著者
須賀 晶子
出版者
独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

成熟した神経細胞には再分裂能がなく、成体神経組織に存在する幹細胞の分裂は非常に限られているため、中枢神経組織の障害は回復が非常に困難である。網膜では神経細胞が障害されるとミュラーグリア細胞が増殖を開始し、神経細胞へと分化することが示されているが、増殖・分化能は動物種によって非常に異なっている。例えば魚類は大部分のミュラーグリア細胞が増殖して網膜全層が再生されるのに対して、マウス・ラットといった哺乳類を用いた実験では一部のミュラーグリア細胞のみが増殖し、分化する神経細胞の種類も限られている。内在性細胞による神経細胞の再生は将来的には神経変性疾患の進行抑制につながると期待され、また組織内での分化細胞の維持機構の理解がより深まると期待される。本研究は遺伝子を導入によりミュラーグリア細胞の増殖および神経細胞の再生を促進することを目指して行っており、当初は成体マウスの網膜をモデルに使う予定だった。しかし成体網膜組織への遺伝子導入効率が低く導入遺伝子による影響の確認が困難だったこと、また生後2週間以内のマウス網膜に対するin vivo 遺伝子導入でミュラーグリア細胞の増殖と神経細胞への分化促進が報告されたことから、本年度はラットミュラーグリア細胞由来の細胞株と幼弱マウス組織を用いて遺伝子導入による細胞増殖への影響を検討した。ミュラーグリア細胞株に対してこれまでに検討した候補遺伝子からは、既に先行研究があるAscl1の増殖促進作用をさらに大きく変える因子は得られなかった。
著者
増田 曜章
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

トランスサイレチン型アミロイドーシス (TTR-FAP) や糖尿病性ニューロパチーのみならず、様々な疾患に小径線維ニューロパチー (SFN) が関与している。しかしながら、小径線維障害を客観的、定量的に捉えることは困難なため、SFNを早期診断することは容易でない。本研究では、発症早期からのSFNの最適な客観的、定量的評価法の確立と新たな早期診断、予後予測マーカーの探索を目的とする。研究計画2年目である平成28年度は、皮膚生検組織を用いた表皮内神経線維密度の解析とともに、汗腺周囲神経線維密度、末梢神経の画像解析を中心に行った。表皮内神経線維密度の解析でが、TTR-FAPでは経時的に減少することが明らかとなった。特にTTR-FAP未発症キャリアにおいても経時的に減少を認めることから、SFNの早期診断マーカーのみならず病態マーカーとしても有用であることが考えられた。また、汗腺周囲神経線維密度も健常者に比べ減少していることが明らかとなった。MR-neurographyを用いた末梢神経イメージングでは、本症では特に末梢神経近位部での肥厚が明らかとなった。
著者
宇佐見 義之
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003 (Released:2003-04-01)

カンブリア紀に生息した節足動物アノマロカリスの生態を研究した。アノマロカリスは種によっては肢を持つ底棲の水棲動物であるが、主に発達した14対のヒレで海底近くを泳いだものと思われる。そこで、本研究では流体の中でこれら14対のヒレをどのように動かしたらうまく前進するか計算した。流体の中で複雑な形状の物体を動かす計算は通常は難しいが、本研究では粒子法を採用することによりこの計算を実行した。粒子法は越塚が開発し配布しているMPS法のプログラムを利用した。その結果、アノマロカリスは14対のヒレを波打たせるように滑らかに動かす方法が速度/エネルギー比という観点で効率良く全身することがわかった。次に、アノマロカリスの形態の変化を研究した。アノマロカリスの形態は化石でしかわからず、また、どのような生物から進化してかについての化石情報は一切ない。そこで、コンピューターの中で原始的なアノマロカリスの形態を仮定し、そこからの進化過程を研究した。原始的な形態としては細い付属肢を仮定し、その幅が広がることにより完成したアノマロカリスの体型になる過程を考えた。その結果、付属肢の幅が広がるにつれ速度/エネルギーが一定になるように速度が上昇するが、完成したアノマロカリスになった途端、速度/エネルギーが飛躍的に大きくなることがわかった。化石では、完成したアノマロカリスの化石しか発見されないが、いずれにせよ、アノマロカリスはなんらかの原始的な生物から進化した筈である。しかし、それらの途中段階は化石には残らず、完成した体型を獲得した段階で繁栄し、また多様化を起こしたと考えられる。このような進化のプロセスが、本研究で解明した力学を背景に起こったと考えることができる。
著者
道上 静香 中川 雅央
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

本年度では,タブレット端末を用いたテニスのリアルタイムゲーム分析ソフトの提案と開発に着手することを目的とした.試合映像の収集については,昨年度と同様の方法を用いて,砂入り人工芝コート及びハードコートでの女子プロテニス選手のシングルスの試合を対象として,複数台のデジタルビデオカメラを用いて撮影した.また,リアルタイムゲーム分析ソフトを開発するにあたり,選手・指導者からのヒアリング調査に基づき,7項目を開発指針とした.分析ソフトの機能構成については,①基本データ及び試合データの入力機能,②データ分析機能,③データフィードバック機能とし,3段階の機能を段階的に稼働させながら,リアルタイムで作業を遂行していくこととした.その一方で,指導現場に応じたデータの分析・加工・編集や分析結果の検証が必要な場合には,試合後に詳細に分析作業を進めることとした.砂入り人工芝コートにおける女子プロテニス選手の分析結果のフィードバックの事例より,全ポイントにおける各技術のエースやミスの傾向から,両選手のプレイスタイルや特徴,例えば,両選手ともに非常に類似したベースライナーであることやフォアハンドストロークを得意とすること,リターンミスが勝敗の要因であったことなどのデータを得ることができた.敗退した選手のコメントから,自身の感覚と分析結果が一致していることなども明らかとなり,本研究から得られた分析データは,その後の技術・戦術の改善・向上に有効活用できる可能性が示唆された.
著者
遠藤 剛 古荘 義雄 山田 修平
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01 (Released:2013-05-21)

隣接するトリ・テトラカルボニル化合物が水およびアルコール類と可逆的に付加ー脱離反応を起こすことを利用して、これらを架橋剤として用いることで水酸基含有のポリマーであるエチレングリコールやポリビニルアルコール等の多価アルコールのネットワークポリマーを構築できた。さらに、ネットワーク化により得られたゲルに水を加えると解架橋が進行し、原料のポリマーを収率よく回収することができた。
著者
井上 誠 植田 弘師
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

全身性慢性疼痛疾患である線維筋痛症や視床痛に対する動物モデルを開発するため、本研究者が以前に見出した坐骨神経傷害性慢性疼痛の原因分子であるリゾホスファチジン酸(LPA)を、末梢知覚神経からの痛み情報の二次中継核である視床領域へ投与し、熱刺激誘発性並びに機械触覚刺激誘発性疼痛への影響を検討した。その結果、熱刺激誘発性疼痛閾値の著しい低下、すなわち痛覚過敏現象が用量依存的に観察された。さらに、機械触覚刺激応答閾値の低下、アロディニア現象も観察された。これらの現象は、投与後数日にわたって観察された。さらに、片側視床内への適用にも関わらず、両側性に過敏現象が観察され、全身性の慢性疼痛を示すことが判明した。新たに開発した電気刺激誘発性鳴啼反応試験法を用いると、線維筋痛症患者の診断基準に関連するトリガーポイントの数カ所への電気刺激により侵害性の鳴啼反応が観察されるが、この反応閾値はLPA投与後に低下した。従って、LPAの視床投与は視床痛の動物モデルになりうる可能性と線維筋痛症の動物モデルになりうる可能性が明らかになった。さらに、LPAの一つの作用点であるグリア細胞の活性化を評価し、その活性化抑制による疼痛閾値変調への関与を検討したとごろ、LPAの視床投与後、投与側でミクログリアの活性化を用量依存的に観察された。さらに、活性化グリア細胞除去剤の適用により、これらの過敏現象が著明に抑制された。従って、グリア細胞の活性化が全身性の慢性疼痛誘発の一端を担い、これを標的とした薬物の適用はその治療戦略の一つとなりうることが明らかとなった。
著者
清水 雅仁
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010 (Released:2010-08-23)

我々は本研究で、インスリン抵抗性、IGF/IGF-1受容体シグナルの過剰活性、アディポカインの不均衡、慢性炎症状態の惹起等、肥満や糖尿病に関連した様々な病態・分子異常が、大腸および肝発癌に深く関与していること(発癌高危険群のスクリーニングに有用であること)、また分岐鎖アミノ酸製剤等の薬剤投与や栄養学的介入によって、これらの分子異常を改善・制御することが、肥満や糖尿病合併患者の大腸および肝発癌予防に繋がる可能性を明らかにした。
著者
中村 匡良
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

シロイヌナズナのspiral(spr)3変異体は体軸がねじれるために、葉器官が反時計方向に回転して見え、根は寒天培地上を右方向に向かって伸長し、根の表皮細胞は右向きにねじれる。spr3の原因遺伝子はγチューブリン複合体の一構成員GCP2のホモログをコードしていた。1.AtGCP2は生存に必須の因子である。シロイヌナズナ(At)GCP2ノックアウト株は作出されなかった。atgcp2ヘテロ株の解析から、AtGCP2は雌雄配偶子の形成や発達に重要であり、生存に必須の因子であることが示唆された。2.間期表層微小管はAtGCP2を介して形成される。GFPを融合したAtGCP2コンストラクトをRFPで微小管標識した植物体に形質転換することで、微小管とAtGCP2を同時に生細胞で観察できる植物体を作製した。共焦点レーザー顕微鏡による観察を行ったところ、AtGCP2が既存の表層微小管に出現し、そして40°の角度を持って微小管が文枝形成される動態が観察された。このことから、表層微小管はAtGCP2を含む微小管重合核を介して形成されることが示唆された。3.シロイヌナズナ微小管重合核は微小管形成角度を維持することにより表層微小管構築に寄与する。表層微小管は細胞膜内側で形成されたのち、マイナス端が形成した部位から移動することが特徴的である。また、形成部位から微小管を遊離するには微小管を切断するカタニンタンパク質が関与することが考えられている。事実、シロイヌナズナカタニン変異株の間期表層微小管動態を観察したところ、微小管の形成部位からの遊離は観察できなかった。マイナス端遊離のないカタニン変異株にspr3変異を付与するとカタニン変異株の表現型にspr3の表現型である右巻きねじれが付与された。このとき、表層微小管形成角度はspr3変異株のみのときと同様変化していた。以上のことから、植物細胞の伸長方向には、AtGCP2を含む微小管重合核による40°という高等植物に特徴的な角度を持った微小管形成の維持が重要であることが示唆された。
著者
大澤 正嗣
出版者
山梨県森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01 (Released:2014-07-25)

本年度のヤノナミガタチビタマムシの発生頭数と降水量との関係を把握した。また発生生態調査を行った。苗畑における野外調査で、散水区と非散水区を作り、本害虫の早期落葉からの発生を比較したところ、散水区では発生個体数が有意に少なかった。室内試験で、加湿区と乾燥区を設け、本害虫の早期落葉からの発生を比較したところ、加湿区で発生が有意に少なかった。これらのことから降雨が本害虫の個体数を減少させることが判明した。本害虫の産卵、幼虫、早期落葉、蛹、成虫、越冬、被害量等の調査をもとに、発生生態についてこれまでの結果をまとめ報告した。
著者
前川 和也 前田 徹 依田 泉 森 若葉 松島 英子
出版者
国士舘大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

前4千年紀末にメソポタミア南部で成立したシュメール文字記録システムが、遅くとも前3千年紀中葉にはシリア各地で受け入れられ、シリア・メソポタミア世界が一体化した(「シュメール文字」文明)。アッカド語などセム系言語を話す人々も膠着語であるシュメール語彙や音節文字を容易に利用できたのである。本研究は、「「シュメール文字」文明」の展開過程、またセム諸民族がこれを用いてどのように社会システムやイデオロギーを表現しようとしたかを考究した。
著者
篠田 謙一 井ノ上 逸朗 飯塚 勝 斎藤 成也 富崎 松代 安達 登 神澤 秀明
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01 (Released:2013-05-15)

平成28年度は,前年までに行っていた縄文人のゲノム解析に加えて,北部九州の渡来系弥生人と東北地方の在来系弥生人のゲノム解析を行った。更に,昨年度までのミトコンドリアDNAの全配列を用いた解析で縄文人には地域差があることが明確になったので,ゲノム解析の対象とする縄文人の地域を広げることとして,北部九州や中国地方の縄文人からDNAを抽出した。また,沖縄県の伊江島のナガラ浜第三貝塚から出土した男性2体女性1体の貝塚時代中期(本州の文化編年では縄文時代の最末期)の人骨についてのゲノム解析を行った。更に長野県の七五三掛遺跡から出土した縄文後晩期人骨についてもDNA抽出を試み,ミトコンドリアDNAに関してはハプログループ分析までが終了している。渡来系弥生人の遺伝的な性格を明らかにする目的で,北部九州を代表する遺跡である福岡県那珂川町の安徳台遺跡の甕棺から出土した5体の人骨のDNA分析を行った。また,東北の弥生人であるアバクチ洞窟から出土した小児人骨についても同様の分析を行い,両者の結果を比較した。安徳台のサンプルのうち,現段階でNGSでゲノム分析までが完了しているのは一体である。その全配列データからSNPを抽出して,現代人やこれまで解析した縄文人との比較を行った。主成分分析の結果からは,北部九州の渡来系弥生人は,現代日本人集団の範囲からは若干はずれるものの,他の現代人集団と比較して,現代日本人集団に最も近いことが示された。また,比較した東北の縄文人(三貫地遺跡出土人骨)とは大きく異なっており,中期以降の渡来系弥生人はほぼ現代日本人と同じ遺伝的な性格を持っていることが明らかとなった。一方,東北の弥生人は縄文人と変わらない遺伝的な性格を持っており,弥生時代には列島の東西で,遺伝的な性格を異にする集団が居住していた実態が明らかとなった。
著者
橋本 英樹 近藤 克則 野口 晴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01 (Released:2013-05-15)

健康・機能状態の社会的格差をライフコースの視点から検証する際、幼少期情報を想起情報に頼らざるを得ないことが多い。代理指標として脚長などの客観的マーカーの利用可能性を検討した。高齢者パネル調査(くらしと健康調査)を用いて脚長(幼少期の栄養状態の代理指標)と親職種、幼少期「生活困難度」との関係を見たが、有意な関係は認められなかった。一方、脚長は、学歴と収縮期血圧の関係を有意に媒介していた。社会経済的要因による社会的選択の影響を考慮し、同朋情報を用いてバイアス補正を検討したところ、同朋との到達学歴の一致・不一致により学歴と健康・生活習慣との関連性が異なっていた。社会的選択の影響を考慮する必要がある。
著者
平田 健治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01 (Released:2014-04-04)

指図による占有移転の方法による即時取得の要件は何か。この明瞭化が本研究の目的であった。その点については、ドイツ法、フランス法、英米法、さらにはローマ法の議論を参照することで、要件設定の際に考慮されるべき諸要素を析出したことが成果である。それを列挙すれば、日本の指図による占有移転の要件の沿革から見た欠陥の指摘、占有改定と指図による占有移転の方法が前提とする取引態様の定型的相違に着目すべきことの指摘、物権関係(所有権移転)と債権関係(賃貸借や寄託契約)の連携のあり方が絡むことの指摘、占有意思、とりわけ即時取得において占有意思変更を議論とすることの問題の指摘などである。
著者
菊池 勇夫
出版者
宮城学院女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000 (Released:2000-04-01)

東北地方北部の盛岡藩・八戸藩を中心に、馬・狼・猪・焼畑・大豆生産およびその他の要素を含めた生態系・環境について相互連関的な考察を行うことが研究の大きな目的であった。まだ、研究途中にあるが、この3年間のおもな成果は、1749年(寛延2)の八戸藩における猪飢饉の実態について明らかにし、その背景や要因について考察し、報告書にまとめることができたことである。1749年の飢饉は冷害型凶作が原因であり、猪荒れはそれほどではないという批判があったが、1740年代の猪荒れがかなりの作物被害を与えており、1749年がそのピークに達していたことは事実であり、猪荒れを過小評価できないことを論証した。ではなぜ、猪が異常繁殖したのか。そこには、地域の主要な産業であった大豆生産と馬産の2つが大きくからんでいた。大豆は商品作物として、17世紀末から江戸市場向けに生産・移出されるようになり、焼畑を含む山野の開発が進み、猪に襲われやすい耕作環境になった。また、藩牧および民間における馬産も展開したが、馬産にとっての大きな障害は馬が狼に襲われることであった。マタギ(鉄炮猟師)を動員した狼狩りによって、天敵のいなくなった猪が急増したと推測される。猪飢饉は、開発による生態系の破壊が招いた典型的な災害であったと評価することができる。以上の主論文のほかに、八戸城下に居住していた安藤昌益の農本的あるいはエコロジカルな思想形成が、地域の飢饅・風土的環境と密接に関わっていたことを論じた論文、各藩が幕府に届け出た被害高である損毛高の算出根拠について検討した論文、鳥獣害の被害を食い止めるための鳥追いの労働が誰によって担われてきたのか明らかにした論文など、この間に作成し、報告書収録または別途論文として発表することができた。
著者
林 博史 小野沢 あかね 吉見 義明 兼子 歩
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01 (Released:2014-04-04)

本研究は、日本軍「慰安婦」制度と米軍の性売買政策・性暴力の比較研究をおこなうことを目的としている。日本軍「慰安婦」制度と公娼制との関連の分析、米軍の性売買政策と米国の政策との関連の分析、ならびに日本と米国の性売買に対する思想と政策の比較分析をおこなうが、同時に、さらに広く世界史的な視野でとらえることによって、日本軍「慰安婦」制度と米軍の性売買政策・性暴力を比較し、それらの特徴を明らかにすることを目的としている。2016年度は、米国とイギリスにおいて、引き続き軍と性に関わる史料収集をおこなった。ジュネーブの国連文書館において、国際連盟時代の婦女売買禁止に関わる諸国の史料も収集し、国際的な比較をさらに広げるうえで貴重な史料を収集できた。韓国においては元日本軍「慰安婦」の方々への聞き取り調査を引き続き行い、中国南京の慰安所についての現地調査もおこなった。日本国内での公娼制についての史料も継続して収集している。2017年3月には、国内外での史料調査ならびに研究の集約とさらなる展開を目指してドイツにおいてワークショップと現地調査をおこなった。ドイツ国防軍の売春宿や強制収容所における売春宿、ドイツ軍のセクシャリティに関する研究者らの研究報告と議論を通じて、国際比較をおこなううえでの重要な視点と視野を得ることができた。またノイエンガメとラーベンスブリュック強制収容所を訪問し、そこでの囚人用売春宿の最新の研究成果を得ることができた。また韓国の研究者を日本に招請して研究会を開催し、韓国における最新の研究動向を把握することができた。以上のような調査研究を通じて、本共同研究を順調に進めることができたと考える。
著者
東郷 俊宏
出版者
鈴鹿医療科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

本課題の目的は、昭和15年前後に中国南京維新政府が推進していた国民暦(新東亜暦)編纂事業と、日本の東方文化研究所および京都帝国大学理学部宇宙物理学科のメンバーが主体となって推進していた東洋暦術調査との関連性を史料の上から明らかにすることにある。京都大学人文科学研究所には、昭和15年9月に南京において開催された国民暦編纂会議に、当時東方文化研究所の天文暦学研究室主任教授の地位にあった能田忠亮が招聘されたことを示す招聘状のほか、同会議の議事録や会議開催前後に掲載された新聞記事、また新東亜暦編纂事業に関わっていたと思われるメンバー(荒木俊馬、藪内清、高木公三郎、森川光郎)と能田の間に交わされた書簡、紫金山天文台修復作業の経過を示す書類などがあり、本課題ではこれらの資料の整理を行ってきた。その結果、新東亜暦は大東亜共栄圏共通の暦として採用されることはなかったものの、東方文化研究所の東洋暦術調査の研究成果をもとにその編纂事業が行われていたこと、また新東亜暦の問題が起こる以前より、森川光郎、高木公三郎など、京都帝国大学理学部宇宙物理学科のOB等が南京紫金山天文台修復作業に関わっており、その延長線上に昭和15年の会議が開催されていること、また京大宇宙物理学科卒のメンバーの間でも新東亜暦編纂の意義に対する考え方は微妙に異なっていることなどがわかった。本年度は最終年度に相当するため、現在人文科学研究所に残る上述の史料を翻刻し、資料集として報告書を作成する。