著者
河原 康雄 岡崎 悦明 土屋 卓也 宮野 悟 藤井 一幸
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

研究課題名「計算科学への圏論の応用」で行われた本研究は, 情報化社会を支える基礎理論である情報科学, 計算科学, ソフトウェア科学への数学的基盤を与えるために計画された研究であった. 以下, 本科学研究費補助金によって実施された研究実績を報告する. 1.研究代表者:河原康雄は, 初等トポスにおけるpushout-complementの存在定理証明し, 有限オートマトンによって受理される言語の基礎的性質をカテゴリー論的に整理すると共に, Arbib-Manes等のプログラム意味論を初等トポスにおいて考察した. これらの成果は従来から研究を蓄積してきた関係計算(relational calculus)を駆使して得られたものであり, 西ドイツのEnrigを中心としたグラフ文法等についての研究に新しい視点を与えるものであり, この分野の基礎を与えるものと期待される. 2.分担者:宮野悟は, 計算量の理論においてP≠NPの仮定のもとで効率よく並列化できると思われる, 即ち, NCアルゴリズムをもつ問題として, 辞書式順序で最初の極大部分グラフを計算する問題について考察した. 3.分担者:藤井一幸は, 古典的によく知られている4次元のCursey modelを任意次元の時空間上に拡大し, そのinstaton(meron-)like configurationsを具体的に構成した. さらに, 従来からの研究で構成していた高次元Skyrme modelsに付随したWess-Zumino termsを高次元hedgehog ansatsを使用して具体的に計算した. 4.分担者:岡崎悦朗は, 位相線形空間上の確率測度の研究を中心に研究を遂行し, 昭和62年8月よりCNRSの招きによりフランス・Paris V大学において研究を継続中である. 5.分担者:土屋卓也は, 境界要素法よって極小曲面を計算機を利用して計算し, 線形常微分方程式の特異点に関する山本範夫の定理を線形代数の範躊において一般化した. 現在, 土屋は米国・Maryiand大学において研究を発展させている.
著者
加藤 和人
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ゲノム研究と関連の応用技術について市民やその他の非専門家が理解を深めるための活動、およびゲノム研究者と市民・非専門家との双方向のコミュニケーションのための活動を効果的に実施するための留意点を、「ゲノムひろば」などの実践活動を通して明らかにした。高度な科学研究をテーマにするためには科学とイベント開催の両方についての知識と経験を持つ専門的人材の配置が必要であること、倫理的・社会的課題については別途議論の場をデザインする必要があることが示された。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

生命倫理学が進展する一方、それに対する歴史的反省の試みも始まっている。本研究はかつて生命倫理学なるものがまだ形をなしていなかった時代の言説を振り返って、その中から忘れ去られたもの、失われたものを拾い上げることを目的とした。その結果、生命の手段化・資源化・商品化批判を軸にした生命倫理思想を見いだした。そして、それらをもとにしつつ、生命の偶然性、固有性、有限性、関係性を基礎とした新しい生命倫理のあり方が可能であることを示した
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ゲノム研究に関する科学コミュニケーション活動への適用を視野に入れながら、scientific citizenshipの考え方に基づく新しい科学コミュニケーションのあり方を理論的に考察することを行った。scientific citizenship(科学的市民権)の考え方は、受け身であり、科学技術の受容者になるという、これまでの市民像に代わって、本来のあり方として科学技術を支援あるいは制御しうる(すべき)主体としての市民という新たな市民の見方を提供するものである。とりわけ、本年度はこういった見方の問題点についても検討して、多面的な理解を得た。また、こういった理論的考察に加えて、現在のゲノム研究に関係する科学コミュニケーションが置かれいる状況を把握するための実証的な研究を行った。それは、現在の「ゲノム概念」(遺伝子、DNA等の遺伝学上の概念をこのように呼ぶ。以下同様)の社会的な広がりを知るために、様々な社会的な場面におけるゲノム言説(遺伝子、DNA等の遺伝学上の言説をこのように呼ぶ。以下同様)を収集し分析する研究という形をとる新聞記事とインターネット上のブログを対象として収集を行い、その分析からゲノム言説の傾向を明らかにした。さらに、これらの研究ガゲノム研究をめぐる科学コミュニケーションに示唆することをまとめた。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1970 年代におけるライフサイエンス創成期の日本の生命倫理思想には、生命科学技術の発展に伴って生じつつあった、生命操作の可能性の増大に対する批判的な見解が存在していたが、それは「生命」と「科学技術」のあいだの両立不可能性という考え方を基礎にしていたことを明らかにした。そして、そういった生命の概念を特徴付けるものを、偶然性、固有性、有限性、関係性としてまとめることができること、この生命の概念は近年の生命倫理論争においても、重要な役割を果たしてきたことを示した。
著者
綾部 広則 中村 征樹 両角 亜希子 黒田 光太郎 川崎 勝 小林 信一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

欧米においては、近年、科学コミュニケーションにおける新たな試みとして、カフェ・シアンティフィーク(以下、CS)と呼ばれる活動が急速に広まっており、すでに実施主体間での国際的なネットワークが形成されている。一方、日本においても最近になってCSの手軽さもあって実際に実行しようとする団体が増えてきているが、しかしそれらの大半は欧米の表面的な模倣である場合が多く、そもそもなぜCSが開始されたのか、そしてそれは科学コミュニケーションにおいていかなる位置づけをもつのかを十分に理解した上で行われているとは言い難い。そこで本研究では、1)欧州各国における対話型科学コミュニケーションの現状に関する調査と国際的ネットワークの確立を行うとともに、2)日本における実験的導入と国内ネットワークの構築を実施した。まず、1)については、その他の国と際だった違いをみせているフランスとアジア地区の事例として韓国の状況を調査した。とりわけ、フランスについてはCSの発祥とされている英国のように話題提供者による発話を基本とするスタイルとは異なり、最初から議論に入ること、しかも単一の話題提供者ではなく、賛否双方の意見を持つ複数の話題提供者を参加させるというスタイルなど、英国やその他の地域において一般的に行われるのと際だった違いが見られ、日本における今後のCS運営においてもきわめて示唆的な成果であった。2)については、1)の海外調査の結果を活かしつつ、東京・下北沢において数回程度の実験的活動を繰り返したが、さらに4月に開催された「カフェ・シアンティフィーク」に関するシンポジウムに企画段階から協力することで、国内の実施主体を招聘し交流を行い、国内間でのネットワークが形成される重要な契機をつくった。
著者
瀬戸口 明久
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、近代日本における自然誌研究からいくつかの事例を取り上げ、それらを政治的・社会的文脈に位置づけた。具体的に検討したのは、(1)日本における害虫防除技術、(2)日本における進化論受容の展開、(3)帝国日本の動物学と狩猟文化、(4)琉球列島の自然誌研究、の4事例である。これらの成果によって、近代日本が自然誌研究・農学研究体制を整備したことによって、人々と自然との関係の変容、ひいては自然環境の改変がもたらされたことが明らかになった。以上の研究成果は、一般向けの図書、学術論文国際学会等での報告として発表された。
著者
藤垣 裕子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

ソフトウェア開発に携わる10人の技術者のデータを、隔週で半年間に渡り採集した。ストレスの生化学的指標として、仕事時間中の尿、および正午の唾液を採集した。また、心理的(主観的)指標として、ZUNGのSDSを用いた抑欝症状、および不安、覚醒、だるさ、痛みなどの症状も評定尺度法で評価を得た。作業内容は、調査日については15分間隔で作業内容をコードで記入してもらった。また、調査日間の2週分(あるいは1週分)の仕事内容の概略も得た。その結果、ストレス指標は、作業密度、作業内容、仕事上のイベントに伴って変化することが示された。仕事上のイベントとの対応の検討結果は以下のとおりである。1.仕事上のイベントとアドレナリン値各個人ごと、各個人の平均値から週毎変動の標準偏差以上の変動を示した日は全181case中25caseであった。この25case中、22case(88.9%)に対応するjob-eventが存在した。eventのあるなしをevent1効果とし、個人差効果もふくめて2元配置分散分析を行った結果、アドレナリン値は、event1効果が有意(p<0.01)であることが示された。(後述のevent2効果は有意でない)2.仕事上のイベントとコルチゾール値各個人ごと、各個人の平均値から週毎変動の標準偏差以上の変動を示した日をpick-upすると、全181case中、24caseであった。この24case中、18case(75%)に対応するjob-eventが存在した。eventのあるなしをevent2効果とし、個人差効果もふくめて2元配置分散分析を行った結果、コルチゾール値は、event2効果が有意(p<0.01)であることが示された。(前述のevent1効果は有意でない)
著者
藤垣 裕子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

高速度マシン使用による作業密度の増加の精神的負荷への影響評価を行うために、今年度は以下の研究を行った。(1)実験室調査1 : 93年度の助成(奨励研究:課題番号05780314)を得て購入した、小型で携帯しやすく長時間にわたり作業者の負担の少ない形で心電図を記録できるホルターレコーダを用い、今年度の助成をもとに被験者数を増やして実験を行った。高速マシンによる作業密度の増加(純粋思考時間の割合の増加/一定時間内のコマンド数の増加)によって被験者の緊張度が増加し、それに対応して心拍R-R間隔の分散の低周波数成分の増加があらわれるか、について検討した。実験はA(作業密度大)、B(作業密度小)の2つのマシン環境を設定し、プログラミングタスクを課して行った。その結果、A条件のほうが心拍RR間隔の分散が小さく集中の見られる傾向が見出されたが、個人差が大きいことも示唆された。また自己回帰スペクトルでは、呼吸成分の分離が課題となった。(2)実験室調査2 :上記の実験設計において、作業密度条件の設定の他に、タスク設定による影響が示唆された。そのため、思考作業をタスクの特性から階層モデル化して分類し、performance曲線を求める作業を行った。これを上記の実験設計におけるタスク設計の指針とした。(3)現場調査:実際に勤務する現場のソフトウェア技術者における、マシン環境によるストレス増加を検討するために、仕事上のストレス要因(job-event)を7ヶ月に渡って調査し、それによるストレス反応を計測した。
著者
堂前 雅史 廣野 喜幸 佐倉 統 清野 聡子
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

聞きとり調査では、主として、死生観に関する知識のいくつかについて、生産・流通・受容過程の情報を収集した。まず、日本では、脳死問題が現れる以前に「三徴候説」のような死の基準は法的には一定せず、むしろ法曹界は医者に一任することをもってよしとする傾向があったことが示唆された。以上より、1.死に関しては法律家による専門的知識の生産があったとしても、それが流通・受容過程に乗ったのではない、2.科学に関する事項に関しては、料学者による知識が法律家よりも優位に立って流通するシステムになっている、3.脳死概念登場以前は、むしろ一般の想定が法曹家の世界に流入したと見るべきことが判明した。次に、中国伝統医療では、生きている者のみであり、死にゆく者は除外されつづけた。よって、東洋医学では、死の判定基準を医者が設ける発想すら希薄であった.また、緻密な世界観・生命観に裏打ちされた中国伝統医学が日本に入る際、背後の生命観は捨象され、純粋に技術として吸収された。したがって、4.科学技術が受容される際は、技術のみを導入し、背後の科学思想を拒否することが可能であること、また、5.科学知識は人々の嗜好によって受容が拒否される、6.一般市民にただ科学知識を注入してもサイエンス・リテラシーは向上しない可能性があることが分かった。今日の科学技術においても、一般人を科学知識の生産者と見なしうる場合がある。しかし、こうした「素人理論」の流通機構は整備されていない。そこで、本研究では、吉野川可動堰問題を対象に、一般市民が科学知識の生産・流通に成功した例を分析し、7.一般市民の科学知識生産を促すシステムが整備される必要があることを明らかにした(廣野)。また、そうしたシステム整備の具体的提言として、8.市民科学がもたらす「公共空間の科学知識」媒体の必要を唱え、大学紀要の利用を提唱した(堂前)。
著者
廣野 喜幸 KIM SungKhum KIM SungKhun
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

19世紀以降、東アジア(中国・朝鮮・日本)に西洋近代医学が大規模に移植された。こうした移植に対する反応は各国様々であった。本研究では、そうした反応の差異を、特に日本と朝鮮に焦点を絞って検討した。西洋医学の大量移入に対して、当時、朝鮮の伝統医学者たちがとった態度は、大きく三つに分類できよう。(1)積極的導入派は、伝統医学の理論的な基盤であった陰陽説と五行説を厳しく批判した。(2)折衷派は、伝統医学の主な概念は西洋医学の言葉で翻訳できるし、二つの医学の間には疎通の可能性が残されていると考えた。(3)否定派は、身体に対する西洋近代医学の暴力性(侵襲性の高さ)に注目し、その限界を指摘した。近代朝鮮の医学システムの変化と比べると、日本の医学システムは遥かにドラスティックな形で転換した。近代日本は、江戸時代以来の伝統医学システムをほぼ廃止し、西洋近代医学に基づく新しい医学的システムを構築した。つまり、圧倒的大多数が積極的導入を支持した。また、その過程で近代日本は、朝鮮における医学システムの変化を促した直接的な介入者として機能することになる。われわれは、当時の朝鮮伝統医学がもっていた限界および可能性を、先の三つのグループに見出した。また、このような朝鮮の伝統医学者たちの理論は、日本による朝鮮植民地化以降、政治的な抵抗運動の理論と結合しながら、さらに精密化していくことになった。19世紀以降、東アジアの伝統科学はほとんど西洋近代科学に置き換えられた。しかし、そのなかでも伝統医学のみは、現在も現場の医療として臨床的成果を挙げている。東洋の伝統医学と西洋近代医学との衝突の中で起きた理論的境界に迫ることで、伝統医学のみならず、東アジア伝統科学の真相を再認識する手がかりを得ることができた。
著者
橋本 毅彦 廣野 喜幸 岡本 拓司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究においては、1960年代以降に通商産業省の主導によって設立された技術研究組合の活動内容の調査分析を目的とするものである。特に、戦後日本において不活発であったとされる産学連携、すなわち大学と企業との間の共同研究に関して、技術研究組合という場を通じて、直接的ないしは間接的な協力があったかどうかを調査することを目的とするものであった。平成17年度においては、そのような技術研究組合のいくつかを取り上げて、その研究活動を検討した。平成18年度においては、それらの技術研究組合に対して、過去における産学共同の有無、当時の史料の有無を問い合わせるアンケートを実施した。アンケートに対しては、10余りの技術研究組合から回答が寄せられた。また、『科学技術白書』などの政府の報告書に現れる記事を通じて、戦後の産学協同のあり方を概括した。それとともに、化学産業、コンピュータ開発などをめぐるいくつかの技術研究組合に関しては、関連する報告書等をより具体的に調査した。いずれの調査委においても、大学と企業とが直接共同研究するのではなく、本研究で取り上げた技術研究組合や科学技術の各分野において設立されている財団法人の研究機関などが、共同研究の場を提供することで両セクターの仲介役のような役割を果たしたものがあることが示された。
著者
橋本 毅彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

戦前日本における空気力学の研究を東京帝大の航空研究所を中心として、友近晋、谷一郎らに注目しつつ、境界層の理論的実験的研究、ならびに特に谷一郎の層流翼の発明に代表される技術開発への応用について検討した。そのために航空学科の学生の卒論研究テーマを検討した。またそれとともに、これらの境界層研究の進展にあたって参照された欧米における研究動向についても調査した。
著者
植原 亮
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は、研究課題である認識論(知識の哲学)に関わる学術論文一本が学会誌に掲載され、もう一本もまた雑誌に掲載予定であるという点で、目に見える成果を十分にあげることができた。具体的な内容に即して述べるならば、まず第一に、懐疑論的な議論を知識に関する一種の反実在論(あるいは認識論的ニヒリズム)として捉えたうえで、知識を自然種であるとする立場(知識の自然種論)からそうした反実在論を批判し、知識の自然種論という立場がさちに多くの認識論上の問題を解決しうる豊かなリサーチプログラムであるということを論じた。そして、第二に、直観の認識論的な身分に関わる問題に関して、反省的均衡の方法論的妥当性をめぐる議論においてそれがどのように位置づけられるのかを明確に示し、「認知的分業」の観点からこの問題を解決するという提案を行った。すなわち、直観や理論的枠組みは、おおよそ生得的・文化的バイアスによって個人や集団ごとに大きな偏倚を示すものであるが、にもかかわらず認知が個入に閉じるのではなく共同的営為である限りにおいて、認知ないしは探究は、全体としては十分と言えるような合理性を発揮することができるのだ、ということを明らかにしたわけである。上述の知識の自然種論からはまた、生物種や人工物に関する存在論的あるいは科学哲学的問題を引き出すことができたので、これに関する研究も進行中である。
著者
吉岡 基 鳥羽山 照夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

実験対象予定個体の飼育事情により,研究内容を変更して行い,以下の成果を得た.まず,シャチの精液採取訓練については用手法による精液採取を可能とするための訓練を続けたが,最終的に安定した精液採取には至らなかった.カマイルカ精子のストロー法による凍結保存を新たに試みたところ,従来のペレット法と同様な成果があげられることが明らかになった.シャチを含む10種の鯨類精子の外部形態を比較したところ,精子サイズには種間差が認められ,シャチの精子は平均頭幅が最も広く,かつ頭部は団扇型をしており,他鯨種とは大きく異なった形態をしていることが判明した.バンドイルカとカマイルカのペレット法による凍結融解精子を用いて,4℃と36℃で精子運動率,精子速度,精子直線性,精子頭部振幅を解凍直後から48時間後まで精液自動解析装置を用いて測定したところ,それらの値は新鮮精子を用いたヒト,ウサギ等の結果とよく一致していることがわかった.また,雌雄それぞれについて超音波画像診断装置を用いた生殖腺の観察を実施したところ,バンドウイルカ,カマイルカについて,黄白体や胎児の存在が確認できた他,季節による精巣の発達度合いの違いをみることができた.さらに,イルカ類における妊娠関連ホルモンに関し,黄体と胎盤がともに妊娠期間中のプロゲステロンの分泌源となり得ることが示唆された.また妊娠診断指標としての利用の可能性を探ることをふまえ,妊娠特異タンパクの存在を調べたところ,対象鯨種(パンドウイルカ他2種)の血中および胎盤組織中にはその存在を確認することはできなかった.また妊娠診断,胎盤機能の指標となり得るエストロンサルフェートについて調べたところ,妊娠イルカの血中にこのホルモンが検出され,妊娠期間中の,種による異なる変動パターンの存在が示唆された.
著者
西平 守孝
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

塊状ハマサンゴのマイクロアトールをサンゴ礁のモデルと見なし,そこに成立する群集の発達にともなう共存種数の増加を大小のマイクロアトールで比較して「住み込み連鎖」仮説を検証するための野外調査を行なった。久高島の礁池で,マイクロアトール上および周辺の多様な微生息場所における底生生物の棲息状況しらべ,マイクロアトールの成長に伴って多様な生物が棲み込み,それらが生息場所を形成することによってまた新たな生物が棲み込むという棲み込み連鎖が成立していることを確かめた。魚類についても,習性の違いによってマイクロアトールの提供する多様な生息場所を利用していることが確認され,複雑化してさまざまな生息場所を提供する大型のマイクロアトールほど季節を問わず種多様性が高く,群集構造が安定していることを確認した。フタモチヘビガイがハマサンゴに埋在することにより,サンゴ群体の表面が平坦化してサンゴに対するブダイ類による捕食圧が軽減されることが,季節を問わず安定して常に見られ,場所や海域の違いを越えて普遍的に見られることを実証した。他に行なった海藻類や無脊椎動物の調査からも,多種共存の維持・促進機構としての住み込連鎖の妥当性を支持する結果が得られた。さらに,1998年の夏の異常高水温により,塊状ハマサンゴでも全体または部分的白化が認められたため,緊急課題として白化の状況とその後の追跡調査を行なった結果,白化したほとんどのハマサンゴ群体がおよそ半年で白化前の褐色の状態に戻り,マイクロアトール上の生物群集には,白化にともなう大きな変化は認められなかった。
著者
青木 周司 菅原 敏 佐伯 田鶴 中澤 高清
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間活動によって大気に放出された二酸化炭素が陸上生物圏と海洋にどのくらい吸収されているかを定量的に評価するために、二酸化炭素濃度と炭素同位体を組み合わせて解析する方法と、酸素濃度と二酸化炭素濃度を組み合わせて解析する方法を実施した。まず二酸化炭素濃度と炭素同位体を組み合わせて解析することによって得られた人為起源二酸化炭素の陸上生物圏と海洋による吸収量を1984-2000年の期間について評価した。その結果二酸化炭素吸収は、陸上生物圏について1.21GtC/yr、海洋について1.59GtC/yrとなり、観測期間全体を平均すると陸上生物圏も海洋も二酸化炭素の吸収源となっていたことが明らかになった。これらの吸収源の強度は年々変動しており、特に陸上生物圏による吸収がエルニーニョ現象や火山噴火による異常気象の影響を強く受けて変化することが明らかになった。一方、酸素濃度と二酸化炭素濃度を組み合わせることによって評価した1999-2003年の二酸化炭素吸収は、陸上生物圏について1.1±1.0GtC/yr、海洋について2.0±0.6GtC/yrと見積ることができた。2つの独立した研究から得られた成果を観測期間がほぼ重なっている時期について比較した。陸上生物圏による二酸化炭素吸収量は、二酸化炭素濃度と炭素同位体から得られた1994-2000年の値が0.90GtC/yrであり、酸素濃度と二酸化炭素濃度から得られた値が1.1±1.0GtC/yrと評価された。また、海洋による二酸化炭素吸収量は、二酸化炭素濃度と炭素同位体から得られた1994-2000年の値が1.73GtC/yrであり、酸素濃度と二酸化炭素濃度から得られた値が2.0±0.6GtC/yrと評価された。2種類の全く異なった研究方法によって得られた結果が良く一致しているため、本研究によって信頼性の高い結果が得られたと考えられる。
著者
青木 周司 森本 真司 町田 敏暢 中澤 高清
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究においては、ドームふし氷床コアから空気を抽出し分析することによって、主要な温室効果気体である二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素の過去34万年に及ぶ変動の実態を明らかにし、さらに各気体成分の変動と気候変動との関係を明らかにした。それによれば、二酸化炭素濃度やメタン濃度は、暖候期には高く、寒候期には低くなっており、気温変化に極めて良く対応して変化したことが明らかになった。特に、メタン濃度は氷期・間氷期といった大規模な気候変動や、氷期中の比較的大きな気温変動に対応して変化しているばかりではなく、間氷期においてもヤンガ-ドライアス期やわずかな気候の寒冷化にも敏感に対応して変化していた。このことから、二酸化炭素とメタンが気候変動に正のフィードバック作用を及ぼしていたことが確認された。一方、一酸化二窒素についても氷期に低く間氷期に高いといった基本的な濃度変化が明らかになったが、濃度と気温との相関は比較的低かった。一酸化二窒素濃度が氷期の最寒期には310ppbvを越すような異常に高い値が必ず現れていたことを新たに見出した。このような高濃度は人間活動の影響が顕在化している現在の値よりも高く、氷期に露出した大陸棚での生物活動が関係している可能性が考えられる。また、コアから抽出した試料空気の酸素と窒素の同位体比を測定し、コアの年代決定の有効性およびコアへの大気成分の取り込み過程を検討した。これに関連して、フィルン空気の分析も行っており、その結果をモデルでシュミレートすることにより、空気が氷床に取り込まれる際の大気成分の濃度や同位体比の変化や、コア中の気泡とそれを取り巻く氷の年代差についても評価することができた。その結果、気泡の年代はそれを取り巻く氷の年代より常に若く、間氷期では年代差が約2000年であり、氷期には最大5000年まで拡大することが明らかになった。
著者
中澤 高清 中村 俊夫 吉田 尚弘 巻出 義紘 森本 真司 青木 周司
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

地球表層における温室効果気体の変動と循環の実態を明らかにするために、系統的観測や循環モデルの開発を基にした広範にわたる研究を実施した。得られた結果を要約すると以下のようになる。(1)CO_2、CH_4、N_2O,CO,HCFC,HFC、PFC,SF_6などの温室効果気体の濃度と同位体比を、日本上空、太平洋上、シベリア、南極昭和基地、北極スビッツベルゲン島などにおいて組織的に測定し、近年におけるこれらの時間的・空間的変動およびそれらの原因や支配プロセスを明らかにした。N_2Oについては同位体分子種の測定を世界に先駆けて行い、その結果を基にして発生・消滅過程の定量的解析を試みた。また、得られたCO_2濃度とδ^<13>Cの測定結果を同時解析することによって近年の人為起源CO_2の収支を推定するとともに、HCFC,HFC,SF_6の観測結果を南北2ボックスモデルで解析することによりそれらの放出量の時間変化を詳細に検討した。(2)全球三次元大気輸送モデルを開発し、濃度と同位体比を基に近年におけるCO_2およびCH_4の循環を定量化するとともに、高空間分解能の全球生態系モデルを用いて炭素循環における陸上生物圏の役割を解明した。また、全球海洋物質循環モデルを開発し、CO_2交換を基本的に支配する大気-海洋間のCO_2分圧差およびOCMIPプロトコルに基づいた海洋の吸収量を推定した。N_2Oについてはマルチボックスモデルを構築し、過去500年間の大気中濃度の再現を行った。(3)大気-岩石圏における炭素循環の理解を向上させるために、観測に基づいて化学風化に伴う炭素フラックスおよび地下深部から大気へのフラックスの評価を行うとともに、炭素循環におけるサンゴ礁の寄与を検討し、その役割がザンゴ礁によって異なることを明らかにした。
著者
中澤 高清 森本 真司 塩原 匡貴 和田 誠 青木 周司 山内 恭 菅原 敏
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

1998年7月、1998年12月〜1999年3月にスバールバル諸島ニーオルスンにおいて、大気中の温室効果気体やエアロゾルなどの実態の把握を目指し、集中観測を行った。これらの観測から、北極域におけるCO_2、CH_4、O_3の変動が詳細に捉えられると同時に、CO_2データは海水表層でのCO_2交換の評価のための基礎データとなった。エアロゾルについては今回の集中観測で多くの基礎データの蓄積がなされ、冬から春にかけての極域におけるエアロゾルの特徴をとらえることができた。北極域における大気微量成分の広域3次元分布、特に極渦の形成・崩壊期に着目した輸送・循環・変質の過程を調べるため、1998年3月6日〜14日の期間、航空機にオゾンおよびCO_2の連続測定装置、大気サンプリング装置、エアロゾル計測装置、エアロゾルサンプリング装置等を搭載し、観測を実施した。観測は北極点を通過し北極海を横断する長距離高高度飛行(巡航高度12km)を基本とし、その他、スピッツベルゲン島近海上空およびアラスカ州バーロー沖合上空では海面付近から高度12kmまでの鉛直プロファイルの観測を行った。機器は概ね順調に動作し、良好なサンプルやデータを取得することができた。その結果、(1)CO_2やO_3濃度は圏界面高度で不連続に変化し、圏界面を挟んで鉛直混合が大きく妨げられる様子が確認された、(2)CH_4とN_2O濃度に見られた正の相関は前年度にスウェーデンで実施された大気球による北極成層圏大気の観測結果と良い一致を示した、(3)硫化カルボニル(COS)の高度分布測定から、COSが成層圏エアロゾルの硫黄供給源であることを示唆する結果が得られた、(4)北極ヘイズ層は多層構造をなし対流圏上部まで到達することがあった、(5)エアロゾルの直接サンプリングにより、成層圏・自由対流圏では主に硫酸粒子、下部混合層では海塩粒子の存在が確認された。