッサージを使い分けて利用していることが示唆された。その背景として訪問マッサージは医療保険を使用できること、訪問リハよりも自己負担が少ないこと、ケアマネージャーの中で「リハは運動、マッサージはリラクゼーション」というイメージを持っていることが挙げられる。特に要介護4、5の利用者は利用限度枠近くまでサービスを利用しており、それに伴い経済的負担も大きく困っている利用者も少なくなかった。さらに関節拘縮予防の目的で短時間でもよいので運動頻度を増やしたい思いが利用者の中にあり、訪問マッサージも導入したのではないかと考えられた。またこれ以外のケースにおいては疼痛緩和やリラクゼーションの目的でマッサージを選択し、リハは運動や生活指導の目的で利用していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今後PTの職域の拡大を目指し、PTをはじめ多くの人々が努力している。さらなる発展のためには我々の置かれている現状とそれを取り巻く周囲の様子を把握しておく必要があると考える。
著者
理嵜 弥生 深津 葉子 宮本 三千代 須賀 良子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日農医学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.351, 2006

<B><はじめに></B>四肢切断術を受けた患者は危機的状況におかれ、障害を受容しそれを乗り越えるためのサポートが必要となってくる。今回、仕事中の事故で右上肢不全切断した患者の精神的変化に対するサポートについて振り返った。フィンクの危機モデル&sup1;⁾を活用することで、段階にあった看護介入や援助が行えたか分析し、結果、所見を得たので報告する。<BR><B><方法></B><BR>(1)対象及び経過:49歳女性、仕事中の事故で右上肢不全切断となり再接着術を行ったが、1ヵ月後急激に循環不良となり緊急で切断術を行った1事例<BR>(2)方法:患者との関わりを看護記録、スタッフからの情報、患者ケアカンファレンス用紙をもとに振り返り、フィンクの危機モデルを用いて分析した。<BR>(3)研究期間:受傷から退院まで<BR>(4)倫理的配慮:研究の取り組みと意義、プライバシーの保護について、患者に口頭で説明し同意を得た。<BR><B><結果及び考察></B>フィンクは危機のたどるプロセスをモデル化し、それを衝撃・防御的退行・承認・適応の4段階であらわしている。患者は受傷後上肢再接着術が行われ、比較的順調に経過していたが、術後3週目頃から発熱、疼痛増強、皮膚色不良となり、壊死組織による圧迫を疑い洗浄・デブリートメント術を行った。しかし、循環の改善はみられず高熱が続き、敗血症の危険性があると判断され翌日上肢切断術を行った。患者は受容できないまま切断となり、ただ一点を見つめ涙していた。この時衝撃の段階であったといえる。手術室入室までの間付き添い、訴えに耳を傾けるようにした。術後は会話の中で切断したことにはあまりふれず、時間が経つにつれ「昔に戻りたい」「治ると思っていたのに」と悲観的な言動が多く聞かれるようになった。また、人と対面することも避け塞ぎがちであった。この時防御的退行の段階であったといえる。訪室した際には患者が不安や悲しみの感情を表出できるよう傾聴し、精神的安定が保てるようサポートした。また、一番身近な存在である夫が付き添っており、患者の支えとなっていた。日が経つにつれ「手術してよかったんだよね」という言葉がきかれ、障害に向き合えるようになっていった。上肢を失ったショックは変わらずにあったが、その現実を受け止めていこうとしているようであった。この時は承認の段階であったと考えられる。この頃、退院の話もでて試験外泊を行った。「片腕がないのがこんなに不便だと思わなかった。これからどうしたらいいんだろう。」と不安もあったようだが、「洗濯物はたためたの。出来ることはやらなくちゃね。」と上肢切断という障害を受け止め、今後の生活について考えられるようになっていた。患者が一番不安に感じていることは何か、問題点は何かを見極め、解決に向けて働きかけていけるようにアドバイスするよう心掛けた。患者の多くは不安や問題を抱えたまま退院となってしまい、入院中に適応の段階まで迎えることが少ない。今回の患者は、外来にて義肢を作成することとなり、退院後は、外来にてフォローするかたちとなった。<BR><B><まとめ></B>危機的状況にある患者の精神的変化を把握するのに、危機モデルを活用することで、段階にあったアプローチを行うことができたと考えられる。<BR><B><引用文献</B>><BR>&sup1;⁾小島操子;看護における危機理論・危機介入-フィンク/コーン/アグィレラ/ムースの危機モデルから学ぶ、2004.6、金芳堂
著者
松村 剛志 大場 美恵 山田 順志 楯 人士 青田 安史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】介護保険制度においてリハビリテーション(リハ)専門職は,生活機能全般,特に活動の向上に働きかける役割を求められている。役割にはこうした社会や制度の中で付与される集団的役割だけでなく,関係的地位の相手方の期待に基づく関係的役割も存在する。外来理学療法では患者の期待と理学療法士(PT)の役割認識にズレが生じていることが明らかとされているが,介護保険サービスにおいて要介護者が抱くPTへの役割期待は十分に解明されておらず,その変化を捉えようとする試みも見当たらない。そこで今回,通所リハ利用者の抱くPTへの役割期待の変化を質的研究手法を用いて明確にすることを試みた。【方法】対象者は静岡県中部地域にある2カ所の通所リハ事業所にてPTによる通所リハ・サービスを受けており,重度の記憶障害がなく言語によるコミュニケーションが可能で,かつ同意が得られた14名の要介護高齢者であった(男性10名,女性4名,平均年齢76.9±4.1歳)。主要疾患は脳血管障害9名,パーキンソン病3名,その他2名である。2012年9月に11名,追加調査として2013年3月に3名の対面調査を行った。面接は録音の許可を取った後に,通所リハ利用の目的,PTへの期待とその変化等について半構成的インタビューを行った。20~40分の面接終了後に,録音内容の逐語録を作成し,Steps for Coding And Theorization(SCAT)を用いて分析した。SCATによる分析では,まずSCATフォームの手順に沿って文字データから構成概念の生成を進めた。同時に,データに潜在する研究テーマに関する意味や意義を,得られた構成概念を用いてストーリーライン(SL)として記述した。次に,個々の対象者においてSLを断片化することで個別的・限定的な理論記述を行った。得られた理論記述の内容をサブカテゴリーと位置づけ,その関係性を検討した上でカテゴリーを構築した。最後に集約されたカテゴリーを分析テーマに沿って配列し直し,研究対象領域に関するSLを再構築した。対象者14名にて理論的飽和の判断が可能かどうかは,シュナーベル法を用いて構成概念の捕獲率を求め,捕獲率90%以上にて理論的飽和に達していると判断した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は平成24年度浜松大学研究倫理委員会の承認を受けており,対象者に対して書面ならびに口頭での説明を行った後に同意書への署名を得た。【結果】本研究では,76種類154個の構成概念が構築され,14例目における捕獲率は93.54%であった。また,全対象者から37個の理論記述が生成され,6つのカテゴリーに分類された。これらのカテゴリーから構築されたSLは以下の通りである。通所リハ利用者は,サービス開始当初,PTに対して身体機能や歩行能力の回復に対する働きかけを期待していた。ただし,脳血管障害の対象者にその傾向が強く,慢性進行性疾患の場合は悪化防止に焦点が当てられていた。リハ効果は,自己による自己評価と他者による自己評価の認知によって確認されており,息切れや歩行といったモニタリング指標を各自が持っていた。リハ効果が期待通り或いは期待以上であれば,PTへの信頼感に基づく全面的委任や担当者の固定による現状の継続が希望され,PTには得られた効果の維持が期待されるようになった。一方,転倒のような失敗体験の反復は,自己信頼感を低下させ,リハ効果が期待外れや不十分と認識される要因となっていた。この場合,サービスへのアクセスそのもの(回数増加や治療時間の延長)が期待されるようになり,治療効果を生み出すことは期待されなくなっていた。さらに,利用者に回復の限界に関する気づきがみられると,利用者は通所リハをピアと会える新たなコミュニティと位置づけていた。【考察】本研究においては,利用者のPTに対する役割期待に変化が認められ,その変化にはモニタリングされたリハ効果をどのように自己評価しているかが大きく影響しているものと考えられた。通所リハにおける利用者の満足感に関する背景要因には,(1)設備や雰囲気といった場,(2)サービス担当者の知識・技術・言動,(3)プログラムの多様性や治療機会,(4)心身の治療効果が挙げられている。利用者がPTから満足感を得ようとする場合,これら要因を組み合わせてPTへの役割期待を作り上げているものと考えられ,モニタリングの結果によって役割期待を能動的に変更している可能性も示唆された。【理学療法学研究としての意義】本結果は一地域の通所リハ利用者に限定されるものではあるが,通所リハ利用者の抱くPTへの役割期待の変化をSLとして明らかにし,PTが利用者理解を深めるためのモデルケースを提示できたものと考えられる。
著者
生野 正芳 綾部 雅章 政時 大吉 山下 奈美 刈茅 岳雄 松下 泰輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】平成12年に介護保険法が施行され介護保険を利用しての訪問リハビリテーション(以下 訪問リハ)の実施が開始されて十数年が経過している。厚生労働省の介護給付費実態調査月報では平成13年5月では1.4万人であった訪問リハの利用者数が,平成26年7月では8.6万人にまで増加している。しかし同じ月の訪問介護約140万人,訪問看護36万人に比べると非常に少ない数字である。この要因として訪問リハのサービス提供事業所数やマンパワーの不足,ケアマネージャー(以下CM)の認識不足などの指摘を受けることが多い。本研究ではCMが訪問リハについてどのような認識を持っているのか,どの程度訪問リハについて周知されているのかを調査することで今後の訪問リハのサービス充足に役立てることを目的とした。【方法】対象は福岡県うきは市およびうきは市周辺の居宅介護支援事業所26件(以下 事業所)にてCMとして業務に従事している者62名とした。調査方法は無記名の多肢選択式および自由記述式のアンケート調査を実施した。質問内容は基礎職種,実務経験年数,訪問リハの利用歴,給付実績数,現在訪問リハをサービスに組み込んでいる件数,訪問リハの利用に至らなかった理由,ケアプラン作成上よく使用するサービス(複数回答可),訪問リハへの要望とした。【結果】事業所数26件,CM数62名,回収数46名,無効回答数2名,有効回答数44名,有効回答率71.0%であった。基礎職種は介護福祉士43.2%,看護師16.0%,相談援助業務従事者16.0%,ホームヘルパー2級9.1%であった。ちなみにリハビリ関係職は0.0%であった。実務経験年数は平均6.7年±4.1年,最高15年,最低1年であった。訪問リハビリの利用歴は利用したことがあるCMが77.3%,一度も利用したことがないCMが22.7%であった。給付実績数は平均3.7±4.2件,最高20件,最低0件であった。現在訪問リハをサービスに組み込んでいる件数は平均1.0±1.3人,最高5件,最低0件であった。訪問リハの利用に至らなかった理由は「本人・家族が希望しない」が44.4%,「訪問リハの対象となる利用者がいない」が33.3%であった。ケアプラン作成上よく使用するサービス(複数回答可)は通所介護が90.9%,福祉用具貸与が86.4%,通所リハが79.5%,訪問介護が77.3%,ショートステイが43.2%,訪問看護が29.5%,訪問リハが11.4%であった。訪問リハへの要望は「訪問リハの内容・利用方法を教えてほしい」が52.9%と特に多かった。【考察】CMはケアプラン作成時まず通所系のサービスや訪問介護の導入を考えることが多く,訪問リハに関しては対象となる利用者がおらず,いたとしても本人や家族が希望しないため利用に至らない場合が多いという認識の傾向があった。しかし一方で,訪問リハの内容・利用方法を教えてほしいという要望も多い。またCMによって訪問リハの利用状況にばらつきが大きい状態である。これらのことから,CMに訪問リハの内容や方法,利用効果について十分に周知されていない可能性が考えられる。これはCMとして業務に従事している者の基礎職種にリハビリ関係職がほとんどいないことが要因の一つとして考えられる。理学療法士・作業療法士法施行以降,先人たちの努力により「リハビリテーション」という言葉とそのおおまかな内容は多くの国民に周知されてきている。しかし今回の結果から,訪問リハに代表される在宅でのリハビリテーションに対しては十分に周知されていないのではないかと考えられる。今後の訪問リハにおける課題はサービス提供事業所数やマンパワーの充足だけではなく,訪問リハに関する啓蒙活動による周知の徹底が重要であると考えられる。そうすることで訪問リハが必要だが現在は訪問リハを利用していない利用者に対して,必要なサービスを提供できる可能性が大きくなり,地域における訪問リハのサービス充足につながるのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】訪問リハに関する研究は症例報告や介入効果についてなどが多く,CMを対象とした調査は少なく,福岡県うきは市のような中山間地域を含んだ地方の自治体での調査は更に少ない状態である。今回介護保険サービスに関わる職種の中でも特に中核を担っているCMが訪問リハに対してどのような認識を持っているか知ることで,今後の訪問リハのサービス充足につながるための一助となると考える。さらに今後都市部の状況と比較することで地域格差の実態把握とその解消の一助となると考える。