著者
永岡 崇
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文学報 = Journal of humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.108, pp.143-158, 2015

特集 : 日本宗教史像の再構築 --トランスナショナルヒストリーを中心として-- ≪第III部 :神の声を聴く --カオダイ教, 道院, 大本教の神託比較研究--≫本稿は, 近代日本において「神の声を聴く」という営みがどのような宗教史的・思想史的可能性をもちえたのかを, 大本を事例として検討するものである。大正期大本の思想・実践は, 異端的な神話的世界を語り出しながら, 近代国家が排除した霊魂との直接的交流の道を開くものであった。しかしそれは, 霊魂を統御するという志向性を, 近代天皇制ないし靖国神社などと共有していた部分もあったのではないだろうか。鎮魂帰神法は, 霊魂を発動させて, 鎮静させ, 序列化する試みといえるのだが, それは逆にいえば, 鎮静化させ, 序列化するための発動であり, 高級霊/低級霊, 立替立直/病気治しのヒエラルキーを確認・創出するものでもあったのだ。ただし, 実践のレベルではそのプロセスには不確定領域が広がり, 統御を逃れ出る霊魂の運動を可能にすることになる。出口王仁三郎や浅野和三郎の意図する秩序は越境する霊魂と過剰な欲望によって裏切られてしまうのだ。国家主義的神道の秩序世界を掘り崩す可能性を内包していたのは, じつは王仁三郎の思想・実践そのものではなく, 人びとの野放図な欲望の法‐外さではなかったか。そして, その欲望を賦活する仕掛けとして, 鎮魂帰神法システムは再評価しうるのではないだろうか。近代日本に生きた多くの人びとは, おそらく天皇制国家を下支えする心性と, そこから逸脱しようとする欲望の双方を抱えていたのであり, 鎮魂帰神法の思想と実践は, その両義的なありようを浮かび上がらせ, そこにはらまれる緊張関係を開示してみせるものだったということができる。こうして, 鎮魂帰神法が霊魂をとらえ損ねる営みであったというところにこそ, 近代天皇制国家の論理へと還元されえない民衆宗教としての大正期大本の可能性を読み取ることができるのではないだろうか。This essay reevaluates the significance of the technique of listening to divine speech in the history of religion in modern Japan, examining in particular the case of the Ōmoto sect. The thought and practice of Ōmoto in the Taishō period opened the way to direct communication with the spirits, and their mythical worldview was considered to be heterodox by the modern nation. Yet their practice shared with the modern emperor system and Yasukuni shrine an orientation towards controlling and organizing the spirits. The Ōmoto spirit-listening technique chinkon-kishin invoked, appeased, and assigned a hierarchical ranking to the spirits ; it invoked them in order to appease and assign the ranks of higher/lower and reconstructive/healing. In actual practice, however, indeterminate factors limited this control and let the spirits escape. The order established by Deguchi Onisaburō and Asano Wasaburō was betrayed by uncontrollable spirits and surplus desire. It was the excessive desire of the believers, not Onisaburō's system, that had the potential to undermine the premise of the State Shinto. Chinkon-kishin should be reappraised as a system that activated the desire of the people against the desire of the nation. This practice and theory illuminated the ambiguity of a popular desire that supported the emperor system and deviated from it at the same time, and thereby disclosed the unmitigated tension within the disposition of the people. This failure to capture the spirits illustrates the potential of Taishō period Ōmoto as a popular religion that could not be reduced to the logic of the emperor system.
著者
安田 大典 久保 高明 益満 美寿 岩下 佳弘 渡邊 智 石澤 太市 綱川 光男 谷野 伸吾 飯山 準一
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.341-352, 2015-10-27 (Released:2015-11-12)
参考文献数
28
被引用文献数
1

目的:本研究の目的は、大学生の入浴スタイルの違いが、睡眠と作業効率に及ぼす影響を検討すること。さらに、保温増強が作業効率に及ぼす影響を検討することである。方法:対象は、普段シャワー浴のみの健常学生18名とした(19.6±0.7歳、平均年齢±SD)。41°Cの浴槽に肩まで浸漬し10分間入浴する群(保温無群:BB)と、入浴後に保温シートと寝袋にて身体を被覆し30分間保温する群(保温群:BBW)について、各々を2週間で実施するcrossover研究を行った。なおWash-out(シャワー浴)期間は2週間とし、平成24年11月〜12月の6週間実施した。測定した項目は、起床時の起床時睡眠感(Oguri-Shirakawa-Azumi sleep inventory MA version; OSA-MA)、主観的入浴効果(Visual Analog Scale; VAS)、作業効率検査(パデューペグボードのアセンブリー課題)の3項目について測定を実施した。起床時の主観的評価は6週間毎朝記載してもらった。作業効率検査は2週間ごとに4回行った。結果:OSA-MAのBBおよびBBWは、シャワー浴と比較して有意差はなかった。VASの結果は、BBおよびBBWは、シャワー浴と比較して、熟睡感、身体疲労感、身体の軽快感が有意に高値を示した。パデューペグボードテストは、BBおよびBBWはシャワー浴に比べて有意に高値を示した。考察:シャワー浴からバスタブ浴へ入浴スタイルを変えることで睡眠の質が良好となり疲労回復がなされ、その結果、パデューペグボードの作業効率が向上したと考えられる。
著者
成田 光生
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.11, pp.2823-2830, 2013-11-10 (Released:2014-11-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

マイコプラズマは自立増殖可能な最小生物であり,菌体内ではプラスミドのような外来の遺伝子が機能しない,リボソームのオペロンが1組しか存在しない,など様々な生物学的特性を有する.このためマイコプラズマの薬剤耐性菌には耐性機構がリボソームの遺伝子変異のみである,感受性菌よりも増殖が遅い,などの特徴がある.その治療に関しては耐性菌を作らぬよう,成人におけるキノロンの使用は極力控えられることが切に望まれる.
著者
シュレーガ ベンジャミン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100139, 2016 (Released:2016-11-09)

1 初めに 日本の養鶏産業は、昭和時代から徐々に産業型に変動してきた。今日、インテグレータが中心となり現在の養鶏業界を大きく形作っている。本発表では、日本の養鶏業界の展開における、鶏の飼育方法と鶏肉の食文化の変容過程、および生産と消費の繋がりについて分析する。本発表では特にcommodity chain(コモディティチェーン)の移り変わりに着目し議論を進める。2 鶏肉食の展開日本の食文化において、卵は鶏肉に先駆けて一般的な食卓に普及した。昭和初期、カツやケーキなどの洋食が増えてきた流れの中で、卵ブームがあった。国内の養鶏は副業としてなされることが多かったことから、小規模養鶏は自給のために行われ、販売されるのは過剰分の卵と鶏肉が主であった。増加する卵の需要に対応するように、中国から輸入を行うようになった。 その輸出入の差に対して、日本政府が養鶏業界の支援に乗り出し、この戦略により5件の養鶏試験場が建立され、養鶏農家への補助金のシステムが創立された。北村(1987)によると、1921年から1935年にかかけて、養鶏農家一戸あたりの平均羽数は8.7羽から18.2羽へ増加し、それに伴い、全国の養鶏羽数は2,773万羽から5,170万羽に増加した。しかし生産の大規模化が進むにつれ、飼料や流通ルートの整備といった問題点も多数現れてきた。 養鶏業界の日比野(1941)らが提案したように、第二次世界大戦中において、「満州新養鶏法」という大規模の飼育方法が目指された。ただ、この計画は満州産の飼料に依存したことにより様々な面において失敗した。大戦直後は、自給率を保護するために「草鶏」という飼育方法が広まった。輸入飼料への依存の脱却のために多くの農家が飼料と鶏、両方の管理を行った一方で、米国国内における飼料の生産過剰問題があり、結局、日本における米国の飼料は輸入は続けられた。輸入飼料の流通は大規模農業企業を通して行われたため、そのような大規模企業の国内の養鶏産業における役割の拡大につながった。 飼料流通の整備とともに、養鶏の産地の移動も行われた。長坂(1993)が論じたように、戦後は都市周辺におけるブロイラー産業が増加したが、70年代以降は遠隔地域に移動した。後藤(2013)によると、遠隔地域の中でも、インテグレータの指導のもと鹿児島県と宮崎県が日本のブロイラーの大産地として形作られた。冷蔵方法の整備も進み、南九州から東京の中央市場までの流通が進んだ。 ブロイラーの生産が増加する一方で、消費需要の伸び悩みが業界の課題となった。三菱株式会社がこの問題を把握し、米国のケンタッキーフライドチキン本社と結びつきを深めたことで日本ケンタッキー社が設立された。日本ケンタッキーは宣伝広告を通して消費者にブロイラーの魅力を伝えた。さらに、カーネルサンダースとクリスマスのキャンペーンが大ヒットとなった。文化および生産においても日本ケンタッキーが鶏肉の消費において果たす役割は重要なものであった。Dixon(2002)がコモディティチェーンアプローチを用いて評論したように、小売業を通して生産と消費の再編成が行われたのであった。 経済成長と同時にブロイラー産業が激増し、さらに90年代以降はグローバル化の影響で安価のブロイラーの輸入増加により、養鶏産業は激しい競争となった。農林水産省によると、ブロイラーの平均羽は1975年から2005年にかけて7,600羽から21,400羽と約3倍に増加した。現在、ブロイラーの平均羽は56,900となった。 このように、日本における養鶏産業の展開には国内外の様々な経済そして政治的な要因が影響を及ぼしてきた。本発表では、上述のように、まず飼料配分と食文化の変容において米国が果たす役割について述べる。さらに、近年における食の安心の問題への関心の高まりとともに着目される。食における「ブランド」の働きを考察することで、国内の鶏肉の生産と消費がどのように展開されてきたのかを論じる。3 文献日比野兼男. (1943) 満洲新養鶏法.鶏の研究社.北村修二. (1987) わが国における養鶏業の地域的展開.名古屋大学文学部研究論集 p149-174.長坂政信.(1993)アグリビジネスの地域展開.古今書院.後藤拓也. (2013) アグリビジネスの地理学, 古今書院.Dixon J. (2002) The changing chicken: chooks, cooks and culinary culture: UNSW Press.
著者
和田 知子 小蔵 要司 木元 一仁
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1186-1190, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
22

恵寿総合病院回復期リハビリテーション(以下、リハと略)病棟では、2014年7月からリハ栄養チームを立ち上げ栄養サポートを行っている。リハ栄養チームの目的は、患者の不要な体重減少を予防し、骨格筋量を維持(もしくは増加)してリハの効果を高めるための身体作りをすることである。毎週の体重測定で栄養スクリーニングを行い、多職種でリハ栄養カンファレンスを行っている。カンファレンスではサルコペニアの有無、介入時の栄養状態、リハの時間や強度を評価した上でケアプランを作成し、栄養管理やリハプログラムに反映させている。「栄養から見たリハ」と「リハから見た栄養管理」の実践がリハ栄養チームの特徴である。2014年12月から2016年3月にリハ栄養チームが介入した17名を対象に介入後の効果を検証した。リハ栄養チーム介入前後の比較では、摂取エネルギー量が有意に増加(250kcal/日)し、低栄養の割合が76.4%から47.1%に減少した(P=0.058)。回復期リハ病棟におけるリハ栄養チームの活動は、摂取エネルギー量増加に寄与する可能性がある。栄養状態と日常生活動作の改善については今後更なる検証が必要である。
著者
大久保 街亜
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.57-67, 2016

<p>Although null hypothesis significance testing has been strongly criticized for decades, it has been the dominant statistical method in the field of psychology. Non-reproducibility of findings in psychology can be attributed, at least partially, to an arbitrary threshold (i.e., .05) in the null hypothesis significance testing and overrepresentation of <i>p</i>-values. The present study surveyed papers from the <i>Japanese Journal of Social Psychology</i> and examined whether or not such overrepresentation also existed among psychology researchers in Japan. Effect size measures and <i>p</i>-values did not correspond well when <i>p</i>-values were set at around .05. Moreover, the frequency of <i>p</i>-values just below .05 was greater than expected. These results imply that the overrepresentation of <i>p</i>-values can produce unreliable and irreproducible results. Two types of remedies are discussed to alleviate the problems of overrepresentation of the <i>p</i>-values.</p>
著者
遠藤 匡俊
出版者
歴史地理学会
雑誌
歴史地理学
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.48-59, 2002-01-01
著者
原口 浩一 遠藤 哲也 阪田 正勝 増田 義人 Mark SIMMONDS
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.287-296, 2000-08-25 (Released:2008-01-11)
参考文献数
25
被引用文献数
17 27

1999年, 全国6都市で販売されていた鯨肉製品61点について, 重金属 (水銀, カドミウム, 鉛) 及び有機塩素系化合物 (PCBs, DDTs, HCHs, HCB, dieldrin) の汚染実態調査を行った. ハクジラの赤身肉では水銀汚染が, ハクジラ及び北太平洋産ミンククジラの脂身にはPCB及び有機塩素系農薬の汚染が顕著にみられた. 鯨肉の多食によってこれらの汚染物質の摂取許容量を超えることも考えられるので, 食品としての安全性を再検討する必要がある.

9 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.373-388, 2014 (Released:2016-07-10)

9 0 0 0 OA 書評

出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.141-158, 2014 (Released:2018-02-02)
著者
田中 康裕
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.830-836, 1984-12-01 (Released:2017-06-02)
被引用文献数
1
著者
高田 亮
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.9, pp.473-483, 2010 (Released:2010-12-22)
参考文献数
59
被引用文献数
2 3

インドネシアで起こった有史の大規模噴火の,噴火直前の現象,噴火経緯を総括した.大規模噴火直前には,少なくとも2~3ヶ月前から,小規模噴火が発生していた.この期間には,噴火孔,噴気孔や熱水爆発孔の数や活動する範囲が,カルデラ形成の破局的噴火に向けて拡大し,2 kmから数kmの規模に達する特徴が見られた.大規模噴火に至る中長期の準備過程として,約10万年間,高噴出率の維持により大きな山体を形成したこと,噴火の1万年から数千年前には,噴出率が激減し,噴火様式が爆発的になり,火口が形成される範囲が縮小したり,中心から移動したことなどの特徴を見出すことができる.さらに,インドネシアのカルデラ火山体の規模とカルデラ規模の関係をまとめた.大きい山体には,大きいカルデラが形成される傾向がある.最後に,マグマが蓄積する原因やカルデラの多様性を制御する要因を検討する.