著者
長濱 澄 森田 裕介
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.291-300, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
16
被引用文献数
4

本研究では,オンライン学習環境を想定した映像コンテンツの高速提示と学習効果の関連性を明らかにすることを目的とした.1倍速,1.5倍速,2倍速の提示速度の異なる映像コンテンツを3種類作成し,大学生75名に提示した.作成した映像コンテンツは高等学校における情報科の宣言的知識を扱ったものであった.学習の前後に実施した理解度テストの得点から,学習効果を検証した.また,3種類の提示速度に対する主観評価を,質問紙を用いて調査した.理解度テストの分析結果から,提示速度の相違は,学習効果に影響を与えないということが明らかになった.一方,質問紙調査の結果から,映像コンテンツを利用した学習に適した提示速度として,1.5倍速が最も支持されているのに対し,2倍速に対する主観評価は肯定的ではないことが明らかになった.これらのことから,ある条件によっては,一定時間に,これまでの1.5倍から2倍の学習ができる可能性が示唆された.
著者
菊地 博 川崎 聡 中山 均 齋藤 徳子 島田 久基 宮崎 滋 酒井 信治 鈴木 正司
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.461-466, 2010-05-28 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルは,インフルエンザAおよびB感染症の治療,予防に有効な薬剤である.慢性維持透析患者に対する,治療,予防に関する報告は少なく,その推奨量は決定されていない.2007年2月19日~20日,火木土昼に透析を受けている患者9人のインフルエンザA発症を確認した.発症患者の病床は集積しており,施設内感染が強く疑われた.透析患者は感染のリスク,重症化のリスクが高いと考えられ,感染の拡大を防ぐため,オセルタミビルの治療投与のほか,予防投与も行った.385名の透析患者に,十分なインフォームドコンセントを行い,同意が得られた患者にオセルタミビル75 mg透析後1回経口投与を行った.アンケート等の協力が得られた339名を調査対象患者とした.9人が治療内服,299名が予防内服を行い,31名が内服しなかった.治療内服後,全員が速やかに解熱し,重症化例を生じなかった.予防内服者には,インフルエンザ感染を生じなかったが,非予防内服者に2名の感染を認めた.この2名も同様の内服により,速やかに解熱,軽快した.内服者において,報告されている臨床治験時にくらべ,消化器症状の発症率が低かったが,不眠を訴える割合が多かった.また,内服者は非内服者にくらべ,臨床検査値異常は多くなかった.血液透析患者におけるオセルタミビル75 mg透析後1回投与は,健常者の通常量投与にくらべ,血中濃度が高値となると報告されている.過量投与による副作用の報告はなく,また,今回の透析患者339名の検討でも,安全性には概ね問題がないと考えられた.予防投与は有効で,当施設におけるインフルエンザAアウトブレイクを収束させた.
著者
鬼頭 孝佳
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.9-26, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
15

室町時代に成立した『新蔵人物語(しんくろうどものがたり)』という絵巻物語の登場人物「三君(さんのきみ)」がこの物語において、どのような性格を持っているかを再考する。前半では主たる先行研究である、木村朗(さえ)子の一連の研究の意義と問題点を「三君」の「アイデンティティ」問題に焦点を当てて批評する。木村の研究の意義は、木村が前近代をロマン化せず、近代批判に挑もうという「姿勢」や、現在の外在的な道具立てに着想を得つつも、文脈に即してテクストを読もうとする「方法論」にある。しかし、木村の諸研究はその「意図」とは裏腹に、外在的な道具立てが有する時代性に無自覚で、現代と過去との偏差や概念の再措定を疎(おろそ)かにし、その道具立てを安易に過去に投影・適用して事足れるとする面が否めない。また、セクシュアリティ論の領域が前景化されすぎ、ジェンダー論が後景に退いてしまうという危険にも陥っている。 後半では、三君の「アイデンティティ」問題やこの物語の結末の解釈を左右する「変成女子(へんじょうにょし)」というこの絵巻物語特有の用語に関する解釈問題について、現時点で判明している情報から考え得る、最も整合的な解釈仮説を提起する。その準備作業として、紙幅の都合上、仏教学の性差別論争で代表的且つ対照的な立場を標榜する研究である、フェミニスト仏教学の先駆者、源淳子と、必ずしもフェミニストに好意的ではない植木雅俊の「変成男子(へんじょうなんし)」論の2つを紹介する。また、もう1つの予備作業として、『新蔵人物語』に関するもう1つの主たる先行研究に当たる、阿部泰郎(やすろう)の編著で「変成女子」の解釈問題がどのように解決されているかを概観し、どのような問題が残っているかを確認する。最後に、私は以上の検討を足掛かりに、江口啓子以外、どの論者も見落としている「物語読者層の願望」という観点から「変成女子」を再考する。すなわち、作者/読者として想定されている宮中の女性たち(もしくはその心理を理解し得た男性)が父権制の下に抑圧された自らの自由を空想的に回復する営為として「変成女子」を捉えることによって初めて、物語世界において物語の表向きの筋立てからはハッピーエンドを標榜する「変成女子」を、自分は「変成」などしなくても男として往生できるはずだったのに、尼にさせられたせいで、女に「変成」する羽目になってしまったと、「三君」が自嘲的に語る秘教的な文脈としても読み返すことが可能になるのではないか、というのが私の提起した仮説である。
著者
柿田 公太郎
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.9, no.6, pp.360-367, 1970-12-15 (Released:2018-10-17)
著者
白岩 祐子 宮本 聡介 唐沢 かおり
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.109-117, 2012-01-31 (Released:2017-02-22)

Previous studies on attribution judgments concerning crime victims have commonly used the term "responsibility" to measure the negative implications regarding victims. However, responsibility is a concept that should be placed upon offenders, not victims. Victims have frequently been judged negatively, but the use of "responsibility" potentially inhibits the accurate understanding of such negative implications. Additionally, in judicial practice, "responsibility" is basically a term attributed to offenders. We therefore observed a certain shortcoming in the current research framework attributing responsibility to victims. Through judicial decisions and interviews with victims, we derived other labels supposedly containing negative victim judgments ("carelessness" and "fault") , and, together with the label "responsibility," considered whether people evaluate the victims using such labels. Moreover, to confirm whether these labels point to qualitatively distinct concepts, we examined their relationships with causal attribution. The results revealed that respondents rated the victim significantly lower on responsibility than the other negative labels, and we also found different prognostic factors for the labels. The implications of the study were discussed.
著者
永田 憲史
出版者
關西大學法學會
雑誌
關西大學法學論集 (ISSN:0437648X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.1463-1480, 2014-01-31

※写真部分のみ非公開
著者
杉本 秀樹 越智 由紀恵 浅木 直美 諸隈 正裕 加藤 尚 荒木 卓哉 ホセイン シェイク タンヴィ-ル
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.246-252, 2019-10-05 (Released:2019-11-12)
参考文献数
38
被引用文献数
1

近年,クラゲが日本近海に大量発生し,水産業や臨海施設に大きな被害を与えているが,このクラゲを脱塩・乾燥した細片(クラゲチップ)を水田に施用すると肥料効果だけでなく抑草効果を併せ持つことが示された.しかし,収量が慣行栽培(化成肥料,除草剤使用)より約10%低いこと,抑草効果が不十分でかつ不安定であることなど実用化に向けての様々な課題が指摘された.そこでクラゲチップと同様に2つの効果を併せ持ちながら含有成分や肥料効果の発現時期の異なる米ぬかに着目し,これをクラゲチップと併用して試験を行った.その結果,クラゲチップを単独に施用した場合に比べ,両者を併用した場合には収量は慣行栽培とほぼ等しく雑草発生量は顕著に減少した.本研究よりクラゲチップと米ぬかを併用することで,慣行栽培なみの収量が得られ,抑草効果も顕著に高まることが明らかになった.収量性の向上は,両者の成分含有率と肥料効果発現時期の違い,抑草効果の向上は両者がそれぞれ持つ成長抑制物質の違いによる相乗効果に起因したと考えられた.
著者
中村 理果
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

研究目的:男性不妊のスクリーニング検査として精液検査は必要不可欠だが、それには「におい」に関する項目はない。しかし精液のにおいには個人差があり、精液検査所見の悪い場合に特ににおいが強く感じられる。このことから精液のにおい物質を特定し、男性不妊の代表である乏精子症・無力精子症と精液のにおいとの関連について検討する。研究方法:1. 精液を-30℃で保存した後、島津製作所GCMS-Q2010を用いてガスマトグラフ質量分析法で測定を試みた。測定条件を決めるために、においが強く感じられる検体で測定したが何のピークも検出されなかった。2. ヒトの鼻は分析機器よりも感度が上であるため、鼻でにおいを感じても測定濃度以下のこともある。このためGC-MSで微量成分分析を行う際は抽出や濃縮などの前処理が必要なこともあることから、マイクロスケールパージ&トラップーガスクロマトグラフ質量分析法で測定をした。研究成果:マイクロスケールパージ&トラソプーガスクロマトグラフ質量分析法により、におい成分としてアセトアルデヒド、メタノール、イソブタナール、ブタナール、イソオキサゾール、2-ベンタノン、ペンタナール、トリエチルアミン、ピロール、ヘキサナール、2-ヘプタノンが検出された。しかしこれはライブラリー検索の結果得られた推定成分であり、成分の同定には別途標準品を用いた試験が必要である。また今回は定性試験のみであり、時間と予算の都合上定量試験は行っていない。今回は1検体のみの測定であったので今後検体数を増やし、鼻で感じるにおい成分の特定および精液所見との関連にっいて調べていきたい。
著者
半田 裕一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.105-112, 2017-01-20 (Released:2018-01-20)
参考文献数
20

コムギは,全世界の耕地の16%に相当する2億1,800万ヘクタールで栽培され,その生産量は年間約7億トンにも及び,イネやトウモロコシとともに世界の三大穀物として,私たちの食料基盤を支えている.また,トウモロコシやイネよりも多くのタンパク質を含むことから,多くの国で最も重要な植物タンパク質源となっている.一方,コムギは遺伝学の材料として古くから利用されてきており,今日,一般的に使われるようになった「ゲノム」という言葉は,コムギと深い関係にある.しかし,コムギゲノム自体は,ヒトゲノムの5.7倍の17 Gbもあり,異質6倍体ということと相まって,その解読は進んでいなかった.本稿では,コムギとゲノム研究のかかわりを解説しながら,現在進められているコムギのゲノム解読の現状を紹介する.
著者
柳田 紀之 飯倉 克人 小倉 聖剛 王 怜人 浅海 智之 佐藤 さくら 海老澤 元宏
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.1341-1347, 2015 (Released:2015-12-29)
参考文献数
13

【目的】アドレナリン自己注射薬を誤射した3症例の臨床経過を検討し,報告する.  【症例1】50代女性がエピペン®0.3mgをトレーナーと間違えて自分の右大腿部に誤射した.収縮期/拡張期血圧は7分後に144/78mmHgと一過性の上昇を認め,14分後には軽快した.7分後に動悸を訴えた以外,自覚症状は注射部位の局所の痛みのみであった.  【症例2】6歳男児がエピペン®を用いて遊び,右第二指に誤射し,貫通した.貫通部位の発赤,腫脹を認めたが,保温のみで誤射80分後には軽減したため,帰宅した.【症例3】4歳女児がエピペン®を用いて遊び,右大腿に誤射した.誤射23分後に収縮期/拡張期血圧は123/70mmHgと一過性の上昇を認めたが軽快し,1時間後,帰宅した.  【考察・結語】アドレナリン自己注射薬の誤射による副反応は一過性であり,3例とも重篤な副反応は認めなかった.アドレナリン自己注射薬の誤射防止のため取り扱いには十分な注意が必要である.